店長代理が、急に前方を指した。

 そこにあったのは──

 夜の赤い大地の上。

 まるで地上の月のように、ほんのり周囲をけいこうとうで照らしているデモン・イレブン。

「な、なんかこうしてみっと、ホッとすんな。ホームに帰ってきたみてぇで」

 ちょっとホッとしたようにいう店長代理。

「そう……ですよ……!」

 その光景に、オレは、たぶん店長代理が思っていた以上にかんめいを受けていた。

(そうだ………………まだ、諦めるのは早いよ!)

 デモン・イレブンを視界に入れたたん、急激に元気になってオレは思う。

 そうだ、確かにここは異世界で、事態はめちゃくちゃ複雑だけど。

 オレ達にはデモン・イレブンがあるじゃないか。

 今までだって、色んな事件解決してきた実績もあるし。

 そこで働く、今ここにいないゆうしゆうなバイト達もいる。

 もどって。

 もう一度考えれば、何かできることがあるんじゃないか!?


    ※


「まぁ…………事情は分かったわよ」

 そして三〇分後──。相変わらず、店員以外客がいない店内、レジ前にて。

 オレの話を聞いていた、女子三人のうち、九条が深く嘆息しながらそういった。

 店長代理は今ここにいない。

 聞かせたくなかったので、なんとか店長代理だけ部屋に帰す方法はないか……と思ってたんだけど、特にオレが動くまでもなく、店長代理は

つかれた……るわ。あ、おでんの仕込みだけやっといてくれ……」

 とフラフラになって一人部屋に戻っていった。まぁ、あんだけ働いたんだし、そうなるわなぁ……。

「要するに、また【S】ランクのことはいつたん置いといて。あのおでんバカのためにも、その兄弟の仲をとりもってあげたい……そういうことでしょ?」

「う、うん」

 確認してくる九条に、オレはうなずく。

「あのね、まずいっとくけど。私だって、その……店長代理に感謝してないこともないのよ」

 すると九条は、ハッとふんぞり返りながら意外なことを言い出した。

「へ? そうなん?」

「そりゃそーよ。あのね、つうに考えてみてよ。あの人、元々一日店長だったのよ? いってみりゃ、他に仕事あるれっきとした社会人。ハッキリいって無関係なわけ。

 ゆうないから、私が強引に手伝わせちゃってるけどさ……。

 その、お兄さんとのこともあるのに、こんなことさせちゃってるんだから。さすがの私だって感謝するわよ」

 口をとがらせながら、九条。

 うわー意外……。九条ってもうちょい店長代理のこときらってると思ってた。

 ちなみに、店長代理のお兄さんのことは、みんなにはとりあえずただ喧嘩中で、そのお兄さん、コンビニのラジオなんかは聞いてるみたいだから……そういうのを使って仲直りするため店長代理は声優になった……と微妙にボカしてお伝えしてる。部屋から出られないうんぬんは、店長代理に話していいか許可得てないしな。

「塔子もぜんぜん構わないですよ」

 スマホいじりながらいったのは白雪。

「確かに塔子達の勤務態度本部に送ったり、本部と細かい売上げのデータやりとりしたり、めんどくさいめんどくさいいいながら、一番めんどくさい店長としての業務ぜんぶやってもらってますからね。

 借りはじゆうぶんあると思いますけど」

 そして白雪もたんたんとだが、意外なことをいう。

 お、おお……。なんだよ。店長代理、意外に人望あるじゃないか……。

「ただ」

 しかし白雪の言葉には続きがあった。

「それと、実際このじようきようをなんとかできるかどうかは別だと思いますけどね」

 現実的な意見をいう白雪。

「そーなのよ」

 九条も同意した。

「そこなのよ。その、二つの勢力に引きかれた兄弟の為に。

 それと──

 まぁついでに、ウチの店長代理の気持ち軽くする為にも。

 その兄弟を仲直りさせる。

 その状況自体はわかったんだけど……いくらなんでも、今回ばっかりは何をすりゃいいわけ?」

 お手上げのようにいう九条。

「戦争やってんでしょ? しかも……今回は、デモン・イレブンウチりようよく。二大たいほう。飛車角。飲食と雑誌も使えないってんでしょ」

 うでみしながら九条はいう。

「今まで私らが問題解決してきた時、ほとんど飲食と雑誌だよりだったのよ?

 この状況で一体何をどうするってのよ」

「う───ん……」

 その問いかけに、みんな、困った。

 まぁそうなんだよ……。

 確かに、動機と目的はけっこうハッキリしてるんだけど。

 解決策が、いまのところ、完全に雲に包まれてる。

「飲食、しよせき以外ですと……たとえば、ぶんぼうとか、軽衣類なんかですかねぇ?」

 とりあえずたただいを、という感じでまず白雪が意見した。

「文具と軽衣類って……消しゴムとか丸首アンダーシャツとかで、どうやって戦争終わらせんのよ」

「まぁそうですねぇ」

「あとは、まぁ…………ATMとかチケットたんまつ。各種公共料金のおはらい──なんかも、あるっちゃあるな」

 オレも、思いついたままにいってみる。

「それもみようよねぇ……」

 九条が腕組みしたまま難しい顔でいう。

「その兄弟が、戦争中に、各種公共料金のお支払いに来るとはとうてい思えないし……! チケット取りに来るわけもないしねぇ」

「う───ん……」

 オレ達は頭をかかえる。

 デモン・イレブン。なんでもできると思ってたけど……当たり前かもしれないけど……戦場のただなかでは意外にできること少ないな!

