「な、なんだ!?

「またかよ!?

 き上げるようなしようげきが、去った後。

 オレ達は、また最近おみの転移か……と、さほどおくさず、事務所から店頭へ出て窓ガラスへへばりつく。だが、ここで、オレ達の予想はくつがえされる。

「あれ!?

「ここって……俺のちがいじゃなけりゃ……。あの草原なんじゃねぇの……!?

 オレ達の視線の先にあるのは、どこまでも広がる緑の平原。

 バックには、どんな伝説のりゆうねむっているのか、きよだいな雪山がそびえ立っている。

 そして店の目の前を通り過ぎていく、よろいをまとったぼうけん者、かいちようりよう……。

「ほ、ほんとだ……!」

 そうだよ……!

 ここは、異世界に転移してから、海上に行くまで……ずっとデモン・イレブンが存在してた、オレ達にとってのホームグラウンド。

 あの草原にちがいない!

「にゃはは! けど……何か、変じゃねーかー?」

 しかしその時、おんなことをいったのはゆうだ。

「なーんかよくわかんねぇけど。なんか、さつばつとしてねぇかぁ?」

 前方を見ながら笑顔のまま勇気はいうが……

「た、確かに……?」

 ものすごくちゆうしよう的な意見ではあったんだけど。何故か勇気のいってることは、納得できるものがあった。

 この草原は、オレ達が知ってる草原だ。間違いない。

 けど、空気が、違う。

 オレ達が転移する前は──良くも悪くも、色んな種族の色んなお客さんが行き来してて、それらがたとえば店内でそれぞれの主義・主張・好みを全開でぶつけることによって──なんか変な一種異様なはくりよくがあった。

 けど今は……たとえば、草原にれる風ひとつとっても、なんか寒々しいし。

 店の前を歩いていく冒険者やぞく達は……顔に生気がなく。のない様子で、もくもくと歩いていく──デモン・イレブンに寄りもせずに。

 結果、この草原自体になんか、変にピリピリとしたムードがただよっている。

「あれ!?

 その時じようが気づいた。

 店の前を、どっかで見たことのある人が二人、通り過ぎていく……。

 通り過ぎていくのは、金細工のようなきんぱつに、左右色違いのひとみを持つ、まだあどけなさの残る少年──。そして、もう一人は、聖衣に神官ぼうをかぶった、自身のたけほどもある長いつえを持つ少女──。

「い……いやいやいやいや!」

 店を飛び出し、その二人を呼び止めたのも九条だ。

「ちょっと待ちなさいよ! アンタら確か──四天王の一人、〝らいてい〟レッセに。デインの一味の……〝神のとなりに座った女〟そうりよルミナリエよね!?

 あせったような表情で聞く九条。

 そう、そこにいたのは、おうや勇者の仲間、四天王レッセと僧侶ルミナリエだった。

「なんで無視すんのよ! ていうか、なんでそんな元気ないの?」

 混乱しつつ聞く九条。

 が、そんな質問を受けた二人の態度は、やはりみようなものだった。

「元気ない? 別に……こんなもんだったと思うけど……」

「そうね。それに元気なんかあってもなくても、人生の大勢にはおよそ関係ないし」

 覇気のない顔で、しかしまるでそれに自覚がないような表情でたんたんと語ってくる、レッセとルミナリエ。

「い、いや、人生の大勢って……どうしたのよ!? 前は散々、ジャンプとコロコロコミックめぐってガチの殺し合いとかまでしてたじゃない、ウチの店に許可も取らず! あのころのあんた達はどうしたのよ!?

「「ジャンプとコロコロ……」」

 その単語に、二人は、まるではじめて聞いた単語といわんばかりに顔を見合わせ、

「ジャンプとコロコロか……」

 次の瞬間、何かを思い出したように、いつしゆんひとみに光をもどしながらレッセ。

「そーか……そーいえば、そんなの巡って争ってたこともあったわね……この子と」

 そしてルミナリエも、少しハッとしたようにいう。

 だが、次の瞬間、

「まぁでも……ジャンプもコロコロも……」

「今は別に取り合わなくても……」

「「あそこに行けば、いくらでも立ち読みできるし……」」

 またしても、うつろな目つきになりながら、二人。

「どうしちゃったんだ、二人とも……!」

 オレ達はがくぜんとなる。

 もちろん、二人はオレ達にとってただのお客さんだし、そんなに深く知っている人達じゃない。けれどそんなオレ達ですら、確実に感じ取れる。

 この二人、前とは、別人みたいになってる……!

「〝あそこ〟……とやらがあやしいわね」

 うでみしつつ、アタリをつける九条。

「ていうか、どういうことなんだろ……」

 オレはなんだか不気味に思って聞いた。

「立ち読みできるって。ジャンプとかコロコロが、売ってるってこと? こっちの世界に転移してきた、ウチみたいな店でもないのに?」

「調べるしかないわね……」

 たんていのようにアゴに手をやりながら九条。

「ったく、ただでさえ【S】ランクとらなきゃでいそがしいのに。結局ここでも事件に巻き込まれるってなんなのよ、ほんと!」

 九条はえているが、しかしやっぱり放っておくわけにはいかない。

 その後、オレ達は、要点を得ないレッセとルミナリエからがんって話を聞きだし、〝あそこ〟の場所を聞き出した。

 そして、そこで待っていたのは──

 まったく、予想もしない、光景だった。


    ※


「う……そだろ……」

 呟いたのは、だれだったか。

 今、オレ達の目の前にあるのは、こんな光景。

 こうこうかがやく看板。

 店のとうめいな入り口は、ひっきりなしに開いたりしまったりし、客をスムーズに入れたりき出したりしている。

 いやみなくらいれいかれている店のガラスには、野音がどうだの、よこはまアリーナがどうだの、異世界には絶対一切関係ない日本の音楽関係のポスターがられている。

 中をのぞくと、まず目に飛び込んでくるのは、多様な雑誌が並んだたなだ。うちより雑誌が整然と並んだ雑誌棚には、多くの異世界人がつめかけ立ち読みしていた。

 その背後には、トイレットペーパーやTシャツなどの日用品が並び、そしてその奥に、機械がやってんのか、と思わせるくらい整然とぎっしりまったカップめんが並んでいる。

 ここまでいえば、今、オレ達の目の前にあるのが何か、想像できるだろう。

 オレ達の目の前にあるのは、そう……現代のコンビニエンスストア。

 そしてそのコンビニの看板にはこう記されている。

【DAEMON‐ELEVEN】

「はぁぁぁぁぁぁぁ!?

