プロローグ〜メリナード王国領でサバイバル〜
やぁ、異世界サバイバーのコースケです。今、俺はオミット大荒野を抜けてメリナード王国領に入っています。ついでに、オミット大荒野との領域境にある三つの砦のうち、二つを陥落させた直後です。
ここまでの砦攻略戦を大雑把にまとめると……砦に対するハーピィの航空爆撃の有効性がえげつない、この一言に過ぎるね。うん。
砦の中に密集している敵兵に爆弾を落とせばそれだけで大惨事だし、火薬量を多めに作ったハーピィ用の航空爆弾は石の城壁を難なく破壊する。頑丈な城門だって何発か落とせば粉砕できるわけだから、負ける要素がない。
そもそも、ハーピィの航空爆撃を使わずとも、強力なクロスボウによる射撃戦でもこちらが圧倒できている。射程も命中精度も攻撃力もこちらの方が上だし、更にシルフィの精霊魔法による支援と、俺の作り出す防御壁が加わるとこちらに負ける要素がない。
聖王国軍にしてみれば砦を使って戦う優位性を潰された上に、砦そのものが自分達の棺桶になるような状況だ。しかも航空爆撃に至っては未知の攻撃方法で、運が悪ければ指揮官が対処法を考えつく前に吹き飛んでしまうというおまけ付き。
そういうわけで、俺達は最小限の犠牲で敵に大損害を与えつつ、電撃的な速さで次々と砦を攻略しているのであった。
◆ ◆ ◆
一日の休養を取った後、俺達は三つあるうちの二つ目の砦であるベータ砦にも防衛戦力を置き、ベータ砦を発つことにした。まとめ役として残ったのは元重装歩兵の熊獣人、ゲルダだ。
「何かあったら連絡しますから、助けに来てくださいねぇ」
「うむ。大丈夫だとは思うが、連絡は欠かさないでくれ。ここは任せるぞ」
「はい」
守りを任されるゲルダと俺達解放軍のリーダーであるシルフィが出発前に声を掛け合っている。ベータ砦には食料も矢玉もハーピィ用の航空爆弾も余裕を持って配備してあるから相手が数千人単位の大部隊でない限りは撃退できるだろう。高所を取ったクロスボウ兵一〇〇名の防衛力は生半可な攻撃ではどうにもできないし、砦を落とすための攻城兵器の類はハーピィの航空爆弾で間違いなく破壊されるだろうからな。
「お気をつけてー」
クロスボウ兵一〇〇名と重装歩兵の半数である二〇名、それとハーピィ航空隊から五名をベータ砦に残して俺達はアルファ砦へと向かう。これで本隊の俺達の戦力は約三八〇名となった。前回の戦いでは死者も出ているので、もう少し少ないか。
「やっぱり頭数が足りないよなぁ」
「こればかりはな。時間が解決してくれると願うしかないだろう」
拠点を制圧し、維持するにはどうしても兵力が必要だ。いくら圧倒的な力で聖王国軍を倒し、砦や街などの拠点から追い払ったとしても、その拠点を実効支配して周辺地域に睨みを利かせるだけの人員が居なければあまり意味がない。
「現状でも砦を占拠するだけで手一杯だものな」
「周辺の治安を維持できるくらいの戦力となるとな……」
「これまでの戦いで軍馬をそれなりの数
騎兵とは言わなかったな。まぁ、騎兵は訓練に時間がかかるというしな。俺達の現状を鑑みるに、単に軍馬を足として使っていざという時は下馬して戦うというスタイルの巡回兵ってのが限界だろう。
今の俺達には騎兵を育てるだけの余裕がない。特に時間的な理由で。軍馬の維持に必要な飼料とかは問題なく用意できるだろうけどな。作物も草も育てようと思えばいくらでも育てられるし。
領域境の三つの砦を占拠した後の事を話し合いながら俺達はアルファ砦へと向かう。
とりあえず、大きく分けて二つの方針が打ち出された。
一つは、このまま周辺の拠点を制圧していって、できるだけ俺達の支配領域を広げるという方針だ。
この方針のメリットは、メリナード王国の領土を回復する事によって旧メリナード王国民からの求心力が高まることと、既に開発済みの田畑や街道、そして街を得られること。
デメリットは属国化された後にメリナード王国領に移り住み、またこちらで生まれた新メリナード王国民からの強い反発が予想されること。
「私としては新メリナード王国民達を弾圧するような方針は採りたくないのだが。我々の敵は聖王国とアドル教であって、
馬車に揺られながら難しい表情でシルフィが話を切り出す。彼女は普通のエルフに比べると浅黒い肌を持つエルフで、なんでも聞くところによると戦闘に特化したエルフの戦闘種とでも言うべき存在であるらしい。ちなみに初見ではダークエルフと呼んで顔面に蹴りを貰った。
そんなシルフィも今は俺と
「それはそうでしょうが……それでは旧メリナード王国民が納得しないでしょう。全くお咎めなしとはいきません」
そう言ってシルフィに負けず劣らず難しい表情をしているのは牛獣人のダナンだ。牛獣人と言っても、牛っぽいのは頭の角と、立派な体躯くらいで、ほとんど角の生えたガチムチのおっさんって感じだな。彼は二十年前、聖王国によってメリナード王国が攻め入られた時には若手の近衛騎士であったらしい。
