「あれ見ろよ……!」

 窓の外。店長代理がぼうぜんという。

 店長代理が見る先。赤い大地の一部。

 そこには……

 ワ゛ァァァァァ!

 うちのコンビニと目と鼻の先まで、とつしんしてくる……赤いよろい団の姿があった。

「あっちにもいる……!」

 じようも呆然と続く。

 ゆうが見たのは、店長代理と反対の方角。そこからも……

 ワ゛ァァァァァ!

 さっき見た騎士団とは鎧の色のちがう──黒い鎧の騎士団がさつとうしてきている!

「何あれ!?

「まさか──」

「ここ……戦場!?

 さらに両軍は、ある程度のきよまで近づくと、いきなり弓を引きしぼり──

「ていっ!」

てぇ!」

 号令と共に解き放ち。

 ウチと目と鼻の先で、大規模せんとうを、始めた!

「やっぱり……戦場だ!」

 眼前で行われる、まさかの〝戦争〟に絶句するオレ達……!

 大地は、赤い鎧を着た兵士と黒い鎧を着た兵士でくされており……おそらく、片方の軍で、三~五千人、あわせて下手したら一万人近くとかはいそうな気配である。

「海のど真ん中、世界樹の上と来て。今度は、〝戦場ただなか!? どうなってんのよ!?

 ひゅんひゅん矢が飛来し、その度カンカン窓ガラスに当たる音が響く!

「てか……ちょっと待って」

 そして、そこで、九条が気づく。

「海のど真ん中、世界樹の上……と来て。

 今度は、戦場真っ只中なのよね?」

 もう一度確認するように、聞いてくる九条。

「ああ」

「ってことは──私達、今度はここで【S】ランク目指さなきゃいけないってこと!?

「ウッ!?

 それは、受け入れがたい事実だった。

 しかし現実問題、また転移しない限り、オレ達はこのかんきよう下で、売上げを上げて、【S】ランクを目指さなきゃならない……!?

「じゃ、じゃあ、もしかして。オレ達がここでお客さんとして相手にするのって……」

 青ざめながら、戦場で戦う兵士達を見ながらオレ。

 あの人らを……呼び込んだりして。うちの店に来させなきゃいけない……!?

「となると──」

 そこで、九条が、ぽつりとつぶやく。

「なんとか、だれか、呼び込みに行かないといけないわね。最低……二人くらいで」

 その言葉に、全員がゴクリとつばを飲み込んだ。

 た、確かに。売上げ上げるためには、あの兵士たちを店に引っ張りこまなくちゃいけない。だから、誰かが、呼び込みをしなくちゃいけない。

 けど今回呼び込みを行うのは戦場なのである。

 戦場で、そんなことやりたくねー! そんな気配が場にじゆうまんする。

はんは……まず確定ね」

 そんな中……九条がいきなり先制こうげきをしかけてきた。なにぃ!?

「な、なんで!? そこは公平にジャンケンとか……」

「にゃはは。いーのかとおる? うちの店のジャンケンは、基本、公平じゃねーぜー?」

 顔は笑ってるけど目は笑ってない、にシリアスな顔でてきしてきたのは勇気。

(う、そうだった……!)

 オレは絶句するしかなかった。

 ウチの店のジャンケンは、ぜんぜん公平な決議方法じゃない……。

 勇気はかんが良いから高勝率だし。しらゆきもジャンケンを数式化した独自のメソッドみたいの持ってるらしく異様に強い。

 九条は別にそういうとくしゆ能力もってないけど、けずぎらいだから、地球の命運かかってるみたいなはくで向かってきて、結果、相手をんで勝っちゃうし……。

「く、くそ……!」

 じんな展開だが、残念ながらオレにあらがう手段はなさそうだった。

「し、仕方ない……じゃあ、オレ、やるわ」

 オレはあきらめて挙手した。

 まぁ女子にやらせるのもどうかと思うし。いいんですけどね!?

「じゃあ……残り一人は店長代理で決定ね」

 そこでさらに九条が機先を制する。

「あぁ!? な、なんでだよ!? 俺これでもいちおう店長代理だぞ!? なんでそんな前線仕事、管理職の俺が……」

「だってあんた、いちおう男でしょ? 反馬がやるっていってんのに、もう一人を女子の中から推挙する気?」

「ぐぅっ……!