 げきしんパニック状態におちいったのはオレ達である。

「デモ……なんでデモン・イレブンがここにもあるんだよ!?

「何これ……何かの間違いなんじゃないの……」

「ありえねぇ……おでんだと思って食べたらいちご大福だったくらいありえねぇ……」

「みんなどうようしすぎですよ……とう、別に、ハーバードではこれくらいのこと……

 いややっぱウソです、えええええええええええ!? どうなってんですこれ!? これは日常茶飯事ではないですよ!?

「にゃはははは、とおる、いっぺん私のおしりってくんね? 夢見てる可能性あるからよ」

「それはヤダよ! なんかオレが色々人格に問題ある人間みたいだろ!」

 反応は五人五色だが、とにかく共通してるのは、誰もが取り乱しているということ!

「ていうか、この世界にデモン・イレブンがもう一つあるだけならまだいいわよ!」

 九条が血相を変えながら誰に向かってかわからないがうつたえる。

「けど。目と鼻の先。私達の店と五〇メートルもはなれてない位置にもう一店とか……アリエナイでしょ!?

 そ、そうなのである。オレは、首をクイッと曲げて東のほうを見る。

 そこにあるのは……異世界コンビニデモン・イレブン(オレ達のほうの)。

 レッセとルミナリエから苦労して聞き出した〝あそこ〟とやらは……オレ達の店から死角になっていただけの……きよにして五〇メートル、時間にして徒歩一分ほど、現実のコンビニ密集地区でも中々ない、とてつもないきんきよにあるこの店だった。

「しかもさ」

 さらに九条はいう。

「デモン・イレブンが、とてつもなく近距離に出店してきた。まぁひやつゆずってそれは受け入れるとして。問題は。この店、一体誰が働いてんの!?

 ますます混乱した表情でいう九条。

 確かに、一番気味悪いのはそこだ。

 たぶん、日本から来た人が働いてるんだと思うんだけど……

 外からでは、何故か、店員の姿はうまく見えない。

「入ってみるしかないわね」

 ゴクリ、とゆうれいせんの船員に対処した時並みにきんちようした顔でいう九条。

 こうしてオレ達は、オレ達にとっては、ある意味どんなダンジョンたんさくより緊張する。

 お隣コンビニへのていさつ任務を始めた……!


「うわー、綺麗ですねぇ」

 店へ足を運んで、最初にこぼれたのは、しらゆきの、そんなかんたんの声だった。

「こりゃ、クリンネスのレベルはうちの比じゃないですよ……商品の前出しも、軍隊の整列かっていうくらいピシッと整ってますし……ゆかとか、これ、何分に一回拭いたらこんな綺麗さ保たれるんでしょうねぇ」

 一切加減なくビシビシうちの店とどれだけレベルの差があるのかこんせつていねいに説明していってくれる白雪。

 いやちょっとは加減しろやお前……。

 でも確かに、白雪のいう通り、店内の清潔さ(ウチではクリンネスレベルとかいう)は、同じデモン・イレブンでも、オレ達の店の比ではなかった。

「商品展開の仕方とか、発注数、じゆう数のさじげんとかも……かんぺきじゃない」

 次に、九条も、ちょっと感心するようにそんなことをいっている。

「た、確かに……!」

 ぐぬぬ、といいながらも、しかしうなずくより他にリアクションのとりようがなかった。

 他てんの発注や商品展開の力量は、同業だけあってバイトのオレでもけっこうわかる。

 今は昼過ぎ。昼のピークを終えたような時間帯だ。

 そんな中、弁当売り場には、とつしゆつして残ってる商品があるわけじゃなく、かといって、欠品してる商品もない。全部が、最低限必要な数だけ残し、バランスよく残っている。

 いやー、なんかマニアックな感嘆だけど、ここまで美しい昼過ぎの弁当売り場も中々ないよ? どんなにがんばっても、不足の事態起こって、一つや二つは、欠品してる商品あったり、または、やたら売れ残ってる商品があるもんだ。

 確かに、これは、うちより上である。

「にゃはは……そんでなにより。この店、混雑がぜんぜんなくて、ウチの草原時代の店内より、二倍も、三倍も、はるかに静かだよなー」

 そしてトドメをさすように最後にいったのは勇気だった。

「ぐは……!」

 なんか、ほんと、トドメをさされたような感覚だった。

 うすうすは、なんとなく、気づいてたけど。

 確かにこの店、ウチの店より、店内全然静かなんだよ!

 かといって、じゃあかんどり鳴いてるのかっていうと、全くそんなことはなく。

 店内はどのコーナーもけっこう混雑していて、うちのピーク時とそんなにそんしよくないレベルの込み具合だ。

 なのにこれだけ静かというのは、レジだったり接客だったりチームプレーだったり──オペレーション部分がめちゃくちゃ速くて的確だということに他ならない。

 店内静かすぎて、デモン・ウェーブのラジオが、うちの店ではかつて聞いたことないくらいせんめいに聞こえてくるぜ……!

「くそ、なんなんだ……この店は……!?

 なんか、入店して一分も経たずに、完全敗北した気分になってきた。

 現時点でこの店、あらゆる意味で、うちの上をいってるじゃないか……!

「誰が一体こんな店を──」

 店内をわたすと。

 目に飛び込んできたのは、デモン・イレブンの制服をまとった岩人形──ゴーレム。

「ゴーレム……!?

「あ、あいつらが、このカンペキな店を作ってるのか……!?

 どんどんなぞが深まっていく。

 急に元気がなくなったレッセとルミナリエ。

 その原因と思しき場所にあったのは──異常に〝カンペキ〟な売り場を持つ、見知らぬゴーレムの働くデモン・イレブン……!?

 こんな良さそうなコンビニがあるのに、なんでレッセとルミナリエは元気がなかったんだろう?

 そして、この店は、一体いつ、だれが造ったんだ……!?

「オ、オイ、あれ……」

 その時である。

 店長代理が、思わぬことに気づいた。

「電話鳴ってねぇか……!?


 トゥルルルルル……!

 勝手知らない、となりのデモン・イレブンで、しかし呼び出し音だけはいやに聞き覚えのある、レジ中のFAX付き電話が鳴り始めた。

 が、そこで、不可解なじようきようになる。

 トゥルルルルル……!

 鳴り続ける店の電話。

 しかし、この店のゴーレムは、誰もその電話を取らない──。

 無視して、もくもくと働いている。

「おいおいおいおい……」

「えぇぇぇぇぇ……?

