「もうできたのかい!?」
「はい。しばらく使ってみて乾燥が続くようであれば教えてください。それからこの石けんは女将さんが手を洗う時用にしてください」
「なんでだい?」
「女将さんの今の手の状態に合わせて作ったので、その他の場所だと合わないことがあるんです」
あかぎれ寸前の手に合ったものということで、
また頻繁に洗う手とは違い、顔の乾燥は酷くないため、この石けんを使用すると肌トラブルに繋がる可能性もある。
「あんたはまたすごいものを……。なんだか悪いね。何かお返しでも」
「いつもお世話になっているお礼ですから! それに大したものでもないので気にしないでください。ね、たーちゃん」
「はやくよくなってねぇ」
「あたしも二人には世話になっているんだけど……。今回はお言葉に
ジゼルとたーちゃんが求めるのは、女将さんの手の回復である。感謝の言葉でも少し照れくさいくらい。けれど胸の辺りがぽかぽかとして、たーちゃんと顔を見合わせるとさらに幸せが広がっていくのだった。
数日後。朝食をもらいにキッチンに行くと、親父さんに両手を見せつける女将さんの姿があった。
「見ておくれよ、この手! 前よりも
「本当だ。ささくれまでなくなってるじゃないか」
石けんは大成功だったようだ。ジゼルの
「おいしいのなくなっちゃったぁ?」
「ささくれは食べ物じゃなくて、痛いやつだよ。なくなったら嬉しいの」
「そっかぁ。いたいのはないほうがいいねぇ~。うれしいね~」
ほにゃほにゃとした表情でよかったよかったと繰り返す。ジゼル
「ジゼル、あんたはやっぱりすごいよ! たった数日でこんなに綺麗になった!」
目の前に広げられた手をじいっと見つめる。指にできかけていたあかぎれはもうない。ひっくり返して手の
効果を実感してもらえるまでの期間が想像よりもかなり短い。これもたーちゃんの
「それで相談なんだけどさ、同じものをいくつか作ってもらいたくて。今まで使ってた石けんが入荷するまででいいんだ。
目の前でパチンと両手を合わせ、
「前のは小さかったので、少し大きくして。数も多めに五個くらい作っておけば安心ですかね」
「それだけあれば安心だ。もちろん今度こそお礼はするから! 欲しいものを考えておいておくれ」
「気にしなくても……」
「たーちゃんはねぇ、なににしよっかなぁ~。ジゼルもいっしょがいいかな~。べつべつのがいいかなぁ? ねぇジゼル~」
「ジゼルと一緒にいっぱい考えておいて」
女将さんはその言葉を残し、キッチンから去っていった。横で見ていた親父さんは何も言わず、けれど頬はすっかり
朝食を食べ、宿の手伝いを済ませてから石けんの材料を買いに行く。荷物が多くなってしまうため、たーちゃんはお留守番だ。女将さんと一緒にカウンターでお仕事をしてくれている。あまり
目的のものは主に四種類。キッチンで分けてもらったものと同じ植物油・ベースの石けんに入っていた
この中で灰だけはこのまま
だが錬金術を用いた場合、灰の質が石けんの完成度に関わってくる。錬金術というものは錬金釜に入れた素材がそれぞれに作用するため、通常の方法では作り出せないものや効果を生み出すことができる。
その一方で意図せぬ作用が起こることも多々ある。今回の灰がそうだ。その辺の雑草で作れば質がやや下がり、石けんに入れる素材に合わせて作った灰を使用すれば効果は倍増する。
とはいえ求める効果が毎回似ているジゼルが使う灰の材料は一種類だけなのだが。
「すみません。カシノキの
「おお、ジゼルちゃん久しぶりだな。また灰を作るのかい?」
「はい。おじさんのところのカシノキが一番よくて」
「嬉しいこと言ってくれるね~。たくさんあるからいいの持っていきな」
おじさんは端材の入った箱を見せてくれる。中には
「これでお願いします」
「まいどあり!」
端材を
「ジゼルちゃん、どうかしたのかい?」
「もしかしてなんですけど、いつもとは違う石けんを使ってますか?」
肉屋のおばさんの手は、少し前までの女将さんの手のよう。いや、女将さんの手よりも酷い。すでにあかぎれができている。だが去年よりも前の様子を思い出してみても、手が荒れていることはあれど、ここまで痛々しいことはなかった。