「ユーキは?」

 そんな中、九条が勇気にる。

「なんかあんたさっきからぜんぜんしやべってないけど。なんか案あったりしないの?」

「うーん?」

 あいまいな笑顔で、勇気。

「ちょっと、あんた、聞いてた……?」

 九条がその勇気の様子ににらみつけるように聞くが、

「にゃはっ、ワリワリ。いや、聞いてたぜ? ただ、さっき、透から店長代理の兄貴の話聞いて、ちょっと気になってさ。

 そういやウチの店……ラジオやってたんだなーって」

 てんじようを指しながら、勇気。

 そこからは──もうオレ達にとっては、ヘビロテが過ぎて、完全に道路を走る車の音のように聞き流していた、デモン・イレブン専用ラジオ──〝デモン・ウェーブ〟のくだらない内容の声が聞こえてきていた。

「なんか……あんま面白くねぇし、流れる音楽のチョイスも微妙だし。異世界来てからこっち、店内ウルサすぎたってのもあって、日本にいたとき以上に聞いてなかったけど。

 異世界に来ても、がんばって、毎日流れてたんだなーと思って」

 感心するように勇気。

「そういやそうね……あまりに存在感無さ過ぎて忘れてたわ」

「けど、これたまに思い出すとそれはそれでうるさいですよ。塔子、同じの何回も聞かされるからむしろきっちゃえばいいのにっていつも思ってましたけど」

 そして九条と白雪に散々にいわれるデモン・ウェーブ。

 まぁ、でも、みんなそんなもんだよな。

 オレだって基本、このラジオちゃんと聞いたことないし。

 わざわざこのラジオちゃんと聞いてる店員やお客さんがそういるとも思えない。

 そんな中、ラジオパーソナリティは、気にせずコンビニに寄せられたハガキの内容を健気に読んだりしている。

 それはいつも通りくだらないコーナーで、自分にとって近しい人に、だんはいえないような素直な気持ちを、コンビニエピソードを交えてコンビニラジオで伝えよう……という、正直、関係ない人間にとっては、かなり興味が持ちにくい内容。

 今日は、なにやらむすめがお母さんへの感謝の気持ちを、昔コンビニでアイスを買ってくれた思い出なんかをからめながらハガキにしたため、それが読まれていた。

 最初は感動したような気もするけど、これって生じゃなく録音だから。まぁ無意識に何回も聞いてるし、今さら何も感動しようがない……。

 なのでオレは、それをいつも通り聞き流そうとしたのだが……………………

「ん?」

 その時。オレはハタと気づいた。

「いや、待てよ。ラジオ?」

 飲食がダメ。

 雑誌がダメ。

 飛車角落ちの状態で、さらに軽衣料やら各種サービスものぞうす

 ほとんどの機能がふうじられている今回のデモン・イレブンだけど、

「そーか……そうだよ」

 オレは気づいてしまうのだった。

「まだオレ達には……〝デモン・ウェーブ〟があるじゃないか!」


    ※


「おまーら……な、何やってんの?」

 翌朝。そろそろ日が完全にのぼろうとしたころ

 さわぎを聞きつけ、デモン・イレブン屋上まで上がってきた店長代理は、ぜんとした顔でいう。

「ラジオですよ、ラジオ!」

 オレは、あわただしく準備しながらいうのだった。

「店長代理、オレ、気づいたんです。飲食ダメで雑誌がダメでも。コンビニにはかくし武器……〝ラジオ〟がまだあるじゃないですか。

 オレ達なりの、オリジナル〝デモン・ウェーブ〟、こっから平原に流すんです。それで……あの戦争止めましょう!」

「はあ!?

 とあきれる店長代理の前には、現在、白雪が屋上に設置した、急造の公開生放送用の簡易ラジオスタジオ。

 そして、戦場のできるだけ広いはんに拡大するために置かれたきよだいなアンプが置かれている。

「ど、どうやって?」

「オレ達、今、直接コンビニの商品は売れませんけど、ラジオ使えば、戦場にいるお客さんに、コンビニ店内の商品のすごさとか、あとはオレ達店員の独自のサービスとか──そういうの伝えることは出来るじゃないですか」

 オレは店長代理にりを交えながらいい、

「それで、両軍の兵士達を精神的にこう……らくさせて。戦争なんかやめてコンビニ行きてーって戦意そうしつさせて。戦えないような状態にするんです。

 兵士が戦争できない状況になれば……〝総大将〟も、もういがみ合い、続けられないですよね?

