いや、そんな、難しいオーダーしてますかね……?


「やれやれですね」

 そんな年上達の苦戦を見て、見かねたようにいったのは最年少店員、白雪とう

「〝足るを知る〟って東洋の考え知らないんですかね、ここの人達は……」

 スマホをいじりながら、冷たくいったのは白雪。

「仕方ありません。塔子がちょっとひとはだぎますよ」

「いや白雪……」

 その名乗り上げに、オレと九条はちょっと不安になった。

 というのも。この白雪も、どっちかっていうとじようというか、なんでもかんでもやりすぎてしまう部分があるからだ。

だいじようか?」

「あんた、あんたこそ〝足るを知ってる〟とは思えないんだけど……」

「何いってんですか。要するに、つうのポスター一枚貼る。それだけでいいんでしょ?」

 じようきようを簡潔に説明してくれる白雪。おおっ!!

「そ、そういうことそういうこと」

「その当たり前のことがここまで二名は出来てなかったのよ!」

「チッ」

「なんだぁマイそのとげのあるいいかたは~?」

 店長代理と勇気がこうしてくるが、

「わかってますよそれくらい。じゃ、少し待っててください。すぐ仕上げますから」

 いいながら、右手に電動ドリル。左手にハンダゴテを持ちトイレにとつしんしていく白雪。

 ん……? あれ?

 たった一枚ポスターを貼るだけなのに、なんでそんな文明の利器が必要なのかな?

 オレの不安もむなしく、ウィィィィィ……! 白雪が割り込んだトイレから、なぞの工事音がひびいた。そして──!


 ──一時間後。

 オレ達は、首を長くして、白雪と入れわりで入った客が出てくるのを待っていた。

「いや白雪……」

 その状況。さすがにえ切れず、オレはとなりの白雪に聞いた。

「あ、あのさ。お前が謎の工事して、そのすぐ後に入ったお客さん。もうかれこれ一時間くらいトイレから出てこないけど。ど、どういう状況なのかな?」

「え? い、いえ、塔子、ですから、一枚、普通のポスター貼っただけですけど……」

 なんか歯切れ悪くこうべんしてくる白雪。なんかあやしい……。そして、

「おぉいいつまで待たせんだよ!」

「こっちは店内にいつぶちまけたっていいんだぜ!?

 ドンドンドン! 並んでる数百体の魔族がトイレのドアをあらくノック、フラストレーションもいよいよばくはつしかけたその時──ガチャ。

 トイレのとびらが開き。白雪と入れ替わりで入っていった、むらさきいろのガスの集合体のような魔族がようやくふわふわとただよいながら店内に出てきた。

 だから、どーでもいいけど、ああいうお客さん、どうやってうちのトイレで用足してるんだよ……。

「おいお前長すぎるんだよ!」

「なんでそんなことになってんだよ!?

 そしてそのガスに集中する非難の声。

「え? い、いや、なんかあんまりにもれいな映像で、見入っちまってよ」

 ガスは、ほうけた声でいい、そしてなんかつかれたように店外に出て行った。

「ちょ、ちょっと失礼」

 そのリアクションに疑念を深めたオレは、おいお前! とクレームが上がる中、トイレに足をみ入れる。映像って今いってなかったか?

 果たして──オレの予想は的中していた。

 便器の前。扉の裏。

 ポスターを貼るのにちょうどいいポジション。

 そこには、ポスターは貼られていなかった

 そこに貼られていたのは──ポスター程度の大きさと、厚さで造られた、ごくうすのタッチ式ディスプレイ。

 そのディスプレイは、4kなど目じゃない高画質の映像で、代わるがわる店内の商品を広告し、さらにタッチすると、白雪特製のコンビニミニゲームで遊べたり、日本のテレビ見られたり、ネットできたり、電話できたり(AMにのみ)……