 その状況に、こんわくするオレ達。

 たとえ人の店とはいえ、ほとんど同じ店の電話が、誰にも取られずに鳴ってるって状況は、な、なんか落ち着かないな……。

「ね、ねぇ……もしかして、電話、出たほうがいいんじゃないの?」

 みんなも同じような気持ちらしい。

 九条がそわついた表情でいってくる。そんな時、視線が向くのは当然この人だ。

「え……お、俺かよ!?

 ビックリしたようにいったのは店長代理。

「いやだって店長代理じゃん。店長クラスなら、よその支店の電話勝手にとったとしても、なんか立場的におとがめなしになりそうじゃん」

「まじかよ……事務所的にだいじようかな……!?

 いいながら、しかし確かに他にせんたくはないと思ったのか、店長代理がスピーカーホンにしながら受話器を取る。

「も、もしもし、あーいやすいません、実は私、この店の人間ではなく、きんりんてんで店長代理やっているかべケイタというものなんですが──」

 そしてなんとなくバツが悪そうにそう前フリするが、

『おぉ、いや、わかってるって。お前に電話したくてこっちにれんらくしたんだからよ。真壁。オレだよオレ、お前らの店のAMエリアマネージヤー

「「「「「AM!?」」」」」

 きようがくした。

 な、なんでAMが、オレ達めがけて、このなぞのデモン・イレブンに電話してくるんだ!?

『チッス。いや、お前らの店に電話したらだれも出なかったからよ。もしかして、そろそろ、こっちの店にいるのかと思って電話してみたんだよ』

「電話してみたって……」

 受話器をうばい取り、がくぜんとした表情でいっているのは九条。

「な、なんなんですか、この店は!?

『いや、だから、電話の内容はその店に関してなんだよ』

 AMは、こともなげにいい、

『いろんなことが分かったぜ。

 ほら、はん。お前の前に、バイトリーダーやってた女いるだろ?』

 思いがけない言葉を口にした。

「女って……。もしかして……〝せんぱい〟のことですか」

 電話に向かってぼうぜんと口にするオレ。

「は? いや待て待て待て」

 と、その時口をはさんできたのは店長代理。

「女? あれ? その、たまに出てくる前バイトリーダー……〝先輩〟とやらって。性別女だったのか!?

 ちょっとビックリしたように店長代理。

「え? あ、そうですよ、いってなかったでしたっけ?」

「いってねぇよ! 確かに、男ともいってなかったけど……なんかお前への接し方とかきよかん聞いてた限り、てっきり男だと思ってたぜ……」

「まぁ、あんま……性別とかちようえつした人だったけどね……」

 思い出したのか、ちょっとあきれるようにいった九条。

「にゃはは! ま、そーだな」

「ユーキセンパイよりかん良かったですもんね……それでいて、何故か、私とタメはるか、それ以上に科学とか医学にもくわしかったですし……」

「はっ!?

 あわてて勇気と白雪のほうに首を向けたのは店長代理だ。

みやより勘が良くて白雪と同等の科学力に医学力……!?

「それでいて、九条より仕事できて、オレより協調性あって、さらに明るさも社交性も空気読む能力も常識もユーモアも教養もありましたからね……」

 しみじみオレもいい、

「バケモノじゃねぇか……!」

 その人物評にゴクリとつばを飲み込む店長代理。

 いや、ほんとそうなんだよ。

 ここにいる五人の最大の長所足してそれを何倍にもしてそこから何も引いたり割ったりしない人間、それがあのかいぶつかんぺき前バイトリーダー〝先輩〟……。

「え? けど、その〝先輩〟が一体……」

『ああ、その、〝先輩〟なんだけどよ。この前電話あってよ。初対面だったんだけど、いろいろ世間話してるうちに、けっこう新情報明らかになってな。

 まず、そもそもの話なんだけど。

 あの〝先輩〟も。高校生の時。働いてたデモン・イレブン──つまりお前らが働いてる店で──。

 異世界その世界に転移して。

 その世界で商売することなくされてたらしいぜ。まぁお前らとはだいぶはなれた大陸で、ほとんど場所はかぶってねぇみたいだけど』

 たんたんとAMはいってくるが……

「「「「「は……はあああ!?」」」」」

 全員、すぐには信じられない。

 はぁ!?

〝先輩〟も……この世界に来ていた!?

『なんかよくわかんねぇけど。その店のあった場所とか、磁場の関係、それに中で働いてる人間の精神状態が色々作用して、条件そろうと、それが発動するらしいぜ』

「マジですか!?

 条件そろうと〝それ〟が発動!?

 にわかには受け入れがたい事実である。

 この世界に来てたのは、オレ達だけじゃなかった……!?

『で、あいつは、その時の現象が、自分達の後にも──具体的には、自分のこうはいにも起こるんじゃないかとにらんだ。

 それで自分の経験をぶんせきしたんだ。アイツの分析はこうだった。

 自分達の時は、〝都合六回転移させられて、六回目の転移で、最初に転移した場所にもどって、そこでその時置かれてた〝最終試練〟を乗りえたら、元の世界に帰った〟。

 つまり、その状況は、まぁ要するに、色んなアウェーに転移して、そこで店をやる、ちょっとした試練──成長プログラムみたいなのを体験する仕組み──アイツの分析はそうだった。誰の意思なのかまではわかんねぇままだったらしいけどな』

「し、試練……?」

『で、だ。アイツは分析するだけじゃなく。もし万が一、後輩が同じ目にあった時のために、いろいろ救済を仕込んどいた。

 店が異世界に飛んでも、店から発注できて、異世界まで荷物が届く仕組み。

 異世界からでも、最低限、俺の電話には連絡がつく仕組み。

 コンビニ店内につなげた、異世界に転移した場合に出現する〝部屋〟。

 その辺、アイツが、いろいろ工夫して、いざという時そうなるように仕込んどいたらしいぜ。自分の時はそれで苦労したからって』

「マジですか……?」

「それら全部、〝先輩〟が作ってたの!? どんだけ天才なのよ!?

「塔子にも無理です……!」

『で、そんな具合に、いろんな救済措置を盛り込んだその〝先輩〟だが。

 最後に、とっておきの〝救済措置〟──とびきりの情報をくれたぜ。

 それが、その店──〝最終試練店〟の情報だ』

「〝最終試練店〟……!?

 耳なじみのない言葉にオレ達は聞き返すが、

『ああ。アイツいわく、その異世界での六つの試練には〝最終試練〟ってのがあって。

 最後は、自分達がえたいって内心で思ってるもの。

 超えれば、ちがいなく、自分達が成長したといいきれるもの。

 そういう店や会社が、そっちの世界にりよくで再現されて、それと売上げで戦うことになるんだってよ』

「〝自分達が超えたいって内心で思ってるもの〟……?」

『そう。アイツの時は──なんかアメリカのPC会社とか出たんだったっけかな?

