残り六時間──。

 五〇メートルほど先の場所で、もう一つのデモン・イレブンが死力を尽くしているのが見える。

 それを見て。オレ達もオレ達でラストスパートをかけた。

 オレは、今まで以上にげきとうが続く戦場の中をすりけ品出しし。

 九条はサブバイトリーダーとしてかんぺきにそれをフォローし。

 店長代理はラジオで宣伝することによりきよう的な数のおでんを売り。

 勇気は向こうに無くてこっちにある最大の収益源──デモン・デリバリーでガンガン売上げをたて。

 白雪は万引き犯をげき退たいしつつ、このいそがしさでオーバーヒートしそうな店の機器の調子をフルにメンテナンスし、戦える状態をどうにか保ってくれていた。

 オレ達は死力を尽くした。

 そして、向こうも死力を尽くした。

 そしてそのままおたがい最後の最後まで出し切り、何のいもなくやりきったところで──

 期限である、一四日目がしゆうりよう

 運命のジャッジが告げられる、0時ちょうどがやってきた。


    ※


「つ、つかれた……」

 きゆうけい室。そこに、もはや灰となりかけたオレ達五人の姿があった。

 時刻は午前六時前。

 結局──あれからも、お客がれず、なんだかんだ朝六時ごろまでオレ達はがんばっていた。

 今はさすがに小休止という感じで波が途切れたので、店をユグドラとシラユキ一号に任せてオレ達はいつせいに休憩をとることにしたのだ。

 勝負のジャッジの行方ゆくえを、まだオレ達は聞いていない。

 分かり次第すぐAMが電話くれるといってた気がしたんだけど、集計が難航してるのかまだ電話が来ていなかった。

 自分達で、ある程度数字を集計して勝敗を予測することもできそうだけど……そんなヒマなかったし。まぁ、もうそれはいいかな、とも思う。

 全部出し切ったんだ。ここまで来たら、結果を教えてもらうのを待とう。

 勝ちたいけどね。

 ここまで来たら、勝ちも欲しい。

 一時的なものとはいえ──ここまでできたんだ。こんないい商売するコンビニを──オレは、これからも続けていきたい。そんな気分になっていた。

 トゥルルル!

 その時だった。

 とうとう──店長デスクの上に置かれていた、店の電話が鳴った!

 AMだ!

「お願いします!」

「出番よ、店長代理!」

「にゃはは、たのんだぜ、真壁サン」

「しっかりやって下さいね」

 全員に送り出されて電話の前に押し出されたのは店長代理だ。

「マジかよ……!? さすがにきんちようするぜぇ……!

 いいながらも、受話器を取り、スピーカーモードにえる店長代理。

 すると、受話器の向こうから聞こえてきたのは──

『よう』

 ──AMのものではない。女の人の声。

『みんな聞いてっか?』

「この声……!」

「もしかして……!」

 その電話の声を聞いたしゆんかん、もともといたデモン・イレブンのメンバー全員が目を見開いた。

「もしかして……〝せんぱい!?

 ザワつく休憩室。

『そ。いや、昨日AMから聞いて、ラストのほう、かんカメラの映像から、両方の店のこと見てたんだよ。今、AMと一緒にいるわ』

「マ……マジですか!?

 久しぶりに聞いた〝先輩〟の声が、驚きと共にとてつもなくなつかしく胸にひびく。

『勝敗は後からAMに告げてもらう。私もまだあえて聞いてない。とにかく、まず、お前らに一言いいたくてさ』

 そして、〝先輩〟は、電話の向こうでニコッと笑ったことを感じさせる声で、

『感動したよ。お前らすげぇぜ。ほんっっっと成長したな!』

 うれしそうにそういった。

『まず真壁さん』

 そして〝先輩〟は店長代理にいう。

「え? お、おう?」

『あんたよくやってくれた。見てたぜ? なんだかんだいいつつ……透やみんなをカバーしてくれてたんだろ?』

「はぁ? いやぁ、別に俺は……」

 店長代理はめずらしく照れた顔で頭に手をやっていたが、

『ただ巻き込まれただけなのに、あんたは立派に大人の役割と、店長代理の仕事やってくれたのがわかった。透達がそこまでいけたのは、絶対あんたがみんなをフォローしてくれたからだ。私はもう関係ないんだけどれいいわせて下さい。ありがとう、真壁店長代理。あんた男だよ』