その点もやはり女将さんと同じ。ならば肉屋のおばさんも例の石けんを使っていたのではないか。そう考えた。そしておばさんの反応を見て確信する。
「どうして分かったんだい!?」
「手が乾燥してるのが気になって」
「よく見てるね。いつも使ってるのは暖かくなるまで入荷しないって言われてさ。違うのを使ってるんだけど、やっぱりいつもと違うとダメだね~。パン屋の
「そんなに困ってる人、多いんですね」
「ジゼルちゃんが来る前に『酷い
肉屋のおばさんから話を聞いた後、次の店に向かいながら色んな人の手を観察していく。お店を開いている人達、特に女性は指先が荒れている人が目立った。同じ石けんを愛用していたのかもしれない。
「石けん、渡したら喜んでくれるかな」
ポツリと
錬金ギルドに所属していた時は
そうと決め、薬草を予定よりも多く買い
両手いっぱいに荷物を
「ただいま戻りました!」
「おかえり。何かいいことでもあったのかい?」
「いいこと、ではないのですが……。
「その考えはいいと思う。だけどね、あの人達はジゼルの負担になるようなことを望まないと思うよ? 頼んだあたしが言うのもなんだけど、錬金飴作りと
「元々同じ石けんを使っていた方で似た
「香り……」
「あ、もちろん強い香りを付けるつもりはなくて、物によっては薬草の香りもなるべく
女将さんと同じ石けんをベースにしながらも、それぞれの悩みにあったものを作るつもりだ。例えばパン屋のおばさんに作る場合、効能は女将さんと同じでもいいが、薬草の香りは抑えたい。食品を取り扱っているためだ。その分、見た目にこだわる。
複数の色を混ぜるだけでも、カットする場所によって全く
ただし、花は花でも形を
ならいっそ花本体ではなく、花びらの形にするのはどうか。一つあたりは小さくなってしまうが、使い切り石けんということにすればいい。
使い切りサイズなら、
ブルーノのデザインを見せてもらってから、ジゼルなりに『安らぎの時間』について考えることが増えた。今までのジゼルなら、石けんに色と香りを付けることは思いついても、香りの持続時間まで考えることはなかった。
今までとは少し違う仕事が、新しい人との出会いが、ジゼルの創作意欲を
「
「花・ハーブ・果物の香りが十数種類ほど手元にあるので、それを使おうかなと。よければ香りを
「いいのかい!?」
「たーちゃんもかくにんする!」
「はい。この香りは
前回は効果とスピードを重視して作った。それに変に凝ってしまうと、肌に合わなかった時に女将さんが遠慮してしまうかもしれない。作り直しを悪いことだと思ってほしくなかった。だから非常にシンプルな石けんにした。
効果の確認ができた今、女将さんが気に入ってくれるものを作りたい。
「なんだか
「あ、じゃあ早速で申し訳ないのですが、宿の裏で木を焼いてもいいですか? もちろん穴はしっかり
「構わないよ。お返しはまた別にするけど」
「ありがとうございます」
考えが
「気にしなくていいんだよ。あたしらの石けんに使われるんだから」
ぺこりと頭を下げ、部屋に戻る。ジゼルは
野菜の皮などを使用する
もちろん錬金術を使ってもできるのだが、魔力を加えることで性質が変化する材料もあるので注意が必要だ。
「うん、全部大丈夫そう」
まとめて複数の香りを確認したので少し心配だが、使う直前にも確認すればいいだろう。
「女将さん。どうぞ。一応確認はしたんですが、前に作ったものなので、香りが変だったら教えてもらえると……」
「分かった。仕事の合間に確認させてもらうね」
「石けんの方は明日以降に作る予定なのでゆっくり選んでください」
「たーちゃんもいっしょにいく」
「でもお外で見てないとだから寒いよ? たーちゃんも女将さんと香り選んでて?」
「たーちゃんもおてつだいしたいの!」
ほっぺを
「たーちゃんもジゼルと一緒に行きたいんだよ。連れていってあげな。少し
「そう、ですね。ごめんね、たーちゃん。シャベル運ぶ係お願いしてもいい?」
