けど、コンビニって、それだけじゃないって……オレ達、この前気づいたじゃん」

「あ……!」

 九条が、ちょっとおどろいたようにいう。

おう城で……」

「そう」

 オレはうなずいた。

 オレ達が子供のころ通った、〝先輩〟がやってたコンビニ──。正確にいうと、全盛期を経て、意識的なのか力をおさえ、別の方向性になってた頃の──〝先輩〟がつくったデモン・イレブン。

 商品を買わなくてもいい。そこで過ごす時間自体が楽しい。

 場として楽しい。

 くそくてカネがないオレ達みたいな小学生が行っても、別に目くじらたてることもなく、なんだかんだ存在を受け入れてくれた──。

 それが、オレ達が目指す、いや無意識に目指していた、デモン・イレブン。

 それにオレ達は気づいた。

「いや、それどころか。オレ達、ほんとは最初から気づいてたのかも」

 オレはいう。

「店内で弁当が足らず戦争状態になった……って問題起こったら。

 異世界人の争いをとめたりするんじゃなく。〝身体能力を上げてなんとか品出しするように努力〟する、ってせんたくとったり。

 めいかいとの仲を取り持ってくれってたのまれたら、世界のはしとなるかんげいかいを開いたり。コンビニで。

 立ち読み客がさつとうしたら、こっちも総力戦でからげ貴族のにおいを使ったりせきばらいを使して、立ち読み客とたいしたり。

 ウチは、ずっと、結局、お客さんを受け入れる接客してきてた。

 そういうことが大事だって。ずっと前から気付いてたのかも」

「で、でもさ」

 不思議そうにいう九条。

「じゃあ、何? じゃあウチに、お客さんは……サービスの質とかじゃなく。コンビニとしての便利さじゃなく。そういう〝場〟としての楽しさを、求めて来てたってこと?」

「うん……。少なくとも、前から来てた常連さんはそうだと思うよ。だから、デインさん達は、〝先輩〟の店をつまらないっていって。ルミナリエさんとかは……急にがなくなって。それで、店をこういう感じにしたらまた元気になったんだと思う」

 オレはそんな推測を口にする。

「三週間前、ウチは、急になくなった。となると、次に行く店は、あの〝先輩〟のデモン・イレブンしかない」

「うん」

「けど、あの店はウチと似てるようで全く違う。だから、通えば通うほど、なんだか、知らず知らず元気がなくなる……自分達が求めていたものがないから……」

「あ、なるほど……」

「そんな生活が続いて、そんな中、ウチがもどってきた時には、もう、デモン・イレブン自体にかなりネガティブな印象持ってたのかも。

 ウチが戻ってきても、特に反応しなかったくらいだし……!」

「そっか……だから、こうやって、分かりやすく、元のデモン・イレブンが戻ってきたことをアピールして……ウチのよさ、改めてみてもらって……

 お客さん、引き戻そうってわけね」

「そう」

 オレは頷いた。

「だからまだやれるよ……オレ達!」

 前をえながらオレはいった。

「だって、お客さん、あんな楽しそうじゃん。オレ達が、ここから本当の実力出したら! ここからきっと、もっといい勝負になる」

 店内を見ながらオレはいう。

「そうね……!」

 九条は頷いた。

「なんか……ありがと」

 そして、変に素直にそんなことをいってきた。

「は…………?

 いつしゆん、固まるオレ。

「? なによ」

「いやごめんごめん。聞きちがいだった。今、一瞬、お前がオレにありがとうっていったようなげんちようが……」

「バッ……なにが聞き間違いよ! 現実よ! 確かに私のこの口がいったの! あ・り・が・と!」

 ヤケクソのようにいい放ってくる九条。

「え…………ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 何いってんのお前!?

 オレはやっぱり耳を疑う。

「礼? 九条が? オレに? お前、なんか体調不良かなんか……」

「な・ん・で・よ!?

「だって、お前がオレに礼いったことなんて、今までの人生でなかったじゃん!? オレがなんかお前のこと手伝っても、〝当たり前でしょ〟〝別に感謝なんかしないんだからね〟〝まだやってんの? もうトロイわねぇ〟くらいのもんで。つうに礼いわれたことなんか、おくにある限りほとんど……」

「何よ!? たまには勇気出して素直になったらいけないの!?

 正直、さっきまで私、半分くらいあきらめかけてたからさ。あんたが鹿かってくらい全然諦めてなくて、それ見て、ちょっと元気でたの!