 いたれりくせりな仕様になっていた。

「あ・の・なぁぁぁ」

 オレは絶望。

「住んじゃうやつ出てくるだろ、こんなもんここに設置したら! 白雪~!」

 白雪を呼び出す。

「す、すいません。頭ではわかってたんですけど。せっかくだからあれもつけようこれもつけようってしたら、こんな出来に……」

「い、いやあのさ。サービス精神おうせいなのは、科学者として、またコンビニ店員として良いことだとは思うよ。けどさ、」

「は? 何いってるんですリーダー? 最新の発表じゃ、サービス精神と科学者としての成功は必ずしもいつしないって学説デフォですよ? まさかそんなのも」

「うるっっせぇぇぇ! いいからだまってオレのフォローからの説教聞けよ! もう……とにかくはがすぞ、これ!」

「えー、これけっこう気にいってるのになー……」

 ブツブツいいながらはがす白雪。

 まったく、どいつもこいつも、普通にポスター貼れないもんですかね……!?


    ※


「ったくもう……話が進まないじゃない! 一回ポスターからはなれましょう!」

 そんな失敗続きの状況を受けて、さけんだのは九条だった。

「このままじゃ、店内にこんだけお客さんいるのに、みすみす全部のがすことになるのよ! とにかく、なんでもいいから、なんか買わせないと……!」

 くやしそうにつぶやき、

「そうだ」

 そこで九条はハッと思いついたようにいう。

「コンビニで買い物する気はないけど、トイレには行きたいわけよね、魔族この人ら

 だったら……逆手にとって、買い物しないとトイレ使えないような状況にするっていうのはどう?」

 められたのか、あせった表情でオレに提案してくる九条。

「か、買い物しないとトイレ使えないようにって……どんな?」

「だから──こうするわけよ」

 言い残すと、九条はいつもの要領で客がトイレに入る直前にトイレに入り、すぐさま出てくる。

「おい順番かすなよ……!」

 入れちがい様、次に並んでいたおおかみ男のようなぞくが、舌打ちしながらトイレに入っていく──が、約一分後。

 悲劇が起きた。

「紙がねぇ!?

 トイレからあがるかなしい声。

「お、おい、紙くれ、紙!」

 そしてドアをドンドンたたきながら訴えかけてくる魔族。

「オイまさか……」

 その光景を見ながらオレは震えた。

 そして九条のほうを見る。見ると九条の手には、クルクルクル……とうぞくがナイフを回すような要領で回る、予備とスタメン、二本のトイレットペーパーがおどっていた。

「悪魔か!!

 勇気や店長代理や白雪の比じゃねぇ! オレはツッこむが、

「え? まずい? いや、ほら、今コンビニって、トイレに流せるポケットティッシュも売ってんじゃん。だから、行列の客すべてをこの状況に追い込んで、一人一回ポケットティッシュ売れば、そこそこ売上げになるかなって思ったんだけど……」

「やめようぜ!? そんなブラックな商法!」

 こわすぎるよ、そんなコンビニのトイレ!

 とりあえずオレは九条からトイレットペーパーを回収し、小さく開けた扉のすきから、後ろ手で狼男にトイレットペーパーをわたす。

「あ、あのさ。コンビニってそういうんじゃないじゃん」

 そして九条に苦情。

「確かに売上げはあげなきゃなんないけどさ。そういう、こう……営利目的じゃない部分も、コンビニのポテンシャルの一つじゃん。

 雑誌立ち読みできたり。暗い夜道でも明るかったり。タダでトイレ借りられたり。それ、コンビニの経営に何の役に立つの? そういうとこが、コンビニの良さだし、オレらもそういうデモン・イレブンが好きになったんじゃん」

「まぁ、そうだけどさ……」

「だから──」

 と、そこまでしやべってから、オレはふと思った。

 あれ……?

 待てよ。

 雑誌立ち読みできたり、暗い夜道でも明るかったり、タダでトイレ借りられたり。

 それ、コンビニの経営に何の役に立つの? そういうとこが、コンビニの良さ。

 それが、コンビニの良さっていうんなら。

 もういっそ、変に色気出さず、そっちに特化するって作戦もありか?

「思いついた……!」

 ガッ! オレは思わず九条のりようかたに手をやりながらいった。

「はぅ!? お、おおお、思いついたって、な、何を思いついたのよ!?

