
フィアリス姫の護衛を始めてから、二ヶ月が
二ヶ月ということは、護衛任務の契約期限が切れてしまう。
冒険者ギルドの規則に、銅級冒険者は〝長期任務の上限期間は最大二ヶ月〟というのがある。
そのため、本来であれば姫様は俺
一度に長期間は拘束できないが、冒険者の合意を得たうえで必要な書類をギルドに提出すれば契約の更新が可能となる。
「姫様、一つ聞いてもいいですか?」
「あら、何かしら?」
「もうすぐ俺達が護衛の仕事を始めて二ヶ月経ちますけど、新しい護衛の候補、もしくは書類の作成はできてますか?」
「……えっ、もうそんなに経つかしら?」
「えっ、まだ一ヶ月くらいと思ってた……」
姫様は少し驚いた様子で聞き返し、クロエも期日を正確に覚えていなかった。
姫様は待機していたメイドに「ジンさん達との契約、あと何日残っているかしら?」と聞くと、一週間もないと返答された。
「……お二人との日常が楽しくて、すっかり忘れていたわ」
「なにしてるんですか……」
俺は呆れながらため息をついた。
「クロエは何で忘れていたんだ?」
「その~、訓練が楽しくて日付を確認してなかったです! ごめんなさい!」
クロエのその言葉に俺はさらに呆れ、二人を交互に見て「覚えてたの俺だけか」と
「姫様、確か学園はもうすぐ長期の休みでしたよね?」
「ええ、あと一ヶ月で長い休みに入るわ」
「でしたら契約を更新して、護衛任務の期間をその長期休みに入るまで延ばしますか?」
そう聞くと、姫様は驚いた様子で「良いの?」と聞き返してきた。
正直、俺は今の生活を少し満喫していた。
早くこの王都から逃げることも大事だが、それにはある程度の力が必要になってくる。
なので、俺は少し前に作ってもらった刀の性能を十分に発揮できるように、改めてリーザから戦い方を教えてもらっていた。
刀の
「王都を離れるにもまだ訓練が必要だなと感じていたので、護衛の仕事を続けたいと思ったんです。クロエはその様子だと、仕事を続けてもよさそうに見えるけど、どうだ?」
「私も賛成だよ」
そんな感じで、俺達は期間延長について乗り気だということを伝えると、姫様は契約の更新を希望して必要な書類を作成し始めた。
「楽しい日々を送ると、こういうことが起こるのね……新たな発見だわ」
「発見というか、単に忘れていただけですよね」
「……仕方ないじゃない。ジンさんとクロエさんが来て、私の日常が変化したのはジンさん達も知ってるでしょう? 今までたくさん、面白そうな子を見てきたけどジンさん達は別格だったのよ」
ツンッと
この二ヶ月近くで、一番変化したのは姫様と俺達との関係だろう。
当初は、王女という立場を
だが、ある時「この部屋にいる時は気を楽にして」と姫様に言われてからは、徐々に友達と話すような雰囲気で接するようになっていった。
ただ、依頼主の要望だから許されているとはいえ、
「そう言ってくれるのは
「だって今までも何人か見てきたけど、こんな短期間で私を何度も驚かせたのはジンさん達だけよ? あのユリウスだって、こんなことはできなかったわ」
「まあ、普通の冒険者はたった数ヶ月で特大サイズの金塊やら、ミスリルの発見はしませんもんね」
「ええ、それにガフカの工房に武器を作ってもらうなんて本当に
立て続けに驚くことばかりだったから感覚がマヒしたのよ、と姫様は言い訳した。
その後、書類を受け取った姫様のメイドが代理で冒険者ギルドに提出することになり、俺達もギルドで済ませたい用事があったため、姫様が用意した馬車に乗せてもらえることになった。
ギルドに到着し、俺達は契約の更新を結んだ。
「もう一つお願いがあるのですが、討伐した魔物の素材を買い取ってもらえますか?」
「はい、大丈夫ですよ」
俺は【異空間ボックス】に入っている魔物の素材を売った。
数が多いからとかではないが、ほとんどの素材が傷んでいないため、予想よりも高く売れた。
「いいお小遣いになったな。どうするクロエ。このまま真っすぐ帰っても良いけど、商業区で買い物して帰るか?」
「う~ん、今は特に欲しい物はないし、帰って訓練したいかな? ほら、必要な時にお金がないってなったら困るし」
「まあそうだけど、俺達の貯金、凄いことになってるからな……」
俺達は金塊を売ったお金だけでも数年は暮らせるほど所持している。
さらに魔物の素材を売却した分や、護衛任務の報酬なども加わって凄い金額になっている。
俺もそこまで欲しい物は今のところないので、城に戻って訓練をすることにした。
訓練場でリーザから教えてもらった攻撃方法を試していると、ユリウスが姿を現した。
あの事件からユリウスの体調は徐々に良くなってきていて、今では普通に剣を振るうくらいは問題ないところまで回復している。
「ユリウスさんも今から訓練ですか?」
「うん、そうですよ。ねえジンさん、少しだけ手合わせしませんか?」
「良いですよ。俺も相手してくれる人が欲しかったところなので」
俺は【異空間ボックス】から木刀を取り出し、ユリウスと模擬戦闘を始めた。
流石に今のユリウスには以前のような勢いはないが、剣の技術は衰えておらず、案外いい勝負となった。
「〝剣聖〟って呼ばれてるだけあって、寝込んでいたのにその強さですか……」
「これでもだいぶ、力は落ちてますけどね。なかなか、思うように自分の体が動かなくて
ユリウスは辛そうな表情をしながらそう言った。
その後、俺達は互いに満足いくまで戦い続け、一時間ほど経った頃に模擬戦闘を終わりにした。
俺は自主練を続けるためにそのまま訓練場に残り、ユリウスは今日の訓練を終わりにして城の方へと戻っていった。
ユリウスが居なくなった後、訓練の様子を見ていた騎士団長のアンドルが俺に近寄ってきた。
「なあ、ジン。ユリウスの調子、どんな感じだ? あいつ、俺とは戦ってくれないから、よくわかんないんだよ」
「まあ、以前ほどの強さは取り戻してませんが、だいぶ良くなってきてますよ」
「そうか、それなら良かったよ。あいつ、俺達に迷惑掛けたからって、いまだに距離置いてんだよな……」
「俺とかクロエとは普通に話してくれるんですけどね。何でアンドルさん達と距離を置いてるのかわからないですね」
「俺もだ……迷惑掛けた相手から距離を取るんなら、ジン達とも取るはずなのに、普通に接してるからな……特に俺とは距離を置いてて、本当になんでかわからん」
アンドルはユリウスの行動に頭を抱えているが、俺はなぜユリウスが距離を取ってるのか大体わかっている。
その理由は単純に、ユリウスがアンドルに自分の弱いところを見せたくないためだ。
これは設定資料を読んで知ったことなのだが、ユリウスはアンドルにライバル意識みたいなものを持っている。
「まあ、そのうちユリウスさんも落ち着いて以前と同じようになると思いますから、焦らず待っていましょうよ」
「……そうだな、焦っても良いことはないしな。あいつが元に戻るのを待つしかないか」
アンドルはシュンッと悲し気に、ユリウスが去った方向を見ながらそう言った。
それから俺は一人きりとなり、夕食の時間まで集中して訓練を続けた。
訓練後、俺はシャワーを浴びて汗を流し、食堂に向かった。
すると、先に来ていたクロエから声を掛けられる。
「ジン君、お疲れ様。今日もすごく集中して訓練してたね。でもあまり無理しちゃだめだよ?」
「ああ、わかってるよ。ただ装備を刀に替えてから、なんだか今までより体がうまく動かせるようになってさ、楽しくてつい長くやってしまうんだよ」
「凄いよねジン君、私も刀持たせてもらったけど、うまく使いこなせなかったよ」
「相性だろうな、俺は元々刀に合う剣術を自力で身に付けていたみたいだからな、それがうまくはまった感じだ」
そう言いながら俺は食事を取ってきて、クロエと同じテーブル席に座った。
「クロエの方はどんな感じだ? 魔法を集中的に訓練してるけど」
「うん、良い感じだよ。前までは動きながらの発動だと精度が少し落ちてたけど、慣れてきて魔法の精度と威力も落とさず攻撃できるようになったかな」
「お~、それは良いな。ってか少し前から、ほぼサポート側に回ってもらってるけど良かったのか? クロエは前に出る戦い方が好きだったと思うけど」
俺がどちらかというと剣術中心で訓練していたせいか、クロエは魔法を中心に訓練をしていた。
もしそれが俺のせいなら、申し訳ないと思いそう聞いてみる。
「好きか嫌いかで言うと好きだけど、最近は魔法も好きなんだよね。それにジン君なら安心して前を任せられるから、サポートに徹せるなって思ったんだ。だから私は私で、ジン君に後ろを任せてもらえるように頑張ろうって最近は思ってるんだ」
「今でも十分、クロエには後ろを任せられるよ。俺以上に探知能力は高いし、それに魔法も使えるからな、いざって時はクロエは剣術も得意だし、後ろに居てくれるだけで本当に安心するよ」
そう口にすると、クロエは「そ、そんなに褒めないでよ……」と顔を赤く染めて照れた。
まあ、言ってる俺も少し恥ずかしいけど、実際に思ってることだし、こういうのはちゃんと口にしておかないとな。
仲間同士で意見をちゃんと言えず、仲が悪くなり解散したっていう話はたくさんある。
今更、クロエと仲間じゃなくなるのはかなりの痛手だからな。
その後、クロエは自分の食事を急いで食べ終えると「また明日ね」と言って、小走りで去っていった。
その様子を周りで見ていた兵士達はニヤニヤと笑みを浮かる。
少し居心地が悪く、俺も急いで食事を済ませて食堂を出ることにした。

「ねえ、ジュン君。少し前から思ってたのだけれど、筋肉がついた?」
翌日、護衛任務で学園にいる俺は、姫様と話していたミリアーナからそう話題を振られてペタペタと体を触られていた。
この二ヶ月間、身体能力を上げるために兵士に交じって訓練なんかもしていたせいか、確かに以前よりも筋肉がついてきている。
「まあ、姫様の護衛ですからね。毎日鍛えていますよ」
「へぇ~、でもこの体、戦士科の生徒よりも鍛えているんじゃないの? そこのところ、どうなのフィーちゃん?」
ミリアーナは、また宿題をするのを忘れて急いで書き写している姫様へと声を掛けた。
「強いわよ。だって、私が選んだ護衛なのよ? 学園の生徒より強くないと、意味がないでしょ?」
「お~、フィーちゃんが言い切るなんて、珍しいね? それだけジュン君って強いの?」
ミリアーナは目をパチパチとさせて驚くと、興味津々といった様子で俺のことを見てきた。
姫様は「はい、ミリア。ありがとね」と言って借りていたノートを返す。
「それとこの子達の力は、私が危険な状況にならないと見せられないからね。興味があっても、たぶん見ることはないわよ」
「え~、フィーちゃんがここまで言い切る強さなら見てみたかったな~」
ミリアーナは残念といった様子でそう言うと、ちょうど先生が来たので席へと戻った。
よほど気になったのか、その後も何度かミリアーナは俺の強さに興味を示して姫様を質問攻めにしたため、なぜ今更になってと姫様が理由を聞いた。
「ほら、もうすぐ長期休みに入るでしょ?」
「ええ、そうだけど、それがジュン達の力を見たい理由にどう
「ほらっ、前の護衛の子も休みに入った時に代わったから、ジュン君達もそうなのかなって。そしたら、フィーちゃんがあんなに強いって言ってた子達がどんな力を持ってたのか、ずっと気になったまますっきりしないよねってティアナと話してて……」
姫様は俺達のことを見てから「まあ、交代することはもう決まってるわね」とミリアーナに言った。
「や、やっぱりそうなんだ……」
「ええ、この子達も貴族の子だから、そんなに長期間預かることはできないのよ。家のこととかもあるし、今も無理を言って私の護衛に付いてもらってるのよ」
「そうなんだ~、残念」
ミリアーナは諦めたようにそう言って、自分の席へと戻った。
その後のミリアーナはどこか落ち込んだ様子で、姫様はずっとそれを気にしていた。
学園の授業が終わり、城に戻る馬車の中で、俺とクロエは話し合って決めたことを姫様に伝えようとしていた。
「姫様、ミリアーナさんとティアナさんになら、少しだけこの力を見せても良いですよ。二人のことはこの二ヶ月見てきて、言いふらさないと約束したら守ってくれる方達だと思うので」
「良いの?」
この二ヶ月、姫様の護衛である俺とクロエに二人は本当に優しく接してくれた。
それを見てきたからこそ、今回のミリアーナのお願いを聞こうと決めたのだった。
「まあ、学園内で見せると大勢の人にバラすことになるので、見せるなら二人を城に呼んでもらう形になりますが……」
「そのくらい、大丈夫だと思うわ。ありがとうジンさん、クロエさん」
その後、城に戻った姫様は二人を城に呼ぶ準備をするからと言って、嬉しそうに馬車を降りた。
