アイラやハーピィさん達の気遣いによってシルフィと二人きりで夜を過ごし、その翌日から俺は精力的に働き始めた。夜はシルフィやアイラ、ハーピィさん達が癒やしてくれるからね。毎日元気いっぱい……なんか吸われてる気がするけど、元気いっぱいだよ!

 住人が避難していなくなっているのを良いことに家を取り壊し、移築して区画整理を断行したり、防壁の修理と強化をしたり、元々長大な堀を深くしたり、一日中石臼で穀物を挽かされたりしたけど。


 ぼくはげんきです。


「目が死んでんなぁ……」

「お前も一日中石臼を回してみろ。俺の気持ちがわかるぞ」

「遠慮しておくわ」

 数日かけて早急にこなさねばならないタスクを完了した俺は、一日の休暇をもらっていた。今日の随伴、というか護衛はキュービである。本来、俺の護衛はレオナール卿かザミル女史の役目なのだが、二人はアーリヒブルグ以南の聖王国軍掃討作戦でそれぞれ部隊を率いているために不在なのだ。

 アーリヒブルグの制圧は一応終わっているのだが、まだどこかに聖王国軍の兵士が潜伏しているかもしれないし、何らかの方法で聖王国軍の密偵が入り込んでいるかもしれない。なので、俺が休暇を街中で過ごす際には護衛が必要なのだ。

 本当はシルフィかアイラと一緒に街中を見て回りたかったのだが、二人ともそれぞれの仕事で忙しいんだよな。

「んで、休暇っつってもどこ行くよ? 買い物ってこともないだろ」

「まぁ、そうだなぁ」

 俺の場合、欲しいものは大体クラフト能力で作れてしまうんだよな。中々手に入らない希少な素材なら買うのもやぶさかではない……というか、結局魔化した素材に縁がないんですよね。後方に用意してあるようだけど、行く機会がないし、結局生産拠点を作っている間にも手に入れることができなかった。扱っている商人と接触できなかったんだよな……。

「娼館にでも行くか?」

「興味はあるけどバレた時が怖いからパス」

「だよな」

 娼館で発散する元気があるなら『大丈夫』だろうということで夜の生活が大変なことになりかねない。あと、単純に今後の休暇に響く予感がする。それは死の匂いがする選択肢だ。

「じゃあ酒場か?」

「酒もツマミも自作のが美味いんだよなぁ……可愛い女の子やお姉さんが接待してくれる系の店は娼館と同じ理由で行きたくないし」

「それもそうか」

 うちの子達はちょっと常人離れしているところがあるので、僅かな痕跡から看破されかねない。まぁ、興味っていっても物珍しさくらいだしなぁ。そういう方面はシルフィ達で十分というか、間に合ってるし。

「んじゃ打ちに行くとか」

「打ちにって博打か? どんなゲームがあるんだ?」

「そうだな……」

 聞いてみると、サイコロを使った丁半博打のようなものだった。酒場のテーブルや賭場などで遊べるらしい。

「なるほどなぁ。どこにでもダイス遊びってのはあるんだな」

「行ってみるか?」

「やめとく。素人が行ってもカモにされるだけだろうからな」

「わかってるな」

 賭けなんてのは胴元が儲かるようにできているものである。その環境ですら稼いでいるような猛者を相手にド素人の俺が何をできるというのか? ケツの毛までむしられるのがオチというものだ。

「こうして考えると、休暇を貰ってもあんまやることねぇなぁ」

「普段はどうやって過ごしてるんだ?」

「新しい道具の開発とか?」

「それは休暇なのか……?」

「新しい物を考えて作るのはまぁまぁ楽しくはあるぞ?」

 実際に解放軍で運用するかどうかは別として、強力な武器とかは作ってはある。いつ何が必要になるかわからないからな。

「折角の休日なのに休む酒も博打も娼館も今ひとつってなると何をするんだ?」

「適当に街をぶらつく……?」

「もう一度言うけど、それ休暇じゃなくね?」

 そんな話をしながらキュービと一緒に街をぶらつく。アーリヒブルグを制圧してもう一週間以上経つ。人々はそれなりに落ち着きを取り戻し、新たな日常を過ごしているようだ。今まで亜人を奴隷として使ってきた人々にとっては肩身の狭い日常であるようだが。

「街の中はまぁまぁ落ち着いてきたんかね」

「そうだな。まだトラブルは絶えないみたいだが」

「せやろなぁ」

 今まで奴隷として家畜と同じように扱ってきた亜人達を自分達と同じ『人族』として扱うことを強制されるようになったわけだからな。亜人奴隷達はその身分から解放され、解放軍の保護下に入っている。

 とりあえず食わせていくことはできると思うが、奴隷として長い時を過ごしてきた彼らには財産というものがない。解放して『君達は自由だ! 後は頑張れ』と放り出すわけにはいかないというわけだ。とりあえずは衣食住の面倒を解放軍が見て、独り立ちができるように支援をしていくらしい。

 同時に、亜人達に過酷な労働環境を押し付けて儲けていたような者達の財産などの差し押さえや没収なども行っているようだ。その辺の基準はよくわからないが、毎日毎日メルティが楽しそうな顔をしながら街に繰り出していくので色々と捗っているのだと思う。盛者必衰というかなんというか……まぁ、自分でしたことのしっぺ返しを食らうなら因果応報と言ったほうが正しいのか。

「メルティがだいぶ大鉈を振るっているようだが、大丈夫なのかね」

「あー……まぁ、なんだかんだで上手くやると思うぜ。あいつはしたたかだし、人間だって馬鹿じゃないからな」

 キュービの話では時勢を読んでメルティというか解放軍に積極的に協力している元聖王国民の商人などもそれなりに出てきているらしい。それに、聖王国民だからといって全員が全員亜人を迫害しているわけでもないのだという。

「聖王国民の中にも色々居るってこった。信心深いやつ、そうでないやつ、俺みたいな亜人を迫害するやつ、そうでないやつってな」

「そりゃそうだろうな」

 亜人奴隷を大量に使っているような主人というのは実に両極端で、亜人を酷使してこぎに稼いでいる者か、逆に亜人を重用して良い労働環境や労働条件を整えているかのどちらかであるそうだ。

 前者は容赦なく潰され、後者は優遇されて解放亜人奴隷達の働き口として利用されているらしい。

「それにしたって限界が無いかね?」

「要は潰した商会の持っていた利権やなんかを与えて懐柔してるわけだ。新しい利権で利益を上げるためには自前の人材を投入する必要があるわけでな」

「なるほど……? じゃあ潰された方の奴らはどうなるんだ?」

「基本的に財産没収の上、アーリヒブルグ以北に放逐だと」

「えげつねぇ」

「処刑されないだけマシだと思うけどな」

「処刑」

 そうだよなぁ、この世界はあまねく全てに法の支配が及んでいるわけじゃないというか、寧ろ今の解放軍統治下にある地域なんて『法? 何それ美味しいの?』状態だものなぁ。

 実力でアーリヒブルグ以南を制圧したシルフィ達解放軍は、やろうと思えば亜人差別者やアドル教信者達を『物理的』に排除できる立場でもあるわけで……そう考えると血の雨を降らせていない今のやり口は相当に穏便なのかもしれないな。

 商業区画に入ってきてみれば、精力的に商売をしている店と扉を閉め切ってひっそりとしている店とがある。この両者の差というのが所謂メルティの仕事の結果ということなのだろう。

「大丈夫なのかねー」

「何がだ?」

「いや、先行きが色々と不安でな」

 正直、俺には国の統治なんてのは全くわからないからどうしようもないんだけどね。俺にできることなんて人々が餓えないように、安全に暮らせるように、そして外敵に対抗できるように色々な物を作り出すことくらいなわけだし。

「そういうのは姫様やメルティに相談するんだな。俺にゃ荷が重い」

「だよな」

 政治のせの字も知らない野郎二匹にはどうしようもないことである。今晩にでもシルフィやアイラに相談してみるか。

「そういや気になってたんだが、お前ってどれくらいの物を持ち運んでるんだ?」

「ああ、インベントリの中身か? うーん、まぁ中々の量だな」

 俺自身も完全に中身を把握しているとは言い難い。木材、石材、粘土、鉱物、皮革や腱などの生物素材、部品類、合金類、武器、弾薬、ツール、衣服に食料にハーピィさん達の羽とか……?