 店長代理は九条の都合の良い男女不平等理論でめられるが、

「しゃあねぇ……。けど、このままていこうでやらされるのは気にくわねぇ! なんかさっき公平じゃねぇとかいってたけど……じゃあ、ジャンケンで決めようや」

 必死のていこうを試みる!

「俺ぁこれでも、昔近所じゃ〝おにチョキ〟のかべっていわれてたんだ。そう簡単には屈さねぇぜ?」

 勝負を諦めない強い意志を感じさせるひとみでいう店長代理。

 いや〝鬼チョキ〟って……出す手宣言してるけどいいのか? しかもだいたいそういう〝昔近所では〟的なプロフィール持ち出す人ってたいしたことないのがオチなような。

「にゃは! いいぜー、んじゃ、ジャンケンやるかー?」

とうもいいですよ……真壁ケイタのジャンケンデータベースをけんさく……ビッグデータから、次に出す手を確定、と」

「いいじゃない……でもじゃあ、その前にちょっとトイレいってきていい? ギリギリまで精神研ぎませたいから」

 三者三様の準備体操を始める女子じん

「望むところだ……!」

 店長代理がとうを引き上げていく!

「最初はグゥッ!」

 五分後、オレ以外によるジャンケンが行われ。

「ジャンケン──」

 四者四様のジャンケンの手がり出され。

 あわれな敗者一名は、決定した──。


    ※


「クソ……バケモンかあいつら!」

 店の前。

 矢が飛び交う中、毒づいてるのは店長代理。

 勝負の結果、敗者は最終的に店長代理に決定していた。

 けど、店長代理は、いうだけあって、無駄な強さであの三人相手に善戦していた。

 八分くらいあいこの状態続いてたし。

 なんなんだよウチのバイトの異常なジャンケンレベルの高さ!?

 ちなみに最後に店長代理が出した手はパー。鬼チョキの真壁は、意外にパーを多用してたがそこはもう誰もツッコまなかった。

「仕方ねぇ。まぁどのみち女子供にやらせるわけにゃいかねぇし。やるっきゃねぇな」

 諦めたようにいう店長代理。ま、やっぱそうなるよね。

「じゃあオレは、チラシ配りをメインにやっていきます。新規オープンあつかいで、割り引き券もついたチラシ、さっき白雪に刷ってもらったんで」

「わかった……。んじゃ俺はコレで勝負する。死ぬんじゃねぇぞ、透」

りようかいです!」

 さぁいよいよ戦場での呼び込みである!

 オレ達はおたがかくを決め、店の前の平原に飛び出した。


「いらっしゃいませいらっしゃいませ! ご戦争中のみなさま、〝異世界コンビニ〟デモン・イレブン、こちらの場所にて新規オープンです! ただいま一〇〇G引きクーポンついてるチラシお配りしております、お手にとってご来店くださいませ!」

 ワァァァァ!

 ごう飛び交う戦場に向かってさけびながら、必死にチラシをき始めるオレ。

 が。

「なんだお前は!?

じや!」

 すぐさま、オレがたった今まで立っていた場所に、馬にまたがる達がしつしてきて、オレはたんにそれどころではなくなった。

 うおお!?

「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ! 激しい戦争スポーツのあとには、あったかいおでんで小腹を満たしませんか? ちくわにはんぺん、たまごにコンニャクもよくえております! 試供品もございますよ、一度お口にしてみて──!」

 となりで、店長代理も、さすが声優だけあってなかなかの声量でうつたえているが、

「うるせー! んなことより武器もってこい、武器!」

「こっちもだ! メシより……ブッコロス為の武器が足りねーんだよ!」

 ──その前で、やりおので今まさにりあっている騎士達には、まるで届かないらしく。完全にスルーされていた。

鹿な……俺のおでんがスルーだと……?」

 店長代理が青ざめてる声が聞こえる。

 くっ、さすがマジの戦場! 今までとはコンビニプレゼンの届き方がまるでちがう!

(けど、諦めるわけにはいかない……!)

 店を守る為には。このじようきようでも、デモン・イレブンになんとか客を呼び込まなきゃいけない……! どうすれば……!?

(ん……!?

 と、その時──。

 オレの視界に、とある物が映った。

 まず目に入ったのは、黒いよろいを着た兵士達が最初けてきた方角──そのはるか向こうにある、大きな黒いテント。

 そして。

(んん……!?