 そのままつうめちぎられ、ますます赤くなって絶句していた。

 うおー珍しい。確かに、店長代理を普通にここまで褒める人も、あんまりいないからな……。あの幽霊船のゆりかごの女の人くらいか。

『勇気。お前もえらかったなー、相変わらずレジくそおそいけど。さりげなくみんなに目ぇ光らせて、ぜつみようのタイミングで、お客さんや仲間に声かけてたな』

「にゃははは! やめてくれよ先輩、なんかこそばいぜー」

『お前のそういうとこ、ほんとデモン・イレブンにとって貴重だと思うぜ? お前みたいなやつ、一人いると店の空気全然ちがうからな』

「にゃははー、あーもぅ、ほんと照れるぜー」

 勇気が暑そうに顔にパタパタ自分の手で風を送りながらいう。

 これまた珍しい。さすが〝先輩〟がからむと、みんなだんオレ達同士で見せ合ってるのとは違う顔を見せる。

『塔子も。おつかれだったな』

 そして〝先輩〟は次に白雪にいう。

「先輩……!」

『お前、最年少なのにほんとよくやったよ。なんだかんだ、気ぃ張ってたんだろ?

 終わったらちょっと休め。店の機械のことは、私が他のメンバーに口頭で教えて整備させとくからよ』

「う、う……うわーん! せんぱぁぁぁぁぁい!」

 労いの声をかけられた白雪は一気に何かがけつかいしたように号泣した。うおお……!

 ま、そ、そうだよな。オレ達、白雪にはんじゃない負担かけてたからな……! バイトの仕事以外の面でも。

 しかも忘れがちだけど、この子最年少なんだよな。確かに〝先輩〟のいう通り。このそうどう落ちついたら、ちょっと休んでもらお。

『で、後はもちろん、透と麻衣だな』

 そして〝先輩〟は、オレと九条に同時にいうのだった。

『よくやったぜ。で、どうだ? ちょっとはわかったか?

 なんで私が、麻衣をサブに、透をバイトリーダーに回したか』

 そういわれて、オレと麻衣は顔を見合わせ、

「あのー。自分がどうかは分かりませんけど……」

 まずオレは、

「九条は、確かに、適性あると思います。サブバイトリーダーの。文句言いつつ冷静だし。ちがったことすれば、九条が止めてくれるって確信があったから……オレ、いろいろ大胆に動けました」

「私も……」

 九条はいった。

「自分のことはよくわからないけど……。透は、バイトリーダーに向いてると思います。アホだけど、一番大事なことが何かは、店の人間で一番わかってるやつだから」

『そうそう。まぁそれが全部じゃないけど。そういうことだよ』

〝先輩〟はうなずいてくれた。

『透は、確かにアホだけど、いざという時には集中力発揮して、店を良い方向に持っていけるアホさ。

 片や麻衣は、ゆうしゆうだけど、その実、その力は本当はだれかのフォローに使うほうが向いてるのさ。だってお前は、誰よりめんどう良くて。誰より優しい性格なんだからさ』

「うおおお……!」

「先輩……!」

 そんな言葉をかけられて、オレと麻衣も思わずらくるいした。

 なんなんだよ、もう……!

 最後の最後に出てきて、こんな存在感示して。

 オレは確信する。たとえ今日の勝負の結果がどうなったって、オレ、人間力では、しようがい絶対〝先輩〟に勝てないわ……!