「まかされた!」
掃除用具入れからバケツとシャベルを取る。バケツの中に端材の入った袋を入れ、シャベルはたーちゃんに持ってもらう。
宿裏に移動する間に『絶対に火の近くに近寄らない』と約束してもらう。火の粉の心配はもちろんのこと、地面からの
「たーちゃんが痛い思いをしたら私も女将さんも
「たーちゃんもいたいのはいやぁ」
コクコクと頷くと、
水の入ったバケツを避け、たーちゃんからシャベルを受け取る。そして建物から適度に離れた場所に穴を
あとは火をつけて待つだけ。木箱の上に
「おかみさんがねぇ、ジゼルのことすっごくほめてたんだよ」
「そうなの?」
返事をしながら、たーちゃんが落ちないように手を
「せっけんもすごいし~、あめもおいしいし~、はたらきものだって。でもいっぱいはたらくからちょっとしんぱいなんだって。たーちゃん、ちゃんとみててあげてっておねがいされちゃったぁ」
「だから着いてきてくれたの?」
「ううん。まってるあいだね、たーちゃんさみしかったから。ジゼルともっといっしょにいたいなぁっておもったの」
荷物が多くなるからお留守番してもらったのだが、悪いことをした。女将さんはたーちゃんからお話を聞いていたから、一緒に連れていくように
膝の上に乗ったのも
「お留守番させちゃってごめんね。石けん渡しに行く時は一緒に行ってくれる?」
「うん。ジゼルのせっけんはすごいんだよ~っておはなししてあげるね」
「喜んでもらえるといいなぁ」
燃えていく木材を
「親父さんってどんな石けんにすれば喜んでくれるんだろう? ドランもあんまり困っているようには見えなかったし、今の石けんで困ってない人に渡しても……」
「おやじさんもドランも、ジゼルのつくったのならよろこんでくれるよ?」
「そうなんだけど、ありがとうって渡すなら役に立つものがいいでしょう? だから石けんの他にも何か作ろうかな~って」
「やくだつもの?」
「そう。たーちゃんが『たーちゃんもつかえる?』って聞いてくれたみたいに、親父さんとドランも使ってみたいな~って思うやつ」
使い切り石けんと同様に、仕事が終わった後にリラックスできるアイテムがいい。これから寒くなるので、身体を温められるものなんてどうだろう。かさばらず、使い切れるようなものだとなおいい。けれどそう簡単には浮かばない。
「ジゼルのつくったのならなんでもつかってみたいな~ってなるよ? たーちゃんもいっぱいもこもこするのたのしみ~」
「あんまりやりすぎると身体までもこもこになっちゃうから、ほどほどにね?」
「ええ~」
話しながら、たーちゃんの身体が
それから、ビチャビチャにならないようにも気をつけて。いっそ
「そうだ、
「にゅーよくざい?」
「そう、入浴剤。お風呂は難しいかもしれないけど、手湯や足湯なら気軽に試してもらえると思うんだ」
立ちっぱなしだと足がむくむし、寒くなると厚着する分、
「てゆやあしゆ?」
たーちゃんは初めて聞く言葉を
「手とか足をお湯に入れて温めること。たーちゃんの場合は普通にお風呂になっちゃうけど、ぽかぽかになるよ~」
「ぽかぽか!」
「お風呂の中なら石けんを使っても
「おふろたのしみだね~」
たーちゃん用に作るのなら、
薬草も少なめにして、油脂も植物油のみを使用。クズ魔石の使用は控えられないが、溶かし残しがないように細心の注意を
ジゼルは頭の中でその他のレシピも組み立てていく。
石けんは乾燥に悩んでいる人達をメインに配っていく。乾燥と保湿に特化したものと、見た目と香りを意識した使い切りのものの二パターンを
入浴剤は乾燥以外のお悩みを持つ人達や、ジゼルのお手製石けんが不要だろうと判断した人に配っていく。一度きりだと寂しいので、三回分くらいの量を入れるつもりだ。
量の調整をしやすいよう、粉末ではなく親指の第一関節ほどの大きさの
たーちゃんのために作ろうとしている入浴剤も、渡す用のレパートリーに入れてもいいだろう。手湯をした後、何かに
「たーちゃんのおかげでだいぶ作るものが固まってきたよ。ありがとう」