「……良かったのジン君? 私は別にそこまで自分のことを隠そうとしていないから良いよって言ったけど、ジン君は隠したがってたよね?」
「正直な話、見せないなら見せないまま護衛の任務を終える予定だったんだが……あそこまで言われて、二ヶ月間よくしてもらったうえに何も返せないまま消えるのはどうかなって思ってな。それに変装はしてるから〝冒険者のジンとクロエ〟の強さがバレるわけじゃない」
二人に見せるのは、あくまで姫様が設定した地方貴族の
冒険者のジンとクロエとは、また別の存在だ。
「ジン君がそれでいいなら良いけどね」
それから数日後、学園が休みの日の朝早くに、ミリアーナとティアナが城にやってきた。
「フィーちゃん、今日は招待してくれて、ありがと~」
「姫様、本日は招待していただきありがとうございます」
二人は、姫様が待っていた部屋に入ってそう言った。
「フィーちゃんからお泊まりのお誘いなんて本当に久しぶりで驚いたよ~。もうしないのかなって、ティアナちゃんと話してたんだよ?」
「学園に入ってから皆忙しくしてたから、誘い辛かったのよ。それに二人とは学園でもずっと一緒にいるし良いかなって。でもジュン達から外で会うのと家で遊ぶのはまた違うって言われて誘うことにしたのよ」
ミリアーナは俺達の方を見て「ジュン君達が言ってくれたんだ! ありがとう」とお礼を言った。
現在の俺とクロエは、学園で姫様の護衛をしているジュンとクロに変装している。
城の兵士や従者達にもそのことは伝わっていて、今日一日は俺達のことを〝姫様の護衛をしているジュンとクロ〟として扱うようにしてもらっている。
「姫様、部屋の様子は昔から変わりませんね。殺風景というか、生活するためだけの物しかありませんね」
「別に良いでしょ、それにティアナの部屋なんてまだぬいぐるみがたくさんあるんでしょ? 知ってるんだからね」
「そ、それは! へ、減りましたから昔に比べて!」
「でもベッドの上にはたくさんあるって聞いたわよ? それにいまだに、くまさんのぬいぐるみがないと寝られないって知ってるんだから。そこの大きなバッグのほとんどはその子でしょ?」
姫様はティアナが持ってきたバッグを見ながらそう言った。
ティアナは膨らんだバッグを体でサッと隠し「そんなことありません!」と顔を赤く染めて叫んだ。
「あの二人、学園にいる時とすごく違うんですけど……」
「ティアナちゃんってほらいつも厳しいでしょ? フィーちゃん、機会があったらああしてティアナちゃんにやり返してるんだよ。まあ、結局後で説教されるんだけどね」
ミリアーナの言葉どおり、姫様の攻撃ターンはすぐに終わり、今度はティアナの説教タイムだ。
その間、俺とクロエはミリアーナとお話をしながら、説教が終わるのを待った。
「ティアナちゃん、お説教終わった~?」
「ええ、今日のところはこのくらいで良いです。すみません、お待たせしてしまって」
ティアナはやり切ったという顔でそう言った。
説教をされていた姫様は「呼ばなきゃよかった……」と早速後悔していた。
その後、ティータイムを挟み、姫様は今回二人を呼んだもう一つの理由を伝えた。
「えっ! ジュン君達の力、見せてくれるの?」
「ええ、ミリアがあんなに言うから、この二ヶ月仲良くしてくれたお礼にって言ってくれたのよ。ティアナは、ミリアのおまけよ」
「……おまけって何ですか! ですけど、私も正直お二人の強さは気になっていましたので、呼んでいただけたことには感謝してます」
ミリアーナは喜び、ティアナは姫様の言い方に少し文句を付け足しながらそう言った。
姫様、説教されて少し拗ねてるな……。
「姫様、そんな言い方をしてたらまた怒られますよ……」
「ジュンさん、いいんですよ。姫様の気持ちはわかりましたし、また時間がある時にたっぷりとお話ししようと思いますから」
ティアナはニコリと笑みを浮かべながらそう言った。
姫様は、「ふ、ふん、怖くないわよ」と強がってみせているが、ティアナから
……こんな姿、姫様が
「まあ、その……強さは見せますけど、そこまで期待しないでくださいよ。俺もクロもまだまだ半人前ですし、姫様達より三つも年が下ですので」
それから姫様達と共に場所を移動し、訓練場へとやってきた。
今日に限っては姫様が使うと先に通達していたので、俺達と審判役のゼフ以外には誰もいない。
「剣術と魔法、どちらから見たいですか?」
「う~ん……剣術かな~。特にジュン君の剣術はずっと見てみたいと思ってたから」
「私は魔法が気になりますが、その後でも大丈夫です」
二人からの意見を聞いた俺とクロエはそれぞれ訓練用の剣を取り、模擬戦闘を始める。
「ジュン君、お手柔らかにね。最近、こっちはあんまりだから」
「ああ、わかっている。大丈夫だ」
そうして審判役ゼフが振り上げた手を下ろし、開始の合図を告げる。
「くっ! ゆ、油断させておいて最初からその速度かよっ」
開始早々、クロエはいきなり猛スピードで俺に接近して斬り掛かってきた。
「先手必勝、ジュン君のペースに合わせてたら勝てないもん! いくら模擬戦闘とはいえ、負けたくはないからねっ!」
クロエはさらに速度を上げて、斬撃を重ねてくる。
しかし、俺はその攻撃を全て
「ジュ、ジュン君前より打ち合いの速度上がってる?」
「まあ、訓練してるからね。それにもっと力も込められるよ」
「わわっ!」
そうして俺のペースに飲まれたクロエは剣を弾き飛ばされ「……負けました」と降参した。
「わ~、ジュン君の動きやっぱり凄いね! それにクロちゃんも、ジュン君の動きについていってて驚いたよ!」
「前までは互角だったんですけどね……」
クロエは若干落ち込んだ様子でそう言うと、ミリアーナが「落ち込んでて
そんな二人の様子を見ていると、ティアナが近づいてきてジーッと俺の方を見つめてきた。
「あの、どうかしました?」
「いえ、その、凄い剣術だったなとは思うんですけど……ジュン君の魔力、かなり高い気がするのに魔法じゃなくて剣術が得意なのかなと……」
「あ~、なるほど。まあ、確かに魔力は多い方ですけど、剣術だけが得意なのではありませんよ」
ミリアーナに抱きつかれて苦しそうにしていたクロエを救出し、今度は魔法の腕を二人に見せることにする。
ゼフの開始の合図とともに、第二戦目が始まった。
俺は一番得意な魔法の【光属性魔法】を、クロエは最近繰り返し訓練して以前よりも得意となった【風属性魔法】のデモンストレーションをする。
「す、凄いです。こんな魔法をその
魔法に詳しく、色んな魔法使いを見てきたティアナはミリアーナ以上に驚いた様子だ。
普通、この年齢で使える魔法のレベルといえば1か2、天才と呼ばれる者でも3だろう。
俺のスキルレベル4の魔法の力は、魔法使いが生涯を懸けてたどり着くレベルの数値。
魔法の天才と呼ばれていても3で止まる者も多く、4に上げるのはそれほど難しいと言われている。
そんな魔法をこの年齢で使えている俺に、ティアナは心の底から驚いているのだろう。
というか普通、魔法を見ただけでスキルレベルがどのくらいかなんてわからないのに、ティアナが勘付いたのにはマジで驚いたんだが……。
「そこに関しては秘密です。力の詳細は隠すようにと家族からも言われていますので。今回見せたのはミリアーナさん達を信じてのことですので、他言はしないでくださいね」
「ええ、そこは約束します……ですけど、これだけの魔法の力があるなら、お父様が知ってるはずですが……」
ティアナは自分の父が俺達のような魔法使いを見逃すはずがないのにと、少し疑いの目で俺達のことを見てきた。
そんな話をしていると、ミリアーナは興奮した様子で「魔法も凄い腕だね!」とクロエにまた抱き着いていた。
クロエから助けてという目で見られたので、再びミリアーナからクロエを救出した。
クロエの救出後、なぜか俺はティアナと魔法の勝負をすることになった。
いや、何で勝負? そう思ったのだが、俺の魔法を見ていたティアナが「私とどっちが魔法の腕が上か、確認したいんです!」と強くお願いしてきた。
「勝負って、
「大丈夫です。危なくなったら、すぐにその場から離れますから! どうか、お願いします!」
俺は姫様に視線を向け、助けを求めた。
「ティアナ、あまり
「で、ですが……これほどの魔法の腕を持つ方は、そうそうおりません。一度だけで良いんです。お願いします」
その後もティアナは諦めることなく、結局力比べのような魔法の勝負をすることになった。
また変なことになったな……まさかあのティアナと魔法の勝負をすることになるとは、思いもしなかった。
「ティアナさん、お願いですから
「ええ、わかっています」
そうして俺はティアナとの魔法の勝負を行った。
やり方は簡単で、互いに同じ属性魔法を放ち続け、徐々に込める魔力を上げていくというやり方。
これは主に実力が同程度の者同士や、師弟関係にある者同士が魔法の実力を測るための勝負方法だ。
ゲームでは一定の魔法の力を得ると、とある魔法使いとこの勝負を行い、勝利すると有能なスキルがもらえるということもあった。
まあ、ゲーム時代からそれで得られる見返りには興味がなく、二回ほど経験してからはその勝負を全てスルーしていたが。
「ティアナさん、まだいけますか? もっと魔力を上げますよ?」
「はい、大丈夫です!」
流石に相手は公爵家の令嬢。
いくら相手からの頼みとはいえ、魔法を放ってる今の現状はすごくおかしい。
これでもし怪我でもさせたら、俺はどんな手を使ってもその傷を完全に治療して、即この国から出るつもりだ。
「まだ上げますよ。大丈夫ですか?」
「ま、まだいけます!」
その後、顔が徐々に苦しそうになっていくティアナ。
無理をしてると誰もがわかる表情をしていて、俺はいつでも魔法を消せるように注意を払っていた。
それから数分もしないうちにティアナは魔力を使い果たし、辛そうな表情で「降参です」と言った。
俺はすぐに魔法を消し、ティアナへと駆け寄って魔力回復薬を渡した。
回復薬を飲んだティアナだが、まだ辛そうな顔をしていたので
「まさか、これほどの腕とは思いませんでした。完敗です……」
負けを認めるティアナだが、どこか嬉しそうな表情をしている。
「あら、ティアナ。初めて同年代の相手に負けたのに、嬉しそうね」
「嬉しそうですか? ……そうですね。私を超える魔法使いの天才に会えたのが、本当に嬉しいんだと思います」
ティアナはそう言うと、俺に向かって「ありがとうございます」とお礼を口にした。
「満足いただけたようで良かったです。俺としては、ティアナさんに怪我がなく終わったのでホッとしてます。いくら許可されてるとはいえ、公爵家のご令嬢。それもあのノルフェン家の方を怪我させたなんてことになりましたら……」
俺がブルリと震えると、ティアナは「そ、そんな
「ジュンの言ったとおり、酷いことになっていたわね」
「うんうん、ティアナちゃんのお父様もそうだけど、特にレーヴィン様は怒ってたと思うよ~」
「ですから本当は断りたかったんですけど、あまりにもティアナさんが勝負をしたいとおっしゃるので全神経を注いでいつでも魔法を止められるようにしてました」
自分の我儘のせいで、俺に迷惑を掛けることになってたかもしれないと知ったティアナは、縮こまって「ご、ごめんなさい」と謝った。
その後、訓練場から姫様の部屋に戻ってきた。
「あんなに我儘なティアナ初めて見たわ」
「私も~、フィーちゃんが我儘なのはよく見てたけど、ティアナちゃんのあんな姿初めて見て驚いたよ~。ティアナちゃんもまだ子供なんだね~」
「うう~、恥ずかしいです」
ニヤニヤと笑う友人二人に、ティアナは顔を赤くしてぬいぐるみに顔をうずめていた。
「姫様、ミリアーナさん、その辺にしないとティアナさんが
「……そうね。散々
「うんうん、まあ仕返しされるのフィーちゃんだけだと思うけどね~」
その後は昔話で盛り上がり、姫様達は部屋で楽しそうな時間を過ごしていた。
夜遅くまでお泊まり会を楽しんでいた姫様達は、お昼近くまでグッスリと眠ったのだった。

お泊まり会から数日後、俺はゼフからとある会議への参加を頼まれて城に残っていた。
その理由は、この数ヶ月ずっと調査をしてきたラージニア家についての報告を聞くためだ。
この日の姫様の護衛はクロエに任せてある。
姫様に一応「俺が抜けても大丈夫ですか?」と聞いたのだが、「こないだの模擬戦でクロエさんも十分強くなっているのがわかったし、そんなに心配しなくてもいいわよ」と言われていた。
「ジン様、準備ができました」
「はい」
俺はメイドに呼ばれ、部屋を出て会議室へと移動した。
扉をノックして中に入ると、たくさんの人