「時間があるなら一回整理してみたらどうだ? 俺もどんなものが入ってるのか気になる」

「ふむ……それも良いな。時間がある時にしかできないし。でも、ブツを広げられるスペースが要るぞ」

「ほら、一昨日更地にした西の城壁近くの空き地があるだろ」

「ああ、あそこか」

 所謂スラム街のようになっていた地域で、ボロボロの掘っ立て小屋みたいなのが乱立してたんだ。それを俺が一掃して、新しく整備する計画である。スラム街に住んでいた住人は市内の別の場所に住まいを与えられていたようだから、更地にするのに大した苦労はなかった。

 商業区画から少し歩き、だだっ広い更地に出る。

「どれ、全部放出していくか」

「俺はちょっと離れて見てるぞ」

「そうしろ」

 放出した丸太の下敷きとかになられても困るし。

 というわけで、黙々とインベントリの中身を空き地に吐き出していく。木材、石、粘土、鉱物類などは数が多い。特に木材は先日大量に伐採したので、凄い量がある。

「つくづくお前のソレ、とんでもねえな」

「わかる」

 木材や石、粘土を放出し終わったら次は繊維やしなる枝、精錬した鉄や鋼の板バネ、ガラスや機械部品、皮革類や強靭な腱、火薬などの中間素材を並べていく。

「この辺は俺にはよくわからんものも結構あるな」

「中間素材ってやつだな。基本的な素材を加工してできたもので、これをさらに加工していろんな物を作るわけだ。これ単体で何かに利用できるってことはないんじゃないか」

 次は建設ブロック類なんだが、そういえばアイテムとして実体化して取り出したことは無かったな?

「なんだこれ」

「建築系のブロックだ。これ一つで幅、高さ、奥行き一メートルのブロックになる」

「サイコロみたいだな」

 実体化した建設ブロックはサイコロのような形で実体化してバラバラとインベントリから出てきた。こうしてみるとあれだな、あの踏むと痛いブロックみたいだな。

「食料の類は出すと傷むからなぁ」

「それは良くないな」

 食料はスルーして、次は武器を並べていく。

 作って以来死蔵しているような品も多い。刀剣類に弓矢、銃器類に弾薬、爆弾類、大砲やその砲弾、クロスボウやバリスタ、投石機なんかもある。

「物騒な品が出てきたな。見たことのないものも多いけど」

「作った武器も全部が全部実用に足るものばかりじゃないからなぁ」

 主にコストの面でな。特に銃火器類は弾薬のコストがマジで洒落しゃれにならないんだ。同じ火薬量を使うなら爆弾の方がよっぽど効率が良い……人相手に使うのに効率なんて話もちょっとアレだけどな。

 後は家具類や細々とした生活用品や衣服、あとはツール類か。

「おい、このツルハシとかシャベルとか斧とか……」

「ミスリル製だぞ」

「頭がおかしくなりそうだ」

 そして大体全ての物をインベントリから出し終えた。広々としていた空き地の一角が資材やら何やらでカオスなことになってんな。インベントリには食物とハーピィさん達の羽くらいしか残っていない。

「これで全部か?」

「そうだな、だいたいな」

「なるほど……すげぇなこりゃ」

「これでもだいぶ減ってるはずだけどな」

 実際、アーリヒブルグに着いてからは修繕やら何やらのためにかなりの資材を消費したし、食料や解放軍の使う武器弾薬の類もほとんど倉庫に収めた。

「お前の能力って、材料が無いとほとんど何もできないんだよな」

「ん? まぁそうだな。無から有を生み出す力じゃないし」

 最近解放軍の人々に誤解されがちなんだよなぁ。俺は何でも魔法で作り出す魔法使いじゃないんだが。

「だったよな、前にそんなことを言ってたのを聞いたよ」

 キュービが俺の肩に手を置く。何だと思って振り返ると、キュービが拳を振りかぶっていた。

「がっ!?

 キュービの拳が俺の顎を打ち抜き、視界がぐらりと揺れる。そして何かが俺の首にするりと巻き付き、首を絞めてきた。首を絞めてきたものに爪を突き立てるが、その毛皮には全く爪が立たない。

「な、に……!?

「悪ぃな。殺しはしないから安心しろや」

 キュービのそんなセリフと共に急速に視界が暗くなってくる。頸動脈を圧迫されてるのか、意識が……くそ。


 俺の意識はそこで途絶えた。


          ◆ ◆ ◆


Side:シルフィ


「まだ見つからないのか……」

 卓上で握り締めた拳に力が籠もる。痛みも忘れて握り締めていた拳にそっと手が添えられ、撫でられた。

「落ち着いて」

 アイラが大きな瞳を私に向け、静かに見つめてくる。そうだな、私が落ち着かなくては見つかるものも見つからないかもしれない。深呼吸をする。




 事の発端は昼前。奇妙な報告が司令部に上がってきたことだった。

『西の空き地に大量の資材や物資が放置されている。対応の指示を乞う』

 という内容だ。実際にその資材量は膨大なもので、建材に使うようなものから武器、矢玉、よくわからないものなど実に大量の物資だった。恐らく、そこにあるものを見て報告者も容易に連想したのであろう、コースケの事を。

 一応、コースケの能力とその存在については機密扱いということになってはいるが、黒き森のエルフの里で起こった対ギズマ戦以来、コースケは非常に目立っていた。

 その能力について解放軍の初期メンバー内で知らぬものはほぼ居ないと言って良いだろう。私やアイラ、ハーピィ達との関係も含めて公然の秘密という扱いだ。今更かんこうれいを敷いても意味がなかろうと半ば放置していたわけだな。

 話を戻そう。とりあえず物資に関しては住人などによる略奪が起きる前に確保することができた。本来使う予定のなかった倉庫や空き家まで使うことになったが。

 問題は、この物資の出処である。物資の中にはミスリルで作られたツルハシやシャベル、伐採斧などもあった。どう見てもコースケの使っていたものだ。しかも、私やアイラが見たことのない武器のようなものまで多数見受けられた。恐らくコースケが試作し、何らかの理由で秘匿していたものなのだろう。

『コースケが少し話していた機関銃というものだと思う』

 アイラは正体不明の武器のようなものを検分し、そう言った。確かにコースケは機関銃というものについて少し話していたな。物凄い速度で銃弾を放つことができる強力な武器だとか。ただ、弾薬の消費が激しくて現段階では実戦投入は無理だと。

 その他にも銃と似たような形だがとても大きいもの、銃と似たような造形をしているが、銃口がなく、先端が膨らんでいるものなど、武器らしいということがわかっても使い方や威力がはっきりしないものも多数。

