「大丈夫なんでしょうね……!」

 九条がペットボトル片手に店長代理にプレッシャーをかけている。

「あれを雇った店長代理サン? 責任を取る覚悟はOK?」

「いや一回落ち着け! ま、まぁ、なんとかなんじゃね? いいから一回とうてき用ペットボトル置けよ!?

 あわてる店長代理。さすがにだいぶ不安になってきてるみたいだな……。

 そんな中も、ユグドラは、

「すいません、レジ点検? やってもやっても計算あわないんですけど。このコインカウンター古くないですか? 前の職場ではこんなこと……」

「え? 店の掃除? えー……? 私、前の職場ではけっこう花形みたいなポジションだったんですよ? もうちょっと大きな仕事が向いてると思うんですけどぉ」

 口ばっかり達者で大して上達していかないポテンシャルを全開で発揮していく。

 オィィ、ほんとに大丈夫かこれ!?

 とか、そんなかみ合わない研修を、一時間くらいやった、そんなころだった。

「あ……!」

 急にユグドラが声をあげた。

よこしまなる気配が増大しています……! ダークハルトが近づいてきています!」

「え!?

「もう来たの!?

 そんな間近にせまってきてたのか!?

「ま、まじ……? 全然未完成なんだけどこの子……!?

 九条はがくぜんとユグドラを見ながらいう。ヤバイ、確かに、コンビニ店員としてまだ全然成熟してないぞ……!?

「ま、まぁこうなったらしゃあねぇ。とにかくだん通りを心がけて店開けよう」

 店長代理がたんそくしながら場をまとめる。

「あんまユグドラのことは意識すんな。んなことしたら余計バレんだからな。つうに店開けて、全員普通に働くんだぞ」

「「「「りようかい……!」」」」

 その言葉に、シリアスに、全員頷く。

 しかし。

「あの提案があるんですけど。このおコーナーの発注、私に任せてもらえませんか? 前の職場で似たようなことやってたんで、私に発注任せてくれれば三日で売り上げを三倍にしてみますよ?」

「いいからお前はだまってレジ立ってろッッ!」

「チョロチョロすんなド新人がッッ!」

 そんな具合に、臨時で雇った新人バイトユグドラに手を焼く中、

 ピンポーン!

 運命を告げる入店音──

 ストーカー、ダークハルトが、店内に現れた──!


    ※


 夜より暗い黒の兜に、よろいだけでなく、かたてやブーツ、果てはマントまで、全てしつこくで統一した装備で固めている暗黒騎士。

 ユグドラのいうとおり、その男の周囲には、まるで後ろの景色をゆがんで見せるような──まがまがしい闘気がじゆうまんしていた。

 こいつが、ユグドラシルを求め……その力で、世界中の生物を下僕に従えようとしている男……〝暗黒ダークハルト〟!!

 ヒュッ。

 そんな中、オレの目の前にいた店長代理が、胸の前で小さくチョップするような仕草をオレに見せ、オレに合図する。

 あ、そっか、普段通り、普段通りだ。

 オレは頷いて、同時に動き出した店長代理と共に、ダークハルトに近づいた。

「いらっしゃいませー」

「異世界コンビニ、デモン・イレブンでーす」

 できるだけさりげなさを意識して、ダークハルトに近づき接客開始するオレと店長代理。できれば、レジのユグドラに近づける前に追いはらってやりたい。

「お客様、当店は初めてですか?」

 にこやかにお声がけする、オレ。

 しかし──次のしゆんかん、オレはこおりついた。

 オレ達に声をかけられたダークハルトは、コォォォォ……!

 甲冑の間から、ダイバーが海中で出すようななぞの呼吸音を出し、

 スッ──。

 何の迷いもなく、店内の一方向を指さす。

 そこにあったのは……

 レジに立ち、大きく見開いた目でこちらを見ている新人バイト、ユグドラの姿──

(な……)

(もう、バレてる!?

 ぞわっ! 身体中の血が逆流したようなあせりを覚えるオレと店長代理。

 こんないつしゆんで何で……!?

鹿! はん、店長代理!」

 その時、背後から、九条の焦ったような声がとんだ。

「「あっ……!?」」

 オレ達がユグドラの方を見て余所見してる、ほんの一瞬のすきだった。

 ダークハルトが、オレと店長代理の間を横切り、ユグドラに向かって歩き出していた。

「しまった!」

「ユグドラ!」

 慌ててダークハルトを追いかけるオレと店長代理。

 しかし最初の一歩の差はずいぶん大きく、届かない! みると、九条、ゆう、白雪も走ってきているがまにあいそうにない。くそ!?

