分けることで普通のお客さんだけではなく、『満月の湖』に納品する際にも利用できるというわけだ。サインやお手紙への返事は今まで通り手書きとはいえ、これだけでグッと時間の短縮ができる。

 ちなみに今作っているのは、二つ目のスタンプを押してサインしただけのもの。『オリーブの』のカウンターに置いておく用だ。錬金飴を買ってくれたお客さんが知り合いにわたす場合に持っていくことが多く、一日に十枚くらいなくなる。なので案内文と同様に、こうして暇な時に量産することにしている。

 出来上がったカードを箱に入れ、案内文も作ろうかと便せんに手を伸ばす。すると人の足音が聞こえてきた。いつたん手を止め、顔を上げる。

「ジゼル、いるか?」

 ドランだ。手には見慣れた籠がある。錬金飴を買いに来てくれたようだ。

「いらっしゃい。錬金飴ならできてるよ。ちょっと待っててね」

「ああ」

 立ち上がり、となりの部屋からストック分のあめが入った大きなびんを持ってくる。行ったり来たりして、カウンターの上に三種類の瓶を並べる。

 ドランから受け取った籠に錬金飴をザラザラと入れていく。ジゼルもすっかり慣れたもので、わざわざ数えずとも大体いくつ入っているのかが分かる。

ようつう用のを多めに入れておくね」

「助かる」

 ドラゴンさんのお気に入りは腰痛用の飴。といってもかれには腰痛もかたこりもなく、純粋に味を楽しんでいるだけのようだが。

「あとこれはドランに」

 籠をいっぱいにしてから、その上に載せたのは販売用とは少し違う形の瓶。ドラン用なので、間違えないように違う瓶に入れておいたのだ。

 だんはジャムのおすそけの際に使っている瓶だからか、ドランはいつしゆんだけ固まった。目をぱちくりとさせ、すぐに復活する。

「俺なら籠から取るからいいのに……」

「この前、それでけんになったって言ってたでしょ」

「あれくらいいつものことだって」

「いいの。持ってって。ちゃんとろう回復の飴を多めに入れておいたから」

「ありがとう。あ、これ今回のお代」

「いつもご利用ありがとうございます」

 ズッシリとしたかわぶくろを受け取り、ぺこりと頭を下げる。そして前回預かった革袋をへんきやくする。ドランは少し迷ったように視線を彷徨わせてから「あのさ」と切り出した。

「今度いつしよに出かけないか? りんごくなんだけど、美味おいしいパンケーキを出す店があるらしくて。フルーツがいっぱい載ったのもあるって聞いたら、ジゼルの顔が頭に浮かんだんだ」

「興味はあるけど、さすがに何日も空けるのは……」

「行きも帰りもドラゴンに乗っていくからその日のうちに帰ってこられるぞ」

うれしいけど、いいの?」

 ドランが休みの日にドラゴンさんと共に出かけているのは知っている。だがドラゴン便が高いことも知っているのだ。

 パンケーキを食べに行くくらいで乗せてもらうのは少々気が引けてしまう。けれど付き合いの長いドランはジゼルの前向きな気持ちをしっかりと受け取ったようだ。らんらんと目をかがやかせる。

女将おかみさんから今は客足も少なくて暇だって聞いてさ。あいつもジゼルの飴気に入ってて、ジゼルとたーちゃんなら乗せるって張り切ってるんだ」

 だから行こう、とさそわれ、ジゼルの表情も明るいものへと変わっていく。

「そういうことなら! ちょっと女将さんに相談してくるね」

 今は南方で大きなイベントをやっており、常連さん達は貴族の護衛や付近のものとうばついそがしい。それにともない、『オリーブの樹』は三日前くらいからわりと空いているのだ。

 毎年のことなので、いつもよりも念入りにそうをしたり、空いている時間で錬金飴を大量に作ったり、おのおの自由に過ごしている。

 のんびりと案内文を作れるのもゆうがあるからだ。来週には予約がいくつも入っているが、今なら出かけられるかもしれない。ジゼルが声をはずませると、たーちゃんもルンルンとおどり出した。