 これだけの種類のものを誰にも言わず秘匿しているあたり、やはりコースケはお気楽そうに見えて強かな性格をしているなと再確認させられたものだ。

 とにかく、結論から言うとコースケはインベントリの中身と思われるものを全て西の空き地に吐き出して忽然と消えてしまったのだった。

 最初に私の脳裏によぎったのは、役目を終えたコースケが元の世界に戻ってしまったのではないか? ということだった。解放軍がアーリヒブルグまでを確保し、またコースケによって大量の宝石――つまり精霊石の原料を得た現状、エルフの里はほぼ安泰と言って良い。

 コースケは黒き森のエルフの里に危機が訪れる、というタイミングでこの世界に現れた。エルフの里に迫っていた危機が回避されたと判断され、コースケをこの世界に喚んだ精霊か何か……大いなる存在がコースケを元の世界に戻したのでは? あの大量の資材はその際に空き地に放り出されたのでは? と思ったのだ。

 だが、アイラは私の考えを即座に否定した。

『それにしては置いてあるものが奇妙。コースケは生鮮食料品や作り置きの料理もインベントリに入れていたはず。そういうものが一切見当たらないのはおかしい』

 確かに。全てのものがコースケのインベントリから排出されたのだとすれば、そういったものが見当たらないのはおかしい。それに、コースケが大事にしていたハーピィ達の羽も見当たらない。

『作為を感じる。それに、彼も見当たらない』

 そう。護衛としてコースケの側に付いていたはずの男、キュービもコースケと共に姿を消していた。

 アーリヒブルグの街の制圧はほぼ終わっている。念の為まだ警戒は続けているものの、市内に限って言えば安全はほぼ確立されたと思って良い状態だ。安全圏と言っても良い。

 治安維持のため警邏も密に行っているし、経済活動も再開した。それでも一人歩きをさせるのは不用心だと思い、キュービを護衛に付けたのだ。

 実際のところ、独りで出歩いて何かに襲われてもコースケを害すのは簡単なことではないと思うのだが……要人には違いないからな、コースケは。

 だが、そのキュービごと姿を消しているというのは奇妙だ。

『キュービも一緒に何者かに連れ去られた?』

『それはないでしょう。奴は精鋭の斥候よりもそういった危険に敏感な男です』

 今まで厳しい表情で押し黙っていたダナンが口を開いた。

『じゃあ、キュービは消えたコースケを追っている?』

『何の連絡もなしにか? あいつは目端が利く。そんなヘマは犯さないだろう。誰かにすぐに連絡をつけるはずだ』

『じゃあ、犯人はキュービということ』

 アイラが突然とんでもないことを言い始めた。キュービが犯人? コースケを連れ去った?

『それはないだろう。キュービがそんなことをして何になるというんだ?』

『キュービは敵だったということ。味方のふりをしていた』

 そう言うとアイラは目を瞑り、腕を組んで考え込んでしまった。アイラは頭が良くて天才肌なのは良いのだが、たまに過程を飛ばして突飛なことを言い始めることがある。ただ、だいたいそういう時はアイラの言うことが正しい。

 考え込んでしまったアイラは暫く何も答えてくれないだろう。

『キュービは三年前の反乱を起こした時から行動を共にしているのだったな?』

『……はい、正確には反乱を起こす前、準備段階の時からです』

『それから反乱を経て、ほぼ準備なしでのオミット大荒野の強行軍を乗り越え、黒き森で雌伏の時を経て、今になって私達を裏切る……そんなことがあり得るのか?』

 三年だ。ただ漫然と過ごした三年ではない。苦難に満ちた三年だったはずだ。その三年を、私達と共に力を合わせて乗り越えてきた。そのはずだ。

 確かに、奴は掴みどころのないやつではあったが子供によく好かれる男だった。

 誰とでも気さくに話せる男で、目端も利き、困りごとを先回りして見つけて解決するような男だった。出自についてはわからないことが多かったが、それはオミット大荒野の強行軍を生き延びてきた他の者達も同じことだった。

 だから、私は彼を警戒などしていなかったのだ。



『馬車、発見できません……』

「わかった……引き続き捜索してくれ。ただし、あまり北側に深入りしないように。この上お前達の誰かが失われることは絶対に避けたい」

『……わかりました』

 ゴーレム通信機から聞こえていたピルナの声が途切れる。

「おかしいな……いくら馬車とはいえハーピィ達の翼より速いということはあるまい」

 コースケの捜索はキュービが裏切ったものと仮定して進められた。コースケのインベントリの中身が放出されていた理由や経緯もよくわからないが、キュービが犯人だとすればコースケの能力の弱体化を狙ったものだろうと予測できる。インベントリの中身を吐き出したコースケは少々気味が悪い動きができるだけのただの人間だ。

「西門から出た馬車が北に向かったのは確認できているのですが……」

 ダナンが地図を見て唸る。

 キュービが裏切った、と今の私達はほとんど確信を持ってコースケの捜索に当たっている。何故かと言うと、キュービの率いていた人間のみで構成された部下達もコースケやキュービと同様にその姿を消していたからだ。

 彼らはアーリヒブルグの南西方向に進撃しているレオナールの部隊と合流するため、という偽造された異動命令書を使って馬車でアーリヒブルグから出発していた。

 馬車をチェックした兵の話によると、馬車にはキュービも乗っていたらしい。コースケの姿はなかったが、行軍用の物資箱は積んでいたという。

 キュービは解放軍の中で一目置かれてはいるが、特別な役職があるわけでもない。その時チェックした兵は特に疑問にも思わずに彼らを見送ったのだそうだ。

 それはそうだろう。曲がりなりにも奴らは正規の解放軍兵士だし、命令書にも一見不審な点は何もない。書面は正式なものだし、しっかりと印も押されていた。内部犯行に対する防犯意識の薄さを突かれたわけだ。

 問題は、そのような命令書は私もダナンもメルティも書いた覚えがないということだ。印を押すのは私の役目だが、私はそんな書類に印を押した覚えはないし、印章は肌身離さず持ち歩いている。

 よく見れば押された印には微妙な違いがあったが、よほど疑ってかかっていないとこれを見分けるのは困難だっただろう。

 そもそも、人や馬車の出入りを監視している兵の全員がちゃんとした門番としての訓練を受けているわけではないのだ。そこまで手が回っていないというのが現状である。今回起きた事件を考えると、今後は防諜にもしっかりと気をつけなければならない。

『馬車を発見しました! 北西の森の中です!』

 その時のことだった。ゴーレム通信機からピルナの声がしてきたのだ。私とダナンは身を乗り出すが、アイラは少し大きな目を細めただけだった。

「森の中を走っているのか?」

『いえ、停車しています。馬も繋がれたままのようです』

「最寄りの部隊を誘導し、監視を続けろ。不用意に近づくな。敵はクロスボウやライフルで武装している可能性もある」

『了解』

 通信が途切れる。

「どう思う?」

「停車させている理由ですか。馬車を捨て、森に身を隠しながら聖王国軍の勢力圏まで逃げる……というのはあまり現実的ではありません」

「そうだろうな」

 森の中であろうともハーピィの目から逃れ続けるのは難しい。キュービ一人であればそれも可能かもしれないが、十数人の部隊がハーピィの索敵から逃れ続けるのは至難の業だ。

 それなら馬を潰す勢いで全力で北上し、聖王国軍の勢力圏を目指すほうがまだ確実性が高い。

「多分、転移魔法。馬車はもぬけの殻」

「転移魔法だと?」

 アイラに聞き返すと、彼女はコクリと頷いた。

「複数の人間を長距離転移させるのは不可能ではない。一人の空間魔法使いに十数人の魔力を集め、更に魔晶石などで補助をすればできる。もしかしたら、神代のアーティファクトを使った可能性もある」