「に、げろ!」

「ユグドラ……とりあえずきゆうけい室に行け!」

 オレと店長代理が全力で指示。

 ユグドラはきようした表情でうなずき、慌ててきびすを返すが──しかしどうにもどんくさい! どうひいに見ても逃げ切れそうにない!

「くそ……!」

 あんまりこんな方法採りたくなかったけど……こうなったら、オレ達が身体からだ張って時間かせいでる間に、ユグドラを逃がすしかない!

 つきあい短いし、正直あんまり好印象ないけど、こうはいは後輩。

 せんぱいバイトとして。あんなやつでも、オレはユグドラを守らなければならないのだ。

 異世界できたえたあしこしを、今ここでばくはつさせる──!

「でやっ!」

 一度ぐっと足腰を落とし、オレは──ダークハルトに向かってちようやくした!

 ──だったが。

 オレが空をび、そのままダークハルトにせつしよくする、まさに直前。

 耳を疑うような言葉が、耳に入った。

「あ、サーセン、あんまんと肉まん一個ずつください」

 店内にひびく、カルすぎる声。

(……え?)

 オレは中空でエビぞりになり、ダークハルト──もとい、お客さんに絶対れないように身体を曲げ、ザザァ──そのまま、普通にダークハルトの横を通過、スライディングで着地した。

 え…………?

 あんまんと……肉……まん?

 今……このダークハルト。そんなこといってなかったか?

「え……!?

 そして、こんわくしているのは、ユグドラもいつしよだったらしかった。

「か、かしこまりました!? あ、あああ、あんまんと、肉まんですね!」

 が、研修の成果があったのか。とりあえず手際が悪いながらも、満面の営業スマイルで対応、色々ちがえてえらい時間かかったものの、あんまんと肉まんを普通にはんばいしている。それに対し、ダークハルトは、

「ふむ。うまそうだ。どうもありがとうコォォォ……

 とかいいながら。商品を受け取り、そのまま、出口へ向かって踵を返した。

 あ、あれ……!?

「あ…………!?

 と、そんな中だった。

 ユグドラが、何かに気づいたように声をあげた。

「な、なんだよ? どうした?」

「ち、ちょっと待ってください。もしかして──」

 急に走り出し、今、店から出ようとしたダークハルトに飛びつくユグドラ。

「え!? オイ!?

 止める間もなく、

 ガッ! ユグドラはダークハルトに取り付き、

 スポッ! 続けて──お客様がかぶっていた黒いかぶとを取り外した。

 そこから出てきたのは──

「な……何をする!?

 ベリーショートのみどりがみちようカッコいい、めちゃくちゃ美形の女の人の顔。

 え? 女の人!?

ちがう……!」

 それを見たたん、ユグドラはつぶやくのだった。

「ダークハルトじゃない……!」

「は!?

 困惑するオレ達。

「ダークハルトじゃないって!?

「別人です。あまりにも気配が似ているので間違えました。ジョブも同じですし。

 この女の人は全くの別人。この人は気配からすると、平和を愛する、特に大きな野心もない、せいけんねらってない、ただコンビニに来た暗黒騎士のようです」

「……へ?」

 だれも事態を理解できない。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 そこで、九条が聞く。

「確認なんだけど。今、この世界樹にいる暗黒騎士ってダークハルト一人なのよね?」

「え? いえ?」

 あっさりとユグドラ。

「ここは、暗黒騎士が聖騎士にジョブチェンジするためのメッカですから……かなりの数の暗黒騎士とかはうろついてますけど」

「はぁ!?

「かなりの数の暗黒騎士がうろついてる!?

「ちょっと待ってよ……あんた……その、あんたをストーキングしてるダークハルトと、他の暗黒騎士の区別、つくんでしょうね!?

「え!? あ、は、はい。前の職場では似たようなことやってましたし。基本的にはそんなにミスとかするほうのタイプじゃないので、たぶんだいじようだと思いますけど」

「いや基本的には大丈夫って! しょっぱなから取り返しのつかない人違いやってくれてますけど!?

