第八章 様々な思惑



 重人達がって数日。ストローマンは南門の門番によばれて村の中を走っていた。日はだいぶかげり、夕刻から夜へと移り変わろうとしている時間だった。

 ストローマンが南門につくと、門番の一人が冒険者らしき三人と話をしていた。

「どうした?」

「あ、ストローマンさん。冒険者のようです」

「ふむ……。こんなへんな村にどんな用だ?」

 ストローマンが尋ねると冒険者のリーダーらしき男がフードを外す。フードの下には色白な、女性と言われても納得できそうな程の整った顔が現れる。だがその目つきはせいかんで歴戦のを思わせる眼光だ。左右の髪から飛び出た耳はエルヴィス人の特徴だ。

「いやあ、思ったより遠かったな。なーに。ちょっと階梯上げをと思ってね」

「ここは滞在するにしてもなにもない街だぞ? 食堂どころか宿屋もない」

「ん? だがここはドゥードゥルバレーでいんだろ?」

「ああ、それは間違いない」

「階梯上げにいい場所と聞いてきたんだ。どうせ階梯上げで街にはいねえよ」

「……わかった。他の二人もフードを取ってくれ」

 そう言われて後ろの二人もフードを外す。ストローマンは三人をじっと見つめる。

しんみんろくは色とか付いてないだろうな」

 神民録は剝がさないでも、悪事を働きカルマがまれば色が次第に黒くなる。だが国境のゲートならいざしらず、村の門をくぐるだけで神民録を求められる様なことは普通はない。おや? と言った表情でエルヴィス人がストローマンを見返す。

「神民録を? ……何かあったのか?」

 エルヴィス人の男の言葉にストローマンは慌てた様に答える。

「いや、ただ、たまに冒険者がめ事を起こしたりするからな」

「大丈夫だ。俺達は真っ白さ」

「本当だな。……ま、まあ良い」

「それにしても随分警戒してるな。なんかあったのか? たかだか階梯上げによ」

「……いや、問題ない。魔物との前線の街だからな。色々な人間が集まるんだ」

「ふん。……ま、俺達は階梯が上がれば十分だ。それは信用していいぜ」

 そう言うと三人は街の中に入っていく。確かに階梯上げをしに来る冒険者は居ない訳じゃない。とりあえずしげが居ないことに、ホッとするストローマンだった。


 三人の男達は、街の広場で幕を張る。石畳の上でまきを組み上げていた小柄な男がエルヴィス人の男に話し掛ける。

「ブライアン、どう思う?」

「当たりだと思うな」

「やはりそう思うか。警戒が強すぎるな。さて、後は相手を見つけるだけだな」

「ま、急がなくても良いさ。適当に階梯上げを続けながら絞れば良い」

 かつては人でにぎわっていたであろう広場も、今では歩く者もまれだ。そんな寂しい広場であっても城壁の中というだけで気を緩めることは出来る。テントと言うよりタープの様な幕の下で火をおこし、ゆっくりと温かい食べ物を口にできるだけで十分であった。


    ◇◇◇


 冒険者が階梯上げに来た話はすぐに君島達へも知らされた。一応何かあった時のために警戒する様にということだ。

 翌日、三人が詰所に行くと魔物の素材を精算するカウンターで三人の見知らぬ男が話しているのに気がつく。そのリーダーらしい男を見てさくらが興奮する。

たか君みて! エルフ!」

「え? ああ。エルフじゃなくてエルヴィス人だろ?」

「そうだけど。すごいイケメンじゃない?」

 桜木の言う様に、エルヴィス人の男は真っ白い肌に切れ長の目。まさに映画にでも出てきそうな美男子だった。キャーキャーと喜ぶ桜木にしなが少し不機嫌そうに答える。

「でもさ、先生が目当てかもしれないんだろ? 悪いやつかもしれないぜ」

「あんなかっこいいのに? どうなんだろ」


 この村には冒険者ギルドの支所などはない。そのため州軍の詰所で冒険者達は魔物の素材などを買い取ってもらえるかの確認をしていた。

 一方のきみじま達は詰所にスペルセスと待ち合わせに来ていた。そんな君島達に気がついたエルヴィス人の男、ブライアンが不思議そうに話しかけてくる。

「あれ? こんな子供達がなんでこんなところに?」

 話しかけられた仁科があたふたと答える。

「え、子供じゃない。俺達は州軍だ」

「……州軍? おお。勇ましいな」

 必死に気張る仁科の姿が面白かったのかブライアンがニヤリと笑う。その顔に気を悪くした仁科が言い返そうとした時、執務室からスペルセスとマイヌイが出てきた。

「またせたな。……ん? お前達は?」

 仁科に話しかけていたブライアンを見て、スペルセスが不思議そうな顔で尋ねる。そのブライアンはスペルセスの顔を見て、驚きの表情を浮かべた。

「なっ……。なんでこんなところに賢者が……」

「ほう、知ってるのか。ということは連邦の冒険者か? ここドゥードゥルバレーも連邦国の一部だからな。連邦の賢者が居ても不思議じゃないだろ?」

「いや、不思議だろ? なんで国の頭脳がこんな田舎に」

「最近転移してきた優秀な人材がいてな、階梯上げに来ておるんだ」

 するとブライアンの後ろで話を聞いていた男が思わずつぶやく。

「転移してきた優秀な人材って……。まさかてんのか?」

 その言葉に慌ててブライアンが止めようとするが、スペルセスが耳ざとく聞いてくる。

「なんだ? お前達は天位が目当てか」

「い、いや違う。階梯上げだ」

「ふむ……。まあ、そういうことにしておこうか」

「そういうことなんだよ」

「ほっほっほ。まあ良い。どうせ村には居ないしな。さてワシも出かけるとするか」

 スペルセスは意味ありげにブライアン達に答えると、君島達に声を掛けて詰所から出ていく。しばらくその姿を見つめていたブライアンだったが、すぐに詰所を後にした。


 スペルセス達が門前で準備をしていると、再びブライアン達三人がやってくる。三人も階梯上げの為に村から出ていくため当然ではあるのだが、道路整備の州兵達と獣車の準備をしているスペルセスを見て近づいてくる。