 だってこの人、人としてカリスマ性ありすぎるもん。

『ま、そんな感じで。まぁ正直、オペレーションの部分はおおはばに改善の余地ありだけど……お前らの全力、ちゃんと見届けたぜ。

 あとは、まぁ、結果だな』

〝先輩〟はいった。

『私個人としちゃ、お前達に勝ってて欲しいけど。まぁこればっかりはどうなるか。

 じゃ、ぼちぼち、AMのバカに代わるわ。絶対勝ってると思うけど。結果、聞いてみようぜ』

 いいながら、〝先輩〟は、AMに電話をわたした。

『チッス。AMだ』

 軽い感じでAM。

『てか……お前、相変わらずだな……』

 しかしその前に、AMは、〝先輩〟に苦言をていした。

『サクッと登場して。いつしゆんでオイシイとこもっていきやがって……昔からお前は……』

「え?」

 その会話を聞いて、オレ達は首をひねる。

「昔から……? あれ? 〝先輩〟とAMって、元々知り合いじゃないですよね? この前知り合ったんですよね?」

 気になって、思わず電話に向かっていってしまうオレ。

「この前、〝先輩〟からAMに電話いって……それが初対面だってAMは……」

『はぁ? 何だそりゃ? おいおい透、そんなん……ウソに決まってんじゃん』

 しかしオレのその言葉は、電話の向こうにいた〝先輩〟にあっさり否定された。

『だってこいつ。

 私がデモン・イレブンでそっちの世界に転移した時。

 いつしよにその店で働いてた……当時のバイト仲間だったんだからな』

「え……ええええええ!?

 もしかしたら。この異世界に来て以降、一番かもしれないきようがくが、事務所にれた。

「はあ!? この店のバイトだった!? AMが!?

「そ、そうだったんですか……ええええ!?

「ちょ、ちょっと待ってよ……じゃあなんで私らにあんなキツかったの!? 異世界に来たっていってるのに〝あっそ〟みたいな感じで……」

『あー、それこいつなりの親心だから。たぶん、より成長させようと思って、冷たくあたってたんだよ。変わってねぇよなその演技力ないクセににくまれ役買ってでるとこ。〝虫すらドギマギさせる〟チャラ男君よぉ』

 解説してくれる〝先輩〟。あれ、〝虫すらドギマギさせる〟チャラ男って、勇気が教えてくれた当時の仲間の中にいたやつだよな!? あれ、AMのことだったのか!

『うるさいな……! 俺はお前のそういうところがきらいなんだ。もういいだろ、どっかいけよお前!』

 バツが悪そうにブチぎれるAM。うわー、この感じ、確かに元バイト仲間同士って感じだ!

 なんだよ……AMも……もと同じバイト……どころか。

 異世界コンビニ勤務経験者だったのか……!

『ったく、空気ぶちこわしやがって……

 おいかんちがいするなよ』

 電話の向こうで、AMは、軽い口調で、しかし冷たくいってくる。

『確かに俺はわざと冷たくしてた部分もある。あえて色々情報も教えなかった。だってそのほうが、お前ら、絶対もがき苦しんで、絶対成長できるしな』

 AMはいい、

『けど、この勝ち負け。

 お前らと、昔の俺達のデモン・イレブンの売上げ勝負。

 それから、勝ってSランク取らなきゃ、店がなくなるっていう条件。

 それらは全部現実だ』

 そう、改めて、オレ達にきつけた。

『いいな? 負けたら、お前らの店は閉店だ。これは本部が決めたことだから、俺は何もできない。その上で聞くぜ?

 結果聞くかくはいいな?』

「も、もちろんです……!」

 オレ達は、頷いた。

 もちろん、これだけ出し切った後、AMに手心加えてもらおうなんて全く思えない。

 勝ちたい。

 けど、同時に知りたいんだ。

 ベストをくした自分達がどこまでいけたのか。

 正面からちゃんと受け止めたい。

「お願いします」

 受話器を持った店長代理が、AMにいう。

「結果、聞かせてください」

『……分かった。じゃあいくぞ。さっき集計が終わったんだ。

 まず、俺達──つまりお前らから見て、向こうのデモン・イレブンの売上げだ』

 AMが告げる。

 ゴクリ、と誰かがつばを飲み込んだ。

『向こうのデモン・イレブン。

 売上げ、一四日間で一四一〇万。

 一日平均一〇〇万ちょいか。まぁ確かに当時そんなもんだったか』

 その発表に、オレ達は絶句した。

 一日平均一〇〇万ちょい!?

 なんてえぐいアベレージだ……! 現代なら間違いなく【S】確実……!

『そして。お前らのほうの売上げだ』

 そして、運命のジャッジが下る。

『お前らのデモン・イレブン。前半の一日の売上げ平均は数千円程度。まったく話にならねぇ数字だった』

「うっ……!