「ぱんけーき! たーちゃんもたべる」

「一緒に食べに行こうね~。ドランはいつがいい?」

「ドラゴンで行くってれんらくしておかないとだから、明日は無理だけどそれ以降ならいつでもいい」

「分かった。行ってくる」

 たーちゃんをっこし、自室で休んでいる女将さんのもとに向かう。しゆの読書をしているところだったようだ。すみません、と断ってから、ドランとの話を伝える。

「ドランと! いいねぇ。明後日にでも行ってきな」

「ありがとうございます。お土産みやげ買ってきますね」

「ああ、美味しそうなものを市場で買ってきておくれ」

 女将さんに背中を押される形でドランに返事をする。明後日出かけることに決まり、彼を見送る。

 フルーツがたっぷりと載ったパンケーキが楽しみなのはもちろん、ドランにお礼をするチャンスだ。早めにお礼がしたいと思っているが、なかなか機会がなく、未だたーちゃんの時のお礼ができていない。

 隣国まで連れていってもらうのだからパンケーキの代金くらいは払わせてもらおう。幸いにも錬金飴の売り上げはいい。ふところはかなり暖かいのだ。

 何かドランが気に入りそうなものがあったらおくり物でも……。

「そういえば私、ドランの好みを知らないんだよね……」

「ドランはねぇ、ジゼルがだいすきなんだよ。たーちゃんしってる!」

「嬉しいけど、そういうのじゃなくて。好きな食べ物とか知りたいな~と思って。ドランって何でも美味しそうに食べるし、何あげても嬉しそうだし、いつも楽しそうで。付き合い長いのに」

「いつもうれしそうでたのしそうなのはいいことだよ?」

「それもそっか」

 たーちゃんの言葉ももっともだ。ジゼルと好みが似ているだけかもしれない。深く考えすぎるのは止めて、とりあえずパンケーキの代金を払わせてもらうことを第一に考えよう。

 今までも何度か伝えているのだが、かんに持っていくのがせいいつぱい。「ジゼルが美味しそうに食べて、幸せそうにしている姿を見ているだけで楽しい」とおごられてしまうことも。冷静に考えるとパンケーキ代だけでは足りないような気がしてきた。

 今回のお出かけでドランの好みを知る機会があればいいのだが……。ドランが去って行った先を見つめながら考える。すると目の前に大きなかげができた。

「ジゼル、たーちゃん。今度、ドランとお出かけするんだって?」

 親父さんだ。女将さんから話を聞いて、キッチンから出てきてくれたのだ。しかも飲み物とクッキーまで持って。ありがたく受け取る。

 たーちゃんはさつそく自分のコップに手を伸ばした。そのままごくごくと一気に飲み干していく。喉がかわいていたのかもしれない。一緒に持ってきてくれたティーポットからお茶を注ぐ。

「はい。明後日、隣国まで行くことになりました。お土産楽しみにしていてくださいね」

「明後日か……間に合うかな」

「何かあるんですか?」

「ドラゴンで飛ぶなら腹巻きだけじゃ足りないだろう? ローブと、それに初めての遠出だからバッグもあった方がいいよな」

「たーちゃんの? たーちゃんのあるの?」

「ああ、急いで作るから楽しみにしててくれ」

 親父さんはグッとこぶしを固めて外へと向かっていった。ローブとバッグ用の材料を買いに行ったのだろう。すごい気合いの入りようだ。

 ジゼルとしても可愛らしいたーちゃんが見られるのは嬉しい。なにより、たーちゃん本人がとても楽しみにしている。

「どんなのかな~。あめはいるかな~」

「入ったらどれ持っていこうか」

「ぜんぶいっこずつもってく。それでね、おじちゃんにおすそわけするの」

「乗せてもらう時に渡そうね」

「うん!」

 きゆうけい中も寝る前も、たのしみだねぇたのしみだねぇとクルクルと回るたーちゃん。ルンルンとステップもんでいる姿を見守りながら作った錬金飴は、普段の倍以上の数が浮き上がってきた。

 いつも以上に力が発揮されているのか、元々たーちゃんの精霊としての能力ではなく感情に左右されているのか。理由は分からないが、このタイミングでせっせと作っていく。たーちゃんが寝てからまとめて包むことにしよう。


○ ○ ○


「すごい量だよね。ちょっと多めに入れておこうっと」

 たーちゃんの上機嫌により、一日でかなりの量ができた。大体五日分。たーちゃんのおやつをいつもよりも多めに確保しつつ、ドラゴンさんとドランへの差し入れも用意した。

 飲み物と一緒にバスケットに入れ、ジゼルの準備はばんたん

「これもらったらうれしくなっちゃうね」

「喜んでくれるといいね~」

「たーちゃん、こっちおいで」

「は~い」

 今度はたーちゃんの準備だ。すでに腹巻きを巻いているところに、女将さんが作ってくれたローブをかぶり、親父さんが編んでくれた毛糸のバッグをげる。そこに錬金飴を一種類一個ずつ入れる。

