初めて昼食を一緒に食べてから私とナオミさんは仲良くなり、ナオ、テルーと呼び合うようにもなった。それは嬉しいことなのだが、あの昼食でナオが危惧していたいじめの可能性が、その日のうちに現実味を帯びることになろうとは思わなかった。

 ナオからの忠告、ジェイムス様からの嫌みとタイミングが重なったことで私の中で危機感がぐっと高まり、最近私はいじめの対策ばかり考えている。

 そこで思い出したのが、誘拐される前に準備しようとしていた護身用ネックレス。

 あの時は回復を付与した護身用ネックレスを作ろうとして、聖魔法の魔法陣を勉強していたんだっけ。結局すぐに誘拐されてしまって、そのまま帝都に逃げてきたから作ることはなかったが、結界を付与したネックレスならいつも身につけていられるし、身を守るのに一番良いと思う。

 結界の範囲を限りなく私の体に近づければ、誰も私が聖魔法を使ったようには見えないはずだ。

 そうと決まったら、ずは宝石選び。

 付与魔法で大事なのは、適切な魔法陣を適切な素材に付与すること。

 魔力押しで付与しても魔力対効果が薄いから、素材選びはとても大事。

 それから私は休み時間に『石の神秘』とか『宝石、鉱物大百科』なんて本を読むようになった。

 教室で宝石の本など読もうものなら「平民のくせに!」と言われたかもしれないが、幸いライブラリアンのスキルで出した本は他の誰にも読めない。だから学校でも存分に調べている。

 宿題は放課後学校に残って終わらせ、家に帰ってからはまた石について調べている。

 いじめられる前に作り上げたいから、できれば今週末には宝石を買いに出かけたい。

『宝石、鉱物大百科』によると昔イヴが言っていたように、やはり回復にはペルラがよさそうだ。


『ペルラ

 貝からとれる宝石の一種。

 ミオル海が一番の産地であり、ペルラの80パーセントはミオル海に面した町でとれる。

 ペルラがとれる貝は、泡だま貝、蝶々貝の2種で、とれるペルラはともに白色だが、真っ白なペルラがとれる蝶々貝に対し、泡だま貝のペルラは、少しグレーがかったようにも見える。それは泡だま貝のペルラが、層が何重にも重なっているからであり、光にかざせばその独特なグラデーションが光る。

 すべての泡だま貝、蝶々貝でペルラがとれるわけではなく、とれる貝ととれない貝がある。

 安定して産出されるのは蝶々貝のペルラである。

 宝石の価値としては、安定して供給され、真っ白に輝く蝶々貝のペルラの方が高い。

 産出量の少ないグレーがかったペルラは、くすんだペルラと呼ぶ人もおり、蝶々貝のペルラの劣化版として扱われることが多く、価格も蝶々貝のペルラに比較すると四分の一ほどの値段で販売される。

 ペルラは古くは体調を整える働きがあると考えられており、怪我を治す魔法陣と共に使われてきた。その製法はもう途絶えてしまっているが、ある宝石商の手記によると魔法陣に使われるペルラは、泡だま貝、蝶々貝ともに親和性が高いが、特に泡だま貝と相性が良いと書かれている』


 ということでペルラ、特に手に入れば泡だま貝のペルラを買うことにした。

 怪我を治す魔法陣ということは、命の呪文との親和性が高いということだからだ。

 だが一番付与したいのは結界。つまり癒やしの呪文だ。

 癒やしの呪文には何の石を使うのがいいだろうか。

 ディアマンテ……は無理かな。お財布的に。手出しできない最上の守りの石と呼ばれる石ディアマンテ。マナーの授業でも習うほど有名な石で、その輝きの強さから宝石的価値も強い。故にお値段も高い。王族とか教皇様とかの装飾品にも使われるくらいだ。

