『いや、なんでこんな話するのかっていうとね。なんのことはない。昨日、久々に、おでんの卵、食べたんですよ。

 あ、卵、分かりますよね? にわとりの卵。

 おでんには、ゆで卵を、他の色んな具材──ちくわだのコンニャクだの牛スジだのしようだの──っていってもわからないかもしれませんが──。

 ともかく、色んな具材がけ出した少し甘みのあるしるいつしよに煮て、たっぷり味を染みこませて、それをらう──そういう意味の〝たまご〟ってメニューがありまして。これ久々に、原点回帰で食ったら……まァうまいんですよ』

 おそろしいほどの実感・情感をこめながらマイクの前で語る店長代理。

 ごくり……。

 そのしゆんかん、平原のはしと端。

 そのりようたんから、軽く千はえる数の〝ごくり〟が──平原に向かって放たれた。

 すげぇ! さすが店長代理!

 早くもけっこうな数の兵士きつけることに成功してる!?

 確かに今日ほど、店長代理のおでんスキルが役立つ日もそうはあるまい!

 経験上、この世界じゃ、戦意喪失に、おでんは最強ともいえる効果をもってるからな何故か……! 店長代理は続けた。

『まずね。味がたっぷり染みた、白身の部分を食べる。これが──もう──俺千回以上食べてんのに、なんかなみだ出そうになりましたよ。甘い出汁で煮ることで、卵の白身自身が持つうまみを最大限引き出してて──すんごいやさしい味がするんです』

 ごくり……。

 再び戦場にひびく〝ごくり〟。

「なんだよ……コイツ、何の話してんだよ!?

「おでんって何だ!? おでんって何だ……!?

 両軍から、そんな悲鳴にも似た声が聞こえてくる。まぁ、両軍、戦争中ってことは、食事も食べたいものを食べたいだけ食べられるってじようきようではまずないだろうし。その辺、フラストレーションまってるのかもな……。

 店長代理が続ける。

『でね。まぁ基本っちゃ基本なんですけど。もちろん、いくらしいからって、ここで一口で食べたりしちゃいけません。

 おでんってのは、基本、食べる時、そこに、無料でスープがついてくるんです。さっきもいった、色んな味が溶け込んだ……おでんのたましい、とも呼べるスープが、ついでのようにね』

「マジかよ……!?

「無料でスープが……!?

 あっさり食いついてくる兵士達。もう完全にきようしんしんだ……!

『そのスープを、半分食べて、黄身が大部分顔を出している残りの半分卵にかけて食べるんです……これが……スープで卵がホロッホロになって、なんか……。

 ぎよう悪いんですよ? 行儀悪いんですけど……黄身の味とスープの味がからまりあって、今まで食ったどんな高級料理より、何倍も、何十倍も、舌が喜ぶ味がするんですよ……』

「マジかよ……!?

「殺す気かコイツ……!?

 ごくり、ではなく、じゅるり、という音と共に、悲鳴のような声が大地に響き渡った。いやなんかむしろノリいいなこの戦場の兵士達!? 昨日の無関心どこいった!?

『で、ね。最後。スープをかけて、ホロッホロにくずれて、逆に、スープに崩れ落ちた、卵の黄身あるじゃないですか?

 この崩れ落ちた黄身ごと、ズズ、とスープを飲み干すんです。これが、さっきとはまた違う……けっこうい味のスープの中に、い~い感じのアクセントとして、黄身の断片が混じってて……もう、ほんと、自然に顔ほころぶんですよ……ふぁぁ~って』

 ふぁぁ~とほんとに顔をほころばせながらいう店長代理。

 ふぁぁ~。その幸せオーラは、またたに平原にでんしていった。

「クソ……なんだよ……にくしみが……憎しみが消えていく……!?

「俺達……なんでこんなことやってたんだっけ? その結果、こういう……うまいもんもロクに食えないって。なんか本末転倒じゃね?」

 カランッ。ガシャッ。

 平原のところどころで、兵士が武器を捨てていくのが見えた。

 いやいやいやいや!

 すごすぎるだろおでん×店長代理×ラジオの効果!

 期待以上に、オレ達の作戦効果発揮してる!?

「おい……お前ら……どういうつもりだ!?

