あれから俺は魔法の訓練に集中しつつ、剣術の訓練も時間をちゃんと取るようにしていた。

「ジン、今日も剣の訓練かの~?」

「そうですね。今日も剣の訓練をします。というか、魔法の訓練は明日ってこの間決めたじゃないですか」

「少し前まではこの曜日もしていたじゃろ~」

「だから、それは言ったじゃないですか。剣の訓練をおろそかにしないために、剣術の時間を以前と同じに戻しますって」

 俺は、レーヴィンの魔法訓練を受ける前と同じ時間の剣の訓練ができるように、魔法の訓練時間を削ることにした。

 だが、レーヴィンは「時間を削らないでほしい」と直接言わないものの、そういう風に聞き取れる言葉で付きまとってきていた。

「……レーヴィン様、これ以上訓練の邪魔をするのでしたら、残り期間の魔法の訓練はリオンさんのしか受けないようにしますよ?」

「それは良い提案ですジン」

 転移魔法で突如現れたリオンは、俺の言葉に賛同してそう言った。

 レーヴィンは「うぐっ」と悔しそうな顔をして諦めてどこかに行った。

「リオンさん、もしかして俺に監視か何かつけてますか?」

「たまたま廊下を歩いていたら父上がジンの邪魔をしていたから寄っただけだよ。今は仕事中」

 そう言ってリオンは、サッと転移魔法でその場から消えた。

 ……くう! 転移魔法やっぱり良いな!

【空間魔法】の才能は俺もあるから、訓練さえすれば手に入れることは可能だけど、その訓練が難しいんだよな……。

 収納スキルがあるから、それで何とか感覚をつかんでるけど、一向に習得できそうな雰囲気じゃないしな……。

 希少属性は他の属性とは違い、才能と努力によって得られる魔法。

 どちらかがなかったら手に入れることはできない魔法、と設定資料に書かれていた。

 転移を簡単にできるようになるにも、あのリオンでさえ何年も掛かったと書かれていたし、手に入れるのに運も必要なんだろうな……。

 まあ、いい。とりあえず今俺が頑張るべきは剣だ……。

 ブンブンと頭を振り、頭の中を剣のことしか考えないようにして俺は訓練を始めた。


 片手剣から刀に替えて、俺の剣術はそれまで迷走していたのがうそのように成長している。

 やはり理想としているキャラたちが、刀を使ってるからそっちの方が俺にも合ったんだろう。

「ジン君、今良いかな?」

「クロエか、どうした?」

 訓練を始めて三時間ほど集中してやっていると、クロエから声を掛けられた。

 クロエの様子から、何か大事な話だろう。

「ジン君にお願いがあるの」

「お願い? クロエの頼みなら、できるだけかなえるぞ」

「その、私と戦ってほしいの」

 クロエは真剣な表情をしてそう言った。

「クロエと、戦う?」

「うん、どれくらい成長したのか確認したいの。それでジン君なら前の私もよく知ってるから相手になってほしいと思って」

「なるほど、わかったよ。それでいつ戦うんだ?」

「今度のお休みの日にどうかな? 予定があるなら、別の日でも良いけど」

 今度の休みの日か、その日はまだ予定は入れてないから大丈夫だな。

 頭の中で予定を思い出しながら、俺は「その日で大丈夫だよ」と言った。

「ありがとうジン君」

 クロエはうれしそうな顔をして去っていった。

 そして入れ違うようにして、ユリウスが俺の所にやってきた。

「先ほど、クロエさんとすれ違いましたけど、なんだか嬉しそうな顔をしてましたね。何かあったんですか?」

「ああ、今度の休みの日にクロエと戦うことにしたんですよ。ほら、俺達が訓練を始めてだいぶつじゃないですか? クロエの力をよく知ってる俺に、対戦相手になってほしいってお願いされて了承したんです」

「なるほど、ジンさんとクロエさんが戦うんですか……それは面白そうですね。でしたら、審判役は私にやらせてくれませんか?」

「それは助かりますけど、仕事の方は大丈夫なんですか?」

 アンジュさんと会うため、冒険者としても動くようになったユリウスは時間がないはずだ。

 それなのに俺達の試合の審判なんてしてる暇、本当にあるのか?

「大丈夫ですよ。それにジンさん達がどれだけ強くなったのか、私も気になりますから」

「ユリウスさんが大丈夫ならいいですけど、一応姫様に確認をしてから決めてもいいですか? 姫様が駄目と言ったら、他の人に頼みますから」

 ちょうども沈みかけてきたので訓練は終わりにして、汗を流して姫様に確認を取りに行った。


「良いわよ。その日は私も暇だから、ジンさん達の試合見させてもらうわね」

 ユリウスの予定を確認すると、姫様は自分も見ると言って何時頃に試合をするのか聞いてきた。

 流石さすがにそこまでちゃんとまだ決めてなかった俺は一度姫様の部屋から出て、クロエを連れて戻ってきて、模擬戦闘の予定をちゃんと決めることになった。



 数日後、模擬戦闘の当日。

 俺は朝早くに起きて、訓練場で体を動かしていた。

 一人で運動をしていると、「おはようございます」と挨拶をしながらユリウスがやってきた。

「ジンさん、今日の戦いが楽しみで早く起きたんですか?」

「おはようございます、ユリウスさん。はいそんな感じですね。クロエと戦うの、久しぶりでどれだけ強くなったのか楽しみで早く起きたんです」

 昨日も早くに寝ようとしたけど、結局寝つけたのはベッドに横になってから二時間くらい経ってからだった気がする。

 それだけ俺は、クロエとの戦いを楽しみにしていたんだろう。

 それからユリウスは俺の運動相手として軽く打ち合ってくれて、模擬戦闘前に体を温めることができた。

「ジン君、今日はよろしくね」

 予定の一時間前にクロエは訓練場へとやってきて、自分の体の調子を確認すると休んでいた俺にそう声を掛けた。

「ステータスを見せてもらわなくても、クロエがかなり成長したってわかるよ。今日の試合、すごく楽しみだ」

「うん、私も楽しみ」

 ニコッと笑みを浮かべながら、クロエはそう言った。

 その後、予定時間となりユリウスや姫様、リオンやレーヴィンといった俺達の訓練に関わった人達が集まった。

「あれ、今日は兵士の数が少ないですね?」

「ジンさんは目立ちたくないとよく言ってるから、兵士達は今日は下げさせたのよ。だからここにいるのは、ジンさん達の訓練に特に関わった人達だけよ」

「そうだったんですか、ありがとうございます」

 俺は姫様にお礼を言い、クロエと離れて向き合った。

 そうして互いの準備ができてるかユリウスが確認して、試合開始の合図が鳴った。

「速いッ!」

 開始早々、クロエは接近戦へと持ち込むと、その素早い動きと手数で勝負をしてきた。

 クロエが速いことは知っていたけど、開始早々クロエは【身体強化】をMAX状態で使用してきた。

 クロエのやつ、俺との長期戦は不利だから短期戦に持ち込もうとしてるな。

「クロエ、せっかく魔法の訓練してたのに剣術ばかりで良いのか?」

「ふふっ、大丈夫だよ。ちゃんと、戦いながら準備してたから」

「ッ! いつの間に、【無詠唱】で魔法を使えるようになったんだよ!」

 油断していたが、クロエが魔法を完成させて放ってくる直前に気付き、なんとか回避することができた。

 あぶね~、まさかあのクロエが〝無詠唱魔法〟を使ってくるとは思わなかった。

「訓練の成果だよ。まだ大きな魔法とかは無理だけど、ちょっとした魔法くらいなら無詠唱で使えるようになったんだ」

「それはすごいな……いや、本当にね。そんなクロエに、俺も少しいいものを見せるよ」

 装備している片手剣を腰のさやに戻し、一気に接近して一瞬で刀を鞘から抜き、クロエに攻撃をした。

 アニメや漫画等で刀キャラが使う〝抜刀術〟を俺はこの世界用に改良した。

 刀から抜く際に魔力を使い、より素早く、より強く刀を強化して攻撃を仕掛ける技を編み出したのだ。

 正直、これをすると腕への負荷が大きく、何度もできるわけではないが、すさまじい威力を誇る新技の一つ。

「魔力で強化してた剣が割れてる……ジン君、今の技凄い威力だね」

「ああ、自分への負荷も相当だけど、凄くカッコイイ技だろ?」

 ちょうど距離も開いたのでそこから俺達は魔法戦へと切り替えた。

 クロエは使える属性が少ない分、その少ない属性を徹底的にこの訓練期間中に訓練していて、最初に出会った頃の魔法と比べると、別人のような威力となっている。

「クロエ、本当に魔法の腕を上げたな……正直、最初に会った頃のクロエを知ってるから、本物のクロエなのか驚いてるくらいだよ」

「ふふ~ん、必死に訓練してたからね~。それにミスリルの腕輪のお陰で魔法の感覚を掴みやすくなって、魔法の上達速度が上がったのは本当に良かった~」

 ミスリルの腕輪、付けるだけで魔法の威力が上がる最高の腕輪、とゲーム時代ではそういう認識だった。

 しかし、この世界ではミスリルの腕輪というより、ミスリル製の道具を使えば魔力の感覚をより感じやすくなるというのを知った。

 だから威力だけ上げるつもりだったが、訓練でも使える道具を手に入れてその日は興奮して眠れなかったのを覚えている。

 その後、俺とクロエの試合は続き、開始から一時間が経過した。

「クロエ、体力も以前よりも上がったみたいだな」

「魔法だけ訓練してたわけじゃないからね。ちゃんと体の方も鍛えてたから、前より持久力も上がったよ」

「そうか、ならその持久力がどこまで成長したのか試してみるか」

 俺は数十個の魔法を同時に発動させてクロエに放った。

 一つ一つの威力は小さいが、当たればそこそこのダメージを負う。

 クロエは瞬時に魔法の威力を確認すると、一つ一つ魔法を相殺して潰していった。

 俺はさらに魔法を放ち続け、魔法の攻防戦を繰り広げた。

「はあ、はあ、はあ……もう無理~……」

 あの後、俺とクロエの魔法の攻防は数十分続き、クロエは先に魔力が枯渇して倒れながら降参の言葉を口にした。

 倒れる寸前、リオンがサッとクロエを抱え、ソッと地面に座らせた。

「クロエ、本当にいい試合だったよ。魔法に関して言えばジンとの差はほとんどなかったと私の目には見えたよ」

「ありがとうございますリオン様……」

 リオンに褒められたクロエはお礼を言うと、近づいてきた俺に視線を向けて「ジン君、負けました」とすがすがしい顔でそう言った。

「リオンさんが言ったとおり、俺との差はほとんどないように感じたよ。剣術も魔法も、出会った頃に比べて本当に成長したと思う。俺がこんなこと言うと失礼だけど、頑張ったねクロエ」

「ありがとうジン君」

 それから俺達は、観戦していた姫様達に拍手を送られ、訓練の成果を確認するための模擬戦闘は終わった。

 その後、俺が借りている部屋にクロエと集まり、互いのステータスを見せ合うことにした。


名 前:ジン

年 齢:12

種 族:ヒューマン

身 分:平民

性 別:男

属 性:火・水・風・土・光


レベル:38

筋 力:914

魔 力:2841

 運 :76


スキル:【鑑定:3】【状態異常耐性:3】【剣術:5】

    【魔力強化:5】【火属性魔法:4】【水属性魔法:4】

    【風属性魔法:4】【土属性魔法:4】【光属性魔法:4】

    【魔力探知:4】【身体強化:4】【めいそう:4】

    【体術:3】【気配察知:2】【刀術:4】

固 有:【成長促進】【異空間ボックス】

能 力

称 号:神童 加護持ち 銅級冒険者

加 護:魔法神の加護 武神の加護 剣神の加護


名 前:クロエ・フィストル

年 齢:13

種 族:獣人

身 分:平民

性 別:女

属 性:風・水


レベル:29

筋 力:1003

魔 力:843

 運 :81


スキル:【剣術:3】【体術:3】【身体強化:3】

    【夜目:5】【魔力探知:4】【気配察知:5】

    【わな解除:3】【警戒心:4】【風属性魔法:4】

    【水属性魔法:3】【魔力強化:3】【魔力解放:2】

固 有:【獣化】【覇気】

能 力

称 号:英雄の子 加護持ち 銅級冒険者

加 護:獣神の加護


 うん、クロエの訓練内容から魔法寄りにステータスが成長してるだろうとは思っていたけど、新しいスキルを二つも覚えていたのか。

 というか、俺も持ってなかったスキルを覚えているな。

「なあ、クロエ。この【魔力解放】ってスキルはどんなスキルなんだ?」

「あ、これはね。レーヴィン様に教えてもらったんだ」

 クロエはそう言うと、スキルの内容を教えてくれた。

 スキルの効果は単純で自分の持ってる魔力を倍消費する代わりに、威力も倍になるというもの。

 まあ、単純だけど結構使えそうなスキルだな。

「このスキル、ジン君との戦いでも使ってたんだよ。気付いてた?」

「なんとなく、威力が強いのは感じていたけど、ずっと訓練を頑張っていたからそれのお陰と思ってた。でも、このスキル俺も欲しいな……」

「レーヴィン様いわく、ジン君の場合は今のまま伸びた方が絶対に良いって言ってたよ。私はほら、魔力が少ない分それを補うために覚えたけど、ジン君は魔力も多いし、魔法センスも良いからそのまま伸ばすって言ってたよ」

「……レーヴィン様、弟子じゃないって言ってるけど、ほとんど弟子扱いしてくるからな。まあ、気に入られて悪い気はしないけど、それで変に目立つのが嫌なんだよな……」

 本人も弟子ではないと口では言うが、俺だけ特別に扱ってきている。

「ジン君って目立ちたくないって言ってるけど、周りが目立たせるように動いちゃうもんね」

「ああ、たまに自分でやらかすことも多いけど、冒険者の件に関しては完全にアスカのせいだしな……」

 たまに自分の行動でもおかしなところがあったなと、後で反省することもある。

 ただ基本的に目立つ要因がやってきて、対処できずにそのままということの方が多い。

 冒険者の昇格や、レーヴィンとの魔法訓練などがそれに当たる。

 その後、ステータスの確認を終えた俺達は、今後のことを少し話し、また訓練を頑張ろうと言って解散した。



 その後、特に日常の変化もなく、約三ヶ月の護衛任務の終わりの日がやってきた。

「ジンさん、クロエさん。この期間、護衛と私の話し相手になってくれてありがとう。本当に色んな話を聞けて、楽しい時間を過ごせたわ」

 最後の日、姫様の部屋に俺とクロエは呼び出され、姫様にそうお礼を言われた。

 正直、お礼を言いたいのは俺達の方である。

 三ヶ月間、衣食住を確保してもらったうえに自由時間も長く、訓練も好きにやらせてもらった。

 こんな依頼、たぶんこれから出会うことはないと思う。

「俺達の方こそお礼を言いたいですよ。最初は、いいかくみのとして受けましたけど、仕事内容は簡単なのに給金もよく、訓練も好きにやらせてもらって、この三ヶ月間で俺達は以前までの自分達から大きく変わることができました」

「ジン君の言うとおり、本当に姫様に感謝してます」

 姫様はニコリと微笑ほほえみ「お互いにお礼を言うなんて、変ね」と言った。

「姫様は冬期休暇中は城で過ごされるんですよね?」

「ええ、学園が終わるまでは基本的に城から出る生活はしないと思うわ。卒業後、どうなるかは今のところわからないけど、流石に子供じゃないからその時になっても城から出してもらえないなら、たぶん暴れて出ると思うわ」

「目が本気ですけど……」

 俺は、その目が本気でやろうとしている時の目だと感じた。

「ふふっ、ジンさん達の訓練を見てて私もたまに魔法の訓練をしていたのよ。ジンさん達がくれたミスリルの腕輪のお陰で前よりも威力のある魔法が撃てるから、あれを使えば容易に脱出できそうだわ」

「ジン君、どうしよう。私達があげた物のせいで、姫様が大事件を起こそうと考えてるよ」

「大丈夫だよ。もしもの時は、ユリウスさんが止めてくれるよ」

 アンジュさんとの再会を果たしたユリウスは、それまで停滞していた剣術にさらに磨きがかかり、もの凄い成長速度で強くなっている。

 あの感じだと、ゲーム初期のユリウスよりも強くなっているな。

「ユリウス、あの子と再会して本当に強くなってるわね。今のユリウスから逃げるのは、ちょっと難しそうね……」

 ユリウスのことを思い出した姫様は、難しい顔をしてそう言った。

 その後、俺達は城で世話になった人達の所へと行き、明日には城を出るということと感謝の言葉を伝えて回った。

 特に世話になったユリウスとは長く語り合い、また暇があったら城で模擬戦闘をするという約束もした。

「ジン、本当に城から出て生活をするのかの? 行く場所がないなら、わしの所に来てもいいんじゃぞ?」

「いえ、戻る場所はありますから、それに訓練期間は依頼期間内という約束でしたよね!」

 一番最後、レーヴィンの所へと挨拶に行くと「まだ教え足りん!」と泣きつかれた。

「あんた! ジン君達に最後まで迷惑を掛けるんじゃないのッ!」

「あぐッ!」

 そんなレーヴィンの頭に、【身体強化】を使った状態でエイレーンがげんこつを落とした。

「ごめんね。ジン君、クロエちゃん。最後まで迷惑を掛けちゃって」

「い、いえ迷惑なんて」

「いいのよ気を遣わなくても、この馬鹿がジン君達は優しいから押せばなんとかなるって言ってたのを昨日聞いたのよ。ほんと、優しさに付け込んで……あんた聞いてるの!?

「は、はい! 聞いています! ごめんなさい!」

 妻に怒られ、縮こまる前魔法師団団長。

 こんな姿、ゲームでは一度も見たことがない。

 本当にここでの生活はゲームでは見ること、知ることがないことだらけの生活だった。

「暇になった時に連絡をくれたらいつでも王都にくるぞ! その時はまた魔法を教えるからの~」

 エイレーンに引っ張られながらもレーヴィンはそう叫び、俺達の前から消えた。

 その後、レーヴィンの泣き叫ぶ声が聞こえてきたが、俺とクロエは気にしないようにした。


 その日の夜、俺達のために姫様が準備してくれていたのか、ちょっとしたパーティーみたいなものが開催された。

 最初の頃、国王と同じ空間にいるだけで緊張していたクロエも、だいぶここでの生活に慣れたお陰で今では普通に会話ができるレベルになっている。

「ジンさん、そういえば旅に出るかもと言ってましたけど、あれはすぐに行くんですか?」

「いえ、流石に冬の時期に旅に出るのは難しいと思うので春先くらいに行こうかな、と今はぼんやり考えています」

「……冬の旅はつらいですよ。慣れてる私でも、この時期の遠出は少し嫌になります」

 気温の変化は特に辛い、とユリウスは言った。

 そしてユリウスから旅について少しアドバイスをもらい、他の兵士達からも旅について色々と聞くなどして過ごした。

 そして夜遅くまでパーティーを楽しんだ俺は、約三ヶ月のことを思い出しながらベッドに横になり眠った。


 翌日、姫様やユリウス達に見送られながら俺とクロエは城を出た。

「ジン君、色々とあったけど楽しい期間だったね」

「ああ、最初は俺の隠れ蓑として依頼を受けたけど、あそこで受けると決めて良かったと今では思うよ」

「うん、そのお陰で色んなことを学べたもんね」

 最後の最後、姫様からせっかくならと馬車を貸してもらったので、歩きではなく馬車で冒険者ギルドへと向かっている。

「最後まで姫様には世話になったな。暇ができたらちゃんと顔を見せに行かないといけないな」

「うん」

 冒険者ギルドに到着した俺達は御者さんにお礼を言ってギルドの中に入り、フィーネさんを呼んでもらって相談室へと移動した。

 王城の方から事前に依頼の達成報告が来ていて、その場で報酬を受け取った。

 今回の依頼、長期依頼ということで数日おきに前金のような感じで渡され、達成した最終日に大きな報酬をもらうという受け取り方だった。

「……聞いていた報酬額よりも多い気がするんですけど」

「ジンさん達の働きに見合った対価にと、報酬を倍にされまして」

 金はあって困るものじゃないし、渡してきたものをわざわざ返すのも失礼だから、今回は素直に受け取るけどさ……。

「クロエ、金額に驚いて気絶してるな……」

 チラッと隣に座るクロエを見ると、テーブルの上に載ってる報酬の多さに口を開けた状態で固まっていた。

「……お気付きかと思いますけど、ジンさん達の報酬は普通の冒険者とは天と地ほど離れております。ですので、くれぐれもお金が有り余ってるという雰囲気を出さないように気を付けてください。王都は安全な街ですが、危険がないわけではないので」

「ええ、わかってます。なので大半のお金はギルドに預けていますし、装備の見た目もそこまで凝ったものにしてません。まあ、このミスリルの腕輪は見る人が見ればすぐに気付きそうですけど」

 別に戦闘中に付けるだけでも良いのだが、普段から付けていた方が何かといいというのはこの訓練期間でよくわかっている。

 それに今の俺とクロエを相手に挑んでくるような者が居ても、ある程度対応は可能だ。

「ジンさん達は銅級冒険者ですので、襲おうとする者は少ないとは思いますが十分お気を付けてくださいね」

 そう最後に忠告をされながら、俺達は相談室を退出した。

 それから俺達はギルドの外に出て、長い任務を終えたばかりなので数日間ゆっくりと休むことを決め、解散した。



 次にクロエとギルドで会うのは三日後だから、それまでにちょっと色々と準備でもしておこう。

 俺はそんなことを考えながら、ひとまずすみ確保のためにリカルドの宿屋へと向かった。

「相変わらず、ここは人が少ないな~……」

「帰ってきて早々、宿の悪口か?」

「悪口じゃなくて疑問を感じてるだけだ。正直、この宿を拒否する理由って店主の顔が怖いくらいだろ? それ以外はほぼ他の宿に引けを取らないのに、何で俺やルークさん、後はたまに常連のこわもての人しか来ないんだろうな~って」

 機能面に関してはそれこそシャワーを使えたり、部屋の広さもある程度あるからいい方だ。

 飯だってあの店主の顔から想像もつかないほど、めちゃくちゃしい。

 それなのに人が少ないのは何でだ? と、ゲームでは特に考えもしなかった疑問を俺は宿に戻ってきて早々に感じていた。

「場所的に他の宿の方に目が行くんだろうよ。まあ、常連の奴らのお陰で赤字ではないから、今はこのままで十分だがな。変に人が多くても対応できないだろうしな」

「それもそうだな、リカルドに嫁さんとか子供が居たらまだ切り盛りできたかもしれないけどな」

「……それもそうだな」

 ……えっ? なんでリカルドの奴、俺の言葉に一気に気分が沈んだんだ?