お礼を告げながら頭を
「ねぇたーちゃん、私ね、女将さんがくれるっていうお返しで
「おやつ?」
「ううん、桶。前に
あの桶ならたーちゃんが入っても深くなりすぎない。座ってちょうどいいくらい。ジゼルは名案だと思ったのだが、たーちゃんは少し困ったように
「それだとたーちゃんだけうれしいのになっちゃう」
「じゃあ私も足湯する時に使おうかな」
「それならいいとおもう! うん、とってもいい」
そうこう話しているうちに灰ができた。完全に冷めるまで待ってから回収する。風で
部屋に
丸い石けんを大量に作り、ものによってはナイフでカットしていく。簡単に切れるため、力加減を間違えて
「あまったのどうするの?」
「後でまとめて石けんにするよ。常連さんに渡せそうなものは、錬金飴の時みたいにプレゼントにしてもいいかも。人ごとに合ったものを渡さないといけないから、みんなに渡せるわけじゃないんだけど、少量だったら追加を作ってもいいし……」
といっても色や香りが付いたものを他のものと混ぜると、色移り・香り移りの原因となる可能性があるので注意が必要だ。
余った分も花びらの形にして……。そう考えていたのだが、予想外のことが起きた。錬金釜を見下ろしながら思わず固まってしまう。
「たーちゃん、これ何に見える?」
「たーちゃんのしっぽ」
「だよね」
花びらを目指したはずが、たーちゃんの
「これはひとまず避けて、もう一回作ってみよう」
たーちゃんと話しながら作業していたため、意識がそちらに引っ張られてしまったのだろう。そう思ったのだが――。
「また尻尾だ。なんで……」
なぜか二回、三回と作り直しても同じ形が出来上がる。無難に
「ぽんぽこぽんぽこ。たーちゃんのしっぽ~。ぽんぽこぽんぽこ。いっぱいいっぱいうれしいなぁ~」
たーちゃんの
通常サイズだとつるんと滑ってしまいそうな形だが、使い切り石けんほどのサイズの
生産スピードが異常なこともあり、完成した石けんのいくつかを使ってみた。結果は問題なし。しっかりと
生産スピードはきっと、石けんの大きさが関係しているのだろう。あっという間にできてしまうが故に、
ジゼルもまだまだ未熟ということだ。だが未熟であったからこそ、こんなに可愛らしいものができた。そう考えれば悪いことばかりではない。
「小さいのは全部この形にしよっか」
「たーちゃんのしっぽといっしょ~っていってわたそうね~」
ご機嫌なたーちゃんは、尻尾をフリフリと振りながらアピールの練習を始めた。
翌日。入浴剤の材料とラッピングの材料を買いに行くことにした。もちろん今度はたーちゃんも一緒だ。
「なんかあったらここにいれて?」
尻尾形バッグをポンポンと叩くたーちゃん。荷物でいっぱいになったら歩くとまで言ってくれた。本当に
とりあえず行きはいつも通りの定位置で、何でも屋に入る。包装紙の材料は錬金飴の包み紙に使っているものと全く同じ。こちらは迷わないのだが、とある棚に差し
「思ったよりいっぱいある……」
まさかリボンだけで低い棚をまるまる一つ使っているとは思わなかった。ザッと見ただけでも五十はある。これではとりあえず全種類、とはいかない。金銭面だけの問題ではなく渡す時に混乱するからだ。
その場にしゃがみ、リボンを
「たーちゃんこれすき。たーちゃんといっしょ」
そう言いながら指差したのは、赤いフリルリボン。以前女将さんが作ってくれたローブを意識したのだろう。たーちゃんらしさたっぷりだ。
「あ、本当だ。じゃあ一つはこれにしようか。赤以外の色のでいいな~っていうのがあったら教えて?」
「わかった~」
棚の上に置かれたメモとペンを手に取り、札に書かれた番号を記入する。欲しい長さも書いてから渡すと、店員さんがまとめて切ってくれるらしい。
「これも! これもいいなぁ」
可愛いデザインはたーちゃんが
「よし、このくらいでいいかな」
選んだのは全部で十七種類。半分以上たーちゃんセレクトである。予定より少し多くなってしまったが、リボンなら余っても他に使い道がある。全て同じ長さにカットしてもらい、ラッピングの材料と一緒に会計を済ませる。