 が、その時だった。

 デモン・イレブンにけ寄ってくるがあった。

 見るとそこにいるのは、ぎんぱつオールバックのしぶいオッサン──。

「あ、オジサン……」

「サムソンだ!」

 オッサンは名乗った。

「それより──何やってんだお前ら!?

 いななく騎馬に乗ったまま、こちらにってくるオッサン。

「余計なことすんじゃねぇ!」

 そしてオレ達をいつかつする。

「このままじゃ戦争が続けられねぇだろ! オレ達は……ゆずれねぇもんがあって戦争してるんだ! 国の為に、オレ達は、どっちかが勝つまでちゃんと戦争を──」

『うるっっせぇぇぇ!

 しかしその一喝を、今度は店長代理が一喝した。

『あんたら兄弟なんだろ? 兄弟だったら……いつまでもけんしてんじゃねぇよ!』

 店長代理が、マイクをオンにしたままさけぶ。

『兄弟喧嘩は、一晩て、一緒に朝メシ食って、夕方一緒にゲームしたら……それでなんだかんだ手打ちってのが兄弟界の基本的なルールじゃねぇか!』

 いかくるう店長代理。いや、それ、兄弟界っていうか、真壁家のローカルルールなのでは……とも思ったが、

『その手打ちにする手順、みたくても、踏めない兄弟だってこの世にはけっこういるんだぞ! 兄貴の居場所わからねぇとかさ! その点、あんたらはちょっと歩み寄ればそれ実践できんだ! この世の、仲直りしたくてもできない兄弟達の為にも──くだらねぇ意地はってねぇでさっさと仲直りしろや!』

 切実な声音で、サムソンさんを𠮟しつせきするようにいう。

…………

 その、店長代理にしてはめずらしくな説教に、サムソンさんも、何か感じるものがあったらしい。

「……お前も兄弟いんのか!?

 サムソンさんは、下から店長代理に聞いてきた。

『いるよ! 暴言いて、喧嘩した後……心も身体からだもバラバラになっちまって、しつそうして、仲直りしたくても、物理的に仲直りできねぇ……やつかい極まりねぇ兄貴が!』

「仲直り……したいのか!」

 しんけんな表情で確かめてくるサムソンさん。

『当たり前!』

 そくとうする店長代理。

……………………

 その返答に、サムソンさんはしばしちんもくしていたが、

「クソったれ──勝手にしろ。オレには……オレのやり方があるんだ!」

 気に入らないように、納得いかないように、そう吐き捨て。そのままデモン・イレブンの下から駆けていってしまった。

「あぁぁあ……」

「くそ、何よあいつ! 説得失敗!?

 それを見て、オレと九条はかたを落とすが、

『気にすんな』

 店長代理は肩をすくめて、さほど気落ちした様子でもない声でいった。

『当初の計画通り行こう。俺達は、ラジオで、両軍の思想のかべを打ちくだくんだろーが』

 前向きにいう店長代理。

 確かに……!

 オレ達は、その言葉で再び前を向いた。

 もともとオレ達は、あの二人に直接うつたえかけるんじゃなく、周りでやってる戦いそのものをやめさせて、結果的に仲直りさせようってのがねらいだったんだ。

 当初の狙い通り、戦争終結させればいい!

『えー失礼しました。ちょっと公開収録にありがちな乱入者が一人現れまして。

 気を取り直して、ここで音楽行きましょうか。音楽はこの人。みや勇気さん』

『にゃははは! りようかいだぜー真壁サン』

 勇気がブースに入った。


『さぁ、ここからは、あたし、野宮勇気のほうがく洋楽セレクション。最新のブラックミュージックから今流行はやりのJポップまで、今この瞬間にマッチする音楽をセレクトして、この草原をダンスホールに変えてやんぜー!』

 ここでパーソナリティがもう一人のパーソナリティ、野宮勇気にスイッチ!

 勇気のコーナーが始まった!