「そんなものが使われたと?」

「コースケの重要性を知っていればそれくらいのことはしてもおかしくはない。コースケの力があればたった三〇〇人の亜人がここまで戦える。それを私達が証明している。帝国との戦が長引いている聖王国は力を欲しているはず」

 キュービがどうやってそのようなものを用意したのか、という疑問点はあるが……沈黙が場を支配する。それを打ち破ったのはゴーレム通信機だった。

『報告! 目標の馬車はもぬけの殻です!』

「……そうか。周囲の探索を。しかし、そこは聖王国軍の勢力圏に近い。警戒を怠るな」

『……了解』


 アイラの予想は当たり、馬車はもぬけの殻で周囲には徒歩で移動した痕跡は見つからなかった。まるで忽然とその場から消えてしまったかのようだ。恐らく、その通りなのだろう。

「コースケ……」

「大丈夫、とりあえずすぐには殺されたりはしない。そのつもりなら連れ去りなんてしないでその場で殺してる」

「それは……」

 そうだろうが何を悠長なことを、と言おうとして言葉を失った。アイラの目が昏い光を帯びていたからだ。

「絶対に私が居場所を突き止める。そして報いを受けさせる」

「あ、ああ……私にもできることがあるはずだな」

「シルフィにも協力してもらう。コースケと一番の『縁』を持っているのはシルフィだから」

「わかった、私にできることならなんでも言って……ひぇっ」

 グリンッ、とアイラがこちらに首を向け、昏い光を宿す瞳を向けてきた。

「何でもするって言った?」

「えっ……え? うん?」

 軽率な事を言ったかな、と少しだけ後悔をした。一体何をさせられるのだろうか……?


          ◆ ◆ ◆


 はい、皆様こんにちは。解放軍の良心、コースケでございます。

 いや、あれだけ爆弾だの何だの作って良心は厳しいか、うん。寧ろ解放軍の黒幕とか聖王国の厄災とかのほうが実情に即しているかもしれない。

 さて、今の俺は一体どういう状況なのか? と申しますと。

「ぐむっ!? むぅぅぅぅ!」

 痛い! 何のサスペンションもない馬車の床に直置きはやめろ!

 はい、両手を後ろ手に拘束され、目隠しの上にさるぐつわまで噛まされて恐らく馬車に乗っています。それも床に直置き。横になっている状態で。しかもなんか狭いんだよ。箱の中にでも入れられてるのか?

 もうね、馬車がガタンッ、ゴトンッてなる度に床に殴られているような状態ですよ。めっちゃ痛い。新手の拷問かな? こうしてみると尻の肉ってのは優秀なクッションなんだなって思うよ。

 何故こんな状況に陥っているのか? 俺が覚えているのはキュービにぶん殴られて絞め落とされたところまでだ。その後は気がついたらこの状況だったね。

「起きたようだぞ」

 俺の呻き声が聞こえたのか、くぐもった声が聞こえてくる。やはり俺は箱か何かの中に入れられているようだ。

「もう少しで着く。そのままにしときな」

 この声はキュービだな。この野郎、覚えておけよお前。どんな手を使ってでもてめーは絶対にぶっ殺す。絶対にだ。

 俺だって馬鹿じゃない。キュービの行動原理はよくわからんが、今の俺がどういう状況なのかというのは察しが付く。恐らく、キュービは俺達を裏切ったんだろう。アーリヒブルグを落としたこの状況でキュービが造反する理由はわからないが、俺を売る先なんてのは容易に想像がつく。聖王国だろう。それ以外にはありえない。

「んえーっ! んっおおおお!」

「何言ってるかわかんねぇけど怒ってるのはわかるねぇ。怖い怖い」

 てめーぶっころしてやる! って言ったつもりだけど猿轡さんは仕事をしすぎである。汚い喘ぎ声か何かにしか聞こえねぇだろうなぁ! 畜生め。

 体力を無駄に消耗しても仕方ないので、衝撃に耐えながら静かにしておく。騒いでキュービに煽られるのも業腹だし、何より非生産的すぎる。この状況を打破する方法を考えたほうがまだ有益だ。

 とりあえず、目隠しに関してはインベントリにしまい込むことで無効化できそうである。目に見えさえすればメニューを出して収納することは可能だ。恐らく、俺が入っているであろうこの箱も同じように収納できるだろう。

 ただ、後ろ手に俺を縛っている縄に関しては目に見えないせいかどうにもできそうにない。足も拘束されているようだが、そっちは視界に入れられるだろうし拘束している縄そのものをインベントリに入れて拘束を解くのはできそうだな。

 などと脱走計画を練っていると、馬車が一旦停止した後に振動の性質が変わった。ガタンゴトンと大きな振動をすることが無くなり、ガララララララと快調に動いているのがわかる。伝わってくる振動も非常に小刻みなものだ。これは、石畳を走っているのか?

 その後も馬車は石畳と思われる場所を走り続け、何度か停止し、また走った。俺の脳裏に嫌な予感が過ってくる。アーリヒブルグ周辺にこんな広大な石畳を持つ都市などあっただろうか?

 馬車の速度がどれくらい出ているかわからないが、振動の質が変わってから結構な時間を走っていると思う。アーリヒブルグなら端から端まで走っていそうな距離だ。なのに、まだ止まる気配がない。これ、随分広いな?

 アーリヒブルグ以外で聖王国軍の勢力下にあり、これだけの広さを持ちそうな都市など一つしか俺は知らない。ここは、メリナード王国の首都、メリネスブルグではなかろうか?

 だが、そうだとすると時間が合わない。アーリヒブルグからメリネスブルグまでは馬車でも一週間はかかる距離のはずだ。俺がどれくらいの時間気絶していたのかはわからないが、流石に一週間以上ということはありえないだろう。

 となると、俺というかこの馬車はどうやってその距離を走り抜けたのだろうか? いや、待てよ? 考えてみればこの馬車も妙だ。解放軍が使う馬車は全部改良してサスペンションをつけたはずだ。サスペンションをつけたものにしては、この馬車は振動が酷い。

 気絶させた俺を運ぶ際に軍のものじゃなく、民間の馬車を使ったのか? いや、アーリヒブルグを出入りする民間の馬車のチェックはかなり厳しいとシルフィが言っていた。荷物は全てあらためられると言う話だったはず。箱詰めされた俺が見逃されることは無いはずだ。

 軍の馬車ならチェックも緩いはず……いや、馬車を使わずに何らかの方法でこっそり抜けたのか? いやいや、防壁は完璧に修復したし、防壁の警備はかなり厳しい。気絶した俺を抱えたままどうにか抜けるってのはいくらなんでも非現実的だ。

 恐らく、気絶させられた俺はキュービにさらわれ、軍の馬車を使って外に運び出された。その後何らかの特殊な方法でメリネスブルグまで運ばれた? どこかのタイミングで馬車を載せ替えられて? うーん、よくわからんな。考えるだけ無駄だろうか。

 とにかく、シルフィ達に即座に救われるという可能性は低そうだ。ここがどこであるにせよ、馬車程度でハーピィさん達の追跡から逃れられる筈がない。キュービは落ち着いた声音だったし、他の音を聞く限りでもこの馬車が何かに追われて急いでいるという雰囲気は感じられない。ここが彼らにとって安全圏なのであろうということは容易に想像がつく。

 つまり、俺はほぼ身一つで敵地のど真ん中に居る可能性が非常に高いというわけだ。ついでに言えば、インベントリの中身は出したら傷むであろう生鮮食料品と俺のごく個人的な持ち物を除いて排出済みときた。