「途中まで俺達も乗せてもらえないか?」

「ん? ……荷獣車に空きがあればいいと思うが」

 スペルセスが確認すると三人ならなんとかなりそうだ。ブライアン達はそのまま整備道具の乗った荷獣車に乗り込み道路整備の現場まで同行する。

「なあ。スペルセスさんよ。その子達はそんなに有望なのか?」

 荷獣車に揺られながらブライアンは軽い感じで声を掛けてくる。

「そうさな。せいだい。そう言えば分かるか?」

「まじかよ! 誰だ? その兄ちゃんか?」

「それは内緒だな。だが聖戴ならかいていを上げれば天位の見込みが高い。分かるだろ?」

「……なるほど。賢者が出張る訳だ」

 ブライアンも連邦の冒険者だ。連邦国は列国と比べ天位が少なく、一人でも欲しいという現状は分かっている。スペルセスの方は自分がここに居る確かな理由を示すことで、シゲトの存在を隠そうとする腹があった。

「で、お前らも奥地での階梯上げをするんだ。それなりにやるんだろ?」

「ああ。トライデントだ。聞いたことくらいあるだろ?」

「ほう。ということはお前さんが双剣風雅か」

「お。賢者様に知ってもらえているとは光栄だね」

 道路整備の現場まで来るとおのおの荷獣車から降りる。ブライアン達が更に奥へと進んでいくのを見送りスペルセス達も階梯上げを開始する。


 シゲトがレグレスと階梯上げに奥地へ向かってから、二週間ほどがとうとしていた。

 ゆっくりながら三人は階梯をさらに一つ上げ、五階梯になっていた。特に桜木に至ってはすでにランキングも四桁台にのり、聖戴といわれる精霊のすごみを感じさせていた。

「先輩ー。大丈夫ですって。レグさんが一緒なんですよー」

「そうね……それは分かっているの。でもやっぱり心配なのよ」

「もしかして心配なのはミレーさんだったり?」

「ちょっと! やめてよ。先生は大丈夫なんだから」

「へへへ。先生は真面目を絵に描いた様な人ですからね。うわなんてしないですよ」

ちゃん!」

 夕食を取りながら君島と桜木が話をしている横で、仁科がお代わりした肉をむしゃむしゃと食べている。

「それにしても鷹斗君、食べすぎじゃない?」

「ん? 桜木は良いのか? 食って体力をつけないと」

「あー。魔法使いはそんなに体力いらないもん」

「そうは言っても、近接の訓練だってやってるんだろ?」

「まーね。でもガチムチになりたくないもん」

 近接に関しての訓練はマイヌイが担当しているが、近接職は君島と仁科の二人いる。同時にというのをあまり好まないらしく、マイヌイは二人を一日交替で交互にしごいていた。

 マイヌイは実直で元々自らを追い込む様な訓練がみついている軍人だった。当然特訓も厳しく、激しい。だが、それでも二人は文句も言わずそれに耐え、次第にベースの身体能力も増していっていた。


    ◇◇◇


 ギャッラルブルーから山に向けて進んだところに鉱山がある。州兵達からうわさとして、モンスターパレードはここから起こったのではないかという話を聞いていた。

 レグレスはそれをことも無げに肯定する。

「そう、ここが原因だからね。ここが一番フレッシュな魔物を美味おいしく頂けるんだよ」

 本当にレグレスは一体何者なのだろうか。考えても分からない物を考えてもしょうがないが、ミレーもあきれるくらい色々なことを知っている。本当に不思議な男だった。

 俺達はそのギャッラルブルー鉱山に来ていた。魔物を狩りながら一気にギャッラルブルーまでやってきたのだが、ジェヌインは今までその実力を隠していたかの様にかなりのスピードで進む。君島とあれだけ苦労して逃げ帰ってきた行程を、わずか数日で踏破してしまう。しかも上級の魔物と一緒なのもあり、夜に襲われることも稀だ。

 俺の居合は全能力を集中させている特性上、どんどん自分の魔力をも使ってしまうため、魔力が切れやすいという欠点がある。そこでレグレスが持ち出したのが一つの指輪と一つのネックレスだった。

「これはどっちも魔力の回復を早める効果のある魔道具なんだ」

「魔道具、ですか」

「うん、あ。あげないよ? 貸すだけだからね。俺も今回ドゥードゥルバレーに来るにあたり友達に借りてきたんだよ。必要かなって思ってさ」

「え?」

「なんとなくね、ひひひ。だからまあ、また返さないといけないからさ」

「わ、わかりました」

 話をしているとおずおずとミレーがそれを見せてほしいと言う。レグレスはことも無げにミレーに投げ渡すが、慌てて受け取ったミレーはそれを見て恐る恐る尋ねる。

「これってまさかアーティファクトですか?」

「お、分かる? 特にこの指輪がやばくてね、魔力の回復スピードが倍になるのよ」

「え。ええ? ば、倍ですか……。そんな物、教国にだってあるか分からないです」

「それってそんなにすごいんですか?」

「間違いなく国宝級だと思いますよ」

「げ……。ちょっとレグさん、そんなの借りれないですよ」

「大丈夫、大丈夫。いからつけなよ」

「マジか……」

 こんな物なくしたらヤバいどころの話じゃないぞ? 俺はネックレスをシャツの中にしっかりと入れ込んだ。


 確かに、そのアクセサリーを着けると、魔力の回復の速さを感じる。それを二つ着けることで効果もアップすると言うが、あまりの具合の良さに俺も欲しくなってしまう。

 回復が早ければ、それだけ多くの魔物を狩れる。やばい状況になればレグレスがすかさずフォローをしてくれる。生徒達の階梯上げに付き合って、階梯を上げることが大変だというのを見ていた分、あっさりと六階梯に成ったときには驚いた。

