「大丈夫なんでしょうね……!」
九条がペットボトル片手に店長代理にプレッシャーをかけている。
「あれを雇った店長代理サン? 責任を取る覚悟はOK?」
「いや一回落ち着け! ま、まぁ、なんとかなんじゃね? いいから一回
そんな中も、ユグドラは、
「すいません、レジ点検? やってもやっても計算あわないんですけど。このコインカウンター古くないですか? 前の職場ではこんなこと……」
「え? 店の掃除? えー……? 私、前の職場ではけっこう花形みたいなポジションだったんですよ? もうちょっと大きな仕事が向いてると思うんですけどぉ」
口ばっかり達者で大して上達していかないポテンシャルを全開で発揮していく。
オィィ、ほんとに大丈夫かこれ!?
とか、そんなかみ合わない研修を、一時間くらいやった、そんな
「あ……!」
急にユグドラが声をあげた。
「
「え!?」
「もう来たの!?」
そんな間近に
「ま、まじ……? 全然未完成なんだけどこの子……!?」
九条は
「ま、まぁこうなったらしゃあねぇ。とにかく
店長代理が
「あんまユグドラのことは意識すんな。んなことしたら余計バレんだからな。
「「「「
その言葉に、シリアスに、全員頷く。
しかし。
「あの提案があるんですけど。このお
「いいからお前は
「チョロチョロすんなド新人がッッ!」
そんな具合に、臨時で雇った新人バイトユグドラに手を焼く中、
ピンポーン!
運命を告げる入店音──
ストーカー、ダークハルトが、店内に現れた──!
※
夜より暗い黒の兜に、
ユグドラのいうとおり、その男の周囲には、まるで後ろの景色を
こいつが、ユグドラシルを求め……その力で、世界中の生物を下僕に従えようとしている男……〝暗黒
ヒュッ。
そんな中、オレの目の前にいた店長代理が、胸の前で小さくチョップするような仕草をオレに見せ、オレに合図する。
あ、そっか、普段通り、普段通りだ。
オレは頷いて、同時に動き出した店長代理と共に、ダークハルトに近づいた。
「いらっしゃいませー」
「異世界コンビニ、デモン・イレブンでーす」
できるだけさりげなさを意識して、ダークハルトに近づき接客開始するオレと店長代理。できれば、レジのユグドラに近づける前に追い
「お客様、当店は初めてですか?」
にこやかにお声がけする、オレ。
しかし──次の
オレ達に声をかけられたダークハルトは、コォォォォ……!
甲冑の間から、ダイバーが海中で出すような
スッ──。
何の迷いもなく、店内の一方向を指さす。
そこにあったのは……
レジに立ち、大きく見開いた目でこちらを見ている新人バイト、ユグドラの姿──
(な……)
(もう、バレてる!?)
ぞわっ! 身体中の血が逆流したような
こんな
「
その時、背後から、九条の焦ったような声がとんだ。
「「あっ……!?」」
オレ達がユグドラの方を見て余所見してる、ほんの一瞬の
ダークハルトが、オレと店長代理の間を横切り、ユグドラに向かって歩き出していた。
「しまった!」
「ユグドラ!」
慌ててダークハルトを追いかけるオレと店長代理。
しかし最初の一歩の差はずいぶん大きく、届かない! みると、九条、
「に、
「ユグドラ……とりあえず
オレと店長代理が全力で指示。
ユグドラは
「くそ……!」
あんまりこんな方法採りたくなかったけど……こうなったら、オレ達が
つきあい短いし、正直あんまり好印象ないけど、
異世界で
「でやっ!」
一度ぐっと足腰を落とし、オレは──ダークハルトに向かって
──だったが。
オレが空を
耳を疑うような言葉が、耳に入った。
「あ、サーセン、あんまんと肉まん一個ずつください」
店内に
(……え?)
オレは中空でエビぞりになり、ダークハルト──もとい、お客さんに絶対
え…………?
あんまんと……肉……まん?
今……このダークハルト。そんなこといってなかったか?
「え……!?」
そして、
「か、かしこまりました!? あ、あああ、あんまんと、肉まんですね!」
が、研修の成果があったのか。とりあえず手際が悪いながらも、満面の営業スマイルで対応、色々
「ふむ。うまそうだ。どうもありがとうコォォォ……」
とかいいながら。商品を受け取り、そのまま、出口へ向かって踵を返した。
あ、あれ……!?
「あ…………!?」
と、そんな中だった。
ユグドラが、何かに気づいたように声をあげた。
「な、なんだよ? どうした?」
「ち、ちょっと待ってください。もしかして──」
急に走り出し、今、店から出ようとしたダークハルトに飛びつくユグドラ。
「え!? オイ!?」
止める間もなく、
ガッ! ユグドラはダークハルトに取り付き、
スポッ! 続けて──お客様がかぶっていた黒い
そこから出てきたのは──
「な……何をする!?」
ベリーショートの
え? 女の人!?
