三日かけてアルファ砦に辿り着いた俺達は再び一日休養を取り、ガンマ砦に向けて移動を開始した。軍の構成はダナンが率いる重装歩兵が二〇名、軽装歩兵が五九名、クロスボウ兵一〇〇名、シュメル含む遊撃兵九八名、ジャギラ含む銃士隊五名、ハーピィ航空隊五名、アイラ含む魔道士五名、メルティ含む文官勢三名、その他に俺、シルフィ、ザミル女史という構成だ。
軽装歩兵と遊撃兵の数が減っているのは前回の戦闘での死者で欠員が出たためである。できるだけ死傷者を出さないように戦いたいものだ。
「ハーピィの支援が薄くなるのは少し心配だな」
「大丈夫だと思うけどな」
アルファ砦とベータ砦に五名ずつハーピィ航空隊を配備したので、俺達の
一〇名のハーピィ航空隊による爆撃支援があれば相手が一万とかの大軍勢でない限り何とか撃退できるだろう。航空爆弾もアルファ、ベータ双方の砦に相当量を配備してきたしな。もし負けて鹵獲されたら大変だが、あれくらいの重さなら獣人兵士は普通に大型の手榴弾としても使えるらしいし、鹵獲されるくらいなら手榴弾として使ってくれとも言ってあるから問題あるまい。
そして歩くこと三日。今回は途中で誰かに遭うようなこともなく、スムーズにガンマ砦に辿り着いた。まぁ、この先はオミット大荒野だし、捕虜の話によるとギズマの大襲撃があって以降はここらへんに近づくような輩もいないという話だ。当たり前といえば当たり前か。
「今回はどういう作戦で行くのだ?」
「とりあえずはいつもどおり射撃戦からです。一方的に叩いて数を減らします」
「わざわざリスクを冒す必要はないよな」
「ん、その通り」
日の高いうちにガンマ砦に辿り着いた俺達はサクッと陣地を構築し、射撃戦に突入する。今回もシルフィが精霊魔法で強力な追い風を吹かせているので、一方的な展開だ。こちらのクロスボウから発射されるボルトは敵兵を容易に穿ち、あちらの矢は強風に煽られてほとんど届かない。
「コースケ、今回は流石にあたし達も戦うぞ」
四倍スコープ付きのボルトアクションライフルを手に持った豹獣人の女性兵士、ジャギラが部下四名を伴って俺の目の前に現れる。アルファ砦とベータ砦の戦いでは弾丸は温存してたからなぁ。流石にここらで戦わせないと不満が出るか。
「そうだな、そうしよう。狙いは指揮官っぽい奴とか、周りに指示を出してる士官っぽい奴を中心にな」
「わかってる」
俺達の持つ虎の子部隊その二、銃士部隊が砦の周りに散っていく。そしてそこかしこから雷鳴のような銃声が響き始めた。それと同時に防壁上で血の花を咲かせる敵兵が出始める。
「銃士隊は密集運用しないのか」
「弾幕を張るわけじゃないから密集する意味が無いんだよな」
むしろ、密集するよりも分散して色んなポジションから射線を取った方が良い。弓なんかよりも遥かに遠くから攻撃できるんだから尚更だ。
一目見れば弓の延長線にあるとわかるクロスボウによる射撃と違って、ボルトアクションライフルによる銃撃は実際に撃っているところを見てもそれが何なのかを理解をするのが難しい。
何せ俺の提供しているボルトアクションの銃口から飛び出す弾丸の初速は軽く音速の二倍以上だ。
この距離だと銃口から発射炎が上がるのとほぼ同時に対象に着弾し、それから遅れて銃声が聞こえるはずである。突然頭部が弾け飛ぶのに遅れて発砲音が聞こえるのだから、この二つを関連付けるのは難しかろう。
きっと銃で撃たれてる聖王国軍の兵は何が起こっているのか理解できず大混乱だと思う。
「敵兵の数は何人って言ってたかな?」
「三〇〇人弱だそうだ」
「うーん、降伏してくれないもんかね」
射撃戦だけで三〇〇人全員を倒すことは不可能だ。砦に籠もられたらどうしようもないからな。だから最終的には砦に乗り込んで白兵戦でカタをつけなきゃならんのだが……。
「もう引っ込んだ」
「どうしようもないもんなぁ。一見した感じ、こっちが攻城兵器を持っていないと思うのも無理はないし、射撃戦で勝てないなら籠城するっていうのはごく常識的な発想だ」
そして、そう来るならこっちの取る手も決まっている。ワンパターンだが、ハーピィ達による航空爆撃の開始である。今回は五名しかいないので、何度も再出撃してもらうことになるのだが。
「爆撃するのたーのしー!」
これである。いや、君達。その爆弾一個で数人から十数人ミンチにしてるんだけど、楽しいってあのね……いや、良いんだろうけどさ。俺みたいにネガティブな気分になるよりもずっと良いんだろうけどさ。
「積年の恨みを晴らしているんだ。そっとしておいてやれ」
「ん。聖王国の連中は見た目が人からかけ離れている種族ほど厳しく弾圧する。ハーピィやラミア、リザードマン達には特に厳しい。私みたいな単眼族もかなり酷い目に遭わされていた」
「そうなのか……」
復讐か。復讐なんて虚しいとか、無駄だとか、そういう事を言おうとは思わない。後に何も残らないのは確かだけど、少なくとも心は晴れるしスッキリするからな。スッキリするって大事だと思うよ、うん。
でもな、楽しんで人を殺すようなのはちょっと良くないと思う。聖王国の人間、という不特定多数の復讐相手を殺すことに快感を見出すのは危険だ。復讐というのはどこかで終わらせないといけない。復讐の相手がはっきりしていればそんなことにはならないんだろうけどな……難しいな。
俺は誰かを殺したいと思うような目に遭ったことがないし、俺の考えなんて綺麗事でしかないのかもしれない。
「難しい顔をしている」
「……色々と考えてしまうこともあるんだ」
「ん、でも今はあまり深く考え込んじゃダメ。危ないから」
「そうだな」
絶賛戦闘中だからな。
◆ ◆ ◆
ハーピィによる爆撃をしこたま食らったガンマ砦の司令官は俺達の白兵戦部隊が突入する前に降伏を申し出てきた。今までにない展開である。
「爆撃で死ななかったからだろうな」
「ああ、今までは爆撃で司令官が死んでたのか」
「多分そうだろう」
降伏の決断を下せる人間が爆撃でくたばってたらそりゃ降伏もできずに戦うしかないわな。今回はハーピィ航空隊が五人しかいなかったから火力が足りなかったのかもしれん。
降伏した聖王国軍の兵は現在武装解除中だ。魔道士隊も中に入り、重傷者の治療にあたっている。こちら側の死者はなし。精霊魔法の強風を突破して届いた矢が当たって怪我をした者が数名出たが、いずれも軽傷である。
「防壁上の指揮を執ってなくて幸運だったな、敵の司令官は」
「もし出ていたら銃士隊に殺されていただろうな」
銃士隊の戦果は目を見張るほどのものだった。敵が砦に引きこもるまでのごく短い時間で五〇人弱の聖王国軍の兵を倒したらしい。本人達は。
「クリップ二つ目を撃ちきる前に終わった……全然撃ち足りない」
って感じで不満げだったけど。いや、五人で一〇発以下の発砲で与えた損害五〇人弱って命中率どうなってんだよ。ほぼ必中じゃないか。
これ、適切な防御陣地に配置したら五人で一〇〇人以上の相手を完封できるんじゃないか?