 も、もしかしてリカルドもユリウスと同じでそのとしまで守ってる人間なのか!?

「じょ、冗談だぞ? ほら、いつかいい人が見つかるって!」

「……勘違いしてるようだから言っておくが、俺は独り身じゃないぞ?」

 ……え、マジ? 嘘、そんな設定書いてなかったぞ?

「ただもうすぐ一人になるかもはしれないがな……」

「どういうことだ?」

 リカルドの話はゲームには出てこない内容で、俺は驚きと興奮を同時に感じていた。

 強面の宿屋の店主リカルドには、奥さんと子供がいるのだが、数年前に病にかかってしまったらしい。

 最初はそこまで深刻ではなく、治療を受けると症状が消えたため、リカルド達は完治したと思って普段どおりの生活を送っていた。

 しかし、一年前に病気が再発してしまい、今度は以前とは比べ物にならないほどにひどい症状で、治療には高価なアイテムが必要と言われてしまった。

「一応依頼をかけたりはしたんだが、そのアイテムは入手が難しくてな……今はもう病も深刻化して寝たきり状態で、宿の仕事が終わった後はずっと看病してるんだよ」

「そんな状態で宿を続けていたのか。その……色々言って悪かった」

「良いんだ。気にするな。誰にも言ってこなかったけど、ジンになら話しても良いかなって思っただけだ。ずっと、自分一人で抱えていたから話しただけでも少し気が楽になったよ」

 笑いながらそう言うリガルド。

「その治療に必要なアイテムの名前、教えてくれるか?」

 聞けば、そのアイテムは俺もよく知っている物だった。

「リカルド、口は堅いか?」

「んっ? まあ、口は堅い方だが何で今そんなことを聞くんだ?」

 首をかしげるリカルドに、俺は【異空間ボックス】からそのアイテムを取り出した。

 森の神秘薬、その下位互換であり、ゲームでもなにかと世話になったアイテム【森の秘薬】。

 神秘薬から、神の文字が抜けただけで手抜きだなと、初めて見た時は笑った。

 そのアイテムを見たリカルドは、「な、何でお前がこれを!?」と驚いた顔をしてそう叫んだ。

「ちょっとしたがあっていくつか持ってるんだよ。そんなに深刻な状態なら、使ってくれ」

「ッ! いや、お前これがどんだけ高価な物なのか知ってるのか?」

 ああ、これが高価な品物であることくらいは、流石にこの世界に暮らし始めて半年も経つから大体は知っている。

 だけど、その価値以上に俺はリカルドの家族を助けてやりたいと思っている。

 知ってる仲だからというのもあるが、リカルドには家から出てきたばかりの俺に依頼を受けさせてくれた恩がある。

「初めて会った時、得体の知れないガキに破格な条件で依頼を出してくれたお礼だ。借りを放置してるのは嫌だったから、ちょうど良いから受け取ってくれ」

「……良いのか? 俺は本当に欲しいから、くれるんなら貰うぞ?」

「ああ、使ってくれ、それにまだ在庫はあるからな」

 俺はそう言って【異空間ボックス】からさらに三本取り出すと、リカルドはあきれた様子で「凄い奴だな……」と言った。


 その後、食堂をきゅうきょ休みにして、俺はリカルドと共に宿の裏手にある民家の中へと入った。

 そこは、リカルドが家族と住んでいる家。

 その家の二階にベッドで奥さんと子供が苦しそうな表情をして寝ていた。

「最後に聞くが、本当に使って良いんだな?」

「ああ、俺のことは気にせず、奥さんと子供に使いな」

 リカルドは軽く頭を下げて、奥さんと子供にそれぞれ一本ずつ【森の秘薬】を飲ませた。

 すると薬の効果はすぐに現れて、それまで辛そうに息をしていた二人の呼吸が穏やかになった。

 顔中にできていた湿しっしんも消えていき、れいな奥さんの顔と可愛かわいらしい子供の顔がはっきりと見えるようになった。

「……子供は奥さん似だな」

「ああ、俺に似なくて本当に良かったよ。まあ、性格の方は俺に似てるけどな」

 普段なら言い返してくるところだが、今のリカルドは家族が元に戻った喜びでそれどころではないみたいだ。

 それからしばらくして奥さんと子供が目を覚ました。

 リカルドはそんな二人を泣きながら抱きしめて、奥さん達も涙を流して抱き合っていた。

 流石にこの場にいるのは気まずいな……。

 そう思った俺は、リカルド達に気付かれないようにその場から離れ、宿の方へと向かった。


「あれ、ジンじゃないか? ここにいるってことは、依頼は終わったのか?」

「ルークさん、お久しぶりです。はい、昨日終わって今日からまたこの宿で暮らすことにしました」

「そうだったのか、それなら事前に連絡くれたら歓迎祝いもできたのにな……って、そういえばリカルドさんが居ないけど、どこかに行ってるのか?」

「あ~、それなんですけど、家の方で用事があるみたいです」

 ルークは「そっか」と言ってそれ以上聞いてくることもなく、部屋の方に行ったので、俺も借りた部屋に入って落ち着くことにした。

 ……それにしても、【森の秘薬】。ゲーム時代も効果はすごく良かったけど、この世界でも相当な効果のある薬だったな。正直、いくら知識として知ってはいたものの、どの程度治せるのか疑問に思ってたから、試せたのは良い機会だったな。

 ゲームでは知れなかったリカルドの家族のことも知れたし、薬を定期的に商人から買っておいて良かった。

 これからも何かと必要になるだろうし、買える時に買っておいて損はないだろう。

 それにしてもリカルドの奥さん、ちゃちゃ美人だったな……子供も奥さんに似て可愛い女の子だったし……。

 あのリカルドがどうやってあんな女性と出会えたのか、今後の知識として後でゆっくりと話を聞いておこう。

 そう考えていると、扉をノックする音が聞こえた。

 ベッドから起きて扉を開けると、そこにはリカルドが居た。

「もう家族との話は良いのか?」

「いや、気付いたらジンが居なかったら探しに来たんだよ。俺の妻と娘がお前にお礼を言いたいって言ってな、ちょっと来てくれないか?」

「せっかく、家族水入らずの時間を作ったんだけど……」

「ああ、お前の気遣いにも気付いてたけど、治してくれた相手にはちゃんとお礼を言いたいって言われてな……すまんな」


 俺はリカルドと共に再びリカルドの家へとやってきた。

 薬のお陰で病が治った母子だが、あの薬の効果が凄いのかすでに歩ける状態にまで回復していた。

「俺の妻のアイラ。そして娘のルリだ」

「初めまして、宿で世話になってる冒険者のジンです」

 リカルドに紹介される形で挨拶をすると、二人は涙を流して「ありがとうございます」と頭を下げた。

「もう本当に駄目かと思ってました。本当に、助けていただきありがとうございます」

「たまたま、薬を持っていて俺はまだ使う予定もなかっただけです。それにリカルドには色々とお世話になったので、その恩を返せて俺も良かったです」

 その後、リカルドは病気が治った奥さんと娘をルーク達にも紹介した。

 約束どおり俺が薬を持ってきたという話は伏せて、病が完治したからこれからは一緒に宿を切り盛りするということを伝えた。

 ルーク達はリカルドに美人な奥さんと、可愛い娘がいることに終始驚いていた。

 リカルドは散々いじられることになり、その日は楽しい夕食の時間を過ごした。


 翌日、夜遅くまでどんちゃん騒ぎをしていたため、少し遅い時間に起きた俺は朝食を食べに食堂に向かった。

 昨日まで、強面のオッサンしか居なかった食堂に、美人な女性と可愛らしい女の子が加わり、今までと少し空気が違っていた。

「女性二人が加わるだけで、ここまで変わるなんてな……リカルドは、もう裏方に回った方がいいんじゃないか?」

「俺はここの店主だぞ? 店主が裏方ってどういうことだよ……まあ、でも俺だけの時よりも空気が違うのはなんとなく俺も感じてる」

 リカルドは俺の言葉を気にしてなのか「裏に回った方がいいのかな……」と小声で付け足した。

「冗談だぞ、俺はリカルドの顔が見えない方が寂しいと思うしな。それにアイラさん達だけだと、変なやからが入ってくる可能性もあるだろうし、怖いオッサンが居た方が良いと思うぞ」

「……確かにそうだな、裏方に回る話はなしだな」

 奥さんと娘に変な男が寄ってくるシーンを想像したのかリカルドは、怖い顔をしてそう言った。

 そんなリカルドは「パパ、また怖い顔してるよ」と、エプロンを着けたルリに怒られていた。

「ジンさん、はい今日の朝ごはん。昨晩は色々と食べさせられてたみたいですから、軽い物にしておきましたよ」

「気を使わなくても……でも、ありがとうございます。ルリさん」

 昨日まで俺より年下だと思っていたルリ。

 だが実際は、二つも年上だった。

 元々ルリは小柄だったらしいのだが、病のせいで成長が止まってしまったらしい。身長も百四十㎝ほどしかなく、胸の膨らみもほとんどない。

 母のアイラさんはある方だから、本来ならルリもあれくらい……。

「ジンさん、今何か変なこと考えてました?」

「イエ、ナニモカンガエテマセンヨ」

「……ジン、ルリは勘が鋭いから、気を付けろよ」

 リカルドから注意された俺はうなずき、静かに朝食を口に運んだ。



 その後、宿を出た俺はシンシアの店へと向かった。

「いらっしゃい、ジン。今日は何を買いに来たの?」

「いつものアイテムと、旅に必要そうな物を買いに来た」

「旅に必要な物? えっ!? ジン達、王都を出る予定なの?」

 俺が旅に出ると言うと、シンシアは驚いた顔をしてそう言った。

「春先にちょっとな。ずっと王都で活動するのも良いけど、冒険者といえば色んな所を見て回るのもだいだろ?」

「まあ、確かにそうね。でも私の中でジン達はずっと王都で活動するとばかり思っていたから、少し寂しいわね」

「まあ、長い期間出ていく予定ではないからな、クロエの両親が王都に住んでるから定期的に帰ってくる予定ではいるよ」

 何年も姿を消すわけではないと聞いたシンシアは安心したのか、「そっか、それじゃ帰ってきた時は顔を見せてね」と約束をした。

 まあ、正直当初の予定では王都を出たら、とりあえず魔王討伐がされるまではこの王国から出る予定で居た。

 だけど、準備している間に王都で色々とつながりを築いてしまった。

 だから俺は計画を変更して、色々と策を練ることにした。

 魔王討伐が遅れ、魔王軍が王都や俺の知り合いの所を攻めてこようとした時のために。

 まっ、表に自分の姿が出ると目立つから、陰から助ける予定だ。色々と難しいと思うけど、この世界の勇者の力がどれほどなのかわからないしな。

 準備しておいて、損はないということは昨日の件で改めて思った。

「それにしても、今日は特に色々と買うのね。そんなに買って、お金は大丈夫なの? もしパーティーのお金なら、クロエちゃんも一緒の時の方がいいんじゃないの?」

「大丈夫だ。ここ最近、そこそこの金を手にしたし、それで今後に役立つ物を買ってくるってクロエにも言ってるから」

「それならいいけど……それにしても、よくそんなにお金を使えるわね。最初、会った時はまだ新米の冒険者だったのに」

「色々あったんだよ。色々な……」

 そう言って俺は最後にシンシアの店を見て回って、特に見落としがないことを確認してから店を出た。

 シンシアの店には定期的に新商品が並ぶ。今購入できる物でも数日後にはなくなってる可能性もある。

 今後、春先まで定期的に訪れて、使える物は片っ端から購入しておこう。

 それを買うための資金は、この数ヶ月間で稼いでいるからな。

 とはいっても、使い続けたら金はなくなってしまうから、稼ぐ必要はあるが……。

 冒険者で稼ぐとなると、依頼を受けて報酬を受け取る。

 そうすると、達成度がまってしまい昇格する可能性が出てくる。

 それは俺にとっては不都合だし、他のことで金を稼ぐことにするか。

 他のこと、すなわち依頼を受けずに魔物の素材を売ることなのだが、王都周辺の魔物はそこまで高くない。

 ダンジョンに行けば、それなりの値段の魔物の素材もあるだろうが、人がいる場所でずっと狩りをしていたら、それはそれで目立つだろうし……。

 まあ、考えたところで行く場所は一つだな。

 そう俺は思いながら歩いていると、次の目的地のリーザの店の前に着いていた。


「リーザ、今大丈夫か?」

 店に入ると、店頭にリーザの姿はなかった。

 勝手に奥に入るのはまずいと思い、カウンターからリーザを呼ぶと、奥から作業服姿のリーザが出てきた。

「ジンか、今日来る予定だったか?」

「いや、ちょっと相談をしたいと思ってな、今時間大丈夫か?」

「ん~……一時間ほど待っててくれたら、話せるが」

 それぐらいなら、店の裏で剣の稽古をしていたらすぐだろう。

「ああ、大丈夫。待ってる間、店の裏で剣の稽古をしていても良いか?」

「いいよ。好きに使ってな」

 リーザはそう言うと、再び作業場の方へと行った。

 俺も店の裏に回り、剣の稽古を始める。

 それから一時間ほど経ち、俺は再び店の中に戻ると、リーザがちょうど作業場から出てきた。

「時間ピッタリね。それで店に来るってことは、何か頼みに来たの?」

「ああ、実はまだ先のことなんだが春先くらいに旅に出ようと思ってるんだ。その時に合わせて、装備を作ってほしいんだ」

「旅ね。冒険者だからいつか行くと思ってたけど、なかなか外に行かないから王都で活動するのかと思っていたよ」

「知人からも同じことを言われたよ。旅に出るには色々と準備が必要だろ? 金もないのに旅に出て、日銭を稼ぐってやり方も良いとは思うけど、俺はちゃんと準備して旅をしたいんだ」

 リーザは納得した様子で、どんな物が必要なのか聞いてきた。

 それからひとまず、現段階で必要な物を伝えた。

「ジンとクロエは成長期だし、装備は旅に出る一月前から作り出すことにするよ。それ以外の物は今から作って、でき次第渡せばいいね」

「ああ、武器の予備は早めに欲しいかな、慣れも必要だろうし」

「わかってるよ」

 リーザは前金を受け取って作業に戻ったため、俺は店を出た。

 その後、商業区の普通の店で必要そうな物を買い込み、休日を全て買い出しに使った。


「えっ、ジン君買い出ししかしなかったの? せっかくのお休みなのに?」

 休みが終わり、クロエと集合場所で合流した俺は、クロエから休日どんなことをしていたのか聞かれた。

 そして正直に二日間、買い出しに使ったと言ったら、驚いた顔をしてそう言われた。

「俺の場合、休んだところで宿で過ごすだけだから有効活用しただけだよ。そこまで気にしなくて良い」

「でも、私だけ休んだ感じで気になるよ……」

「う~ん、別に休めてないわけでもないからな……まあでも、これからはお互いが休日って決めた日はなるべく、パーティーでのことはしないようにするよ」

 そう俺はクロエと約束をして、俺達は馬車に乗り〝岩石山ダンジョン〟へと移動した。

 俺達が唯一、現状で安心して金を稼げる場所といえばここしかない。

 来る者は少なく、依頼でも来るような場所ではない。

 それなのにゴーレムの素材はなかなかの値段で売れるし、今は二人分の採掘道具もちゃんとそろっている。

「前回、ユリウスさんを助けるために三十層まで降りて転移ができるようになったお陰で、人の気配が全くしない場所で気楽に作業ができるな」

「そうだね。まあ、元々ここって人があんまり来ないから、人の気配なんて感じたことないけどね」

 そうクロエは返しながら、俺達は楽々とゴーレムを倒している。

 訓練のお陰でゴーレム程度は楽に倒せるくらいには成長した俺達は、個々で倒す時もあれば協力して連携したりと、色々と試していた。

「うん、前までより連携もよくなってるな。別々で訓練していたけど、お互いのことを意識して訓練していたお陰だな」

「どうやったらジン君のサポートができるか考えてたことが、実際にすんなりと決まって訓練の成果を感じるよ」

「俺もクロエならここで魔法を使ってくれるなって意識ができて、楽に動けてるよ」

 一時間ほど狩りをした俺達は一旦、三十層の安全地帯に戻ってきて休憩しながら久しぶりの狩りの感想を語り合った。

 正直、クロエが強いことはゲームで知っていたし、最近の頑張りも知っていたけど……。

 ステータスでは見ることのできない、連携力やとっの判断力は以前よりもよくなっていて、魔法の訓練をずっと受けたことでそういった力も上がったんだろう。

「……ところで、ジン君。キッチンの方に前はなかった調理道具がたくさんあるけど、もしかして料理するの?」

「これから先、王都から出たらどっちかが料理しないといけないだろ? なら、今のうちから練習しておこうと思ってな」

 鍋やフライパン等々、そこそこ良い材料でリーザに作ってもらった調理道具がキッチンにある。

 市販の物でも良いかと思ったけど、ここは本気で取り組もうと思い道具から良い物を揃えた。

 それを聞いたクロエは「私も頑張ってみようかな」と言ったので、交互に料理をして今から慣れておこうと話し合って決めた。

 それから今日の食事当番は俺になり、【異空間ボックス】から食材を取り出して料理を始めた。

 最初から難しい物を作って失敗するというのは、よくある話なので俺はこの世界でよく食べられる肉と野菜のいたものと野菜スープを作ることにした。

「わ~、美味しそう。ジン君って本当に、なんでも器用にできるから羨ましい……」

「これ、そこまで難しい料理じゃないぞ? 焦がさないように炒めて、味の調整をしながら作った汁物だからな、誰でもできるよ」

 そう言いながら俺は内心、ちゃんとできてホッとしている。

 料理なんて本当に久しぶりにするから、注意深く焦げてないかを確認しながら作っていた。

 というか、人のために料理するなんて初めてでちょっとだけ緊張していた。

「どう、美味しいか?」

「うん、美味しいよ!」

「よ、良かった。味付けちゃんとできてるか、不安だったんだよな……」

 俺も食べると、意外と悪くない味をしていて失敗せずに済んだと安心して食べた。

 うん、悪くない味付けだな、でももうちょっと濃くても良かった気がするな、まあ七十五点ってところだな……。

 そんな風に自分の料理を採点しながら、食事をして食後は再び狩りに出掛けた。

「おっ、金塊ゴーレムだ。ほんと、俺達こいつと会う確率高いな」

「本当だと、こんなにたくさん出ないんだよね?」

「ああ、こいつがたくさん出てたらこのダンジョンの人気はもっと上だろうしな」

 そう俺達は話しながら金塊ゴーレムを討伐すると、かなり大きいサイズの金塊が出てきた。

 おいおい、これってまさかまた〝特大サイズ〟じゃないか?