 で? 今、お前らの目の前には、どんな店出現してんだ?』

「え?」

 オレ達は困惑した。

「え? いえ、だから……デモン・イレブンすけど」

 店長代理がこんわくしながらいう。

『は? いや、だから。お前らの店じゃなく。今、この電話が繫がってるこの〝最終試練店〟がどんな形になってっか教えろっていってんの』

「い、いえ、だから。デモン・イレブンですってば」

『は?』

 今度は、困惑したのはAMのほうだった。

『デモン・イレブン?』

「あ、あの。ここがデモン・イレブンだから、AMから電話繫がったんじゃないんですか……?」

 横からオレが質問するが、

『いや。俺は〝先輩〟から、その店の情報と固有電話番号教えてもらったから、ただ〝最終試練店〟に電話しただけだが……みようだな。

 アイツの情報だと、その店は、〝自分達が超えたいって内心で思ってるもの〟になってるらしいんだが…………

 AMは困惑しつつだが、ふと気づいたように、

『そうだ。おい。その店の業務日誌出してきて見ろ』

 とつぜんそんな命令を下した。

「え?」

『いいからさっさとしろや!』

 いわれたので、仕方なくオレはレジ下にあった業務日誌を探し、店長代理にわたした。

「なんすか一体……透がもってきてくれましたけど」

『日付どうなってる』

 かんはついれずに店長代理。

『最後に日記書かれてる日付だ』

「えーと……」

 店長代理はぱらぱらめくりながら確認。オレも横からみている。すると──そこに書かれていたのは、約五年前、オレ達がまだデモン・イレブンに入る前の日付だった。店長代理はそれをAMに伝える、すると……

『やっぱな……!』

 何か困ったことでも起こったような声で、めずらしく少しうなった。

「へ?」

「やっぱりって何です……!?

『お前ら鹿だなぁ……。なんで内心でそんなやつら仮想敵にえてんだよ。

 いいか、よく聞け。そのデモン・イレブンってのは。

 まさに、この情報をもたらしてくれた〝せんぱい〟が、仲間とバリバリ働いて、その世界でのし上がって、Sランクすらとってた──そのデモン・イレブン史上全盛期のデモン・イレブン。前にもいった〝伝説レジエンド〟っていわれてるころのデモン・イレブンだ』

「〝伝説レジエンド〟!」

『ゴーレムいるだろ』

 さらに確認してくるAM。

「あ、は、はい」

『じゃあ、そいつらは、その全盛期のメンバー再現したゴーレムだな』

「全盛期のメンバー再現したゴーレム……!?

 てか、あたり前だけど、メンバーって事は〝先輩〟には〝先輩〟の仲間がいたんだな……。どんな人達だったんだろう。

『お前ら自分のやったことわかってんのか?』

 そこで、改めて、AMはいってくるのだった。

『いいか、よく聞け。

 どうやらお前らは──〝自分達が超えたいって内心で思ってるもの〟を。

〝先輩〟、しかも、よりによって、全盛期の〝先輩〟に据えてたらしい』

「はあ?」

 オレ達はおどろくが、

「あ、いや、でも、そうかも……」

 いつしゆん後には、全員、うなずく。

「た、確かに。オレ、なにかっちゃ、自分と〝先輩〟かくしてるし……」

だれえたいかっていわれれば、そりゃ基準は、〝先輩〟に私もなってるけど……」

「私も似たようなもんだぜー?」

「塔子もです」

「俺は別にんなこと考えてなかったけど……多数決でそうなったんだろうなぁ」

 全員口々に納得しているが、

『っかぁぁ……いってる場合かよ……』

 AMはあきれるようにいうのだった。

『どういうことかわかってんのか?

 最終試練は、〝自分達が超えたいって内心で思ってるもの〟と売上げ対決なんだぞ?

 つまりお前らはこれから。

 よりによって〝自分達が超えたいって内心で思ってるもの〟。──全盛期の〝先輩〟が率いてた、〝伝説レジエンド〟のデモン・イレブンと。

 売上げ対決で戦わなくちゃいけないんだぞ』

「は……はぁああああああああああああああああああ!?

 全員全力全開でぜつきようした。

「な、何いってるんですか!? 全盛期の先輩達と売り上げで戦う!? 何で!?

『だからお前らが思い浮かべたからだろ!? その試練じゃ、最後に、超えれば、間違いなく、自分達が成長したといいきれるものと戦うことになってんだよ。

 お前らは、その異世界を卒業するには。

 最低でも、その〝先輩〟が率いてた、〝伝説レジエンド〟のデモン・イレブンを超えなきゃならない。そう思ってたってことだ』

…………!

 そのてきにオレ達は言葉を失くす。

 自分でも信じられない。

 けど、心のどこかに、戦いたい。戦って、ちようせんして、勝ちたい……そういう思いがなかったかといわれると……あったのかも。

『あーあ。せっかく、この最終試練勝ったら、追加で本部評価に加点されるようたのんでやったのに……これじゃすいほうに帰したな』

 そして、AMは、次に、まったく思いがけないことをいってきた。

「え? 追加で本部評価」

『そうだよ。この前〝先輩アイツ〟にいわれたから。

 いくら異世界で最終試練クリアしても、現実世界で本部に何も評価されねぇんじゃ、モチベーションもあがらねぇだろ?

 だから、本部とこうしようして。

 お前らが、最終試練店をたおして最終試練をクリアした場合。

 その月の本部評価を、ワンランク上げる──つまり【C】だったら【B】に。【B】だったら【A】に。

 んで【A】だったら【S】になるよう、交渉してやれっていわれたから、してやったんだよ』

「え……【A】が【S】に!?

 オレ達は色めき立つ。

 今、時期的に、もうオレ達はかなりめられている。

 転移に次ぐ転移で、売上げはまったく立ってないし、こっから【S】をねらうのはかなりキツイ状態だ。

 そんな中で、売上げに関係なく、店の評価上げられるオプションがあるっていうなら……それは、欲しい。

「ど、どうする……!?

 全員、相手の考えを探るような表情で顔を見合わせた。

「けど……相手はあの〝先輩〟率いる〝伝説レジエンド〟デモン・イレブンなのよ。勝ち目ある!?