 いや、俺にも言い訳をさせてくれ。確かにインベントリの中身を全部出して並べるなんて迂闊ムーブではあった。でも、自分でも把握しきれないほどの資材を並べてみたらどれくらい壮観なものなのか、見てみたいという思いがあったんだよ。

 そもそも、アーリヒブルグは完全に安全圏だと思っていたし、キュービが裏切るなんてことは考えもしていなかった。裏切るその瞬間まで俺はキュービを仲間だと思っていたんだ。脛に傷を持つような出自なんだろうな、とは思っていたがまさか聖王国と繋がっているとは夢にも思わなんだ。

 このコースケの目をもってしても……はい、すみません黙ります。

 何故こんなに落ち着いているのかって? そりゃすぐに殺されることはないだろうと思っているからだ。もし俺を殺すのが目的だったならキュービはとっくに仕事を終えていたはずだからな。ナイフで後ろから刺しても良かっただろうし、なんならあのまま俺を絞め殺すことだって、首の骨をへし折ることだってできたはずだ。

 だが、現実にそういうことは一切なく、今は箱詰めされた芋か何かのようにどこかに運ばれている。運ばれる先が処刑台である可能性もあるけど、俺を処刑して晒し者にするためだけに解放軍の奥深く、上層部と言える地位にまで食い込んでいたキュービの立場を使い捨てるだろうか?

 うーん、俺を無残に殺して遺体を解放軍の眼前に掲げたら解放軍の士気は地に落ちるかもしれないか。

 落ちるか? なんかシルフィとかアイラとかハーピィさん達とか逆上してとんでもないことになりそうな気がするんだが。それで結果を出せるかどうかは別として、俺がアーリヒブルグに置いてきた各種武器を限界まで使ってキュービと俺の殺害を計画したやつだけはなんとしてもぶち殺しそうだな。

 でもまぁ、俺の能力を知った上で拉致したっていうならなんとか俺を懐柔するなり、服従させるなりして俺の力を利用しようとするだろうな。


 聖王国になんて、絶対に負けない!


          ◆ ◆ ◆


「で、こうなると」

 俺は独房のような狭い部屋の中でポツリと呟いた。

 あの後、馬車は目的地へと辿り着いたようで、俺は出荷される芋袋か何かのように屈強な男に担がれ、目隠しと猿轡と拘束を解かれ、それどころか衣服すら全て剥ぎ取られた。

 震え上がりました。はい。

 幸いなことに腐臭のする薄い本のような展開にはならず、薄っぺらい囚人服のようなものを着せられ、手足に鉄製の枷を嵌められ、足枷には鉄球付きの鎖までつけられてこの独房のような場所に放り込まれたわけだ。

 いや、ようなっていうかこれ独房ですわ。間違いなく。

 ただ、この独房は狭めではあるがそんなに悪くない部屋であるように思う。木製のベッドもあるし、部屋の端には水洗式らしきトイレもある。水の入った水瓶も設置されているようだ。ただ、少しだけ石壁は老朽化しているようで、補修の跡が見られるな。

「ふむ……」

 天井近くの少し高い場所にある鉄格子の嵌った窓のような場所から光が差し込んできている。半地下の独房というわけだ。今回は手枷が前にあるので、やろうと思えばこの拘束から逃れることは容易だ。今すぐに逃げ出す算段をつけても良いのだが、どうしたものかな。

 敵の狙いがわからないし、もしここがメリネスブルグだというのであればシルフィの家族……つまり、メリナード王国の王族達の行方を知る手がかりがある可能性もある。もしかしたら本人がいるかもしれない。

 それに、聖王国が俺を誘拐して何をしようとしているのか、というところにも興味がある。できることなら狙いを把握しておきたい。

 ただ、ここですぐに逃げないと取り返しのつかない事態に陥る可能性もある。すぐに処刑されるかもしれないし、何か不思議な魔法のようなもので洗脳されるかもしれない。奴隷の首輪が効かない俺にそういったものが効くのかどうかは知らんが。

 あと、単純に拷問の類で屈服させられる可能性だってある。

 俺はただの一般人だ。専門の拷問官に拷問されたりしたらすぐに屈服させられてしまうだろう。

 俺は自分がどんな痛みにも耐える精神的な強さを持つ人間だとは思っていない。繰り返し苦痛を味わわせられてしまえば、じきに俺の心は折れてしまうだろうな。

 拷問に耐えられないなんて心弱いなぁとか思う? そう思うなら本物の拷問というものが一体どういうものなのか調べてみればいい。俺は調べたことがある。そして無理だと思った。無理無理。

 嫌な未来を考えるのはよしておこう、うん。現実になったら困るし。

 脱出のプランを考えようじゃないか。まず、枷については何の問題もない。どうにでもなる。次に、牢を破る方法だが……これもどうにかなりそう。木製のベッドと毛布、そして補修された壊れかけの石壁。これらの要素を考えるに、石斧くらいはなんとか作れそうだ。

 石斧は万能ツール。木を切るだけでなく、石壁や石床の破壊だってできないことはないのだ。トイレは水洗式のようだし、下水道に逃げられるんじゃないかな? 空けた穴を砕いた石壁や石床の素材でブロックを作って塞いでおけば逃げる時間は稼げるだろう。下水道に逃げ込めば、あとはなんとかなる。そう信じたい。

 さーて、どうするか? このまま様子を見るか、早速脱獄するか……悩みどころだな。


          ◆ ◆ ◆


 ベッドの毛布を取っ払い、身体を支える木の板の一枚をくすねる。袋に藁を詰めただけの雑な枕から藁を抜く。そして独房の片隅にある修繕された壊れかけの石壁から石を採取する。後はこれらをインベントリにぶちこんでクラフトすれば石斧の完成だ。

 さて、あとはこいつでどこをいつ掘るかだが……鉄格子の嵌まっている小さな窓から差し込む光を考えるに、日没まではまだ時間がある。流石に日の高いうちから石斧でカンカンやってたら看守が飛んできそうだな……というかここ、看守はいるのだろうか?

 他に独房に入っている人とかいないのかね?

「へーい、誰か他に居るかい? 新入りのコースケでーす」

 へんじがない。ここにはおれしかいないようだ。

 致し方ない、他にも囚われ仲間がいるなら情報交換でもできるかと思ったんだけどな。しかし、こんなに立派な独房なのに使用率が低いとはな。うーん、聖王国の人間で独房に収容されるような凶悪な犯罪者は少ないということだろうか? 反抗する亜人なんかももう少ないのかね。

 いや、そういうのはその場で処分されちゃうのかもしれないな。うーん、聖王国統治下での実情というものを知りたい。情報が、情報が足りん。

 そんなことを考えつつ俺は唐突にベッドをインベントリに収納し、ベッドの真下にある石床を石斧でコンコンし始める。

 コン、コン、コンとなかなかに騒がしい音が鳴るが、看守が怒鳴り込んでくることも隣人にうるせぇと文句を言われることもなかった。両方ともいないのかね? 何? 放置プレイ?

 あー、もしかして世話を全くせず、孤独と餓えで俺の心身を弱らせる気かな? 水瓶の水は新鮮なようだが、これじゃあきっと水も三日くらいしか保つまい。で、俺の心身を弱らせきったところで颯爽と俺を助ける聖王国の善玉。その善玉に優しくされ、取り立てられて心酔する俺、みたいなシナリオかな?