「武装解除が終わったようだな。どれ、敵の司令官とやらの顔を拝むとしようか」
「俺はあんまり会いたくないけどなぁ」
シルフィ達と行動を共にしている人間ってだけで何か言われそうだし。俺からすれば人間至上主義なんか掲げて亜人弾圧をしているお前らこそ何やってんだって感じだけど。
砦内に入ってみると、前の二つの砦よりはマシな状況だった。少なくとも見える範囲に吹き飛んだ手足とか肉片とかが散らばってはいない。あちこちに血痕はあるけど。
「姫殿下、この砦の司令官はこの中に」
「そうか。では……」
「コースケは会わないほうが良い」
司令官の居るという建物に入ろうとしたところでアイラが俺を止めた。
「コースケは私達の集団の中で異質。私達が今までにない武器や戦術を使う事になった鍵となっていると考えられる可能性がある」
「……なるほど。それもそうだな」
「ん。保安上の観点からコースケの存在は聖王国軍に知られないようにしたほうが良い」
アイラの意見が通り、俺は敵司令官とは会わずに倉庫の物資を略奪……というか管理する任務に回ることになった。倉庫内の物資を一度インベントリにぶち込むと目録作りが
適当にぶちこんで数を数えるだけで目録が作れる上に、物資を倉庫内に再配置すれば倉庫整理と共に目録の内容の確認作業にもなる。一石三鳥だな。
「本当に便利ですね、その能力。
「この能力のせいでメルティに目をつけられてたまに物凄い仕事を押し付けられるからな」
メルティは司令官との対談に同席しているので、倉庫整理と目録作りに当たっているのはこの砦まで同行してきた二人の文官衆である。
アルファ砦とベータ砦にもそれぞれ文官衆が数名ずつ残っており、日々の物資管理などを行ってくれているらしい。
「この砦は物資が多めですね。補給を受けた直後なのかもしれません」
「近くにアーリヒブルグがあるから、あそこからの補給でしょう」
「アーリヒブルグって街があるのか」
「ええ。この辺り一帯の交通の要衝ですね。近隣の村や街との街道が集中しているんです」
「ふーん、じゃあそのアーリヒブルグって街を制圧するのが当面の目標になりそうだな」
「そうですね。大軍を移動させるのに向く街道を使うとなると、どうしてもアーリヒブルグを通らざるを得ませんから」
ついでにこの辺り一帯の地理や特産品などの話を聞きながら倉庫整理に邁進した。
会談を終えて戻ってきたメルティが、いつの間にか俺と仲良くなっていた文官衆の娘さん二人に愕然とした表情を向けていたのがちょっと面白かったな。
◆ ◆ ◆
三つの砦を支配し、メリナード王国領に対する影響力を強めるための
「領域境の砦を確保できただけでも
「無念です」
「そう悲観するほどのことでもありませんよ。この三つの砦を押さえたということは、オミット大荒野の支配権を完全に確保したということでもありますし。あとはコースケさん次第ですね」
「俺次第かぁ……」
それはつまり、俺の能力をフル活用して不毛の荒野に人が住めるような環境を整えるってことだよな。実に骨が折れそうな仕事だ。
「さしあたっては領域境にある三つの砦の要塞化を進めるべきだと思うが」
「えぇ……それよりも新たな居留地の開拓を進めるべきですよ」
「本拠点の許容量がまだまだ余っているだろう?」
「私達が領域境の砦を落としたことがメリナード王国内に広がればすぐに人は増えますよ。その時になって足りない、では話にならないんです」
「コースケの能力なら居留地の設置は一瞬で終わるだろう。その時になってからでも充分間に合うはずだ。居留地の守りを万全にするためにも砦の要塞化が先決だ。いくら居留地を作っても砦が抜かれてしまえば
ダナンとメルティがバチバチと今後の方針について意見を交わしている。
とりあえず、現状を維持して足場固めをするという方向では一致したのだが、どういう方向で足場を固めるかについては議論中なのだ。シルフィが口を出すと方針が決まってしまうので、とりあえず彼女は静観する構えのようである。アイラは聖王国軍の負傷兵を治療するために席を外している状態だ。
メルティとダナン、どっちの方針が採用されるにしても俺はこき使われる運命だ。そこは諦めよう。ちゃんと休む時間が確保されているのなら文句は言うまい。
「大体、居留地を新たに作ると言ってもどこに作るのだ? 場所の選定も済んでいないのではないか?」
「抜かりはありませんよ。本拠点の周辺の探索は進んでいます。候補地は選定済みです」
「それは私も興味があるな。教えてくれないか?」
ダナンとメルティの会話を見守っていたシルフィが問いかけた。俺も興味があるな。
「はい、本拠点から少し離れた場所にいくつか岩山がありまして、調べてみたところ良質な石材や鉱石が採れそうなのです」
「なるほど、資材の産出が期待できると。他には?」
「探索の結果、地脈の集合点である脈穴が新たにもう一つ発見されています。魔物除けの結界装置を複製できれば、本拠点のように安全な居留地を増やせますね」
ほう、新たな脈穴か。脈穴というのは確か魔道具を動かすための魔力を地面から無尽蔵に汲み出すことのできるパワースポットみたいなものだ。本拠点はその恩恵を受けて魔力を動力源とする魔道具が使い放題なんだよ。あれは確かに便利なものだ。
「なるほどな……コースケ、資材の備蓄状況はどうなのだ?」
「石に関しては問題ないが、粘土と木材は少なくなってきてるな。砦の要塞化にしろ、新たな居留地の開拓にしろ、やりきるには少々心許ない」
粘土に関してはオミット大荒野でも採れるのだが、木材だけはそうもいかない。黒き森から輸送してくるというわけにもいかないし、そろそろ補充する必要がある。
「木はそこらの森で伐採しようかね」
「そうだな。砦周辺を偵察する部隊と一緒に森に入って、ついでに伐採してくると良いだろう」
デルタ砦から見える範囲にも普通に森はある。ここまで来るとオミット大荒野からは完全に抜けていて、植生も豊かになってるんだよな。今更ながら、オミット大荒野に長期滞在して本当に大丈夫なのかと心配になるぞ。精霊力とやらの枯渇で植物が生えないらしいが、人体に影響は無いんだろうな?
「今回はダナンの方針を採ることとする。まずは領域境の砦の強靭化だ。反撃で砦を奪い返されては元も子もない。ダナンの言う通り、まだ本拠点にも最前線拠点……は、もう最前線じゃなくなってしまったな。まぁとりあえず、最前線拠点にもまだ人員を受け入れる空きはある。居留地の確保は喫緊の課題ではないだろう」
「姫殿下……」
「メルティの言いたいこともわかる。居留地の増設も大事だ。だが、今は何としても負けて砦を奪われるわけにはいかん。兵が少ない以上、減らすリスクは減らしたい」
「承知いたしました」
メルティもシルフィの言い分に納得してくれたようだ。
「では、そういう方向で動こう。メルティはゴーレム通信機で本拠点と連絡を取り、物資や人員を前線に集めてくれ。ダナンは人員の配置と、要塞化の案を練っておくように。コースケが作業を迅速に進められる態勢を整えてくれ」
「わかりました」
「御意」
各々が動き始める。俺は外で伐採か……ザミル女史に護衛についてもらわないとな。
◆ ◆ ◆
『ギョゲゲゲゲ!』
『ゴギョゴゴゴ!!』
「なぁにこれぇ」
「ゴブリンですね」
ザミル女史や解放軍兵士の皆さんと共にデルタ砦を出て、近くの森に入って伐採しながら偵察をすること一時間半ほど。俺達は緑色の肌をした気持ち悪い生命体に囲まれていた。これがファンタジー界でザコオブザコの異名をスライムと二分して争っているゴブリンさんですか。なるほど。
まるで知性を感じられない醜悪な顔、緑色の肌の
「ザミル女史や、こいつらはアレかね、話は通じるのかね?」
「ゴブリンとの対話を試みるようなものだ、という言い回しがあります」
「そのこころは?」
「まるで意味がない、という意味です」
「なるほど」
対話は期待するだけ無駄らしい。まぁ、見るからにそんな感じではある。
「コースケ殿には指一本触れさせませんので、ご安心を」
「あいよ」
ザミル女史がミスリル大身十字槍の流星を構えてゴブリンの群れに突っ込んでいくのを見送りながら、俺は俺でゴーツフットクロスボウをインベントリから取り出してゴブリンに向かって射撃を開始する。ギズマの装甲をぶち抜く威力だ。鎧も纏っていないゴブリンなどひとたまりもないな。
「らあぁぁぁっ!」
『ギョゴゲ!?』
『ギョワーッ!?』
ゴブリンの群れに突っ込んだザミル女史が白銀の十文字槍を振り回してゴブリンどもの首を
「もうザミル女史一人で良いんじゃないかな」
背を向けて逃げようとするゴブリンの背中にボルトを撃ち込みながら呟く。獅子奮迅の大活躍というのはこういうもののことを言うんだろうな。
結局、戦闘は五分足らずで終了した。ゴブリンは三〇匹ほどもいたようだ。こっちは俺、ザミル女史、軽装歩兵三名の合計五人パーティだったから、六倍の数で囲めばなんとかなると思ったんだろうか? 思ったんだろうな。
その結果が逃げることもできずに文字通りの全滅である。哀れな。
「弱いな」
「ギズマに比べれば雑魚ですね。とはいえ、多少は知恵の回る連中なので気は抜けませんが」
「なるほど。確かに寄って
「ゴブリン程度と侮った冒険初心者がゴブリンに殺されるのはよくある事件ですね」
そしてゴブリンの苗床にされちゃうんですね、わかります。この世界のゴブリンがそういう生態かどうかはわからんけど。あまり聞きたくもないな!
何かに利用できるかもしれないので一応ゴブリンの死体をインベントリに収納し、木の伐採を続ける。この辺りの木は黒き森に比べてなんか細い感じがするな。生命力が違うとでも言えば良いのかね。まぁ、切り倒してしまえば同じなんだけどさ。
「何度見ても面妖な力ですね……」
倒れた木が枝の打ち払われた均一な丸太になるのを見てザミル女史が呟く。
「有用だから良いかなって。悩まずそのまま受け入れて利用するのが一番だ」
「それは確かに」
スコーン、スコーンと木を伐りまくりながら森を進んでいく。流石に丸坊主にする訳にはいかないから、程々にだ。間伐する気持ちで。専門知識がないから適当だけど。
「オミット大荒野に比べると安全なんだな、この辺は」
「オミット大荒野が危険過ぎるだけです。黒き森の深部はそれ以上ですが」
「そうなのか? そう言えば黒き森は浅い場所しか行ったことがないかもしれないな」
「深部には竜も出るそうですよ」
「何それこわい」
でもちょっと見てみたい。だってドラゴンだぜドラゴン。カブトムシとかクワガタと同じで男の子って感じするよな。
しかし竜、ドラゴンか。流石に現状の装備でドラゴンはどうにもならないかな? 対戦車榴弾砲でも作れば効くだろうか? ボルトアクションライフル程度じゃどうにもならなそうだよなぁ。
対物ライフル、いや最低でも重機関銃くらいは用意したい。50口径の機関銃弾を山程ぶち込めば倒せるんじゃないかな? それにしてもドラゴンの鱗ってどれくらい堅いのかね?