「勝ち目はないかもだけど……!」

 オレは一瞬考え、──そして、自分の正直な気持ちに行き当たった。

「勝ち目はないかもだけど……オレ、やってみたい……かも」

 オレは、九条を始め、全員にいった。

「やってみたい?」

「にゃはっ! 珍しく強気じゃねーかー透ー?」

 勇気が不思議そうに聞いてくるが、

「いや、そんなこともないけど……。

 そもそも、オレ、この世界に来た時、何に一番なやんでたかっていうと……

〝先輩〟との力の差、〝先輩〟みたいになれないことで」

 オレはみんなに説明する。

「だから、要は、〝先輩〟っていうかべえることは……オレにとって、いんねんの試練。それで、異世界に来る前と後、どれだけ変わったか、どれだけ成長できたか。結果が出るから。

 だから、自分が、この世界で、どんだけ成長できたか確かめるためにも──

 オレ、この試練、受けてみたいかも」

 オレのその意思表明を、みんな、最後までだまって聞いてくれていた。

「……ちなみに」

 と、そこで挙手したのは、九条。

「その〝最終試練〟。もし辞退した場合どうなんの?」

 確認するように聞く九条。これはAMに聞いているのだろう。

 あ、なるほど、確かにそれも気になる。

『ん? 辞退した場合と、負けた場合は、修業不足ってことで、もっかい数週間異世界中転移して修業積むことになってるらしいぜ』

「だったら……」

 九条は、たんそく交じりにいうのだった。

「〝最終試練〟。やるしかないわね」

 腹をくくったように九条。

「九条……!」

「だって仕方ないじゃない。もしここで辞退して、また数週間、売上げどころじゃない全国ツアーに出させられたら、今度こそウチの店、へい決定だし。

 それに、ま。アンタのいうことも一理あるわ」

 九条はいうのだった。

「私達だって異世界で成長してる。確かに〝先輩〟は最強よ。けど絶対勝てないと思ったのは、過去の話。

 そう、私達は異世界で成長してる。今の私達だったら、どれくらいいい勝負できるか……試してみてもいいかもね」

「そうだぜー!」

 勇気も、同意してくれた。

「しかも、異世界で勝負すんだからなー! 私達、明らかに日本よりこの世界のほうがはだにあってるし。ひょっとしたらひょっとするんじゃねーのー」

 と、笑顔で九条。

「ですね」

 白雪も、スマホいじりながら同意してくれた。

「塔子のデータによりますと、この勝負、勝ち目は0じゃありません。昔は0でしたが……今は0・001%くらいあります。しかも相手は五年前の〝せんぱい〟なんですから。塔子も成長したし。やってみる価値はあるんじゃないですか?」

 たんたんと、だがいってくれる白雪。

「と、まぁ、そういうわけだ」

 そして店長代理がオレに受話器をわたしながらいうのだった。

「相変わらず店長代理たる俺の意見は全く重要視されてねーみてぇだけど。まぁいいや。そういう店の店長代理になっちまったんだし……

 俺あんま関係ねーんだけど、最後の最後まで付き合ってやるよ」

 店長代理から受話器を受け取り──

 オレはうなずいて、AMにいった。

「と、いうわけです」

 オレはAMに宣言した。

「オレ達、〝最終試練〟、受けます。最終試練受けて……ちゃんと〝先輩〟達を超えて、この試練を卒業します!」

 ドキドキしつつ、言い切るオレ。い、言ってやった……!

……………………

 オレのそんな宣言に、電話の向こうで、AMはしばし黙っていたが、

『ふーん。いんじゃね?』

 数秒後。いつも通り死ぬほど軽くいなしてきた。軽っ……!

『ま、じゃあ、勝ったらワンランクアップな。まぁせいぜいがんばれや。売上げ対決に勝ったら、売上げも上がるし、自動的に【S】ランクも見えてくるだろうしな。

 じゃ、俺、今日この前合コンでつかまえた女とデートだから。切るぜっ』

 サッパリいって電話を切るAM。改めて、軽っ……! でも、いちおう、勝ったらワンランクアップの約束してくれたんだし。あれでも、今までよりは協力的なのか……!?

 こうして、元にいた草原で、まさかの対決に直面するオレ達。

 全てを守るため。そして先輩を超えるため。

 五年前の〝伝説レジエンド〟デモン・イレブンとオレ達〝はざ〟デモン・イレブンの対決、

〝最終試練〟が始まった!


「よし、やるぞ!」

 自分達のデモン・イレブンにもどったオレ達は、さっそく動き出す。

 あの後、AMからFAXが送られてきて。

 この〝最終試練〟、期限は二週間(つまり、オレ達がSランクとらなくちゃいけない期日までとたまたま同じ……)で、その期間内の売上げで勝ったほうが、勝者だということを知った。

 この二週間、異世界を回ってる間、オレ達の客はすっかり〝伝説レジエンド〟デモン・イレブンに取られてしまっているので、なので、まずは地道に、向こうのデモン・イレブンからお客さんを取り戻していくことにする。

「いらっしゃいませいらっしゃいませ! 〝元祖〟デモン・イレブン本日リニューアルオープンでーす!」

 というわけで、日も暮れているが、さっそく呼び込みを始めるオレ達!

 すると。

「おおっ!?

 その呼び込みに──店の前を通りかかっていた異世界人が反応してくれた。

「お前ら! 帰ってたのか!」

 入ってきたのは、何回か見たことがある三人連れのコボルト達。

「はい、しばらく修業に行ってたんですが、本日帰ってまいりました!

 いかがでしょう。からあげ貴族ゆずポン味とか、げたてですよ!」

 そして入り口前で早速やる気満々で営業した。

「ほう。いいじゃん、じゃあ、さっそく三つくれよ。あとついでにタバコ、四四番」

「あ、ありがとうございます……! 九条! 勇気!」

 オレはレジの二人にたくす。

 二人はうなずき、九条はから揚げ貴族を包み、勇気はレジを打った。

「お待たせしました!」

「にゃはは、あわせて八二〇Gです」

 そして手際よくお会計まで進みお客をレジに呼ぶ二人。と、そんな光景を満足しながら見守っていたオレだったけど…………

「ん?」

 そこで、異変に気づく。

「あれ……?」

 コボルトの様子がおかしかった。勇気が値段を告げたしゆんかん。なにやら……こんわくしたように、三体で顔を見合わせたのだ。

「あ、あの、お客様、いかがなさいました?」

 何かミスやらかしたのか? あわてて九条が聞く。すると。

「え? あーいや、ミスってもんじゃないんだけど……」

「な、なんかもっさりしてるなって……」

 コボルト達は、自分達でも困惑の理由がわからないような表情で、そんななんか要領を得ないことをいってきた。

「も、もっさり……?」

「あぁ、いや、いいんだ。けど、ま、今日は買い物いいや。時間ないし」

 そして、困惑してるうちに、コボルトはあっさり買い物を断念するといってくる。

「は、はい!? い、いえ、でももう準備できてますけど?」

「いや、いいからいいから。また寄らしてもらうわ、じゃ」

 そういうと三体は、変だなぁ……前は気にならなかったんだけど……とかブツブツいいながら店から去っていく。

「な、なんだ一体……!?