 他に親和性の高い石は……。うーん。オニキスは魔除けの石、ブラックトルマリンも守護の石。どれも結界によさそうではある。

『付与魔法のすべて』に載っていたクアルソはどうだろう。

 クアルソは無色透明の石で、別名を万能の石という。どの魔法にも親和性があり、複数の魔法を付与する時には、クアルソを用いるのが無難なのだと本に書いてあった。

 クアルソの中でも紫色のクアルソでアマティスタと呼ばれる宝石は魔除けや浄化の言い伝えのある石だ。クアルソの一種だからきっと何にでもある程度親和性はあるだろうし、アマティスタとペルラの組み合わせがいいかもしれない。


 週末。手持ちの服の中で一番いいワンピースに袖を通す。

 宝石店に行くのだから、ちゃんとした格好でなければ相手にされないだろうと思ってのことだ。

 ウキウキしながら1階へ下りると、ちょうどバイロンさんに会った。

 軽く立ち話をして聞くところによると、なんともう入居者が二人も決まったらしい。残り二部屋も申し込みがあるという。

 バイロンさんがこの家の入居者を探し始めたのは先週から。

 一週間も経たないうちに全部屋入居の目途が立っているなんて、バイロンさんは優秀なのだろう。

「あれ? テルーちゃんは、今日お出かけ?」

 お守りになるアマティスタとペルラを買いに行くとバイロンさんに言うと、バイロンさんが一緒についてきてくれることになった。

 子供の私が一人で宝石店に行っても門前払いをされるだろうし、あまり形や品質にこだわらないならいい店があると教えてくれたのだ。

 バイロンさんの知り合いのお店は表通りから1本入ったところにあった。

 こぢんまりとして、静かで、落ち着くドレスショップだ。

 高価なドレスは小さな宝石を縫い付けることもある。アマティスタやくすんだペルラはそれほど高価な宝石ではないからドレスに縫い付ける定番の石らしく、形にこだわりがないのならドレスショップの方が安く手に入るのだそうだ。

 特に連れてきてくれた店は廃業予定らしく、値段を聞いたら本当に安かった。


 宝石を買った後は米を買いに行く。バイロンさんも一緒だ。

 宝石と違って米なら子供の私でも売ってくれるだろうと一人で行くつもりだったのだが、米と聞いてバイロンさんが一人で行くことを反対した。

「米って言ったら、海街の方なんじゃない? あそこは柄が悪いわけじゃないんだけど……まだ安定してないから。ナリス語がわからない人も多いしトラブルもちょくちょくあるんだよね。俺はテルーちゃんより魔法は弱いけど、大人と一緒にいるだけで危険度も下がるから一緒に行くよ」

 海街という聞きなれない言葉にきょとんとする私にバイロンさんが説明してくれるには、海街は去年、クラティエ帝国の保護国になったシャンギーラの人たちが住んでいる地域の通称だそうだ。

 保護国になった時にクラティエ帝国の市民権も与えられているため、去年から少しずつ移り住んでくる人が増えているという。

 シャンギーラは、海に囲まれた島国のためシャンギーラ人は通称海の民と呼ばれており、海の民が固まって住んでいるから海街と呼んでいるらしい。

「保護国になってまだ1年だから、移り住んできてもナリス語ができない人が多くてね。だからこそ彼らは固まって住んでいるんだろうけれど、ドーラが使えない店もあるし、ちょっとまだ海の民以外の人は訪れにくい地域かな」

「そうなんですね。確かに教えてくれた友達も『海の民』って呼ばれていました。あれ? 併合とも聞いたのですが……」

「あぁ、併合と勘違いしている奴も多いよ。だから海の民を下に見て、ちょっとした差別もあるらしい。まぁ保護国とわかっていても差別する人はするけどね。どこにでも自分とは違う人を区別して、下に見たり、悪く言ったり、恐れたりする人はいるものさ。あそこは3年前に起こった災害で、人も農地も大打撃を受けたから、保護国になっただけだ。だから援助はしているけど、主権はシャンギーラだよ」