 そうすれば──こう、兄弟仲直りもグッと近づくじゃないですか」

「無茶が過ぎねぇか、それ!?

 ビックリしたようにいう店長代理。

「もう、どっからつっこみゃいいんだよ!?

 そもそも、俺ら、シロウトだぞ? 俺一応ラジオの経験もあるけど、それだってそんなガチでやってたわけじゃねーし……。お前らに至ってはコンビニバイトじゃねーか!

 その面子がやったポンコツラジオで戦争とめられると思ってんの?」

「んなの、やってみなきゃわかんないじゃない」

 公開ブースのに座り、ヘッドホンをつけながら九条がいう。

「そーそー。それにサ、真壁サン。コンビニ店員だからできるナイスなラジオってのもあると思うぜー?」

 同じく、ヘッドホンをつけながら勇気。

「は?」

「おまけにあたし達は異世界コンビニでそれなりの期間バイトしてんだぜー。異世界人の生態は、けっこう知りくしてると思わねー?」

「そ、そりゃそーかもしんねーけど……」

 店長代理は、ちょっと納得しかかったような表情になるが……

 そこで、チラッと、白雪のほうを見る。

「白雪……お前もか? お前も……んなシロウトくせぇ無茶な作戦にのっかんのか?」

「え? いやシロウトって。塔子、オクラホマではパーソナリティとして三つくらいレギュラー持ってましたし。自分でも聞きますからそんな無茶な作戦とも思いませんけど?」

 たんたんと白雪。そうだったの!?

 もう、それ、〝天才〟とかって言葉じゃ説明できないマルチなかつやくぶりじゃない!?

「えぇぇぇ…………

 トドメをさされたように店長代理はうめく。

「マジか……? アホだアホだと思ってたが、まさかそこまでぼうやつらなのか、デモン・イレブンバイトじん……?」

「さ──あんたもさっさと座りなさいよ」

 そして九条が店長代理をうながす。

「あんただって、一応プロなんでしょ?」

 そしてヘッドホンを店長代理に投げてわたす。

「たまには格好良いところ見せなさいよ。じゃないとあんた、このままじゃほんとにただの店長代理……もしくはおでんバカになるわよ」

「にゃははは! そーそー」

「てか、店長代理、ほんとに人気声優だったんですか? 塔子の持ってる独自データベースにはってないんですけど?」

 三者三様に店長代理をさそう女子陣。

「店長代理」

 オレも続く。

「店長代理、いってたじゃないですか。お兄さん、ラジオは聞いてるから、それでなんとか自分の気持ち伝えたいって。

 ここで、ラジオ使って、あの兄弟のけん仲裁したら……気休めどころか、ほんとにそういうことができるんだって、自分がちがってなかったって証明になるんじゃないんですか? だから……」

 オレはなおも言いつのろうとしたが……

「チッ……あーもーあーもーわーったわーったわーった。

 わーったよ!」

 店長代理は、何かをあきらめたようにめんどくさそうにいうと、ヘッドホンを装着し。

 そして机にこしけた。

 おおっ!?

「やりゃあいいんだろ、やりゃあ。オッケ、いいじゃん。俺だって、ずぅぅっとこの店でコキ使われて、声優だましいうつぷんずいぶんまってんだよ。

 こうなりゃ……声優、真壁ケイタの本領、発揮してやらぁ!」

 いいながら、スピーカーの音量を最大に上げ、平原にデモン・ウェーブを大音量で流し始める店長代理。

 さぁここからである。

 デモン・イレブンの、デモン・ウェーブによる、デモン・イレブンのための、そしてあの兄弟と店長代理の為のはんげきが始まる──!


    ※


『さぁ始まりました〝デモン・ウェーブ異世界版〟! 最初のパーソナリティは、私、アニメ〝小さくセットポジション〟や〝プラチナのA〟への出演でおみ、真壁ケイタでございます』

 店長代理がデモン・ウェーブを始める!

「な、なんだ!?

「声が……オレ達のものではない、声が聞こえてくる!?

 ワァァァァァ!

 店の前では、ちょうど、『ルージュ』と『ノワール』の合戦が再開されたんだけど。

 しかし今日は、昨日とはちがう。

 店長代理のラジオが流れたたん、平原に、ささやかだけど、混乱が広がった。

とつぜんですけどみなさん、〝おでん〟って食べたことありますか?』

 そんな中、店長代理が、両軍の戦意喪失の為、早速おでんトークを開始する。

『要するに、いもやら練り物を、グツグツ出汁スープ込んで、味を染みっ染みにして、それをまだ熱いうちにハフハフいいながらむしゃぶり食うっつー割としよみん的かつ国民的な料理なんですが──』

 相変わらず、おでんって日本でそこまで国民的人気あったっけ!? とも思える、ひいが過ぎるような内容のおでんトーク───。