 なんとなく視線を逆にやってみる。

 するとそこには……赤い鎧を着た兵士達が最初駆けてきた方角──その奥に。赤い大きなテントがあった。

(あれは……ほんじんか?)

 それを見て、オレはふと思う。

 そうだ。この状況で無理でも。あの辺うまく使えば、なんとかこの状況打開できるんじゃ……!?

「て、店長代理! いつたん退きましょう!」

 オレは店長代理に指示した。

「はぁ!? なんでだよ、俺のおでんたちはまだ負けたわけじゃねぇ!」

「い、いや、そりゃわかりますけど、一回冷静になってください! いくらなんでもここじゃ呼び込みできないですよ! 重要なのはタイミングです、タイミング! タイミングを変えて──もう一回勝負しましょう!」

 オレはそういって、未だしぶる店長代理を無理やりつれて店内になん

 作戦を一から方向てんかんすることにしてみた──!


    ※


 ジリリ……。ジリリ……。

 虫達の鳴き声がこだまし、

 パチパチ……、パチパチ……。

 じんを照らすたいまつぜる音が聞こえる。

 夜。

 せんとうは休止し、辺りは静まり返っていた。

 そんな中、

「この辺でどうだ、透……?」

「いえ、まだもうちょいいけますよ……もうちょい……もうちょい……よし、この辺でやめときましょう」

 オレと店長代理は、荷物を背負った状態で赤い大地をふく前進し、まず、赤い鎧を着た兵士達の本陣、そのギリギリ手前で止まり、準備を始めた。

「しかし、ほんとにいけんのかよこんな策で……」

 持ってきた、たたみの簡易机を組み立てながら店長代理。

だいじようですって。兵士だって、戦争やってない時は人間なんですから。こういう時こそ店長代理のおでんの出番ですって」

「うぅむ……そりゃおでんの味自体には自信はあるけどよ、俺ぁ」

 半信半疑にいいながら、準備かんりようする店長代理。

 完成した折り畳み机の上には、店長代理が、かめこうのように背負ってきていたおでんのじゆうが湯気を放った状態で置かれていた。

「OKです。始めましょう!」

「おっし」

 オレ達はうなずき合い、オレは、団扇うちわを、そして店長代理は、もってきていたたくじようせんぷう使し、パタパタパタ、ゴォ~……おでんのにおいを赤い兵士達の陣に届くようにする。

 すると、開始から約一分──。

「なんだこの匂い……!?

 風下。兵士達のじんえいそうぜんとなったのが聞こえた。

 オレ達は顔を見合わせる。予想以上にあっさりれた!?

「透! もっとだ!」

「は、はい!」

 ぜん元気になってはりきるオレ達。

「こっちのほうからだぞ……!」

「うめぇ……ぜってぇうめぇもんの匂いだよ、これ!」

 すると、ザカザカザカ!

 兵士達が、ひいふうみい……一〇人くらい飛び出してきた。き、きた!

「おい! 何者だお前ら!? 我ら『ルージュ』に──何か用か!?

 そして兵士達は槍を構えながらオレ達をすぐ取り囲んだ。ひぃぃ、こわい、怖いには、怖いが……!

「て、店長代理」

「わぁってる」

 オレ達は必死におくびようかぜはらい、前を向く!

「いらっしゃいませ。ここは異世界コンビニデモン・イレブン臨時出張所。みなさまにウチの店を知っていただきたくてさんじました!」

 頭を下げながらいんぎんにいう店長代理。

「デモン・イレブン……?」

「そういや、なんか昼間そんなわけわかんないやつらが、戦場にいたような……?」

 ざわざわと、兵士達。あー……やっぱり、あのじようきようじゃ、いくらオレらが必死に叫んでも、そんな程度の認識しかあたえられないんだな、戦場のただなかじゃ……。

「お前らがそうか。で? お前らは……何がしたいんだ?」

 不思議そうに、兵士。店長代理はうなずき、

「先ほども申しましたが、まず、うちの店を知って欲しいのです。で、最終的に、うちの店でお金を落としていっていただくのが、正直な目標でございます」

「ほんとに正直なヤツだ……。で? じゃあ聞くが……お前らは、何売ってるんだよ」

「なんでも売ってます。飲食もありますし、読み物もはんばいしております。でもまずは、一番代表的な……我が店のたましいともいえるコンテンツをお持ちしました。これは『おでん』といいまして、古くは室町時代から」