「
それを見た
「ダークハルトじゃない……!」
「は!?」
困惑するオレ達。
「ダークハルトじゃないって!?」
「別人です。あまりにも気配が似ているので間違えました。ジョブも同じですし。
この女の人は全くの別人。この人は気配からすると、平和を愛する、特に大きな野心もない、
「……へ?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
そこで、九条が聞く。
「確認なんだけど。今、この世界樹にいる暗黒騎士ってダークハルト一人なのよね?」
「え? いえ?」
あっさりとユグドラ。
「ここは、暗黒騎士が聖騎士にジョブチェンジする
「はぁ!?」
「かなりの数の暗黒騎士がうろついてる!?」
「ちょっと待ってよ……あんた……その、あんたをストーキングしてるダークハルトと、他の暗黒騎士の区別、つくんでしょうね!?」
「え!? あ、は、はい。前の職場では似たようなことやってましたし。基本的にはそんなにミスとかするほうのタイプじゃないので、たぶん
「いや基本的には大丈夫って! しょっぱなから取り返しのつかない人違いやってくれてますけど!?」
耳を疑うオレ達。
やべぇ! これやばいパターンだ! だって……
「フザけるな! 光を捨てた暗黒騎士にとって、素顔を
風の
入り口に目を向ける。そこにいるのは、
「も、申し訳ございません、お客様のおっしゃるとおりです、この度は誠に申し訳なく本人も深く反省していまして……!」
ブチ切れている暗黒騎士のお姉さんと、兜を返しつつ、めちゃくちゃ必死に謝る店長代理、の図。
だってこれ……ユグドラが、外から見分けつけられない以上。
一応、帰る前、今の〝兜
ユグドラが一〇〇%の確率でダークハルトかどうか見破れない以上……ウチ、店として、これからとてつもなくクレーム量産しちゃうんじゃ……!?
「もういい!
結局、いくら店長代理が謝ってもお姉さんの
「あちゃー」
それを見て、天を
「クレームいただいちゃいましたね? でもドンマイです。あまり暗くならず前向きに行きましょう」
「「「「「お前がいうな!!!!」」」」」
全員の声がシンクロした。
何これ!?
ストーカーに追われる女性助けようとした結果……
うちがクレーム
「勇気……」
オレは、思わず勇気に聞く。
「ん? なんだー」
「この作戦。この後、大丈夫かな?」
その問いに、勇気は、親指立てつつ満面の笑みで答えるのだった。
「にゃは! あたしの
めちゃくちゃ、
※
「も、申し訳ございません、どうやら
「何だと!? 謝って済む問題と思うか貴様!?」
その後……勇気の嫌な予感は的中した!
「にゃはは、すんません、そちらのお代はサービスさせていただきますので……」
「当然です! それだけじゃ収まらない……何かタダ券みたいのないの!? 次来た時使えるやつ!」
ユグドラが勤務開始してから、たった一時間。
「申し訳ございません。お客様にはマサチューセッツの名産品を──」
「いや、謝ってもらわなくて結構。お代も返してもらわなくて大丈夫ですよ?
その代わり商品もいりません。これを持ち帰って、家でこれを見た時、今の不快な気持ちを思い出したくないから。ただ、もちろん本部にはしっかりクレームさせていただきますね」
デモン・イレブンでは、
クレームの理由は、全部、ユグドラの〝兜剝ぎ取り〟。
「おい! いつになったらその〝ダークハルト〟は来るんだよ!? このままじゃうちの店、つぶれるんですけど!?」
本部にクレームがいきまくっている! どこまでオレ達の評価下げたら気が済むんだこいつは?
「お、おかしいですね……なんかけっこう、ダークハルトっぽい人来てるんですけど」
「〝ぽい〟ってなんだよ、〝ぽい〟って! 全然見分けついてないじゃないか!」
「いやー、なんでしょう。もう、店、来ないつもりなんですかねぇ。この世界樹、使用は五時までですし。もう、五時前でしょう?
客足も落ちてきたし……もしかしたら、今日は来ないのかもしれませんね」
「えぇぇ……!?」
「お前……!」
ここにきてとんでもなく
何それ……こんだけ
それ、ただ、うちの店の評価下がっただけじゃん!?
そして、ユグドラのそんな予感は的中。結局、五時を過ぎても、六時を過ぎても。
ダークハルトは、店に現れなかった──!
※
「なんなのよ……この超・取り
とっぷり日が
結局……あの後、ダークハルトは店に来なかった。
ユグドラいわく、〝
つまり、オレ達は、あんなグダグダでだが、〝コンビニを使って
……いいのか、これで?
「いやー……来ませんでしたね!」
そんな中、明るい笑顔でいってくるのはユグドラだ。
「まぁ、来ないに越したことはないし? これで私の願いは
満面の笑みでユグドラはいってくるが、
「…………」
その表情を見て、オレ達一同は顔を見合わせた。
なんだろ……なんか、〝よかったですね!〟といいつつ。
なんとなく、ユグドラ、
(まぁ、でも、無理もないんじゃん……?)