「ジ、ジン君。このサイズってリーザさんに渡した物とほとんど一緒じゃない?」

「自分達の運の良さが怖くなってきた。こんな簡単に特大サイズの金塊、普通は出ないぞ……」

 俺とクロエは二度目の〝特大サイズの金塊〟を手にして、自分達の運が壊れてるんじゃないか? と思い始め、その日は怖くなって早めに狩りを終わることにした。

 それにしても〝特大サイズの金塊〟か、流石に二個目は使い道が売る以外にないけど、これを売ったらまた目立ちそうだな……。

「一旦、この金塊はリーザに見せて、欲しいって言ったらリーザに売ることにしようか、要らないって言われたらとりあえず保管しておこう。変に売って、目立つのは嫌だからな」

「は~い、今すぐ売らなきゃならないほど、お金には困ってないもんね」

 クロエも同意してくれて、とりあえず金塊はリーザが欲しくないと言ったら保管することに決めた。


 そしてそれから数日間、俺達はダンジョンに籠もり狩りをして王都に戻った。

「どうでしたか、久しぶりのダンジョン探索は」

「良かったです。自分達の成長をちゃんと確認できました」

 戻ってきた俺達は冒険者ギルドで素材の換金をして、フィーネさん達にダンジョン探索でのことを話していた。

「あの、クロエちゃんに聞きましたけど、二人は料理を始めたんですよね? でしたら、こちら何か役立つと思いますから、よかったらどうぞお使いください」

 先に相談室でダンジョンでのことを話していたクロエは、リコラさんに料理をするということを話していたみたいだ。

 そしてリコラさんは俺達が料理を始めたならと言って、料理のレシピ本を渡してくれた。

「そちらはジンさん達と同じ冒険者の方が書いた本で、冒険者がよく食べる料理がまとめられています。色んな食べ物、特に料理初心者の方でも簡単に作れる物も載っていていいと思うんです」

「ありがとうございます。料理のレシピ本、ちょうど欲しいと思っていたところなんでありがたく使わせてもらいます」

「ありがとう、リコラさん!」

 俺とクロエはリコラさんにお礼を言い、【異空間ボックス】に料理のレシピ本を入れた。

 それから俺達はギルドを出て、金塊のことを話すためにリーザの店へと向かった。


 リーザの店へと着き、扉を開けて中に入った。

 そして店頭にリーザの姿がなかったから、名前を呼ぶと奥から作業服姿のリーザが出てきた。

「今回はクロエも一緒でどうした?」

「ちょっと、リーザに見てもらいたい物があってな、今少し時間あるか?」

「ん? ああ、ちょうど今作業が一段落したところだから良いけど、なんだい? もしかして、また〝特大サイズの金塊〟でも見つけたなんて言わないよね?」

 俺は無言でカウンターの上に〝特大サイズの金塊〟を置いた。

 それを見たリーザは無言でその金塊を見つめると、天井を見上げ自分のほおを何度かたたき、もう一度カウンターの上に置いてある金塊を見た。

「あたしの目が悪くなったわけじゃないよね?」

「本物の〝特大サイズの金塊〟だ。俺達も出てきて、驚いたよ」

「金塊ゴーレム自体珍しいのに、こんなに大きいサイズをまた見ることになって自分達の運が怖くなりました……」

 俺達の言葉を聞いたリーザはため息をつき、ドスッと椅子に座って金塊を見つめた。

「何年も探していた物がこうも短期間で二個も見つかると、なんだか変な気分になるね……」

「狙ってやったわけじゃないぞ? たまたまだからな」

「わかってるよ。これを狙ってやるなんて、それこそダンジョンを作ってる神くらいしかできないよ……」

 リーザはそう言うと再びため息をつき、俺達の方を見て「で、これは売ってくれるのか?」と聞いてきた。

 その問いに対して、リーザが欲しいなら売るし、要らないなら保管すると伝えた。

 それを聞いたリーザはしばらく考え込むと、金塊を買い取ると言い俺は金塊をリーザに渡した。

「それで買い取ったということは、二個目の特大サイズの金塊は何か使う予定でもあるのか?」

「まだ構想段階だけど、やってみたいことがあったんだ。ジン達が旅に出た後、ゆっくりと手を付けるつもりだよ」

「そうか、なら旅から帰ってきた時が楽しみだな」

 そんな話をしながらこの日は解散した。



 それから俺は宿に戻り、部屋で魔力の訓練をしていると、扉をノックする音が聞こえた。

「ルークさんでしたか、どうしました?」

「いや、ジンが帰ってきたって聞いて、ちょっと一緒に訓練しないか聞きに来たんだ」

「訓練ですか……わかりました。訓練ご一緒させてください」

 よしっ! ルークさんから訓練に誘ってもらったぞ!

 自分から訓練に付き合ってくれと頼むこともできたが、ルークさんはこれまで多くの者に教えを請われ、それを全て断っていた。

 自分が気に入った者や認めた相手じゃないと、訓練を一緒にしないというルークさんの性格を知っていた俺は誘われるのを待っていた。

「おっ、ジンが来たってことは振られなかったんだな、良かったなルーク」

 ルークさんと共に裏庭に出ると、ドルクさんがルークさんをちゃした。

 その言葉にルークさんは「なんだと~」と笑いながら、ルークさん達のじゃれ合いが始まった。

「また始まったのね……せっかく、ジンが一緒に訓練をするっていうのに」

「仕方ないよ二人共、最近レベルアップして今までより動けるのが楽しいんだと思う」

 確か三年後の世界でのルークさん達のレベルは、五十台だったはずだけどこの世界では今、いくつくらいなんだろうな……。

 気になるけど、流石にレベルを聞くのは失礼だし我慢だな。

 その後、ルークさん達のじゃれ合いは置いて、俺はエリスさん達と訓練を始めた。

「ジン君って剣と魔法、どっちが得意なの? 見た感じ、体は相当鍛えているようだから剣の方が得意なのかしら?」

「一応両方学んではいますが、自分が好きなのは剣ですね。魔法は元々才能があって、最初からなんでもできたんですが、剣の方は才能はあってもなかなか自分の物にはできなかったんです。それで少しずつ剣にのめり込んで、最近は魔法より剣術の方をよく鍛えています」

「へ~、両方の才能があるのね。羨ましいわ、一度見せてもらってもいいかしら?」

 そうエリスさんに言われた俺は、まず最初に魔法の腕を見せることにした。

 流石に宿屋の裏庭で大規模な魔法を使うのは迷惑になるだろうし、小さな魔法が良いだろう。

 そう考えた俺は訓練をちゃんと積まないとできない魔法の技、属性を合わせた〝複合魔法〟をエリスさん達に見せた。

 これなら威力や派手さがなくても、俺にどれだけの魔法の力があるか知れるはず。

「凄いわね。ここまで完璧な複合魔法の使い手、なかなかいないわ。ジン君、凄い魔法の力ね」

「褒めてくれて、ありがとうございます。ですが俺の力はこれだけじゃないですよ」

 そう言って、俺は刀を取り出して【刀術】を披露することにした。

 俺の太刀筋にじゃれ合っていたルークさん達も手を止めて、ジッと見ていた。

 そうして俺は刀に集中して刀術の披露を終えると、パチパチとエリスさん達に拍手を送られた。

「凄く力強い剣術を見せてもらったわ、最初どっちも才能があるって言っててどの程度かと思ったけど、両方とも凄い使い手なのね」

「ありがとうございます」

 エリスさんに褒められた俺は、お辞儀をしながらそうお礼を言うと俺の肩をルークさんがガシッと掴んできた。

「ジン、お前凄いな! 魔法も剣術もそのレベルで使える奴、なかなかいねーぞ!」

 ルークさん滅茶苦茶興奮してるけど、原作でこんな人だったかな?

 もっとこうカッコイイ感じのキャラだった気がするけど、なんかどっかの剣聖と似た雰囲気を感じる。

「ルークの言うとおりだな、ジン。お前、凄い奴だなって前からオーラで感じていたが、ここまでとはな……」

「あははは、そ、そこまでですか?」

「ああ、まずその剣術だが、俺達が使う剣ではなく〝刀〟という武器だろ? それを使う冒険者と会ったことがあって、持たせてもらったことがあるがなかなか難しい武器だった」

「そうそう。剣術が得意な俺でさえ、真面まともに扱えなかったからな。それでその刀を使う奴に普通の剣と刀ってどっちが扱いが難しいんだ? って聞いたんだが、刀の方が難しいと言われたんだよ」

 ルークさん達は以前、刀を使う人と出会ったと言い、その人から刀の扱いの難しさを聞いていたと言って話を続けた。

 まあ、でも俺の場合はただ普通の剣よりも刀の方がイメージにピッタリだったんだよな、だからここまで褒められるとなんだかだましているようで悪い気がした。

「その、そこまで褒めてもらって恐縮なんですが……俺、実は普通の剣の方の才能があまりなかったんですよ。それで鍛冶屋で刀と出会って、その形にかれて使ってみたらそっちの方が自分にシックリ来ただけなんですよ」

「なら、なおさら凄いと思うぞ? 刀の才能って、本当にまれな才能らしいからな、剣はどちらかというと一般的で誰でも使おうと思ったら使えるだろ? だが刀は違う。俺やドルクでさえ、真面に扱えなかったからな」

「そのとおり、剣にはそこそこ自信があったんだがな……」

 そうルークさん達が話していると、今まだ黙っていたエリスさん達が「そろそろ、ジン君を返してくれるかしら?」と言って俺の手を掴み、引き寄せた。

「さっきまでじゃれ合ってたくせに、ジン君が力を見せたら横取りなんてさせないわよ? 先にジン君と訓練するのは、私達だから」

「なっ! それは約束と違うだろ! それにジンは俺が連れてきたんだぞ?」

「連れてきたって、ただ声を掛けにいくジャンケンで勝っただけでしょ?」

「だとしても、連れてきたのは俺だ!」

 楽しく会話していたと思ったら、なぜか今度はエリスさんとルークさんが言い合いを始めた。

 その理由が、どっちが俺と一緒に訓練するかって内容に聞こえるけど……まさか違うよな?

「あのアニスさん、あの二人ってなにで言い争いしてるんですか?」

「ジン君とどっちが一緒に訓練するかの言い合いですよ。ジン君って自分のことを隠そうとしながら活動してるけど、ちょくちょく目立ってたでしょ? それを聞いたルーク君とエリスちゃんが興味が湧いちゃって、才能を感じる方と一緒に訓練をしようって決めたの。それでジン君はどっちも才能があって私達の想像を超えてきたから、あの二人はああなってる」

 マジか、好きなキャラが俺を取り合うように言い合いをしてるなんて、これゲームやアニメ好きからしたら、最高なことだ。

 良かった~、どっちかに絞らず両方とも鍛えてて、それのお陰でルークさん達に気に入ってもらえた。

「ふふっ、ジン君って普段からちょっと大人びた感じしてたけど、そんな顔もできるんだね」

「あっ……」

 ルークさん達に気に入られたのが嬉しくて、顔に出てしまっていたようでアニスさんからそう言われ笑われた。

 その後、ルークさんとエリスさんは最終的にジャンケンをすることにして、ルークさんはパーを出して、エリスさんはチョキを出した。

 そうして俺はその日、ルークさん達とではなくエリスさん達との訓練をすることになった。

 エリスさんとの訓練では、まずエリスさんが得意とするスキルを見せてもらった。

 そのスキルの名は【魔力視】といって、魔力の流れを見るというスキル。

 今でもある程度の魔力の流れを見ることができるが、このエリスさんのスキルの効果はゲームでも凄い役立っていた。

「エリス先生、スキルとしてではなく普通に魔力を見てますけど、それとは違うんでしょうか?」

「本質は一緒だけど、私のスキルはさらに深く見ることができるわ」

 魔力を見るという点では一緒の行為だ。だが、エリスさんの【魔力視】は敵の魔力の流れを見て弱点を探ることや、ダンジョンの罠の位置、姿隠しなどで見えない敵さえも見える。

 エリスさんのこのスキルを使用後は、敵の弱点を突きやすくゲームではほぼ必須のスキルだった。

「そんな凄いスキル、俺に教えても良いんですか?」

「良いのよ。気に入った相手には教えるつもりだし、でも難しいスキルだからそんな簡単に自分の物にはできないわ」

 そう言われながらも、俺はエリスさんから【魔力視】についてゲームでは省かれてた訓練方法を聞いて訓練を始めた。



 それから数日間、俺達は岩石山ダンジョンで探索しては二日休むというのを繰り返し、年を越した。

 この世界でも年越しは落ち着いて過ごすという文化があるみたいで、冒険者ギルドもお休み期間に入る。

 そして年が明けて二日目、俺はクロエの家に新年の挨拶をしに行った。

「クロエ、今年もよろしくな」

「うん、よろしくね。ジン君」

 その後、豪華な食事をクロエの家でごそうになった。

「新年からお邪魔したのに、食事までご馳走して頂いて、すみません」

「いいのよ。クロエちゃんと仲良くしてくれてるんだもの、ジン君と出会ってからクロエちゃん、すごく楽しそうに冒険者の活動をしてるのよ? 本当に感謝してるわ」

 食事のお礼を伝えると、クロエの母のエレナからそんなことを言われた。

 そんな母の言葉に「ちょ、ちょっとお母さん!?」と、クロエは慌てた様子で立ち上がった。


 その後も楽しく新年を過ごした俺は、翌日も挨拶回りを行った。

 流れで王城にも行くか迷ったが、流石に今は貴族の集まりで忙しいだろうと思い、王城への挨拶はとりあえずやめておいた。

「さてと、クロエ。残り大体四ヶ月くらいだけど、どうする? 春先に旅に出るのは決定として、それまでどう動くか」

「う~ん、そろそろ岩石山ダンジョンはクリアしてもいいんじゃないかな? リコラちゃんに聞いたら、そろそろダンジョンクリアしても驚かれはしないとは思うって言ってたし」

「あそこのダンジョンに潜り始めて数ヶ月経つし、クリアしてもそこまで驚かれはしないか……うん、わかった。とりあえず、最初にやることは岩石山ダンジョンの攻略だけど、たぶん一日で終わるな」

 とはいってもすでに三十層まで安全に行けるようになってるから、後はボスを討伐するだけだ。

 そこまで時間も掛からないし、なんなら明日やろうと思えばすぐに終わる。

「残ってることといえば、後は訓練くらいだよね? ジン君としてはこれ以上、昇格するのは嫌でしょ?」

「まあ、するならあと半年は待ちたいかな、一年でも銅級は早い方だけど、流石に今よりかは目立たないと思うし」

「う~ん、だとしたら何が良いんだろう……」

 流石に残り四ヶ月近くをまた訓練に費やすのは、別に良いけどなんか物足りない気がする。

 だったら、姫様の護衛任務を春までしていた方が断然、給料も安定してもらえたから続けておけば良かったってなる。

「昇格しない程度に依頼をこなすというのが一番いいのかな、前みたいに討伐系ばかりするんじゃなくて、街の依頼とかだったらそこまで評価されることはないだろうし」

「確かに、討伐系だと昇格の評価が高いけど街の依頼はそこまでないから、ジン君にとっては良いよね」

 街の依頼と討伐の依頼だと、昇格に関わる評価値がだいぶ違ってくる。

 評価値とは、依頼の危険度や内容の難しさで変動するから、街の依頼だと危険度はそこまでなく、さらに報酬も低いことが多い。

 そんな依頼、誰が受けるんだ? という疑問もあるが、で討伐系をできない冒険者が日銭を稼ぐためだったり、初心者が少しでもお金を稼ぐためにやったりしている。

「その人達には悪いけど、時間潰しとしてやらせてもらうか。できるだけ皆がしなそうなやつを受ければ迷惑にもならないだろうしな」

「そうだね。街の依頼でもおつかい系は人気らしいから、清掃だったりお手伝いをメインにしていこっか、こう見えて掃除は得意だよ」

 そうクロエは胸を張りながら言い、俺達の今後の動きは決まった。


 翌日、その話し合いの結果をフィーネさん達に伝えると「それはギルドとしても助かります」と言われた。

「ここ最近、初心者の方でも無理して討伐系に行く方が多く、街の依頼が溜まり気味なんです」

「そうなんですか? だったら、本当にちょうど良かったですね」

「はい、それにジンさん達は依頼の達成率も高く、ギルドとしても信頼を置いてますから信用がないと受けられない依頼等も任せられるので本当に助かります」

 そうフィーネさんは言い、俺は「そんなに依頼が溜まってるんですか?」と聞いた。

「正直に言いますと、銀クラス以上の冒険者様にギルドがお願いして片付けてるレベルで溜まってます」

「それを聞いただけで、相当ヤバいということが伝わりました。でも仕方ないですね。冒険者に強制して、街の依頼をこなせとは言えませんからね」

「そうなんですよね。初心者の方には安全な依頼を選ぶようにと受付の方では言ってるんですが、なかなか街の依頼に手を付ける方は増えない状況が続いてます」

 なるほどな。まあでも俺達としては良いタイミングだったし、できるだけ多く依頼を受けるとフィーネさん達と約束をした。



 それから三ヶ月、俺とクロエは自分達のできる範囲で街の依頼を解決しながら、ダンジョンでレベルアップと金策を行った。

 街の依頼は評価値としてはそこまで高くないが、ギルドからの信頼度はさらに上がり、他の土地に行ったとしてもギルド経由で俺達のことは優遇されると言われた。

「そんなつもりで依頼を受けてたわけではないんですけどね……」

「これは、ギルドからのお礼として受け取ってください」

 正直、この優遇特典について知っていたが、狙って街の依頼をするようになったわけではないため、もらう際は少し遠慮気味に受け取った。

 優遇特典、これはギルドの系列店舗での割引だったり、宿での宿泊費の負担軽減。

 他にはパートナー契約をしている者に限っては、どのギルドでも専属のパートナーとの連絡役をしてくれたりと色んな特典がある。

「それにジンさん達はもうじき旅に出ますから、一番最後の連絡役は必要だとマスターが言って渡すことが決まったんです。それにパートナーなのに、何もできないのは嫌ですからね」

 旅に出た際、パートナー契約を切るかどうかはすでに話し合っている。

 完全に居なくなるわけではないため、切る必要性は最初からないと考えていた俺達は別のギルドでもパートナー料を取ってもらって構わないと伝えていた。

 それがまさかこんな形で、仕事をできるようにしてくれるとはフィーネさんも行動力がある人だな。

「信用度といってもたった数ヶ月、街の依頼を受けてただけなのにこの優遇特典もらえましたかね」

「それ私も思ってた。だって、それなら他の人ももらってるよね?」

「そこに関しては、ジンさん達だからというのもあります」

 そうフィーネさんは言うと、俺とクロエが優遇特典をもらえた理由を説明してくれた。

 元々、達成率百%、依頼の失敗回数がゼロの俺達はギルド側としても信頼の置ける冒険者として扱われていた。

 そこに高位の人、まあ姫様の依頼を受けて完璧にその依頼をやり遂げ、さらには依頼主側から追加での報酬を渡されるほどの貢献をした。

 それによりギルドは俺達を高く評価することになり、今回の優遇特典を与えることになったと説明された。

「……姫様には本当に感謝しないとな」

「そうだね。また姫様が楽しんでくれる話ができるように、旅先で頑張らないとだね」

「ああ、本当にな」

 その後、もうそろそろ旅も行けそうだからそっちの話も進めるべく、ギルドを出た俺達はリーザの店へと移動した。


 数日前、リーザの所で装備を一新することにした俺達は、かなりお金を掛けていい装備を作ってもらっていた。

「楽しみだな、シンシアの店で買った装備ももちろん良かったけど、オーダーメイドでの装備って武器の時も感じてたけど、ワクワク感が半端ないよな」

「そうだよね。それに今回のは、たくさんお金掛けたからどんな物ができたのかすごく楽しみ」

「ああ、なんせ一人の装備に対して金貨百枚以上掛けてるからな」

 成長期の俺とクロエだが、旅に出るしせっかくならいい装備をということになり、お金に糸目をつけずに装備を新調することにした。

 装備に金を掛けて悪いことはないし、成長して体に合わなくなってもリーザはすぐに合わせられると言ってくれた。

 それならば、いっそ大枚はたいて作っちゃえと決めた。

 ちょくちょくリーザの店に顔を出して、話を聞いていたが、なにやら竜種の素材を使ったというのを聞いている。

「聞いた感じ、見た目ではわかりにくくしてるけど、見る人が見ればその価値がわかるって言ってたな」

「できるだけ目立ちたくないけど、いい装備を着たいっていうお願いだもんね。楽しみ~」

 そう話しながら俺達は歩き、リーザの店へと到着した。

 扉を開けて中に入ると、今回はすでにカウンターの所でリーザは待っていた。

「待ってたよ。ジン、クロエ。あんた達の新しい装備、完成したよ」

 ニカッと笑いながらそうリーザが言い、俺とクロエは小走りでリーザのもとに近寄った。

 そしてまず最初にリーザは、クロエの装備から説明を始めた。

 クロエの装備に使われてる素材のほとんどは、獣系魔物の中でも特に防御力が高い〝ブラックベアー〟のものを使っているとリーザは言った。

 サポート兼準アタッカーのクロエは、動きやすさと防御力を考えこの素材にしたらしい。

「わ~、凄いよジン君! 重いのかなって思ったけど、全く重くないし動きやすい!」

 そうクロエは興奮した様子で、ピョンピョン飛びはねたり蹴りの動作をしたりと装備の動きやすさを確認している。

「一応、前に話していたとおり竜種の素材も混ざってるから、その分も防御力が上がってるよ。そこらの金属の装備より、防御力があるから安心して戦いな」

「はい! ありがとうございますリーザさん!」

 クロエはリーザにそうお礼を言うと、早く装備の性能を試したいとウズウズとしている。

 滅茶苦茶、尻尾振ってて嬉しいんだなと一目でわかるけど、その尻尾がバシバシ俺の太ももに当たって痛いんですけど……。

 ここで注意したらせっかく、上機嫌なクロエの気持ちを下げてしまうから、俺はグッと我慢した。

 そうして、次は俺の装備の説明に入った。

 装備の見た目的に革製の装備だが、鑑定してすぐにその革が竜種の素材ということがわかった。

「ジンの方は、もう全て竜種の素材で作ってるよ。魔法も使うけど、基本前衛って言ってたから、なら防御力特化にしておこうと思ってね。竜種の素材は少し重たいから、着てみてどんな物か試してみな」