「店長代理、その辺の説明はあとまわしで!」

 店長代理におでんのウンチク語らせたら夜が明けてぜんぶ台無しになっちゃう。

「とにかく、あったかくて、なつかしい味で、栄養もある商品です。本来、一〇〇G前後の商品ですが……今日は、ここに、一〇〇G引きの商品券があります」

 オレは、兵士達にクーポンを配る。

「ですので、これをお使いいただければ、お試し期間ということで、どれでも好きな具を無料でし上がっていただくことができます。いかがですか!?

 勢い込んで、店長代理に代わっておでんを売り込むオレ。

 が。

「待て」

 その時だった。

「残念ながら──それはできねぇ」

 予想外の展開。兵士達の後ろから、声。

 そこから現れたのは──あらあらしいきんぱつをオールバックにした、歴戦の勇士感がはんではない、チョビヒゲの体格の良いオッサン──。

「総隊長!」

 そして、その男の登場に、今までいた兵士達はしゆくしたようにその場にひざまずいた。

 総隊長!?

 まさかのビッグネーム登場に、オレと店長代理はきんちようするが、そんな中、その総隊長とやらは、兵士達に気にするなときさくな感じで跪かないように指示し、

「お前ら、旅の商人かなんかか?」

 そして、オレ達に水を向けてくる。

「あ、はい。我々はデモン・イレブンという店の者で、本日はこのおでんを──」

 店長代理は、改めて、今度は総隊長に商談しようとするが、

「そこまでだ」

 その総隊長は、有無をいわさぬ調子でそれをさえぎる。

「さっきもいったが、その商品は食べるわけにはいかねぇ。なら、お前らが『ノワール』どものスパイじゃないって保証がねぇし。そこに毒が混入されてないとも限らないからな」

 たんたんと、総隊長。

 え、えぇぇ!? 毒!?

「いや、そんな、まさか……!?

 オレ達はぼうぜんとなるが、

「長い間戦争してて、どっちの国にも、いまやスパイだらけだ。だからオレ達は、今、基本、自分で調達して自分で調理した食いもん以外、口に入れねぇ」

 さらに続ける総隊長。

 オレと店長代理は顔を見合わせる。

 え? ってことは──この状態じゃ、デモン・イレブンの最大の長所である〝飲食〟によるアピールが、この人達には出来ないってこと……!?

「いっとくけど。飲食じゃなくてもいつしよだぞ」

 そして、気配でも読んだのか。その総隊長は、オレに忠告してくる。

「思想で洗脳してくる可能性もあるし……あらゆる外部書物の読書も禁止されてる。

 お前らの店、昼間外からチラッと見たけどしよせきと飲食物が基本なんだろ?

 だから、たぶん、今この軍に、お前らの店利用できる人間はいねぇぜ?」

「そんな……!」

 まさかの完全シャットアウト宣言にオレと店長代理は顔を見合わせた。

 た、確かに、飲食も不可で、書物(つまり雑誌等)も使えないとなると……デモン・イレブン、けっこう両翼が使えないようなじようきようじゃないか……!

「い、いえ、あの」

 けどここであきらめるわけにはいかない。オレはらいつく。

「でも……オレ達……本当にスパイとかでもなんでもないですよ?

 めいかいとこの世界の戦争仲裁したり。勇者とおうの戦い仲裁したりしたこともあるくらい、中立さに定評があるくらいで」

「そういうこっちゃねぇの」

 しかし総隊長はピシャリとオレの話を遮った。

「オレだってお前らが悪いヤツらな可能性は限りなくゼロに近いと思ってるよ。けど、ゼロって確証がないもんに手ぇだして、やっぱダメだった! じゃすまねぇのが戦争なんだよ。だから、無理だ。

 まぁどうしてもってんなら……敵方……今日昼間戦ってた『ノワール』いってみりゃいいんじゃねーか」

 そして、き捨てるようにいうのだった。

「向こうが今どんな状況かわかんねーけど。

 アイツらは、なんでもアリのパッパラパーだからな……。

 もしかしたら案外コンプライアンスゆるくて、店利用してくれるようなやつもいるかもしれねーぞ」

 面白くもなさそうにそういうと、その総隊長は周囲の兵に帰るぞ、とうながし、そのままごくアッサリその場から去っていく。

 残されたのは、オレと、店長代理と、おでんの什器……。

 ヒュウゥゥ……なんかわびしい風がオレ達の間をけ、

「おい……透……全然ダメじゃねーか!?