「りぼん、たーちゃんがもつ!」
フンフンと鼻を鳴らすたーちゃんからバッグを受け取り、中に入れさせてもらう。
それから残りの材料も買い、試作品をササっと作ってしまう。試作品といっても、一度に作れる量の確認がメインなのだが。
試作品として作るのは二種類。たーちゃんが使える分と、女将さんと親父さんに渡す分である。ちなみに全てたーちゃんの尻尾形にした。使い切り石けんと同じサイズにしたため、イメージするのも楽だった。なによりたーちゃんの気合いの入り方が違う。
「ぽんぽこぽんぽこ。たーちゃんのしっぽ~」
「ぽんぽこぽんぽこ。みんなをげんきにするのぉ~」
「ぽんぽこぽんぽこ。おふろっ! おふろっ!」
歌だけではなく、踊りもいつもとは少し違う。錬金飴のお手伝いをしてくれる時は両手でお
すると錬金飴の時と同様に、想定よりも多く入浴剤が
「完成! 親父さん達の分は乾いてるかな~」
乾かしていた入浴剤を指先でツンツンと触ってみる。指先に軽く粉がつく程度。このくらい乾けば問題ないはずだ。たーちゃんの分はまだもう少しかかりそう。とはいえ明日の朝にはすっかり乾いているはずだ。
「あとはラッピングだね。少し机を片付けて……」
机の上を一度
「これつかう」
たーちゃんが選んだのは、最初に選んだレースの付いた赤いリボン。何でも屋にいる時から女将さんと親父さんに
「じゃあ包装紙はそれにあったのにしようか」
「どれがいいかなぁ~」
リボンを手に取り、色んな包装紙の上に
「これはふつうのとおっきいの」
しかも二枚必要としている。ジゼルは鋏を持ったままキョトンとしてしまう。
「たーちゃんの分?」
「ドランとおじちゃんのぶん。たーちゃんとおんなじのあげるの」
「ドラゴンさんにも使ってもらえるかはドランに聞いてみないとだけど、それでもいい?」
「いいよ~」
ドラゴンさんにも渡すとなると、今の量では少し
「りぼんはジゼルがえらんで~」
「このリボンじゃないの?」
「ちがうやつ!」
力強く否定されてしまった。あのリボンは女将さんと親父さん専用だったのかもしれない。残った分はたーちゃんの
今はドランとドラゴンさんに渡す分のリボン選びである。たーちゃんが選んでくれたのは植物
包装紙の大きさに合わせて少し長めにカットする。
親父さんと女将さんの包装紙は机の上に広げる。包装紙の真ん中に石けんまたは入浴剤を置き、包むように上で紙をまとめる。
軽くて小さい入浴剤の方をたーちゃんに持ってもらい、石けんはポケットに入れて部屋を出る。
「親父さん。今、お時間大丈夫ですか?」
「どうした?」
「ぷれぜんとで~す。どうぞぉ」
入浴剤を差し出すたーちゃんに、親父さんは目を丸くする。
「
「入浴剤を作ったんです。もしよかったら手湯をする時に使ってください」
「おててぽかぽかになるんだって」
「ありがたく使わせてもらう。実は俺からも二人にプレゼントがあるんだ」
そう言いながら取り出したのは二つの小さな
「おいしそ~」
「これ、本当にもらっちゃってもいいんですか?」
「ああ。いつもお手伝いを頑張ってくれているお礼だ。受け取ってくれ」
「ぷれぜんとっていいねぇ」
たーちゃんは瓶を抱え、しみじみと呟く。
「そうだな。俺も嬉しい。でも食べすぎないようにな?」
「ありがとうございます」
「ごはんもいっぱいたべるからすこしずつにしておく。……これ、ドランとおじちゃんにもわけてあげてもい~い? とってもおいしそうだからぁ、よろこぶとおもうんだぁ」
「ああ、いいぞ。たーちゃんはえらいな」
頭まで撫でてもらい、たーちゃんはご機嫌である。ほっぺが
「石けんの方もできたんだな」
「はい。今から女将さんに渡しに行く予定です」
「そうか。きっと喜ぶぞ」
ぺこりと頭を下げてから、女将さんがいるカウンターへと向かう。近くにお客さんがいないのを確認してから、声をかける。
「女将さん。追加分の石けんができました」
「相変わらず早いね。ありがとう。助かるよ」
「それで、その……お返しについてなのですが」