「わかりました」

 リーザからそう言われ、俺は更衣室で新装備を着て少し歩いたりジャンプしてみたりした。

 うん、確かに今まで着ていた装備よりか重たい気がするけど、動けないというほどではないな。

「重たいけど、動きにくいってほどではないな」

「そう、それなら良かったよ。それで説明の続きだが、ジンの装備に使ってる竜の種族名は〝アース・ドラゴン〟と言ってどりゅうと呼ばれてる奴らで特に防御力に優れた竜の種族だ」

「アース・ドラゴンって言えば、砂漠地帯やたまに山岳地帯に住んでる上位竜の一種だな……よく、そんな奴の素材が手に入ったな」

「前もってジンから装備を作ってほしいって言われて、たくさん準備期間があったからね。このくらいなら、あたしの伝手を使えば揃えることは可能だよ」

 流石、ガフカの工房だな……。

 普通、王都の他の鍛冶屋だとこんな装備を作ることは不可能だ。

 マジで〝特大サイズの金塊〟を見つけて、リーザとの縁ができたのは早々に王都を離れず、準備期間として残った成果の一つだ。

 その後、装備は一旦、【異空間ボックス】に入れて俺達は店を出た。



 店を出た俺達はその足で、とある所へと向かった。

 向かった場所はみの冒険者が泊まってる宿で、その宿の食堂に目当ての冒険者が居た。

「あっ、クロエちゃんにジン君。久しぶり~」

「久しぶり~、レイちゃん!」

「久しぶり、レイ。レンは今日はいないのか?」

「レンなら、まだ寝てるよ。昨日夜遅くまで、勉強してたみたいで寝不足だったから寝かせてるの」

 レイとレン、この二人は双子の兄妹きょうだいでクロエの友人達だ。

 以前、俺がクロエと知り合った時に紹介すると言われ、知り合った仲で歳は俺の二つ上で唯一の同世代冒険者の知り合い。

 兄のレンは物覚えが良く、以前俺が手に入れた薬学についての本を渡したらすぐに覚え、今では薬学についてならその辺の薬師よりも詳しい。

 そして妹のレイは元気娘で、特殊なスキルを持っていて大の大人顔負けの怪力の持ち主だ。

「レンの奴、たまに頑張りすぎるからな……最近も新しい薬ができそうって、俺の所に見せにきてたよ。あいつたまに変なところあるよな」

「そうなの? 前までレン君って落ち着いたイメージがあったけど……」

「レン、一つのことに集中するとものすごく変になるよ。ジン君達と会う前、魔物の生態について調べてた時があったんだけど、もう依頼に行く時間なのにずっと本読んでて大変だったんだよ」

 あの時は気絶させて依頼の場所まで連れていってたと、レイはため息をつきながらそう言った。

 それから俺達はレイに、もうすぐ旅に出ることを伝えた。

「あっ、そっかもうだいぶ暖かくなってきたもんね……ジン君達と離れるの、なんだか寂しいな」

「俺も唯一の同世代の冒険者だからな、寂しさはあるけど、それが冒険者だしな」

「出会いと別れがたくさんあるのも冒険者だからね~」

 その場の雰囲気が少し落ち込むと、誰かが食堂に来る。

「あれ、ジンとクロエ。どうしたんだ?」と俺達の名を呼ぶ声がして振り返ると、レンが居た。

「あれ、レン。お前、寝てたんじゃないのか?」

「うん、仮眠してスッキリしたから起きてきた。それで、なんか雰囲気が暗いけど、なんかあったのか?」

「ああ、旅に出る話をしにきたんだよ。もうすぐ、出発するからな」

 そう俺が言うと、レンが「えっ、旅に出る話って本気だったのか!?」と驚いた顔をして言った。

「いや、前から暖かくなったら行くって言ってただろ?」

「そ、そうだけどなかなか行かないから、その話はなくなったのかと……え~、マジか。それは寂しくなるな」

 レンもまた俺達が旅に出ると聞いて、シュンッと気分が落ちてしまった。

 正直、この二人を仲間にするかどうか、クロエと何度か話したことがある。

 二人とはこの数ヶ月関わって、信頼もある程度あるし、実力も認めている。

 それなのになぜ、二人を仲間にしないのか? それは単純に誘うタイミングを失っていた。

 レイ達と知り合った当時、俺とクロエは長期の護衛依頼を受けていて、二人と一緒に依頼を受けるタイミングがなかった。

 そして護衛任務が終わって戻ってくると、今度は二人が少し長い依頼を受けていたため、お互いに仲間になるタイミングがなかった。

 そしてここが最後のチャンスだよな……。

「……そこまで、寂しいって言うんならレイ達も一緒に旅に来るか?」

「えっ!? ……ジン君達って仲間を増やさないんじゃないの? そう思ってたから、私達も仲間になりたいけど、言わなかったんだけど……」

「正直、そこまで仲間を欲しいと強く思ってるわけじゃない。俺とクロエでも、ある程度の依頼はこなせるし、なんなら二人の方が取り分も多くなるから、仲間を増やすつもりはほとんどなかった。ただレイ達を見ていて、二人が居ればもっと他のこともできるなって考える時があったんだ」

「レイちゃんとレン君、二人共私達が持ってない長所を持ってるから仲間になってくれると嬉しいなって、ずっと思ってたんだ。ただ誘うタイミングがなくて、ずっと言えなかったの……」

 そう俺達が言うと、レイは涙を流し「なる! 仲間になる!」と叫んだ。

 そしてレンも、レイ同様に「俺も仲間になりたい」と言い、俺達は一気に二人の仲間が増えた。

 旅に行く、この一ヶ月前というタイミングで仲間が増えるということは、一から連携を考え直さないといけないが、それはまた後で考えればいいだろう。

 とりあえず、今はレイ達と仲間になれたことを喜ぼう。

 その後、一部始終を見ていた食堂のおばちゃん達から「よかったね~」と泣きながらお祝いされた。食堂に居た他の冒険者からも祝福され少し恥ずかしい気持ちになった。


 翌日、パーティーメンバーの登録を行うため、四人でギルドへと集まった。

 俺達は晴れて四人組のパーティーとなるため、まずフィーネさんとリコラさんと二人の顔合わせを行った。

うわさの双子の冒険者の方達ですか、素晴らしい人材を仲間にしましたね」

「えっ、私達って何か噂されてるの?」

「……そういや、レイ達ってそういったこと、全く気にしないタイプだったな」

 この二人、お互いに珍しい力を持ってるため、一部では噂されるほどの冒険者だ。

 ゲームでは出てこなかったから、俺もクロエから紹介された時は普通だと思っていたが、後に二人の力を知った時は「マジか」と素で驚いた。

 まあ、ゲームに出てこない=勇者との関わりがない者達ということで、俺もそこで安心して絡む機会が多かった。

「へ~、私達って噂されてたんだ。知らなかった」

「まあ、気にしたことすらなかったしな」

「二人ならそう言うと思ったよ」

 その後、二人には俺とクロエがパートナー登録をしてるため、依頼の一部はギルドに行く等、これまでの成果を二人に伝えた。

 その内容に二人は驚き、目が点となっていた。

「ジン達が凄いとは知ってたけど、まさかそこまでとは思ってなかった……」

「私も。王家からも認められた冒険者って、そうそういないよね? その中でも許可証がないと入れない場所への許可証を持ってるとか、二人共すごくない?」

「頑張ったからな」

 驚く二人に詳しいことは、まだ旅立ちまでひと月はあるからその間に話そうと言って、無事に俺達はパーティーとなった。


 その後、俺達はギルドを出てリーザの店へと向かった。

「な、なあジン。俺達もガフカの工房に入って良いのか? いくら、ジンが知り合いっていっても無理なんじゃ……」

「あ~、そこは心配するな、前からレン達のことはリーザに話してるから」

「「へっ?」」

 レン達はそれを聞くと、驚いた顔をして固まった。

 そしてちょうど良くリーザの店に着いた俺は、扉を開けて中にレン達を連れて入った。

 先ほど、帰ったばかりの俺達を見てリーザは一瞬驚いたが、レイ達の顔を見て何か察した様子で笑みを浮かべた。

「リーザ、紹介する。俺達の新しい仲間のレイとレンだ。前、話した双子の冒険者だ」

「ほ~、あんたらがジンが気に入ってると言ってた冒険者達か……なかなか、いい力を持ってるね。あたしは、リーザ・ガフカだ」

「は、初めまして妹のレイです」

「は、初めまして兄のレンです」

 レイ達はリーザに挨拶をされて、ガチガチに緊張した状態でそう自己紹介をした。

 そんなレイ達にリーザは笑みを浮かべ「よろしくね」と言って、二人と握手を交わした。

「それでこの子達をただ紹介しにきたんじゃないんだろ? 一応、準備はしてたけど仲間になったばかりの相手に、本当に渡すのか? あんた達の稼いだ金だよ?」

「そこはクロエと話しているから大丈夫だ。やってくれ」

 そう俺は言って、リーザは頭をきながら「あんたも変わった奴だね」と言った。

 それから緊張しているレイ達をリーザは奥に連れていき、二人の装備の採寸を行った。

「じ、ジン君? リーザさんに採寸されたんだけど、何をお願いしたの?」

「んっ? お前達の新しい装備だ。一緒に旅をするなら、装備品の質を揃えた方がいいだろ?」

「「えっ!? えぇぇぇ!」」

 流石、双子だな、息ピッタリだ。

 そう俺が感心してると、レイから襟を掴まれ「ど、どういうこと!?」と詰め寄られた。

「さっきの話し合いで、パーティーリーダーは俺がするって言っただろ? このパーティーのルールの一つが装備は全員品質を統一する決まりなんだよ」

「そ、そんなの聞いてないよ! それにガフカの工房で装備を作るって、大金が要るでしょ!?

「そこはパーティー資金から出すから問題なし。聞いただろ、俺達が稼いだ金はこういう所で使わないと、後から後悔することになるからな」

「確かに装備が悪くて後で後悔するって冒険者でよく聞く話だけど、パーティー加入その日に高級な装備を渡すって言われる方の気持ちにもなってよ!」

 レイはそう叫ぶと、酸欠になったのかフラッとしてレンの肩に掴まった。

 今回、レイ達を急遽仲間に加えることにしたが、事前にもしかしたら二人増えるかもということはリーザに話していた。

 クロエももし二人が仲間になったら嬉しいしと言って、その時に二人の装備代をパーティー資金から出すことも承諾してくれた。

「そもそもレイ、お前ら装備に金掛けないにもほどがあるだろ? レイ、お前自分の装備出してみろよ」

「っ! う……」

 レイは指摘されたことに嫌そうな顔を浮かべながら、背に担いでるせんを取り出した。

 多少、手入れはしているものの、欠けていたりしてまともな武器とは言えない。

 レンも同様で刃こぼれした剣を使っている。

「……あんた達、これでよく冒険者続けてこられたね」

 流石のリーザもレイ達の装備の手入れのひどさに、驚いた顔をしてそう言った。

「自分達で装備を揃えられないメンバーなら、リーダーが用意するしかないだろ?」

「ジン、これだけ良くするって、俺達のことを相当期待してるの?」

「ああ、期待してる。だから惜しみなく、投資することにしたんだ」

「……レイ。ここは素直に装備を受け取ろう。ジン達の期待に応えるのが、俺達にできることだし、それに仲間になるって決めたのは俺達なんだから」

 そうレンが言うと、レイは「レンが言うなら……」と言って落ち着いた。

 それからリーザから、すでに装備の素材の手入れはしてるから数日もすればできると言われて、その日は解散となった。

「しかし、レイ達を仲間にか……当初、考えていたとおりに事が進んだな、これで旅に心おきなく行ける」

 王都で過ごした期間で、俺は旅に出るにあたって、ある程度の準備が必要だと考え、色んなことを想定して準備を進めていた。

 その準備の一つとして、いい人材が居れば仲間に入れようと思っていた。

 それこそアンジュさんを仲間にしたいとも思ったが、あの人はユリウスの近くに居た方がいい気がしたから、声は掛けなかった。

 レイ達は仲間にしてもいい気はしてたが、タイミングが合わずずっと保留にしていて最後のタイミングだと思い今日声を掛けた。

「まあ、とりあえず残りの時間でレイ達との連携をうまくできるようにならないと、せっかく仲間にしたのに意味がないからな、もうひと頑張りするか」

 そう考えながら俺は眠り、それから一ヶ月間レイ達との連携訓練を徹底的に行った。

 そうしてある程度仕上がった頃、気温も暖かくなりついに俺達が王都を旅立つ日がやってきた。

 旅立ちの日、多くの人から別れの挨拶をもらった。

 寂しい気持ちもありつつ、俺達は最初の目的地へ向かう馬車に乗り、王都を旅立った。


 自分がよく遊んでいた世界に似た異世界に転生して、約三年半ほどの月日が流れた。

 旅立つ前に色々と準備をしていたお陰で、本来だったら困っていた場面も難なく乗り越えてきた俺たちついにとあるダンジョンを攻略しようとしている。

「レイ、代わってくれ!」

「りょう、かいッ!」

 王都をつ前、声を掛けた双子の冒険者の妹、レイ。

 彼女の持つ固有能力【怪力】には、この旅の期間何度も助けられている。

「ジン君、はいポーション」

「ああ、ありがとう」

 そして、双子の冒険者の兄、レン。

 持ち前の記憶力で大金を使って覚えさせた薬学の力を発揮して、これまで多くの場面で助けられてきた。

 マジであの最後の時に声を掛けて正解だったと、今でも思う。

「っと、昔のことを思い出してる場合じゃねえな! クロエ、準備は良いかッ!?

「もちろん、いつでも撃てるよ!」

「よし、いまだ!」

 俺の掛け声と共に、俺とクロエは同時に戦っていたダンジョンのボスへと魔法を放った。

「──!」

「皆、下がれッ!」

 ボスは俺達の魔法をくらい、大ダメージを受けると最後のきで暴れ始めた。

 しかし、それから数秒後にはボスの体が崩れ、俺達は金級冒険者でもクリアが難しいとされている〝絶海のダンジョン〟を攻略した。

 ボスを討伐して報酬を手に入れた俺達は、ダンジョンの外に出てひとまず休憩することにした。

「はぁ、マジで今回は死ぬかと思った……レイ、大丈夫だったか?」

「もうあちこち痛い! レンの薬がなかったら、本当にいつ死んでもおかしくなかったよ」

「ああ、マジでそうだな、今回は今までで一番レンの薬に助けられたな」

 そう俺とレイが言うと、レンは「それが仕事だから」とニコリと笑いながら言った。

 今回、攻略したダンジョンの名前は〝絶海のダンジョン〟という海の中にあるダンジョン。

 海の中ということもあって出入りが難しいため、俺達はそのダンジョンでひと月ほどずっと探索していた。

「それにしても、今回は本当によく勝てたと思うよ。準備をしてたとはいえ、ここのダンジョンは誰も攻略したことがなかったのに、ジンが最初にここを攻略するって言った時は流石さすがに頭が悪くなったのかと心配になったけど、本当にクリアしちゃうなんてね」

「それ私も思ってた。流石に四人でここは無理でしょって諦めてたけど、ジン君とクロエちゃんが行ける! って自信満々に言うから、ついてきたけど本当に勝てるとは思わなかった」

「ジン君が自信満々の時は、大抵ちゃんと準備が整った時だからね。何度も見てきたんだから、レン君達もそろそろジン君のことは信頼しても良いと思うよ」

「いや、信頼はしてるよ? ただ流石に、ここを攻略できるとは思わなかったんだよ。だってあの、剣聖からも『ちゃだよ!』って止められてたでしょ?」

 クロエの言葉にレンがそう返し、俺の方へとレンは視線を向けた。

「よく、あれだけの準備してきたよね。時々、俺達が知らない道具まで使ってて……あれが言ってた〝ゴブリン商人〟の道具なの?」

「ああ、レン達はあいつらのことを信頼できないって言うけど、あいつらは今うわさされてる〝魔王軍〟じゃないからな。そろそろ信用してやってほしい」

「う~ん……」

 俺の言葉にレンは悩み、そのまま黙り込んでしまった。

 あれから世界は徐々に俺の知るゲームの世界へと変わってきた。

 転生初期にはなかったダンジョンが現れたり、地殻変動が起きて新たな大陸ができたりと、世界は変わっていった。

 そんな中、俺は着実に魔王軍との衝突に向けて、目立たないように準備を進めている。

 その一つにこのダンジョンの攻略が必要だった。

「それよりここも攻略したし、一ヶ月間も手紙を出してないから街に戻るか。姫様からの催促の手紙が来てそうだしな」

「「は~い!」」

 今回のダンジョンはゲームでは別に攻略しなくても、ゲーム自体はクリアできる。

 だがここのダンジョンの攻略報酬で手に入るアイテムが魔王軍との戦いで役立つ物だと知っていた俺は、それを手に入れるために長期間の準備のうえで攻略を行った。

 最初、このダンジョンの魔物に苦戦することもあったが、四人で力を合わせて乗り越え、ボスを討伐することができた。

 俺とクロエだけでは本当に攻略することができなかったな、レン達の力があってこそ攻略ができた。

 そう俺は改めて思いながら、海の街レーシアの冒険者ギルドへと向かった。


 その後、街へと戻ってきた俺達は一ヶ月前はこっちに居なかった人物と共に相談室へと入った。

「まさか、フィーネさんがこっちに来てるなんて思いませんでしたよ」

「ジンさん達がダンジョンに入ったっきり、一ヶ月間も音沙汰がなかったので心配になって来たんです。ですけど、その心配は要らなかったようですね……無事に〝絶海のダンジョン〟を攻略したみたいですね」

