第一章 一難去って



 ギャッラルブルーから生還してから数日がった。

 俺達の救出に来てくれたカミラはそろそろ州軍本部があるヴァーヅルへ帰るという。そんな中、俺は一人カミラに呼ばれていた。

 ドゥードゥルバレーの州軍の詰所にあるヤーザックの執務室に入るとカミラとヤーザックの二人が俺を迎える。

「どうだ? 疲れは取れたか?」

「はい。色々と有難ありがとうございました。しなさくらのことも感謝しております」

「まあそうかしこまるな。お前はぜんだいもんのことをやってのけたんだ。転移して大してかいていも上げずギャッラルブルーからの生還、そして天ち。いまだに信じられんよ」

 俺が礼を言うとカミラは半分あきれた様に笑いながら言う。俺はずっと必死で夢中で逃げてきただけだ。結果としてはそうなったのかもしれないが、きみじまにだって多くのことを助けられてきた。俺一人で成し遂げたことでもない。

 俺の困った様な顔を見てカミラは肩をすくめる。

「まあい。ことの重大さはおいおい分かってくるだろう。それでだ。つ前に今後のことを少し話しておきたくてな」

「話、ですか?」

「ああ……。お前が堕としたてんの話だ──」

 カミラが言うには、俺が倒した天位の男、カートンはディザスターという冒険者の一団に所属しているという話だった。ディザスターは冒険者の中でも天位を二人擁するグループとしてかなり有名だったという。そしてもう一つ。その悪名も。

 ディザスターの構成人員は五名。その五人が義兄弟として活動しており一人一人が全て高位のランカーだという。

 俺が倒したカートンはその五人のうちの第二席。二番目の順位が付けられ、第一席のゴードンはランキング七十三位のだという。

「そのゴードンという男が俺を狙うと?」

「ディザスターのうちゴードンとカートンは同じワーウィック人だ。ワーウィック人は同族意識が強くてな。仲間がられればかなりの確率で動くと考えている」

 ワーウィック人はカートンもそうだったが二メートルを超える大柄な体の人種だ。それだけに力も強く身体的な能力にひいでているという。性格は豪快。時として野蛮な蛮族だと見られることも多いようだ。

「順位で言ってもゴードンはカートンより強いと考えるべきだ」

「……はい」

 ギャッラルブルーからなんとか生還してホッとしたのもつかの間。すでに次の難題を掲げられた俺は頭を抱える。

「それでだ。シゲト。お前は連邦軍の所属にしようと思う」

「連邦軍、ですか?」

「今回のことで、タカトとミキの二人は州軍に入ることは決まってる。お前とユヅキもそれを望んでいることは聞いているが、それではあまり意味がないと思う」

「意味が? 連邦軍の方が都合が良いのですか?」

「そうだ。この世界では天位を望む多くの者が、今回のお前がやった様に天位を倒すことで自分が成り上がろうと考えている」

「そ、そんな……」

「想像するだけできついだろ? だが連邦軍所属となれば話が変わる。お前を倒そうとすることは国にけんを売ることになるからな。抑制力になるんだ」

「なるほど。確かにそういう話ならお願いしたいです」

「とりあえず本部に帰ったら話をすすめるぞ」

「よろしくお願いします」

「それでもお前らは少しでも階梯を上げておけ。強くなることがこの世界での生きる道だ」

 その日カミラは州軍を引き連れ、ヴァーヅルの街へ帰っていった。


    ◇◇◇


 リガーランド共和国、首都フェーデの街は海に面した港町だった。街の規模で言えばグレンバーレン王朝の首都シュメールに次ぐ街として知られていた。

 そのフェーデの街の繁華街の一軒の居酒屋で一人の男が店の隅のソファーで酒を飲んでいた。一見してワーウィック人と分かるその大きな体にしてもその酒量は異常だった。男の前に酒を運んだ店員が恐る恐る声を掛ける。

「そろそろこのくらいにしておいたほうが……」

「……酔えねえんだよ。もっと強い酒はねえのか?」

「しかし……」

「分かってるんだろ? 金ならある。心配するな」

 男が金を持っていることは店員も分かっている。この街の人間なら男の名前を知らない人間のほうが少ない。「天位」ゴードンだった。

 ゴードンはディザスターという悪名高い血盟の第一席であり、ディザスターの第二席カートンが天堕ちした話はすでに広まっていた。機嫌が悪いと踏んだ店員が店の奥まった席に通していたのだが。

 乱暴に店の扉が開き、ガヤガヤと冒険者の一団が店内に入ってくる。

「聞いたか? カートンの話よ?」

「ああ、ディザスターもザマアねえなぁ」

「ホントだぜ。いつも好き勝手やってるからな、ごうとくってやつじゃねえのか?」

「それにしても転移してきて一ヶ月もしねえやつに殺られるとはな。ワーウィックってのは見掛け倒しなんじゃねえの?」

 一団はすでに酒が入っているのだろう。カートンの天堕ちを酒のさかなにし、盛り上がっている。店員は真っ青になってゴードンの方をうかがう。

 ゴードンの目にけんのんな気配が漂う。

「ゴードン様、その、落ち着いて──」

「どけ……」

 ゴードンは立ち上がると冒険者達の方に向かっていく。一人の冒険者がゴードンの存在に気づき目を見開く。しかしゴードンに背を向ける男は気づかずに話を続ける。

「意外とゴードンの野郎だって大して──」

「お、おい」

「あ? なんだ……ひっ」

「ワーウィックがなんだって?」

「いやっ……その……」

「俺が大して、なんだ?」

 パキッ。パキッ。ゴードンの腕を岩石が覆っていく。こうなったら止められる人間などここには居ない。店員も諦めた様にゴードンから離れる。

「誰をやればいい? 一人選べ」

「なっ」

 絶望的な状況だったが、男達もそれなりに実力のある冒険者だった。仲間を売れと言われやすやすと売る様なはしない。

「くっ……。いくら天位とは言え、こっちは四人だぞ!」

「ゴミが四人集まったところでゴミだ」

「なっなめるな!」

「おめえらが届かねえ高みを天位と言うんだよ」

 パキッ。パキッ。ゴードンを覆っていく岩石は更にその範囲を広めていく。男達が一斉に得物を手に斬りかかる。しかしゴードンは涼しげにその攻撃を受ける。

 やがて自分達の攻撃が効かないことに気づき、その顔は絶望に沈んでいった。

「満足したか?」

 振り上げられたゴードンの腕が男達に襲いかかる。