 うれしかったの! だから、ありがと! お礼いってんの!

 ったく……こんな素直な私、もうあと三年半くらいは出さないつもりなんだから……ちゃんとありがたく記憶にとどめておきなさいよね!?

 その一言に、オレは、

……………………

 ……なんか照れた。

 あれ? なんでオレ、照れてんだろ。

 九条にありがとうっていわれたしゆんかん、なんか心臓がキュッとなったっていうか……。うーんよくわからん、よくわからんけどとにかくなんか店内空調利き過ぎて暑い。

「おい、透、何やってんだ!?

 その時だった。いきなり後ろから店長代理が走ってきてオレをめにした。

「ぐっ、店長代理?」

「レジやべーんだよ早くしろ! 何こんなとこでくっちゃべって──」

「真壁サン……!」

 しかしその時だった。そんな店長代理の頭をだれかがわしづかみにした。勇気だった。

「にゃは。アンタ……何やってんだ?」

「え? いや、店長代理として、バイトに仕事しろって……」

「そうじゃなくて。今、ここじゃ、百年かかっても起こりそうになかったれんあいビッグバンがよーやく……よーやくスタート寸前まで移行しかけてたんだぞ? 自分が犯した罪わかってっか? ちょっと裏で反省文書いてもらっていいか?」

「ぐわぁぁあぁぁ!?

 ギリギリギリギリ、ダンジョンこうりやくきたえたあくりよくなのかなんなのか、万力のような力で勇気が店長代理の頭を鷲づかみにして連れ去っていく。

 シン──。

 残されたのは、オレと九条。

「な、なんかよくわかんないけど。仕事しよっか?」

 少しだけ赤い顔で、九条がたんそくしながらいう。

「そ、そうだな。そうしよう」

 オレもたぶん少しだけ赤い顔で、その意見に同調した。

 いろいろよくわかんないけど、とにかく、仕事しよう。

 それがコンビニバイトの務めだもんな。


 自分達がこの異世界でやってきた事を信じて、出し切る!

 とにかくそれだけを念頭に置いて、そこからオレ達はデモン・イレブンで力を振りしぼった!

 例えば、

「にゃはは、おーい、配達行ってきたぜー! バベルの搭とアトランティスと裏ダンジョンの九九階にー!」

 たった今帰ってきた勇気が主にやってる〝異世界版デモン・デリバリー〟を今まで以上に精力的にアピールした。

 てんじようのスピーカーから流れる、

『えーみなさんお待たせしました、今日は昨日に引き続き、俺とおでんの出会いを。あれは俺が産湯にかった寒い冬の日のことでした。俺の産湯にぐうぜん大根が入っていたことから──』

 店長代理が主にやってる〝異世界版デモン・ウェーブ〟を改めて始めた(つか、なんか今日のラジオの内容何気に聞き捨てならないな! なんかしようげき的な内容語られてないか!?)。

 さらに、

「え? あぁ、当店はとうぞく団からの万引きちようせんずい受け付けていますよ? そこの申し込み用紙に名前書いておいてください。ただ、万引きしようとしてできなかった商品は強制的にお買い上げって条件ですのでかくしてくださいね?」

 たぶん地球、いや異世界ふくめても一番のセキュリティ能力(白雪がいるから)を活かして盗賊団をさそい込み、しかし万引きはゆうして、結局商品のお代をきっちり頂くという〝スポーツとしての万引きが楽しめる店〟という新たな側面をより強調した。

 そして、

「さぁ行くぞ、九条! オレ達も弁当のじゆうだ! だいじよう、慣れたら、飛んでくる矢くらいはづかみできるようになるから」

「なりたくないわよ女子としてそんなちようじんに!」

 オレ達も、お客さんを受け入れる品出し──死線をかいくぐって商品を補充していく曲芸品出しに磨きをかけた。

 この異世界で身につけた、お客さんが喜んでたデモン・イレブンのサービスを、とにかく出ししみなく全部出した。

 すると、勝負は、思いがけない展開を見せる。

伝説レジエンド〟デモン・イレブンの売上げに。

 うちのデモン・イレブンの売上げが、少しずつ、少しずつ、せまり始めたのだ。


    ※


「いけるかもしれません」

 そんな中、勝負開始から十日目。

 白雪が、働きながら、合間をみての立ちミーティングで、ある試算を出した。

「塔子としたことが、失念してました。

 この勝負は、客のうばい合い。

 つまり、片方の店がはんじようしてる状態だと、片方の店は売上げがびない。

 私達の店が売上げを伸ばせば伸ばすほど、〝伝説レジエンド〟の売上げは失速していくんです」

「ん?」

「ここまで十日間の売上げ合計は──

伝説レジエンド〟デモン・イレブン→約一〇五〇万G。

はざ〟デモン・イレブン→約五一〇万G。で負けてますが」

 試算を発表する白雪。

「勢いは逆転しています。このペースで行けば……あと四日、上回る可能性がちょっとあります」

「おお……!?