 耳を疑うオレ達。

 やべぇ! これやばいパターンだ! だって……

「フザけるな! 光を捨てた暗黒騎士にとって、素顔をさらすのは一番のきん……!

 風のうわさに聞いて、このデモン・イレブンに来るのを楽しみにしてたのに……! 貴様らは私のプライドにどろった! どう落とし前をつけてくれる!?

 入り口に目を向ける。そこにいるのは、

「も、申し訳ございません、お客様のおっしゃるとおりです、この度は誠に申し訳なく本人も深く反省していまして……!」

 ブチ切れている暗黒騎士のお姉さんと、兜を返しつつ、めちゃくちゃ必死に謝る店長代理、の図。

 だってこれ……ユグドラが、外から見分けつけられない以上。

 一応、帰る前、今の〝兜ぎ取り〟して、そのお客さんがダークハルトだったのかどうなのか。ちゃんとダークハルトやり過ごせたのかどうなのか。正体見破らなきゃいけないってことだよな!?

 ユグドラが一〇〇%の確率でダークハルトかどうか見破れない以上……ウチ、店として、これからとてつもなくクレーム量産しちゃうんじゃ……!?

「もういい! かいだ! 私は帰る! 本部にクレームの手紙を出すからな!」

 結局、いくら店長代理が謝ってもお姉さんのいかりは収まらず、お姉さんは、オレ達的に一番困る捨てゼリフをはいて帰っていった。

「あちゃー」

 それを見て、天をあおぎながらユグドラ。

「クレームいただいちゃいましたね? でもドンマイです。あまり暗くならず前向きに行きましょう」

「「「「「お前がいうな!!!!」」」」」

 全員の声がシンクロした。

 何これ!?

 ストーカーに追われる女性助けようとした結果……

 うちがクレームらって、本部評価下がることになった!? どういう事態だ!?

「勇気……」

 オレは、思わず勇気に聞く。

「ん? なんだー」

「この作戦。この後、大丈夫かな?」

 その問いに、勇気は、親指立てつつ満面の笑みで答えるのだった。

「にゃは! あたしのかんでは……

 めちゃくちゃ、いやな予感するぜー?」


    ※


「も、申し訳ございません、どうやらひとちがいだったということで……!」

「何だと!? 謝って済む問題と思うか貴様!?

 その後……勇気の嫌な予感は的中した!

「にゃはは、すんません、そちらのお代はサービスさせていただきますので……」

「当然です! それだけじゃ収まらない……何かタダ券みたいのないの!? 次来た時使えるやつ!」

 ユグドラが勤務開始してから、たった一時間。

「申し訳ございません。お客様にはマサチューセッツの名産品を──」

「いや、謝ってもらわなくて結構。お代も返してもらわなくて大丈夫ですよ?

 その代わり商品もいりません。これを持ち帰って、家でこれを見た時、今の不快な気持ちを思い出したくないから。ただ、もちろん本部にはしっかりクレームさせていただきますね」

 デモン・イレブンでは、すでに三二件のクレームが発生していた(ちなみに相手は全員暗黒騎士)。

 クレームの理由は、全部、ユグドラの〝兜剝ぎ取り〟。

「おい! いつになったらその〝ダークハルト〟は来るんだよ!? このままじゃうちの店、つぶれるんですけど!?

 本部にクレームがいきまくっている! どこまでオレ達の評価下げたら気が済むんだこいつは?

「お、おかしいですね……なんかけっこう、ダークハルトっぽい人来てるんですけど」

「〝ぽい〟ってなんだよ、〝ぽい〟って! 全然見分けついてないじゃないか!」

「いやー、なんでしょう。もう、店、来ないつもりなんですかねぇ。この世界樹、使用は五時までですし。もう、五時前でしょう?

 客足も落ちてきたし……もしかしたら、今日は来ないのかもしれませんね」

「えぇぇ……!?

「お前……!」

 ここにきてとんでもなくひようけなことを言い出すユグドラに、オレ達は絶句した。

 何それ……こんだけけいかいして、来ないパターンもあんの!?

 それ、ただ、うちの店の評価下がっただけじゃん!?

 そして、ユグドラのそんな予感は的中。結局、五時を過ぎても、六時を過ぎても。

 ダークハルトは、店に現れなかった──!


    ※


「なんなのよ……この超・取りろう!?