国王、宰相、大臣、他にも国の運営に欠かせない人物など国のトップが集まる中、俺が参加するのは場違いな気がしてならないが。
「それでは、これよりラージニア家の不正に関する調査報告を始めます」
司会はゼフが担当し、俺は手元に配られた資料に目を通す。
うわ~、かなり調べられている。
これゲームの時より詳しく調べられてるんじゃね? 毒薬の入手経路から、それに関わった人物。
さらに、ジンの母親の事件以外のことまで事細かに調べられてる。
「……これがあのラージニア家ですか。落ちるところまで落ちていたようですね」
そう言ったのは、フローラの父であるノヴェルだった。
その表情は冷たく、一目見ただけでブルリと体が震えた。
そのノヴェルの様子にゼフが「殺気、抑えてください」と言うほどだった。
「しかし、わかりませんね。なぜ、ラージニア家はここまでのことをしたのでしょうか?」
「侯爵家であり、歴史も古い家、領地も広く金に困った様子もないですよね」
「落ちてしまう要素が見当たらないのが不思議です」
貴族の
いやいや、俺が知ってたらおかしいでしょ? 当時は軟禁状態だったんだから……。
「あの、一応申し上げますが私は何も知らないですよ? 資料にも書かれてあるとおり、生まれた時から疎まれるように別宅で過ごしてきましたので……。毒薬もたまたま見つけただけです」
「ジン様の言葉は本当です。それは今回の調査に協力した者も証言しており、その言葉が
「すまないが、その調査に協力した者とは誰か教えてもらえないのか? 資料にも書いていないが」
ゼフの言葉に対して、貴族の長の一人がそう尋ねた。
「すみません。それをお答えすることはできません。調査に協力していただく代わりに、穏便に姿を消したいというのが協力者の望みですので」
「安心するが良い。
国王ルフォンドルスがそう続けて言うと、貴族の長がそれ以上質問することはなかった。
「他に質問のある方はいらっしゃいますか? いらっしゃらないようでしたら、このまま報告を続けます」
「だったら儂も一つ良いか?」
手を挙げたのはティアナの祖父であり、前魔法師団団長のレーヴィンだった。
あの人がこんな会議に出席するなんて珍しいな。ゲームではこの場に居なかったと思うが……。
「なぜ、こんな調査ばかりして
「それについて、ご説明いたします。これだけのことをしているラージニア家ですが、まだ何か隠している疑いがあります。私どもはそれを調査するため、彼らを泳がせている状況です」
「……まだこれ以上のことをしておるのか? それは本当なのか?」
「はい、調べれば調べるほど悪事が露見しておりまして、それを追っていたためこの場を開くのが予定よりも遅れてしまったのです」
本来だったらこんなに長期間調査をするつもりはなかったと、俺は姫様経由で耳にしていた。
「では逆にそこまでしてるのであればこんな会議も開かず、すぐ捕まえた方が良いのではないか?」
そんなレーヴィンのもっともな意見に、他の貴族達も「確かに」と口にした。
「現在、わかっていることだけでも投獄するだけの理由はあります。しかし、今捕まえてしまうと、調査中のより大きな事件が明るみになることはなくなるでしょう」
「……ふむ、確かにその意見はわかるが。だとしても、ラージニア家の当主に気付かれ、逃げられるという可能性がないとは言い切れないだろ?」
「いえ、そちらに関しては協力者の方のお陰で、ラージニア家の者達が絶対に逃げることが不可能な状況をつくっています」
ゼフがそう言い切ると、レーヴィンはそれ以上言わなくなった。
しかし、協力者となった家の
まあゲームでもそのキャラのお陰で事件が明るみになったわけだが、本当にそいつの考えがわからない。
その後も話し合いは進むが、この場ではラージニア家をどうするか決めきることはできず、昼休憩を挟んでから、午後も話し合いが行われることになった。
「こんな長く椅子に座ってたのは久しぶりで、腰がマジで痛い……」
そう言いながら俺は背伸びをすると、参加していた貴族の長の数人が俺のことを見ている気がして居心地がすごく悪かった。
いや、わかるけどさ、俺は何も知らないし、被害者の一人なんだけど……。
そう思いながら、その場にいるのが嫌になった俺はさっさと部屋を出て、食堂へと向かった。
「同席しても良いか? ジン君」
「ノヴェル様……もちろん良いですけど、俺と食べても大丈夫なんですか? 今の俺は平民扱いですよ?」
「私はそんなことは気にしていない。そんなことを気にしているんなら、わざわざ平民となったジン君に近づいて娘と和解なんてさせてないだろ?」
まあ、確かにそう言われたらそうだけど……。
「それに、ジン君と少し話をしたかったんだ」
「俺とですか?」
「ジン君のやってること、姫様の護衛のことを聞いていたんだ。時折、見かけない子供がいるなと思っていたがアレはジン君達だったんだな」
ノヴェルが言ってるのは、護衛時の姿であるジュンとクロのことだろう。
まあ、あの変装に関しては俺もマジで
何せ声すらも変化しているからな。
「ええ、その、色々と目立つ行為は避けようと思いまして、姫様の護衛をするなら変装をさせてほしいと頼んだんです」
「なるほどな……確かにジン君が目立つと、調査の方にも影響があっただろうし、その選択は間違っていなかったと思うぞ」
あれ? 普通に自分の力が知れ渡るのが嫌で、目立ちたくないって言ったんだけど、良い感じに勘違いされてる。
まあ、そっちについて考えていなかったわけでもないし、訂正はしないでおくか。
それから俺はノヴェルと一緒に昼食を食べ、その間に世間話みたいなことを色々と話した。
この人とこういうことになるとは思ってもいなかった俺は、終始緊張していた。
そうして昼食を終えた後、俺はノヴェルと共に会議室へと戻ってきた。
「少し早いけど、部屋で待ってようと思ったら、ほとんど人が居ないな……」
部屋に戻ってきている者達は、俺を合わせて四人だ。
ユリウスとノヴェル。
そして、ティアナの祖父のレーヴィンだ。
レーヴィンは、引退後も国の重要事項の決定に関わるほどの人物として扱われている。
「ジンと言ったかね? 少し良いか?」
「っ! れ、レーヴィン様? は、はい大丈夫です」
ボーッと時間が来るのを待っていた俺は、自分に近づいてきていたレーヴィンの気配に気付くのが遅れ、声を掛けられた瞬間にビクッとなってしまった。
「そんなに緊張しなくても良いぞ、儂はすでに隠居した身じゃからな」
「いえ、
レーヴィン・フォン・ノルフェン、ノルフェン公爵家前当主にして前魔法師団団長。
肩書こそ受け取らなかったが、当時の魔法の腕から【賢者】と呼ばれてもおかしくない存在だと設定資料に書かれていた。
その設定どおり、レーヴィンの力は
孫もいるお
「そうかの? すでに儂が隠居してだいぶ
ふむ、と悩んだ様子でそう言ったレーヴィン。
「それで、お話って何でしょうか?」
「おっと、そうじゃったそうじゃった。お主から出る魔力に興味が湧いての、その力は一人で鍛えたのか気になったんじゃ」
「俺に師匠がいるのかという質問でしたら、魔法に関しての師匠は居ません。一応、剣に関してはユリウスさんとアンドルさんに弟子としてではなく一人の剣士として教わる時はありますが、魔法は全て独学です」
「ふむふむ、なるほど。じゃから、お主の魔力は他の魔法使いとは変わった巡り方をしておるのじゃな……お主、【
俺のことをジッと見つめるレーヴィンは、確信した様子でそう口にした。
「えっ、なんでわかるんですか!?」
「儂も持っておるから似た魔力の巡りをしておると思ってのう。しかし、その
昔のことを思い出しながら、レーヴィンはそう言った。
自分も持っているという理由だけで、俺が【瞑想】を持ってると特定してくるって、この人やっぱりおかしいだろ……。
俺は心の中でそう思い、レーヴィンの異常さを改めて認識した。
「しかし、見れば見るほど、お主のその才能は興味がそそられるの~」
「そ、そうですかね? まあ、魔法の才能は少しありますけど、レーヴィン様にそこまで言われるほどでは……」
まずいぞ、この流れは……何となく、この単語聞き覚えがある。
確かレーヴィンは自分が気に入った者を弟子に取りたがる、と設定に書かれていた。
そのため、ゲームでも俺と同じく【瞑想】を持っていてさらに勇者という肩書に興味を示したレーヴィンは、勇者を弟子に取り魔法を教えていた。
「うむ、そうじゃ。お主、儂の弟子にならぬか?」
終わった~、言われてしまったよ……。
公爵家であり、国の重要人物であるレーヴィンの誘いを平民である俺が断れるわけないだろ……。
「レーヴィン様、ジンさんが誰かに弟子入りすることはありませんよ」
返答に困っていると、ユリウスがそう助け舟を出してくれた。
ユリウス! 助かったぞ、本当にマジでナイスタイミングだっ!
「ぬっ、ユリウス殿。そういえば、お主に剣を教えてもらってると言っておったが、弟子ではないとも言ってたの」
「はい、ジンさんは誰かの弟子になるのが嫌なようなんですよ」
「ふむ……たまにそういう性格の者がおるのは知っておるが、ジンもそうなんじゃな……う~む、じゃがここまでの才能の持ち主を育てられんのはもどかしいの……」
レーヴィンは俺の性格を理解したが、それでも弟子にできないか悩んでいる。
レーヴィンがまだ人のことを考えてくれる性格の人で良かった。
「う~む……そうじゃ! ジン、儂もお主にアドバイスするだけなら良いかの? 弟子にはせんから、
「……わかりました。弟子ではないなら、良いです。ただ、これはユリウスさん達にも言ってますけど、俺は冒険者です。なので事前に連絡を送れず、遠くに行く場合もあります」
「わかっておる。冒険者は自由に動く者達だと儂も理解しておるからの。じゃがしばらくは王都に居るんじゃろ? その間でも、爺の戯言を聞いてほしいんじゃ。お主ほどの魔法の才能を持つ者はそうそう居ないから、何もせず見逃すのはできんし、儂は儂自身を止められん!」
熱く語るレーヴィンに近づく者が居た。
「父上、ジンには迷惑を掛けないという約束でしたよね? なぜ、弟子がどうのこうのと叫んでいるのですか?」
「リオンッ! ちっ、もう戻ってきおったか……ジンと話すために足止めも用意したというのに……」
「やはりあの者は父上が用意した者達でしたか……すまないねジン。父上が迷惑を掛けなかったか?」
そう優しく声を掛けてきたのは、魔法騎士団団長で、ティアナの父リオンだった。
クロエの修業を見ているリオンとは、何度か話をしたことがあり、城で気軽に話せるうちの一人だ。
「リオンさん、その、迷惑は掛けられていないので大丈夫ですよ」
「そうかい、本当はジンもいるから呼ぶつもりはなかったんだが、王がどうしても言ったのでね……もしかしなくても、王に頼んだのも父上ですか?」
「もちろん、何やら隠し事をしておる気配がしたからの。ドルスに会議に参加させるように言ったのじゃ」
「……隠居したんなら、そのまま山奥にでも住んでたらいいのに」
エッヘンと胸を張るレーヴィンに対して、リオンはボソッとそう
この親子、ティアナの前では家族仲がいいように見せているが、実際のところはそんなに仲が良くはない。
というのもリオンは幼少期、レーヴィンに無茶な修業をさせられ、死ぬ気で魔法を覚えさせられたという過去がある。
確かにその修業のお陰で、今では王国の魔法騎士団団長という職に就いてるが、悪夢のように過ごした日々を忘れることはない。
今もなお、リオンは心の中でいつの日かやり返そうと思っていると、設定資料に書かれていた。
「それにしても不思議じゃな、リオン。お主がジンのことを知っていて、弟子に取らぬとは意外じゃ」
「ジンの性格は父上以上に知っています。それと、一応声を掛けて振られた後です」
この二ヶ月、城で暮らしていた俺はリオンから弟子にならないかと声を掛けられていた。
しかし、その時の俺は剣術に集中したいという思いと、弟子になるとこの国に縛られる可能性もあると思い、断っていた。
「ふっ、お主は振られ、何もしてやれていないようじゃが、儂はアドバイスをする権利を得た。ということは、ジンは儂を選んだということじゃな」
「ッ! 私は父上のように無理に頼み込んでいません! ジンなら父上と私だったら私を選ぶに決まってますよ。父上の魔法は時代遅れの威力しか考えてないものですからね。私のような繊細な魔法の方が、ジンには合ってますよ」
「何じゃと! 儂に一度も魔法勝負で勝ったことのないくせに生意気じゃ!」
なぜか俺がレーヴィンを選択したことで、リオンとレーヴィンは
ちょいちょい、こんな会議室でそんな魔力出すなよ! 壁にヒビが入ってるぞ!
