第十一章 終章



 ──リガーランド共和国


 べドナーの街の冒険者ギルドはいつにもましてガヤガヤとざわめいていた。つじは、近くに居た顔見知りの冒険者に声を掛けた。

「ん? どうしたんだ?」

「おう、そういえばあのシゲトって天位はお前らの知り合いって言ってたな」

「ん? ああ。そうだが……。どうしたんだ? まさか──」

「とんでもねえな。今度はゴードンをとしやがった」

「なに?」

 辻が振り向くと、じっと辻を見つめるどうもとと目が合う。堂本は表情も変えずに黙ったまま辻を見返していた。

「おい、堂本っ」

「ああ。聞いている……」

 堂本達もゴードンのことは知っている。ディザスターの拠点はこの街とは別の街ではあったが、同じ共和国内で冒険者をやっていればうわさは嫌という程聞かされていた。

 その強さ。残虐性。

 カートンが天ちした時に、冒険者達は必ずふくしゅうに動くだろうと言っていた話も。

「……良かったじゃないか。心配していただろ? お前達だって」

「そりゃ……。君島達も一緒に居るんだろ? 心配はしていたが……」

「面白いな。転移時の年齢も、守護精霊も、くすのにはひいでた物がないはずなのにな」

「ああ……。一体どうなってるんだ」

「分からない。が。俺達は俺達のやることをやるだけだ」


    ◇◇◇


 ──グレンバーレン王朝・シュメール


 城の訓練室でいけともは剣を構え、荒く息をしていた。一方向かい合う様に立つ女性は対照的に涼しげで、その美しい口元には笑みすら浮かべてきた。

 女性の名はアルタデナ。池田と同じディルムン騎士団に属するてんの一人だった。そして池田の指導を任されている女性だった。

「トモキ。何をあせっている」

「あ、焦ってはないですが……」

 池田は言うが、アルタデナから見てどう考えてもいつもの池田ではない。普段は年齢に見合わない冷静な青年である池田が、今日はがむしゃらに訓練に身を投じていた。

「……シゲト。のことか?」

「え?」

 ディルムン騎士団はこの世界で最古から存在し、そして最強の騎士団として知られていた。そのため格式も求められ、この世界の歴史から礼儀作法、更にはダンスまで池田の日々のカリキュラムに組み込まれていた。それもあり階梯上げの為の魔物狩りなどはたまにしかやらせてもらえていなかった。