「竜を倒す算段ですか?」
「鋭いね」
「竜の話を聞いた者の反応は二種類です。畏れて近付こうとも思わず忘れるか、自分が出会った時の対処を思い浮かべるかですね。コースケ殿の顔に畏れは見えず、何かを考え込んでいる様子でしたから。それで、倒す手は思いつきましたか?」
「今は無理だな。ただ、効きそうな武器はいくつか思いつく。ミスリルの武器ならドラゴンを傷つけられるか?」
「可能でしょう」
「なら殺せるな」
対物ライフルでもいけるかもしれないな。
銃身と弾丸をミスリルで作って強装弾にすれば流石に竜の鱗も貫けるだろう。そして竜だって生物である以上は急所はあるはずだ。脳とか、延髄とか、心臓とかな。そこにぶち込んでやればきっと倒せるはずだ。遅延信管でも仕込んで体内で弾頭を炸裂させられればなおよしだ。
「そうですか。いつか竜を殺す時があれば、是非同行させてください」
「頼るとするよ」
ザミル女史が牙を剥き出しにして笑みを浮かべる。最初は怖かったんだが、慣れてくるとそうでもなくなってきた。結構いるからね、リザードマン。いや、リザードウーマンか。
「この近くに農村があるんだっけ?」
「そのようですね。他の部隊が向かっている筈です。ここからだと少し遠いですか」
「方角が違うもんな」
俺達が分け入った森はガンマ砦の北東方向、農村があるのは北西方向という話だったから、距離は確かに離れているな。
「俺は正直こういう統治? とかには詳しくないんだが、どうやってやるものなんだ?」
「基本は兵を巡回させて魔物や盗賊を狩り出す、これだけです。あとは収穫時期の徴税ですか」
「それだけなのか?」
「国家は武力をもって民に安寧を与え、民は国から与えられる安寧の中で労働に励む。それだけですよ。勿論、国家は民が健やかに生を全うできるように様々な施策を打ちますし、民も国に何らかの援助を求めて嘆願することがありますが」
「なるほど?」
やはり俺の手には負えそうもないな。シルフィやメルティに相談されたら何か知恵は貸せるかもしれないけど。
「コースケ殿の力は民を大いに助けるでしょうね」
「そうかね。まぁ、土木工事ならお手の物ではあるな」
「水路や道の敷設に村を守る防壁や作物を収める倉庫の建設、それに痩せた土地を豊かにすることもできるのでは?」
「そういうのは得意だな」
「本来は血生臭い戦などに関わらず、世のため人のためにそういった物を作り続けるのがコースケ殿の使命なのかもしれません」
「使命ねぇ」
そんなものがあるとは思えないんだよなぁ。アチーブメントのコメントを見る限り、明らかに愉快犯的な感じしかしないし。単に俺をこの世界に放り込んでニヤニヤしながら眺めているだけなんじゃないかと思うが。
「そんなものがあるとしても、知ったこっちゃないな。今更シルフィ達を見捨てるような真似もできないし」
「姫殿下は愛されていますね」
「勿論だ」
今更離れろと言われてもお断りだね。アイラやピルナ達にも手を出したわけだし、俺にも責任ってものがある。何の説明もなしに俺をこの世界に放り出した奴に今更何か言われても耳を貸す気にはなれんな。
「木の伐採はこれくらいで充分ですか?」
「今後のことを考えるとまだまだだな」
「では、続けましょう。次はもう少しマシな獲物が出てくると良いのですが」
「どんなのがいるんだ?」
「この辺りだとチャージングボアですかね。突っ込んでくるしか脳のない魔物ですが、肉は美味ですよ」
「それはいいな。是非捕まえたい」
「出てきたら一突きで仕留めて見せましょう」
「お手並み拝見だな」
この後、日が傾き始めるまで木を伐採しまくった。チャージングボア? ははは、獲物はゼロだったよ畜生め。
◆ ◆ ◆
伐採を終えてガンマ砦に戻ると、またシルフィ達が集まって会議をしていた。大変そうだなぁ、と横目で見ながら通り過ぎようとしたらガシッと肩を掴まれる。
「コースケ、ちょっと意見を聞かせて欲しい」
「はい」
スルーしようとしたのをシルフィに見られたらしい。その試みに失敗した俺はあえなくズルズルと引っ張られていく。ザミル女史は何も言わずついてきてくれたが、同行していた解放軍兵士は俺を笑顔で送り出しやがった。勝ったと思うなよ……。
「どうしたんだ、皆難しい顔をして」
「アルファ砦にな、難民……いや、義勇兵が集まってきた」
「聖王国の……ってわけじゃないよな」
それなら最初に難民だなんて言わないだろう。
「うむ、主に獣人だが、旧メリナード王国の人間の兵も交じっている」
「それってあれか? オミット大荒野に行く行かないで別れたっていう?」
「そうだ」
俺の言葉にダナンが首肯する。なるほど、人間が交じってるなら聖王国の動向も探れていただろうし、俺達が聖王国軍と戦闘を開始してからもうかなりの時間が経っている。色々と準備をして行動を起こしてもおかしくはないと思うが。
「どれくらいいるんだ?」
「一〇〇〇人だ」
「なんだって? もう一度言ってくれ」
凄い数字が聞こえた気がする。
「一〇〇〇人だ」
「うっそだろお前」
「まともな兵力としては三〇〇ほどだがな。残り七〇〇は彼らの家族などの非戦闘員だ」
「参ったなオイ」
確か本拠点の収容人数が一次工事を終わらせた時点で三〇〇〇人だったはずだから、余裕で収容はできるはずだが……遠いんだよな。アルファ砦から本拠点までは徒歩で一週間くらいかかる。
「メルティ、食料は足りるのか?」
「正直ちょっと厳しいですね。本拠点には備蓄がありますが、ここまで運んでくるのは難しいですし。早急に食料の生産拠点を作る必要があります。それも、最前線に近い位置に」
「本拠点は遠いもんな……」
当初の予定ではオミット大荒野に引きこもる予定だったから、後方の本拠点で食料を作れば問題ないと思ってたんだよな。実際にはオミット大荒野から飛び出て活動しているので、俺達は補給線が伸び切ってしまっている状態だ。これは非常に良くない。
「オミット大荒野との領域境から少しオミット大荒野に入った辺りに拠点を作るか」
「そうする必要があるかと」
「幸い、オミット大荒野のメリナード王国側ではギズマはほとんど駆逐されている。危険は少ないはずだ」
「砦の補強どころじゃなくなったなぁ」
いつだって想定外が起こるものだな。敵よりも突然大量に増える味方のほうが厄介だという現状。いつだって軍を悩ませるのは
「それにしてもなんというか、凄いタイミングだな。まるで誰かが手引きしたかのような……」
「キュービがな」
「キュービ? そういや最近見てなかったが」
「単身潜入して元メリナード王国軍の人間と接触してもらっていたのだ」
「単身潜入ってすげぇな」
スパイか何かかな? スパイフォックス?
「とにかく、そういう状況でな。コースケの意見を聞かせてもらいたい」
「意見って言われてもな……まず、どういう方向の議論をしているんだ?」
「俺は義勇兵の戦力も加えて一気にアーリヒブルグを押さえるべきだと思っている」
「私は反対です。ただでさえ色々と手が回らない状況ですし、今は態勢を整えるべきだと思います」
「しかし、それでは聖王国にも態勢を整える時間を与えてしまう。敵の優位性は数だ。三つの砦を同時に攻められると厳しいぞ。防戦に回った途端にすり潰されかねん」
「ですが――」
ダナンとメルティが
「さっきからこの調子でな、一向に方針が決まらんのだ」
「シルフィはどう考えているんだ?」
「そうだな。私はダナンの意見を採用しようと思っているのだが、コースケの意見も聞きたい」
シルフィの言葉にダナンとメルティがグリンッと振り向き対照的な表情を浮かべる。ダナンは『流石姫様わかっておられる』とでも言いそうな顔で、メルティは『なんで私の意見が不採用なんですか!』とでも言いそうな顔だ。
「まずはこの地図を見て欲しい」
「この周辺の地図か。これが砦で、周辺の街や村に……この線は街道か?」
「そうだ。他にも小さな道はあるが、これは主に軍が移動可能な大きな街道を示しているものだな」
「……なるほど、本当に交通の要衝なんだな、アーリヒブルグは」
地図を見る限り、アーリヒブルグさえ押さえてしまえば聖王国軍が南下することのできるルートは他に無くなる。アーリヒブルグさえ押さえてしまえばアーリヒブルグ以南の聖王国軍勢力を孤立させることができるとも言えるな。
「うん、そうなんだ。ここさえ押さえてしまえば聖王国は大兵力を投入して私達を圧倒するという戦略を取るのが難しくなる」
「こっちはアーリヒブルグをガッチリと守れば良いようになるわけか」
「その通りだ。結果的に防衛に割く戦力を少なくすることができるし、その分治安維持などに人員を回せるようになる」
ダナンが拳を握りしめて力説する。対するメルティは少しうんざりとした表情だ。
「メルティは何が不満なんだ?」
「不満というか、落としたとしてその後の統治が心配なんですよ。アーリヒブルグを最短で落としたとしても、アーリヒブルグ以南にはまだまだ聖王国軍の兵がいるはずです。各地で騒乱を起こしたり、略奪行為を行ったり、最悪山賊化する可能性すらあります」
「それに関しては今後戦いを進めていけば常に付きまとう問題だろ。そんなことをすれば結果的に聖王国軍の評価は下がるし、それを討伐すればこっちの評判も上がるんじゃないか?」
「そう簡単に行けば良いんですけどね」
メルティはそんなに上手くいくとは考えていないらしい。今までとは違う苦労があるのは確かだろうなぁ。今まではバカ正直に突っ込んでくるギズマにだけ気をつけていれば良かったわけだし。
「あまり心配することはないと思うけどな。上空から広範囲を偵察できるハーピィとゴーレム通信機があれば賊を狩り出すのは難しくないと思うし」
「うむ、私もそう思っている」
俺の見解にダナンも同意する。山林に隠れていてもハーピィの目はなかなか誤魔化せるものではないし、ゴーレム通信機で相互に通信できる強力な部隊があれば賊を狩り出すのは難しいことではないように思う。
「力で解決できるようなことばかりじゃないんですよ……」
この脳筋どもが、とでも言いたそうなジト目でメルティが俺とダナンを睨みつけてくる。ヒェッ……コワイ!