 フィーネさんからそう言われた俺達は、全員でダンジョン攻略のあかしを見せた。

「あのダンジョンは金級冒険者クラスとされていますが、今まで誰も攻略したことがないのにたった四人で攻略してしまうなんて、本当にすごいです」

 そうフィーネさんから褒められた俺達は笑顔を浮かべ、それからダンジョンで手に入れたアイテムや魔物の素材を売ることにした。

〝絶海のダンジョン〟はその攻略の難しさ、出入りの難しさからダンジョンに生息する魔物の素材は高値で取引されている。

「あと、こちら姫様からお預かりしている手紙です」

「……凄い量ですね。これ全部、姫様からですか?」

「はい、姫様もご心配されていましたので戻ってきたら、すぐに連絡をしなさいと言ってました」

 そうフィーネさんから言われた俺はギルドに通信魔道具を借り、デュルド王国の王城へと連絡を入れた。

 向こうの連絡係の人は相手が俺とわかると、すぐに姫様を呼び、数分もしないうちに姫様の声が聞こえてきた。

「ジン、貴方あなた達一ヶ月間もダンジョンに潜って、心配したわよ」

「ちゃんと言ったじゃないですか、今回のダンジョンは今までで一番ヤバいから長くて半年は掛かりそうですって」

「そうだけど、心配しない方がおかしいでしょ! まさか、あの〝絶海のダンジョン〟に行く人なんて今時いないわよ!」

「いや、攻略目的ではなく素材目的なら今でもたまに行く冒険者は居ますよ」

 そう俺が訂正すると、姫様は「うるさい!」と返してきた。

 この約三年間で俺達と姫様の関係はいい方向に進んで、今ではこんな感じで言い合える仲になっている。

 学園を卒業後、姫様の弟でありデュルド王国の王子様が留学から帰国して、学園に通うようになった。

 王子の存在、王城で働いてる時にスッカリ忘れていたけど、それは仕方ないと後で俺は思った。

 ゲームでもデュルド王国の王子は姉の姫様とは違い、ほとんど出てくることはなかった。

 たまに学園編で優等生キャラとして出てきてたが、それ以外に目立ったところはなくゲームクリアまで特に表に出てくるようなキャラじゃなかった。

 そんな王子様が帰ってきたことで姫様のこれまでの生活は変わり、今は弟の代わりに国王と共に国を守る動きをしている。

「それで姫様、そっちはどんな感じですか?」

「ジンのお陰で周辺国の損害はほとんどないわ、裏の子達もジンの情報網は凄いって褒めてたわよ」

「それじゃ、デュルド国の被害もそこまでない感じですかね?」

「ええ、人的被害は今のところそこまでないわね。ただ魔王軍に占領された土地はいくつか出てきてて、勇者の育成を急がないといけないって、こっちはせわしなく動いてるわ」

 勇者、姫様がそう言った瞬間俺は一瞬だけ固まった。

 この世界に勇者が現れ、すでに数ヶ月がっている。

 流石にゲームでジンを殺す相手が出てきたと聞いた時は、すごく驚いたが今では平静を装えるくらいには慣れた。

 そんな勇者は今、学園設備が一番良いとされているデュルド王国の学園で、ゲームどおりの生活を送っているらしい。

「本当だったら、ジンには勇者の仲間になってほしいんだけど……それは嫌なのよね?」

「ええ、勇者と一緒ということは目立つじゃないですか、嫌ですよ」

「でも、もうラージニア家はなくなったのにまだ続けるの?」

 約三年前、表に出てきた〝ラージニア家の不正〟は一年ほど時間を掛けて調べ上げたうえで取り潰しが決まった。

 流石に密輸、脱税、人身売買、さらには殺害まで数々の悪事を重ねていたラージニア家に助かる道はなかった。

 一族全員が処刑、もしくはろうごくへと収監されることになり、魔王が復活するまではその話題で一時は本当に姿を消さないと騒がしかった。

 そんな中、捜査に協力したということで処刑されずに済んだ者がいる。

「俺は表に出て注目を浴びるのが嫌なんですよ。それは、姫様がよくわかってるでしょ?」

「まあ、そうだけど……はあ、アンジュからも断られるし、何でこう強い人は目立つのが嫌なのかしら……」

「面倒事が増えるからですよ。魔王軍との争いが始まったのに、馬鹿な貴族は自分のところに力を集めようと動いたりしてるでしょ? ルークさん達に手紙送った時、本当に迷惑だって言ってましたから」

 魔王軍の登場によって、活躍している冒険者を自分の手元に置こうとする貴族が多く出てきた。

 銀級以上の冒険者のほとんどが一度は貴族から、自分のところに来ないか? という勧誘話が来ている。

 そして特に目立つ冒険者には、何度も勧誘話が来ていて、その中の一人であるルークさん達は本当に迷惑だと愚痴っていた。

「私達のところにも来てたしね。ほんと、そんなことする暇があるなら国に協力すればいいのにね~」

「皆、頭がいい人ばかりじゃないからね」

 クロエの言葉にレンがそう返すと、レイが「今度来たらぶっ飛ばしてやりたい!」と言った。

 その後、姫様とある程度の情報交換をした後、俺達はもうしばらくしたら王都に一度帰ると伝えて通信を終えた。

 その後、俺は椅子にもたれかかりため息をついた。

 姫様から聞いた内容だと、勇者の育成はかなり手間取ってるみたいだな……。

 まあ、ゲームでも初期の勇者は〝勇者の証〟を持つだけのただの村人だった人間だから、この世界でも育成に時間が掛かるのは仕方ないだろう。

「ジン、どうするんだ? さっき姫様から勇者について色々言われてたけど協力するのか?」

「いや、勇者に直接近づきたくないから、やるなら装備の手配くらいだよ」

「……ジンさん、前から思ってましたけど何でそんなにかたくなに勇者様と会おうとしないんですか? 普通は一目見たいと思いますよね?」

 フィーネさんは俺の〝勇者に近づきたくない〟という考えに、疑問を呈してきた。

「なんとなく、ですね。正直、勇者なんて目立つ存在の近くに居たら、俺まで目立つでしょ? そしたら面倒なやからに見つかりますから、それが嫌なんですよ」

 本当のところは、ゲームで勇者はジンを殺す存在。

 そんなやつの近くに居たくないし、できるなら俺は一生勇者とは関わりたくないと思っている。

 だけどたぶん、それは難しいだろう。

 現段階の国の力では、魔王軍との戦いに疲弊して押し切られてしまうだろう。

 そうなると、王都は壊滅状態になるだろうし、そうなったら知人達が大変なことになる。

「ジン君の勇者様嫌いは今に始まったことじゃないですし、もういいんじゃないですか? それに勇者様とは会おうとしてませんけど、それなりに王国に協力してますし」

 俺の勇者との関係を作りたくないという姿勢は、今に始まったわけではないため、このことを知っているレン達はそう言って話を終わらせてくれた。

 その後、王都に戻る日程を話し合い、俺達はギルドを出た。

「皆、ありがとな」

「いいよ。ジン君が今まで私達にしてくれたことに比べたら、このくらいではまだまだ返し切れてないしね」

「フィーネさんも悪気があって言ってるわけじゃないって知ってるから、ジンも強く言い返せなかったんだろ? そういう時の仲間でもあるからな、いつでも頼ってくれよ」

 実際そのとおりで、レンの言葉に「ありがとう」と言って俺達はこの街の宿を探して、数日間契約を結びそれぞれの部屋で休むことにした。

 ダンジョン内では、いくら安全地帯とはいえ緊張感をずっと持っていて、心が休まることはなかった。

 だが街に戻ってきて、その緊張感も解け、完全に休めるとなった俺はベッドで仮眠を取ろうと思い横になると、スンッと眠ってしまった。

 そして次に目が覚めると、完全にが落ちていて夕食の時間となり、レン達が起こしに来てくれた。

「危ね、もう少しで飯抜きになるところだった……」

「ジンは一番気を張ってたからな、仕方ない。起きないなら、寝かせてあげようって話もしてたんだが、大丈夫そうか?」

「ああ、少し横になって気分も落ち着いたよ」

 そう俺は言って皆と一緒に夕食を共にして、シャワーを浴びて部屋に戻った。

 色々と言い訳をして、王都からできるだけ離れようとしてたけど、そろそろ限界だな……。

 勇者が現れてから俺は露骨に王都に戻る回数を減らしていて、それはクロエ達も気付いている。

 すでに数年、行動を共にしてきた仲間達は俺の気持ちを大体理解してくれて、本来だったら勇者と知り合っていた方が得なのに俺に付き合ってくれている。

「仲間って本当にいいな……」

 原作のジンなら絶対に言わないであろう言葉を俺は口にして、目をつぶり寝ようとした。

 その瞬間、俺はある魔力を感じ取り、目をパッと開けて窓を開けた。

「入ってきていいですよ」

「……」

 暗闇の中に声を掛けると、スッと外から人が入ってきて手紙を置いてサッと消えた。

 今の黒い奴は、姫様の〝裏〟の従者の一人。

 本当に急な知らせの時に姫様が使う者達で、俺は渡された手紙の封をおそるおそる切り、中を確認した。

「……おかしいだろ、何でもう四天王の一人が動いてんだ」

 その手紙には、魔王軍四天王の一人が王都へと向かってきているという火急の内容が書かれていた。

 翌日、もう少し準備してから出発する予定だったが、流石に四天王が現れたとなれば話は別なため、急いで街を発ち王都へと向かうことにした。


 レーシアの街を出て数日、ジンたちは急いで王都へと戻ってきた。

 四天王来襲の情報はまだ国民には知らされていないみたいで、人々は平和な日常を送っている。

「それでは皆様、私はギルドの方で確認をしてきます。乗せていただき、ありがとうございました」

 どうせ戻る場所は一緒だからと、王都に戻る前にフィーネさんに声を掛け一緒に戻ってきていた。

 フィーネさんはそうお礼を言うと、サッと馬車から降りてすごいスピードで去っていった。

 あの人、アスカと元パーティーメンバーだから、身体能力高いんだよな……っと、そんなことを考えてる場合じゃないな。

「とりあえず、話を聞くため、このまま王城に向かうけど良い?」

「うん、良いよ」

「は~い」

「リーダーがそう決めたなら、それで良いよ」

 確認のため、皆に声を掛けるとそう言葉が返ってきて、俺は馬に指示を送り王城へと向かった。

 王城の門番は俺の顔を見ると「おかえり、ジン」と声を掛けながら門を開けてくれた。

 完全に友達の家に来る感じで入れてもらえるの、割と凄いよな……。

 そんなことを思いながら、俺は馬車置き場で兵士に馬のことをお願いして、城内へと入り姫様の所へと向かった。

「早かったわね。勇者に会いたくないからって、来ないかと思ってたわ」

「……流石さすがにあんな報告をもらったら、来るしかないでしょ、姫様はいつわかったんですか? 話してる時は何も言ってませんでしたよね?」

「同じタイミングよ。裏の子達がジンにも知らせた方がいいって、同時に動いたみたいなのよ」

「なるほど……それでどういう状況ですか?」

 魔王軍四天王。

 魔王軍の中で軍隊を率いる四匹の魔族。

 火・水・風・土の四属性を極めた者達で、一匹一匹がもの凄い能力を持っている。

 よくゲームでは四天王には優劣があるみたいな設定があるが、この〝聖剣勇者と七人の戦女〟にはそんなものはない。

 四天王との戦いはそれこそ魔王軍との最終決戦まで行われることはなく、それまで四天王の軍隊の一部だったり、幹部だったりを相手する感じだった。

 だから何で今この時に四天王が動くのか、全くもって理解ができていなかった。

「被害は街がいくつか占領されてるわね。今までとは違って、被害状況もかなりひどいみたい」

「……結構、それってヤバいんじゃないですか?」

 姫様の言葉にレンがそう言い、俺も同じ感想を抱いた。

 この数ヶ月、準備を続けてきたお陰で被害を抑えてきていた中、いくつもの街が占領されたとなると、一気に戦況が魔王軍に傾きそうだ。

「それで姫様、その四天王の見た目とかってわかってたりしますか?」

「裏の子の話によると、オークのような見た目って言ってたわね。ただ普通のオークより、少し身長が低いって言ってたわ」

「……えっ?」

 オークのような見た目? そんな四天王いたっけ?

 あれ、待てよ、でもオークのような見た目で四天王って名乗ってる魔族……。

「……姫様、そいつもしかしたら四天王を名乗ってるだけのただの魔族かもしれません」

「えっ? それどういうことなの?」

「俺の知ってる情報だと、四天王は〝火・水・風・土〟の四属性を極めた者達でその見た目もその属性に合わせた姿形をしてるんですよ。火の四天王なら、炎をまとっていたり。その中に、オークのような見た目の四天王は居ないんですよ」

 姫様は眉をひそめ「そんな情報どこで手に入れたのよ……」と言った。

「それについては前から言ってますけど、秘密ですよ。ですけど、これは確かな情報です。これまで伝えた情報も間違ったことはなかったですよね?」

「確かにそうだけど……だったら、この報告に上がった四天王と名乗ってる魔族はどういうことよ」

「魔王軍であることは間違いないと思いますけど、たぶん活躍して位を上げようとしてるやつだと思います。たぶん、被害状況もあえて酷く見せてるだけで大したことはないと思います」

 確かに今までの魔王軍の動きからして使える街はそのまま使ってるのに対して、今回は異様に被害状況が大きい。

 姫様もそこに違和感を覚えていたからか、俺の話を聞いて納得した様子でいる。

「だとしてもそれを確認する術が今はないのよね……ジンの言うとおり、そこまで強くなくてもそこそこは強いんでしょ?」

「まあ、一般の兵士以上の力はあると思いますね」

「今は勇者の成長に人を回してて、そっちに向かわせる人員が足りないのよ」

「ならに俺達が倒してきましょうか? その豚野郎」

 そう俺が言うと、姫様はもちろんのこと、仲間であるレン達も驚いた顔をした。

「ジ、ジン君が自ら魔王軍の対応に? あれほど、姫様からお願いされても決して、自分が動こうとしなかったジン君が!?

うるさいな……まあ、今までのことを見てたら驚くのもわかるけど、今回の奴はそれほど大したこともないから早く対応して姫様の心配を解こうと思っただけだよ」

「それはうれしいけど、本当にいいの?」

 再確認してきた姫様に俺は「はい」と言って、その自称四天王のオークを討伐すると俺は姫様に言った。

 最初は四天王が現れたって聞いて驚いたけど、まさか〝アイツ〟だとはな……ゲームでもウザかったし、早々にこの世界では退場してもらおう。

 そう俺は考えながら、ひとまず装備の手入れをお願いしにリーザの店へと向かった。



 それから数日後、俺達は再び王都をち、四天王と名乗る豚に占領された街へと向かった。

 今回のお騒がせ豚、俺の勘違いじゃなかったら〝金オーク〟だろう。

 金オーク、別に見た目が金でできてるわけではなく、その素材を売った時の値段が馬鹿みたいに高くてプレイヤーから〝金オーク〟というあだ名が付けられたのだ。

 オークのような見た目をしてる自称四天王の豚だが、その正体はキングオークジュニアという特殊個体。

「ジン君、そんな情報もゴブリン商人は取り扱ってるの?」

「ああ、あいつらは色んな物を取引してるからな、情報も色々と取り扱ってるんだよ。まあ、流石に魔王軍の情報はそんなに手に入らないみたいだけどな。それでも四天王がどんな奴らなのか程度の情報は仕入れてたから教えてもらったんだ」

 ゲームでもゴブリン商人は情報も取引していて、どこに宝があるのかなどの情報も商売のタネにしていたので俺はそれを利用して情報の出所はそこだと仲間達に伝えている。

 実際は苦手属性すらも覚えるほど、ゲームをやり込んだからだとは言えないからな、商人が情報も取り扱ってることを思い出して良かった。

「それと今回の相手だが見た目はオークより小さいが、その正体はキングオークジュニアっていう特殊個体だから、詳しく説明しておくな」

 そう言って俺は金オークとの戦い方をクロエ達に教え、約半日移動を続け目的の金オークに占領された街の近くにやってきた。

 街の近くで姫様の裏の従者と情報交換を行い、金オークはまだ街の中にいると聞いた。

「移動する間に違うところに行くかもと心配だったけど、移動してなくて良かった」

 そう俺はあんして、戦いの準備を始めた。

 今回使う戦い方は至って簡単。

 すでに都市は魔物の手に落ちていて、人は居ないみたいなのでそれぞれ全力で魔物共をたたつぶすというシンプルなやり方。

「久しぶりに大暴れできるんだね! やった~!」

「レイちゃん、どっちが多く魔物倒せるか競争しよう!」

「……ジン、良いのかあの二人はあのままで」

「大丈夫。最近、色々とストレスまってたみたいだから、ここいらで発散しないと俺らに来るかもしれないしな」

 そう俺が言うとレンは「ストレスが溜まってるなら仕方ないな」と、クロエ達をそのままにすることに同意した。

 以前、クロエ達のストレスがMAX値まで溜まった際、もうそれはそれは面倒なことになり、俺もレンも当時のことを思い出しただけで身震いする。

 その教訓を踏まえ、ストレス発散ができる時にしておこうというのを決めて、今回は人の目もないし、クロエとレイにはストレス発散しても良いと伝えた。

「まあ、クロエ達は相手に暴れてくれるだろうし、俺達は自称四天王の豚を一緒に倒すか」

「了解、リーダー。でも、二人で大丈夫なのか? 言っても魔族を率いてる奴なんだろ?」

 レンが少し心配気味にそう聞いてきた。

 まあ、心配に思うのは仕方ないだろう。

 自称とはいえ、軍隊を率いているボスだから、ある程度の力があるとレンは心配している。

「情報によると、あいつが率いている魔物はゴブリンやオークといった俺達だったら一人で数百体は倒せる奴らなんだよ。都市が奪われたのは、その数による暴力に対応できなかったんだと思う。数に対してなら、俺達はそれぞれ対抗できる技を持ってるから心配することはない」

 そう俺は言い切り、準備を進めた。

 そうして戦いの準備を終えた俺達は、それぞれ配置について一気に街の中へと潜入した。

「ドッ──!

 潜入早々、入り口付近ではクロエとレイが暴れ始め、建物が崩れる音が響き渡り魔物達が入り口の方へと集まっていった。

 一瞬、流石にこの量は大丈夫かなと思った俺だが、ふとクロエ達の方を見ると楽しそうにじゅうりんしていた。

「うん、大丈夫そうだな。行くか」

「そうだな、今のあの二人なら数千体の魔物が押し寄せてきても大丈夫だろう」

 レンも俺と同じ気持ちだったようで、二人の暴れる姿を見た俺達はボスのいる方へと見つからないように向かった。

 情報によると金オークの奴は、この都市の高台に位置する屋敷を根城にしていると聞いた。

 なので俺とレンは魔力を消しながらそこに向かい、屋敷の近くに着いた俺は建物の中の魔力を確認すると一匹だけ周りと違った魔力を持ってる魔物を見つけた。

 たぶん、アレが金オークだな……よし、早速討伐するか。

「早速やるか、準備は良いか?」

「良いけど……それ本当に役立つの?」

 レンに準備してもらったのは、ちょっと匂いがキツイ香水。

 俺が手に持ってる香水を見て、レンはそう言ったので「まあ、見てな」と言って俺は香水の蓋を開けて屋敷の入り口にサッと置いてすぐに姿を消した。

「ブホォォォ! この匂い、好きぃぃ!」

 すると次の瞬間、屋敷の中から金オークがドスンドスンと足音を立てて現れた。

 その興奮した様子に俺は成功だなと心の中で思いながら、刀を抜いてサッと金オークの背後に立ち首を刈り取った。

「アッサリ終わったな、馬鹿で助かったよ」

 金オークの倒し方、それはあいつの好きな匂いを餌におびき寄せるという作戦。

 これはゲームでも同じで、その情報を知ってるプレイヤーは香水を用意して金オークを倒していた。

 こんな簡単に倒せるのに素材はものすごく高く売れるから、本当にプレイヤー達から好かれた魔物だった。

 討伐後、すぐに金オークを回収した俺はレンと共にクロエ達のもとへと戻った。

 ……うん、凄い死体の数だ。

「なあ、レン。あの死体の数ヤバいな」

「そうだね。魔物の死体って放置したら大変なことになるから、回収するか火で燃やすかするけど、あれの掃除は大変そうだね」

「本当にな……」

 掃除担当は収納スキルを持ってる俺の役割なので、目の前の光景に俺はため息をついた。

 その後、クロエとレイが満足するまで戦い、この都市に居た魔物は全て消えた。

「は~、楽しかった! クロエちゃん、私の勝ちだよ!」

「む~、もうちょっと居たら勝てたのに~、でも楽しかったからいいや!」

 レイとクロエは満面の笑みでそう言い合い、二人のそんな満足した様子を俺は掃除をしながら見つめた。


「……もうあの軍隊を倒してしまったのですか?」

 掃除が終わった後、都市の近くで待機していた裏の従者に伝えると、驚いた顔をして聞き返してきた。

 まあ、あれだけの数をたった数時間で片付けてきたら、そりゃ驚くだろう。

 そう思った俺は、裏の従者を連れて都市の中に入り、全ての魔物の気配がなくなったのを確認させた。

 そして最後に金オークの死体を見せて、本当に金オークの軍隊を全滅させたことを確認してもらった。

「ジンさん達の力はある程度知っているつもりでしたが、情報を新しくしないといけないようですね」

「まあ、今回は特にクロエ達がストレス溜まってたから、こんなに早く終わったんだよ。普通はもう少し慎重に動くから、時間は掛かってたと思う」

 その後、裏の従者を都市に置いたまま俺達は王都に戻り、その日は宿にそのまま向かい、報告は次の日にすることにした。


 そして翌日、報告のために姫様の所に向かうと、あきれた顔をされた。

「この数年でどれだけ強くなったのよ……言っておくけど、最低限とはいえ兵士を置いてたのに都市を取られたのよ? それをたった数時間で、その軍隊を討伐って……」

「裏の人にも言いましたけど、昨日のアレはクロエとレイがやったんですよ? 俺とレンはボスしかやってません」

「そのボスにも兵士は手間取っていたのよ? 魔法の腕がすごくて、苦戦したって言ってたわ。それなのに裏の子の話によると、首をれいに刈り取って他に戦闘の痕跡はなかったって……」