 親父さんのバッグはタヌキのしつを意識したデザインで、お腹と同じ模様の腹巻きとのあいしようばつぐん。寒さがやわらいでもバッグ単体で使えそうだ。

 女将さんのローブはたーちゃんの好きな赤色。フリルも付いていて、たーちゃんの可愛かわいさを引き立てている。

「ありがとお」

 二人ががんって作ってくれたお出かけローブとバッグに、たーちゃんのテンションはマックスだ。親父さんと女将さんのもとに行き、うでにぎゅーっと抱きついた。

「ここまで喜んでもらえて嬉しい。急いで作ったがあったってもんだ」

「二人とも、気をつけて行ってきなよ」

「はぁ~い」

「行ってきます」

 二人に手をり、配達ギルドに向かう。すでにドラン達の準備は整っており、ギルドの前で待っていてくれた。前回会った時は付けていなかったくらづなまで装着されている。

 彼らにぺこりと頭を下げてから、たーちゃんに錬金飴入りの小さなかごを渡す。部屋を出る前に話し合って、たーちゃんがどうぞすると決めていたのだ。

「これ、おすそわけです」

「たーちゃん、今日が楽しみで。たくさん作ったから食べてください」

「おお、気がくではないか」

「いま、いっこたべる?」

「うむ。どれでもいいぞ」

 たーちゃんはジゼルに籠を預け、錬金飴を一個取り出す。選んだのはたーちゃんお気に入りの赤だった。包み紙を外し、大きく開かれたドラゴンさんの口の中にひょいっとげ込む。

「おいしい?」

「今日も最高だな」

「よかったぁ」

 たーちゃんはホッと息を吐く。そして自分のバッグからも錬金飴を取り出すと、パクリとほおった。ドラゴンさんを見ていたら、たーちゃんも食べたくなったようだ。舌の上で転がしながら幸せそうにほおを押さえている。

「悪いな。気をつかわせちゃって」

「ううん。私も楽しみだったから!」

「そっか。だったらよかった」

「さぁ我の背中に乗るのだ」

「わぁ~い」

「失礼します」

あしもと気をつけてな」

 ドランに案内され、ドラゴンさんの背中に乗る。実家から王都に来る時は飛鳥族の背中に乗せてもらったが、ドラゴンの背中は初めてだ。鞍を付けているからか、想像以上に安定している。

 たーちゃんはジゼルの腕の中にすっぽりとハマり、ドランがそのジゼルの背中を包みむ。二人と一ぴきで固まり、空へと飛び立つ。少し風が冷たい。たーちゃんに合わせて温かくしてきてよかった。

「たっか~い」

「すごいね」

「二人ともこわくないか?」

「うん、大丈夫」

「たーちゃんもへいきだよ」

「じゃあ行くぞ」

 ドランの合図で、ドラゴンさんはバッサバッサと大きく羽を動かし始める。上空に飛び上がる時とはちがい、びゅうびゅうと風を切る。けれど危なさはまるで感じない。

「あそこに湖が見えるだろう? あそこにはよく水を飲みに行くのだ」

「木の実がたくさんあって、休憩にちょうどいいんだよな」

「たーちゃんもいきたい」

「暖かくなってから来ような」

「いまは? ちょっとだけ、だめ?」

「今は森に住む動物達が寒期に備えて食べ物をめている時期だから、じやしちゃ悪いだろ」

「ならがまんする」

「たーちゃんえらいね」

「うん、たーちゃんいいこ」

 フンッと胸を張るたーちゃん。それがなんだかおかしくて、ドランとジゼルはもちろん、姿が見えていないはずのドラゴンさんまで小さく笑った。

 森に降りられない代わりに、ドラゴンさんはたーちゃんに様々なことを教えてくれた。

 遠くに見える山は今の時期には寒くてたまらないのだとか、少し暖かくなったころに見える日の入りは最高だとか。あの辺りに見えるくぼみには元々ものの集落があって、彼がかいめつさせたのだとか。

 まんげに語るドラゴンさんと、それにうなずいたり言葉を付け足したりするドラン。たーちゃんとジゼルはその度に目を輝かせ、首をかしげ。そうして半刻近い時間を楽しく過ごすのだった。


「降りる時も足下気をつけてな」

「先にたーちゃんを」

「ん」

 先にたーちゃんをドランに渡し、降ろしてもらう。そしてジゼルも彼の手に支えられる形でドラゴンさんから降りる。たーちゃんと一緒にドラゴンさんにお礼を告げるのも忘れない。お礼は大事だ。