不思議に思ってると、九条がオレに耳うちしてきた。
(え? 無理ないって?)
(たとえ
(あぁ……)
オレもなんとなく
なんだろ……
しかも、今回の場合、こんだけオレ達巻き込んでおいて……。
来なかったら来なかったで、ガッカリするのは、当然っちゃ当然の感情か。
「ま、まぁ、でも、これで世界が救われたんだからよかったじゃん」
オレはバイトの
他のみんなも続いた。
「そ……そーね! それに、デモン・イレブンのバイトなんてそうそう経験できないことなのよ?」
「にゃは、そうそう、一応、記念すべきバイト第一号だしなー」
「ああ、ま、新入りにしちゃがんばったほうなんじゃねーの? ちょっとこう……クレームは多かったけど?」
「ですね。なんだったらもうちょっと働いてみます? 塔子が教えてあげますよ」
四者四様で言葉をかけるデモン・イレブンメンバー。
オレらって結局お人好しだよな……!
「みなさん……!」
そんなオレ達の言葉に、ユグドラも少し元気を取り
「そう……ですね」
ユグドラは頷く。
「ダークハルトは来なかったけど……みなさんと過ごした時間は確かにあった。それが、何よりのプレゼントですよね」
少し無理やりのように笑い、
「ありがとうございます。そうですね。みなさんがいうなら、私、もう少しデモン・イレブンで働いてみようかな……」
そしてオレ達のアドバイスどおり、デモン・イレブンに残ることを前向きに
しかし、その時である。
「ユ……ユグドラ!」
店内入り口から声が
※
入ってきたのは……今まで店に来た暗黒騎士より
「ダークハルト……」
そして、そんな暗黒騎士を見て、ユグドラがあっさりいう。
「え?」
「ダークハルトォォ!?」
だいぶ時間外だけど、いよいよ現れたのか!?
「ま、
九条が
「ま、まちがいありません」
険しい顔つきで、ユグドラ。
「彼の
ごくりと
ダークハルトの黒い鎧の胸元。そこに、DarkHarutoと書かれたプレートがついている…………
って、あれ?
ネームプレート? そんなものがあるなら、わざわざ、来るお客さん来るお客さん兜
そのとんでもないユグドラのチョンボはかなり気になったが……
それよりダークハルトである。
とうとう来やがったな──! オレ達は
が。そんなダークハルトを前に。ユグドラは、予想外のことをいってくるのだった。
「何で
「いっとくけど……私は、あなたと、ヨリを戻す気なんてないからね!?」
「は?」
「へ?」
いきなりのユグドラの先制
「ヨリ?」
「つか、ハルト……? 知り合い?」
「ハルト──あなたは、私を愛しているといってくれた。けど、それは
ドラマチックに叫ぶユグドラ……ってえええええええ!?
何コレ? 何コレ?
ユグドラとダークハルト……付き合ってたの!?
「確かに……それは事実だ」
カシャーン。それに対し、兜を
「かつて僕は、闇にのまれ、力を
力なくいう、ダークハルト。……なんで下僕?
「けれど、そんなすさんだ日々の中。僕は出会ったんだ……僕の天使……いや
ユグドラシルを護る
熱い語調でダークハルト。
「だ、
ユグドラはそっぽを向きながらいった。
「そんなこといって……どうせ、結局、聖剣の
「いや、聖剣はもういいんだ……! その
スッ、とダークハルトは手を上げる。
「《ユグドラシル》は、もう手にいれてる。君の力を借りずに」
そこに
「何!?」
「あれが《ユグドラシル》!? 本物!? ユグドラ!?」
「ま、間違いありません……本物です。そんな……自力で見つけたというの?
しかも……手に入れれば、いつでも願いは
「そうさ。僕は気付いたんだ……君さえいれば、聖剣なんていらない」
そしてそう叫ぶと、ダークハルトは、カツン、と聖剣を床に投げ出した。
「僕の願いはただ一つ。
君と……
顔を真っ赤にして叫ぶダークハルト。お、おお!? いきなりプロポーズしやがった!?
「な……何いってるの!? た、たとえほんとにもう世界
「じゃ、じゃあ、交際……いや、こうなったら、文通でもいいよ! まず文通からやり直そう! 僕の
「えぇぇ……ま、まぁ、
「あ、ありがとうユグドラ!
「う、うん……。待ってる。あ、待って、あと……来週ヒマ?」
「え? う、うん。なんで?」
「よかったら、遊びに行ってあげてもいいけど。この
「!!
喜び勇んでコンビニから飛び出していく暗黒
「……………………え?」
なんか異常な速度で行われた目の前の光景に頭がついていかないオレ達。
そんな中、ユグドラは最敬礼しながらオレ達にいうのだった。
「というわけで──
なんか笑顔で報告してくるユグドラ。
「はあ!?」
何いってんだコイツ!
「ちょ、ちょっと待って……じゃ、じゃあ何? 今回の
「あ、はい」