 姫様は金オークの死体の報告を受けて、どんな倒し方をしたのか詳しく聞かせてと言ってきた。

 詳しく聞かせてと言われてもな……。

「その情報によると、あいつはある匂いをすごく好きな奴でその匂いのする香水を餌にして、油断したところを後ろからシュパッと」

「……聞いた私が馬鹿だったわ、本当におかしな人達……」

「俺はジンから作ってと言われて、香水を作っただけですよ。他の二人もただ好きなだけ暴れて魔物を蹂躙したりしてましたけど、俺は至って普通ですよ?」

「レンも大概変よ。普通、話だけ聞いて失敗もなくオークの好きな香水を作るなんて、普通の人には無理よ。貴方あなたもジンのおかしさに汚染されてるわよ」

うそ、だろ……」

 自分は普通だと思っているレンは、姫様からの言葉にガクッと膝をついた。

 まあ、正直俺達四人の中で誰が一番異常かといえば、明らかにレンだろう。

 出会った頃、レンはちょっと集中力が凄い程度だった。

 しかしこの数年で色んなことを学んだレンは、もの凄い量の知識を脳内に蓄積している。

 その蓄積された知識を掛け合わせ、俺が必要だと言った物をたった数時間で用意したりと最近その異常性は徐々に増しつつある。

「はぁ、本当にこんなに強いのに表に出ないのおかしいでしょ……今のジンなら、ユリウスと互角に戦えるんじゃないの?」

「どうですかね。昔のままだったら、まあ行けたと思いますけどアンジュさんのもとでさらに強くなりましたからね、ユリウスさん」

 アンジュさんと再会したことでユリウスの止まっていた剣術のレベルはさらに上がり、ゲームのユリウスの力をすでに超えている。

 その後、姫様から勇者の育成が行き詰まってることや貴族に対しての愚痴などを聞くことになり、俺達が解放されたのは報告を済ませてから二時間がってからだった。


 自称四天王の豚こと金オーク討伐から数日後、ギルドに売った金オークの報酬はゲームどおりかなりの金額になった。

 俺たちはその報酬を受け取り、ちょっと豪華なねぎらい会をすることにした。

 絶海のダンジョンの攻略、金オークの討伐、その他にも色々やってきてここ最近はすごく濃い旅を続けていた。

「ジン、これからどうするんだ? 絶海のダンジョンも攻略したし、次のダンジョンは決めてるのか?」

「いや、まだ決めてないな。フィーネさん達に今、調べてもらってていいのがあったら連絡をしてもらうようにしてるから、数日はお休みだな」

 休み、その言葉を聞いた皆は笑顔を浮かべ「「「久しぶりの休日」」」と言った。

 最後にちゃんとした休みを取ったのは、それこそ絶海のダンジョンに挑戦する前だから一ヶ月はちゃんとした休みを取っていなかった。

「一応、スペアの装備を渡しておくからメインの装備はリーザの所にメンテナンスに出しておくよ。この間は急だったから、全員分のをちゃんと見られてないってリーザ言ってたし」

「「「は~い」」」

 クロエ達は俺の言葉にそれぞれ装備を出して、皆には予備の装備を渡した。

 装備を渡してる途中、俺はふと皆のステータスが気になり、話題として出すことにした。

「そういや、ステータス。最後に確認したのって、絶海のダンジョンに挑戦する前だったよな? たぶん、レベルとかも上がってるだろうし確認しておくか?」

「ふふ~ん、ジン君のその言葉待ってたよ~」

「私とクロエ、この間二人で戦ってる時に見てたけど、たぶんビックリするよ!」

「あっ、先に二人で確認してたのか。レンは見てないのか?」

「俺はジンと行動してたからな、最後に皆のステータスを見たのはダンジョンに行く前だったかな」

 そうレンが言うと、俺達はそれぞれ自分達のステータスを出して見せ合った。


名 前:ジン

年 齢:15

種 族:ヒューマン

身 分:平民

性 別:男

属 性:火・水・風・土・光


レベル:72

筋 力:3147

魔 力:6147

 運 :76


スキル:【鑑定:5】【状態異常耐性:4】【剣術:5】

    【魔力強化:5】【火属性魔法:4】【水属性魔法:4】

    【風属性魔法:4】【土属性魔法:4】【光属性魔法:4】

    【魔力探知:5】【身体強化:5】【めいそう:5】

    【体術:4】【気配察知:5】【刀術:5】

    【魔力視:5】【剣気:5】【空間魔法:3】

固 有:【成長促進】【異空間ボックス】

能 力

称 号:神童 加護持ち 銀級冒険者

加 護:魔法神の加護 武神の加護 剣神の加護


 まず最初に出したのは俺のステータス。

【成長促進】と神の加護のお陰で、成長速度が異常に高く、レベルと見合わない能力値となっている。

「ジン君って本当にすごいよね。神様の加護を三つも持ってるから、成長速度が本当におかしいよ……」

「力の数値、3000超えてるの!?

流石さすが、ジンだな一番おかしい」

 三人それぞれからそう感想を言われた。

 まあ、正直ここまで来ると俺もおかしいと思わざる得ないほどに成長している。

 ゲームでもジンというキャラはチートキャラとして扱われていたが、俺はたぶんゲームでのジンを超えられるかもしれない。

 それは一つの目標として、今後も頑張っていこうと改めて考えた。

「まあ、でもジンがこのくらいの数値があるってのは大体予想できてたから、今回はそこまで驚かなかったよ。前に見た時、一人だけ異常に高くて本当に驚いたけど」

「そういえばそうだったね。あの時、ジン君一人だけレベルが一気に10も上がってて、皆で二度見したもんね」

「固有能力の【成長促進】と加護の三つの成長速度の異常性は、あの時に納得させられたよ」

 その時のステータス確認は、レベル上げに専念していた時に行われ、皆が3~5上がってる中、俺だけがレベルを10上げた。

 その時の印象が強く残っているのか、レンの言葉にクロエ達はウンウンとうなずいた。

「まあ、あの時は狩りがしやすい所で俺もかなり稼がせてもらったからな」

「ジン君って普段は刀で前衛してるからたまに忘れるけど、魔法の威力も凄いから本気を出したら今頃100レベルとか行ってたりするんじゃない?」

「100は流石に無理だと思うぞ、ユリウスさんでさえようやく85になったって言ってたからな」

 ゲームでのユリウスのレベルは初期段階で70レベル以上あり、物語が進むと90を超えさらに強くなっていた。

 しかしこの世界ではアンジュさんと再会したことで成長速度が増したのか、時期としてはゲームの序盤でありながらすでに80レベルへと到達している。

 そういやゲームだとレベル上限が100って設定されてたけど、この世界だとその辺りはどうなってるんだろうな。

 いつか検証してみたいなと思いながら、話題はクロエのステータスへと移った。


名 前:クロエ・フィストル

年 齢:16

種 族:獣人

身 分:平民

性 別:女

属 性:風・水


レベル:59

筋 力:2314

魔 力:1874

 運 :81


スキル:【剣術:3】【体術:3】【身体強化:3】

    【夜目:5】【魔力探知:4】【気配察知:5】

    【わな解除:3】【警戒心:4】【風属性魔法:4】

    【水属性魔法:3】【魔力強化:3】【魔力解放:2】

    【瞑想:2】【集中:4】【魔力視:5】

固 有:【獣化】【覇気】

能 力

称 号:英雄の子 加護持ち 銀級冒険者

加 護:獣神の加護


 出会った頃は武に偏っていたが、今ではもうほとんど魔法職と変わらないな。

 ただまあ、やはりというか獣人族ということもあってか魔力の伸びがそこまで高くないみたいだ。

「やっぱり魔力の伸び率は悪いな」

「うん、そこはもう諦めてる。今はどうこの魔力で敵を倒すか、より効率的に魔法を出せるかを考えてる」

 クロエはそう言うが、たまに魔法の威力に納得してない時がある。

 魔法系の威力が上がる装備、まだ手に入れてない物があるから、それを手に入れたらクロエに渡すか。

「たまに忘れるけど、クロエちゃんって獣人なんだよね。それなのにあれだけ強い魔法使えるって、凄いよ! 身体能力も高いから、いざって時は接近戦もできるしね。私は接近戦しかできないもん」

「確かにクロエは基本、魔法で戦ってるけど居てくれると本当に心強い。俺はどっちも中途半端で、戦闘には向いてないから羨ましいよ」

 そう二人から褒められたクロエは、うれしそうに笑顔を浮かべた。

 まあ、皆それぞれ個性があって俺は良いと思っている。

 クロエは魔法使いながらも前も任せられる力を持っているから、いざという時にレイや俺と交代もできる。

 そうして次に確認するのは、レイのステータス。


名 前:レイ

年 齢:17

種 族:ヒューマン

身 分:平民

性 別:女

属 性:火・土


レベル:58

筋 力:2547

魔 力:1247

 運 :74


スキル:【せん術:5】【体術:3】【身体強化:5】

    【火属性魔法:2】【土属性魔法:3】【気配察知:3】

固 有:【怪力】

能 力

称 号:銀級冒険者

加 護:


 スキル数はパーティー内で一番少ないが、加護がないのにレベルも60近くでスキルレベルも二つMAXの5になっている。

 レイの持つ固有能力【怪力】は使用すると、筋力が倍になるという単純だが強力な能力。

「筋力が2500ってことは【怪力】の使用時は5000ってことか……そもそも素の状態でもクロエより上って、ヤバくないか? 獣人族に筋力で勝つって……」

「私も何だかんだ体を動かしてるけど、レイちゃんに負けてたんだ」

「見るまで気付かなかった。でも前は、クロエちゃんのが上だったよね? 何でだろ?」

「……この間の自称四天王の軍隊、レイのが多く倒したとか言ってたよな? あの時、クロエは魔法使ってたけどレイはいつものように武器を使って戦ってたから、そこでレイのが上になったんじゃないか?」

 そうレンが指摘すると、クロエは「そうかもしれない……」と言って少し落ち込んだ様子だった。

「クロエは俺と同じで魔法と武術が両方できるタイプだから、一つ劣っているからといって落ち込まなくてもいいと思うぞ、というか獣人族で2000近い魔力はそうそう居ないだろうしな」

「知り合いに獣人族の人いるけど、まず魔法をうまく扱うことすら難しいって言ってたよ。だから、クロエは両方できる時点で凄いと思うぞ」

「うんうん、クロエちゃん頑張って魔法使えるようになってるから、それだけで凄いよ」

 そう皆で励ますと、クロエは逆に恥ずかしくなったのか「あ、ありがとう」と顔を赤く染めながら言った。

 クロエが復活したのを確認した俺は、最後となったレンのステータスを見ることにした。


名 前:レン

年 齢:17

種 族:ヒューマン

身 分:平民

性 別:男

属 性:水・光


レベル:56

筋 力:1387

魔 力:2247

 運 :78


スキル:【水属性魔法:3】【光属性魔法:3】【魔力強化:3】

    【剣術:1】【体術:2】【集中:5】

    【調合:5】【錬金:5】【調理:4】

    【状態異常耐性:5】

固 有:

能 力

称 号:銀級冒険者 たいの錬金術師

加 護:


 性格から戦闘向きじゃないレンは、スキルからもわかるくらいに戦闘系のスキルがない。

 そのかわり俺達のパーティーには欠かせない【調合】・【錬金】・【調理】の三つのスキルを持っている。

 旅に向かう前、料理は俺が担当しようかと思っていたが料理本をレンに渡すと、一日でほとんどの料理を覚えてしまった。

「称号手に入れてたのか、流石レンだな」

「【錬金】が5になったタイミングでもらったな、なんか二十歳はたち前にスキルレベルを最大にするともらえるらしい。称号の効果で錬金物の能力も上がるとか書かれていたから、役立つ称号だったぞ」

 称号には二つの種類がある。

 一つはただの称号として与えられ、受け取った人物がどういった者なのかがわかるだけのもの。

 例えばクロエの持つ〝英雄の子〟や〝加護持ち〟だったり、冒険者ランク等がそれだ。

 そしてもう一つが自身の能力を上げる強化系の称号。

 俺の持つ〝神童〟だったり、レンの持つ〝稀代の錬金術師〟なんかは自身のスキルや能力が強化される称号だ。

「強化系の称号か、それは凄いのを手に入れたな、今後も頼りにしてるぞレン」

 俺はそう言いながらレンと肩を組み、レンも嬉しそうに俺の肩に手を回した。

「それにしても皆のステータスを久しぶりに見たけど、良い感じに成長してきたな」

「そうだね。最初の頃はジン君との差が開きまくってたけど、今じゃ魔力以外はそこそこ食らいついてるよね」

「ジンの魔力は異常だからな、魔法そんなに使ってないのに何でそんなに上がってるんだ?」

 まあ、そう思われるのは仕方ない。

 何せ俺はここ最近の戦闘では、そこまで魔法に頼った戦い方をしていない。

「他で魔力を使ってるからな、【魔力視】を使ってたり【空間魔法】を多用してるからだろうな」

 この期間で、一番手に入れて良かったスキルは【空間魔法】だと断言できる。

 まだ長距離の転移はできないが、ちょっとした移動なら可能で戦闘でクロエと交代する時なんか本当に役に立っている。

 まあ、このスキルを使えるようになって嫌なことも一つあったが……。

「そういえば、最近減ったよね。レーヴィン様の勧誘」

「前回来た時に、手紙を書いてレーヴィン様のポケットに入れておいたんだよ。それをエイレーンさんが見つけてくれたから、レーヴィン様を止めてくれてるんだと思う」

 一番の厄介事、それは【空間魔法】を使えるようになってからのレーヴィンの勧誘だった。

【空間魔法】はこの世界では貴重な魔法の一つで、空間系の能力を持っていたとしても手に入れられた者は少ない。

 そんな中、知人である俺が手に入れたと知ったレーヴィンは、リオンにも内緒で何度も俺の所へ勧誘しにやってきていた。

 流石に面倒だと思った俺は、エイレーンが見つけてくれることを祈って手紙を送った。

 ったく、あのじいさんどこにいても俺の魔力を辿たどって転移でやってくるから、マジで面倒だった。

「そういえば、リコラちゃんからそろそろ金級冒険者に上がらない? って聞かれたけど、どうするジン君?」

「上げないよ。銀級冒険者にも本当は上がりたくなかったけど、フィーネさん達からどうしてもって言われたから上げただけだし」

 すでに昇格記録内ではないからそこまで目立つことはないとは思うが、面倒事を避けるなら上げない方がいいだろう。

 ただでさえ、現状でも勧誘話は色んな所から来ている。

「正直、ジンのその〝目立ちたくない行動〟ってたまに自分から目立つ行動してるから、意味あるの? って思うんだが」

 レンはそう言いながら、目立ちたくないなら隠居すればいいしなと言った。

「それは自分でもわかってる。ただ自分の考えでは、目立たないように行動しようって常に考えてるんだよ。それと隠居は考えたこともあるけど、今のところ俺には難しいと思う」

「難しい?」

「ああ、だって俺はい飯を作れないから、一人で隠居は難しい。レンが一緒に隠居してくれるなら、話は変わってくるけど」

 この約三年間、本当だったら俺も料理の腕を磨こうと思っていた。

 だが料理本を渡したらレンは自身の探求心から一気に料理に目覚めてしまい、俺は料理をする機会が全くなかった。

 そのせいでもし隠居する場合、俺は一から料理を勉強しなきゃいけない。

 まともに飯が食えるようになるまで、俺はたぶん耐えきれないだろう。

 それほど、俺はこの約三年間でレンの料理に舌が鍛えられ、美味いもんが食えなくなるという行動は取れなくなっている。

「……とりあえず、これからはジンにも料理する機会をやるよ」

「別にレンが一緒に隠居してくれるだけでいいんだぞ?」

「……ねえクロエちゃん、ジン君がレンにしか声を掛けない、なんか悪意感じるんだけど?」

「うん、私も感じる。でも、料理に関しては仕方ないよ」

 女性陣からの視線を感じるが料理に関してはクロエの言うとおりだ。

 何せ料理がうまい順は、スキル持ちのレンが一番でその次が俺、そしてその次がクロエで、料理とも言えない物質を作るレイが一番下だ。

 レイの作った料理、魔物すら食べようとしなかったから本当にヤバい物だったな。今でもにおいを思い出して寒気がする。

「でもまあ、料理がうまくなったのも錬金ができるようになったのも、全部ジン達のお陰だけどな、出会った頃の俺はそれこそ何もできないやつだったし」

「……一番この期間で変わったのは、レンだろうな。何せ何もないところから、ここまで成長できたんだから」

 俺はレン達と出会った頃のことを思い浮かべながら、そう言った。



 あれは俺達が銅級冒険者となってまだ日が浅い頃、クロエの知り合いとして俺はレン達を紹介された。

「初めまして、クロエとパーティーを組んでるジンです」

「初めまして、私はレイだよ! それでこっちの不愛想なのが兄のレン。よろしくね!」

「勝手に人の紹介終わらすな、まあその、よろしくな」

 初めて会った時の二人の印象は、レイは変わらず元気娘という感じだったが、レンはクールと言うより人付き合いが苦手だなと一目でわかるような奴だった。

 二人が双子だと紹介された際、髪色が赤で目の色が黒と一緒な二人なのに、レイはパッチリした目に対して、レンはジト目で目付きは似てないと思った。

「ジン君だっけ? ジン君は今、何歳なの?」

「俺は十二歳だよ。レイ達は?」

「十四歳だよ。私達の方が年上だね! でも、クロエちゃんの友達なら敬語なんて使わなくていいよ!」

「ありがとう。普段から使わないから、そっちの方が楽で助かる」

 そうお礼を言いながら俺はレンの方を見ると、レンも「俺も構わん」と言って二人からタメ口の許可を出会ったその日にもらった。

「そういえば聞いたよクロエちゃん、仲間におとりにされたって大丈夫だったの?」

「うん、魔物に追われてる時にジン君に助けてもらったの」

「わ~、凄い運命的な出会いだったんだね。その話詳しく聞かせて!」

 この時、レイ達は少し遠くまで依頼で出ていたからクロエの事件を知らなかった。

 なのでちょうど良く話題があって、出会ったその日に少しだけ仲を深めることができた。

「ジン君、どうだった初めての同年代の冒険者との会話」

「まあ、楽しかったな。クロエの友達だからか、俺のことも最初から友達のように接してくれたし」

 特にレイは人懐っこい性格なのか、すぐに仲良くなった。

 まあ、レンは人付き合いが苦手だと自分で言うだけあって、俺達の会話には一言二言口出すくらいで後は本を読んでいたが、まあ悪い奴ではなさそうだった。

「というか、クロエは何でちゃんとした友達いたのにあんな変な奴らと仲間になってたんだ?」

「パーティーに入った後に、レイちゃん達と知り合ったの。それで、人数的にもレイちゃん達は入れないしってなってパーティーは組んでなかったの」

「なるほどな、確かにあまり多すぎてもパーティーでの役割もなくなるし、今は今で二人で事足りてるからな」

 実際会ってみて、いい奴らだと感じたが別に仲間に誘おうとまでは思ってなかった。

 クロエの友達だから、俺が忘れてるゲームキャラとその時は思っていた。

 だから俺は時間を掛けてレイ達がゲームに出ていたキャラか思い出そうとしたが、似たようなキャラは一人も居なかった。

「う~ん、こんだけ時間掛けて思い出せないってことは、完全にこの世界の人ってことだよな……」

 正直、この世界の人物と思うまでに紹介された日から一ヶ月がっていて、その頃は色々と忙しくレイ達とまともに話す機会もなかった。

 それで久しぶりに会えるとなった俺は、二人が好きな物をクロエから聞いて土産みやげに持っていくことにした。

「えっ、これジン君から? いいの、もらっても!?