「ええと……コースケもダナンの方針に賛成ということでいいんだな?」
「お、おう……アーリヒブルグみたいな交通の要衝を押さえれば、やっぱり後々楽になると思うしな。内政を後回しにしてでも取れる時に分捕っておいたほうが後々楽になると思う」
戦略シミュレーションゲームとかでも交通の要衝を押さえるのは基本中の基本だしな。相手の方が動員戦力が多いなら尚更だ。
俺達は野戦よりも拠点防衛の方が圧倒的に得意だし、万一奇策でアーリヒブルグを迂回されても、ハーピィの広域索敵能力とゴーレム通信機による情報伝達速度の差で各個撃破という戦術も採れる。
「今はその義勇兵達はどうしてるんだ?」
「アルファ砦に滞在中だ。戦力になる者はできるだけアルファ砦に残して、非戦闘員は護衛を付けて後方に送る予定だ」
「食い物とかは足りてるのか?」
「コースケが作った畑からの収穫もあるし、何とかなるだろう。ベータ砦からも余剰の物資を送る予定だ」
「俺のインベントリにもまだまだ備蓄があるから、いざとなれば俺が走ればいいか」
「それよりもコースケには補給拠点を作ってもらいたいところだな。そうすれば遠い本拠点まで非戦闘員を歩かせずとも済む」
「それもそうか。明日から取り掛かろう」
「そうしてくれ。私とダナンはここに残ってアーリヒブルグの攻略部隊を編成する。コースケはアルファ砦に移動して生産拠点を作ってくれ」
「そっか……」
またシルフィと離れ離れか……仕方ないとはいえ寂しいな。
「アイラはそっちにつけるからな」
「ああ、怪我人や病人がいるかもしれないもんな」
今度はどれくらいの期間離れることになるのだろうか? 街一つ落とすとなると長そうだよなぁ……うーん、寂しい。アイラやハーピィさんがいるから寂しくないということにはならないんだよな。彼女達のことは好きだけど、やっぱり俺にとってはシルフィが一番だし。
「……そんなに寂しそうな顔をするな。決意が揺るぐ」
「仕方ないだろ」
「あのー、お二人さん? そういうのはプライベートな時にやってくれます?」
「ふふふ、羨ましいか?」
「シルフィ? あまり調子に乗ってると……」
ドヤ顔で胸を反らすシルフィにメルティが何か耳打ちをする。その途端、シルフィの顔に汗が浮かんできた。何だ何だ?

「良いのかしら?」
「それだけはやめてくれ!」
「どうしようかなー?」
妙に焦った様子でシルフィがメルティに取り縋ってオロオロし始める。一体何なんだ!? すげぇ気になる!
「あー……会議はここまでだな。コースケ、明日に備えてゆっくり休めよ」
「おう」
何か気まずげな様子でダナンがそそくさと会議室から出ていく。ダナンには何か聞こえたらしい。
「んー、あれが良いかな? それともあれが良いかしら?」
「悪かったからぁ!」
あのシルフィが半泣きである。メルティ、一体どんな弱みを握っているんだ……やはり油断ならないな、メルティは。
◆ ◆ ◆
シルフィとイチャイチャと過ごした翌日、俺とアイラ他魔道士二名と軽装歩兵一〇名、そしてピルナ他ハーピィ二名でガンマ砦からアルファ砦への移動を開始した。
昨日の夜は暫く離れ離れになる俺とシルフィを気遣ってか、アイラ達は俺達を二人きりにしてくれたんだよな。おかげでとても久々に二人でゆっくりと時間を過ごすことができた。具体的に言うと滅茶苦茶甘えてくるシルフィを堪能できた。久々に幼児退行気味だった。可愛すぎて鼻血が出かけたね。
朝起きて冷静になったシルフィの動揺が凄かったぜ。またそれが可愛いんだけど。
「コースケ?」
「ん? どうした?」
「ぼーっとしているみたいだから声をかけた。落ちたら危ない」
「そうだな、落ちたら危ないな。もっとしゃっきりしよう」
「ん」
俺達は馬車に揺られていた。ガンマ砦で鹵獲したものである。三台の馬車に分乗して絶賛移動中だ。馬車はそんなに大きくはなく、二頭立てで速度が結構速い。本来積むべき荷物が俺のインベントリに収納されているせいもあると思うけど。
「このペースなら今日中にアルファ砦に着きそう」
「へぇ、徒歩三日を一日で走り抜けるのか。早いな」
確かに馬車の外を流れる風景はかなり速いように思える。俺の記憶だと馬車ってそんなに速くないイメージなんだけど、この世界の馬は地球の馬よりも強靭なのかもしれんね。
「しかしあれだな、この馬車の振動だけはどうにもならんな」
「コースケのクッションのおかげでだいぶマシ」
ガンマ砦とアルファ砦の間の道は別に平らな石畳というわけでもなければ、舗装されたコンクリートの路面というわけでもない。普通に踏み固められただけの剥き出しの土である。よって、ちょっとした凹凸で馬車がひどく揺れる。クッションがなかったら十分でケツが痛くなりそうな代物だった。
「馬車にサスペンションも何もついてないっぽいしな……まぁそうだよな」
「さすぺんしょん?」
「ばねの力とかで馬車の揺れを抑制する装置のことだな」
「コースケ、作れる?」
「詳しい構造は俺もわからないけど……いや、もしかしたらいけるかもしれん」
馬車にアクセスしたらアップグレードのメニューがあった。
・原始的な幌馬車アップグレード――:機械部品×10 木材×20 鋼の板バネ×8
「いけそうだわ」
「やって」
「いや、走行中はダメだろ……」
走行中にアップグレードとか事故の予感しかしない。馬も光に驚いて暴れ出しそうだし。
「止める」
「そ、そうか」
アイラ的には馬車の揺れが少なくなるというのはそれほどのことであるらしい。ちょっと昼休憩には早いと思うが、ついでにメシも食ってしまうとするか。
アイラの合図で三台の馬車は徐々に速度を落とし、最終的に路肩に停まった。他の馬車に乗っていた面子も馬車の揺れには辟易していたらしく、尻をさすったりしながら降りてくる。
「ちょっとお昼には早いと思うけど?」
「コースケが馬車を改造してくれる。揺れなくなる」
「本当かい? コースケさんがくれたクッションでだいぶマシになってたけど、それは大歓迎だね」
「ちょっと早いけど昼食も取る。コースケ、食料を出して」
「あいよ」
アイラの指示に従ってインベントリから食料パックを出す。
これは干し野菜や干し肉、焼き締めたパンや小麦粉などの食料の他、塩やスパイスなどの調味料をひとまとめにした木箱で、これ一つで一五人分の食事を一食賄えるようにできている。まぁ本来は五人分の食料を三食分まとめただけなんだけど。
これは兵站を効率化するための試作品で、保存の利く兵糧をパッケージングして管理できるようにしたわけだ。
この食料パックの他に鍋とか食器が必要になるが、そちらは兵の装備として支給される予定である。このパックはあくまでも食料だけを供給するものなので。
「調理は私達が進めておくから、コースケは馬車の改造を」
「わかった」
食料パックと鍋や食器を出したら俺は馬車のアップグレードである。馬の世話をする兵に言って馬車から馬を解き放って離してもらう。アップグレードする時に眩しく光るからな。びっくりして暴れられたら俺も馬も危ない。
幸いなことに素材は全部揃っているから、馬さえ離して貰えばアップグレードはすぐに終わる。
「うーん、眩しい」
昼間だというのに辺りが明るく照らされる。直視したら昼間でも目が眩むからな、これ。アップグレードを終えた幌付き馬車の下に潜り込んでどうなっているのかを確認してみる。どうやら車軸と車体の間に金属製の板バネで作ったスプリングが入ったようだった。これでどの程度揺れが少なくなるのだろうか? こればかりは乗ってみないとわからんな。
「できた?」
「とりあえず一台な」
「楽しみ」
いつも無表情なアイラが微かに笑みを浮かべる。アイラの小さな身体にとって馬車の振動は深刻な問題であったらしい。
「あまり期待しすぎるなよ。どれくらいの効果があるかわからないし」
「ん、わかった。少しでも振動が少なくなれば嬉しいから大丈夫」
そういえば、あれだけ振動するような衝撃を受けてもこの馬車の車軸は何故か折れないな? そう思ってよくよく見てみたら車軸は普通に木製だった。ええ? これで折れないの?