 現状では妄想でしかないが、無くもない感じに思えるな。独りぼっちは寂しいし、ひもじいのは辛いものな。水も食料もなく、放置されて死にそうになっているところで助けられて優しくされたらコロっといくかもしれん。

「ま、俺には効かないシナリオだけどね」

 俺のインベントリの中にはちょっとした量の調理済みの食料と生鮮食料品がある。生鮮食料品の中には水も野菜も果物もある。今の俺に兵糧攻めをするなら余裕で年単位の時間が必要だと思うぞ。

 ギズマの生肉だけは火を通さないとどうしようもないけどな……あれは生で食っちゃいかんだろう。というか、生で食いたくない。おなか痛くなりそう。

 全くもって邪魔される気配がないので、ガンガン石床を掘り進む。下水管を傷つけないようにしながら並行して俺が中を歩けそうな下水道を見つける必要があるわけだが……暫く石斧で掘り進むと土が出てきたので石シャベルを作って持ち替えてまた掘る。

 不思議な感じがするなぁ。普通、こういう地下通路って予め作ってから更に土台を打って、その上に建造物を建てるものじゃないのか? いや、専門的なことはわからんけどそういうイメージなんだよな。

 ああ、でもこの世界には魔法があるものな。城を作った後に魔法で地下を掘削して魔法で土を岩に変えながら地下通路を作ったりってこともできないことはないのか。俺と一緒に防壁を作った時にアイラも同じようなことをしていたものな。

 というか、掘り進んできて当然とも言える問題が出てきた。

「暗くて何も見えねぇ……」

 これは松明が要るが……ベッドを完全に解体でもしないと木材が足りんな。これは困った。

 お隣の独房まで掘り進んでお隣のベッドを犠牲にするか……? いや、どっちにしろ独房に留まるというのは良い選択肢とは思えない。ここはベッドを犠牲に焚き火と松明を召喚しよう。

 というわけで独房に戻り、ベッドを完全に解体して木材を作る。何かに使えるかもしれないので、枕や毛布、水瓶も回収する。

 あ、手枷と足枷? とっくに収納済みです、はい。

 そして木材とインベントリ内に保管してあった火のついた火口を使って焚き火を起こす。

 え? 火口はあるのかって? そりゃこんなもん取り出しても燃え尽きるだけだから例の広場では出してなかったよ。

 というか、何故俺はあんなに迂闊な真似をしたんだろうな? 狐か狸に化かされた気分だ……そういやキュービは狐か。もしかしてあいつは他人の思考を誘導するような面妖な術でも使えるのか……? よく考えてみれば名前も『九尾』だしな。

 今更だが、考えるほどに不思議だ。よく考えればキュービは怪しいところが多い……いや、後知恵だな。何もかも今更だ。しかし、だとするとこの状況は一体何なんだ?

 俺に対してこの程度の拘束は何の意味も為さないというのはキュービもわかっているはずだ。俺の能力が聖王国の連中に正確に伝わっているなら、この程度の拘束で済むはずがない。

 俺の能力を警戒してインベントリの中身を吐き出させたはずなのに、俺を拘束する態勢はまるで普通の囚人を想定しているかのような内容だ。

 あまりにも対応がちぐはぐだよな?

 これがキュービの意図した通りだとすれば……俺だけでなく、聖王国までもがキュービの手のひらの上でいいように転がされているんじゃないかと思えてくる。実際には聖王国の上層部というか、ここを治めている奴がキュービの忠告を無視しているだけの可能性もあるけど。

「うーん……わからん!」

 まぁ良い、考えてもわからんことはわからん。推測の域を出ないしな。

 とにかく松明をある程度作って石床に空けた穴に飛び込む。勿論焚火は回収しておく。そして石でクラフトした石壁ブロックで穴の中から入り口を塞いでおく。これでそう簡単には追ってこれまい。

 空気は大丈夫なのかって? この松明、何故か酸素を食わないっぽいんだよな……そもそもいつまでも燃え続けるし、火に触っても熱くない。そりゃアイラの目から光も消えるってもんだよな。相変わらず物理法則にも魔法法則にも喧嘩を売っていらっしゃる。

 土の地面に設置した松明の光を頼りに石シャベルを振るっていると、また石壁に突き当たった。ついに下水道に辿り着いたのだろうか? 石斧に持ち替えて今度は石斧を振るう。

 カン、カン、カン、カンと。

 そうして何メートルか掘り進むと、遂に目的の下水道に……本当に下水道か? ここ。

 地下道なのは間違いないが、下水らしきものは流れていないし、覚悟していた悪臭もない。俺が追ってきた下水管はこの地下道より更に下に延びているようだ。

 城の地下にこんなものが……? もしや王家の秘密の地下道とかそういうのだろうか。だとすると、これは外に繋がっているのでは?

 俺の運も捨てたものじゃないな! 本当に外に繋がってるとは限らないけど!

 本当にこれが脱出用の地下道かどうかはわからないが、もしそうだとすれば危険は無いと考えて良いだろう。退路に罠や魔物が配置されてて逃げようとした王族が死ぬ、なんてことがあってはならないわけだし。

 でも警戒は怠らない。ぼくはできるサバイバーだからね!

 空気の心配も無くなったので穴を掘り進んでいたときよりは気分は楽になったな。うん。

 暗くてちょっと怖いが、右手に石斧、左手に松明を持って地下道を探索する。このスタイルは初めてこの世界で森を探索した時の事を思い出すなぁ。あの時と違って石斧しかないのは少し不安……あ、いや、木材は少し残ってるし石はあるから石槍くらいは作れるか。作っておこう。

 石ナイフと石槍も作った。石シャベルもあるしこれで石装備は揃ったな! え? 石ツルハシ? そんなものはない。クラフト品にも無いし、アイテムクリエイションでも出てこないんだよね。不思議。攻撃用途の石のウォーピックは作れたけど。

 でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない。

「……っ!」

 振り向き、たいまつを掲げる。何をしているのか? そう思うだろう? いや、何かさ。さっきから後ろから何かの気配がする気がするんだよね。足音は聞こえないんだけど、何かが這いずってきているような……いやいやいや! まさかね! こんな場所に何がいるっていうんだよ、HAHAHA!

 落ち着け、落ち着くんだ俺。こういう時は焦ったら負けだ。ホラー映画とかだとそんなものは気のせいだ、と無防備でいたら死ぬ。でも怯えすぎても死ぬんだよな。というかこの状況、ホラー映画だったら完全にダメなやつでは?

 考えろ、考えるんだ! 正体不明の謎の生物相手に手持ちの武器で何ができる……!?

 ええと持ち物は……石ナイフ、石斧、石槍、石シャベル、松明数本、焚火、水瓶、手枷と鉄球付き足枷、火口、食い物多数……閃いた!

 俺はおもむろにギズマの生肉をインベントリから取り出し、松明を地面に設置してその横に置いた。そして俺はしゃがんで隠密モードに移行し、暗がりからギズマの生肉を観察することにする。

 そうして少し待つと……き、きた! なんかきた! うぞうぞジュルジュルと不定形の名状し難い何かがきた! テケリ・リとか言いそうなヤバいやつ!

 これはスライムですね。はい。どう見てもドラ○エに出てくる可愛らしい弱いやつじゃなくて、古典的なTRPGに出てきそうな厄介な方の。スライムは松明の直ぐ側に置かれているギズマ肉を警戒しているようだ。警戒するということはどうやら知能が高そうである。俺に見つからないように後を付けてきたのも本能というよりは警戒してということなのだろうか?

 本体から触手のようにスライムの一部が伸びてギズマ肉をちょんちょんとつついたりしている。確かめるようにギズマ肉をつつきまわし、撫で回したりして罠はないと判断したのか、触手のように伸ばした体の一部を器用に使ってギズマ肉を本体に運んでその身体に取り込んだ。美味しく感じているのか、スライム全体がプルプルと震えている。

「おーいしー♪」

「キエェアァアァアァ!? シャベッタァァァァァ!?