 今までなかったタイプのトラブルに、オレ達はぜんとなる。

 啞然となっていると、

「うぃーす」

 店に、今度は入れわりに、いつぴきのドラゴンが入ってきた。

「あ……!」

 あのドラゴン。

 確か、最初期に。うちの店に弁当がなかったことでクレームいってきた……この店のクレーム案件第一号のお客さんだ。

「い、いらっしゃいませ!?

 とはいえ、このりゆうは今はもう、すっかりうちのお得意さんなのである。

「今日から元祖デモン・イレブンリニューアルオープンです。えーと、肉まんも蒸したてです。よろしかったらお一ついかがですか?」

「ああ、いいな。ちょうど小腹も空いてんだよ。じゃ、一つくれや」

「かしこまりました」

 オレはいいながら、レジへ行き、肉まんを用意しようとした。

 が。

「ハァ!?

 いきなりだった(オレ達から見ると)。

 いきなり。オレ達の前で。

 その竜のお客さんが、いらちの声をあげた。

「何やってんだよお前ら!? おそすぎるだろ!」

「え?」

 耳を疑うオレ。

 いや。だって、まだ、オレがレジに向かおうとした瞬間である。お客さんが欲しいっていってから、二、三秒しか立ってない。

「いや、あの、お客様、一体……? な、何かのちがいでは? ここがコンビニで、いくら異世界で成長したオレ達とはいえ、そんなすぐに商品をお出しすることは……」

「ハァ!? なんでだよ!」

 そしてその竜はいうのである。しようげき的なことを。

「向こうのデモン・イレブンではやってくれたぜ?」

「え……えぇ!?

 思いがけないお客さんからのごてきに、オレ達は耳を疑った。

 向こうのデモン・イレブン!?

 ってことは、例の、〝先輩〟達の能力再現したゴーレムがやったってこと?

「そ、そんな鹿な……? さすがの〝先輩〟も、商品出す速度はそんな変わらないはずじゃ……」

 確かに、オレ達はあの時ちゃんと〝ゴーレム〟の働きぶりを見てこなかった。けど、これでも一応、〝先輩〟とはいつしよに働いてたんだし。予想つく気はするんだけど……。

「ハァ? なんだそれ? 俺がウソついてるっていうのかよ?」

「あぁ、いや、そうじゃなくて……」

 ヤバイ──なんかこのお客さんのクレーマーだましいに火をつけたっぽい!

 その後、そのお客さんだけじゃなく、オレ達は複数のお客さんからクレームを受けた。

 内容はほとんどこの二点。

・遅い。

・向こうのデモン・イレブンはこんなんじゃない。

「これ、もっかいていさつ行ったほうがいいんじゃないか……?」

「だから! 俺がウソついてるっていうのかよ!」

 未だに続いている竜のお客さんのクレームに、店長代理がひたすら頭を下げてる中、オレは提案した。

 ウソか本当かわからないけど。

 これだけ複数のお客さんにいわれるなら、いわれるだけの何かがあるんだろう。

「にゃは、じゃ、あたしと行こうぜ透ー今どうせ手ぇあいてるし」

 というわけで、オレ達は。

 今度は店構えや商品だけじゃなく。

〝接客〟ふくめて、〝伝説レジエンド〟のデモン・イレブンを見学しに行くことにした……!


    ※


 二度目の、となりのデモン・イレブン。

 オレ達は、窓ガラスの外から、その様子を偵察する。

 働いているのは──前に見た、なるほど、こうしてみると〝せんぱい〟達、つまり人間によく似た背格好の、デモン・イレブンの制服を身にまとった岩で出来た人形だ。

 そして、その岩人形達のレジさばきなんかを見て……

 オレはいまさら、ウチに集まったクレームが、全然ちようじゃなかったことを思い知る。

「は……速い!」

 その速さはきよう的だった。

 なんせ、客が、レジに商品を持っていって、次、後に取り出すことになる財布に手を移そうとした──その瞬間。つまり客が商品をレジに置いて、次に、財布に手をばそうとするまでの──ほんのわずかな時間の間に。

「お待たせしました。お会計一一六六Gです」

 岩人形達は、すでふくろめを終え。スキャンを終え。

 会計をいえる段階に達していたのだ。

「なんだよあの、特に、袋詰めの速さ……!」

 そのとなりで、また岩人形がレジをさばいているのだが──レジに商品を置かれた瞬間。ゴゴゴゴゴ! オレの動体視力をもってしてもギリギリ見えないレベルのうで捌きで商品を捌き、次の瞬間には袋詰めをかんりようしていた。

 おそらくそれに要した時間は一秒にも満たない。

「いやいやいやいや」

 オレは啞然となった。

「これはいくらなんでもウソだろ!? 人間にあんな動きできるわけ……」

「にゃはは? でも、私、聞いたことあるぜー」

 しかし疑ってかかるオレに勇気はいう。

「〝先輩〟。確かにこういってた。最近加減してるけど。全盛期は、レジ袋に商品つめるのに一秒もかからなかった。しかもその時いたメンバーじゃ、別にその能力はそんなめずらしいものじゃなかったって」

「はああ……!?

 オレはがくぜんとなる。

「ってことは……これやっぱり。何かの間違いとかじゃなく。ただ忠実に再現した〝先輩〟の実力ってこと……!?

 いや、すごい凄いと思ってたけど。

 本気出したらここまで人外の凄さ発揮できたのかあの〝先輩〟は!?

 しかも。本当にオレ達をきようがくさせたのは、ここからだった。

「ていうかさ……」

 見ていると。このコンビニの異常なほど優れている部分おかしい点がだんだん見えてくる。

「おかしくないか!?