「アイラ、この車軸、木製なのになんであんな振動で折れないんだ?」
「魔化した木材に耐久強化と状態修復の魔法を刻んである。だから折れない」
「魔法で強化してあるのか」
「そう。車軸は馬車の部品の中で一番の高級品」
なるほどなぁ。俺のイメージだと馬車の車軸ってよく折れるって感じなんだけど、この世界では魔法で強化してそうそう折れないようにしているわけか。その分車軸の価格は高くなるけど、何本も車軸を買い替えたり、車軸が折れて行動不能になったりするよりは費用対効果が高いというわけだな。
アイラに見守られながら残りの二台もアップグレードを終えたら昼食である。今日のメニューは……これはなんだろう? とりあえず全部ぶち込んで煮ましたって感じの物体に見えるんだが。
「焼き締めたパンは硬いですから、煮込めるならこうやって煮込んで崩して粥にしたほうが食べやすいんですよ」
「ついでに干し野菜と干し肉も煮込んで出汁をとってあります」
「あと、穀物粉で団子を作って入れました」
つまり全部入れのごった煮粥であった。いや、意外と食べられる味だからいいけどさ……でもあれだな、考えてみれば戦場で煮炊きするって言っても、普段食べているような普通の食事をするのは難しいよな。
俺が元いた地球だって、五十年も遡れば軍隊の食事はこれとほとんど変わらないものだったはずだ。
今は煮炊きできるからこうして粥にできてるけど、そうでなかったら硬い焼き締めたパンをコリコリ
まともな食事をどこでも摂れるようにするにはレトルト食品とか、最低でも缶詰くらいは作らないと難しいだろう。今の技術レベルじゃどう考えても無理だ。
「また何か考えてる?」
「どこでも美味しい食事を食べられるようにできないか考えてたんだ」
「難しい」
「そうだな、難しいな。今は無理だ」
いずれは瓶詰めや缶詰、レトルト食品にも挑戦したいがそれには長い時間がかかるだろう。それよりも魔法的な方法で何か解決する方が早いかもしれない。食材を新鮮なまま、大量に運べる道具を作れれば解決するわけだからな。
◆ ◆ ◆
「すごい、揺れが小さい」
「確かに結構マシになったな」
アップグレードによってサスペンションがついた馬車の揺れはかなり改善された。まだ結構揺れるが、サスペンションが無かった時と比べると雲泥の差だ。クッションがあれば気にならないレベルである。
御者をしている獣人の軽装歩兵にも好評で、かなりの快速で馬車が走った。そのお陰か、日が傾き始めた頃にはアルファ砦に到着することができた。
「おおう、人が溢れかえってるな」
「ん、外にまで野営してる」
アイラの言う通り、アルファ砦の外にいくつかの幕舎が建てられていた。どうやらアルファ砦に入りきらなかったらしい。幕舎で野営しているのは解放軍の面々であるようだ。砦内の安全な寝床は難民に譲ったんだな。
難民達の治療に向かうというアイラや魔道士達と別れ、軽装歩兵達と一緒に食糧倉庫に向かう。そこは食料を求める難民達でごった返しており、なかなかの混乱ぶりであった。食糧倉庫に向かうのも一苦労で、軽装歩兵の皆さんが居なかったら倉庫に辿り着けなかったかもしれん。
「ああっ!? コースケさん! 待ってました! 早く、早く出してください!」
「わ、わかったから! 落ち着け!」
丸眼鏡をかけた山羊系文官娘に半泣きで取り縋られた。食料を求める声が多いのに物資が底をつきかけていて精神的に追い詰められていたらしい。
ほぼすっからかんに近い食糧倉庫にインベントリから物資を吐き出していく。主に穀物の入った袋と、イモや野菜の入った木箱、それとすぐに食べられるブロッククッキーの入った木箱などである。あとはギズマ肉が原料の干し肉。ギズマ肉が原料のはずなのに、どう見ても牛か豚の干し肉なのだが気にしてはいけない。俺の能力にかかればこれくらいの理不尽は序の口だ。
それにしても塩だけは残ってたんだな。倉庫の一角に塩の入った陶器製の瓶だけが並んでいるのは何というかもの寂しい感じがしたぞ。
「順番を守ってくださーい! 物資は皆に行き渡るだけありますから、落ち着いて!」
さっきまで泣きそうだった文官衆の娘さんが声を張り上げて難民達に物資を配り始める。軽装歩兵の皆さんも手伝うということなので、俺は外に寝床を建てに行くと言ってその場を抜けることにした。
「よう、お疲れ」
食糧倉庫付近の人混みを抜けたところで声をかけられた。声の方に振り返ると、もっふもふの狐男が一人。久々に見る顔である。
「久しぶり。単身潜入してたんだって?」
「ま、俺はコソコソするのは得意だからな。適材適所ってやつだ」
久々に姿を見るキュービはいつもと変わらず飄々とした様子だった。特に痩せ細ったり、傷を負ったりしている様子もない。本当に上手くやったみたいだな。
「何にせよ無事で良かった。これからの予定は?」
「何日かここで休んだらガンマ砦に行って姫さんやダナンのおっさんと合流だな。偵察に出る予定だよ」
「そうか、気をつけろよ。そうだ、こいつでも飲んでくれ」
「おっ、この匂いは蜜酒か? 悪いな」
「皆には内緒だぞ」
「わかってるよ」
キュービがホクホク顔で蜜酒の入った瓶を抱えてそそくさと去っていく。早速どこかで酒を飲むつもりなんだろう。その後ろ姿を見送り、再び砦の外に向かって歩を進める。そうすると、今度は部下を伴った狼獣人のウォーグが正面から歩いてきた。俺に気付いたのか、片手を上げて挨拶をしてくる。
「久しぶり。大変だったな」
「ええ、まぁ。コースケ殿のおかげで人心地がつけたようですが」
食糧倉庫、すっからかんに近かったもんな。俺のインベントリ内の食料もかなり放出して残り少ないし、真面目に補給をどうにかせんといかん。
「明日すぐに広い農地を持つ補給拠点を作るつもりだから、一週間もすれば余裕も出てくると思うぞ。場所の選定は済んでるのか?」
「残念ながら。ただ、この砦からオミット大荒野に向けては平地が続いてるので」
「割とどこでも良いと」
俺の言葉にウォーグが頷く。ならいっそこのアルファ砦に隣接させて作るか? 最終的にはここも『後方』になるだろうし、そうなるとアルファ砦から警備を出しやすい位置に作ったほうが良い気がする。オミット大荒野側ではなく、メリナード王国側に作るのも良いかもしれないな。土地は余っているようだし、作った農地で働くのはここに今いる難民達だろう。オミット大荒野に農地を拓くよりは安心して過ごせるんじゃないだろうか。
「わかった、ちょっと考えて夜のうちにシルフィ達とも相談してみる」
「お願いします」
ウォーグと別れ、解放軍兵士達が野営している場所から少し離れたところにいつもの臨時宿泊所を建てる。高床式の拠点で安全性が高く、大きめのお風呂もあるから使い勝手が良いんだよね、これ。利用者の声を反映してちまちまバージョンアップしてるし。
多分ハーピィの皆さんとアイラは俺と同じこの臨時宿泊所で寝るだろうから大丈夫だろうけど、他の人はどうするのかな。宿泊所を作るのは簡単なんだが、どうしたものか? なんなら外で幕舎を張っているアルファ砦の駐留兵達にも作ってやれるんだけど……後始末がなぁ。砦の外に建てたままにしとくわけにもいかないだろうし。
とりあえずここまで行動を共にした軽装歩兵や魔道士の皆さんが泊まれる宿舎は作っておくか。臨時宿泊所をベースに、少し大きめに作れば大丈夫だろう……収容人数二〇人くらいになったな。広い分には良いか、うん。
アイラやピルナ達が帰ってきたらすぐに食事ができるように用意しておこうかね。ベッドに布団とかも入れなきゃならんし、建ててからもある程度整備は要るんだよな、これが。
◆ ◆ ◆
結局、生産拠点はアルファ砦の近く、メリナード王国側に歩いて三時間ほどの地点に作ることにした。
聖王国軍がアルファ砦に攻めてきた際に戦場となる可能性があったが、都合二回も俺達の討伐に差し向けた軍団が撃破され、更に砦を三つ奪い取られた聖王国軍がこの上で更に討伐軍を差し向ける可能性は極めて低いだろうと判断されたためだ。
「つまり今の俺達はメリナード王国領で好き放題できるわけだ」
「油断はできない」
「それはそうだな」
上空にはハーピィの斥候も飛んでいるし、一応ここにも三〇名ほどは戦力を配置している。生産拠点の中心には生産者達の宿舎や物資を備蓄する倉庫、それを守る兵舎に防壁も備えた小型の砦も作ってあるし、いざとなればここに篭って防戦すればいい。防戦している間にゴーレム通信機で増援を呼ぶなり、砦の中からハーピィを飛ばして爆撃するなりすれば何とでもなるだろう。多分。
「ところで、アイラが随伴ってのは珍しいよな。こういう時は大体腕っぷしの強い人が護衛につくことが多いのに」
今回の俺の随伴は三〇名の兵と三名のハーピィ、そしてアイラである。腕っぷしの部分は三〇名の兵で補うという判断だろうか?
「アルファ砦にいる人員で一番強いのは私。順当」
「え? マジで?」
「マジ。これでも私は元宮廷魔道士」
確かにアイラの魔法は凄いと思うが、そこまでか? でも、考えてみればアルファ砦にいるのは一般兵が多数で、その他にはキュービかウォーグくらいしかいなかったか。主力はガンマ砦だものな。
「私が本気を出せば一人で聖王国軍の兵を五〇人は倒せる。多分」
「多分なのか」
「接近戦は苦手」
それはそうだろうな、と思う。アイラの身体は小さいし、至近距離で物理的な暴力に
「コースケ、農地はどういう感じにするの?」
「ああ、それな。この拠点の周りにガーッと広く作ろうかと思っているぞ。農地の周りには柵があれば充分なんだよな?」
「ん、オミット大荒野で作ったような分厚いレンガや石の壁はいらない。木の柵とか壁があれば充分」
「それなら材料は周りに沢山あるし、大丈夫だろう」
この辺りは森が近く、街道から少し離れれば森の中である。生産拠点の起点となる砦も街道から少し離れたところに設置した。
「これを全部切り倒すのは大変」
「ふふふ、大丈夫だ! こんな事もあろうかと秘密兵器を作ってある」
そうして俺はインベントリから斧を取り出した。刃が白銀色の金属でできている斧である。
「その斧、まさか……」
「ミスリルで作った伐採斧です☆」
ちなみに必要素材はこんな感じだった。
・ミスリルの伐採斧――素材:ミスリル×4 木材×1
素材は意外と安いんだよね。ミスリルを使うってところと、作成時間が長いところ以外は。ついでにミスリルのツルハシとミスリルのシャベル、ミスリルのクワも作ってある。使用素材は伐採斧と同じだった。
いつ作ったのかって? 夜寝る前に、というか寝室に行く前にクラフト予約を入れておけば朝には出来上がっているさ。俺だって毎晩毎晩抵抗の余地もなくアーッ! ってなってるわけじゃないんだからな。
「コースケ……おバカ?」
「ひどい」
「ミスリルの無駄遣い」
「無駄なんかじゃないぞ。今からこの斧の力をお見せしよう。あと、ミスリル余ってるし」
あの渓谷をただの渓流にするレベルで採掘したからね。塵も積もればなんとやらでミスリルの在庫はダブつき気味だ。ミスリル銅合金やミスリル銀合金に使うミスリルの量なんて高が知れてるしな。
「今度わけて」
「シルフィに聞いてくれ。高額なものらしいし、俺の一存では決められん」
「わかった」
アイラが鼻息をフンスと荒くして気合を入れているのを横目に、俺はミスリルの伐採斧を木に振るう。
「そいやっ」
カンッ、ゴトゴトゴトゴトッ!