『今日はおでんの話から入ったからな……。今、日本じゃ『BIG‐4』ってちようにんアイドルがいるんだけど、そいつらのトリプルミリオン曲、〝世界に一つだけのおでん〟いってみっか!』

 そして流れ出す音楽。

 勇気は、だんラジオをよく聞いてるとかで、ラジオにくわしい。また、音楽のしゆ素人しろうとのオレから見てもなんかセンス良さげだった。だからこのコーナーを任せてる。

 そして、流れ出したオレはよく知らない〝世界に一つだけのおでん〟は──

 なるほど、最初はなんかネタ系の音楽かと思ってたけど……歌詞をちゃんと聞いてみると中々良い歌だった。

 おでんには、様々な具がある。

 けど、おでんの具達は、別に、どの具が一番だなんて競い合ったりしてない。

 おでんの具には、それぞれ、良い部分がある。

 人間もおでんの具のように、ナンバーワンじゃなく、オンリーワン、いやむしろオデンワンを目指そう、そんな歌詞の曲。

「ほんとだ……なんでオレ達、こんな不毛な争いしてるんだ……」

「ちくわに牛スジ、たまごに大根、ロールキャベツにしらたき……。全く出自も個性もちがうそいつらが共存してる〝おでん〟とやらのように……オレ達も……共存できないものだろうか?」

 そして、その効果はばつぐんだった。

 カランッ。

 カランッ。

 次々戦場に放り出されるやりや弓。

「やっぱいいわよね、セカオデは」

 そして、となりでは、ちょっと目をうるませながら九条がいった。セカオデ!?

「そんなあいしようなんこの歌!? つか、これ、そんな有名なんだ……?」

「当たり前でしょ? カラオケじゃ定番よ。今度CD貸したげるから聞きなさいよ」

「あ、うん、はい……」

 うなずくより他ない。でも確かにいい歌だし、オレもきこんで練習しよ……!

 そしてその勇気の音楽が終わり、次は、

『さぁ次は、新コーナー。こいのミューズ九条の〝れんあいなやみ一一〇番〟のコーナーだぜー? じゃ、たのむぜマイー?』

『わかってるわよ。今日は第一回目だから、さっきAM通じてきんきゆうしゆうした、日本人からの恋愛相談に答えるわよ。

 えーと、RNラジオネーム〝イナバの白ウサギさん〟から。

〝最近、好きな人が出来ましたが、どうもその好きな人は、私の気持ちに全然気づいていないようです。彼と私は、おさなじみのような関係で、今さら言い出すのはちょっと難しいじようきようでもあります。いまの関係のままでもじゆうぶんだし、それをこわしたくない気持ちもあるし、でも、気持ちを伝えたい想いもあって……姉なら、どうしますか?〟』

 お便りを読み上げていく九条。麻衣姉!? なんで一回目で早くもそんな愛称定着してるんだこの番組!? それに対し九条は、

『うわ、何これ……めちゃくちゃ気持ちわかるわ……。

 私も同じような……ううん、私の知人にも同じような状況に置かれてる子がいてね。ほんと、ニブイ男相手の片思いってのも、これはこれでつらいもんがあるのよねぇぇぇ……! ああ、うん、あくまで知人のハナシだけど……』

 なんか親身に相談にのっていく九条。

 この、とりたててラジオ好きでもないという九条のコーナーを提案したのは勇気だった。

 ラジオ好きの勇気いわく、ラジオでは、恋愛相談がテッパンだと。

 聞いてるほうも感情移入して、このシチュエーションでも効果大のはずだと。

 そして、今、デモン・イレブンでそれができるのは……サブリーダー、九条しかいないと。その勇気の言葉は、どうやら正しかったらしい。

「恋愛か……。そういや、オレ、この戦争終わったらけつこんしてくれっていったこんやく者故郷にいるんだよ……」

「マジ!? オレも全く同じ!」

「マジ!? オレも、この戦争終わったら結婚してくれっていったやついるわ。あぁぁぁ……あいつ、元気にしてっかなー……」

 この戦場、どれだけ〝この戦争終わったら〟フラグを立ててた兵士がいたのだろう。

 カラカラカランッ。

 店長代理と勇気のコーナーにひつてきする勢いで、また、戦場に武器が置かれた。

 前の勇者とおうのオヤツこうそうの時も思ったけど、九条って、なんかみように親身というか? 恋愛に関して自分事として考えるの得意だよな。

 しかし九条にそんなニブイ男に苦しんでる知人がいるとは……。オレでよかったら何か相談のれるかもしれないし、後でちょっと九条に声かけてみるか……。


 そんな具合に、三人のパーソナリティを中心にラジオを展開し、ラジオで戦争をとめようとするオレ達。

 しかし、相手は〝戦争〟である。さすがに、ことはそう簡単に運ばず、両軍でせんとうめようとしない勢力は、中々なくならなかった。

 そして、そんなジリジリした状況がしばらく続いたころ

 事態が、少しずつ、悪い方向に流れ始める。

「あのせつて! あれは『ルージュ』の洗脳施設である!」

「あれは『ノワール』の新兵器だ! あれをちくしろ!」

 自分達の軍勢が、どんどん戦意そうしつしていく事態にどうようしたのだろう。

 両軍の、一部の位階の高そうな兵が、デモン・イレブンをこうげき対象にえ、部下を使って攻撃をけてきたのだ。

「うおおおおおおおお!?

