【閑話】『精霊の釜』のその後
たーちゃんが宿屋『オリーブの樹』に馴染み始めた頃。
「たかだか錬金ランプ作りになぜこんなに時間がかかってるんだ!」
王家から依頼されていた錬金ランプの生産が終わっていないのだ。
初めに提示された納期ではとても間に合わず、ひたすら頭を下げて、すでに十日ほど延ばしてもらっている。だというのに
王族の錬金ランプに至っては新人に
正直、錬金術師に
昨今は通常のランプに効果を
魔力に
「王族様は錬金ギルドを家具職人の集団だと
ただでさえ短い納期に、そんなものが八個もあるのだ。相手が王家とはいえ、悪態の一つでも
大手錬金ギルドと呼ばれるまで成長したのも、この仕事があるからと言っても過言ではない。ギルドマスターが代わった直後に
錬金術師としての
少し前にクビにした少女のように使えない錬金術師を切り捨てるのはもちろん、自分の障害になりそうな者は再起不能になるまで
こんなところで失敗してたまるものか。クトーは
「この量をあと六日で終わらせろなんて無理ですよ」
「デザインが細かすぎます!」
「細かいものは中級以上の仕事を受けている者に回す。お前達はシンプルなデザインだけを終わらせろ」
「ねぇ、私、他に仕事があるんだけど」
「後に回せ。まずはこちらを進めろ」
「ええ~。お得意様なのに……」
「王家以上のお得意様はいない!」
「この仕事、私達のじゃないんだけど……」
「終わらないんだから他に回すしかないだろ!」
なぜこんなに
生産体制は整っているものだと思っていたのに、
「なんなんだ、このギルドは!」
ありとあらゆる才能が集まっているという話は
よほどのことでもなければギルドマスターが錬金術を使うことはない。ギルドに所属している錬金術師に仕事を振ればいいからだ。だが今はそんなことも言っていられない。
王家からの依頼を支部に振るわけにもいかず、ギルドマスターであるクトーも手を動かさなければ間に合わない
特に
「そよ風が
去年よりも人員は増えている。抜けたのはギルドマスターと、彼のお気に入りだったという少女だけ。ギルドマスターが直々に仕事をしていたとは思えないが、だからといって先日クビにしたばかりの少女が錬金ランプのほとんどを作っていたとも思えない。
なにせギルド内の錬金術師のほとんどが『お荷物』と呼ぶような錬金術師だ。新人が作るようなものしか作らず、一丁前に給料だけがっぽりともらっていくのだという。
彼女の作ったアイテムもいくつか
「たとえ作業量が年数に合っていなくとも、錬金ランプの納品が終わるまでキープしておくべきだったかもしれん」
今は新人でもいいから一人でも多くの錬金術師の手が
クトーは毎日錬金術師達に活を入れ、自分でも錬金ランプの生産を続けた。
けれど待っていたのは、
「これはなんですの」
「光を出す
「ハッ、笑えるな。光が欲しいだけなら普通のランプでいいだろ。俺達はわざわざ高い金を
「そうね。これでは王宮に
「なぜ、こんな品を持ってきた」
やっとの思いで完成させた錬金ランプに向けられるのは、ガラクタを見るような目だった。それらを持ち込んだクトーにも当然
徹夜続きということもあり、クトーの体力も精神力もすでに限界を
「ご注文通りの品かと思いますが……」
「あなたの目は節穴か?」
「去年までの錬金ランプとは色がまるで違いますわ」
「台座のデザインも
「見た目がこれでも機能の方は期待できるかと思ったのに。何のために錬金ランプを依頼したと思ってるの?」
「
クトーの回答に王族の表情は
ランプの色だって指示書に書かれていた通り、青である。台座のデザインは錬金アイテムにしては
錬金術は様々なアイテムを生産できるが、
「ああ、やっぱり! 生産者が違うわ」
第二姫が錬金ランプをひっくり返し、刻まれた名前を指す。すると他の王族達もそれぞれ自分の錬金ランプを手に、記載されている生産者の名前の確認を始めた。一人、また一人と確認する
「『ジゼル』じゃねぇだと? まぁ『ジゼル』がこんな
「なぜ『ジゼル』に作らせない」
「やはり『ジゼル』のランプでないと。あのガラスは錬金術でないと作れないと聞いたわ。だから錬金術師に依頼したのよ?」
「夜の読書にも、朝の目覚めにも必要なんだ」
「『ジゼル』の作る錬金ランプは一種の芸術だ。ランプに魔力を注ぐことで、自分も彼女の作品の一部になれるのだよ」
「また
「今年も
「私、今回のランプのデザインがお気に入りなのよね。半年後の留学に持っていく時計も同じデザインでお願いするわ」
ジゼル、ジゼル、ジゼル、ジゼル。彼らの口から飛び出るのはクビにしたばかりの錬金術師の名前だった。
まさか錬金ランプ作りに特化した錬金術師だったとは……。誰もそんなことは言っていなかった。自分はただお荷物を処理しただけ。ギルドの規約に
「ジゼルは、一身上の都合で先日ギルドを
「なぜ引き留めなかった」
「え?」
「なぜあれほどの錬金術師をおめおめと手放したのかと聞いているのだ」
「お言葉ですが、陛下。彼女は初級アイテムしか作れない、新人のようなもので……」
「新人のようなもの、か」
「はい! ですから」
この状況を彼女のせいにしてしまえばいい。辞めた理由だって適当にでっちあげればいい。ああ、これで
「だから言ったでしょ。ジゼルを早く城に迎えないとダメだって」
「……お主をギルドマスターに
「それは一体どういう……」
「お主にはギルドマスターに相応しいだけの実力がないと言っているのだ。得意なことは個で伸ばし、苦手を全員で補っていく――そんな考えが気に入っていたのだがな。適材適所を
クトーは
王家に調べられればボロが出るに決まっている。
なにせクトーはこの場で『お荷物』なんて言葉を口にしていないのだから。錬金ランプを持ち込んだ時点で、長年
たかがランプ。錬金術を使わずとも作り出せる家具だ。専門とする職人だっている。魔法道具ではない、通常のランプなら手入れ
「ジゼル、か」
クトーはその場にへたり込み、天を
せめてあと数十日判断を
けれどクトーには錬金術師の才能を、アイテムの真価を
○ ○ ○
錬金ランプの納品から半月後。錬金ギルド『精霊の釜』の活動休止が国中を
最近就任したギルドマスターの
『精霊の
どの新聞にも同じような言葉が
だが暗いニュースだけではない。近々、王宮錬金術師採用試験が大々的に行われると発表されたのだ。
もちろん優秀な錬金術師を迎え入れたいという気持ちもあるが、王家の真の