「コースケ……」
「いや、便利になっただろう?」
「そうだけど……」
立派な木がミスリルの伐採斧による一撃で多数の丸太になったのを見たアイラがなんとも言えない表情を向けてくる。良いじゃないか、一撃で伐採が終わる斧とかチート級MOD並みの逸品ですよ? 他のミスリル道具だって凄いんだからな。
「とにかくこれで伐採が捗るわけだ」
「でも、切り株は?」
「そぉい!」
伐採後の切り株にミスリルの伐採斧を叩きつけるように振るうと、切り株は跡形も無く粉々に砕け散った。後に残っているのは可愛らしい苗木だけである。
「おお、これを植えればまた木が育ちそうだな」
「……そう」
久々にアイラの目から光が失われている。
良いじゃないか、ツーアクションで木が切り株から根まで含めて処理できるんだぞ? これなら森を切り拓いて農地にするのも楽ちんだな!
◆ ◆ ◆
そう思っていた頃が、僕にもありました。
「はー、ほんと木が多い……」
「チラホラと魔物もくる」
農地を作るためにもまずは木を切り倒して土地を拓いているのだが、やはりそれなりの面積を畑にしなければならないので手間がかかる。一撃で木を切り倒せても数が数だ。
そして、森を切り拓いているのが気に食わないのか魔物達が襲ってくる。ゴブリン、でかい狼、でかい虫、触手の生えた肉の柱みたいなやつ、甲殻類とナメクジを足して二で割ったようなやつ、石の砲弾を飛ばしてくる亀みたいなやつなどなど不思議生物が押し寄せてきおる。
「あの亀みたいな奴はやばかったな」
「ロックスマッシャーはレア。この辺りで出てくるのは珍しい」
流石に分厚い甲羅部分には金属製の板バネを使ったゴーツフットクロスボウでも歯が立たなそうで、どうしたものか? と思ったのだがアイラが雷の魔法を使って一撃で行動不能にした。後は兵が三〇人で囲んで槍でザクザクと頭を突いて仕留めてしまった。哀れな亀である。
「あれは肉が美味しい」
「そうなのか。じゃあ今日の晩飯はあの亀の肉を皆で食おうか」
「ん」
結構大きな亀だったので、全員で食べるだけの肉は採れるだろう。後でインベントリ内で解体しておこう。
三時間ほどかけてかなり広大な範囲を更地にできたので、今度はミスリルのシャベルの出番である。
「これで森の土を採取する」
「? なんで? このまま耕せばいい」
「森の土からは農地ブロックが作れるんだ。農地ブロックを敷いたほうが収穫が圧倒的に早いだろ?」
「うん。でも、ここは荒野じゃなく豊かな森だから耕すだけでも荒野よりは収穫量が多いかもしれない」
「……なるほど、そういう考えもあるのか。じゃあまずは半分だけ掘り返して農地ブロックを敷いて、もう半分はただ耕すだけにしてみよう。それで生育具合を観察したら良い」
「ん、そうするといいと思う」
そういう事になったので、アイラと一緒に森の土を掘り返していく。
「なに、それ」
「ミスリルのシャベルですが」
「おかしい」
うん、一掘りで五メートル×五メートルくらいの範囲が掘れてるね。これ凄いね。
「なんで……?」
「私にもわからん」
キメ顔でそう言ったらアイラに杖で尻を叩かれた。痛いです。良いじゃないか、便利なんだから。
「そう言えば、あの魔化した素材だっけ? あれって集まってるのかね?」
「コースケの付与作業台の材料? あれなら最前線……じゃなくて荒野中央砦に集めてあるはず」
「送ってもらわなきゃならんなぁ……」
「なかなか向こうに帰るタイミングがない」
「本当にそれな」
基本、今の状況だと俺は前線近くに出ずっぱりにならざるを得ないので向こうに戻る機会がないんだよな。本当に馬車でも向こうに送って運んでもらわにゃならん。
「うん? でも荒野で馬車って使えるのか?」
「使えないこともない。ただ、大きな石とかを踏むととても危険だから速度は出せない」
「ギズマもいるしな……どこかでタイミングを見計らって帰るしかないか?」
「こっちで集めるという手もある。商人の中には魔法素材を扱っている業者もいるから、そうした方が早いかもしれない」
「なるほど」
こんな感じで雑談をしながら森の土を掘り返し、掘り返した部分に農地ブロックを設置する。それが終わったら今度はクワの出番である。
「そーれそれそれそれ」
「……」
クワの一振りで一〇メートル×一〇メートルの範囲が一気に耕される。なんか衝撃波的なものが飛んで地面を耕すのだ。これ、結構な威力だし攻撃にも使えるのでは?
と思ってゴブリンの集団が出てきた時に使ってみたのだが、ゴブリン達の足元が耕されただけだった。そしてめっちゃゴブリンに襲いかかられた。危なかった。
「クワは地面を耕すことにしか使えない、と」
「じゃあ、コースケがミスリルの剣を振ったらどうなる?」
「ただの斬撃でしかありませんでした」
いくら理不尽な性能を誇るミスリル装備も、流石に戦闘面では俺に恩恵を与えてはくれないらしい。つくづく戦闘に向いてないんだな、俺は。
「ん、大丈夫。コースケのことは私達が守る」
「お願いします」
全く戦えないってわけでもないけどね。クロスボウも銃も撃てるし、いざとなったら不思議な動きで翻弄することもできるし。でも、やっぱり俺の力は直接戦闘向きじゃないんだなぁ。いや、スキルを振ったり、戦闘系のアチーブメントを達成したりすれば化けるかもしれない。諦めてはダメだ。
実のところ、そんなに切羽詰まってもいないし、痛いのは嫌だし、できれば危ないこともしたくないし、グロも嫌だしというわけであまり直接的な戦闘をしたいとは思わないけど。でもなぁ、シルフィとかアイラとかピルナ達とかが必要とあればその手足を血で汚しているというのに、俺だけ安全なところで敵を殺す武器を作り続けるっていうのもどうかとは思うんだよな。
いや、自分の手も血で汚せば許されるとかそういうことでもないとは思うんだけれどもね。皆に辛くて怖くて嫌なことを押し付けて、自分だけ楽をしているような気分になるんだ。シルフィ達に言わせると、むしろ俺のおかげで皆が自分の故郷や誇りを取り戻すために力を振るうことができているってことなんだけど。
この互いの認識の違いというか、溝みたいなものは立場の違いから来るんだろうな……俺があっち側に立って、逆にシルフィ達がこっち側に立たないと永遠に埋まりそうにないように思える。
「コースケ?」
「ん?」
「大丈夫?」
「何がだ?」
「つらそうな顔をしている。疲れた? 休む?」
「うーん、そういうのじゃないな。後で話すよ」
ここでなんでもないと言って誤魔化すのは簡単だけど、こういう心のしこりのようなものを隠して溜め込むと絶対に良いことが無いんだよな。今日、寝る前にでもアイラやピルナ達に話すとしよう。そう心の中で決めて俺は白銀色に輝くクワを振るい続けるのだった。
◆ ◆ ◆
今日の作業を終えて宿泊施設に戻る。いつも作りを同じにしているおかげで、場所を移動しても我が家って感覚があるのはなんだか安心するな。今日は俺が相談事をするということで、アイラだけでなく生産拠点開拓の支援に来ていたハーピィさん達も全員集合ということになった。
本日のハーピィさんは三名、漆黒羽ハーピィのレイと茶色羽ハーピィのペッサー、同じく茶色羽ハーピィのカプリだ。
入浴と食事を済ませた俺達は籐製の長椅子に並んで座り、まったりモードである。
「それで、今日はコースケはんが何か相談あるって聞いとるけど、どないしたん?」
「うーん、相談するようなことじゃないと思うんだがな」
と、そう前置いて昼間に俺が少しだけ思い悩んだことを包み隠さず告白することにする。俺だって別に戦えないわけじゃないのに皆の後ろに隠れて、その手を血で汚させているのがモヤモヤするのだと。
俺自身の性格的にも能力的にも戦闘に向いている性質じゃないのは自覚しているけど、それでも皆に自分がやりたくないことを押し付けているような気がして後ろめたい気持ちになるのだと。
俺の告白を聞いたアイラ達はしばし考え込んだ。彼女達なりの言葉を探しているのだろう。
「私はコースケの気持ちがよくわかる」
最初に口を開いたアイラはそう言って俺の顔をじっと見つめてきた。距離が近いせいで大きな瞳の中に俺の顔が映り込んでいるのがよく見える。
「私も宮廷魔道士としての力を持っているけど、同時に錬金術師としての力も持っている。身体も小さい。だから、危険な狩りとかには出してもらえなかった」
「アイラが倒れたら怪我人や病人が出た時にどうしようもなくなるから」
漆黒羽ハーピィのレイが静かな声でポツリと呟く。その呟きにアイラは頷いた。
「そう、だからあまり危険なことはできなかった。周りの人がそうさせてくれなかったし、私自身もそうする訳にはいかないと自覚していた。今のコースケと同じ」
「確かに同じだな……どうやって乗り越えたんだ?」
「我慢した」
「ですよね」
非常にシンプルな答えだった。
「気を逸らせて無理に動いても自体は悪化こそすれども好転はしない。自分が前に出て力を振るった時と、今のまま里で皆を助けた時、どちらのほうが皆の助けになるか考えた。そうしたら、どう考えても私は里に留まっていたほうが皆のためになると思った。だから我慢した」