「ああ、レイは甘い物が好きって聞いたからな、王城でも取り扱ってる菓子屋で買ってきたんだよ」

 レイに渡したのは、王都でも有名な菓子屋のお菓子。

 平民の俺達だとまず出入りすらできないが、そこは姫様に頼んで店に行ける権利をもらった。

 あの店、ゲームでは好感度を上げるためのアイテムが売られてて、よく利用していたが一つ一つが高くて金策しても金が足りなかったんだよな。

 この世界でも高価なのは変わりないが、なんとか手が出せるレベルだった。

「わ~い、ここのお店のお菓子いつか食べてみたいって思ってたの! ありがとうジン君!」

「そこまで喜んでくれたら、俺も持ってきた甲斐かいがあったよ。それでレンにはこれだ」

「……本?」

「ああ、レンは本が好きだって聞いたからな」

 俺はその時、初めてレンに本をプレゼントした。

 プレゼントした時の本は適当に、冒険者として役立つだろうと思って薬学系の内容だったのだが、まさかレンがあそこまで本が好きだとは後になってわかった。

「ありがとうジン。大切にする」

 レンはいつもの落ち着いた雰囲気ではなく、少しだけ興奮した様子でギュッと本を大事に抱えながらそうお礼を言ってくれた。


 そこまで喜んでくれるとは思ってなかった俺は、この世界のことをもっと知るために本を読むようにしてたまにレンと本の話題で話したりするようになった。

「ジン、この前もらった本を見ながら作ってみたけど、俺には【鑑定】スキルがないから見てくれないか?」

「作ったって、もしかして薬を作ったのか!?

 本を渡してまだ一週間くらいしか経ってないのに、レンはすでに読破して実際に薬を作ってしまっていた。

 流石に本格的な道具とか、高価な材料は当時のレンには買えないから普通に薬の調合に使うアイテムを買って自作で回復薬を作ってしまったのだ。

 簡単に作ってみたとレンは言ったが、本来簡単な薬を作るのにも相当時間が掛かると言われている。

 まあ、形ができてるだけで効果はそこまでだろうと、鑑定する前まで俺はそう思っていた。

「……普通に市販で売られててもおかしくないレベルで、ちゃんとした効果も出るみたいだ」

「おっ、それは良かった」

「えっ、レン君が自分で薬を作っちゃったの? 私にも見せて~」

 レイと話していたクロエが、俺達の会話に入ってきた。

 そしてクロエはレンの薬を見て「わ~、本当に売られてる薬とほとんど一緒に見える」と言った。

「外見だけじゃなくて効果も一緒。というか、たぶん材料費とか考えたらレンが自分で作った方が安くそろえられると思うぞ」

「まあ、その一本にたどり着くまでに少しお金が掛かったけどな、でももうコツはつかんだからこれからは自分で薬の調達はできそうだ。これでやっと、レイから白い目を向けられなくて済む」

「別に私はレンの薬作りの行動自体を嫌だと思ったことないよ? ただ一緒の部屋で作るのはめてほしいって思ってるだけ、だって調合した薬の匂いって本当にすごく臭いんだよ? 毎回、換気のために窓開けてるけど、夏場はまだいいけどもう寒い時期になってくるから、部屋で作るのは止めてほしいなとは思ってる」

 レイは隠すことなく自分の気持ちを言うと、レンは「ごめん」と素直に謝罪をした。

 レイとレンは兄妹きょうだいということもあって、男女ではあるが一緒の部屋を借りている。

 そんな場所で薬作りをしたら、そりゃ片方は嫌がるだろうな。

「ギルドに話してみたらどうだ? 薬の調合ができる人間は、そう数は居ないからいくつか納品するから場所を貸してほしいって言ったら、用意してくれると思うぞ」

 確か、ギルドには色々と作業場があって調合できる部屋もあったはずだ。

 俺はその場所を思い出しながらレンに言うと、その次の日にはギルドで場所の提供をしてもらう代わり、月に決められた個数の薬を納品する契約をしていた。

「レンの行動力とか、普段のレンを見てるからおかしく感じるな……」

「レンは自分の好きなことに対してだけは、私以上に行動力あるよ」

「なるほどな、大人しいイメージだったけど、ただ単にそれに対しての興味がないだけだったのか」

 この頃まで俺にとってレンのイメージは、クールで大人しい奴だった。

 しかし、この手作り薬の件以降、好きなことへの行動力は半端ない奴で興味ないことにはとことん力を発揮しないタイプだとわかった。

 まあ、堅物っぽい感じかと思ってたのが、そうじゃないとわかって絡みやすいと思うようになったから良かったと思っている。

「それにしても、レンがそこまで薬学に興味があるんなら、他にも本を渡して色んなことを勉強してもらったら面白いことになりそうだな……」

「ジン君、人の兄を面白いって」

「いや、だってたった一週間で手作りの薬を作ったんだぞ? そんな奴、面白い以外何て言うんだよ」

「……確かに、そう言われたらそうだけど」

 それから俺は特に仲を深めるとかそういう理由なしで、定期的に専門的な本をレンに渡しはじめた。

 最初の頃はレンも、本は意外と高価な物だからもらいすぎだと返そうとした。

 だけど俺は一度読んでいるから要らないと言って、不要だから受け取ってくれと渡していた。


「レンだけズルいよジン君! ジン君がレンに本渡すから、付き合いも悪くなっちゃったんだよ。責任取ってよ!」

 それからしばらくして、レイから会って話がしたいとギルド経由で来たので会いに行くと出会ってすぐにそう言われた。

 まあ、レイはレンとしかパーティーを組んでないから、レンが研究やらで忙しくしてると一人になってしまうんだろう。

「と、言われても俺達は俺達で護衛任務中だからな……いっそのこと、レイも何かやってみたらどうだ?」

「何かって、私レンみたいな薬作ったりできないよ?」

 そうレイは言うと、自分は力が強いことしかいいところはないと続けて言った。

「それなら、レンの製作過程で失敗というか、効果が薄くなってしまったのを売ったりしたらどうだ? レンはそういったのは苦手で、研究とかでだいぶ薬がまってるんだろ?」

「そういえば、最近貸してもらってる部屋も荷物でいっぱいになってきたってレンが言ってた気がする……うん、ギルドの人と話してちょっとやってみるよ! ありがとジン君!」

 そう元気よくレイは言うと、笑顔を浮かべながら走り去っていった。


 それから数日後、レイから「商売の勉強してる!」と商業ギルドに紹介されて商売のやり方を教わりに行っているという手紙が届いた。

「なんだかんだあの二人、兄妹だから本当に似てるな」

 凄い行動力だなと、俺は感心しながらその日も訓練にいそしんだのだった。


 それから俺は、たまにギルド経由でレン達のことを教えてもらっていた。

 レンの薬作りの腕は日々良くなっていっていて、たまに俺に見せるためにフィーネさんから渡されていたが、本当に凄く効果が上がっていた。

「まさか、ここまで薬を作れるようになるとは思わなかったな、ただ冒険に役立つだろうと思って渡しただけだったけど」

「レンさんの力は、ギルドでも高く評価しています。彼の薬作りへの熱意は素晴らしく、素材の提供も最近は始めました」

 薬作りを始めて数ヶ月経った頃には、レンはギルドからも信頼される薬師として活躍していた。

 素の集中力が高く、一度の作業で大量に作れるレンの薬作りの腕はギルドとしても重宝していて好待遇を受けていた。

 まあ、今は薬だけに集中しているみたいだけど、最近は錬金術の本とかも渡しているからもしそっちに興味を持ったらもっと凄いことになりそうだな。

 そう思いながら俺は色んな専門書をレンに渡しては、その成長を遠くから見守っていた。



「ジン、どうしたんだ。さっきから黙って天井を見上げて?」

 昔のことを思い出してたら、レンからそう声を掛けられた。

「いや、出会った頃のことを思い出してたんだよ」

「あの頃か……あの頃は全く俺は何もできない奴だったからな、レイの力に頼ってて若干ねてたところもあったんだよな」

「出会った頃は本当に不愛想だったしな、全く話もしてくれないから仲良くできるか不安だったよ。まあ、本を渡したら一気に関係性は変わったけど」

 そう俺が笑いながら言うと、レンは「本を読むくらいしか好きなことがなかったからな」と昔のことを思い浮かべながらそう言った。

 それが今では薬師としても有名だし、錬金術師としても成果を上げて本格的にやってる人がわざわざ、レンに話を聞きに来るほどになっている。

「前に、貴族に薬を卸してる店の人が調合のことを聞きに来てたよな」

「うん、なんか俺のうわさ聞いて話を聞きたい、最初は店に来いって言われてたんだけど、行けないから用事があるならそっちから来ないと話はできないって使いの人を送り返したら、慌てて来たんだよ」

「……貴族に薬を卸してる人を追い返すなんて、大物になったな」

「いや、ジンのせいだからな? お前が転々と色んな所に行くから、その人と話す場所を作ることができなかったからそういう対応をしたんだよ」

 そういや、一時期必要なアイテムを取るために色んな場所を旅して回っていたけど、その時に使いの人が来てたのか……なんか悪いことしたな。

「それはすまなかったな、まさかレンの所にそんな大物から使いが来てるなんて思ってなかった」

「良いよ。そもそも、俺が向こうに行くことはなかった。だって嫌だろ、知らん相手に呼びつけられるって、その相手がそれこそ薬学について俺以上のことを知ってるなら話を聞きに行きたいけど、向こうが助けを必要としてるんなら俺が行く必要性は感じられんからな」

 うん、こういう冷めた考えは昔から変わらない。

 そしてそんなことを言うレンに対して、毎回叱るのがレイだ。

「そういう冷めた考え、止めた方がいいよって前から言ってるのに何で直さないの?」

「別に良いだろ」

 また、始まったよ恒例の兄妹げん

 こうなると、しばらくは言い合いしないと互いに鬱憤が溜まって、逆にストレスを溜めてしまうから放置が一番いい。

「まあ、とりあえずリーザの店でのメンテナンスが終わったら、また旅に出ると思うから、それまではちょっとした休暇だ。皆、ちゃんと体を休めるんだぞ」

「は~い、レイちゃん達もほどほどにね~」

 俺とクロエは言い合いをしている二人にそう言って部屋を出る。クロエは自分の泊まる部屋に向かい、俺はリーザの所に装備のメンテナンスを頼みに向かった。


 リーザの店に向かうと、リーザは店頭には居たがなんだか元気がないように見えた。

「リーザ、この間言ってたメンテナンス頼めるか?」

「んっ、わかった。そっちの箱に入れといて……」

 こんなリーザ、初めて見たな……何かあったのか?

「リーザ、なんか元気ないように見えるけどなんかあったのか?」

「ん~……実はな、おやが武者修業とか言って数年前に出ていったってのは前に話しただろ? その親父が、もうすぐ帰ってくるらしいんだよ」

「えっ!? リーザの親父さんってことは、元ガフカの工房長!?

 ガフカの工房はゲームの時も世話になった鍛冶屋だが、リーザの父親が出てくるなんてそんなことはなかったぞッ!? どうなってるんだ?

「その、何で急に帰ってくるって話が来たんだ?」

「それがどこから聞いたか知らないけど、ジンたちのお陰で作れた特大サイズの金塊を取り込んだアレの話を聞いたらしく、俺も使いたいから王都に戻るって手紙が昨日届いたんだよ」

 リーザは仕事でもして気を紛らわすよと言って、俺が渡した装備を持って奥の作業場へと消えていった。

 王都で待っていたら、リーザの父親に会える。

 そう思った俺は、皆に数日休暇を与えて良かったと心の底から思い、休暇中にリーザの父親が帰ってきますようにと願いながら店を出た。


 リーザの父親が王都に帰ってくるという話を聞いて、その日は王都の外には出ずに街の中で休暇を過ごすことにした。

 レイとクロエは女性同士で一緒に買い物に出掛けているみたいなので、俺はレンの部屋でちょっと雑談をしていた。

「へえ、ガフカの工房の前工房長が戻ってくるのか、それでジンは昨日からソワソワしてるんだな」

「ああ、だってリーザの父親ってことはリーザに鍛冶を教えた人物でもあるんだぜ? あのリーザに師匠の腕がどのくらいなのか、単純に興味があるんだよ」

「……確かにそう言われたら興味が湧く気持ちもわかるな」

 レンは、もし面白い人だったら後で教えてくれと言った。

 その後、レンは研究に行ってくると出掛けたので俺は一人になり、自分の部屋に戻り【めいそう】を始めた。


 翌日、俺はふと思い立ってリーザに店に行くと、珍しくリーザが店の中で誰かと話している声が聞こえてきた。

「んっ、ジンか。何しに来たんだい?」

「いや、昨日リーザが父親が来るって言ってたから、ガフカの元工房長に会ってみたいと思って来てみたんだが……その人ってもしかして」

 リーザの横に立つ男性、どことなくリーザと似た雰囲気を感じる男性を一度見て、リーザに視線を戻した。

「そうよ。私の父の、リブル・ガフカ。数年前に修業してくるって、少ない金とこの工房を置いて出ていった馬鹿親父よ」

「ふむ、見たことがない顔ということはリーザの客か。わしはリーザの父、リブルじゃ。よろしくな」

「よろしくおねがいします」

 リーザの父、リブル・ガフカ。

 どことなく雰囲気がリーザに似ているが、性格はリーザのように荒くはなく落ち着いた男性といった感じだ。

「一応、言っておくけどジンが特大サイズの金塊を持ってきてくれた人よ」

「ぬっ!? それは本当か?」

「ええ、まあたまたま見つけて」

「なんという幸運の持ち主なんじゃ、儂も修業をする一環で特大サイズの金塊をずっと探しておったがこの数年間で大サイズの金塊を数個見つけられたくらいじゃった」

 そうリブルが落ち込んだ風に言うと、リーザは「ふっ」とあざわらった。

「父さん知らないと思うけど、私この数年間で特大サイズの金塊を二つ手に入れたのよ」

「ッ!?

 リブルは目を見開いて声が出ないほど驚いていた。

 リーザのやつ、今の状況楽しんでるな、そんなに親子の仲が悪い風には見えないけど何かがあったのは間違いないだろうな。

 ゲームではリーザの細かな設定はそこまで描かれてなかったから、親父と何か起こっていたとしても俺はそれを知らない。

「もしかしなくも、二つともこのジン君が手に入れたのか?」

「ええ、そうよ。そんなすごい人が〝私のお客さん〟なのよ?」

「ぐぬぬ……わ、儂だって客の中には剣豪と呼ばれている男がおるし、他にも名の知れた奴らがいるもん!」

「じゃあ、その人達が父さんの欲しがってた特大サイズの金塊を手に入れた? 手に入れてないよね? でも私の客のジンは二個も手に入れたのよ」

 そうリーザは胸を張って言うと、リブルは負けを認めたのかシュンッと落ち込み「負けじゃよ……」とボソリとつぶやいた。

「リーザ、さっきから親父さん相手に何してるんだ?」

「子供の頃、私に色々と自慢話をしてきた仕返しをしてるのよ。特大サイズの金塊を使った溶鉱炉、構造は私が考えたけど作ろうとしていたのは私以外にもいるのよ。それが今ここでうなれてる私の父親よ」

「……もしかして、自分が先に作ったことを自慢して、親父さんは負けを認めたって感じか?」

「そういうことよ。何度も今まで負けてきたから、今思う存分勝利の余韻を味わってるのよ」

 ……変な親子だな、俺は二人のことを見てそう感じた。

 それからしばらく、リブルは落ち込んだ様子だったが、リーザから「溶鉱炉見る?」と言われると耳をピンッと立てて、ササッと店の奥の作業場へと行った。

 俺もついていっていいのか迷っていると、リーザから「ジン、来ないの?」と聞かれたので俺は小走りで作業場へと向かった。

「こ、これが特大サイズの金塊を使った溶鉱炉……」

 作業場に移動したリブルは、リーザの作った巨大な溶鉱炉を見て感激して近くに寄ろうとした。

 しかし、リブルの襟首をリーザが捕まえ足を止めさせた。

「な、何をするリーザ!」

「何って、あたしの溶鉱炉に勝手に触ろうとするからでしょ。鍛冶はさせない。見せるだけよ」

「なっ! こんな素晴らしい溶鉱炉を見せるだけなんて、リーザ! お前はいつからそんな悪魔のような子になったんじゃ!」

 リブルのその叫びに、リーザの雰囲気が一気に変わった。

 あんなに怒ってるリーザ、初めて見る。

 ゲームでも基本的に口は悪いけど、怒る姿なんて一つも見せたことがない。

 そんなリーザが目の前で、父親相手に完全にキレてる。

「いつからって、父さんが私に少ないお金だけ残して居なくなった時からよ。確かにガフカの工房は代々、その工房長の腕で切り盛りするのが家訓。だけど、普通素材の材料費も全部持っていく馬鹿がどこにいるの?」

「あっ、いや旅の資金が必要で……」

「だからって、剣一つ分の金も残さずに? あの時、あたしの作品も売ってたから全部父さんのお金じゃなかったよね?」

 うん、これはキレていい案件だな。

 なんかリブルさんが助けを乞う目で俺を見てきてるけど、流石さすがに金をほとんど持って出ていった相手を他人が擁護することはできない。

「あの時、ちゃんが残してくれてたお金がなかったらこの工房大変なことになってたの、父さん知らないだろ? 祖父ちゃん達、父さん見つけたら顔の形が変わるまで殴るって言ってたよ」

「ま、マジ? 親父、ジジイになってから剣士みたいに剣振るようになってずうたいよくなってるから、殴られたら痛そうじゃ……」

「言っておくけど、祖父ちゃん。父さんを説教するため、ここ数年は冒険者のごともして鍛えてるから覚悟しておくんだね」

 そうリーザが言うと、リブルはガタガタと震え始め「リーザ、どうしたらいい……」と娘に助けを求めようとした。

 しかし、そんな親父さんの言葉にリーザは耳を傾けることはなく「たぶん、もうそろそろ祖父ちゃんくるよ」と一言言った。

 そしてそれと同時に店の扉をノックする音が聞こえ、リブルはビクッと体を揺らした。

 うん、なんて都合が良いんだろうな、もしかしてリーザが仕組んでたのか?

「リーザちゃん、お祖父ちゃんが来たぞー」

「祖父ちゃん、奥にいるから入ってきていいよ」

 店の方から野太い男性の声が聞こえると、その声にリーザは作業場に来るように言った。

 そんなリーザの言葉にリブルは、もう逃げられないと悟り、心なしか魂が抜けた状態となった。

 しかし、リーザの親父に祖父か、ゲームでは見ることができなかった相手を目にすることができて、今日来て本当に正解だったな。

「んっ? そこで泣き崩れておるのは、愚息のリブルじゃな」

「お、親父……」

「ふんっ、娘に金すら残さず、自分が探していた物があると知ったら帰ってきおって、なんて恥知らずなんじゃ!」

 作業場へと入ってきたのは、リブルよりもさらにガタイの良い男性だった。

 あれが元鍛冶師なのか? 見た感じ、屈強な男性で背中に大剣も背負ってるから普通に冒険者と言われても信じるぞ?

「ガフカの名に恥じない行動、それが我らガフカの子孫のおきてなのはわかっているはずじゃろ? それをなぜ、守らなかった?」

「そ、その金塊を探すために旅に……」

「だからといって、店の金をほとんど持っていく馬鹿がどこにおる?」

 その後、リーザの祖父はリーザの親父さんをボコボコに殴り続け、リブルは気を失って床に倒れた。

 その後、リーザの父親は地面に寝かせたまま俺はリーザの祖父と挨拶を交わした。

「すまんな、見苦しいところを客に見せてしまって。儂はリーザの祖父のルバドじゃ」

「初めまして、冒険者のジンです」

「ジン……ああ、お主かリーザに特大サイズの金塊を売ったという冒険者は!」

 ルバドは驚いた顔をしてそう言うと、リーザに「その本人なのか?」と聞いた。

 その質問にリーザはうなずくと、ルバドは「そうかそうかお主じゃったのか!」と俺の肩をバンバンとたたうれしそうな顔をした。

 見た目から力が強いと思ってたけど、ちゃちゃ肩いてぇ! たぶん、そんな力を込めてないと思うけど、手の大きさがほぼ俺の頭と一緒で厚みもすごくある。

 あんな手で叩かれたら、そりゃ痛いに決まってる。

「祖父ちゃん、ジンが痛そうにしてるからその辺にしなよ」

「んっ? おお、すまんかった! つい嬉しくなっての! 儂もリーザが金塊を探してるって聞いて、色んな所を探しておったんじゃよ」

「そ、そうだったんですね。そのリーザのおじいさんは、リーザとすごく仲が良いんですね。親父さんとは違って」

「リーザのおじいさんって長いじゃろ、儂もルバドと気軽に呼んでくれ。それで儂がリーザと仲がいいのは当然じゃ。あんな馬鹿な息子から生まれたとは思えんほど、鍛冶師として優秀な子じゃからな、リーザが初めて作品を作ったのは五歳の時なんじゃよ。凄いじゃろ?」

「五歳で作品を作ったんですか!?