 とっぷり日がしずみ、星がまたたく世界樹の上のデモン・イレブン内にたちこめるのは、どうしようもない徒労感。

 結局……あの後、ダークハルトは店に来なかった。

 ユグドラいわく、〝よこしまなる気配〟とやらも、もう今は世界樹内には感じられないとのことで……

 つまり、オレ達は、あんなグダグダでだが、〝コンビニを使って暗黒騎士ストーカーから少女をやり過ごさせる〟という任務は達成してしまったらしい。

 ……いいのか、これで?

「いやー……来ませんでしたね!」

 そんな中、明るい笑顔でいってくるのはユグドラだ。

「まぁ、来ないに越したことはないし? これで私の願いはかなったわけですし? 万々歳ですね!」

 満面の笑みでユグドラはいってくるが、

…………

 その表情を見て、オレ達一同は顔を見合わせた。

 なんだろ……なんか、〝よかったですね!〟といいつつ。

 なんとなく、ユグドラ、らくたんしてる?

(まぁ、でも、無理もないんじゃん……?)

 不思議に思ってると、九条がオレに耳うちしてきた。

(え? 無理ないって?)

(たとえめいわくなヤツでも。来る、来ると身構えてて、結局来なかったら。人間、なんかかたかし喰らうっていうか……ヘンな話、ちょっと残念みたいに思うじゃん)

(あぁ……)

 オレもなんとなくうなずく。

 なんだろ……き打ちテストが来ると聞いて、いやいや勉強したのに、結局そのテスト自体とりやめになって、宙ぶらりんになった……みたいなじようきようみたいなもんか。

 しかも、今回の場合、こんだけオレ達巻き込んでおいて……。

 来なかったら来なかったで、ガッカリするのは、当然っちゃ当然の感情か。

「ま、まぁ、でも、これで世界が救われたんだからよかったじゃん」

 オレはバイトのせんぱいとして、ユグドラを元気付けるようにいう。

 他のみんなも続いた。

「そ……そーね! それに、デモン・イレブンのバイトなんてそうそう経験できないことなのよ?」

「にゃは、そうそう、一応、記念すべきバイト第一号だしなー」

「ああ、ま、新入りにしちゃがんばったほうなんじゃねーの? ちょっとこう……クレームは多かったけど?」

「ですね。なんだったらもうちょっと働いてみます? 塔子が教えてあげますよ」

 四者四様で言葉をかけるデモン・イレブンメンバー。

 オレらって結局お人好しだよな……!

「みなさん……!」

 そんなオレ達の言葉に、ユグドラも少し元気を取りもどしたようだ。

「そう……ですね」

 ユグドラは頷く。

「ダークハルトは来なかったけど……みなさんと過ごした時間は確かにあった。それが、何よりのプレゼントですよね」

 少し無理やりのように笑い、

「ありがとうございます。そうですね。みなさんがいうなら、私、もう少しデモン・イレブンで働いてみようかな……」

 そしてオレ達のアドバイスどおり、デモン・イレブンに残ることを前向きにとらえようとするユグドラ。

 しかし、その時である。

「ユ……ユグドラ!」

 店内入り口から声がひびき。一人の男が、店内に入ってきた──!


    ※


 入ってきたのは……今まで店に来た暗黒騎士よりきよだいな角付きの黒いかぶとをかぶり、どくを思わせる面をつけた暗黒騎士──。

「ダークハルト……」

 そして、そんな暗黒騎士を見て、ユグドラがあっさりいう。

「え?」

「ダークハルトォォ!?

 たんに、オレ達にきんちようが走った。

 だいぶ時間外だけど、いよいよ現れたのか!?

「ま、ちがいないわけ?」

 九条がねんため確認。

「ま、まちがいありません」

 険しい顔つきで、ユグドラ。

「彼のよろいの胸元を見てください。DarkHaruto……! 彼の名前が刻印されているプレートがありますし……!」

 ごくりとつばを飲み込みながら、ユグドラ。

 うながされてみると……ほんとだ。

 ダークハルトの黒い鎧の胸元。そこに、DarkHarutoと書かれたプレートがついている…………

 って、あれ?

 ネームプレート? そんなものがあるなら、わざわざ、来るお客さん来るお客さん兜うばい取ってクレーム受けまくる必要もなかったんじゃ……!