 何故か赤くなって挙動しんに叫ぶように九条。

「お前らのおかげで思いついたんだよ。コンビニの──いや商売の基本。

 急がば回れ。まずはてつていてきに店の信用を上げるんだよ!」

「は、はあ!?

 変に赤くなった顔のままこんわくの声をあげる九条。

 そんな九条をふくめ四人にオレはオレの考えた作戦を説明し──

 このトイレそうどうにカタをつけるため動き出す!


    ※


「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。お待ちの間、のどがかわいた方いらっしゃいましたら、どうぞお茶をお飲み下さい!」

 一〇分後。オレ達は行動を開始していた。

「お? 何これ? お茶ー?」

「はい。デモン・イレブンのコーヒーとかでもなんでもなく。事務所のポットでれたお茶です。もちろん無料ですので、良かったらお試しください」

 オレは、本来デモン・コーヒー試飲用の一回り小さい紙コップを使って、列に並ぶお客さんで、希望する方一体一体にお茶を配っていく。

 その間、

『さぁみなさん大変長らくお待たせしました、今日のデモン・ウェーブ、お相手はみなさんのお耳の親友、かべケイタです。

 今日は魔族のお客様が多いとのことで、私が考える魔族にピッタリなおでん百選を種族ごとにレコメンドしていこうと思います。まず手始めにスライムのお客様ですが材質が似ているということでこんにゃくにミソだれをつけて食べる食べ方を──』

 店長代理は事務所の店内のスピーカーを通じて必死にラジオパーソナリティとしてアドリブでトークを始め──

「にゃはは! このラジオおもしれぇよな~。でさ、これもおもしろいんだけど、この前ベアトと話してたら、あいつまた変なこといっててさー」

 勇気は、持ち前の飛び込む力で行列で並んでるお客さんに世間話をけ──

 どっ! 講談師か何かなの!? ってくらい周囲をばくしよううずに巻き込んでいる。

 すげぇな! あと、共通の話題である魔王をテーマにしてるのもやっぱうまい!

「ったく、もう、なんで塔子がこんなことを……」

 白雪は白雪で、さっきとは逆、外で待ってるお客さん専用、自作のうすがたけいたいゲーム機〝デモン・パッド〟を配って、それ使ってみんなで通信対戦とかしてるし(ちなみに白雪はブーブーいいつつめちゃめちゃノリノリである)、

 ともかく、全員、商売とは関係ないことでお客さんをおもてなししまくっている。

「ど、どういうじようきようなのよこれは……!?

 その状況で困惑しているのは九条だ。

「い、いいの!? こんな商機に、こんなにも商売と関係ないことに全力費やして!

 たとえば、あんたが配ってるお茶! それ、せめて試飲用のデモン・コーヒーとかにしたほうが、まだ売上げに結びつく可能性あるんじゃ……」

「いやまぁそりゃそうだし。希望があれば、後でそれもやるつもりだけどさ。けど、トイレ待ってる魔族の人達に、尿によう作用あるコーヒー配るって……いくらなんでも向こうの事情無視しすぎじゃん」

「あ……」

 オレのそのてきに、九条はきよをつかれたように固まり、

「じゃ、じゃあ。店長代理のラジオとかも、今日はそんなに強引なおでん推しじゃないのには、何かねらいあるわけ……?」

「いや別に狙いってほどじゃないけど……単純に、トイレ待ちの時は、強引なおでんの営業かけられるより、一番組として、ラジオとして成立してるもの聞いたほうが、お客さん的には面白いだろ? その辺はいりよしてたのむってオーダーしたら、まぁさすがプロだけあって、なんだかんだ店長代理が対応してくれてるだけで……」

「勇気と塔子も、ほんと、ただお客さんと遊んでるだけだけど……」

「いや、うん、まぁ、そこもあんまり商売のことは考えないでいいってオーダーしたし。それに対応してくれてるだけだと思うけど……」

 九条はオレのその説明にぼうぜんと、

「……じゃあ、まじで、狙いないわけ? これやったら、これ売れるとか。売上げに結びつけようって色気なしで、これやってんの!?