「「やめなさいッ!」」
「「ッ!」」
リオンとレーヴィン、一触即発という状況だったのが二人の女性の登場でシンッと静かになった。
「エイレーン、お主がなぜここに……」
「リネア、何で君がここにいるんだ……」
レーヴィンとリオンは女性の名を口にすると、女性達から睨まれその場で正座をした。
レーヴィンが口にしたエイレーンという女性、彼女はレーヴィンの奥さんで、リオンが口にしたリネアはリオンの奥さんだ。
この親子、お互いに嫌い合ってるが、どこまでも似ていて、奥さんの尻に敷かれているところまで同じだ。
「
「だ、黙ってはおらぬぞ? 王都に行く用事があると伝えたではないか」
「ええ、そう言っていたわね。でも、今日この話し合いがあることは私には黙っていたわよね? 私は王妃様から教えてもらうまで知らなかったわよ?」
「そ、それはじゃな……」
エイレーンからそう詰め寄られたレーヴィンはしどろもどろになり、その様子を見たリオンはレーヴィンに〝ざまぁ〟と口パクをした。
リネアはリオンの頭に手を置いた。
「リオン、貴方は立派な魔法騎士団団長なのよ? それがなんでお義父様との喧嘩のために、魔法を使ったのかしら?」
「そ、それは違う。魔法は〝まだ〟使ってなかった」
「まだって、それじゃあアレは何かしら?」
リネアはそう言うと、天井付近にできた焼け跡を見るようにリオンの顔を向けさせた。
あれはさっき、リオンがレーヴィンと睨み合ってた時に出した炎で燃えたところだな……。
その後、リオンとレーヴィンは共に奥さんに別室へ連れていかれ、その後の話し合いに参加することはなかった。
「ジン様、すみません。もうしばらくラージニア家に関して、お時間をいただく形になりました」
会議が終わった後、貴族達が出ていき、最後に残った俺にゼフはそう言った。
結局、今回の会議で決まったことは二つ。
一つは今後もラージニア家の監視と調査を続けること、もう一つはラージニア家を潰した後のことだ。
ゲームでは許されてしまったラージニア家だが、今回は許されずに潰すことが決定した。
家の取り潰しで決まっていることは、色々と問題を起こしている現当主の元父と義母の処刑。
子供は調査次第では、両親と同じ処遇になるかもしれないという感じだった。
「いえ、俺としては調べてもらってるだけでもありがたいので、いくら時間が掛かっても大丈夫です。それと俺に協力できることがあれば何でも言ってください、まだしばらくは王都で暮らす予定なので」
そうゼフに言った後、俺も会議室を出た。
色々あって疲れたので部屋に戻り、姫様が帰宅するまで少し横になることにした。
次に目を覚ました俺は、ふと窓の外を見ると
「うん、完全に寝てた……」
予定していた時間よりも寝てしまっていたことに気付き、ベッドから起き上がって部屋を出た。
そして食堂に向かうと、城の者達が夕食を食べていて、俺もその中に交ざった。
「ジン、起きてきたのか。ジンが起きたら、姫様が部屋に来てほしいって言ってたぞ」
夕食を食べていると、顔見知りの兵士からそう言われた。
あ~、やっぱり姫様、会議の結果が気になってたか。
「ありがとうございます。後で向かいます」
兵士にそうお礼を言った俺は、目の前の料理を急いで食べて姫様の部屋に向かった。
そうして部屋に入った俺は、姫様に今日の会議のことを伝えた。
「なるほどね。ある程度は聞いていたけど、そこまで
「俺もまさか、ここまで酷いとは思いませんでしたね。姫様と知り合って奇跡的に調査が始まったから良かったですけど、これ調査されなかったらわからないままになってましたからね」
「そうね……ジンさんのことを見つけて良かったと、改めて今回のことを聞いて思ったわ」
正直、俺もラージニア家のやらかしを全て覚えているわけではなかったから、今回の調査が行われて良かったと思っている。
会議で聞く限り、相当なことをやっていてよく三年後のあの時点まで隠蔽できたなっていうレベルのものもいくつかあった。
「凄いね、ジン君の元家族の人達。これだけのことをしていて今まで隠せてたって……」
「ああ、俺も同じことを思ってたよ。話し合い中にも、今までどうやって隠していたのかわからないって言ってたし。まあ、なんだかんだあの家は侯爵で力もあるからな……」
「ええ、そうね。それにラージニア家といえば、数多くいる貴族の中でも初期から国に仕えている家なのは周知の事実だから、そんな家がこんなことをしてるなんて誰も思ってなかったんでしょうね」
姫様はそう言いながら、疲れた表情で紅茶を飲み、ため息をついた。
その後、この話題のままだと辛気臭くなってしまうので、今日の学園はどうだったかと話題へと変えることにした。
「そうね。いつもどおり、特に何もなかったわね。ああ、でもティアナが久しぶりに祖父に会えるから楽しみって言っていたわね」
「祖父ってことは、レーヴィン様ですか?」
「ええ、レーヴィン様は基本的に領地で暮らしているからってティアナも言ってたから……って、どうしたのそんな顔をして」
レーヴィンの話になったので俺は、寝る前のことを思い出して少し複雑な表情になった。
その様子に気付いた姫様に何があったのか聞かれ、レーヴィンと話した内容を伝えた。
「ジンさんを取り合って、リオンさんとレーヴィン様が争ったの?」
「私達が居ない間に、凄いことが起きてたんだね……」
「いやもう本当に、勘弁してほしかった……」
俺はため息をつきながらそう言った。
「でもリオンさんに関して言えば、前からジン君に魔法を教えたいって言ってたもんね」
「ああ、一応のらりくらりと回避してリオンさんはそこまで強引に誘ってこなかったら良かったんだけど、レーヴィン様は若干強引でさ……」
「レーヴィン様はそういうところがあるのよね……私も昔、弟子にすると言われたけど、お父様に止めないとお父様のこと嫌いになるって脅して、なんとかなったのよね」
あの時は大変だったわ、と姫様は昔のことを思い出しながらそう話してくれた。
「それで、結局ジンさんはレーヴィン様の弟子になったの?」
「いえ、ユリウスさんみたいに弟子にはしないけど、アドバイスだけしてもらう形で収まりました。俺は誰かの弟子になるのは、今のところ考えていないので」
「前もそんなことを言ってたわね。それって、やっぱりいつでもここから旅立てるようにってことかしら?」
「まあ、その理由が一番ですね。俺は冒険者ですから、いつかはこの地を離れる可能性もあります。その時、誰かとの
と言ってるが、実際は主人公である勇者と関係が深まる者達とはできるだけ離れていたいだけというのが本音。
助っ人キャラならまだいいけど、レーヴィンは助っ人キャラの中でも勇者を気に入ってほぼ師匠キャラのような立ち位置になっていた。
だから本当はアドバイザーとして関わるのも嫌だったが、まああの選択が妥協点だったと今は思っている。
「あら、それじゃあクロエさんはどうするの? 確か、王都にご両親もいるわよね?」
「そこは大丈夫ですよ。お父さんとお母さんには話をしてて、許可もらってるんです」
「あら、そうだったのね。羨ましいわ」
この二ヶ月の間、クロエともし旅に出ることになったらどうするという話をしていた。
元々クロエは俺が旅に出るならついていきたいと考えていて、両親にその話をしたら俺とならどこにでも行ってくると良いと許可をもらっていた。
ただし最低でも年に一度はギルドを通して手紙で生存報告くらいはするようにと言われたらしい。
俺としてはクロエの力は役立つことがたくさんあるし、今なら主人公との繋がりもないからついてこられるならついてきてほしいと思っていた。
なのでクロエから旅に同行できると聞いた俺は、クロエとクロエのご両親へ素直に感謝を伝えた。
「私もその旅に一緒に行きたいわ、無理かしら?」
「無理ですね。確実に」
反射的に俺がそう答えると、姫様は
翌日、ちょうど学園が休みということもあり、俺は早朝からレーヴィンに呼び出されて訓練場へとやってきていた。
レーヴィンが魔法を教えるという
「こんだけ弟子候補がいるなら、俺は要らないじゃないですか?」
「数じゃない、才能じゃよ。儂はお主の才能に
満面の笑みを浮かべながらそう言うレーヴィンだが、リオンが現れてムスッとした顔へと変わった。
「リオン、今日は儂が教えると言ったじゃろ」
「別に許可してません、それに父上と喧嘩しに来たわけでもありません。私もジンに魔法を教えるために来たんです。……それにまた問題を起こしたら、妻に怒られますからね」
リオンの目線の先を見ると、城の二階部分からリオンとレーヴィンの奥さんがこちらを見ていた。
レーヴィンも奥さんの視線に気付いたのか、リオンに向けていた敵意を消して仲が良さそうに見せるためにリオンと握手を交わした。
尻に敷かれてる者同士、協力関係を結んだようだな。
「それで結局、俺はどちらに教えてもらえるんですか?」
「うむ、そうじゃな……ここはジンに決めてもらうのが一番いいじゃろう。そうじゃろ、リオン?」
「そうですね。それが一番公平ですね」
レーヴィンとリオンはそう言うと、それぞれ自分達が教えようとしている内容を話してくれた。
「儂は攻撃特化の魔法を教えようと思っておる。今時の魔法は、形やら美しさを競っておるようじゃが、儂のは実践向きの魔法じゃよ」
「父上はそうだと思いましたよ。私は以前にもお伝えしたとおり、魔力制御と魔法コントロールの上げ方を教えようと思っています」
「攻撃魔法訓練か、基礎の向上訓練ですか……だったら俺が今学ぶべきは、攻撃特化の魔法ですね。現状、自分の魔力制御に自信がないわけではないので」
熟考して決めたことをそう伝えると、レーヴィンは勝ち誇ったような顔をし、リオンは落ち込んでしまった。
いやまあ、別にリオンの基礎訓練が嫌というわけではないが、レーヴィンの教える攻撃魔法は、弟子にならずに教えてもらえるなら、習得しておきたいと昨日寝る前に思っていた。
「ふふっ、ジンなら儂の攻撃魔法に惹かれると思っていたぞ!」
「レーヴィン様の魔法の伝説は色々と聞いてますからね。気にはなってましたよ」
「そうかそうか」
リオンは悔しそうに自分が担当する者達を連れて、別の場所へと移動した。
そうして、俺はレーヴィンから攻撃魔法を習うことになった。
まず最初は、レーヴィンの魔法を学ぶ者達と一緒に、レーヴィンの魔法を見学だ。
レーヴィンいわく、言葉だけでは伝わらないから、見て感じて実践するというのがレーヴィン流の魔法の学び方なのだそうだ。
「まあ、割と理解できるやり方だな。言葉だけでイメージはできないからな……」
そう感じたのだが、ゲームの記憶を
その瞬間、俺はできるだけレーヴィンの視界から消えようと、魔力も薄めて周りの兵士に溶け込もうとした。
しかし、俺が隠れる前に「ジン、こっちに来るんじゃ」と呼ばれてしまった。
「……な、なんでしょうか?」
「うむ、儂の魔法は相手がいる方がよりわかりやすいんじゃ、ジンなら多少儂の魔法に耐えられるじゃろうから相手になってくれんかの?」
「えっと、それって危なくないですか?」
「んっ? 魔法を覚えるのに、危険でない方がおかしいと思うぞ?」
真顔でそう言うレーヴィンに俺はため息をつき、「わかりました」と言ってレーヴィンの魔法の相手となることになった。
レーヴィンの魔法、それは基本的に攻撃魔法で、そのどれもが強力な魔法。
助っ人として登場する時は、その強力な魔法で敵を一掃できるので、レベル上げも簡単になる。
ただし補助系統の魔法は得意ではないため、レーヴィン頼りで先へ先へと進むと、後々痛い目に遭うプレイヤーも数多くいた。
当時の俺もその中の一人だった。レーヴィンを仲間にした際はその強さに頼り切ってしまい、結果的に他の魔法職の仲間を育成できずに詰んでしまった過去がある。
「お願いですから、手加減してくださいよ? 防御は多少できますけど、レーヴィン様の魔法を受けきるの、本当に厳しいと思うんで」
「大丈夫じゃ、こう見えて儂は数多くの弟子を育ててきた実績があるからの、手加減は得意じゃ!」
自信満々にそう言うレーヴィンに心配しつつ、俺は覚悟を決めた。
しかし、早朝から訓練が始まったせいで、道具類の準備がほとんどできていなかった。
できた物といえば、ミスリルの腕輪とシンシアの店で買った
防具系の道具を一つも準備できなかったのは、本当に痛いな……。
「むっ? その腕輪の素材は、ミスリルではないか?」
「やっぱりわかるんですね。そうですよミスリルでできた腕輪です。流石にレーヴィン様相手に、何もなしでは俺が死にますからね。これくらいの道具は許してください」
レーヴィンはニヤリと笑みを浮かべて「よいぞ」と言った。
もしかしたら、何かレーヴィンの中の変なスイッチを押したのかも、と恐怖を感じた。
いや、大丈夫だ。
流石のレーヴィンもこんな城の訓練場で本気の魔法なんて出すはずないからな。ちょっと他の魔法使いより威力が高い魔法を使うだけに
「レーヴィン様、ジン君。準備は良いですね?」
「うむ」
「はい」
俺達がそう返事をすると、審判役の兵士は開始の合図を送った。
レーヴィンの魔法、それを受けるのが俺の役目。
なら攻撃を全て捨て、防御に全振りすれば耐えられるはずだ!