「じゃあここで待ってて。おれはこいつをりゆうしやに預けてくるから」

むすめ、たーちゃんよ。お土産を忘れるでないぞ」

「美味しいの買ってきますね」

「うむ」

 ドラゴンさんは満足げに頷き、ドランと共に龍舎へと入っていった。この国をおとずれたのは初めてだが、ジゼルの知る配達ギルドの外観とよく似ている。ドランいわく、系列のギルドは国内外にいくつもあり、ここもその一つなのだとか。龍舎まで設置されている場所はめずらしく、遠出をした際に何度かめてもらったことがあるようだ。

 れんきんギルドも大手だといくつも支部を持っているのだが、国内でまとまっていることがほとんどである。配達ギルドは商会ギルドの支部配置と似ているようだ。

 もっとも、必ず複数の支部を持つ配達ギルドと、本部のみで活動できる商会ギルドでは細かい部分がまるで異なるのだが。

「系列でも客層が全然違うね」

「おようふく、みんなとぜんぜんちがう」

「待機しているじゆうたちも大型の子ばかりで、大きな荷物メインなのかな」

 先ほどチラッと魔物舎をのぞいてみたのだが、小さな飛鳥族が入った籠は十にも満たなかった。馬も少なく、ほとんどが中型以上の飛鳥族か走鳥族だった。

 待っている間にもひんぱんに配達員達が出たり入ったりしている。荷物は大型のものばかり。パンパンにふくらんだトラベルバッグや、布をかけられた家具が多い。

「おまたせ。どうかしたのか?」

「ここは大きな荷物の配達が多くて、服装も人によって全然違うねって話してたの」

「この辺りで大型の荷物を取りあつかっているのってここくらいだから集中するんだ。交易路の中間地点だから産業もさかんで、時季外れの野菜や果物の取り扱いもしているらしい」

「そうなんだ!」

「といっても今の時期は特に大型の荷物が多いんだ。学園入学が近づいていて、こちらに送られてくる荷物が多いのはもちろん、来たついでにいろいろと買っていくやつが多い。それに合わせて商人達もやって来るって具合でさ」

「ドランって物知りなのね」

 自国でかいさいされるイベントは宿屋のはんぼうかんさんに直結するため、大体あくしたつもりだ。だが他国ともなれば知らないことも多い。

 宿屋『オリーブの樹』は常連客の多くがぼうけんしやなので、護衛らいとうばつ依頼が発生しなさそうなものにはとんとうといのだ。

「仕事のことだけだ。れんきんじゆつ関連はまるで分かんないし」

「たーちゃんはねぇ、おいしいものにはくわしいよ」

「今日も美味しい情報が新たに入るといいな」

「うん!」

 たーちゃんはじようげんで「ぱんけ~き~」と歌い始める。ジゼルの腕の中にいるために踊り出すことはないが、下に垂れた尻尾が振り子のようにれている。

 ドアを開くと、カランカランと心地いい音がひびく。外観も落ち着いたふんだったが、内観も古きよききつてんといった雰囲気だ。ゆったりとした音楽が流れており、お客さんも自分達の時間を過ごしている。

 店員さんに案内され、席に通される。

「この子も椅子に座らせても大丈夫でしょうか? せいれいで、ご飯も自分で食べられるのですが……。もしごめいわくになるようであれば私のひざの上に座らせられればと」

「精霊、ですか?」

 席に案内される前に聞こうと思っていたのだが、ドアをくぐってすぐ、魔物を足下に座らせている人が見えた。テイマーとけいやくした魔物なのだろう。たーちゃんもいけるはずだが、足下にいるのと椅子に座るのとではまるで違う。

「この子なんですけど」

「たーちゃんです」

 抱っこしているたーちゃんを高めに持ち上げる。宿の接客であいさつ慣れをしているたーちゃんはここでもしっかりとおをする。気持ち深めで。

 なぞのタヌキに店員さんは大きく目を見開いた。ただでさえ精霊が人間の前に現れることは珍しい。加えてタヌキの姿をしていれば、おどろくのも無理はない。

「精霊……ちょっと聞いてきます。お先にこちらをどうぞ」

「ありがとうございます」

 店員さんを見送り、渡されたメニューを開く。たーちゃんはジゼルの膝の上に立ち、ひょっこりと顔を見せる。

 メニューは全て手書きで、横にえられたイラストは可愛らしくも食欲をそそる。その中でもジゼルの目を引いたのはパンケーキともう一つ、見知らぬデザートだった。

「パンケーキだけでもいくつかあるのね。このフルーツサンドっていうのも美味しそう……。食べたことないけど、季節のデザートページにも載ってるくらいだし、人気のデザートなのかも?」