「先生、階梯が上がった時の能力の上がり方がちょっとでしょ? あの子達は一つ上がった時の上がり方がヤバいからね」

「まあ、階梯が上がった時の能力の上昇がしょぼいというのは自覚してますよ」

「うんうん、まあ先生の精霊は特殊だからね」

「特殊?」

「そう。だからポンポンと階梯上がっていくよ。一気に十階梯目指したいんだよ」

「十階梯って。いやいや。そんなすぐには無理ですよ」

「はっはっは。大丈夫だよ。先生なら」

「それが特殊ってことですか? 気持ちが落ち着く効果だけじゃないんですか?」

「ん〜。まあ。知ってる様な知らない様な?」

「ちょっと、教えて下さいよっ!」

「あ、魔物っ!」

「ああもう!」

 俺の記憶が確かならば、俺の精霊の名前をレグレスに教えたことはない。何を知っているかも分からないまま、ただ「信じて大丈夫」。そんな確信だけは持っていた。


    ◇◇◇


 空に満月が昇り星のまたたきがその勢いを無くすそんな明るい夜だった。

 門番への差し入れを手にストローマンが南門に向かっていた。

 門番はすでに門にかんぬきをかけ、待機小屋の中で椅子に腰掛けていた。ストローマンが部屋に入ると門番は立ち上がり、迎え入れる。

「ご苦労さん。ほら食堂で余った料理をもらってきたぞ。夜食にしろ」

「まじっすか。ありがとうございます。でも、どうしたんですか? 急に」

「いや。月がれいだったんでな。散歩がてらだ」

 門番が出したお茶をすすりながら、ストローマンが小窓から外を眺める。ドゥードゥルバレーを奪還した当初は、こんな夜でも外には魔物の気配があったな。と静かな夜を満足そうに見つめていた。

 その時街道の先の方から一頭の騎獣とそれにかれる獣車の影が見えた。

「ん? ……こんな夜に。冒険者か?」

「え?」

 門番もストローマンの後ろから小窓をのぞく。

 やがて、門の前に来ると獣車から一人の女性が降りてきて突然門をたたき出した。

 ドン! ドン! ドン!

「おーい、誰も居ねえのか!」

 門の方から女性の怒鳴り声が聞こえる。ストローマンは慌てて門に向かい、応答用の小窓を開けた。

「居たか。疲れてるんだ早く門を開けろっ! このうすらトンカチがっ!」

 門の向こうでは中年の女性が口汚く言い放つ。まるで使用人か何かに言う様な口調にストローマンはムッとする。

「もう門限は過ぎてるんだ。今日は外で野宿でもしてろっ!」

「なんだと? 門番が客に対して門を開けねえってどういう了見だ!」

「俺達は客商売をしてるんじゃないんだ。怪しいやつは入れることは出来ない」

 ストローマンの怒りを抑えた声に、これはこのままでは野宿になると思った女は、急に声のトーンを落とし、猫なで声で話し掛ける。

「んん。悪かったな。こっちも長旅で疲れて気が立ってたんだ。言い過ぎたのは謝るよ」

「……だが今日の門限は過ぎている。あきらめろ」

「そんなこと言わないでくれよ。な、頼むよ。入れてくれよ」

「ふぅ……。そもそも、なんでこんなへんなところに来たんだ?」

「うちの旦那の親がこの先のディクス村の出なんだ。ドゥードゥルバレーが解放されたって聞いて、ここからなら、ディクス村まで様子を見に行けるかもしれないってよ」

「ディクス? そこの出身なのか?」

 ディクスの名前にストローマンが小窓からのぞき込み、女の後ろを見る。後ろには確かに一人の男が荷獣車で、セベックの手綱を握っているのが見える。

「ああ、あたし達はディクスって村は知らないけどな。旦那の親が仕事でに行っている間にモンスターパレードが起こったんだ。それ以来帰ることなく親は死んだ。親戚も音沙汰なしだ」

「そうか……。俺もディクスにルーツがあるんだ。……よし。名前は?」

「あたしがアムルさ、あっちにいる旦那がベンガーだ」

「ベンガーか、同郷のルーツを持つよしみだ。分かった中に入れ」

「良いのかい?」

「ああ、疲れただろ」

 そう言うとストローマンが村の門を開ける。

「申し訳ないな」

「いや、気にするな。……ああ、でも。あんまりひどい口のき方はやめておけ」

「ああ、肝に銘じておくよ」

「今は営業している宿もないんだ。広場の隅の方でセベックはつないでおいてくれ。広場で野営してる他の冒険者もいるからめない様にな」

「わかった。ありがとうな」

 手綱を握る男と夫婦の様だが、嫁がしゃべりすぎるせいで夫は全くの無口の様だった。少し困った様な顔でしゃくをする夫に、ストローマンが手を振って応える。

 二人は広場に着くと、隅の柵にセベックを結び荷獣車からテントなどを下ろし始める。

 そんな野営の準備をしている夫婦を、じっと見つめている男がいた。ブライアンだ。ブライアン達は森に入ると狩りを続け、魔物の素材がいっぱいになると帰ってきて、州軍の詰所に売りさばくことを続けていた。

