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リゼルは今、ヒスイとティータイムを過ごしていた。

やや広めの道の途中に、水路を眺めるように置かれた木製ベンチがある。喫茶店を背にする形なので、その店の店主が置いたのかと思えば、どうやら店の常連が勝手に作って置いていったのだという。

利用するのは、その常連をはじめとした喫茶店の客が多い。だが散歩中にひと休みしたい老人であったり、船をぎ疲れた物売り船の船頭だったりと、皆思い思いに腰を下ろしていたりする。

二人もまた、そこに座ってぬくぬくと日差しを浴びていた。

「そういうことがあって、ジルが少し不機嫌で」

「ふぅん……」

リゼルは背後の喫茶店の紅茶を飲みながら、ヒスイは通りがかりの物売り船から買ったクッキーを食べながら、横並びに座って会話を交わす。

「リゼル君さ」

「はい」

「話の、何、重点? 優先度っていうか」

「ああ、はい」

「なんか変だよね」

「え?」

心外だと言わんばかりのリゼルに、ヒスイはクッキーを食べつつ胡乱うろんな眼差しを向ける。

まずもって、ヒスイが今日リゼルと顔を合わせているのは、サルスの重鎮に突撃したことについての詳細を聞くためだった。

何故ならヒスイは、例の突撃前夜にリゼルの宿を訪れている。その日の昼間に、何やら前髪のやけに長い不審者と出会い、リゼルがサルス上層部に喧嘩けんかを売るメンバーを集めているという話を聞き、よく分からないまま普通に断ったのだ。

その時は既に、翌日分の依頼を受けてしまっていたので。

ただ夜は空くものだから、事情を聞きに宿を訪ねたところ、宿の老夫婦と作戦会議(やや迷走気味)をしているところに居合わせた。そこで説明を受け、まぁ頑張がんばってと応援したのがつい先日のことなのだが。

「まずサルスの中枢ちゅうすうに突撃した結果聞いていい?」

「平和的に解決しました」

「へぇ、おめでとう。そもそもなんで突撃したの?」

「支配者さんがジルを操ろうとしたので、責任者に言いつけようかなと」

「なんで本人に突撃しなかったの?」

「しようとしたんですけど、先手を取られたので」

「リゼル君が? 珍しい」

至って当然のように、心から意外そうに告げた。

ヒスイは支配者との直接の面識はない。だが、魔法に対する才がずば抜けていることぐらいは知っている。

冒険者として大侵攻の脅威は身をもって理解しており、それを裏から操っていたという事実だけで舌を巻くほどだ。あまりの偉業(もしくは蛮行ばんこう)は今もなお現実味を帯びず、本当なのかと半信半疑ですらある。

だがそれでも、リゼルにしては珍しいと思ってしまったのだから仕方ない。

「ん?」

ヒスイは、ふとクッキーを頰張りながら眉を寄せる。

「一刀はそれの何が気に入らないの?」

「何が、というと」

「リゼル君、別に悪いことしてないし。むしろ逆じゃない?」

「逆ですか?」

本気で心当たりがないのだろう。

不思議そうな顔をするリゼルに、何の冗談かと思いながらクッキーの包み紙を丸める。

「普通さ、お礼言わない? 操られそうなの守ってもらったんだし」

「実際は不発だったので、守ったかというと違うんですけど」

「それは結果論でしょ。可能性はあった訳だし」

つぶした包み紙をポケットに突っ込みながら、ヒスイは平然と告げる。

何故なら、当たり前のことだからだ。ジルを操ろうという人間がいて、リゼルがそれに気づいて阻止に動いた。それでどうして、ジルがリゼルに対して機嫌を損ねるのかが全く分からなかった。

それなのに、リゼルは少しばかり眉尻を下げてみせる。

「それについては、俺が我を通したから……としか」

「どういうこと?」

「嫌がると知りながら動いたので、怒られるだろうなとは思ってたんですけど」

「嫌がるって?」

「ジル、俺に守られるの嫌いなので」

「は?」

だから内緒にしていたと、ほのほの微笑むリゼルの言葉が欠片かけらも理解できなかった。

ヒスイとて、ジルと似たようなことを思うことはある。なんだったら、パーティの仲間を相手に「こいつに守られたくない」という考えも常にある。

それは腕一本で生きる人間にありがちな自負心からであったり、のちの報酬分配の時に異様にそれを主張されるのが鬱陶うっとうしかったりという理由からだ。冒険者ならば、誰であろうと覚えがあるだろう。

だが、リゼルの言葉はそれとは全く別のニュアンスを含んでいた。

「……もうちょっと具体的に言える?」

「冒険者っていう枠の外で、俺が彼のために動くことが嫌みたいで」

「借りは作りたくないってこと?」

「どうなんでしょうね」

リゼルが可笑おかしそうに笑う。

だがヒスイは投げやりに天をあおぎ、両脚を前方へと放り出した。

通行人が来たので、その脚もすぐに折りたたんだのだが。水路沿いの道は狭く、このベンチに座る人々は脚を伸ばしたり畳んだりが基本となる。

「それにしてもさ」

「はい」

ヒスイは折り曲げた両ひざひじをつきながら、神妙に告げた。

「リゼル君、悪くなくない?」

「え?」

「ていうか一刀が我儘わがままなんじゃない?」

「我儘……」

考えたこともなかった、とリゼルは思案を始めてしまう。