四章
「お
「おわりましたぁ」
宿前の
掃除用具入れから
「どうかしました?」
「ちょっと手を見せておくれ」
「? はい。どうぞ」
手がどうかしたのだろうか。
「ひっくり返して」
指示に合わせ、手のひらを
「あの、私の手にどこか悪いところが?」
「ああ、ジゼルは何も悪くないんだ。ただ同じ石けんを使っているのにここまで差が出るとはねぇ。ハンドクリームなんかは使ってなかったよね?」
「はい、何も」
「
「していません」
「じゃあ若さか
「石けんがどうかしたんですか?」
「最近使っている石けんがあたしの
「みせてぇ?」
女将さんは「ほら」と両手を見せてくれた。全体的にがさついており、指はあかぎれになる寸前だ。これでは水に
「おてていたそう……」
「ちょっとピリッとするね」
「かわいそう」
たーちゃんは女将さんの痛みを想像し、しょんぼりとする。そしてジゼルの足下にぺったりとくっつき、顔を見上げた。たーちゃんの言いたいことはきっとジゼルと同じはずだ。力強く頷いてから女将さんに宣言する。
「私とたーちゃんが今から買ってきます!」
ジゼルはあまり気にならなかったが、水に触れる機会が多い親父さんの手も似たような状態かもしれない。肌に合わないのなら、一日でも早く元の石けんに
それに今回の石けんを買ったのは、行きつけの雑貨屋に在庫がなかったから。
「それが暖かくなるまで入荷できないらしいんだよ」
「え、そんなに? 何かトラブルでもあったんですか?」
「なんでもどこかの貴族が大量に買ったらしくて、生産が追いついていないんだって。あたしもいろいろと
一口に石けんと言っても作り方は様々。数日でできるものから、ひと月以上かかるものも。イレギュラーな大量注文があれば材料の確保だけでも大変になることだろう。
「あかぎれ用のクリームを
「
「いいハンドクリームでも思い出したのかい!?」
「石けん、私が作ってもいいですか? 実はギルドにいた
「
「たーちゃんもしらなかった……」
女将さんは
使用対象者は
いくつも試すくらいだったら、何でも作れる
ただ、日用品作りはどの錬金術師もやりたがらない。一つでも多く仕事を受けたい新人達ですら嫌な顔をする。場所によってはその仕事自体を
加えて依頼内容的にも仕事が薬師ギルドに流れてしまう可能性もある。実際、乾燥が酷い時期にだけ依頼に来る人や石けんだけしか頼まない人も多い。
だがジゼルは石けんの生産依頼を楽しみにしていた。アイテムに刻んだサインが消えたとしても、依頼書の指名
「でも錬金飴の生産で忙しいだろう?」
「そんなに時間はかからないので大丈夫ですよ。たーちゃんもお手伝いしてくれる?」
「がんばる! おかみさんがいたいのは、たーちゃんもいやだもん」
たーちゃんも両手をグッと固め、やる気十分だ。タイル
「そうかい? ならお願いしちゃおうかね」
「任せてください。今使っている石けんを材料に使いたいんですが、半分ほど
「半分と言わず、あたしが使っているのは全部使っちゃっていいよ」
「ありがとうございます」
錬金ギルドにいた頃はベースとなる
なにより
「親父さん。少し手を見せてもらってもいいですか?」
「俺の手はそんなに荒れてないぞ? 元々そんなに乾燥しないしな」
どうやら女将さんから話を聞いていたらしい。包丁を置き、ほれと見せてくれた。ゴツゴツとした頼りがいのある手だ。確かにいつもとあまり変わらない。
女将さんと同じような石けんを作れば、逆に油分が増えすぎてしまう。今回は女将さんの分だけ作らせてもらおう。頭の中で使う素材の候補を挙げていく。
「石けん作りで使いそうなものがあるなら持っていくか?」
「牛乳をコップに半分と、油を少し分けてもらいたくて……」
「牛乳と油な。油は何種類かあるから見てくれ」
「ぎゅーにゅー、ジゼルがのむぶんだけ?」
「ううん。石けんに入れるの」
「たーちゃんの分は別のコップに入れてやるからな。今飲んでくか?」
「うん!」
元気なお返事をして、牛乳を受け取るたーちゃん。お掃除で
その中から、石けん作りにも使ったことがある油を三種類分けてもらうことにした。油は種類こそ違うものの、投入のタイミングは一緒なので同じコップに入れてもらう。
部屋に戻り、
次に錬金飴の材料としても使っている薬草と、その他に二種類の薬草をすり
これで下準備は
今回は元々の石けんに使用されていた素材の質がよいものではなかったのか、かなりの量が浮いてきた。それに油脂もかなり溶け出している。こちらも全て
「じゃあここから少し忙しくなるから、たーちゃん、応援よろしくね」
「わかった~」
ジゼルはそう告げると、親父さんのお古の
「へ?」
目を丸くするたーちゃんを横目に、ジゼルはひたすら木べらでかき混ぜる。石けん作りの要とも言える作業であり、遅いと上手くまとまらないのだ。大きい錬金釜だとやりにくく、そこも
「がんばれジゼル~」
たーちゃんに応援してもらい、キッチリ五十回かき混ぜる。そうしたらすぐに逆回転でまた五十回。合計百回かき混ぜると、まん丸い固まりがぷか~っと浮いてきた。
女将さんから預かった時と比べると、半分ほどの大きさになってしまった。予想よりも小さい。それだけ不純物が多かったということだ。今度は一から材料を買って、なくなる前に追加で作ろう。
「ジゼル、すごい。まんまるだ~」
たーちゃんは大喜びで手を
商品にするなら
「食べちゃダメだよ?」
「たべたらおかみさんのぶんなくなっちゃうもんね! たーちゃんがまんする!」
「女将さんの分を取っちゃダメなのはそうだけど、これは食べ物じゃないからね。食べても美味しくないし、身体に悪いから」
「あめのざいりょうとぎゅーにゅーはいってるのに?」
「これは手とか身体を洗ったりするためのアイテムなんだ」
「たーちゃんもつかえる?」
「使えるよ。今度一緒に使おうか」
「うん!」
いつもは
「じゃあ
「うん!」
石けんを大事に抱えるたーちゃんを胸の前で抱え、女将さんの待つカウンターに向かう。
「できたよぉ~」