「……ちっ。また面倒なやつらが来やがって……」

 どうやらブライアンはやってきた夫婦を知っているようだった。面倒くさそうにつぶやくと毛布をぐっと顔まで持ち上げた。


 翌日、ストローマンが広場で火をおこし朝飯を食べている夫婦に近寄っていく。元来ストローマンは面倒見の良い男だ。同郷のルーツを持つベンガーがディクス村に行くという話を思い出し、二人きりで大丈夫かと心配になったのだ。

「ベンガーって言ったか。昨夜はよく寝れたか?」

「んあ?」

「暗くて分からなかったか? 昨日門で会ったストローマンだ」

「ああ」

「ディクス村まで行くんだったな。あそこらへんまで行くと上級の魔物も出てくるんだ」

「ああ」

「二人だけじゃ危険じゃないか?」

「んあ?」

 昨日もずっと妻のアムルの方が話しっぱなしだったが、やはりベンガーは無口であり、あいづちを打つくらいしかしない。それでも気にせずストローマンは広場の反対側で朝飯を食べていた三人の冒険者に向かって大声で話しかけた。

「お前達、また北の方へ行くんだろ?」

 突然話しかけられた三人だが、気にしないふりをしつつもストローマンとベンガーの話に耳を傾けていた。嫌な予感を感じつつもブライアンが反応し、答える。

「そうだ。そのつもりだ」

「トライデントだったな、連邦でも指折りのパーティーと聞いているぞ」

「まあ、連邦じゃ三つの指に入るパーティーだって自認してるぜ」

「いや、だからな、この二人の夫婦と一緒に行ってやってくれないか? 親がディクス村出身なんだ。一度くらい見せてやりたいんだ」

 突然の話にブライアンを始め、話を聞いていたアムルまであんぐりと口を開ける。

「は? いや。俺達は仕事で来てる訳じゃねえんだ。護衛なんてしねえよっ」

「何言ってるんだ。困った時はお互い様だろ? 野営するなら人も多いほうが良い」

「いや、だがしかしなあ。そんな知らねえやつと一緒なんて──」

「ベンガーとアムルだ。そしてお前らはトライデント。な? もう知らねえ仲じゃない」

「はあ?」

 当惑するのはブライアン達三人だけじゃない。

「ちょっと、旦那。何言ってるんだい。あたしら夫婦二人だけで十分さ」

「おいおい、わざわざここまでやって来てそんな寂しいこと言うな。俺もついていってやりたいがな、流石さすがに仕事があるから難しい」

「いや、だけどもさ」

「袖擦り合うも何かの縁ってやつだ、なあ」

 ストローマンの強引な話に冒険者達が面食らっていると、そこにスペルセスとマイヌイの二人が通りかかる。

「ほう、お前達ディクス村に行くのか?」

「何だジジイ?」

 突然話しかけてきたスペルセスにアムルが食いつく。

「はっはっは。すまんすまん。名乗りもしないで。スペルセスと言う」

「はん! 知らん名前だねえ──」

「お、おい!」

 アムルのぶっきらぼうな返事に、横にいたストローマンが慌てて止めに入る。

「スペルセスさんは連邦の賢者だぞッ! あまり失礼な物言いをするな」

「……なっ。賢者だと? なんでそんなのがこんな所に」

「転移してきたばっかの子供達が居るから指導に来てくれてるんだ」

「転移してきたばかり?」

「ああ、分かったか? だから、もう少し丁寧にしてくれ」

「お、おう……」

 ただ好意だけで動くことが、時として周りを迷惑な事象に巻き込むことは多々ある。良かれと思ってやることが全ての人間にとって良いことかは微妙なのは、いつの時代でも、どこの世界でも共通の話であった。


 きみじま達三人が朝、連れ立って食堂で朝食を食べていると、ヤーザックが近づいてきた。三人にまた新しい冒険者が来ている話をするためだった。

 三人に話を終えた頃、スペルセスとマイヌイも食堂に入ってきた。ヤーザックが二人にも新しい冒険者が来た話をすると、スペルセスはニヤリと笑う。

「ああ、その二人なら今さっき会ったぞ」

「そうでしたか」

「ああ。それでその二人だが、ここより奥のディクス村へ行くらしいんだ」

「ディクス村へ?」

「何でも父親がそこの村の出身らしい。ただ、そこらへんには上級の魔物も多く出るようでな。そろそろこの子達にも上級との戦いをさせたい時期でもある」

「いやあ……それは……」

 話を聞いてヤーザックが困った様な顔をする。いきなり正体不明の冒険者とこの三人を同行させるなんて危険すぎると考えたのだ。

 だがスペルセスはそんなヤーザックの気持ちを知ってか知らずか笑顔で話を続ける。

「冒険者達も一癖も二癖もありそうなんだ、もう一人優秀な護衛が居たらと思ってな」

「……と、言いますと?」

「ヤーザック。お前も来い」

「へ? いやしかし私には……」

「留守番はストローマンにでもやらせておけばいいだろう。そのための副官だろ?」

「そ、そうですが……」

 ヤーザックは困り果てた顔で抵抗しようとするが、もはや無駄だった。ヤーザックも賢者ではないがケイロン魔法学院の卒業生だ。学院では同窓生間のヒエラルキーは盤石だった。先輩であるスペルセスの提案にあらがえるすべはなかった。