 あぁだからかな……。自らも差別を受けているから、私に忠告してくれたのかもしれない。

 それに、今の話からするとナオも学園で差別されているのかも。

 それなのに私、気がつかなかった。自分のことばかりで……ダメだなぁ。

 そんな話をしながら歩いていると、突然空気が変わった。

 初めてここに来る私でもすぐにわかった。海街についたのだ。

 帝都でありながら、ここは異国。

 帝都で建てられた建物だから、建物自体は他の建物と同じようなもの。

 けれど、帝都の表通りなら椅子と机をおいて、若い女性が紅茶片手におしゃべりに花を咲かせていそうな店先のテラスには、大きな机が置かれ、その上に所狭しとカラフルな布が積んである。窓辺には上からジャラジャラとランプや紐で作られた飾りがつり下がり、外から店内をうかがい知ることはできない。何より大きくでかでかと書かれている文字は見慣れぬ文字だし、おそらく値段であろう数字の横には見慣れぬ記号が書かれている。きっとシャンギーラの通貨記号だろう。

 さらに道行く人もナオと同じ黒髪黒目の人ばかりだ。

 前世では当たり前の光景も髪や瞳の色が個人個人で違う今世では、かなり違和感がある。

 そんな海街に突如現れた私とバイロンさんという異物を、海街の人は警戒しているようだった。

 きょろきょろとあたりを見回し、目的の店を探す。あった!

 店先には大きなかめが沢山並んでおり、その中に米や豆がたくさん入っていた。

 店先に並ぶ甕と共に座っていたおばあさんは、私たちを見るなり一瞬驚いたものの、すごく優しい笑顔で迎えてくれた。

「イラッシャイ。ワタシ、コトバ、ワカラナイ。チョットマッテテ」

 ナリス語を話せる人を呼んできてくれるのだろう。

 おばあさんを待っている間に、私と同じくらいの子供がやってきた。

「トモダチ?」

 ん? 友達になろうってことだろうか?

「ネネ、ウレシイ。アリガト」

 返事をする前に片言のナリス語のお礼が続く。どういう意味だろうかとバイロンさんと目を見合わす。この子の名前はねねちゃんっていうのだろうか?

「あなたの、なまえ。ねねちゃん?」

 ゆっくり発音して聞いてみた。

 ねねちゃんと思われた少女が「チガウ」と首を振った時「テルー、いらっしゃい!」と後ろから聞き覚えのある声がした。ナオだ。バイロンさんの言う通り海街は他の場所とは趣も違うし、言葉も通じなそうだったから、来てくれて助かった。

「ここに住んでいる人みんながナリス語話せるわけじゃないから。もしシャンギーラ人じゃない子供が来たら呼びに来るよう伝えておいたのよ。そちらは?」

 子供かぁ……。バイロンさんを軽く紹介して、互いに挨拶を交わす。その後ナオは何かに気づいたように、後ろに目をやった。

「あれ? ユーリ?」

 ユーリちゃん? ねねちゃんじゃなかったんだと思ったら、「ねね」というのはシャンギーラの言葉で「姉」という意味を持つらしい。そしてさっき話しかけてくれたユーリちゃんはナオの妹だった。ユーリちゃんはまだナリス語の勉強中だから、言葉が交ざってしまうようだ。

 つまり「ねね」が「姉」で、ナオのことを指しているなら……。

 ナオは私と友達になれて嬉しいと言ってくれていたんだろうか。ユーリちゃんの言葉を解読したら急に胸がポカポカ温かくなった。

 友達になれて嬉しい……私もだよ。そうやって私のことを周りに話してくれているのが、なんだか友達になった証のようで、嬉しい。

「米を買いに来たんでしょ! 米にもいろいろあるから、私が説明するわね」と言って、ナオが米の説明をしてくれる。以前もらったおにぎりに使われている米が一般的なもので、ほかにも粘り気のあるもっちりとした米と粘り気のない米があるらしい。後者は最近できた品種でナオも食べ慣れていないという。

 もっちりした粘り気のある米……。餅米のことだろうか。もしそうなら、お餅が食べられるのでは? おこわも、せんべいも!