 いきなり告げられた、シビアな話のおさらいに、オレ達はたじろぐ。

 なんだよ……何がいいたいんだよ、AM。

『けど、後半戦……特にラスト三日だな。この三日だけでいえば、二〇〇万以上いってる大入りの日もあった』

「に、にひゃく……!」

 しゆんかん最大風速とはいえ、オレ達にとってはありえないことだった。それくらい、オレ達は出し切ったのだ。

『その結果。合計はこうなった』

 そして、いよいよ、AMは告げる。

『お前らのデモン・イレブン。

 一日平均一〇五万。

 一四日間で──一四七〇万』

「え」

「一四七〇万?」

「てことは……」

 息をむオレ達に、

『やるじゃねぇか』

 AMは、いうのだった。

『あくまでこの一四日間の話だ。しかも異世界で対決って変則的なじようきよう

 けど結果は結果だ。

 この一四日間。お前らの店の売上げは。

 五年前の俺達のデモン・イレブンの売上げをわずかに差し切った。

 最終試練、お前らは、俺達のデモン・イレブンに売上げ勝負で勝った』

「う……

 うそぉぉぉお!?

 思わずさけぶ。勝った!? オレ達──限られた条件下でだけど──〝せんぱい〟に。売上げ勝負で勝った!?

『そして』

 さらにAMは続ける。

『昨日の0時で、お前らの先月の売上げも確定した。お前らの先月の売上げは。ラストの追い上げもあって──【S】』

「え……【S】!?

 まさかの望外報告にオレ達は顔を見合わせた。

 てか、すっかり忘れてた!

 そうだ、売上げ対決の売上げは、そのまま店の売上げなんだから……オレ達の先月のランクも確定したんだ。

『そして』

 さらにさらにAMは続ける。

『忘れてねぇだろうな? 俺との約束。

 お前らが最終試練に勝った場合。そのランクは、もう一個あがる』

「あ……!」

 だれかが声をあげる。これも……そうだ……完全に忘れてた!

 そうだよ……そういえば、AMから、そんな申し出受けてたんじゃん!

『これにより、お前らのランクはもう一個上がる。

 てなわけで、今回は、本来は存在しない──【SS】。

 たぶん日本初の【SS】で、お前らは、先月フィニッシュだ』

「【SS】!?

 なんかカッコいい!?

 そ、そうか。オレ達、勝負に夢中で気づいてなかったけど。いつのまにか、AMの勝利特典の補助にたよらなくても【S】出せてたのか……!

 あれ?

 ということは?

 みんなが、ふと、あることに気づく。するとその瞬間。

 AMが、ニヤリとしているのがわかる口調で、いうのだった。

『存続決定だ』

 AMはいった。

『お前らは、その功績をもってして、オレのエリア全体の評価をBどころかAに引きあげた。

 俺の受け持ちエリアの店は、全店存続が決定。

 もちろんお前らの店も例外じゃない。

 お前らの店の取り壊しは、さっき、正式にてつかいが決定。

 その店は、今後も、デモン・イレブンのかせぎがしらとして、続けてもらう。何か文句あるか?』

「あるわけ……ないじゃないですか!」

 その宣言を聞いた瞬間だった。

「や……やったぁぁぁ!

 さっき以上のかんばくはつし、オレ達は全員でハイタッチした!

 いや、もう、何重の喜びが一気にきたんだよ!

 試練に勝利!

〝先輩〟達に勝利!

 店のランクが【SS】になり──

 そしてなにより──一番の目標、【店の存続】が決定した!

 オレや店長代理はもちろん。

 九条や勇気、そして白雪までも、はじけんばかりの笑顔でハイタッチしている。

 やった。やったぞ。オレ達、デモン・イレブンを守ったんだ。

『つっても、これからが大変だぜ』

 そんなオレ達に、AMがいう。

『そうそう。お前らは追われる立場になったんだからな』

 そして、電話の向こうで〝先輩〟もいった。

『私らは経験あるからよくわかる。【D】ランクから【S】に上がるより、【SS】するほうが……はるかに難しいぞ。本部からの評価のハードルもはんなく上がるからな』

「う……!」

 オレはいつしゆんたじろぐが……

「いや……でも、だいじようです」

 オレはいった。確かに【SS】をキープするのは難しいかもしれないけど。

 今までだって、どんなピンチもこのメンバーとこの店で乗りえてきたんだ。

 何かあってもきっと、また乗り越えられるよな……!?


 こうしてオレ達の〝最終試練編〟は終わり、オレ達の戦いも一区切りを迎えた。

 けれどご存じの通り、コンビニには休みも区切りも本来ないのである。

 次なる戦いは、じようだんじゃないほどすぐ、オレ達のもとへい込んできた──!