今は解放軍の将軍として軍事方面でシルフィの片腕として働いている。俺の同僚といったところだろうか。
「そうだろうなぁ。俺もそう思うわ」
そして俺もダナンの言葉に同意する。
旧領を回復し、旧メリナード王国民を解放する。そして亜人を奴隷のように扱って富を築いた者達に相応の対価を払わせる。これは必要なプロセスだろうと思う。何せメリナード王国が聖王国に攻められて敗北し、属国となって二十年だ。その間奴隷として扱われ、酷い目に遭った亜人達の心に降り積もっている憎悪の深さは計り知れない。全くお咎めなし、とはいかないだろう。
「とはいえ、二十年分ですからね。まともにやると殆どの新メリナード王国民が破産すると思いますけど」
羊獣人のメルティもまた難しい顔をする。彼女は羊のような巻角を頭に生やしている美人さんで、いつもは身体のラインがあまり出ない服を着ている……のだが、それはもうシルフィにも負けないほどの抜群のプロポーションを誇っていらっしゃる。え? そんな話はどうでもいい? 重要だと思うんだが。
彼女は元々メリナード王国で内政官をしていたという女性だ。つまり、事務処理や統治関係のプロである。二十年前にそのような職に就いていたということは、彼女はどんなに若くとも現在の年齢は四十前後であるはずなのだが、非常に若々しい。下手すると二十歳前に見えるくらいに。
普通の羊獣人は人間とそんなに寿命が変わらないそうなので、俺は彼女が羊獣人ではないのではないかと睨んでいる。だって、彼女はエルフの戦闘種たるシルフィを腕力でねじ伏せられるほどの剛力の持ち主なのだ。
羊獣人ではなく悪魔系の亜人だと言われても俺は驚かない。こんな事を言ったら俺も物理的にねじ伏せられそうだから絶対に口にしないけどな。女性に年齢と腕力の話は鬼門だ。
「解放されてもほとんどの亜人は貧乏。私財を没収された人間達も貧乏。貧乏人だらけの国になる」
特に難しい表情もせずに淡々と呟くのはアイラだ。彼女は単眼族という種族の亜人で、小さな体躯に大きな一つ目が特徴の可愛らしい女の子である。しかし、彼女は二十年前のメリナード王国で年若くして宮廷魔道士の地位に上り詰めていた。天才であり、どう見ても幼いのに俺より歳上という色々とファンタジーな存在である。
一見無表情でクールに見えるが、とても情が深く、そして包容力も併せ持っている女性だ。シルフィ同様、俺とはそういう関係で……あー、はいはい、言いたいことはよく分かるよ。こんな小さい子に? マ? とか言いたいんだね? よく分かるよ。
だが彼女は単眼族、エルフに近いほどの長寿を誇る長命種なのだ。小さく見えるかもしれないが、立派なレディなのである。だから何も問題はない。良いね?
「そんな状態で健全な国家運営ができるか? 私は無理だと思うが」
「勿論そうでしょう。その辺りは上手くバランスを取ってやるしかないでしょうね」
「要は、私達に丸投げってことですね。わかります」
メルティに笑顔を向けられ、ダナンが顔を引き攣らせる。百戦錬磨の元近衛騎士もメルティのダークネススマイルを前にして平常心を保つことは難しいらしい。
「もう一つの方針の方が現実的に思えるな。コースケには負担をかけるが」
「まぁ、やれって言うならやるけどね」
もう一つの方針とは領域境の三つの砦を維持し、周辺の街や鉱山などを勢力下に置きつつ旧メリナード王国民を集めて勢力の拡大を目指すというものだ。同時に、オミット大荒野を開拓して新天地を拓く。こちらはとにかく手堅い一手と言えるだろう。
「実際のところ、限界まで勢力を広げようにも支配するための兵力が足りないだろう?」
「それはそうですね。本拠点や最前線拠点で力を取り戻し、解放軍に参加したいと考える人々はまだいるでしょうが……精々あと三〇〇も増えれば良いところでしょう。治安維持に加えて聖王国軍に対応するだけの兵力を、と考えるとこれ以上の勢力拡大は厳しいです」
「最終的な着地点を決めるのが大事」
「メリナード王国領の全てを取り戻すのが最終目標であることに変わりは無いがな」
そう言いながらもシルフィは再び難しそうな顔をする。実際に二十年もの長きに渡って実効支配されている領土を取り戻すというのは並大抵のことではない。聖王国がそれをやってのけられたのはそれだけの人口を彼の国が有していたからである。
調子よく勝ち進んではいるが、俺達は所詮一五〇〇人足らずの弱小勢力なのだ。
「結局は頭数が足りないって問題にぶち当たるんだよな」
「仕方がないな、こればかりは」
シルフィだけでなくダナンやメルティも苦笑いを浮かべる。俺達の弱点だよなぁ、これは。
「暫くは領域境の三つの砦を基点として勢力の拡大に努める他無いな」
シルフィの言葉に全員が頷く。まぁ、その前に第三の砦を落とさなきゃならないんだけどな。アルファ、ベータと来たら次はガンマかね。ガンマ砦の戦いは一体どうなることやら。