「にゃは、何がだ透ー?」

「レジもおかしいけど。レジ向かう前! 見ろよ!」

 オレは、たった今、店に入ったフードをかぶった老人を見ながら勇気にさけんだ。

 そこには、おどろきの光景。

 老人が店に入った瞬間。

 三元とんとシャキシャキ玉ねぎの青じそパスタ(確か値段は四三〇G)、

 プレミアムビール(確か値段は二三〇G)、チータラ(確か値段は二五〇G)、さらに四〇のゴミ袋に、日光の旅行雑誌、ガムテープ、そして八三番のタバコ──。

 少なくともそれらが既に入ってることが確認できるカゴが、老人にわたされ。

 そしてその老人は、その中身を見ることもなく、そのままレジへ。

 そしてレジで例のしゆんかん的会計。

 それを終え、あっという間に店から出てきてしまったのだ……!

「この店に来てるお客さん──自分で商品選んでないぞ!?

 意味がわからない光景にオレはせんりつしながらいうが、

「にゃは? あれ、透、それも知らなかったっけか?」

 勇気は平然と返してくるのだった。

「へ?」

「〝先輩〟。確かにこうもいってたぜ?

 最近加減してるけど、全盛期は、お客さん入ってきた瞬間、時間帯、外の気候、風向き、湿しつ、表情筋の僅かな動きや呼吸の深さ、それから以前何を買ったか覚えてたら、それ計算して。

 かんと経験と数学的見地から、お客さんが何が欲しいか。何買うのか。店入った瞬間、的中率一〇〇%で分かったから、先にカゴに商品入れて、それそのまま渡してたんだとよ」

「それもう人間じゃないだろ!?

 オレは勇気にんだ。ようかいの域じゃん!

 少なくとも、絶対コンビニバイトやってる場合じゃない!

「ウソだろ……?」

 じゃあ、あのかんぺきな在庫管理も、結局その派生系で保ってるってことなのか?

 気候や風向き、以前の行動パターンから、だれが店に来て、何を買っていくかばくぜんと分かるから。適正在庫がほぼ誤差なく計算できる……?

 それなら、あの静かな店内の様子もうなずける。それがあればウチみたいに、あの不毛な弁当の取り合いや、雑誌の取り合いが発生しないからだ……。常に自分が欲しい商品は、既に取り置きされてる店……。凄すぎる。

 だから、オレ達、お客さんにあんなにクレームらったのか……!

「あ、あのさ、勇気」

 オレは勇気に確認する。

「さすが勇気だけあって、なんか、オレが知らない〝先輩〟のいつ、いっぱい知ってるけど。他にはもうないよな?」

「? あるぜ?」

 きょとんとした顔で勇気。

「あるんかい!」

 オレは絶望した。

 いや、どんな逸話か知らないけど、そんな〝伝説レジエンド〟の情報いっぱい知ってて、よくオレの決意後押ししてくれたっていうか、〝ひょっとしたらひょっとするんじゃねーのー〟とかいってくれたよな、こいつ!?

「ど、どんな逸話なんだよ!?

 もうこれ以上後から後から絶望情報追加されたくない。確認しとく。

「んー、いや、さすがに、後のはたいしたことないぜー?」

 勇気は笑っていうのだった。

「最近加減してるけど、全盛期は、インテリアコーディネーター一級の資格持ってたから、店のレイアウトや動線を、お客さんが足を運びたくなるように工夫してたとか……」

「地味に効果的じゃねぇか!」

「あとは、あーそうそう、一級建築士相当の経歴と、密かに都市計画の設計任されるくらいには街づくりにもくわしいんだったかナ? たぶん、この何気なく建ってる立地も。うちより数段有利な場所に出店してるんだと思うぜー?」

「立地でも負けてたのウチ!?

「あとは、あー……〝先輩〟じゃないけど。〝伝説レジエンド〟当時のデモン・イレブンには、どんなマニュアル通りに作っても死ぬほどホットスナックをしくつくっちまって、年間三千個以上からげ貴族を売った〝フライヤーのじゆつ〟の異名を持つ主婦。

 せいそうの天才、自らもけつぺきしようで、ほこりが落ちた音を聞き分けられるってごうする、〝完全漂白者パーフエクト・ホワイト〟の異名を持つ中国人のパートのオッサン。

 死ぬほどチャラ男だけど、死ぬほど頭が切れて、死ぬほどモテた〝虫すらドギマギさせる〟って評判の夜間学校の高校生。

 そんなみようにキャラたってない連中で構成されてたらしいぜー?」

「キャラたちまくってるだろ、それ!? むしろウチの店のメンバーより全然キャラいだろ!? えぇぇぇぇぇぇぇ……!

 ズシャッ。オレは地面にひざをつきしようしんしようめい絶望した。絶望ってこういうことをいうんだな、って再確認できたくらいだ。

(何、その差……!?

 なんか、勇気のほうが〝先輩〟のことよく知ってるのも微妙にショックだけど。

 それ以上に、やっぱり、〝先輩〟達、〝伝説レジエンド〟と、オレ達、〝はざ〟のあつとうてき実力差に打ちのめされる思いだった。

 なんなんだよ……〝先輩〟って、何者?

伝説レジエンド〟も、ゆうしゆうとか完璧ってことは覚悟してたつもりだったけど、心の中で、まだ常識のはん内っていうか……世間によくあるコンビニの、とてつもなく上位かん版──ただただ優秀な──みたいなレベルかと思ってた。

 異常じゃないか!

 バイトリーダーは客の思考ほぼテレパス並みに先読みできて、おかげで客のしゆこうを読んだラインナップを最初から展開できて、しかも建築や立地やインテリアにも詳しくて……、

 仲間はよくわからないけどキャラ立ちまくった連中で……、

 で、その全員が、判で押したように、見えないくらいの腕捌きで、レジや袋詰めを完了する能力を標準装備してる……!

「勝てるかっっ……!?

 知らなかった。知ってるつもりだったけど、知ることができてなかった。

〝先輩〟。〝伝説レジエンド〟。

 マジでバケモンじゃん!

 そして、オレ達が相手にしてるのは、その能力を完コピしてる、ゴーレム達なんだろ? そんなやつらに……この二週間……どう立ち向かえばいいんだよ!? 絶望的だ。

「にゃはっ。笑ってんのか透ー?」

「泣いてんだよ! もういいよ……一回帰ろうぜ?」

 もう、なんか、来るんじゃなかったよ、ていさつなんか!

 勝機を見出すつもりが。

 かなり心にダメージを負って、オレ達は自分達のデモン・イレブンにかんした。


    ※


 勝てるわけがない。

 オレの予感──というか、まぁただの現実なんだけど。

 ともかく予感は的中。

 勝負は──当初予想していた以上に、ワンサイドゲームになってしまった。

 それはじゆうりんといってもよいほど。

 勝負開始から、ちょうど五日。

 向こうの売上げは、白雪の試算で、推定七〇〇万G程度。

 対するこっちは、現在、やっと二万いくかいかないか程度だった。

 いや、あの、その差三五〇倍?