 そのしゆんかん、ここまで匍匐前進したりして、めちゃめちゃがんっておでんの什器を運んできた店長代理が、絶望したようにさけぶ。

 オレは返す言葉もなかった。

 戦争休止中の状態なら、話も通じるだろうし、あとはおでんさえあれば、いつもの具合でなんとかできると思ったんだけど……

 こりゃあ予想以上に状況こんがらがってるわ。

 いつもの手段じゃ状況打開できないかもしれない……!?

「し、仕方ない……じゃあ、今の人のいった通り、今度は反対の『ノワール』いってみましょう!? 店長代理、そのじゆうお願いします」

「またぁ!? お前、俺な、自衛隊で訓練積んだ兵隊とかじゃねぇんだぜ……? むしろ声優、バリバリの非せんとう員なんだぜ……」

 ガックリかたを落とす店長代理。

 こうして今度は、オレ達は、もう一つの国──『ノワール』のほうのほんじんへ〝呼び込み〟に向かうことにした。


    ※


 一時間後──。

 オレ達は、かがりがたかれ、ちようけいかい態勢のまま夜を明かしている黒いよろいを着た兵士達のいるじんとうたつしていた──。

 が。

「はあ? 〝おでん〟? 買えるわけないだろ、そんなの……」

 そこで待っていたのは、『ルージュ』で経験したことと全く同じだった。

『ノワール』の陣地に着くと、どうもたまたま、風にでも当たりにきてたらしい、ぎんぱつをオールバックにした、せいかんな顔つきの黒い鎧のはちわせたので、そこで早速商談を開始したのだが、それはそつこくぎよくさいに終わった──。

「な、なんでですか? オレ達はデモン・イレブンっていって、」

 それでもオレは諦めきれず、ろうとするが、

「なんでもいいけど。お前らが『ルージュ』のスパイじゃねぇって確証ねぇだろ?

 だったら買うこたできねーよ」

 にべもなくいってくる黒騎士。

 またこの展開かよ……!?

「まぁどうしてもってんなら、『ルージュ』いってみりゃいいんじゃねーか?

 向こうは物をまつにしねぇ連中だから、案外食ってくれるかもしんねーし」

 そしてその後ろにり出されるアドバイスも全く同じだった。

「いや、もう行ったんですよ……」

 なのでオレは正直にいった。

「そしたら、チョビヒゲの兵隊さんに、こっち行ったらなんとかなるかもっていわれて」

 オレ達はっぽく事情を説明しようとする。

「な、何……!?

 その瞬間だった。

 目の前のオッサンの目の色が変わった。え?

「チョビヒゲの兵隊!? そいつ、どんなヤツだった!?

「え?」

「どんなって……」

「こんなヤツじゃなかったか!?