    ◇◇◇


 ベンガーとアムルの夫婦は、実はディクス村とは全く縁はない。ジーべ王国で冒険者をして生計を立てていた。火の魔法を操るアムルと、豪腕怪力のベンガーのコンビは二人だけのパーティーだったが、うできの冒険者として地元では鳴らしていた。

 ここまで来た理由は一つだった。旦那をてんにする。そのためにやってきた。

 アムルは夫ベンガーの実力には自信を持っていた。魔力関係が少し弱いためランキングでの能力判定は弱めだったが、身体能力は並外れている。二年ほど前に冒険者同士のいさかいで二百位程度の置き換わりが起こった。三桁台での二百位アップはそれなりに大きい。

 当然、ギルドでの依頼料も変わり、収入が増える。それなら天位になんてなったらどこまでもうかるのだろう。そういう考えに至るにはさほど時間はかからなかった。


 一方、ブライアンをはじめとする三人の冒険者達も腕に覚えの在る連中だった。元々はおさなじみの三人だ。冒険者登録も三人で行い、トライデントというパーティーを立ち上げた。駆け出しのころから命を支えあった強いきずなもある。

 三人は同じホジキン連邦の冒険者ギルドに所属していることもあり、カートンがかいてい上げにドゥードゥルバレーに来ている情報も聞いていた。そのため置き換わりが起こった話からすぐに三人は天位を取るために動き出す。

 ──ブライアンを天位に。

 ブライアンは三人の中で抜きん出た実力を持っていた。あらゆる武器を使い分ける天性のセンスを持ち、中でも得意とする双剣を持てば誰にも負けないという自負があった。その美しい見た目とあいまって「双剣風雅」という呼び名で知られている。

 仲間も手を貸してくれるという。他の護衛連中を抑えてもらう間に、天位を討つ。それは一つの賭けだった。


    ◇◇◇


 奥地へ行けば、先生にも会えるかもしれない。そう考えた君島はスペルセスの案をすぐに受け入れる。しなさくらもそろそろ腕試しがしたい時期だった。

 準備を終えた三人が街の門へ行くと、すでに冒険者達が集まっていた。即席のパーティーということもあり、面識のない面々がお互いをチラチラと意識しあう状態だ。

 そんなギスギスした空気の中、スペルセスがブライアン達に声を掛ける。

「あー。君達の階梯上げの邪魔はなるべくしない様にするから安心したまえ。とはいえ上級だ。危険があればいつでも手を貸そう」

「やっぱりあんた達も来るのか? 命の保障は出来ねえぞ?」

 連邦所属の天位を狙うブライアン達にしてみれば、連邦の賢者や騎士が居ることは邪魔以外にない。とはいえ階梯上げという名目を捨てる訳にも行かない。渋々ながら受け入れざるを得ない状況になる。

「大丈夫だ、子供達の護衛は足りてる。それに自分の身を守ることも出来るだろう」

「……」

 そう問題ないと言い切るスペルセスを、ブライアンは苦々しく見つめていた。

 ──あとは、パペットマザーをどう使うか……。

 ブライアンはベンガーとアムルの素性に感づいていた。操り人形の様に旦那を動かしている様をし、「パペットマザー」と名付けられた冒険者。それがまさにアムルだった。おそらくアムルも自分の旦那を天位にするためにここに来ている。

 それをどう使うかが勝負の分かれ道だと考えていた。

 ──くそったれ。

 思い通りに行かないブライアンは、いらちを抑えるのがやっとだった。


 最終的に冒険者は、ベンガーとアムルの夫婦、ブライアン等三人。それから、スペルセスとマイヌイ、君島、仁科、桜木、ヤーザック。さらに州兵の三人が同行する。

 総勢十四人の大所帯だ。

 目的地は遠方のため移動は最初から歩きになる。アムルが自分達の荷獣車を街に置いていくことに難色を示すが、途中で道が整備していない場所になったら荷獣車をそこに置いていかなければならない。そう言われると渋々と歩き始める。

 冒険者の二組はこの行軍に不満を持っていたが、成り行きに逆らえずといったところだった。ヤーザックはこのなんとも言えない空気に胃がキリキリと痛んでいたが、妙に楽しそうにしているスペルセスには逆らえないでいた。

 一方の君島ら三人はちょっとした冒険をしている気分なのか楽しそうにしていたが、実のところどこを目指しているのかも知らなかった。一日目の野営の準備をし、皆でき火を囲んでいると目的地が三日程歩いたところにあるディクス村だと聞かされる。

「え? この先の村……ですか?」

 その話を聞いて顔を曇らせたのは君島だった。同じ焚き火を囲み話をしていたマイヌイがそれに気づき「何かあるのか?」と聞く。

「先生とギャッラルブルーから逃げてきた時、その最後の……村? ですか。そこを見たんです。そしたら、村の中に魔物達が生活している感じで……」

「村の中に? どんな魔物だった?」

「はい、なんていうか……イノシシと言うか……えっと……」

 イノシシというのがこの世界の人に通じるのか分からず、地面に木の枝で簡単な絵を描いて説明する。それを見るとマイヌイはすぐに分かったようだ。

「オークだな。もしかしたらこの深部だとハイオークかもしれないが。確かにそいつらは知性があって集落も作る。人が居なくなった村をそのまま集落として使っていることは十分に考えられるな」

 さらに、目撃をした時にカートン等と州兵達がそのオークの集団と戦って州兵達が倒されたのを見た話をすると、やはりそれはハイオークだろうという話になる。

「ハイオークは上級の魔物ではないがな、中級でもかなり上位に位置する魔物だ。それでいて人の様に知性を持ち武器も使う。集団での連携も在る。だからこそ上級の魔物がうろつく様な場所でも生きていけるのだろう。それだけに厄介だな」