「うむ、流石儂が見込んだ者じゃな! その歳で、それだけの魔力壁を張れるとは大したものじゃ! ならば、儂も期待に応えて最高の技を見せてやろう!」
高らかにそう宣言したレーヴィン。
体を空中に浮かせると、両手に魔力を集め始めた。
「ちょっ! レーヴィン様!? その魔力の量、ヤバくないですか!? ここ王城の敷地内ですよ!」
「大丈夫じゃ、ちゃんと儂らの周りに魔力壁を展開してもらってるからの。それにこの程度ならジンも耐えられるから安心するがよい」
先ほどまではなかった魔力壁が、俺とレーヴィンを囲むように展開される。
何が安心するがよい、だ! そんな魔法食らったら、俺の力でも厳しいだろ!
そう思いつつも俺は限界まで魔力を魔力壁へと注ぎ込み、できるだけ壁を強固にした。
「それではいくぞ、よく見ておくんじゃよ!」
「ッ!」
魔力を溜め終わったレーヴィンが、俺に向かって魔法を放ってきた。
その魔法の威力は、今まで見てきた中で群を抜いて高く、受け止める俺は必死に守ることに集中した。
やっぱりこの魔法か……レーヴィンの持つ最強魔法【極・魔力砲】。
属性魔法や希少魔法ではなく、ただ魔力を一点に集中して放つ魔法。
しかし、その威力は作中の魔法技の中でもトップクラスで、ボス討伐の際はかなりの有効打。
魔法耐性がない相手に対しては、その威力がそのまま効くという便利な魔法。
「おっ、やっぱり耐えられたではないか、流石儂が見込んだだけあるわ」
何とかレーヴィンの魔法を耐えきった俺は、魔力をほぼ失ってその場に座り込み、レーヴィンを睨んだ。
真正面からレーヴィンの魔法を受け止めことで、ある程度のことはわかった。
この魔法があれば今後役立つこともあるだろうし、理解できたのは俺としても有益だったけど……釈然としないな。
「どうじゃ、ジンよ。あの魔法は実際に受けた方が習得するまでの時間が早いんじゃ。覚えられそうか?」
「……大体のことは感じてわかりました。ですけど、一つ疑問と言いますか、わからないところがあります」
「ほう、そのわからないところとはなんじゃ?」
「魔力を一点に集める際、自分の魔力だけではなく空気中にある魔力も集めてましたよね? あれは、どういう原理でやったんですか?」
レーヴィンは
あれは、一度自身の魔力を周りに放出し、空気を吸うように体に魔力を引き寄せ、その際に空気中の魔力と合わせて一点に集める、というやり方なのだそうだ。
「……なるほど、そうやって自身の最大魔力以上の魔力を集めて放つ技ということですか」
「そういうことじゃ。説明だけでは伝わらない魔法なうえ、相手が居ないと集中できずに失敗してしまう可能性があったからのお。ジンに的のような役目をしてもらったんじゃ」
「まあ、実際に的でしたね。ですけど、そのお陰で大体のことはわかりました」
「じゃがあの魔法はいくら手加減しても威力が強くてのう。耐えられる人間はそうそう居ないんじゃ」
だろうな。俺はこの歳ではありえないレベルと魔力の数値、そしてミスリルの腕輪に、常時回復薬の飴を
「それで、どうじゃ? あの魔法は、ジンの役に立ちそうかの?」
「……そうですね。実際に使ってみないとわかりませんが、強い魔法を教えていただいたことには感謝します。ですけど、これはアドバイスというより、技の伝授ではないですか? 確かに攻撃魔法の訓練とはおっしゃってましたけど、あれはどう見ても自分の技を俺に教えたようなものでは?」
「そ、そんなことはないぞ? 確かに、技の伝授ではあるが、あの魔法は他の魔法にも応用が利くんじゃ。じゃから、決して儂がジンに自分の技を教えたくて、本来アドバイスしようと思ってたことを放ったらかして、あの魔法を教えたとかそんなことはないぞ?」
全部
俺はそう思いながらジト目でレーヴィンを睨む。
そして、ため息をついて「もう良いですよ」と言って、とりあえず今回は許すことにした。
レーヴィンに魔法を習うと決めた時点で、いつかあの魔法を教えてもらおうと考えていたので、それが早くなっただけだと思うことにした。
レーヴィンに魔法を教わり、数日が経った。
以前は休日になるとダンジョンや依頼等で体を動かしていた俺だが、ここ最近は今まで以上に訓練に取り組んでいる。
その理由は、レーヴィンとリオンから魔法を教わる方が俺にとって有益だったから。
「ジン、流石儂が見込んだ男じゃ、もうほとんど儂の魔法を覚えたようじゃな」
「形は大体できてきました。ただまあ、威力はまだまだですね。ミスリルの腕輪のお陰で、多少威力があるように
レーヴィンの教えは思っていた以上に俺の成長に繋がった。
元々、神の加護もあるうえに体内魔力も桁違いに多い俺は、誰よりも成長している。
唯一そんな俺の成長速度についてきているのは、クロエだけだった。
「嬢ちゃんの方もなかなか筋が良いのう。儂の孫といい勝負じゃと思うぞ」
「あはは、そんなことないですよ。ティアナさんの方が凄いですよ」
レーヴィンは、俺とクロエが変装をしながら姫様の護衛をしていることを知っている。
というか、言っておかないとレーヴィンが自慢話で孫に話してしまうかもと、レーヴィンの奥さんであるエイレーンに忠告してもらった。
「父上、そろそろジンとクロエは私の訓練時間です」
「ちっ、時間どおりじゃな……リオンよ、もっとゆっくりしてくればいいものを……」
当初は日によって順番に教えるということにしていたが、主にレーヴィンがその約束を破り、また喧嘩が起きてしまった。
いい歳した親子が魔力壁を張ってガチで喧嘩を始めてしまったのだが、まあ、その喧嘩を止めたのは、言うまでもなく馬鹿親子の奥様方。
その喧嘩から魔法を教える日を決め、その一日のなかで時間を決めて訓練をすることになった。
訓練日を決めた理由は、その日なら奥さん方の監視ができるからだ。
馬鹿親子は、奥さん達からの信頼をこの数日間で完全に失ってしまったようだ。
「父上、良いんですか、そんな態度を取って? 母上が見てますよ?」
リオンはしかめっ面を浮かべてるレーヴィンにそう言うと、城の二階の方を見上げた。
訓練場をよく見渡せる部屋から、リオンとレーヴィンの奥さん達がこちらを見ていた。
「うぐっ、わかっておる……」
レーヴィンは、トボトボとこの場を去っていった。

そんな感じで、案外悪くない訓練の日々を過ごしている。
そうして今日も訓練が終わり、汗を流すためにシャワーを浴びて着替えると、ユリウスが廊下で待っていた。
「既視感がすごくあるんですけど、まさかまたどこかに消えるとかではないですよね……?」
「だ、大丈夫ですよ。今回はジンさんにお礼と、ミスリルの受け取りに来たんです」
一歩後ずさった俺に、ユリウスは慌ててそう言った。
ここ最近、ユリウスは基本的に城にはおらず、姫様の頼み事をこなすために王都を駆け回っていた。
それが罰になるのかと姫様に聞いたが、ユリウスにとっていい罰なんてないから、とりあえず肉体的労働を毎日限界までやらせることにしたらしい。
「それにしても早かったですね。失態を犯した償い、もっと掛かるのかと思ってました」
「いえ、償い自体はまだ終わってないんですが、姫からいつまでもジンさんに持っててもらうのは迷惑じゃないかと言われまして……ミスリルの受け取りを許可されたんです」
「なるほど、そういうことだったんですね。それじゃ、もうミスリルはここで渡しても大丈夫ですか? 一応、この鉱石って丁寧に扱わないといけないので、どこか鍛冶屋に持っていくのでしたらそこまでついていきますよ?」
そう伝えると、ユリウスはしばらく考え込んだ。
これまで大事に保管してもらった恩を感じているのか、これ以上迷惑を掛けるのはと悩んでいるみたいだ。
「別に迷惑とかではないですよ? 今度の休み、自分の訓練道具の買い足しもあって訓練もお休みの日があるんですよ。その日なら、時間が取れるので王都内でしたらついていきますよ」
「それでしたら、お願いしてもいいですか? 加工してもらう相手は王都の方なので、そこまで運んでもらえたら助かります」
ユリウスは頭を下げてそうお願いをしてきた。
あの時の教訓から、手を貸してもらえるならその手を取るようにと姫様から散々言われたみたいで、前みたいに自分だけでやろうとはしないようになっていた。
「はい、それではまた今度の休日に」
「はい、ジンさんも訓練頑張ってください」
そう言って俺はユリウスと別れ、夕食を取るために食堂へ向かった。

それから数日後、仕事も訓練も休みとなった日。
朝早くから、俺はユリウスと共に城を出て王都の商業区へと向かっていた。
「そういえば、ずっと聞いてませんでしたけど、ユリウスさんはなんでああまでしてミスリルを手に入れようとしたんですか?」
償いで走り回っていたユリウスに聞くのが
「……ジンさんは私が元遺児だったということはご存じですよね?」
「はい、姫様から聞きました。まだユリウスさんが子供の頃に出会って、そのまま拾ったと」
「その時、私には遺児仲間と言いますか、まあ妹のような存在の子が居たんです。もちろん、姫様はその子のことも面倒を見ると言ってくれたんですけど、彼女は貴族には近づきたくないと言いまして一緒に来ることはなかったんです」
ん? そんな妹のような存在がいるなんて、ユリウスの設定にあったか?