 一気に矢や火矢、いしゆみの矢にさらされるデモン・イレブンの録音ブース。

「リーダー!」

「わかってる!」

 そこで動くのは、オレと白雪。

 オレと白雪の役割は、パーソナリティではない。

 白雪はディレクターけん警備主任。

 オレはAD、警備員を兼任していた。

「デモン・バリア発動!」

 白雪がスマホをいじると、

 ヴンッ──。

 どういう仕組みなのかしらないが、デモン・イレブンの上空にうすい膜のようなものが展開──

 カカカカカカ!

 さつとうする矢そのことごとくをはじき返した!

「「「「すげぇ!」」」」

 その光景に、オレをふくめた残り四人の店員はさすがにさけばざるを得ない。バリア設置店だったのか、うちのコンビニ……!

「リーダー!」

「わかってる!」

 とはいえ、すべての矢を打ち落とすのは不可能らしい。

 三本、バリアのさらに上から、矢が屋上に殺到してくる。

「そこっ!」

 それに対し、オレは白雪特製の例の万引き防止ボールを放りげいげき

 ゴッ! 二本を無事ばくし、残った一本を、

「あぶねっ!」

 パシッ! ラジオブースにさる直前、かろうじて、手づかみでローリングキャッチした。

「「「「すげぇ!」」」」

 そのしゆんかん、屋上で思わぬかんせいがあがった。

「むしろリーダーのほうがすごいんですけど!?

「あんたどうやってんのそれ!?

「え? ど、どうっていわれても……。矢っていったって、いつも店内で暴れてたやつらのけんとかほうよりはおそいし……。自然とこれくらいなられるようになっちゃったんだけど……」

「「「「……………………」」」」

 全員何も答えてくれなかった。勇気ですら引きつった顔でちんもくしてる。

 な、なんだよ……オレ、なんか変!?

 オレ、ちゃんと、どこにでもいるつうのコンビニバイトってキャラ保ててるよな!?


 しかし、そんな、白雪のバリアと、オレのキャッチで防戦したところで。

 さすがに、プロの軍勢、しかもこれだけの数を相手に、いつまでもていこうできないのは目に見えてる。

「どうします!? この塔子のバリア、店の電力使って展開してますから、もうそう何回も張れませんし……そもそも、電気代はんじゃないことになって本部にブチコロサレルかもしれませんよ!?

 止まない攻撃に、次の手を決めきれないように白雪。

「ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ……」

 オレのろうも限界に達していた。まぁそりゃそうだろ……何本弓矢ローリングキャッチしたか……。

『クッソ……ここまでか?』

 くやしそうにいう、店長代理。

『やっぱ……オレの声の力なんか、こんなもんなんか? 俺には、戦争とめることも……兄貴と仲直りすることも、できねぇんか……』

 希望を手放すような声でいう店長代理。

 だが、その時だった。

「「あきらめんな!」」

 戦場に、思いがけない声がひびわたった!


    ※


 声の主は、地平線より現れた。

 赤と黒。大軍を引き連れた、二つのがこちらにけ寄ってくるのが見えた。

「え? あれは……」

「例の兄弟じゃない!」

 叫んだのは、九条。そう、現れたのは、オレ達が助けようとし、そしてさっきは店長代理の言葉に耳を貸さず去っていったサムソンさんを含む──

 サムソンさんと、兄貴、オルバさんの兄弟だった。

「兵を退け!」

「これ以上だれも攻撃してはならぬ!」

 そして二人は、デモン・イレブンを攻撃していた兵士達に停戦命令を下す。

『ど、どういうこった……?』

 店長代理がマイクの前で思わずこんわくの声をあげるが、

「どうもこうも。だからいったろーが! オレにはオレのやり方があるって。

 オレはオレのやり方で。

 兄貴と和解して。

 この戦争──止めに来たんだ!」

「感謝するぞ、若いの。お前のおかげで、オレも、決心がついたよ。確かにお前のいう通りだ。世の中には、仲直りしたくてもできない兄弟もいる。

 オレ達──ちゃんと、直接あって、もっかい話あってみるわ」

 いったのは、おでん売りに行った時に会ったチョビヒゲのオッサン、オルバさん。

『マジかよ……!?