「あの時も村の中で太鼓がドンドンと鳴らされて、確かに集団で襲い掛かっていました」

 話を横から聞いて気になったのだろう、ブライアンが話しかけてくる。

「なに? ハイオークの集団のことか?」

「え? あ、はい。どうやらそうみたいなんです」

「俺達も奥地へ行った時に見かけたが、あいつらは群れるから厄介なんだ。あえて避けていたが……。やはりディクス村は諦めたほうがいんじゃねえか?」

 それに対してマイヌイが答える。

「しかし、カートン達を襲って返り討ちにされたハイオークが十匹以上居るようだ。集団としての戦力はだいぶ削られているだろう」

「カートン? もしかして天位をとされたやつだよな?」

「ああ、そうだな」

「じゃあその子は……天位が堕ちた時を目撃したのか? いや……まさかその子が?」

「ち、違います!」

「そ、そうか」

 ブライアンは思わず食いつく様に聞いてしまったが、慌てて天位のことなど気にしていなかったかの様に取り繕う。しかし我慢が出来なかったのだろう仲間の一人が話に割り込む。

「なに? 天位がいるのか? じゃあ俺達の護衛とかいらなかったんじゃないのか?」

 それに答えたのは桜木だった。

「先生は今居ないんですよー」

「お、おいっ」

「なーに?」

「あんまり先生の話は、な?」

「あ。うん」

 桜木の答えに慌てて仁科が止めるが、男はさらに突っ込んでいく。

「先生? 天位の先生がいるのか?」

「うーん。居ないです」

「おいおいおい。なんだよ。人に護衛を頼んでおいてそういうの秘密にするのかよ」

「えー。だって置き換わりっていうのをしたくて殺し屋がいっぱい来るって言うんだもん」

「殺し屋って。別に俺はそんなんじゃねえよ。天位なんて雲の上の話だしさ」

「ううう」

 人間一度口にしてしまうと、どうにも誤魔化すのが難しくなる。特に奥地へ行くブライアン達には、言ってみれば旅の仲間という感覚をどうしても持ってしまう。それも平和な日本という国から来た三人だからこそというのもあるのだが。

 話を聞いていたスペルセスが笑いながら口をはさむ。

「まあ、共に進む仲間に隠し事もな。シゲトは奥地で階梯を上げているんだ」

「ス、スペルセスさん!」

 ヤーザックが慌てて止めようとするが、スペルセスは止まらない。むしろスペルセスは場を荒らそうとするかの様に顔に笑みを浮かべたまま続ける。

「転移してきて間もないんだ。少しでも階梯を上げた方が置き換わりを狙った連中からも身を守れる確率は上がる。少し考えれば分かる話だろ」

「しかし──」

「ここにいるのは、階梯上げをしに来た冒険者と、故郷の様子を見たい難民、それと未来ある子供達だけだろ? 大丈夫。大丈夫」

 笑いながら手に持ったお茶をグビッと飲み干す。

「何を考えているんですか……」

 ヤーザックが頭を抱える。一方あっけらかんとしたスペルセスの言葉にブライアン達も言葉を失う。

「い、いや。俺達はてんとか、別に考えてないから……」

「おう、そうだよなあ?」

「も、もちろんさ」

 ようやく言葉を絞り出したブライアンに、仲間達も慌ててあいづちを打つ。そんな姿をスペルセスはニヤニヤと眺めていた。

 夜になると順番に夜番を務めていく。きみじまはあの逃亡の日々を思い出して、仲間が多いと森の中でもこんなにゆっくりと出来るのかと感心する。しかし一方で君島は妙な感覚を抱いていた。何かがずっとこの集団のことを見ている様な。妙に心がざわつく不快感だ。

 ──なんだろう?

 その違和感は次の日になっても続いていた。

 その感覚は、あくまでも「なんとなく」できっちりした確証もない。

 今までも異性からのねとつく様な視線は感じたことは有ったがそれとは違う、なんとも不安になるというしかない、訳のわからない感じだった。

 歩きながらも時々立ち止まって周りを見渡すが、何か居る訳でもない。特に君島は「気配察知」の様なスキルがあるのか、周りに何かあれば察知が出来る自信はあった。だが、それにも何かが引っかかる訳でもない。ただ嫌な感じだけが心の片隅に居残っている。

「どうした?」

 マイヌイがちょこちょこと振り返る君島に気が付き、声を掛ける。だが君島もなんて答えていいか悩む。

「いえ……ただ、なんか見られている様な」

「ふむ」

 マイヌイも立ち止まり周りをうかがうが、特に何かを感じることは出来なかった。

「でも、多分気のせいなんです。この世界に来てすぐにギャッラルブルーに転移して、そこから逃げてきたトラウマもあるので」

「なるほど……。でも、もしかしたら本当に何かに見られているのかもしれない。そういう感覚は大事にしたほうが良い」

「そう、ですね。ありがとうございます。少し気をつけてみます」

 話を聞いていた桜木や仁科も周りを窺うが、何かを感じることは出来なかったようだ。

 しげと君島の二人で逃げてきた時と違い、堂々と街道を歩いているためペースも速い。道中現れる魔物もブライアン達三人がすぐに始末をしていく。トライデントの三人は三人共が前衛職でパーティーとしてバランスは微妙だが、確かに上級の魔物でかいてい上げをすると言うだけはある。特にブライアンの動きは三人の中でも群を抜いて洗練されていた。

 しなはそれを見ながら、彼らが牙をいたら自分では太刀打ちできないなと感じていた。


    ◇◇◇


 その日の夜、皆が寝静まる頃。夜番をしていたトライデントの三人は顔を寄せ合い小声で何かを話していた。

(やはり素人しろうと天位が居るらしいな)

(ああ、階梯上げをしているとなると、やはりまだまだ階梯は低いようだ)

(だけどよ。階梯を上げないでカートンをったんだろ? これで階梯が上がっていたらヤバいんじゃないか?)