「いやそりゃ、ちょっとは結びつけばいいなって思ってはいるけどさ」

 オレは正直にいい、

「けど、やっぱ、さっきもいったけど。お客さんに対する営業って、すぐ効果出る、劇薬的な営業も重要だけど。

 たぶん、商売って、それだけじゃダメじゃん。

 だってオレらが子供のころデモン・イレブン通ってた時。

せんぱい〟始め、だれかから、そういう売上げ上げる為のワナ、仕掛けられたか?」

「あ……」

 九条はハッとなったように固まり、

「そう……ね。話聞いてもらったり、雑誌立ち読みしたり……売上げにこうけんしないことばっかさせてくれたから……足しげく通ってたのよね……」

「そうそう。でもそんなオレらでも、たまの休みに、そのお気に入りのコンビニに親連れて行ってなんか買わせたり。ちょっとオトナになって、コンビニで物買おうってなった時、やっぱ愛着あるそのコンビニ行って商品買ったりするわけじゃん。

 だから、まぁ。オレらって、売上げ急いであげなきゃダメな立場でもあるんだけど。

 そうやって、そもそものパブリックイメージみたいなの上げていくのも仕事なわけだし。そこゆるがせにして目標達成しても……たぶん自分の中の、昔の自分は、納得してくれないじゃん」

 オレは九条に確認するようにいう。

「だから、こういうつうに困ってるお客さんがいっぱい来てる状態の時は、そんなにこっちも焦らず、まずはこっちを知ってもらう……くらいの温度でめる度胸、オレら、見せてみればいいんじゃん?」

 四人に話したオレの作戦は、つまりはそういうことだった。

 今思えば、オレ達は前のめりになりすぎてた。勇気のあの遠まわしな詩でさえ、結局何か買わせるためにつくられた作品なんだし。

 というわけで、今回は戦略的に商売度外視。

 こっちの狙いは極力おさえ、ただお客さんが喜ぶのは何か……?

 それだけを考えて、行動してみよう、そう伝えたのだった。

 そして。オレのその遠大な狙いは、予想以上に早く、その効果を現しだした。

「おい、城のトイレ直ったってよ! 四天王とおう総出で直してくれたらしい!」

 九条と話していると、コンビニ内に、魔族によってそんな朗報がい込み。

 店内に並んでいた列はあっというまに散開、しゆんかん的に、店内に魔族はほとんどいなくなった──

 はずだった。が。

 そのしらせが来て以降も、店内には、まだけっこうな数の魔族がトイレに並んだまま動かなかった。

「なんか色々おもてなししてもらったしなぁ……」

「どうせトイレ行くなら。多少並んでも、この店のトイレ行くわ……」

 そんな魔族が続出し。店の中に残ってくれていたのだ。

 帰っていった魔族達も、出て行くとき、なにやら少し名残なごりしそうだ……。

 このままなら、今日、明日あしたは無理だとしても。近い将来、ちゃんと回りまわって恩返しに来てくれる。そんな手ごたえが確かに得られた。

「な?」

 その光景を見ながら、ホッとしたようにオレ。

「ふーん……」

 九条は、その光景を、何故か、やけに感心したように見守っていた……。


    ※


 とうわけで、魔王城でのトイレ問題もおおむね解決。

 これで、やっと、ほんごし入れて、【S】ランク目指せる状態が整った。

 その土地の問題解決して、売上げ上積みしていけそうな状態になったら、とつぜん転移。

 そしてその転移先でわけのわからない連中の騒動にり回される──!

 その騒動のり返しで、最初に海上にいってから、もう二週間くらい売り上げ伸ばせてないけど……。

 勝負はまだまだこれからだ。

「よし、今度こそ……!」

 へこたれずにつぶやく、オレ。

 しかし、その時だった。


 ドドドンッ!!


 今までのものより。

 一際大きいばくはつ音が、とつじよ、オレ達の足下から、店内に鳴りひびいた──。