「むぅ……」
俺もそれはわかってるんだけどなぁ。だからってそれで納得できるかと言うとなかなか難しいんだよな。だから悩んでいるわけで。
「負い目を感じているなら、コースケが負い目を感じている人に聞いてみたらいいんじゃない?」
ペッサーが実にシンプルな答えを出してくれる。でもな、皆に『安全圏に居続けている俺ってどう?』とか聞いて回るのはちょっと遠慮したい。
「少なくとも、私達ハーピィにコースケ様が負い目を感じる必要は一切無い。
普段無口なレイが珍しく長い台詞を喋ってくれる。俺を見つめるつぶらな黒い瞳に俺を気遣っているような雰囲気は見られない。本心からそう言ってくれているように感じる。
「せやねぇ、うちもそう思うわ。うちらがこんなに活躍できるようになって、皆に一目置かれるようになったのは全部コースケはんのおかげやし」
「そうだねー。ボクたちは力が弱いから黒き森の大きな獣は狩れなかったし、手先も不器用だから里に居た頃はお荷物だったんだ。狩りの随伴に出ることはあったけど、あの頃は通信機も無かったから情報を伝えても現場に行ったらもう逃げられてるとか、移動してるとかよくあったんだよね」
兎狩りとかなら得意なんだけど、と言ってペッサーが笑う。体重の軽い小型動物ならば上空からの急降下で捕まえる事ができるらしい。全員が大型の猛禽類みたいなもんなのかね。
「コースケが居なかったら私達は今頃黒き森でギズマと戦って討ち死にしていたか、森の奥で魔物にやられていた。今だってコースケのおかげでご飯を食べられているし、安全で清潔な場所で寝られる。それを知った上でコースケに戦いを押し付けようとする人なんているわけがない」
「つまり、気にしすぎ」
「一人相撲やねぇ」
「コースケはどうでもいいことを気にしすぎだと思うな!」
「けっこう辛辣!」
考え過ぎ、考え過ぎかぁ。うーん、そうなのかね。皆がそう言うならそうなのかな。確かに俺は皆の生活にも戦いにも大きく貢献しているとは思う。
「そもそも、コースケは考え違いをしている。前に出て戦っている人達は嫌々戦わされているわけじゃない。望んで戦っている。決して汚れ仕事なんかじゃない。彼らは自分の、皆の誇りを取り戻すために戦いに身を投じている」
「む……」
「そうやねぇ。そもそも、うちらも含めて戦ってる人らは自分達の手足や羽を汚しているとは思っとらんよ。自分のために、皆のために戦こうとるんやし」
「むむむ……」
つまり、皆に『手を汚させている』と考えること自体が間違いだと、そういうことだろうか。
「凄いなって思ってくれたり、頑張ってって思ってくれるのは良いけど、ごめんねって思われるのは何か違うよねー」
「違う」
ペッサーとレイにも言われてしまった。そもそもの俺の考え方が間違っているのか。うーん、難しい。戦争を、それに伴う殺人をどこまで正当化できるものなのかとか、突き詰めるととんでもなく難しい話になりそうだ。
「コースケは考えれば考えるほどドツボにはまる。あまり深く考えずにできることをしっかりしていくのが一番」
「その言い方はまるで俺がお馬鹿さんみたいじゃないか……?」
「……そんなことはない。優しすぎるだけ」
微妙な間があった気がするんだが、俺の気のせいだろうか? ハーピィさん達に視線を向けると、視線を逸らされたりにっこりと微笑まれたりした。気のせいということにしておこう、俺の精神衛生上の理由で。
「難しい話はおしまーい! 久々に私達の番なんだから、仲良くしようね!」
「ん、そうするべき」
「難しいことは考えんと、うちらに身を任せてなぁ」
ペッサーが俺の手を引いて寝室へと誘い、アイラがその後ろから俺を押して、カプリがニコニコしながらその後ろをついてくる。レイは誰よりも早く先行して寝室への扉を開けていた。完璧な連携である。
「……お手柔らかにお願いします」
俺の言葉に彼女達は答えず、ただ微笑みだけを浮かべた。これアカンやつや。
◆ ◆ ◆
ミスリルツールの効果によって開拓は急ピッチで進んだ。たった三日で広大な農地と、農業用用水路網が出来上がったのである。
「コースケの作る水場は反則だと思う」
「今更じゃないか?」
広大な農地を運営する上でネックになるのは農業用水である。当然ながら清潔な水である方が望ましいし、何より農地全体を賄えるくらいの水量が必要である。俺の作り出す無限水源はその二つの条件を簡単にクリアできてしまうからな。
「広げようと思えばいくらでも広げられるのは凄いと言うか、危うい」
「危うい?」
「施政者にとってはコースケを手中に収めている者を殺してでも奪い取る価値があるということ」
「やだこわい」
「しかもコースケの作った畑は一週間で収穫ができる。それは作物にもよるけど、一ヶ月で二年分の収穫が可能になるということ。作物が余れば他所に売れるし、畜産にも使える。農業面の能力だけを見てもコースケの価値は計り知れない」
「なるほど」
そう考えると俺の能力は確かにとんでもないな。金の卵を産む鶏……いや、金貨を吐き出し続けるマーライオンみたいな? 我ながら例えが汚いな。
「聖王国にコースケの存在が知られたら何が何でも奪いに来るかもしれない。コースケの使う説明のつかない力は神官や聖人の起こす奇跡に性質が近い」
「マジで?」
「マジ。だからコースケの存在は何が何でも隠す必要がある」
「無理じゃね?」
俺がこの生産拠点を作ったということは解放軍中に知れ渡るだろうし、いずれは解放軍に属さない人もここを訪れるだろう。人の口には戸が立てられないと言うし、俺の存在が聖王国にバレるのは時間の問題だと思う。
「うん、無理。だからコースケの身辺警護にはより一層気をつけなければならない」
そう言ってアイラが俺の腰にヒシっと抱きついてくる。
「アイラさん?」
「身辺警護」
「あ、そっすか」
何かが激しく間違っている気がしてならないが、アイラに抱きつかれるのは俺的にウェルカムなのでこのままにしておこう。ちょっと歩きづらい上に解放軍の兵士の皆様からの生暖かい視線が突き刺さるが、気にしてはいけない。
生産拠点の整備が終わった時点でアルファ砦には通信を送っているので、今日中にこの生産拠点で働く人々がここに到着するはずである。
この生産拠点の収容人数は五〇〇人となっているので、この前集まってきた人員全てをここに収容することはできない。残りの半分くらいの人数は後方の中央拠点や本拠点に送られるはずだ。
本拠点や中央拠点では水車動力や魔法動力を使った加工機械や金属精錬炉が稼働し始めたらしく、それを扱うための職人が足りないそうだ。なので、残りの人員というのは概ねそういった技能を持つ人やその家族である。
それと、本拠点や中央拠点から各拠点やシェルター間を繋ぐ街道の整備が始まっているらしい。せめて馬車くらいは移動できるようにということで、土魔法を使える人員を投入してちまちまと進めているのだそうだ。俺がそのうち駆り出されると思っていたんだが、向こうでやってくれるならそれに越したことはないよな。全部が全部俺がやるのもどうかと思うし。
「そういえば、アーリヒブルグへの侵攻はどうなってるんだ?」
「ん、もう編成を終えて明日出発するはず」
「そうか。今回は俺は行かなくて良いのかね?」
「コースケ抜きでやるって話。アルファ、ベータ、それに中央砦からも戦力を動員した総力戦」
「そっか……大丈夫かな」
俺の知らないところで知り合いの誰かが死ぬかもしれないと思うと不安になる。俺がその場に居ればなんとかなるかもしれない、と思ってしまうのだ。
「クロスボウと航空爆弾、手投げ弾もあるし大丈夫。中央砦からレオナール卿も行っているし、ダナンもザミルもいる。シルフィを必ず守ってくれる」
「そうだと良いが……」
「もどかしいかもしれないけど、時には後方でどっしりと構えているのも大事。コースケが後ろにいるから皆安心して戦える」
「ああ、そうだな」
それでも落ち着かないものは落ち着かないな。皆無事でいてくれると良いんだが。
◆ ◆ ◆
Side:シルフィ
後方の拠点や各砦から戦力を動員し、編成を終えた私達はアーリヒブルグへと向けて進軍を開始した。
戦力はキュービが連れてきた旧メリナード王国民からの志願兵が三〇〇、後方で訓練を終えて合流したクロスボウ兵と今まで私達と行動を共にしていたクロスボウ兵が合わせて五〇〇、精鋭の重装歩兵が三〇に、軽装歩兵が五〇、元冒険者で構成される遊撃兵が一三〇だ。
キュービが連れてきた旧メリナード王国民の中に元中堅ランク以上の冒険者が複数居たために少し増員された。その他にはハーピィ航空隊から一〇名、魔道士五名、銃士隊五名といったところか。合わせて一〇〇〇名ほどの軍になっている。
今回はコースケが随伴していないので、しっかりと兵站を整える必要がある。幸い、補給物資に関してはコースケが用意してくれたものがあるので、後は運ぶ手間だけだ。これに関しては各砦から鹵獲した馬車を使うことで何とかした。
アーリヒブルグへと至るまでにいくつかの街を経由するので、それらを制圧して更に馬車を徴発するつもりである。徴発と言っても、無理矢理奪うのではなく交渉して正当な対価を支払うつもりだが。その辺りはメルティに任せておけば問題ない。