 サンド、というくらいだからサンドイッチの一種なのだろう。イラストでもパンらしきものでサンドされている。はさまれているのはいちごと、なんだろう。じいっと見ていると、ドランがほわっと笑った。

「パンケーキとそれをたのむか。みんなで分けよう」

「うん。あ、パンケーキはドランが好きなのを決めて」

「このくりのやつはどうだ? ジゼル好きそう」

「美味しそう~」

「飲み物は紅茶でいいか?」

「うん」

「たーちゃんはみるく」

 さすがはドラン。ジゼルの好みをよく分かっている。紅茶は三種類あるようだが、いつも通りドランに決めてもらう。

 すると先ほどの店員さんがそうねんの男性を連れてやってきた。店長さんだろうか。彼はたーちゃんを前に目を丸くしている。

「その子が精霊、ですか」

「たーちゃんです。せいれいだよ」

「しゃべった……」

「タヌキにしか見えないと思うのですが、この子が精霊であることは俺の相棒のドラゴンが保証しますので」

「椅子の上にはこの布をくつもりです」

 バッグの中に入れていたしきぬのを取り出す。女将さんがローブと一緒に用意してくれたのだ。はしっこにはたーちゃんの顔がしゆうしてある。

 ちなみに一緒にジゼルのハンカチもってくれており、そちらには三種類の錬金飴が刺繍されていた。たーちゃんの敷布と一緒にバッグに入れてある。

「あ、はい。大丈夫です。よろしければこちらのクッションをお使いください」

「ありがとうございます」

「ありがと~」

 店長さんが用意してくれた子供用の食事クッションをセットする。その上に布を敷き、たーちゃんをちょこんと座らせる。

 たーちゃんは身体を左右に大きく動かして喜びを表現する。ジゼルとドランもぺこりと頭を下げる。

 来てくれたついでに先ほど決めたばかりの注文を伝える。キッチンへともどっていった二人はしきりに「かわいい」「もふもふ」と小さな声でつぶやいている。その声に反応するように、周りのお客さん達もたーちゃんの方をチラチラと見る。

 どれも好意的な視線で、そこもふくめて喫茶店の雰囲気が気に入った。

「季節のフルーツサンド、楽しみだね」

「俺もフルーツサンドって初めて聞いた。美味しそうだよな」

「いまなぁに? いちご?」

「ぶどうだって」

「おいしそう」

 季節のデザートのページにえがかれたイラストを見せると、たーちゃんはじゅるりとよだれすすった。たーちゃんの一番好きな果物はいちごなのだが、それ以外の果物も好きなのだ。

「おまたせいたしました。こちら季節のフルーツサンドと渋栗のパンケーキになります。よろしければこちらをご利用ください」

「ありがとうございます」

 注文したフルーツサンドとパンケーキの他に、取り分けるための皿と子供用のフォークを用意してくれた。

 その前に運ばれてきたミルクも、たーちゃんが一人で持てるくらいの小さなコップにストローがさっていた。おかわりも別に用意してくれるというしゆうとうぶり。子供用の食事クッションを用意してくれたことといい、案外子供連れのお客さんも多いのかもしれない。

 ドランはドラゴンさんへのお土産はここで買おうと決めたようだ。早速持ち帰り用のフルーツサンドを十人前注文している。

 ジゼルも親父さんと女将さんのお土産に、と思ったのだが、フルーツサンドを見て止めた。イラストでは分からなかったが、フルーツと一緒に挟まれているのが生クリームだと分かったからだ。

 ドラゴンさんの背中に乗せてもらう分、通常よりかなり早い時間で帰れるとはいえ、ジゼルが持ち帰ってすぐに二人に食べてもらえるとも限らない。二人にも美味しい状態で食べてほしいと泣く泣く断念した。

 女将さんの言っていた通り、市場でお土産を買うのが無難だろう。

「じゃあ早速取り分けちゃうね」

「ああ、頼む」

「たーちゃんこれがいい」

 フルーツサンドをそれぞれの皿に盛ってから、ナイフとフォークを取ってもらう。

 パンケーキはまずたーちゃんの分を少し小さめにカットする。さらにそこから一口大に切り、マロンのクリームと刻まれたマロングラッセをいくつか載せる。

 ドランとジゼルは残った分をちょうど半分こ。二人で一緒に食べに行く時は二種類のものを分けることが多いので、すっかり慣れっこだ。