「そんな凄くはないよ。作ったって言っても、力も技術もないからただ子供ながらに適当に作ったんだよ。祖父ちゃんもその話は恥ずかしいから、もうしないでって言ってるでしょ」

「そう怒らんでも良いじゃろ……今でも大事に持ってるんじゃから」

 そうルバドは言うと、バッグから短剣を取り出した。

 それを見たリーザは「なぁ!」と叫び、その短剣を取り上げようとした。

 しかし、ルバドはサッとかわしてリーザから短剣を取られないように隠した。

「祖父ちゃん、何でまだそれ持ってるんだ!」

「そりゃあ、可愛かわいい孫の初めての作品じゃからな。それも儂へのプレゼントじゃから、大切にいつも肌身離さず持っておるんじゃよ。どうじゃ、ジン。リーザは五歳でこれだけ良い短剣を作ったんじゃよ」

 そう言って、ルバドは俺に短剣を見せてくれた。

 ちょっと刃の部分がガタガタしていたりと、ちょっと不細工な感じではあるがこれを五歳で作ったと言われれば、確かに才能を感じる。

 いや、というか五歳で鍛冶を始めたってリーザの才能、マジで凄いな……。

「ったく、祖父ちゃん。なんでまだそんな粗末な物を持ってるんだよ……何個か祖父ちゃんにはプレゼントしてるだろ、そっちを持っておけよ」

「んっ? ちゃんとリーザに作ってもらった物は、全部持ち歩いておるぞ?」

 ルバドはそう言うと、もう一つのバッグからいくつもの武器を取り出した。

 あれって、もしかして〝アイテムバッグ〟か? この世界だと、収納スキルを持たない者が大金を払って買う収納用の魔道具。

 それを普通に持ってるって、流石ガフカの工房長だっただけあるな。

 その後、ルバドと俺とリーザは、工房の裏にある住居の方へと移動した。

 気絶していたリブルはそのまま作業場に放置していると、起きた時に勝手に溶鉱炉を使いそうだからと、ルバドが担いで移動させてきた。

「凄い力持ちなんですね。鍛冶師っていうより、普通の戦士に見えますよ」

「引退した後に、体を鍛え始めたからの、そんじょそこらの剣士には負けない自信はあるぞ?」

 フンッと鼻息を出しながら、ルバドは自身の筋肉を見せてきた。

 さっき年齢を聞いたが、ルバドはまだ五十八歳と、予想していた年齢よりもだいぶ若かった。

 鍛冶師を引退するくらいだから、かなり年齢がいってるのかと思ってけど、まだ五十代だったとは。

「あれ、でも五十代ならまだ現役でも続けられたんじゃないですか?」

「ガフカの工房の家訓の一つに、次の代のおさが自分より才能があると感じたら引退すると決めてるんじゃよ。まあ、引退後も鍛冶をしなくなるわけではないが〝ガフカの工房長〟という肩書きは譲る決まりなんじゃよ」

「なるほど、そういう家訓があるんですね。珍しい家訓ですね」

 そう俺は言った後、ふとそれならルバドさんはリブルさんに才能で負けたと感じて引退したのか、さっきのやり取りを見て気になってしまった。

「ジン、お主が考えてることはわかるぞ、あの愚息に才能で負けて引退したのか、気になっておるじゃろ?」

「あっ、はい。顔に出てましたか?」

「うむ、出ておったよ。まあそうじゃな、あの愚息もあんな馬鹿な行動をしたが、鍛冶師としての腕はあるんじゃよ。リーザほど天性の能力はないが、そこらの鍛冶師よりかは上じゃ。ほれ、これがあ奴が現役でやっていた当時の作品じゃ」

 ルバドの出したリブルの作品、それは普通の片手剣だがその造りは美しくれいだった。

「性格はあんなダメ男なんじゃが、腕は確かにあったんじゃよ……どうして、あんな性格ができ上がったのかサッパリわからんが……」

「父さんだけだもんな、あんな馬鹿な性格は頭でも打ったんじゃないかって家族で話し合ったこともあったしな」

「うむ」

 リーザの言葉にルバドは力強く頷き、「子供の頃は普通じゃったのにな……」と本気で考え込んでいた。

 父親と娘からこうまで言われるリブルに、俺は少しだけ同情した。



 ガフカ家のゴタゴタを見た翌日、俺はリーザの祖父であるルバドと共にギルドの訓練場へとやってきていた。

「ジン、お主のその隠し切れてない力、儂に見せてくれんかの?」

「……良いですよ。ルバドさんは、リーザのお祖父ちゃんですからね。リーザには世話になってるので、そのくらいのお願いなら聞けますよ」

 ここに来る前、俺はルバドから「頼みたいことがある」と言われて連れてこられた。

 リーザみたいに何か素材を取ってきてほしいのかと思ったが、力比べだったのか。このくらいなら断る必要もない。

 それにルバドは爺さんだが、冒険者になって鍛え始めたと言っていた。鍛冶で鍛え上げられた肉体を駆使した現在銀級冒険者の一人だ。

「ハハハ、受けてくれて嬉しいぞ! リーザから、ジンは目立ちたくない性格してるから断られるかもって言われておったから、心配じゃったんじゃよ」

「事前にギルドに訓練場から人を退かしてくれたのは、リーザから話を聞いていたからですか。まあ、そうですね、他の人なら俺も断わってたかもしれませんが、リーザの祖父ちゃんだから受けたんですよ」

「それはそれは、リーザに帰ったらお礼を言わないとじゃな」

 ルバドは豪快に笑いながらそう言った。

 ルバドの見た目は身長約二mもあり、服の上からも筋肉が浮き出るほどに鍛えられた体をしている。

 武器はその体格にあった大きな大剣で、準備運動でその大剣を片手で振れるほど、すさまじい力を持っている。

 あの筋力、ほぼ【怪力】使用時のレイと一緒だな。ステータスは聞いてないがたぶん俺と一緒でランクよりも高い能力を持っているだろう。

「って、ルバドさん? なんで武器を持ってないんですか?」

「んっ? 武器なら付けておるぞ、ほれ」

 ルバドはそう言うと、両手の拳を前に突き出した。

 いやまあ、確かに拳にはグローブが着いてるけど、えっ? それが武器なの?

「さっき使ってた剣は、どうしたんですか?」

「ああ、儂の闘い方はこれじゃよ? 剣は飾りじゃよ! 武器を使うより、自分の体を使う方が簡単じゃ!」

「元鍛冶師なのに武器使わないって、どういうことなんですか……」

「うむ、儂も色んな武器は試したんじゃよ? じゃが、どれもシックリと来なかったんじゃ、それで行きついたのが自分の体を使う戦い方じゃったんじゃよ。それと武器は、拳だけじゃないぞ? 武器は儂の体全部じゃ!」

 ルバドはそう言いながら、フンッフンッと鼻息を出してに自分の筋肉が凄いのかを見せてきた。

 うん、リーザと全く性格が違うタイプだな、でも嫌いじゃない性格の人だ。

「わかりました。でも俺は普通に武器を使いますからね」

「うむ、よいぞ! それじゃあ、早速やろうか!」

 それから俺とルバドはそれぞれ位置について、審判役のフィーネさんに合図をお願いした。

 合図が出された瞬間、ルバドは地面が割れるほど、足に力を入れて突っ込んできた。

「ッ!」

 とっに剣で受け止めたが、とんでもない速さと重さだ! 武器を持ってないからと、少し油断していたがかなり真剣にやらないと、しそうだ。

「おお! 儂の初撃を簡単に受け止めるとは、ジン! なかなか、鍛えているんだな!」

「ええ、これでも前衛の銀級冒険者ですからね!」

 ルバドをはじかえして今度は俺が突っ込んだ。

 ルバドの素の能力もヤバいが、さっきみたいな突進からの攻撃はかなりヤバい。

 アレを封じるには接近戦に持ち込むしかない!

「儂の動きを見て、瞬時に接近戦に持ち込むとはなかなか、戦い慣れてるんじゃな!」

 ルバドは俺の作戦にとしながら対応して、俺の攻撃を拳で全て受け止めた。

 ちっ、たぶん筋力はほぼ同レベルだな……元鍛冶師なのに、どうなってんだよ……。

 というか、さっきから少しずつ力で押され始めてるんだが、気のせいか?

「ジン、そろそろ温まってきたからさらに強くいくぞ!」

「今まで本気じゃなかったんですか!?

「儂は年寄りじゃからな、動き始めはどうしても全力が出せんのじゃよ!」

 ルバドはそう言うと、先ほどまでまだ余裕を感じながらも受け止められた攻撃が、徐々に強くなってきて、このまま接近戦は続けられなくなり一度後ろに下がった。

 年寄りが、そんな動けるのおかしいだろ!

 そう俺は心の中で思いながら、すでに足に力を入れているルバドの次の攻撃に意識を向けた。

「行くぞ、ジン!」

 ルバドは叫び、足に力を込めて突進してきた。

 その迫力はもうほぼ猛獣のそれ。受け止め切れない。

 そう判断した俺は、剣を手放し構えた。

「な、何してるんですかジンさん!? 危ないですよ!」

 その奇行に審判役のフィーネさんは叫び、ルバドもすでにほぼけられない所まで接近していて「避けるんじゃ、ジン!」と叫んだ。

 ふっ、剣だけをこの約三年間鍛えてきたわけじゃない。

 突進してきたルバドの拳をサッと避け、ルバドの利き腕である右腕へとしがみついて、そのまま遠心力を使い地面へと叩きつけた。

「へ?」

「え?」

 地面へと叩きつけられたルバドは、何が起きたのか理解できず審判役のフィーネさんも一瞬の出来事に驚いた顔をしていた。

 試合後、ルバドは自分があんな形で負けるとは想定してなかったらしく、逆に想定外の倒され方をして嬉しそうにしている。

 まあ、正直俺もルバドとの戦いで【体術】を使うとは思っていなかった。

「ジンは【体術】も使えたんじゃな、凄く綺麗な流れで驚いたぞ!」

「ちょっとだけですけどね。昔、鍛えていたことがあるんですよ」

 俺が姫様の護衛をしてる時、剣術はユリウスから、魔法はレーヴィンやリオンから習っていた。

 そしてそんな訓練の中、息抜きとしてアンドルに【体術】をちょっと教えてもらっていた。

 ガッツリと教わらなかったのは、誰かさんと違ってアンドルは俺が他のことで忙しいと理解してくれる大人だったからだろう。

「さっきの最後の技、あれは儂の力を利用した技じゃよな?」

「一発でそれがわかるルバドさんは凄いですね。はい、そうですよ。ルバドさんの突進攻撃はかなりの威力でしたから、その力を利用して地面に叩きつけたんです」

「ほほう。それは興味深い戦い方じゃな……儂の知ってる【体術】使いは、そんな相手の力を利用した戦いなどしない者達じゃ、ジンはどうやってその戦い方を学んだのじゃ?」

「そこは秘密ですね。まあ、でも【体術】に関しては流れに任せて使うことが多いので、ルバドさんにやった技くらいしか真面まともに使えるのはありませんよ」

 俺は【体術】の訓練をそこまでしてないから使える技は少ない、だがそれは自分で望んでその形へとした。

 正直、魔法がある世界で【体術】を極めたところで俺は意味がそこまでないと感じていた。

 だから俺はあえて【体術】で習得した技のほとんどは、防御系の技でもしも武器がなくなった時に自身を守れればと少しだけ学んだ。

 だけどまあ、その考えは今日の戦いで消えることになった。

 今回の模擬戦闘、事前に魔法は使わないと宣言していた俺だが、たぶん魔法を使えるようにしておいてもなかなか使うタイミングが難しかったと思う。

 ルバドは筋力も凄いが、足も速く一瞬目を離すことすら負けにつながると感じていた。

 あれは普通の魔法使いが相手だったら、攻撃すらできずに倒されていただろうな。

「俺としてはルバドさんの突進攻撃は、なかなか怖い攻撃でしたよ。溜めが必要な分、少し無防備になりますけどそれでもあの技の威力は半端ないですね」

「そうだろう? 儂のお気に入りの技の一つなんじゃよ。今回は、屋内での模擬戦闘じゃったから使わなかった技もあるんじゃが、突進は儂が使える技の中で一番好きでよく使ってる技なんじゃ」

 ルバドは自身の技を褒められると、ニコニコと笑顔を浮かべてそう言った。

 それから、借りてる訓練場の終了時間がきそうだったので、俺とルバドは一緒に外に出てそのままリーザの店に向かった。



「えっ、祖父ちゃんとジン、戦ったの!?

 リーザの店にやってきた俺達は、一緒に来た理由を聞かれてさっきまで模擬戦闘をしていたと伝えた。

 すると、リーザは顔を驚かせてそう叫んだ。

「ど、どっちが勝ったの?」

「ジンじゃよ。完敗じゃった。儂はジンに傷をつけることさえできんかった」

うそ!?

 リーザは自分の祖父が負けたと知ると、さらに驚いた顔をして俺の顔を見てきた。

「ジンが強いのは知ってたけど、祖父ちゃんに無傷で勝利するなんて本当に強いんだね」

「まあ、運が良かったんですよ。俺の使える数少ない【体術】の一つが綺麗に決まったお陰で試合に勝てたんです」

 俺はどんな試合をしたのか話をした。

 その話を聞いたリーザは、ルバドを見て「ジンと戦ってどうだった?」と聞いた。

「うむ、凄い力を感じたのう。流石、一部で勇者よりも勇者に近い者と言われてるだけあるの」

「……えっ? 何ですか、それ!?

 リーザとルバドの会話を聞いていた俺は、何とも聞き逃したら大変なことになりそうなワードを聞いた。

 勇者よりも勇者に近い者? なんじゃ、そりゃ!?

「ジンのことを知ってる者は今の勇者の姿を見て、ジンの方が勇者に相応ふさわしいじゃないかってうわさをしてるんじゃよ。その話を聞いてた儂は、そこまで言われる者の力を知りたいと思って今日、戦いを申し込んだんじゃ」

「なんですかその噂、俺かなり情報収集はしてますけどそんなの聞いたことありませんよ?」

「うむ、それはジンが今まで力を隠していたからじゃろうな。儂は貴族に知り合いがおるからその者がジンの方が勇者に向いてそうじゃなって話していたんじゃよ。知り合いが言うには、ジンの力を知る者達は皆一度はそう思ったらしいんじゃ」

「……一体、誰なんですかその知り合いって」

 そう俺がため息交じりに言うと、店の扉が開き「儂じゃよ」と聞き覚えのある声がした。

 サッと後ろを振り向き、店に入ってきた人物の顔を見て俺はため息をついた。

「レーヴィン様……」

「久しぶりじゃのジン」

 ニコニコと笑みを浮かべながら、レーヴィンは店の中へと入ってきた。

 なるほどな、前魔法師団団長のレーヴィンなら、逆算して当時のガフカの工房の長がルバドになるからその時の繋がりか。

「それとルバドも久しぶりじゃ」

「うむ、久しぶりじゃなレーヴィン。ジンと戦ってみたぞ、すごく強かったわ」

「おお、早速もうやったのか! どんな試合をしたのか聞かせてくれ」

 レーヴィンはルバドの言葉に、興味津々といった様子で反応した。

 そんなレーヴィンに対して、ルバドは今日の試合を一から話し始めた。

「リーザ、レーヴィン様ってここの店使ってたの?」

「あたしになってから一度も来たことがないよ。レーヴィン様は祖父ちゃんのお得意様の一人だから、引退後も祖父ちゃんに鍛冶を頼んでるはずだよ」

「引退後も鍛冶してるのか?」

「たまにだけどね。本当に世話になった相手だけ、そのまま鍛冶を引き受けてるんだよ」

 リーザとそう話しながら俺は、目の前で楽しそうにしゃべる爺さん二人へと視線を移動させた。

 その後、爺さん同士の会話が終わったのを見計らい、俺はルバドの言っていた噂についてレーヴィンに聞いた。

「うむ、まあそういう話もあるというだけじゃ、流石に皆はジンのことをよく知ってるから、その噂が広まらないように口にはしないようにしておるんじゃよ」

「……じゃあ、何で俺のことを知らないはずのルバドさんがその噂を知ってるんですかレーヴィン様?」

「……ルバドにだけじゃ、酒の席でポロッと」

 俺はボソリと「奥さんに連絡しておきますね」と言った。

 すると、レーヴィンは俺の足にしがみついて「や、止めてくれ!」と必死な顔をして止めてきた。

 うん、無理だね。

「というか、俺と勇者って比べたとして勇者の方が強いと思いますけどね」

「……ジンは、勇者の力を見たことはないじゃろ? 確かに普通の兵士クラスよりかはすでに強いが、まあその程度なんじゃよ」

 俺の足にしがみついたまま真剣な顔をしてそう言ったレーヴィンに、俺は現在の勇者の力を詳しく聞いた。

 ゲームどおり、勇者は剣術・魔法どちらも才能があり、日を分けて両方の訓練をしているらしい。

 だがその訓練をつけてる人達は、剣術はユリウス、体術はアンドル、魔法はリオンとレーヴィンと、俺と共に訓練をしていた人達がやっているようだ。

 そのせいか、どうしても俺と比べてしまっていると言った。

「勇者とジンは同い年じゃ、それも勇者の方はジンよりも幼い頃から魔物を狩っていて基礎がちゃんとできておるのに、ジンよりも成長が遅くてのう。皆も比べたらいけないとわかっておるんじゃが……」

「……まあ、多少俺の責任もあると思いますけど、そこはちゃんとしておかないと勇者が傷つきますよ。せっかくの魔王に対抗できる唯一の人材なんですから」

 どんなに力が強い者だとしても、魔王を討伐できるのは勇者である主人公だけだ。

 いくら俺と比べ、俺の方が強いかもと思っていようと、勇者しか魔王への対抗策はない。

 まあ、〝アレ〟が俺を認めたら俺も魔王に対抗できると思うが、そんなことは起こるはずがないしな。

「とりあえず、レーヴィン様達は俺のことは忘れて真剣に勇者と向き合った方がいいですよ。魔王との決戦まで時間もないんですから」

「……わかっておる。じゃから、儂らも気を付けておる。今のところ、他の者には儂らの思いはバレておらんしの」

「まあ、それならいいですけど……そういえば、戦女の方達は全員見つかったんですか?」

「うむ、そちらも大丈夫じゃ。七人とも見つかっておる。中には強者も選ばれておるから、その者達がいるお陰で今は魔王軍に対応できておる」

 前回、王都に来た時はまだ最後の一人が見つかってなかったが、無事に全員見つかったようだ。

 勇者誕生から少しして、俺は姫様に戦女についての情報を渡していた。

 この当時、どこに戦女がいるのか全てわかっている俺は、場所をそのまま伝えるのではなくヒントとして姫様に教えた。

 どうして、そのことを知ってるのか聞かれた時は、いつもどおりのらりくらりと質問を回避した。

「それなら良かったです。心配事の一つが消えました」

 黙って聞いていたルバドが一言、「いつまで、レーヴィンはしがみついてるんだ?」と言った。

 ルバドの言葉どおり、この会話中レーヴィンはずっと俺の足にしがみついていた。

 本人も忘れていたようで、スッと立ち上がるとわざとらしくせきばらいをした。

「しかし、聞いていた話よりジンは強いみたいだな、儂との模擬戦闘でもまだまだ力を温存していたようじゃし」

「まあ、これでも強くなるために色んな所を旅して回ってますからね」

「祖父ちゃん、ジン達は本当に凄いよ。この間なんて、あの〝絶海のダンジョン〟をクリアしてきたくらいだしね」

「なんじゃと!?

 リーザから〝絶海のダンジョン〟をクリアしたと聞いたルバドは、驚いた顔をしてそう叫んだ。

 それからルバドは真剣な顔をして、俺の方を見てきた。

「ジン、お主の力、この老い先短い儂に貸してはくれんか?」

 その真剣な様子に俺は、普通の頼み事じゃないなと察して「内容によります」と言ってその内容を聞くことにした。

 ルバドの頼み事、それは王都から馬車で三時間ほどで着く場所にあるダンジョン、〝谷底のダンジョン〟へ、一緒に攻略に行ってほしいと言われた。

「谷底のダンジョンですか?」

〝谷底のダンジョン〟は名前のとおり、谷の底にあるダンジョンで生息してる魔物はジメジメとした所が好きなスライム種が特に多い。

 特に難しいという場所でもないのに、何でルバドはそこに俺に一緒に来てほしいと思ったんだ?

「ジン、あそこは確かに出てくる魔物は強くないから、銀級冒険者の儂なら一人でも攻略はできるじゃろう。儂にはあの場所で手に入れたい物があるんじゃ。じゃが、それを手に入れるには人手が必要での」

 ふむ、リーザの祖父ちゃんの頼みだし、特に行きたくない理由もないな。

 それに、あそこなら護衛も俺一人で大丈夫だろう。

 一応、皆には声を掛けて、行けるなら一緒に行ってもらえばいいだろう。

 そう考えた俺は、ルバドの頼みに「良いですよ」と答え、準備期間として一日もらい明後日出発することを決めた。