 ──皆は、どこまで強くなったんだろうか。

 天空神殿で堂本達は階梯を上げるために冒険者となり、魔物との戦いをどんどんとこなしていく計画を立てていた。

 その中で、しげが再び天堕ちを成し遂げ、ランキングを更に駆け上がった。当然焦るのは仕方ないことだった。

「焦るな。お前はまだ若い」

「わかってはいますが……」

「我々のやり方を信じろ。お前はまだまだ強くなる」

「……はい」

「千年にも及ぶディルムン騎士団のやり方をな」

 自信に満ちたアルタデナの表情を見つめながら、次第に池田は平静を取り戻していく。

 ──そうだ。この人達の強さを見ろ……。信じなきゃ。

 池田の表情の変化を見て取ったアルタデナは「もう大丈夫だ」、とニヤリと笑う。

 この子の未来は、輝いている。と。


    ◇◇◇


 無事に街に戻った俺達は真っ先に共同浴場に向かう。ヤーザックは突然街から出かけたため仕事がまっていたようだ。ストローマンに捕まり詰所に引っ張られていく。


 俺のレグレスとの強化合宿は終わったが、スペルセスとマイヌイによる生徒達の特訓はまだ終わらない。とりあえず七階梯になるまで特訓に付き合ってくれるようだ。

 この世界の階梯は、俺達の世界のゲームの中のレベルと違い、十階梯と上限がかなり少ない。それでも、一階梯上がった時の能力の上がり幅はかなりの物なのだが。

 その中で八階梯以降は特に上がり方がかなり渋いらしい。命を削った戦いをするリスクなどもあり、そのくらいの階梯で止める者も多いという。

 レグレスは、以前の様にまた、スペルセスと一晩酒をみ交わし、次の日には「じゃあ、また会おう」とあっさりと帰ろうとする。

「ちょっ! レグさん!」

 ジェヌインの背中に揺られ出発しようとするレグレスに慌てて声を掛ける。

「どうしたんだい?」

「あ、あの……色々ありがとうございます」

「俺が楽しんでるんだから気にしないでよ」

「だけど、ホントに助かりました」

「うん、先生もユヅキとの関係をちゃんとハッキリするんだよ?」

「なっ!」

 突然きみじまの名前を出され、俺は思わず口ごもる。その横で君島がうれしそうに「大丈夫です!」と答えながら俺の腕をギュッと抱える。俺は固まったまま必死で笑顔を作る。

「これから、どこへ行くんですか?」

「う〜ん。せいきょくの守護を持つ子が現れたっていうから、見に行ってみようかなって」

「聖極? って。堂本!」

「そう、ドウモトキョウヘイ。彼も面白そうだよね」

「あの! なんていうか。堂本に会ったらよろしくおねがいします!」

「ん。まあ、あまり当てにしないでね」

「それでも。レグさんなら……」

 俺が応えると、レグレスは少し困った様に頭をかきながら俺達を見渡す。

「まいったなあ。そんなんじゃないんだけどなあ、うん。まあ気にかけてみるよ」

「はい!」

 レグレスはそう応えると、ジェヌインを進ませる。

 メラが、君島の肩の上で「ピーッ」と鳴くと、ジェヌインの大きいお尻が揺れ尻尾がぐるぐると回る。ディクス村からの帰り道、メラがジェヌインの頭の上を気に入ってずっと乗っていただけに、何か友情的な物が芽生えたのだろうか。

 その上に乗ったレグレスは一度手を振るとあとは振り向かず、やがて見えなくなった。


 ブライアン達や、アムル等もすでに街から出てそれぞれの場所に向かって帰っている。スペルセスが言うには、ああいう冒険者が俺の情報を広めることで、天位の置き換わりを狙った冒険者が減るきっかけになるらしい。

「だ、大丈夫だ。ちゃんとお前の強さは広める。なあ?」

「お、おう。俺達は階梯上げに来ただけで、たまたまそういう場面を見ただけだけどな」

「そ、そう。階梯。そうだ。階梯上げに来たんだもんな」

 苦しそうに言うトライデントの面々だったが、ブライアンはかなり上位であることもあり、その言葉はきっちり広まるだろう。

 特にディザスターを全滅させたこと、そこらへんは大きいという。

 俺としても、無駄な戦いはしたくはない。そういう流れになるなら願ったりかなったりだ。


 そしてミレーも村の教会の話をまとめ終わり、再び天空神殿へ帰る日が来た。帰りに連邦国の首都にある聖堂で教会建設を進める手続きをしていくらしい。

「それでは……私も」

 この世界の各国の聖堂には転移を受け入れる魔法陣があるために、来るのは楽だが、送る側の魔法陣は天空神殿とウィルブランド教国にあるエンビリオン大聖堂にしかない。帰りは大変のようだ。

 わざわざ謝罪のために来てくれたことにむしろ申し訳なく感じる。

「シゲトさん。あのことはしばらく私の心の中にしまっておきます。安心してください」

「すいません。助かります」

「いえ……。シゲトさんにはこの世界を楽しんでいただきたいですし」

 恐らく俺のかいていのことは神官であるミレーにとっても色々な問題があるのだろう。レグレスの頼みもあるのだろうが、それでも俺には好意的に接してくれていた。

「先生……。あのことって?」

「え?」

 俺とミレーの話を聞いていた君島が俺に尋ねる。何か顔は笑っているが……。目が笑っていない。俺はなんとも言えない圧に後ずさりをする。

「それは私とシゲトさんの秘密です」

 そんな君島の火にミレーが油を注ぐ様な発言をする。

「ちょっ。ミレーさん!」

「ふふふ」

「先生!」

「だから違うって!」


    ◇◇◇


 それから一ヶ月ほどで、ビトーの宿屋の修繕が終わり、俺達は四人で引っ越しをした。

 州軍の仕事として定期的に街の周りや、街道周りの魔物を間引かないとならないのだが、今三人は、スペルセスとマイヌイの訓練をひたすら繰り返す日々だ。

 俺も連邦軍所属だが、州軍預かりということで他の州兵達と一緒に間引き作業にも参加する。今度道路補修の作業を教えてもらえるということで、それは楽しみだ。

 ビトーは、はじめは俺達がやってきたことに随分緊張をしていたが、少しずつ慣れてくると、会話もする様になる。

 俺としてはかなりこの子を気にしていたので、少しずつ子供っぽい顔を見せ始めるビトーにホッとしていた。今は、下宿屋の管理人として、朝食くらいは作れる様にと料理を教えている。一人暮らしの経験のある俺が簡単な料理などの手ほどきをする感じだ。


「先生のおかげです。また先生に助けられてしまいましたね」

「まあ、俺のせいで巻き込んでしまったというのもあるしな」

 そう言うと、君島は口をとがらせ不満げな顔をする。

「何を言ってるんですか。更にもとを辿たどれば、私を助けに来てくれたから、先生は天位に成ってしまったんです」

「ん? まあ、それはそうだが……」

「早く私も強くなって、先生の守護騎士として頑張らないと。ですからっ!」

「守護……か」

「ずっと一緒ですからね」

 そうほほむ君島に、そろそろあらがえなくなってきている自分を感じていた。