「ぴぃっ!?

 スライムが言葉を喋ったので思わず声を上げてしまった。そして俺の声にびっくりしたのか、スライムは身体を縮こませている。

「お、おお、お前喋れるんか!?

「ひえぇっ! にんげんさんにみつかったぁ! ふかく!」

「いや、不覚ってお前……」

 罠を警戒する知能はあるのに堂々と姿を晒して囮の肉食っておいしーとか言ってたやないか。言葉を操れる程度の知能はあっても、あまり頭は良くないのかな?

「いじめる?」

 プルプルと怯えるように震えながらスライムが問いかけてくる。

「いや、いじめないけど。お前、いや君も亜人……なのか……?」

 スライムは亜人に含めて良いものなのだろうか? このスライムの大きさは……うーん、人を駄目にするソファくらい? 結構大きい。体積は結構あるよな。色は綺麗な水色だな。重油っぽい玉虫色に光る黒色ってわけではない。そんなんだったらSANチェックとか入りそうだけど。

「あじん、いじめないの?」

「いじめない。俺はオミット大荒野の向こう、黒き森で亜人と仲良くなって一緒に生活してたんだ。色々あって聖王国に捕まって、今は脱出中だ」

「へー……」

 スライムは以外に速い速度で俺に近づき、俺の周りを這いずりながら観察するように細い触手の先端を向けてきた。なんだか視線を感じる気がするし、きっと本当に観察しているんだろう。

「さわってもいーい?」

「触るだけならいいぞ。痛いのとか食べるのとかはやめろよ」

 俺はそう言ってその場にあぐらをかいて座り込んだ。どうやら話の通じる相手のようだし、敵意は感じられない。まるで子供みたいだ。ここは好きにさせて警戒心を持たれないようにするのが良いだろう。

「いたいのしないよー」

 スライムはプルプルと震えながらそう言って、俺の手や腕、足首や首筋などをペタペタと触ってきた。何をやってるんだろうか、これは。

「えるふと、たんがんぞくと、はーぴぃのあじとにおいがする! ほかにもいろいろ!」

「味!? 匂い!?

 今朝も朝風呂には入ったんですけど? それでは流しきれない何かを感じたのだろうか、このスライムは。

「わるいにんげんじゃなさそうだから、らいむたちのおうちにつれてってあげる!」

「おうち……? そこにはお前よりもその……物知りなやつはいるか?」

「いるよー」

「ほう……よし、そこに連れてってくれ」

「わかった! こっち!」

 スライム……いや、スライムか? とにかく彼……彼女? スライムに性別ってあるんだろうか? とにかくスライムが移動を始めたのでその後をついていくことにする。スライムは鈍重ってイメージがあるけど、意外と速いな。俺が歩く速度と大差ない。

「俺はコースケだ、よろしくな」

「こーすけ! らいむはらいむだよ!」

「そうか……よろしくな、ライム」

 暗い地下道の探索には少し気が滅入りそうだったが、友好的な相手と早速接触できたのは運が良かったな……うん、やっぱり俺の運も捨てたもんじゃないな!


          ◆ ◆ ◆


「ライム、俺達はどこに向かってるんだ?」

 ぽよぽよころころシュババッと多彩な移動方法を見せてくれるライムの後を追いながら目的地について聞いてみる。というか、ぽよぽよころころはまぁ、跳ねたり転がったりだからわかる。そのシュババっていうスライド移動。どうやってんのそれ。

「らいむたちのおうちー」

 そっか、おうちかー。俺が聞きたいのはそういうことじゃないんだよなぁ? まぁ、今はついていくしか無いんだけども。

「ライム達ってことは、他にも誰かいるのか?」

「んー? おっきいらいむと、おっきいべすと、おっきいぽいぞがいるよ!」

「おっきい……?」

 おっきいってどういうことだ……? 本体的な存在がいるとか? まさかな。いや、スライムだからなぁ……あと、ベスとポイゾってのもいるのか。三人で住んでるのかな?

「ライムと、ベスと、ポイゾの三人で住んでるのか?」

「そうだよー。こわいにんげんにみつかったら、おうちのばしょをかえるのー」

「怖い人間?」

「そーなのー。ひどいんだよー。まほうでうってきたり、どくをながしこんできたり、あぶらをながしこんでひをつけたりしてくるのー」

 いかにも憤慨しています、という感じの声でライムが結構悲惨なことを言う。魔法とか毒とか油とか大丈夫なのか、おい。

「そりゃひどい。ライム達は大丈夫なのか?」

「らいむたちはそうかんたんにはしなないからー。やられたーってえんぎ? するのもじょうずなんだよー」

 そう言うとライムはでろーんと床に広がり、透明になって見えなくなってしまった。そしてすぐに元に戻る。

「じょうずでしょ?」

「上手上手」

「んふー」

 俺に褒められたライムが満足そうな声を上げる。実際、死んだふりだと知らなければ今のは死んだと思うだろうな……ただの水たまりみたいになってたし。

 そんな感じでライムと雑談をしながら暗い地下道を進む。とは言っても、ほとんど俺が聞くばかりだったけど。

 ライムの言葉が辿たどたどしい上にライム自身の記憶というか知識があやふやなので詳細はわからなかったが、どうもライム達はメリナード王国が聖王国に敗北して属国化されて以来ずっとこの王都の地下に隠れ住んできたらしい。ライム達は王城の地下からは動けないらしく、オミット大荒野を越えて黒き森まで逃れるのは不可能だったのだとか。

「それに、おしろにはおうさまたちがいるからー。おいていけない? よ?」

「メリナード王国の王族はまだ城にいるのか?」

「いるよー」

「ほう……」

 これは新情報だった。シルフィがダナン達に聞いた話によると、メリナード王国の王族達は奴隷として聖王国各地に連れ去られたという話だったはずなんだが……どういうことだろうか?

 ダナン達の情報が間違っているのか、それともライムの情報が間違っているのか……これは確認する必要があるな。

「ここがいりぐちー」

「ここが入り口かぁ……」

 ライムが床に嵌まった鉄格子の傍でぽんぽん跳ねる。

 かなり大きな格子だ。地下で湿気も多いのに全く錆びていないように見える。鉄製ではないのかな?

「俺、ここは通れそうにないんだけど……」

「にゅるんってできない?」

「にゅるんはできないかなぁ……」

「できないかー……」

 ライムが体の半分を液状化させて格子を素通りして見せてくれるけど、それは俺にはできないなー。俺はそこまで人間やめてないからね。

「格子の横の床、壊しても大丈夫か?」

「んー? たぶん?」

「たぶん?」

「もしかしたらおっきいらいむにおこられる? かも?」

「その時は謝るよ。直せると思うし」

「らいむもいっしょにあやまってあげるねー」

 ぽんぽん跳ねながら優しいことを言ってくれるライムにほっこりする。んー、可愛いな、ライム。癒やされるわー。うちのこにできないだろうか? 犬や猫じゃないんだから無理か。

 とにかく、先に進むために石斧で格子の横の床をコンコンして破壊し、下に降りられるようにする。少し時間はかかったが問題なく掘削は完了した。

「すごいすごい! こーすけすごい!」

「はっはっは、そうだろうそうだろう」

 興奮した様子でポンポンと跳ねるライムに褒められ、俺も満更ではない気持ちになる。

 解放軍では俺が色々やっても『ああ、またか』って生暖かい目で見られるだけになってたからな。生暖かいというか、悟りを啓いたような目だったかもしれないが。

 階段状に掘削した石床で格子の下まで降りる。高さはそんなに無いな。五メートルくらいか? 飛び降りるのは嫌だけど、いざとなればなんとか飛び降りられないこともない高さだ。ライムも俺と同じように階段状に掘り進んだ石床を伝って降りてくる。