 なんかのギャグだったとしても、全く笑えないんですけど。

 もちろん──オレは、オレ達は、あきらめてない。

 勝てるわけがない、といいつつも、諦めるなんて、できるはずがないんだ。

 だから、オレ達は、やるべきことをやった。

 うちも、弁当や雑誌の取り合いなんか起こらないよう、〝せんぱい〟達の、お客さんが欲しい商品を予測するサービスにたいこうして──

 過去のデータ、白雪の計算、勇気の勘を総動員して、お客さんが欲しい商品を予測してカゴで渡すサービスを追従してみた。

 が。このサービスをやるには、オレ達には圧倒的に経験が足りない。精度が足りない。

 結果、ニーズにあわない商品をお客さんにおすすめして、お客さんをはなれさせてしまう。

 インテリアも工夫してみた。うちは動線がかなり甘い。だから雑誌を立ち読み禁止にして、通路を広くして、少しでも向こうに対抗しようと改善を試みたりもしてみた。

 結果、客はつうに減った。立ち読みは重要なコンテンツだったらしい……。

 商品のふくろめやレジも、極限まで速くしようと努力してみた。できるだけ手が見えない速度になるよう、全力ぜんれいをこめてレジ業務をやるようにした。

 結果、商品がひっくり返りまくった。ビニールに穴が空いた。手に当たって飛んでいったビールがマンイーターの顔面にちよくげきして終わったと思った。

 要するに、どれも、うまくいかなかった。

 そして、そのままさらに二日間が経過。勝負開始から一週間。

 デモン・イレブンは世界一しんくさい店と化していた。


    ※


…………!

 ちんもく

 もう何時間、会話がないだろう。

 もう何十時間、客が来てないのだろう。

 現在、売上げの差。

伝説レジエンド〟九五〇万。

〝狭間〟二万二千。

 結論。

 勝負になってない。

 勢い込んで勝負をけたのはいいものの──

 ハッキリしたのは、ただただ、圧倒的な力の差。

 レジの前。

 無人の店内に、今、従業員五人が集合していた。

「にゃはは! まぁなんとかなるってー」

 勇気だけが、相変わらず無敵の精神状態を保っているが、他の四人が応対できないため、会話にならない。

 いや、正確には、会話にならないんじゃない。会話をしたくないのかもしれない。

 なら、今、口を開くと。

 なんか、もう、とんでもなく弱気なことをいってしまいそうだからだ。

(どうすればいいんだ……!?

 さすがに、今回ばかりは、ばんさくきた感がある。

 オレ達はベストをくしてる──たぶん。

 けど、今回の敵は、レベルがあまりにけたちがい過ぎる。

 オレ達はオレ達なりにやってるんだけど、そんなもん、やっても変わらないってきつけてくるようにどんどん差が開く。

 オレ達のやってることは、なのか──!?

(いや……!)

 そんな、後から後からいてくる弱気を、オレは頭をブンブンって追い出す。

(何いってんだ。まだ諦めちゃダメだろ)

 一度勝負をいどんだ以上、そう簡単に投げ出すわけにはいかない。

(そうだ。時間はまだある。落ち着いて──ちょっとちがう角度からとか考えてみよう)

「なぁみんな──一回きゆうけいして気分てんかんを──」

 というわけで、みんなに呼びかけようとするオレ。

 すると、そのしゆんかんだった。

「あれ? 何、お前ら休憩?」

 思いがけない声が、店内にひびいた。

「ちょうどいいや。俺らもクタクタでよ。なんかバームクーヘンとかねぇ?」

「そうだ休憩しよう、休憩。あまり根をめすぎてると、物事はうまくいかないぞ? 私とデインのようにな」

「え……あ……あんた達……?」

「まさか……!」

 きようがくに包まれるデモン・イレブン。

 まさかの、こんなタイミングで。

 世界最高戦力がデモン・イレブンに来店した──!


    ※


「デインと……ベアトリーチェ!?

 入ってきた二人を見て、オレ達は目を丸くした。

 そう、このタイミングで店に訪れた二人。

 片や、たけだけしくとがったくろかみに、ラフに金のはちがねを巻いたどこか野性味あふれるガタイの良い男。

 片や、上品な赤髪に、絶世のぼうほこるが、身体中から出るため息が、何故か全身に残念なオーラをまとわせているどこか不幸そうな女。

 うちの超常連が、このタイミングで来店である。

「な、何してるんですか……!?

 思わず聞いてしまうオレ。

 しかし、二人は聞いちゃいねぇ。

「お、おいちょっと待てマオ。その前に〝私とデインみたいに〟って何だ? だ、だから、オレはお前のことを……」

 あわてた様子で勇者。

「もういい。お前はいつだってそこから先の言葉をいってくれないじゃないか。どうせ私のことなど遊びだったんだろう……?」

 いつも通り絶望的な表情でおう

「ハァァ!? だから違うっつーの! オ、オレは、お前のことを……」

…………

「ス……ス……」

 ゴクリ、と店にきんちようが高まる。

「ス……スルメ……」

「……プッ……」

 魔王が、こらえきれないように笑った。

「……バカなやつ。まぁ、そういう素直じゃないところも私は好ましく思っているんだがな」

「マオ……!」

「ただ……次はないぞ? 次は……もっと甘い言葉をささやいてくれよ? 魔王の私をいちげきたおすようなとびきり甘いやつを、な」

「ちっ……バカヤロウ。全く、魔王どころか、とんだ小悪魔がここにいたもんだぜ」

「フフ……」

「ヘ、ヘヘ……」

 無限に続く、聞くにえないラブコメ。

「さて──と」

 電光石火の動きでペットボトルを手の中にしようかんしているのは九条だった。

「この二人に水ぶっかけるけど、いいわよね?」

「あぁ、いんじゃね?」

「塔子も賛成ですー」

 あきれたように店長代理と白雪が賛成、あっという間に過半数をかくとくした九条はうなずき、

「何を……人の店で心行くまでラブコメやってんのよこのバカップル!」

 二人の頭に、二人ですらけられないいかりの速度で水をぶっかける。

「あばっ!? な、何しやがるマイ! てめぇ、オレら客だぞ!?

「ひどいじゃないか! マイだけは私のこいおうえんしてくれてると思ってたのに!」

「うるさい! 大事なときにぜんぜん店に来ず何が客よ! てか……あんたらここ一週間何やってたのよ!?