 いいながらオッサンが取り出したのは──

 プレートアーマーの下にあった、一つのロケット。

 そこには小さな写真が入っており──

 そこに、今目の前にいるオッサンと。

『ルージュ』でそうぐうした金髪オールバックのチョビヒゲのオッサンが、肩を組んで並んでいる姿が写っていた。

「あ……こ、この人です、この人ですよ!」

 なんか、せき的なぐうぜんに立ち会ったような気がしてオレと店長代理はちょっと興奮。

「そ、そうかぁ……」

 その答えを聞いて、オッサンはガックリ肩を落とし、

「こいつはな、〝オルバ〟っつって、オレのふたの兄貴なのさ」

 何故かオレ達にそんな事情を話してくれた。

「え?」

「双子の兄? ちがう国同士なのにっすか?」

「ああ。ちょっと複雑な事情があってな……」

 オッサンはそういうと、その複雑な事情とやらを話し始めてくれた。

 そこで語られた話は──なるほど、確かに、想像以上に複雑な事情だった。


    ※


「三年前。──つまり、つい最近まで、実は『ルージュ』と『ノワール』は同じ国の中の、ただ一政治的ばつに過ぎなかったんだ」

 オッサンは、まず、両軍間のそんな事情をオレ達に話してくれた。

「三年前って……マジで最近じゃねっすか」

 不思議そうな表情で店長代理。

「それが、なんで全軍あげて戦争することに?」

「まぁ要するに──考え方の違いさ」

 オッサンはサッと手を上げ、

「一つの勢力は、国を想って、もっともっと新しい文化を取り入れて、国を良くしようとした──。

 それが、オレら『ノワール』」

 そしてもう一方の手を上げ、

「そしてもう一つの勢力は、国を想って、今までの文化を大事にして、今まで以上にシキタリを大事にして、国を良くしようとした──。

 それが、『ルージュ』」

 オッサンは手をかせたまま、

「国を想う気持ちは、二つとも、同じだった。けど、話し合えば話し合うほど、分かり合おうとすれば分かり合おうとするほど、だんだん二つの派閥の気持ちはすれ違い、いつのまにかとりかえしがつかないくらいのきよになって──

 こうだ」

 そして最後に一気にその二つを手がびるせいいつぱいまではなし、──そして最後にゲンコツにしてぶつけあった。

「で。オレは、そもそも『ノワール』の総大将だったから、国がぶんれつした後も、『ノワール』の総大将のままだし。

 兄貴は『ルージュ』派の総大将だったから、もちろんそのまま総大将。

 結果、オレ達は、国を真っ二つにしてるこのそうどうに、兄弟なのに、総大将同士として、完全に敵対する状況になっちまったのさ……」

 肩を落としながら、オッサン。

「そ、そうだったんですか……」

「けど……」

 店長代理が口を開く。

「けど、両軍の総大将が兄弟って、ある意味チャンスですよね? 和平しやすいっつーか……。そこで和平とかできねぇもんなんですか?」

「和平なんかするつもりはねぇよ」

 オッサンは力なく吐き捨てるだけだった。

「そりゃ、兄貴が、こっちの思想に賛同してくれるってんなら……だいかんげいだけど。あの兄貴のことだ、そんなことありえねぇ。

 かといって、こっちだって、向こうの思想に賛同なんかできるわけねぇ。あんな思想じゃ国がダメになっちまう。だから、たとえ相手が兄貴だろうがなんだろうが、オレ達には、けんを納められない理由があるのさ」

 どこかさびしそうな、けどそれを上回る断固たる口調で言い切るオッサン。

「そんな……けど……兄弟なんでしょ……?

 その返答に対し、店長代理は、不思議なくらい、納得のいってない表情で呟く。

(ん? 店長代理……?)

 なんだ? 店長代理、なんか、オレ達に見せたことない表情になってる?

 そんな店長代理を見て、オッサンは苦笑。

「ワリワリ。なんかリアクションに困るような話しちまったか? 忘れてくれ」

 そして店長代理の張った気をほぐすように背中をたたき、

「なんだか、お前ら弟みてぇで、つい色々くっちゃべっちまったぜ。

〝おでん〟とやらは規則で買ってやれねーけど……これとっとけや」

 そういってオッサンがわたしてくれたのは、一万G札。

「え? い、いやいいですよ! てか……オレ達、一応コンビニ店員なんで。商品売ってない人からお金もらいたくありません」

 ほんとは欲しかった……が。ギリギリのプライドを発揮してオレはいう。

「あそ。残念だな。そりゃ確かにお前らの商品買ってやりてぇんだけどな。オレが見る限り、お前らぜってースパイじゃねぇしな……」

 オッサンは笑いながらきびすを返し、

「でも無理なんだ。今は戦争中、だからよ。

 だからまぁ気が向いたらまた来てくれや。商品は買ってやれねーけど……今度はお前らの話、聞かせてくれよ」

 そういって、どっちかっていうと店長代理の方を見た後、本陣のほうへ去っていく。

「はあ……また売れませんでしたね……おでん」

 ガックリ肩を落とすオレ。店長代理はだまりこくっている。

 その背後には、グツグツえたまま、だれも手をつけてないおでんのじゆうが置かれている。


    ※


 夜の赤い大地を、デモン・イレブンに向かって進むオレと店長代理。

……………………

 その道中──

 店長代理は、やはり、静かなままだった。

 行きは散々文句いってついて来てたのに、今は文句ひとついわず、什器を背負ったままもくもくとデモンに向かって歩いている。

 どうしたんだろう。

「俺さ……」

 と、思っていると。オレの疑問に答えるように、とうとつに、店長代理が口を開いた。

「は、はい」

「俺も、兄貴いるんだよ」

 唐突にいってくる店長代理。

「え!? そ、そうなんですか?」

「うん。でさ。まぁありがちなんだけど。ある日、なんかくだらねぇことでけんして──もう帰ってくんな、みたいなこといっちまったんだよ。

 そしたら──。なんか、いきなり、次の日から、マジで家出ていっちまってな」

「えぇぇ……!?