「うんうん。何が欲しいんだい?」
お返し、なんて本来自分から言い出す内容ではない。ジゼルも少し言い出しにくい。親父さんからプレゼントを二つももらった後のことだからなおさらだ。
だが女将さんは口の
「前に使ってた洗濯桶を
「は?」
一瞬にして女将さんの表情にヒビが入った。何か
「あ、他に使う予定があれば他のものを考えますので!」
「使う予定なんてないけどさ、使い古した桶だなんて……。そんなにないものかい?」
「たーちゃんのおふろにするんだぁ。ジゼルもあしいれるんだよ~」
「お
「ジゼルがねぇ、たーちゃんもつかえるにゅーよくざいつくってくれたんだぁ。おやじさんとべつのやつ」
「石けんの他に入浴剤も作ったんです。二種類あればより合ったものを渡せるかなって。それでさっき、親父さんには手湯用の入浴剤をプレゼントして、その時に親父さんからオレンジピールのプレゼントをいただきました。なので正直、桶まで
ジゼルの言葉に合わせてたーちゃんがオレンジピール入りの瓶を前に
「それは日頃のお礼だから気にしないでいいんだよ。桶だって無理に考えたわけじゃないならいいんだ。でもね、あれは穴が空いてるからダメだ。新しいのを買ってあげるからそれを使いな」
「ありがとうございます!」
「おふろたのしみだねぇ~」
部屋に戻り、完成した石けんをラッピングしていく。宝石の形にした石けんは中身が見える
ちなみに入浴剤の包装紙は無地で
包み終わった石けんは、普段、
翌日は入浴剤を大量に作る。小さな石けんの時と同じく材料を投入するとすぐに浮かび上がってくるため、乾燥させる時間の方が長いくらいだ。
「これで最後っと」
ドラゴンさん用の大きな
「桶、これでいいかい?」
「ありがとうございます」
「わぁ~たーちゃんのおふろだぁ」
「もう入るならお湯を
「はいる! あ、でもおしごとちゅう」
「あともう少しだからすぐ終わるよ。お願いしてもいいですか?」
落ち
たーちゃんの分の入浴剤と石けんをポケットに入れ、キッチンに向かう。ちょうどお湯が沸いたところだったようで、桶にお湯を入れてもらう。それを宿裏に置く。
「まだ熱いから触らないでね? 残りの準備もすぐに済ませるからちょっと待ってて」
「わかった~」
タオルとたーちゃんの腹巻き、水入りのバケツを取りに戻り、すぐにたーちゃんのもとに引き返す。運んできた水は桶に入れる。ジゼルが少し
「たーちゃん、温度を確認してもらってもいい?」
たーちゃんを
「どう?」
「いいかんじぃ」
「じゃあ入浴剤を」
入れるから少し待っていて、と続けようとした時だった。手の中のたーちゃんが大きく動いた。手を振っているようだ。思わず落としそうになり、自然と手に力が入る。けれどたーちゃんが気にした様子はない。ずっと何かに向かって手を振っている。
視線の先を見たが何もいない。はて? と首を
「ぼすぅ。おそいよぉ。いっしょにおふろしよ~」
「にゃ~あご」
「こわくないよぉ。ジゼルがねぇ、たーちゃんのためににゅーよくざいつくってくれたの。ぼすもいっしょにはいれるよぉ」
「にゃっ!」
「ほんと! ジゼルはうそつかないもん!」
むうっとほっぺを膨らませる。だがボスはたーちゃんの言葉を疑っているのではなく、お風呂に入ることを
だがこの場から去ろうとはしない。以前、
「さきにたーちゃんがはいるから、だいじょぶだってわかったらぼすもはいってきて!」
「にゃ……」
ボスはついに
「ジゼル、にゅーよくざいいれてぇ~」
「あ、うん」
持ってきていた入浴剤を
「ふぁぁぁぁ」
気の抜けたような声と共に、たーちゃんの顔が
「ぼすもぉこっちおいでぇぇぇ」
ボスは
「にゃふん……にゃーにゃー」
「でしょお~。たーちゃんのいったとおりぃ~」
「にゃー」
「うんうん。ジゼルはすごいんだよぉ」
お話しする二
「ジゼル。身体が冷えないように温かいお茶でも……ってボスも一緒に入ってるのか」
「ありがとうございます。準備をしていたらボスが近くにいたみたいで、たーちゃんが
「かわいいな。……声をかけてくるか」
親父さんはそう
しばらく