 そのとんでもないユグドラのチョンボはかなり気になったが……

 それよりダークハルトである。

 とうとう来やがったな──! オレ達はこうはいを守るためじんする。

 が。そんなダークハルトを前に。ユグドラは、予想外のことをいってくるのだった。

「何でいまごろ来たんですか、ハルト!」

 とつぜんさけぶユグドラ。

「いっとくけど……私は、あなたと、ヨリを戻す気なんてないからね!?

「は?」

「へ?」

 いきなりのユグドラの先制こうげきに顔を見合わせるオレ達。

「ヨリ?」

「つか、ハルト……? 知り合い?」

 おどろいていると、

「ハルト──あなたは、私を愛しているといってくれた。けど、それはしよせんせいけん目当てだった──。私は深く傷ついたの。それで決めた。あなたのことは愛していたけど。私は、二度と、あなたには会わないと!」

 ドラマチックに叫ぶユグドラ……ってえええええええ!?

 何コレ? 何コレ?

 ユグドラとダークハルト……付き合ってたの!?

「確かに……それは事実だ」

 カシャーン。それに対し、兜をぎ、それを力なくゆかに取り落としながら答えたのはダークハルト。兜の下から現れたのは、はくはつが美しいあどけない青年の顔だった。

「かつて僕は、闇にのまれ、力をほつし、そして聖剣を求めていた──この世界中の生物を下僕にする為に……!」

 力なくいう、ダークハルト。……なんで下僕?

「けれど、そんなすさんだ日々の中。僕は出会ったんだ……僕の天使……いや女神ミユーズ

 ユグドラシルを護るせいれい、ユグドラに……!」

 熱い語調でダークハルト。

「だ、だまされませんよ……!」

 ユグドラはそっぽを向きながらいった。

「そんなこといって……どうせ、結局、聖剣の在処ありかと力が望みなんでしょう」

 ねるように、ユグドラ。が、

「いや、聖剣はもういいんだ……! そのしように……」

 スッ、とダークハルトは手を上げる。

「《ユグドラシル》は、もう手にいれてる。君の力を借りずに」

 そこににぎられていたのは──つばの部分が、しげった木の葉のようになり、刀身が枝のようにクネクネと曲がっている不思議な剣。

「何!?

「あれが《ユグドラシル》!? 本物!? ユグドラ!?

「ま、間違いありません……本物です。そんな……自力で見つけたというの?

 しかも……手に入れれば、いつでも願いはかなえられるはずなのに……未使用……」

「そうさ。僕は気付いたんだ……君さえいれば、聖剣なんていらない」

 そしてそう叫ぶと、ダークハルトは、カツン、と聖剣を床に投げ出した。

「僕の願いはただ一つ。

 君と……けつこんしたいだけなんだ! だから戻ってきてくれ、ユグドラ!」

 顔を真っ赤にして叫ぶダークハルト。お、おお!? いきなりプロポーズしやがった!?

「な……何いってるの!? た、たとえほんとにもう世界せいふくねらってなかったとしても……わ、私にヨリを戻す気なんかないし! あなたと結婚するかどうかは、別問題じゃない!」

「じゃ、じゃあ、交際……いや、こうなったら、文通でもいいよ! まず文通からやり直そう! 僕の住所アドレス教えるから! そっちの住所アドレス教えてくれ!」

「えぇぇ……ま、まぁ、住所アドレスくらいなら……」

「あ、ありがとうユグドラ! 明日あした絶対手紙出すから!」

「う、うん……。待ってる。あ、待って、あと……来週ヒマ?」

「え? う、うん。なんで?」

「よかったら、遊びに行ってあげてもいいけど。このふもとにいいカフェがあってさ……」

!! 是非! 約束だからね! ヒャッホウ!」

 喜び勇んでコンビニから飛び出していく暗黒ダークハルト。

……………………え?」

 なんか異常な速度で行われた目の前の光景に頭がついていかないオレ達。

 そんな中、ユグドラは最敬礼しながらオレ達にいうのだった。

「というわけで──しよう、ユグドラ。みなさんのおかげでヨリを戻すことになりました!」

 なんか笑顔で報告してくるユグドラ。

「はあ!?

 何いってんだコイツ!

「ちょ、ちょっと待って……じゃ、じゃあ何? 今回のそうどう……ただの、聖剣の精霊ユグドラ暗黒騎士ダークハルトげんだったの?」

「あ、はい」