設定資料にも書かれていなかったぞ?
「幼い頃の自分は生きることに精一杯だったので、結局私は彼女を置いて姫様に拾われ、ここで生活をすることに決めたんです。そうして彼女と別れたわけなんですが、つい先日彼女が冒険者として、活躍してるのを見かけたんです」
「えっ、それまで手紙のやり取りとかしてなかったんですか?」
「遺児同士ですからね。別れた後の連絡手段がなかったんです。それで彼女に対しての償いと言いますか、子供の頃に約束したことを
「えっと、そこで何でミスリルの話が出るんですか?」
「子供の頃に自分が一番欲しい物は何かって彼女と話したことがあったんです。私は剣士としての最強の称号が欲しいと言い、彼女はミスリルでできた装飾品が欲しいと言ったんです」
なるほど、それで躍起になってミスリルを見つけようと、鉱石を掘りまくったのか。
なんかもっと、それなりの事情があるのかと思っていたけど、意外とピュアな理由だったな。
「子供の頃の約束のために、あそこまで必死になるなんてすごい
「……たぶん、私は衣食住が整った所で過ごして、いつ死んでもおかしくない環境に彼女を置き去りにしたことが、心の中でずっと自分を苦しめていたんだと思います。それを和らげるためにも、子供の頃の夢を叶えようと体が勝手に動いてしまったのかもしれません」
あの時は色々とご迷惑をお掛けして申し訳ありませんと、ユリウスは謝罪をした。
その後、先にシンシアの店に寄って色々と購入した俺は、ユリウスが加工を頼もうとしている鍛冶屋へと向かった。
「……ユリウスさん、本当にここですか?」
「あ、あれ?」
やってきた場所の建物には、張り紙があった。
要約すると親方が倒れてしまい、弟子もまだ育ち切ってないから店を畳むことにしたと書いてあった。
「どうします? 鍛冶屋は他にもありますから、どこか別の所に頼みますか?」
「……ミスリルは扱いが難しい鉱石で、持ち込みだとしても断る鍛冶師がいるんです。なのでこのお店も探し回って、ようやく見つけた所だったんです」
そう落ち込んだ様子のユリウスに、俺はできるかわからないが一応あることを言った。
「でしたら、一度リーザに頼んでみますか?」
「えっ!? ガフカの工房にですか? む、無理ですよ、ジンさんは気に入られてるからわからないと思いますが、あそこは王族からの依頼さえも断るんですよ?」
「話をしてみて無理なら他を探せばいいじゃないですか。ここで考え込んでる方が時間がもったいないですよ」
そう言って俺はユリウスを連れてリーザの店へと向かった。
正直、俺もリーザが受けてくれるかわからない。だけどあそこで立ち止まって考えているなら物は試しで聞くのは良いと思った。
「なるほどね。それで、あたしの所に来たってわけか」
「ああ、どうだやってくれるか? 俺の知ってる鍛冶屋はここだけだし、話だけでもと思って来たんだ」
「……いいよ。やってあげる」
「ッ! 良いんですか!?」
リーザはしばらく考え込んでいたが、結局は引き受けてくれた。
「ジンの頼みだしね。それに剣聖のそんな馬鹿な話を聞いて、なんかやる気が出たのよ。元遺児仲間のために、自分が死にかけても取ってくるなんて面白いじゃない。前までお高くとまった剣聖様だと思ってたけど、案外面白い
「あ、ありがとうございます」
ニヤニヤと笑いながら言うリーザに、ユリウスは一歩後ずさってお礼を言った。
その後、ミスリルの鉱石をリーザに渡すと数日後にはできるからと言われ、俺
「良かったですね。作ってもらえることになって、言ってみた
「は、はい。本当にジンさんには頭が上がりません。まさか、あのリーザさんに作ってもらえるなんて、思いもしませんでしたから……」
ここまで緊張しているユリウスは初めて見るな。
それだけリーザに作ってもらえるということが
リーザの凄さを改めて実感しつつ、俺とユリウスは用事が終わったので城へ戻ることにした。

リーザの所でミスリルの加工を頼んでから三日後。
リーザから完成を知らせる手紙が届き、俺はユリウスと共に店に取りに向かった。
「いらっしゃい、待っていたよ」
店に入ると、リーザはそう言って出迎えてくれた。
「はい、これが頼まれていた物よ。どう?」
「さ、最高です……こんな美しい造りをした物は初めて見ました……」
ユリウスはリーザから受け取った装飾品を見て、そう言った。
ミスリルを全て装飾品に変えてほしいと頼んだユリウスの前には、首飾り・耳飾り・腕輪の三種が置かれていた。
「こんな短期間で、二度もミスリルを扱えるとは思わなかったよ。ありがとね、ジン」
「まあ、俺は紹介しただけだよ」
俺はそう返すと、リーザが作ってくれた装飾品を見て
そうして支払いを済ませたユリウスは、用意していたプレゼント用の箱に装飾品を入れて、リーザに深く頭を下げて「ありがとうございました」とお礼を言った。
リーザの店を出た俺は、そのままユリウスに同行して冒険者ギルドへと向かっている。
ユリウスから一人で渡すのは無理だと頼まれてしまったのだ。
「いい
「し、仕方ないじゃないですか、彼女と会うの本当に数年振りなんですから……」
「だからといって年下の後ろに隠れながら歩くのはどうかと思いますけど……俺、目立ちたくないって散々言ってますよね」
ギルドに近づくにつれてユリウスの気持ちは小さくなり、俺の後ろに隠れながら歩いている。
俺は早くこの状況から解放されたいと考えていた。
「あれ、ジンさん? 今日は、ギルドに来る予定なんてありましたか?」
「いえ、俺はなかったんですけど、この人の付き添いで来ることになったんです……」
受付に出てきたフィーネさんの前に、帽子を
フィーネさんは今日ユリウスが来ることは知っていたみたいで、色々と察して俺達を部屋に案内してくれた。
「ユリウスさん、そろそろシャキッと歩いてくださいよ。もうここまで来てるんですから」
「そ、そう言われましても……」
こんな剣聖、ゲームでも一度も見たことないぞ……。
「ジンさん、ユリウス様、こちらでお相手の方がお待ちしております」
「案内ありがとうございます。フィーネさん」
部屋まで案内してくれたフィーネさんは、自分の仕事があるからと言って去っていった。
「はい、ユリウスさん入りますよ。もう相手は待ってるみたいですから」
「うっ、そ、そのもう少し気持ちの整理の時間を……」
「……失礼します。ユリウス様を連れてきました~」

部屋の前まで来てなお覚悟を決められないユリウスの背中を押し、部屋の中に入ると、そこには見覚えのある人が居た。
「えっ、ジン君?」
「……アンジュさん?」
確認のため、アンジュさんの隣に座ってるパートナーのレイネさんに色々と聞いた。
すると、ユリウスが呼び出した相手はアンジュさんで間違いないことがわかり、俺は理解が追いつかなかった。
その後、何とか落ち着いた俺は、いまだに隣でビクビクしているユリウスをひとまず置いて、アンジュさんに質問をした。
「あんなに強くてキラキラしてた人が元遺児なんて言われても、全く信じられませんよ」
「ここまで成り上がるのに、結構苦労したのよ? ずっと一人だったからね。どこかの誰かさんが姫様についていくって言って、妹同然の私を置いていったから」
「ッ!」
ユリウスはバッと立ち上がると、アンジュさんに頭を下げた。
「あの時はすまなかった!」
「……もう良いわよ。私もそこまで根に持ってないし、あの時離れるって最終的に言ったのは私だったもの」
アンジュさんはそう返すと、だから頭を上げてと言った。
「それで今更、あんたが私に会いたいってどういうことなの? 私はずっと王都で活動してたから、いつでも会えたはずよね? もしかして、私が金級になったから近づいたのかしら?」
「ち、違う! アンジュのことを知ったのは最近なんだ! それまで、アンジュが王都で活動してるなんて全く知らなかったんだよ」
アンジュさんは疑った様子でそう言うと、ユリウスは必死になって弁明した。
「アンジュさん、ユリウスさんの言ってることは本当ですよ。今まで色んな所を探していたけど、王都には居ないもんだと思い込んで捜索の対象外にしていたらしいんですよ」
「じゃあ、その捜索の対象外にいた私を何で今更見つけ出したのよ?」
「……偶然と言いますか、ほらアンジュさん、少し前に俺の昇格試験を受け持ってくれたことがありましたよね?」
「ええ、覚えているわよ」
「その時から俺ってこの国の姫様から色々と調べられていまして、その調査部隊の中にユリウスさんも居まして、そこからアンジュさんのことを知ったらしいんです。まあ、正直本当にそこで知ったのかと俺も思いますけど……」
俺は、隣でアンジュさんから疑われて泣きそうなユリウスを
アンジュさんは目を閉じてため息をついた。
「わかったわよ。じゃあ、私の存在を知ったのがここ最近って信じるわ」
ユリウスは、
それから、アンジュさんは再会して話すために呼んだの? とユリウスに聞くと、ユリウスは首を振り「約束を果たすために来た」と言った。
「約束? 何かしてたかしら?」
「えっ、忘れてたの!? 昔にほら、ミスリルの装飾品が欲しいって」
「……えっ待って、あの時約束したのってまさか!」
ユリウスはアンジュさんの前に箱を置き、蓋を開けて中を見せた。
「
「ずっと前に約束した、ミスリルでできた装飾品。どうかな?」
「どうかなって……あの時、約束したことを本当に叶えてくれるなんて思わないでしょ普通……」
アンジュさんはそう言いつつ、
「その、着けさせてくれるかな?」
アンジュさんは
ユリウスは首飾りと耳飾り、そして腕輪をアンジュさんに着けてあげた。
「すごく似合ってる」
「……」
装飾品を着けてもらったアンジュさんは目に涙を浮かべ、今にも泣き出しそうになっていた。
うん、これは俺とレイネさんは完全に邪魔者だな。
レイネさんとアイコンタクトを取り、ユリウス達の邪魔をしないように部屋を出た。
その後、部屋からアンジュさんのすすり泣く声が聞こえてきた。
俺の役目もここで終わりだろうということで、城に戻ることにした。

ユリウスに女ができた。
その
今まで一切、女性の影がなかったユリウスが女性と密会している。
今ではそんな噂が城内に出回っていた。
「ユリウスさん、どうするんですか? 変に隠そうとした結果、騒ぎになってますけど」
「まさか、こうなるとは私も思いませんでしたよ! た、確かに今まで女性と付き合ったこととかありませんけど、まさかここまで噂が広まるなんて……」
ユリウスは自分に女性の噂が立つだけで、こうも騒ぎになるとは思っていなかったみたいだ。
んっ、今ユリウス、なんて言った?