「いつもはあの格子をにゅるんってして降りるのか?」

「うん、そうだよー。にゅるん、びたーんっておりるの! たのしいよ?」

「びたーんして大丈夫なのか……?」

「だいじょうぶー」

 ライムは五メートルの高さからびたーんしても大丈夫らしい。流石スライム、物理に強いな。

 降りた先は地下水道のような場所だった。下水かと思ったのだが、嫌な臭いはあまりしない。

「ここはなんだ? 下水道じゃないのか?」

「んー? げすいどう? だよ?」

「えっ、そうなのか?」

 それにしては臭くない。もっとオエエェェェェッ! ってなる臭いを想定してたんだけど。

「ここにながれてるのはー、ぽいぞたちがしょり? したみずだからー。きれいだよ?」

「ほう……」

 ポイゾというのが下水処理をしているのか。名前から考えるにポイズンスライム的な存在なのだろうか?

「おうちってのはまだ遠いのか?」

「すぐそこー」

 ライムがぽんぽんと跳ねて移動を始めたので、俺もその後をついていく。少し歩くと前方に明かりが見えてきた。あの独特の光は見覚えがある。アイラが使っていた照明の魔法の光に似ているな。

「ただいまー、こーすけつれてきたよー」

 光で満ちた部屋に入ると、あまりの眩しさに一瞬目が眩む。いや、眩しいんじゃなくて地下道が暗すぎただけだろう。松明もそこそこ明るいけど、目は暗闇に慣れてたからな。

 部屋に入ると、そこには三人の女性がいた。いや、女性のような形をした何かがいた。

「はーい、おかえりなさーい」

 明るい声でそう言う水色の女性のような何かの豊かな胸元にライムが飛び込み、その姿を消す。消す? え? 何それどうなってんの?

「ふーん、確かに人間ね」

 赤い粘液でできたスレンダーな人型が若干混乱している俺を見ながらそんな声を出す。

「驚いているようなのです」

 今度は泡立った緑色の粘液で出来た人型がそんな声を発する。ええ、驚いていますとも。

「まさかとは思ったが、本当にスライム娘が存在するとは……」

 話せるスライムのライムが居る時点でなんとなくいるのかなぁ、とは思っていたが本当にいるとは思わなんだ。そしてライムはどこへいってしまったのだろうか?

「ライムはどこへ?」

「わたしがライムだよー?」

 水色の人型……ライムがそう言ってにこーっと笑みを浮かべる。そしてぽこぽこと身体の一部を分離させて先ほどまで俺と一緒に行動していたライムと同じものを生み出した。

「あんたと一緒に行動してたライムも、このライムも同じ存在ってこと。ちなみに私はベスよ」

「私達は身体を分裂させて複体というものを作ることができるのですよ。私はポイゾなのです」

 赤い人型と緑の人型も自己紹介をしてくる。色々と考えたいことが多いが、今はそれよりも自己紹介をするとしよう。



「俺はコースケ、解放軍でシルフィ……シルフィエル姫殿下と言ったほうがわかりやすいか? シルフィと一緒に行動していた。色々あって聖王国軍に捕まって、独房にぶち込まれたのを脱出してきたところでライム――ライムさん? に会ったんだ。よろしくな」

「ライムでいいよー」

 ライムがそんなことを言いながらのほほんとした笑みを浮かべる。うーん、癒し系。

「シルフィエル姫殿下の解放軍ね。噂は聞いてるわ。軍や教会上層部は戦況を隠すのに必死だけど、王都じゃ解放軍の噂でもちきりよ」

「聖王国軍を怒涛の勢いで撃破しながら短期間でアーリヒブルグまで攻め上がってきたという話だったのです。本当なのですか?」

「それは本当だな。アーリヒブルグまでは制圧を完了してた。今はアーリヒブルグを堅守しつつ、アーリヒブルグ以南から聖王国軍を駆逐しているところで……」

 と、解放軍の戦況について俺が把握していることに関して話していく。三人は俺の話を興味深そうに黙って聞いていた。こんな地下に籠もっているから、外の話に飢えているのかもしれない。

「なるほどー。それで、コースケはひめでんかとどういうかんけい? なかよしさん?」

 あまり興味なさげに俺の話を聞いていたライムが表情を輝かせながら聞いてくる。にじり寄ってくるねぇ。他の二人も興味があるのか、あからさまにワクワクした顔を俺に向けてきた。

「シルフィとはとても深い関係だな。ベッドを共にするくらい」

「べっどをともに」

「うん。そう。もちろんそういう関係だぞ」

「そういうかんけい」

 近い近い、ライム近い。興味津々なのはわかるけど近いから。というか他の二人も近いから、ぺたぺた俺の首筋とか額を触ってるのなんなのそれ。

「ついいつものくせでー」

「私達は触れ合うことによって情報を共有できるのよ」

「私達の間だけなのです」

「なるほど……それって本当にスライムの間だけの話?」

「できないことはないよー。ちょっとなかにはいってくちゅくちゅってすればできるー」

「どこに入るの? 何するの? ねぇ? 怖いんだけど?」

「やってみるー? やみつきになるよー?」

 うぞうぞとライムが糸のように細い触手のようなものを伸ばしてくる。コワイ!

「いいえ、私は遠慮しておきます」

「きもちいいのにー」

 ライムが残念そうに細い触手を引っ込める。こええよ……やっぱりこの子達テケリ・リとかいう声で鳴くやべーやつらなんじゃないだろうか。

「ライムのはやめといたほうがいいわよ。三日くらい戻ってこれなくなるから。私のなら一日で戻ってこれるわ」

「私なら半日で大丈夫なのです」

「あんたのは依存性あるじゃない……」

「とりあえずその話は怖いからやめよう。はい、やめ!」

 なんか恐ろしい話で盛り上がり始めたので強制的に話の腰を折ることにする。

「それで、俺からも色々と聞きたいんだが聞いて良いか?」

 俺の言葉に三人は互いに顔を見合わせ、同時にこちらに視線を向けてきた。

「コースケがつつみかくさずー?」

「全部教えてくれるなら」

「私達も答えられるものはなんでも答えるのです」

 そう言ってじっと見つめてくる。あー、はい。そうですよね。俺が何者で、解放軍でどんな役目を果たしていて、何故他ならぬ俺が攫われてきたのか。そういうことに関しては意図的に隠していたものね。そうなるよね。

「コースケは、わたしたちがしんようできないー?」

「言っておくけど、アンタをどうにかする気ならとっくにどうとでもしてるわよ」

「私達はあなたの味方なのです。今でもこの王都と、王族の方々をお守りしているのですよ?」

 また王族の話が出た。そこが気になるところなんだよな。

「わかった、全部話すよ。その代わり、俺の求める情報も提供して欲しい。そういうことでいいんだよな?」

「うんうん、いいよー」

「やっとね。さぁ、キリキリ吐きなさい」

「ベスはせっかちなのです。ゆっくりでもいいのですよ」

 ライムがにこにこと笑い、ベスが何故か偉そうにふんぞり返り、ポイゾがそれをたしなめる。なんとなく三人の関係性がわかってきたな。

「よし、それじゃあ話すが……かなり荒唐無稽な話に聞こえるだろうから、覚悟しておけよ」

 そうして俺は語り始めた。この世界に来て、シルフィと出会ってからの物語を。