 その報告にオレ達は顔を見合わせる。

「ただ……どうしても、あと少し……あと少し、届かない計算になります」

 厳しい顔でいう白雪。

「あと少し……どれくらい?」

「数字でいったら、一日一〇〇万G分くらい。それくらい、あとこっちにきやくがついたら……逆転もできるんですけど」

「一日一〇〇万!?

 オレ達は絶句する。いやいや、ここまで追い上げてるだけでもとてつもなくすごいのに。そこにさらに+して一〇〇万!?

 それ、ちょっとって規模なんだろうか……?


    ※


 そして──その白雪の予想は、さすがというかなんというか、すんぶんたがわず的中する。

 勝負開始から一二日目。

 オレ達の売上げは、かなり〝伝説レジエンド〟ににくはくしていた。

 けど、どうしても、最後のあと一押しが足りない。

 あれから、例のダンジョンマスターだとか、聖法騎士団ホワイトリツターとか、盗賊団のフジコとか、七部族の関係者とか、グレンとか、しようとか、勇者が呼びかけて、また新たに、うちがもどってきたことを知り、訪れてくれたお客さんもいるんだけど。

 それでも……その分を足しても、どうしても足りない。

 そして無情にも一二日目、一三日目もしゆうりようし。

 どうしても越えられない差を残して。

 勝負は最終日──一四日目にとつにゆうした。


    ※


「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ!」

 オレ達はラストスパート──死力をしぼって接客!

 時計は、もう、昼の一二時を過ぎようとしている。

「……ダメですね」

 そんな中、レジで計算していた白雪が、オレに告げた。

「塔子の計算では、お昼ちょうどがデッドラインです」

 と、白雪。

「それすぎたら、たとえ……たとえ、せき的にお客さんがさらにドッと増えても、さばききれないし、結局今日の売上げには反映できません」

「一二時……!」

 オレはうらめしく時計を見る。って……あと、もう、数十秒もねぇ!

 五、四、三、……またたに減っていく、一二時までのカウントダウン。

 オレ達は、奇跡を信じる……が。

 二、一、〇……。

 無情にも。ほんとうに無情にも。

 白雪が決めたデッドラインを、時計の秒針と分針が通過した……一二時である。

(ま……負けた……!)

 まだ、勝負は決まったわけじゃない。このデッドラインは、天才とはいえ、白雪の出した〝試算〟に過ぎない。

 けど……頭ではそうわかっていても。心がなかなか、ついてこない。

「……ごめん。オレのせいだ」

 だから……思わず、オレはいってしまった。

「最初の一週間のおくれさえなかったら、勝ててたかもしれないのに……!」

 そう、最初のちがった方針の時期さえなければ、たぶん勝ててたんだよな……!

「なんか最後まで、バイトリーダーとしてみようでごめん。やっぱ〝せんぱい〟にはまだまだオレは……」

 ガックリかたを落としながらいうと、

「バーカッ! 何いってんのよ!」

 九条が思いっきり頭をひっぱたきながらいってきた。

「確かに出遅れたけどさ。けどその後、こんなに追い上げられてんの、あんたがウチの店のどう修正したからでしょ」

 おこったようにいってくる九条。

「九条……」

「そうだぜー」

 続いて、両手でオレのほおをガシッとホールドしながらいってきたのは勇気だ。

「最初出遅れたのは別に透だけのせいじゃねー。みんな、〝先輩〟にアテられて、ちっと無理しちまってたぜー。私もマイも含めて。だから透にゃ感謝してるぜー」

 満面の笑みでいってくる勇気。

「勇気……」

「だからさ。最後まで、あきらめず働きましょうよ。勝ち負けじゃなく、全部ぶつけるっていったのあんたでしょ」

「そーだぜ透。もうここまで来たら、勝ち負けはいいじゃねーか。一人でも多くの人に、うちの店のおくを焼き付けてやろうぜー?」

「そう……だな」

 オレは、おさなじみ二人にいわれ、自分に気合を入れなおした。

 ようし……そうだ!