「ユリウスさん、今までお付き合いしたことがないって言いました?」
「そうですよ。今まで、誰とも付き合ったこと……あっ」
「……」
言葉を言い切る前にユリウスは気付き、顔を赤く染めるとその顔を隠して
いや~、まさかあの剣聖ユリウスがな~、ゲームの設定資料には書かれてなかったから、普通になんとも思ってなかったけど……。
「童貞なんですね」
「あぐっ!」
ユリウスは俺の言葉を聞くと、そのまま地面に倒れてしまった。
うん、ユリウス関連で面倒なことに巻き込まれたけど、この情報を知れて対価としては割が良い。
「まあ、ユリウスさんが童貞ということは置いておいて、本当にどうするんですか? このままだと、せっかく仲直りしたアンジュさんと簡単に会えないんじゃないですか?」
「そ、そうだね。私のことより、アンジュのことを心配しないと」
なんとか立ち上がったユリウスは、フラフラの状態でそう言った。
「逆にもうユリウスさんが公表した方がいいんじゃないですか? それで、アンジュさんには近づかないようにって言うのは、どうなんですか?」
「それだと、逆に近づく人が出ると思うよ。天涯孤独の身として今まで生活していた私に、妹分がいるなんて知られたら、一度は目にしたいと動く者が現れると思いますし」
「確かに……だったら、ユリウスさんに彼女を作ればそっちに注目がいくんじゃないですか?」
アンジュさんは貴族と関わるのを避けてるため、貴族の出が多い兵士達に知られると
だから、今の騒ぎの矛先を完全に別の誰かに移せれば、今後は安心して会えるようになるかもしれないと思ったのだ。
まあ、この場合うまくいって彼女ができたとしても、浮気相手か? みたない噂が流れるかもしれないけど、今のこの騒ぎよりかはマシだろう。
「か、彼女ですか……」
「ええ、そしたらアンジュさんに向けられる興味が薄れると思いますよ。まあ、二人目の女とか、浮気相手とか思われる可能性もないとは限りませんけど」
「そ、それじゃあ駄目じゃないですか……」
ユリウスが落ち込んでしまったため、冗談ではなくちゃんと本気で対策を考え始める。
その結果、二人だけじゃ良い案が思いつかないとなり、とりあえず事情を知っているギルドに助けを求めることにした。
「なるほど、アンジュさんとユリウスさんの関係については先日お聞きしました。街の方では一切噂は流れていませんが、城内ではそんなことになっているんですね」
「はい、街ではかなり警戒して動いてましたけど、城内では少し気が緩んでいたのかそこで勘づかれたんだと思います」
姫様はもちろんのこと、クロエにもユリウスとアンジュさんの関係について話してある。
というのも、姫様は元々アンジュさんのことを知っているし、クロエには伝える義務があるとユリウスが話していた。
後は城内の人間という枠組みではなく、姫様直属の部下の間ではユリウスとアンジュさんの関係は知られている。
まあ、最初に見つけたのがその人達だし知っていて当然ではある。
「アンジュさんの思いとしては、ユリウスさんと会うのは良いとして貴族と会うのは嫌ということでしたよね」
フィーネさんはそう言うと、「少しお待ちください」と言って部屋から出ていった。
それから数分後、フィーネさんは資料を持って戻ってきた。
「ユリウスさんは確か、王国直属ではなく姫様直属の部隊で、姫様の命令のもとで動くことが可能でしたよね?」
「はい、そうです」
「でしたら、ユリウスさんは姫様の命令で遠征に行ったということにして、偽名と変装でギルドに冒険者登録をして、アンジュさんと会うというのはどうでしょうか? これまでもユリウスさんは姫様の命令で遠征に行かれたことが多数ありますから、そのように偽装すればうまく会うことは可能だと思います」
俺はその手があったかと感心して、ユリウスも目を見開いて驚いた顔をしていた。
王国直属の兵士だと、一々面倒な手続きをしないと遠くに行くことは不可能だが、ユリウスは姫様の部下という立場。
その立場は他の兵士達とは違い、姫様の命令のもとで自由に動くことが可能。
そしてその姫様はこの秘密を知ってる人間の一人でもあるから、ユリウスのお願いだったら聞いてくれるだろう。
「流石、フィーネさんですね。俺とユリウスさんでは思いつきもしないアイディアでしたよ」
フィーネさんはニコリと笑みを浮かべて「お役に立てて良かったです」と言った。
その後、俺とユリウスは城に戻り、姫様の所へと向かった。
「なるほどね。それで私の所に許可を取りに来たのね。ユリウスがこんなにお願いすることは
「……やっぱり、この間の騒動が原因ですか」
「ええ、今ユリウスを一人で動かすのは流石にお父様から何か言われそうね」
まあ、少し前にそれで大騒ぎになったばっかりだからな。
こればっかりは、周りが落ち着くまでは仕方がないだろう。
「だとしたら、また振り出しか……どうしますか、ユリウスさん?」
「そうですね……」
ユリウスに話を振ると、姫様から「何言ってるの?」と首を
「えっ、いやだって今、ユリウスさんを外に出すのは無理って……」
「外に出すのが無理じゃなくて、一人は無理と言っただけよ? 誰か付き添いがいるなら、別にその変装して冒険者になってアンジュさんと会うことは良いわよ」
「ッ! 良いんですか!?」
「ええ、この間のことだってその子のためだったんでしょ? それにユリウスをアンジュさんと引き離したのは私だもの、そのくらいは許すわよ」
ユリウスは涙を流して、姫様に「ありがとうございます」と感謝した。
「となると、ユリウスさんに同行する人が必要ですね。この場合一番適任といえば俺達ですけど、それだとユリウスさんが変装した際にバレる確率が上がりますよね」
「ええ、だからユリウスの同行役は私の部下に頼むことにするわ。そっちの方が、ユリウスも良いでしょ? 表の子はユリウスとの関係性を疑われるかもしれないから、裏の子を使おうかしら」
「……良いんですか? 彼らを私のために使っても」
ユリウスは驚いた顔をしてそう聞いた。
姫様直属の部下は、基本的に姫様が直接スカウトした者達で構成されている。
その中で表立って活動しているのはユリウスを含め数名で、他の者達は基本的に裏の仕事、情報収集を主にしている。
「一人、
「姫様その裏とか表とか、俺に聞かせても良いんですか?」
「ジンさん達なら話しても良いと思ったのよ」
設定資料にも書かれてたけど、本当に凄い姫様だよ。
こんな姫様だから、国王から心配されて城からあまり出されないんだと思うけど……。
「とりあえず同行役に関しては、後で私の方から伝えておくわね。ユリウスが行動しやすいように、王都に隠れ家も用意しておいてあげる」
「そ、そこまでしていただかなくても……」
「良いのよ。冒険者が共同で使う家なら割とあるでしょ? そういう風に偽装しておけば、あの子達も動きやすいし」
ユリウスのためだけに用意するわけじゃないという姫様だが、これまで必要じゃなかったものをユリウスのために用意するという時点でユリウスは感謝していた。
その後、変装道具は俺達用の余りがあるためそれを使うことになった。
「後、決めるのはユリウスさんの偽名ですかね? 何かいい名前思いつきました?」
「……ユーリという名にしようと思います。思い入れのある名でもありますから」
「そういえば、ユリウスと出会った頃、自分のことをユーリと言ってたわね。それって、その時に考えた偽名?」
「偽名と言いますか、あだ名のようなものですね。アンジュが私のために付けてくれた名前なんです」
エヘヘと笑みを浮かべるユリウス。
こんなユリウスを見るなんてと考えていると、姫様も同じことを考えていたのか少し驚いた様子をしていた。
「とりあえず、今日のところはこの辺で終わりましょうか」
「はい、色々とありがとうございます。今後も姫のお役に立てるように頑張ります」
「ええ、ジンさんも色々とユリウスのために動いてくれてありがとう」
そうして、この日の話し合いは終わった。
その日の夜、俺とクロエはなぜか姫様に部屋に呼ばれて部屋に行くと、姫様と知らない女性が居た。
「姫様、こんな夜にどうしたんですか?」
「ええ、ジンさん達には先に紹介しておこうと思ってね。この子の名前はリリアよ」
「初めましてジン様、クロエ様。リリアと申します」
紹介された女性は、そう俺とクロエにお辞儀をしながら挨拶をしたので、俺達も挨拶を返した。
どこかで聞き覚えがあるなと思ったけど、この女性、ゲームでは姫様のメイドとして
脇役で特に設定資料にも細かく書かれていなかったが、姫様の部下の一人だったんだな……。
その後、呼び出されたのはリリアを紹介するだけだったので、俺達は姫様の部屋を出てそれぞれの部屋に戻った。
そして翌日、俺はユリウスと共にギルドを訪れ、ユリウスの冒険者登録を行っていた。
本来は受付ですることなのだが、フィーネさんが事情を知っているため、いつも使ってる相談室でやってくれることになった。
「ユリウスさんは冒険者として活動というより、アンジュさんと会うために冒険者になるんですよね?」
「まあ、そうですね。姫からは、一応冒険者としての活動もちゃんとするようにとは言われていますけど、基本的にはそっちを優先しても良いって言われています」
「だったら、俺みたいにパートナー登録をしておいた方がいいと思いますよ。俺もそのお陰でだいぶ素性を隠しながら活動できています。ユリウスさんの場合、目立てばアンジュさんと会うのも難しくなると思いますから」
そう俺がアドバイスをすると、ユリウスは「では私もパートナー登録をしておきます」とフィーネさんに言った。
その後、ユリウスの冒険者登録を終えた俺達は、そのまま帰るのではなく別室で待っていたアンジュさんのもとに向かった。
「それで、昔の名前で今後は冒険者としても活動するの?」
「うん、アンジュには迷惑を掛けられないからね」
「まあ、私としても変に貴族に目を付けられないなら良いけど……ジンに迷惑掛けすぎじゃない? いくら任務で受けてるとはいえ、内容は〝姫様の護衛兼話し相手〟でしょ? 聞いたわよ。この装飾品のミスリルを手に入れるために、大騒ぎを起こしてジンに助けてもらったって」
「あっ、それは……」
アンジュさんに詰められたユリウスは、笑顔だったのが一瞬にして焦った様子へと変わった。
まあ、確かに依頼内容の中にはユリウスを助けるなんて書いてない。
金級冒険者のアンジュさんとしては、依頼内容に書いてないことをさせているユリウスに怒りを抱いてるんだろう。
「アンジュさん、一応そこは俺達が勝手にやったことなんで大目に見てやってください。それに今は、ユリウスさんに剣を習ったりして対価はもらってますから」
「……ジンが良いなら私が強く言う必要ないけど、それでも今後は気を付けてよね?」
「はい! ごめんなさい!」
ユリウスは、頭を下げてそう謝罪をした。
「それとジン、ユリウスの剣術に飽きたら私の所に来てもいいのよ? ユリウスに剣術を教えたのは私だからね」
「……えっ?」
アンジュさんとユリウスのやり取りを見て笑っていた俺に、アンジュさんは驚きの発言をしてきた。
剣聖ユリウスに剣術を教えたのがアンジュさんだって!?
そんなこと、設定資料にも書かれていなかったはずだぞ?
「それ、本当ですか?」
「うん、だって元々遺児のユリウスが姫様に認められるほど、剣がうまいなんておかしいでしょ? 私が何も知らないユリウスに一から教えたのよ」
アンジュさんの言葉が信じられない俺は、隣で頭を下げた状態のユリウスへと視線をやった。
「それは本当ですよ。私の剣の師匠はアンジュ。まあでも、今やったらどっちが勝つかわからないけどね?」
「へ~、あの頃はたった一度も勝てなかったのに、そんな大口
「ふふっ、これでも剣聖としてその名に恥じない努力と経験をしてきたからね。あの頃とは違うんだよ」
うん、完全にこの二人やる気になってるな……。
義兄妹のような存在って言ってたけど、本当は血が
そう思っていると、二人は久しぶりの再会を祝うかのようにお互いの成長の確認も含めて戦うことを決めた。
「ちょ、ちょっとアンジュさんユリウスさん? そんな急に戦うって、ギルド側も準備がありますから、無理ですよ?」
「大丈夫よ。こうなるかもしれないから、先にレイネに場所の確保をお願いしておいたわ」
「昔から準備が良かったけど、そこは変わってないみたいだね」
「一人でここまで成り上がった私だもの、これくらいで感心してもらったら困るわ」
お互いに
まあ、でも俺の知らないアンジュさんの実力をこの眼で見られそうだし、これはこれでよかったな。
面倒な役割をしてるなと思っていたけど、この機会を逃さなくて良かったと思いつつ、二人の後ろをついていった。
「レイネさん、あの二人大丈夫ですかね」
「大丈夫だと思いますよ。私も兄がいるから何となくわかりますけど、アンジュさんはユリウス様に再会できてただ嬉しいんだと思います」
二人の様子を心配した俺に、レイネさんは笑みを浮かべてそう言った。

それから訓練場へと移動して、ユリウス達はそれぞれ準備運動を始めた。
その様子から二人ともガチでやるというオーラを感じる。
「二人とも本気で戦うみたいですね」
「そうですね。アンジュさんは、ユリウス様との戦いを楽しみにしていたんだと思います。ユリウス様と再会してから、ここ最近ずっと剣術の訓練を本気でやっていましたから」
なるほどな、顔には出してなかったけどアンジュさんもユリウスと再会できたのが嬉しかったのか……。
あれ? だとしたら、おかしくないか?