 その展開に、オレと店長代理は思わず顔を見合わせた。

 よかった……諦めかけたし。オレも、だったのかもしれないと思いかけてたけど。

 意味あったんだ。

 そして、店長代理の声は届いたんだ。

 自分達兄弟じゃないけど……少なくとも、こうして、店長代理は、異世界の兄弟、一組、仲直りさせられたんだ。

「さぁラジオ続けろよ! お前らはお前らでラジオで戦争止めるんだろ?」

「オレ達はオレ達で、両軍のまだ抵抗したいやつらを説得して回る。

 それで──どっちが先に戦争終わらせられるか……勝負だ」

『おっしゃ……!

 ぜんやる気がよみがえった声で店長代理がいった。

『いいじゃねぇか。ここからが本番だ。たましいのパーソナリティ、真壁ケイタのトークで戦場におでんの花をかせてやる──』

 再び話し出す店長代理。

 そこからは、急展開だった。

 ただでさえリーダー格が停戦を決めた状態、しかももともとラジオの効果で、両軍の戦意は喪失中。

 当初、停戦に合意してなかったグループも次々停戦に合意し、またたに、戦場に、戦争続行を叫ぶグループがいなくなる──。

 そして。

『さぁここで特別ゲスト! 『ルージュ』の総大将オルバさんと、『ノワール』の総大将、サムソンさんだ』

 争いがなくなったのを見て。

 店長代理が、オルバさんとサムソンさんをゲストに呼ぶ。

『こんにちはサムソンです』

『オルバです』

『この度我々は──『ルージュ』と『ノワール』の完全停戦に、合意しました』

 そして早速、停戦を発表するサムソン&オルバ兄弟。おお!

『正直、両軍にはまだめ難いみぞがあるとは思う。オレ自身、兄貴とそんな感じだし』

『だが……そもそもは、たがいに、国を良くしようという思いでは同じだったはず。それがいつのまにか、大きくたもとをわかって、戦争にまで発展してしまったが……』

『オレ達が犯した罪は大きい。けど──これ以上罪を大きくしないようにすることはできるはず』

『もう一度、国民全員で考えよう。自分達の考えだけでも、相手の考えだけでもない。本当に国の──いや、国民のためになるルールを』

 とつとつと語り切る、オルバさんとサムソンさん。

 その瞬間──

 ワァァァァァァァァ!

 オレ達がこの草原に来て以来、一番とも思えるだいかんせいが平原から上がった。

 おお……! その様子に、オレ達は顔を見合わせる。

 本当に、戦争が、終わった……!

 それを受けて、店長代理がマイクをとるのだった。

『そろそろお別れの時間が近づいてきました。

〝戦争ぼくめつスペシャル〟としようして八時間ぶちきでお送りした今日の放送、いかがだったでしょうか。

 個人的には、いろいろ学ぶことがあったように思えます!』

 満足げに店長代理はいい、

『これからも、『ルージュ』と『ノワール』のみなさんに大きな幸せがありますように──それを信じつつ、この辺で〝デモン・ウェーブ〟今日はお別れです。野宮』

『はいよーお別れの曲は〝オデン・スゥィート・サンバ〟。じゃなー』

 平原に流れ出す、けだるくもリズミカルな音楽。

 こうして、オレ達初の〝デモン・ウェーブ〟は無事? 成功した。そして──。


    ※


 数日後。

 ワァァァァァァァ!

 デモン・イレブン店内は。

 きようかん、殺到するお客さんできようれつな混雑じようきようになっていた。

「どんだけ混んでんのよ……!?

 その状況にぼうさつされながら叫んだのは九条!

「しかも、こんだけ混んでんのに……目当てが店長代理のサインと、おでんだけで。ほとんど売上げかせげてないって……ほんといい加減にしなさいよこの異世界!?