 それにあまり粘り気がない米といったら、チャーハンだ。

 ナオの説明を聞くだけで夢が膨らんでいく。

「テルー、こっち来て座って。バイロンさんも。はい、これどうぞ。これがさっき言ったもっちりした米をねたもの。このソースにつけて食べてね」

 さっきナオを呼んできてくれたおばあちゃんがお皿に入れた白いものを持ってきてくれた。

 やっぱり! あれは……お餅だ。一緒に出された真っ黒のソースにバイロンさんはちょっとたじろいでいるようだったけれど、私は醬油だと感動に震えていた。

 一口食べる。

 お餅がのびる。横目にバイロンさんが驚いているのが見えた。

 あぁこの味……醬油だ。醬油!

「ん~、美味しい~! 早く、早く! バイロンさんも食べてみて。絶対美味しいから!」

 恐る恐るバイロンさんが口に入れる。目を見開き驚いている。

 ふふふ。その顔は、きっと美味しいの顔だ。ほらね、美味しかったでしょ!

「シャンギーラの言葉で美味しいってなんていうの?」

「え? エンビーだけど……」

 ナオが不思議そうに教えてくれる。私は振り返っておばあちゃんに「えんびー! えんびー!」とおそらく片言であろう発音で、でもこの感動を伝えたくて一生懸命「えんびー!」と叫んだ。

「ぷはっ! ふっふっ……ふふっふくくく」

 突然ナオが笑いだす。

 抗議の意を込めてナオを見ると、ナオの背後にこちらを見ている海街の人たちが見えた。

 気がつかなかったけれど、よそ者の私たちをずっと見ていたらしい。けれどその視線は私が「えんびー!」と連呼したせいなのか、海街に来たばかりの時にあった警戒するようなものではなく、どこか生暖かいものだった。恥ずかしい。

「ナ、ナオ。ありがとうはどういうの?」

「ラシアルよ。ふっふふ」

 取り繕って淑女モードになってみたものの、もう手遅れみたいだ。


 海街を訪ねてから……いや違った。ペルラとアマティスタを購入してから、1週間が経った。

 あの時購入したペルラとアマティスタは、バイロンさんが紹介してくれた細工師に加工を依頼した。首から下げられればいいので、加工に関する注文はほとんどない。制服の下に隠したいので、紐は長めがいいなくらいである。だから1週間後の今日、ネックレスが届くはずだ。

 ネックレスがないので先週は学園にいる間中、体の近くに結界を張り続けていたけれど、やはり慣れない環境で、授業を受けながら、結界を張り続けるのは大変だった。

 特に体術の時間は……もう体力の限界で、結局結界も解除されていた。

 入学して2週間が経った。今のところ嫌みを言われるくらいで、実害は何もない。

 護身用のネックレスまで作って対策したけれど、杞憂だっただろうか。

 カランカランと来客を知らせるベルが鳴る。

「テルーちゃん、頼んでいたネックレスが届いたよ」

 早速開けてみると、金のチェーンの先にペルラとアマティスタがさくらんぼのようにぶら下がっていた。可愛い。

 今日は学園もお休みだから思う存分ネックレスづくりに没頭しよう。

 ペルラとアマティスタを扱うのは初めてだけど、命の呪文と癒やしの呪文は冒険者時代にどれだけ使ったかわからない。大丈夫、きっとできるはず。

 それにしても、なぜ癒やしの呪文っていうのだろう。

 癒やしと呼ばれる所以ゆえんはやはり受けた毒や病の原因を取り除く効果があるからだと思うけれど、それでも結界の呪文でもあると知っている私にとっては、毒や病、魔物、瘴気のありとあらゆる悪いものから守ってくれているように思える。

「癒やしというより守護プロテクシオンだと思うのよね……。わわっ!」

 口に出した瞬間結界が発動した。

 え? 今古代語の長い呪文は唱えてない。つまり短縮呪文で発動できるようになった……?