「まぁ、とっくに社会人になってたし。自立するってんで、家出たみたいなんだけど。なんか、こう……多少責任感じるよな」

「はい……感じそうですね、それは……」

「で、この話、続きがあってよ……」

 店長代理は続ける。

「その兄貴。家出て、一人暮らしになってから、より仕事にまいしんしてったんだけど。その結果、パワハラ? 勤続ろう? なんかよくわかんねーんだけど……なんかボロボロになって、一人暮らしの部屋から、出られなくなったらしいんだよ」

「えぇぇぇ!?

「責任感じんだろ?」

 店長代理は苦笑。

「で、なんとか謝ったり、もしくは元気づけたりしてぇんだけど……なんか、兄貴、俺に会いたくねーらしいんだよ。だから、親も教えてくれなくて。住所もわかんねぇ。

 それで、俺、考えてさ。こうなったら──声優になるしかないんじゃねぇかって」

「え?」

 オレはいつしゆん意味がわからないが、

「いや、うちの兄貴、アニメとかゲームは好きだし。あと、近所のコンビニくらいまではいけるらしいんだよ。でさ。今ってけっこう、コンビニでもアニメとのコラボとかやるじゃん? 店内のラジオに出たり。

 どうも、そういうのは楽しみに聞いてることは聞いてるみてぇなんだ。

 だから、それで、じゃあ。声優になったら。俺の声も届くんじゃね? 元気付けたり謝罪の気持ちも伝えられるんじゃね? そう思って声優になったんだけど……」

「え……ええええ!?

 意味を理解して、オレは思わずぜつきようした。

「そ……そんな感動的な理由で声優になってたんですか!? 店長代理が!?

「へ? あぁ、ま、それだけじゃねーけどな。元々、声、められること多かったし。声で人を元気にするって中々いいじゃん? だからいい仕事だと思ったんだよ。

 ま、とはいえ。今んところ、兄貴ぜんぜん回復してねーらしいし。

 兄貴が聞いてそうな番組にも中々出れてねーし。

 俺の判断あってたんかどうか、みようなトコなんだけどよ」

「い、いやいやいやいや……」

 オレは感心しきりだった。

 店長代理、確かに、二十歳そこそこにしては、いざという時けっこう落ち着きあったり。大局的なものの見方できたり。人生経験積んでるなーって思えるとこもあったけど。けっこう色々考えて人生経験積んでたんだな……!

 なんだか、リアルに、四歳年上ってことの経験値の差が感じられた。

「ま……だからさ。こう……断絶された兄弟のきずな、みたいな話聞くと。俺、なんか考えちまうんだよなァ……」

「そうだったんですか……」

 オレはここでようやく合点がいった。

『ノワール』行って兄弟の話聞いて以降、なんかいつもと様子変わっちゃったのは、だからだったんだな……。

「まぁけど……さすがに今回は俺らにどーしようもねーレベルの話だよなぁ」

 店長代理はたんそくしながらいった。

おうと勇者のオヤツ戦争止めんのとはわけがちがうぜ。おでんも食わせられねーし。今回ばかりはコンビニでどうこうできる規模の話じゃねーよ」

 そして、

「これがうまく解決できりゃ。まぁつみほろぼし? いや違うか。んー……なんかこう。俺と兄貴にも、明るい未来待ってるんじゃねーかって。気休めみたいなのになる気がしたんだけど。さすがに世の中……いや、異世界、そう甘くねーわなぁ」

 力なくそうつぶやく。

 さすがに世の中……いや異世界そう甘くはない、か……。

(そう……なんだろうか?)

 オレはなんとなく同意しかねた。

 これは、オレ達の手に余る事件で。今までとは深刻さが違う事件で。

 だから、オレ達にはもうどうしようもない。

 そういう、あきらめるべき事件……なんだろうか?

 などと考えてる時だった。

「おっ。見ろよ透」