 あの後──。

『ルージュ』と『ノワール』は停戦をもう一度、公式発表し。

 今、オルバさんとサムソンさんは、国のみんなを巻き込んで、今後の展開を話し合っていた。

 そして、停戦したことにより、デモン・イレブン周辺は戦場ではなくなり、それどころか、戦争をとめたえいゆうの一味ということになり、またラジオの効果もあってお客さんはさつとうしていた。

 が。九条のいう通り。お客のお目当ては──

「真壁サーン! おでん下さい!」

「店長代理~! おでんを!」

 あのラジオで、いちやく有名になった真壁ケイタ──店長代理。

 そして仕込みがあるからそんなに数が出せるわけもない店員泣かせの商品、おでんだった。

「マ、マジかクソ……つかちょっと待ってくれ……おでん売れすぎて、おでんが食えず力が……」

 そんな予想外の状況に店長代理はなんか半分ミイラみたいな表情になっているが、

(まぁ、でも、良かったですね、店長代理)

 その光景を見ながら、オレは少しあんしていた。

 この前ラジオ終わり。

 店長代理はオレにいってくれた。


「透。お前……ありがとな」

 あの日。へとへとながらも、どこかじゆうじつかんのある様子で店長代理はいった。

「俺の為に、九条達巻き込んで、ラジオやろうとしてくれて。

 これで──なんか、兄貴とのことも、っ切れたっつーか。自信になったわ。俺の選んだ道はそんなちがってなかった。ラジオには……つーか声には、そういう力がある。たんれん積んでけば、いつか俺の声も、兄貴に届くんじゃねーかな……ってな」


 もちろん──現実の店長代理のお兄さんと店長代理の関係は、まだ何も解決していない。

 けど、その言葉からは、強がりじゃなく、本当に店長代理は少し吹っ切れた──そんな風に見えた。

 あとは、いつか、お兄さんとちゃんと和解できたらいいんだけどな──


『さぁ、続いてのお便りです』

 ──その時だった。

 てんじようから、正規のデモン・ウェーブのラジオが流れて来たのが、聞こえた。

 あ。そういや、これ、未だ常に流れてるんだよな……。相変わらず川のせせらぎみたいなもんで、ぜんぜん気に留められないけど。ラジオの声は続ける。

『〝この前、不思議な経験をしました。

 近所のデモン・イレブンに行ったら、なんか変なラジオがノイズ交じりに聞こえてきて……そこから、ところどころ、弟に似た声が聞こえてきたのです〟』

 ハガキが読み上げられていく。なんだこりゃ?

『〝私の弟は、職場で心を病んで、引きこもりになってしまった私の為に、声優になった男です。

 元々仲が良かったわけじゃないですし、そして、私が引きこもった後の、そういった行動も、私は、一時期、なんだかめんどうで、ありがためいわくな気がしていました──。 ──けど。

 この前、そのラジオの似た声を聞いて、いつのまにか……私は、前向きな気分になっていました〟』

 いつしゆん間があって、

『〝そういえば、弟の声には、人を前向きにさせる、そういう良さがあるんです。くやしいけれど、元気が出てしまいました。

 これからは、あまり強がらず、今度もし、ラジオや、本人の口から弟の言葉を聞いた時は、素直に耳を貸してもいいかな、そしてそれを本人に伝えられればな、そう思います。

 そんな風に思わせてくれた、弟に似た声(なんか異世界がどうとかいっていたような気がします)の不思議なパーソナリティさんに、感謝したいと思います〟

 ……だ、そうです。RN・マカベリュータローさんから。

 ? なんか、不思議なとう稿こうですねぇ』

 こんわくした様子でしやべり始めるパーソナリティだったが、

「いやいやいや…………?

 職場で心を病んで引きこもって、そしたら弟が声優になった。

 弟とはなかたがいしていた。

 けど。異世界から聞こえた弟そっくりの声のラジオを聞いて、元気が出た。

 で──RNが、カベリュータロー……。

「て……店長代理!」

 思わずさけぶオレ。

「なんだよ!? 今それどころじゃねぇんだよ、こっち手伝え透! おでんの仕込みが全然追いつかねぇ!」

「こっちのほうが全然それどころじゃないんですけど!? 今ラジオで──」

 思わずぜつきようするオレ。

 店長代理の目が、きようがくに見開かれたのは、そのすぐ後のことであった──。