 しかも口に出した呪文は私の個人的なイメージだ。どういうことだろう。

 ということは、命の呪文も短縮できるのだろうか? 私の命の呪文に対するイメージは、変わらず命のままだ。だから……。

ヴイダ

 ダメもとでつぶやいてみる。指のさかむけがみるみる治った。できた。できてしまった。

 確かに癒やしの呪文、改め守護の呪文も命の呪文もたくさん使ってきた。使い慣れた魔法だ。

 火、水、風、地の四つの魔法の時もそうだった。たくさん訓練していたら、魔法陣が必要なくなった。今度は魔法陣のみならず、長い呪文も不要になった。

 もしかして……。魔法陣や長い古代語の呪文は魔法が上手く扱えない人のための補助的な役割なのだろうか。

 魔法陣と長い古代語の呪文で魔法を発現させることができるようになるのが第一段階。そしてその魔法を練習していくと魔法陣がなくても使えるようになる。それが第二段階。さらに使い込み、第三段階になると長い呪文も不要になる。

 今の時代魔法陣を使っている人はいない。だから私のこの経験則が正しいかどうかなんてわからない。けれど、そんな気がする。

 気を取り直して護身ネックレスづくりを再開する。まずはアマティスタを手に取り、できたばかりの呪文を唱える。

守護プロテクシオン!!

 ぐーっと定着させるように。ぐっぐっぐっと。ピカッと一瞬光り、付与が完成した。

 同じようにペルラにもヴイダを付与する。こちらも問題なく付与できた。

 付与に慣れたからか、適した素材を使ったからか疲れもほとんどない。

 すごい。魔法って……面白い。頑張ったら頑張っただけ応えてくれる。

 早く終わったので、自分で昼食を作る。

 作るのは、先週海街で買ったあまり粘り気のないという米や醬油を使ってのチャーハンだ。

 にんじん、玉ねぎを細かく切って。料理人みたいに上手く卵でコーティングなんてできないから、先に卵だけ炒め、次に野菜を炒める。ごはんを入れて、最後に焦がし醬油。

 できあがりだ!

 お店のチャーハンみたいに綺麗なドーム形に盛り付けなんてできないけれど、美味しい!

 今世初のチャーハン、美味しすぎる。

 満腹になってくつろいでいると、空っぽのお皿の向こうにガラスの花瓶に生けたピンクと白のキンギョソウが目に入った。もうだいぶくったりしている。

 そろそろ新しいお花に替えないと。週明け、学校の帰りにまた買って来よう。

 自分の家を持ってから、ドレイトの家を思い出して部屋に花を飾っている。

 昔はジョセフが世話してくれていた花を庭からもらってきていたけれど、今のこの家はまだ庭師を雇っていないのでもともと植わっていた木がところどころにあるだけだ。

 庭師を雇ったら、お花も育ててほしいなと思いつつ、今は近所の花屋で花を買っている。

 でも、ジョセフがくれた花と花屋の花とでは持ちが全く違う。何故だろう?

 切り方か、気候か……やっぱり緑魔法か。いや鮮度かもしれない。家の花なら切りたてだから。

 そういえば、緑魔法ってどんな魔法陣を使うのだろう?

 ふと疑問に思った。

 魔法関係の本はたくさん読んでいるけれど、聖魔法と同様に「緑魔法」という単語も見たことがない。ということは、緑魔法も付与魔法なのだろうか。

 そうだとすると……思い当たる呪文が一つある。ちょっと……ちょっとだけやってみようかな。

 少しくたびれたキンギョソウに向かって唱える。

ヴイダ

 すると、くったりしていたキンギョソウがゆっくり起き上がってきた。もうすでに枯れて回復できなかった葉は落ち、まだぎりぎり生きていた部分はすっかり息を吹き返す。

 やっぱり。そうだったんだ。緑魔法も付与魔法で、聖魔法も緑魔法も同じ命の呪文。

 その対象が人か植物かという違いだけで、同じように細胞やなんやかんやに働きかけ、人の、植物の生きる力を引き上げる。そんな呪文だったんだ。

 魔法っていうのは、案外思っているよりもシンプルなのかもしれない。

 それに今私は聖魔法に役立つからと薬草ばかり勉強していたけれど、本当はもっと人体のこと、植物のことを知らなければいけないのかもしれない。