聖女の気持ち
「全く、何も出来ないんだから……」
魔王討伐の旅、その途中で私がそう呟いたのをテリタスが聞きつける。
「仕方なかろう。あやつはついこの間までただの村人じゃったんじゃぞ。むしろそれを考えればかなりよくやってる方じゃ」
私、フローラとテリタスが言及しているのはもちろん、一月ほど前に旅の仲間となった男、クレイ・アーズのことだった。
元々は僻地にある村の村人で……それなのに私たちの仲間になったのは、彼のことを連れていくようにと予言者に言われたからだった。
勇者ユーク、賢者テリタス、そして私、聖女フローラのパーティーに普通の村人を?
三人揃って驚いたが、別におかしな選民主義があるタイプはいなかったため、村人であること自体は構わなかった。
ただ、その村人の方が困るのではないかと、こんな三人の中に混ぜられて、普通でいられないのではないかと心配したのだ。
実際、最初の方はそんな感じだったが、今は割と溶け込んで笑顔も見せてくれるようになった。
「……分かってるわよ。でも、もう少しで大怪我するところだったじゃない」
先ほどの戦闘でクレイは比較的後方にいたが、運悪く敵の魔術を受け、かなりの怪我を負った。
幸い、治癒術に長けた私がどうにかしたが、それでも危なかったのだ。
「そういう旅じゃからな……ふむ、そんなに心配なら、お主が法術を教えてやれば良かろう」
「え? でも法術は適性がないと……」
治癒系に長けた術が多い法術、それが扱えればもしもの時も自分でなんとかできる確率は上がる。
だが、それだけに適性を持つ者は少ない。
ほぼ教会が囲ってしまう。
「なんとなくじゃが、奴には適性があるように思うぞ。ほれ、あのスキルシード二つが上手く作用してな」
「そんなこと言ってあんたとユークは色々教えてるわね……そこに私も参加しろって?」
「長い旅になるんじゃ。良い暇つぶしになるぞ。実用的じゃしな」
「……」
「それに、ほれ、心配のあまり愚痴を言ってしまうほど、目をかけておるんじゃろ?」
「そそ、そんなことは……」
図星を突かれて少し吃る私に、テリタスは笑う。
「ほほ、あの誰にも靡かなそうな聖女があんな純朴な村人にこうなるのは意外だったのう。それも含めての予言じゃったのじゃろうか……? わしにも予言関係ははっきりとはわかっておらんが、この先が面白そうじゃのう……いずれ結婚とかもあるやも……?」
「好き勝手言うわね……まぁ別に? その勘違いは置いておいて、鍛えるのは悪いことじゃないわ。適性があればね」
「よし、三人で最強の戦士に育てるぞ」
「そこまで行く……?」
冗談まじりにそんな話をしていた当時。
だが結果はその数年後にはっきりする。
そして私の気持ちも。
まさか、テリタスが予測した通りになるとは思ってもみなかったのは言うまでもない。