ちなみに、志願兵三〇〇名は基本的に後方で
「姫殿下、間もなくミッターズタウンです」
「ふむ……敵の動きは?」
「撤退する気は無いようです。住民にも武装を強要して抗戦する構えですね。しかも住民を前に出しているようです」
「訓練を積んでいない民をか……」
聖王国軍のやり口に胸が悪くなりそうだ。早速だが、銃士隊の出番になりそうだな。
「敵兵の数は三〇人ほどだったな?」
「はい」
「民兵には手を出さず、聖王国軍の正規兵だけをやるぞ」
「御意」
ミッターズタウンは元は黒き森のエルフと交易をする商人達が安全に寝泊まりするためのキャンプ地だった場所だ。それが宿場町になり、周りに農村が開拓され、その作物が持ち込まれるようになり、宿場町は町となった。そんな歴史を持つ町だ。
警備に就いている聖王国の兵の数は五〇名、それに一〇〇人近い徴用民兵を加えて町の門を閉め、防壁上に戦力を展開しているようだ。見たところ、遠距離攻撃ができる弓兵の
ピルナ達ハーピィの偵察によると、レンガや石などを防壁に集めているという話だった。恐らくは弓矢を使えない者達は投石で応戦するつもりなのだろう。射程でも威力でもクロスボウのほうが上なので、完封することは簡単だが……徴兵された民兵を傷つけるのは本意ではないな。
「全ての門を封鎖しろ。その上で降伏勧告を行う」
「はっ」
私の指示によって兵達がミッターズタウンを包囲し、町を封鎖した。兵糧攻めなどという気長な戦法を採っている時間はない。私は風の精霊に呼びかけ、ミッターズタウン全域に声を届ける準備を整えた。
「聞け! ミッターズタウンの住人達よ。我々はメリナード王国解放軍、私はそのリーダーを務めるシルフィエル=ダナル=メリナード! 黒き森の魔女、と言ったほうが諸君らには通りが良いかもしれんな」
私の宣言を聞き、ミッターズタウンからざわめきのようなものが聞こえてくる。
「我々の目的はメリナード王国領の解放と、不当に虐げられている亜人達の解放である。聖王国の軍人には容赦しないが、何の罪もない民草を傷つけ、町を焼き、その財産を略奪するつもりはない」
徴用兵達の間に動揺が広がっているようだ。聖王国軍の指揮官が騙されるなと顔を真赤にして喚き、兵達を叱咤している。この状況ではそれは悪手だと私は思うが。
「無理矢理徴兵された民兵諸君も同様だ。武器を捨て、戦闘の意思を放棄すれば傷つけることも、捕らえることもしない。聖王国軍の将兵に関しても、抵抗さえしなければ捕虜とし、武装解除の上で無事解放することを約束しよう」
聖王国軍の正規兵達の間にも動揺する者が出始めたようだ。互いに目を見合わせ、武器を下ろす者が出始める。
「指揮官を狙撃しろ」
「はっ……やれ」
「了解」
ガガガガガーン! と連続してボルトアクションライフルの発砲音が響き、城壁上で兵達を叱咤していた聖王国軍士官達の頭が吹き飛ぶ。飛び散った血と
「兵の数を見ても質を見ても諸君らに勝ち目はない。半刻の猶予を与える。降伏の意思あらば聖王国の旗を降ろし白旗を掲げ、門を開放せよ。そちらの対応が無い場合、我々は攻撃を開始する。賢明な判断を期待する」
声を拡散していた風の精霊魔法の効果を終了させて腕を組む。ここからは暫く待ちの一手だ。
ミッターズタウンは程なくして降伏を選択した。銃士隊により指揮官を殺害された聖王国軍の士気が地の底まで落ちた上に、町への略奪を行わないことを約束したのが良かったのかもしれない。
解放軍の兵士達はミッターズタウンの街に入り、軍事施設を制圧して接収した。軍事施設に保管されていた物資も当然ながら接収する。
「ダナン、兵達にはくれぐれも問題を起こさないように厳命するように」
「お任せください。場合によっては何人か見せしめにしましょう」
「そうならないようにしてくれと言っているんだ……いいな?」
「御意」
ダナンがニヤリと笑いながらとんでもないことを言い始めたので、しっかりと釘を刺しておく。
メルティは護衛にザミルを伴って嬉々として街に繰り出していった。きっとこの街の商人達から馬車や補給物資を調達しに行ったのだろう。砦や軍事施設から接収した現金やコースケから事前に受け取っておいた宝石があるから、それを使って手に入れるのだと言っていた。
「とりあえずは何事もなく街を制圧できて良かったのでありますな」
「そうだな。この調子でアーリヒブルグまで行ければ良いのだが」
「吾輩はそう上手くは行かないと思うのであるな」
レオナールの言葉はすぐに現実となって我々の目の前に立ちはだかった。
「徹底抗戦の構えであるな」
「そのようだ」
アーリヒブルグに向けて進撃して更に三日。場所的にはガンマ砦から五日といったところか。アーリヒブルグの手前にあるメイズウッドの街に聖王国軍は迎撃戦力を集中させていた。
「敵戦力は二〇〇〇ほど、か」
「完全に籠城して防衛戦に徹するつもりのようですね」
メイズウッドの街は良質の木材を産出する森の中に作られ、林業と木材の加工で発展した街だ。近くの森から魔物が湧き出すこともあるため強固な防壁を備えている。今回はその防壁を利用して私達を撃退しようとしているわけだ。
「降伏勧告に従うつもりはない、か」
ミッターズタウンの時と同様に降伏勧告を行ったが、今回は降伏するつもりはないようだ。
「徴兵された民兵が居ないのがせめてもの幸運であるな」
「そうだな。まずは射撃戦で圧倒するぞ」
「御意。クロスボウ兵! 前へ!」
風の精霊に呼びかけて強力な追い風を吹かせ始めると、五〇〇名のクロスボウ兵が前に出て射撃を始めた。こちらのクロスボウ兵の一斉射が防壁上の聖王国軍兵達を貫き、聖王国軍兵の放った矢は強い向かい風に煽られて失速する。何本かはこちらのクロスボウ兵に届き、多少の負傷者は出たようだが命に別状のある者は居なそうだ。
十分もしないうちに敵方の応射はまばらになり、防壁にすっかり隠れてしまった。とりあえず、射撃戦はこちらの一方的な勝利だな。
「やはりクロスボウは凄いな。射撃戦で負ける気がせん」
「そうですな。しかし、籠もってしまいましたね」
「仕方あるまい。いつもの手で行くぞ。ハーピィ達を出撃させろ」
「攻撃目標はどうしますか?」
「敵兵の殺傷を優先するように伝えろ。施設や民間人への被害は極力抑えるように。それと、誰一人落ちるなと」
「承知」
ダナンが私の傍を離れていく。
「近くに居なくてもお前は私達を守ってくれるな……コースケ」
両足に航空爆弾を装備したハーピィ達が空高く舞い上がっていく。じきに彼女達が聖王国軍の将兵達に死の雨を降らせ始めるだろう。そうなればこの戦いの趨勢は決する。
この辺りでは破城槌を作るための木材に事欠かないからな。戦闘が始まる前から指示を出しておいたから、今頃は輜重部隊の兵達が大木を切り倒し、破城槌を完成させている頃だろう。防壁の防衛戦力をハーピィ達が
コースケが居ればしこたま門を爆撃して門自体を爆破するという手もあるのだが、コースケが同行していない今、貴重なハーピィの航空爆弾を湯水のように消費することはできない。
ハーピィ達による爆撃が始まった。空気を震わせるような爆音が何度も鳴り響き、解放軍の兵士達が歓声を上げる。
「今回もハーピィ達の武功が一番でありますな」
「彼女達は自分達の武功ではなく、コースケの武功であると主張するだろうがな」
「そうでありますな」
我々解放軍にとって、コースケは正に生命線だ。それと同時に、致命的な急所でもある。
「今後、コースケはずっと安全な後方に置くのでありますかな?」
「そうだな。私はそのつもりだ」
「コースケはきっと良い顔をしないと吾輩は愚考するのでありますな」
「私もそう思う。だが、前に出して万一があるとな」
「後方に置いておけば安全、というわけではないと思うのでありますな」
「では、レオナールはどうするべきだと?」
私の質問にレオナールは肩を竦めてから答えた。
「常に姫殿下の傍に侍らせておくのが一番だと思うのでありますな。それが一番安全で、二人とも幸せでいられると思うのであります。吾輩はそうしなかったことで失敗したのでありますな」
レオナール卿は聖王国軍との交戦の中で細君を失っている。彼の領地はメリナード王国軍の本隊を迂回した聖王国軍の別働隊に攻められ、その際に細君は最後まで剣を振るって果てたのだと。
「前向きに検討しておく」
「そうすると良いと思うのでありますな。コースケが居れば食事の質も上がるので」
呵々と笑いながらレオナールは後方から運ばれてきた破城槌の方に歩き去っていった。ザミルとまた一番槍争いでもするのだろう。
「コースケ……待っていろ」
このメイズウッドも程なく落ちるだろう。そうすれば、アーリヒブルグはもう目と鼻の先だ。アーリヒブルグを制圧すれば解放軍も一息吐けるようになる。それまでの辛抱だ。
「まだ、私は頑張れる」
ペイルムーンの柄を握り、ハーピィ達の爆撃でボロボロになったメイズウッドの防壁を見上げる。
「突撃開始! 聖王国軍に目に物見せるぞ!」
オオッ、と声を上げる兵達と共に、城門へと向かう。まずはここを落とす。それに集中しよう。