 たとえ勝負には勝てなくても……これだけのお客さんが店に来てくれてるんだ。

 最後まで、全力を、くそう。

「よーし!」

 最後にオレは力を振りしぼる。

「ウチの店のラスト一二時間だ。うでちぎれるくらいがんばって──」

 最後のエネルギーを使いきろうと腕まくりするオレ。だったが……その時だった。

「お、おい!」

 入り口のほうから声。

「透! 九条! 野宮! ちょっと来てみろ!」

 店長代理の声だった。

「へ?」

「なによ?」

「なんかあったんかー?」

 不思議に思って店頭に向かうオレ達。

「え!?

 そしてオレと九条と勇気は店頭に出てすぐにこうちよくする。

 そこには、オレ達の予想もしなかったような光景が広がっていた──!


    ※


 そこに立っていたのは──臓物と目玉のない犬に、ゆりかごをかかえた女性に、部下をしたがえた船長服の男。

 世界樹のせいれいに、暗黒騎士。

 きんぱつオールバックのオッサンとぎんぱつオールバックのくつきような男。そして大勢の兵たち。

 むらさきいろのガスの集合体みたいな生物を筆頭とする、魔族達……!

「え……」

 きようがく──していると。

「おお、ニイちゃん、なんか売り上げなんしてるんやって?」

 臓物のない犬が、オレにいう。

「仕方ないですねぇ。ヒマなんで、カレシと手伝いに来ましたよ。まだ私のせき残ってますか?」

 口を開いたのは元・バイトのユグドラだ。

「こっちも同じくだ。最近国も落ち着いてきたんでな」

「兄貴といつしよに、国民連れて遊びに来たぜー」

 サムソンさんとオルバさん。

「すいません、旧魔王城のトイレ直ったんですけど、やはりこちらのトイレの座り心地が忘れられなくて……! あとってあった張り紙の内容も……。

 トイレ貸してもらってもいいですか?」

 旧魔王城の魔族達もいってくる……!

「えええええ!?

 まさかの面々の来店に──オレ達は声がかれそうなくらいさけんだ。

 な、何これ!?

 なんでこの人ら──ここにいるの!?

「な、なんで!? てか……どうやってこの店まで来たんですか!?

 この世界のかんはよくわからないけど、この面々と会った場所とこの草原はけっこうはなれているはずだ。

 それに、なんかうちがピンチだってのを知ってる風だけど、なんでそれを……!?

「売上げの件は、新聞にってたでー。今、この草原で売上げ対決やってて、そんでこっちの店は、負けたら閉店決定やって」

 教えてくれるのは、ゆうれいせん乗客の臓物のない犬。

 マジか……どっかられたんだろう。

 ほんと、この世界の新聞、意外にうちのことよく載せてくれるなー。

「来た方法は簡単ですよ」

 いったのは世界樹の精霊──ユグドラ。

「ああ。一回行ったことある場所に転移するじゆもん、オレ達の地方じゃ初歩の初歩だしな」

「つまり、世界中のどこにいても、仲間のピンチには、けつけられる」

 続いてうなずくのは金髪と銀髪の男、オルバさんとサムソンさん。

「あんたちがってなかったのよ……!」

 そして九条はいうのだった。

「へ?」

 おどろいていると、

「まさに、魔王城であんたいってたじゃん、

 〝お客さんに対する営業って、すぐ効果出る、劇薬的な営業も重要だけど。

 たぶん、商売って、それだけじゃダメ。

 お客さんが喜ぶのは何か……?

 売上げ度外視して、それだけを考えて、行動することも大事〟って。

 そしたら、それがちゃんといつか実を結ぶって。

 ほんとにそうだったのよ……!」

 目を少し赤くしながら九条がいう。

「あんたのそういう姿勢もあって。あんたのバイトリーダーとしての方針が……最後にみんなをちゃんと呼んだのよ!」

「マジか……!」

 オレは、なんだか泣きそうになった。

 ていうか……ちょっと泣いた。

 けど、泣いてる場合じゃない。

 まだ、ぜんぜん勝ったわけじゃない。勝負はここからなんだ。

 奇跡のえんぐんとうちやくという追い風を受け、オレ達は最後の力を振り絞る──。