(はっ。見てみろ。賢者はああだが州軍のやつらは確実に隠そうとしてるだろ?)

(まあ、そうだな)

(天位を維持できるか分からねえってことじゃねえか)

 何やらきな臭い話をしている。その時ガサッと天幕の中で音がした。三人は途端に黙り込む。しばらく三人は息を潜めていたが、やがて問題無さそうだと再び会話を始める。

(で、どうすんだよ。こんな邪魔が居たら何も出来ねえぞ?)

(だからよ、コイツ等を振り落とせばいいだけだ)

(振り落とすって言ったって、どうするんだ?)

(まあ聞け。俺にいい考えがある)

 ……。

(それは……。やばくねえか?)

(ヤバいも何もあるもんか。賢者が言ったろ? 自分の身は守れるってよ)

(だけどよ)

(気にするな。魔物を殺すってことは魔物に殺されることだって覚悟してるってことだ)

(そ、そうだな……)

(わかった、やろうじゃねえか)

 三人は何やら計画を立てていた。


    ◇◇◇


 道中に出てくる魔物の強さも次第に強くなってきて、ブライアン達もだんだんゆとりが無くなってくると、州兵らや、君島達も少しずつ手伝う様になっていた。

 やがて一行は少し道の開けた場所に出た。そこで君島が気が付く。

「ここって……」

「先輩?」

「あ、うん。その……天位の人と先生が戦った場所なの」

 しかし君島が見回しても人の死体などの跡は見当たらない。魔物達が食べてしまったのかもしれない。武器などの鉄の物もあったはずだがそれもない。

 横で話を聞いていたスペルセスが、一行を止め、ヤーザックと相談を始める。先頭を歩いていたブライアンも何事かと戻ってくる。

「どうしたんだ?」

「ここで、カートンがやられたようだ」

「ここで?」

「ああ。その前にこの場所で十匹ほどのハイオーク達とカートンが戦っていたらしい。もうディクス村まですぐだろう」

「なるほど、あの村か……」

「知ってるのか?」

「当然だろ? 俺達も上級の魔物を目当てに階梯上げに来てるんだ。だがやべえぞ。流石さすがに俺達も村は避けたぜ。悪いことは言わねえ、ここで引き返したらどうだ?」

「……いや。せっかくこれだけのメンバーが居るんだ、もう少し様子を見よう」

「どうなっても知らねえぞ?」

 ブライアンの話にヤーザックも本心を言えばディクス村へ行くことには不安を持っていた。だが引くことを少しも考えていないスペルセスは首をふるだけだ。

 その時、辺りを探っていた州兵の一人がメダル状のバッジを見つけ、ヤーザックの元に駆け寄ってきた。

「ヤーザックさん」

「ん? これは……ドーソンの」

 州兵の階級を表すバッジであった。カートンについて行った州兵の責任者であったドーソンが身に着けていた物だった。ヤーザックはそれをしばらく見つめて、かばんの中にしまう。


 結局その場で三日目の野営を行うことにする。

 ここからは村までは見えないが、それでも周りの木々の陰で、街道の先にあるディクス村から見えにくい場所にき火をおこし、食事の用意などをする。ぜいたくといえば贅沢だが、軍隊の行軍など味方が多い場合はこうして派手なことも出来る。

 食事をしているとマイヌイが君島の近くに寄ってきた。

「ユヅキ、まだ嫌な感覚はあるのかい?」

「そうですね、ずっと同じくらいの感じで続いています」

「そうか……。一応お前達は気を抜かずに警戒は続けておけ」

 マイヌイの言葉に仁科とさくらは神妙にうなずいた。


 朝日の出とともに皆が起きると、早速ディクス村へ行く話になる。

「ここからはどのくらいの距離なんだ?」

 ブライアンの問いにヤーザックが地図を広げて説明する。

 ディクス村までは、もう少しあるようだ。君島もなんとなくは覚えていたが、あの時は奇声を上げながら走っていくハイオーク等を後ろから追っていったため、実際の距離がどのくらいあるのかは記憶に自信がなかった。

 ゆっくりと進んでいくと、遠くの方に村の壁が見えてくる。まだ距離はだいぶあるが、先を行くブライアンが手を上げ、皆を止める。

「しょうがないな。俺が中の様子を見てくる」

いのか?」

 ブライアンの提案に、ヤーザックが申し訳無さそうに聞く。

「こう見えてランキングも二百位台なんだぜ。任せておけ」

「二百位? す、すごいな……分かった。だが無理するなよ」

「分かってるって」

 エルヴィス人はびんしょうせいに優れている人種だ。体も細身でそっと近づくには最適だろう。本人も自信あり気な様なので、ヤーザックもここは任せることにする。他の皆も了承する。