「アンジュさんってユリウスさんがこの国にいること知ってたのに、自らは会おうとはしなかったんですか? ユリウスさんが王都には居ないだろうって思い込んで、王都を探していませんでしたけど」
「……一応、アンジュさんなりにユリウス様にヒントは出していたんですよ。ただそのヒントに気付かないユリウス様に
レイネさんはそう言うと、アンジュさんが出したヒントについて教えてくれた。
元遺児の冒険者は他にもたくさんいる中、アンジュさんは一人で活動を続けていた。
最初の頃は、自分の名が貴族に知れても良いからユリウスに自分の居場所を伝えるためにあえて隠していなかったらしい。
しかし、自分が銅級冒険者まで一人で上げたのにユリウスが気付く様子がなかった。
その状況でアンジュさんはユリウスが自分のことを探してないと思い込み、自分の情報は全てを隠すようになったとレイネさんは話してくれた。
「正直、あの頃のアンジュさんは冒険者の中でも一目置かれた存在でしたから耳に届いてもおかしくないと思っていたんですけど、私の方でその時のことを調べてみると、時期的にユリウス様が国外でアンジュさんのことを探している時と重なってしまって」
「ああ、見事に行き違いをしたということですか……」
「はい、アンジュさんもそのことを聞いて、あの時のことは水に流したのですが……それでも帰国後に噂ぐらいは耳にするでしょ! と言って、少しの間、
まあ、アンジュさんの言い分もわかるけど、ユリウスが悪いとは言い切れないな。
アンジュさんがどういう思いで過ごしてきたのか俺はわからないが、ユリウスはアンジュさんに大切な想いを抱いていた。
というのは、あの事件で目の当たりにしている。
「まあ、今はそんな感情はなく、ただお互いに成長した力を比べたいという思いしかなさそうですけどね」
レイネさんは笑いながらそう言うと、審判役として二人の間へと移動した。
金級冒険者のアンジュさん対剣聖ユリウスの試合か……こんなに面白いことが起きたって、姫様が知ったら怒りそうだな……。
っと、試合始まったみたいだな。ちゃんと見た後で報告すれば怒られはしないだろう。
そう思いながら俺は、ユリウス達の試合に集中した。
試合開始直後、両者同時に飛び出し、剣と剣がぶつかり合って
「ッ、目、目に砂が……」
目を離さないように集中して見ていた俺は、見事に目の中に砂が入り一瞬にして視界を奪われてしまった。
くっ、こんなことしてる場合じゃない! 早く見なきゃ!
俺は急いで水魔法で目を洗い、視界を戻してユリウス達の方へと視線を戻した。
「……すげぇ~」
これまでたくさんの戦いを見てきたが、ここまで凄い戦いはまだ見たことがない。
ユリウスが強いのは知ってたけど、アンジュさんもあそこまで強かったのか……。
以前はギルドの試験官として、魔道具で力を抑えられていたからここまでの強さを感じなかったけど、今はその
この強さ、金級冒険者でもトップクラスだろうな……。
「ハァッ!」
アンジュさんとユリウス、ユリウスが上だろうと勝手に思っていたが、予想とは違ってユリウスは防戦一方だった。
「くっ、アンジュ。あの時から、またさらに腕を上げたみたいだね」
「あたりまえでしょ? あれから何年
嬉しそうに言うユリウスに、アンジュさんは
「そ、そんなことは」
「そう? だったら、何でまだあの時に注意した癖が残ってるの?」
アンジュさんは左右にブレながら動くと、サッとユリウスに接近して足払いを放った。
ユリウスはアンジュさんの動きについていけなかったのか、その攻撃も簡単に食らっていた。
あのユリウスが簡単に攻撃を受けた? マジかよ……。
「目に頼りきりになる癖、まだ直ってないわね。前に注意したことを直してないって、それでも成長したっていうの?」
「……ふふ、アンジュ。やっぱり、凄いね」
ユリウスは
「ごめんねアンジュ。アンジュと戦ってると昔のことを思い出して、昔の癖が戻っちゃってたみたい」
ユリウスは起き上がると、先ほどまでとは違う剣の構え方をした。
アンジュさんはその様子の変化に気付くと、フッと笑って剣を構えなおした。
そういえば、さっきまでのユリウスの剣術、いつも見てる剣術じゃなかったな……もしかして、ユリウスの奴、ワザと昔の剣術で勝負してたのか?
ユリウスは普段の剣術でアンジュさんと戦い始め、さっきまで防戦一方だったのがいい戦いをしている。
「はあッ!」
「くっ!」
剣術の型を変えたユリウスが、アンジュさんを押していた。
アンジュさん、さっきまでとユリウスの剣術が違うせいで少し戸惑ってるみたいだな。
「へえ、思っていたより腕を上げていたのね。流石に教えられた剣術じゃなくて、自分で考えた剣術に進化させていたのね」
「まあね。さっきまでは、ちょっと昔のことを思い出して引っ張られてたんだ。こっちが私の本来の剣術。アンジュから見て、どうかな?」
「良いんじゃない? ……まあ、負けるつもりはないけどね」
それからお互いに魔法は一切使わないというルールの中、全力で戦い続け、勝者が決まらず一時間ほどが経過した。
「ジンさん、あのお二人はずっと戦ってるんですか?」
いつまでも訓練場から戻ってこない俺達のことを心配に思ったフィーネさんが、観戦してる俺にそう声を掛けた。
「一度、終わりかけたんですけど、再開してからはずっと戦い続けてますね。正直、剣術でユリウスさんに勝てる人はこの国に居ないと思ってたんですけど、その認識が変わりました。剣術においての最強はたぶんアンジュさんですね」
この国で一番の剣士として〝剣聖〟の名を王から授かったユリウス。
そんなユリウスの剣の師匠であるアンジュさんは、もちろん強いとは思っていたけど、戦う前まではユリウスほどではないと思っていた。
「ユリウスさんは試合が始まった時、昔の剣術で勝負してて防戦一方だったんですよ。そこから今の剣術に変えて戦いを再開したんですけど……アンジュさん、力を隠してユリウスさんと戦っていたんですよ」
「えっ? ユリウス様相手に力を抑えていたんですか?」
「ええ、俺もそれを見た時は目を疑いましたよ。それまでの動きも速かったんですけど、力を解放したアンジュさんはより速く動いてユリウスさんの動きについていったんです」
たぶん、レベルや能力値で言えば、ユリウスの方が高いと思う。
姫様の頼みで色んな魔物を倒し、さらには冒険者以上にどこにでも入れるため、強い魔物と戦ってきた経験はユリウスの方が多いはずだ。
しかし、その経験差をアンジュさんは剣術、そしてたぶん何かしらの能力で埋めている。
アンジュさんは設定資料にも書かれていなかったから、どんな能力を持ってるのかわからないが、今までの戦いを見て〝神の加護〟は持っているとは思う。
「レイネさんからアンジュさんの強さはある程度、ジンさん達との試合前に聞いていましたが……まさか、剣聖であるユリウス様と互角にやりあえる力を持っていたなんて……」
フィーネさんはアンジュさんが自分が思っていた以上に力を隠していたと知り、驚いた顔をして二人の試合を見ていた。
その後、お互いに体力の限界を知らないのかずっと続けるので、レイネさんが「終わりです!」と言って強制的に終わらせた。
結果として勝敗は決まらなかったが、お互いの成長を感じたことでいい笑顔を浮かべて最後は握手をしていた。
「いや~、アンジュが強いことは昔から知ってたけど、まさかここまで強くなってるとは思わなかったよ」
「何言ってるの? ユリウスに剣を教えた私が強くない方がおかしいでしょ? それにあの頃も、変な
「えっ、そうだったの? でも、最後の方は姫様に認められるくらいに剣がうまくなった私を圧倒してたよね?」
「それが師匠と弟子の違いよ。弟子に悟られないように力を隠すのも、弟子への心遣いよ」
そうアンジュさんが笑みを浮かべながら言うと、ユリウスは「アンジュはやっぱり凄いね」とアンジュさんの頭に手を伸ばして
一瞬嬉しそうな表情をしたアンジュさんだったが、この場に俺やレイネさん達がいることに気付いてサッと手を
「大人になったんだから、あの頃みたいに頭撫でないでよ……」
「あっ、ごめんごめん。アンジュ、頭撫でられるの好きだったからつい癖で」
笑いながらユリウスがそう言うと、アンジュさんは顔を赤く染めて「バカッ」とユリウスの肩を軽く殴った。
それから二人は、試合を見ていた俺に感想を聞いてきた。
「アンジュさんには申し訳ないんですけど、正直、ユリウスさんが圧倒すると試合前は思ってました。その、剣聖として色んな経験をしているし、剣術だって王国最強と言われてるくらいなので……でも実際に戦ってるのを見て、それは間違っていたと思い知らされました。剣術に関して言えば、ユリウスさんよりアンジュさんの方が上だと」
正直に感想を言うと、ユリウスは「ジンさんは正直だね」と笑みを浮かべながら言った。
「剣術だけって言われ方は
「ふふっ、そう言うけどアンジュは魔法が苦手じゃなかった?」
「……一応、あれから少しはできるようになったわよ。まあ、戦う上で使うのは剣術だけだけど」
それから訓練場の使用時間も迫ってきてるとレイネさんに言われ、俺達は相談室へと移動することにした。
相談室へと移動してきた俺達は、フィーネさん達が
「アンジュさんって、どうやってあんな剣術を身に付けたんですか?」
「努力。自分の人生を変えるため、剣ならそこら辺に落ちてる棒でも鍛えられたから、食事に余裕がある時は一日中剣を振ったりしていたわ」
「そうだね。私とアンジュが会った時から、アンジュは暇さえあれば棒を握って剣の型の練習とかしてたね。アンジュの訓練時間を確保するため、アンジュの分もご飯を用意してその対価に剣を教えてもらってたよ」
ユリウスは昔のことを思い出しながらそう言った。
「今だから言えることだけど、当時ユリウスと出会った頃、一人じゃ何もできないユリウスのことを嫌ってたから
「……やっぱり、そうだったんだね。朝から晩までぶっ通しで訓練を続けてたから、薄々そうじゃないかなとは思ってたけど」
「ええ、でも別に
「まあ、それのお陰で姫様に拾ってもらえたけど」
ユリウスは釈然としない気持ちのまま、ジト目でアンジュさんを見つめた。
この二人、遺児の集まる場所で出会ったと言ってたけど、設定にはその辺りは詳しく書かれていなかったな。
気になるところだけど、当時のことを聞いて二人が嫌な気持ちになる可能性があるしな……。
そう思っていると顔に出ていたのか、アンジュさんから「昔の話聞きたいの?」と逆に聞かれた。
「えっと……その、はい。ユリウスさんとアンジュさん、そんな凄い二人がどうやって遺児として生活していたのか気になります」
「別に面白い話はないわよ? 施設でユリウスと出会って、最初はユリウスが勝手について回って来てたのよ。それで次第に一緒にいる時間が長くなって、お互いに信頼して一緒に仕事とかをしていたのよ」
「遺児と言っても、私達の場合はまあちょっとした施設と言いますか、そこまで管理はされてないけど雨風は
「そんな施設があるんですね。知りませんでした」
そんな俺にアンジュさんは「私達が暮らしていたところだけよ」と言い、ユリウスも言い
「その施設自体はもうないんです。随分前に色々と事件がありまして、施設を運営していた人達は全員捕まったんです」
「……もしかして、悪い系の人達がやってたんですか?」
「半分ですね。お店側は善意で協力していたんですけど、運営元の者達が色々とやっていまして、数年前にその施設は国が消したんです」
なるほど、なんとなく理解した。
でも逆にユリウス達はその施設のお陰で、他の遺児とは違いある程度の生活レベルを保った状態で生きてこられたということだろう。
「今となって思えば、あの施設のやり方に色々と不自然なところもありましたけど、あの頃は生きるので精一杯でしたからね。未来を見ていたのは、アンジュくらいだったと思います」
「私は当然、あの施設の黒い部分は知ってたわね。だから、信用せずに自分で生き残る術として剣術をずっと磨いていたのよ」
「話してくれて、ありがとうございます」
そうお礼を言った俺の視線には、俯いて悲し気な雰囲気を出してるレイネさんが居た。
「アンジュさん、私には昔のこと、
「ち、違うわよ。ジンにはユリウスが色々と迷惑を掛けたから、それのお礼というか、そのアレよ! 本当だったら、このことは絶対人に話す予定はなかったの! ユリウスのせいでおかしなことになったじゃない!」
それからアンジュさんはレイネさんを慰め、今度スイーツを