「気をつけろよ」

「おう、任せろ」

 トライデントの一人がブライアンに声を掛ける。ブライアンは周りの人間に気付かれない様に仲間の二人に軽くうなずく。

 そのままブライアンが村に向かってそっと近づいていった。

 ……。

 残された者達はジッとその後ろ姿を見つめる。

 その後ろで、ブライアンの仲間の二人が目配せをして、少しずつ後ろに下がろうとする。

「ブライアンさんってかっこいいですねー」

「え? なっ何?」

 すっと隊列から離れようとした二人に、桜木が興奮気味で話し掛ける。突然のことに二人はしどろもどろに答える。

「ブライアンさんってエルフみたいですもんね。イケメンで、ランキングもすごいじゃないですかっ! モテモテじゃないですか?」

「お、おいっ!」

 張り詰めた空気の中でのんきにしている桜木に、仁科が慌てて注意をする。

「えー。だっていいじゃん。エルフに、お兄さんはハーフリング?」

「は、ハーフ? いや。俺はホーブス人だ」

「おおう。やっぱり少しずつ名前が違うんですね」

 こっそりこの場から離れようとした二人だったが、桜木のせいで動けずに居た。悪巧みを隠そうという心理も働き、桜木の脳天気な質問に必死に答えようとしてしまう。

「ドラゴンって見たことありますかあ?」

「ないない。ドラゴンなんかに出会って生きてるやつなんて居ないと思うぜ、なあ?」

「あ、ああ。人里にドラゴンなんてめったに来ないしな」

「へえ、いつかドラゴンに乗ってブアーって飛びたかったのになあ」

「は? ドラゴンに乗る? いやいやいや。無理無理」

 おそらく今までの道中、ブライアン達は距離をとっていた感じがあり、話は出来なかったが、その魔物を仕留めるぎわなど、桜木が見てて感動していたようだ。今回ブライアンが皆のために偵察を買って出たことで更に親近感が湧いたのだろう。話が止まらなくなる。

 そんな終わりのない雑談に段々と二人も危機感を抱きだす。

「わ、悪いちょっと用をたしたいんだ」

「あ、俺もちょっと用をたしたいかも?」

「お、はいはい。お花摘みってやつですね。行ってらっしゃい」

 ようやく理由をつけて集団から離れようとしたとき、地響きの様な音が聞こえだした。


「な、なんだ?」

「お、おい……」

 やがて、先頭を走ってくるブライアンの後ろに大量のハイオーク達が目の色を変えて走ってくるのが見えた。それを見て真っ先に反応をしたのがマイヌイだった。

「くっそ。見つかったのか? かなり居るな。魔法職は遠くから勢いを殺すぞっ!」

「致し方ないな。マイヌイ。指揮を任すぞ」

「はい! じゃあミキも加われっ! 近接は魔法を撃ったのを見たら突っ込め。トライデントの二人! もっと前に! ベテランだろ!」

「お、おう……」

 さすがマイヌイも連邦軍の軍人だ。人を率いるのになれている。周りを見ながらテキパキと指示を与える。その勢いに二人も従わざるを得ない。

「アムルも魔法だろ? 頼むぜ」

「わ、わかってるっ!」

 とは言えたけびを上げながら走ってくるハイオークに歴戦のアムルでもひるむ思いだ。

 スペルセスも自分の鞄から一本の小ぶりのつえを取り出し桜木に渡す。

「もう隠さなくていい。お前も魔法を使え。これを使うと威力が底上げされる」

「おおう。魔法のステッキですねっ! じいさん!」

「爺さんじゃない!」

 桜木は冷静なスペルセスとマイヌイを見て割と落ち着いていた。それでも少し緊張もしている。気持ちの弱さを吹き飛ばす様に爺さんと軽口をたたく。スペルセスは文句を言いながらも何やらうれしそうな顔だ。

「すまん! 見つかった!」

 そうこう言っている間にハイオーク達が近づいてくる。ランキングが高いだけあり、走るスピードはハイオーク達よりも速い。先んじてブライアンが叫びながら、待ち受ける隊列の中に飛び込む。そしてそのままスピードを落とさずにグループを置き去りにしようとしたとき。隊列に申し訳無さそうな顔をして剣を構える二人の仲間の姿を見つける。

 ──な、なんで、いるんだっ!

 何が起こっているのかわからないままブライアンは急制動をかけ、足を止める。流石にこのハイオーク達の中に仲間達を置いてけぼりにする訳には行かない。

 ──くっそ。バレたのか?

 そして、前に立つ魔法士達の後ろで突撃するタイミングを待つ仲間達の横に立つ。

(すまん……出られなかった)

(くっそ。おめえら後で覚えてろっ)

「来るぞっ!」

 マイヌイの声で魔法士達が一斉に魔法の準備を始める。

「いっぱい虫眼鏡!」

 必殺技をと、桜木が考えに考え抜いた魔法を発動させる。桜木の頭上には何個もの虫眼鏡が形成され始める。初めて渡された魔法の杖の効果も十分だ。本人が思っていたよりスムーズな形成が行われ、その効果に桜木は思わず顔がにやける。

 横ではアムルが巨大な火の玉を作り上げる。めのモーションのないスペルセスとヤーザックはぐぐっとおのおのの杖に魔力を集める。

「撃て!」

 種々の魔法でごうおんが鳴り響き、先頭に立つハイオークが吹き飛んでいく。あまりの威力にオーク達もその足を止める。立ち上る土煙の中、リーダーらしきハイオークの叫び声が上がり、他のハイオークの応える様なうなり声が辺りに響く。

 心をえぐる雄叫びを聞きながら、きみじましげにもらった新しい薙刀なぎなたをグッと握りしめる。

 だが一度死んだ勢いを見逃すマイヌイではない。マイヌイの掛け声と共に、脚が鈍ったハイオーク達に近接職の面々が突っ込んでいく。

 緊張の面持ちの君島としなもベテランの冒険者達について走り出した。