エピローグ 来年はきっと一緒に

「フクちゃん、ただいま! ね、なにかいってみて」

駄菓子屋でひとしきり遊び、一度米田家の前に戻ってから、遊び疲れた子供たちはそれぞれの家に帰っていった。

空も家に入り、帰りを待っていたフクちゃんの前にさっそくしゃがみこみ、ペラペライカをもぐもぐしながら話しかけた。

フクちゃんは首を傾げながら、小さな声でピ、ピ、ピピ、ピと鳴いている。

「フクちゃん……んと、おるすばんありがとう」

「ホピ、ホピピピ!」

空がそう話しかけるとフクちゃんが高く鳴く。空はそれを聞いて嬉しそうに頷いた。

「何を言ったかわかったのかの?」

「うん! フクちゃんねぇ、『おいてって、ひどい!』っていったよ!」

フクちゃんはどうやら留守番に納得していなかったらしい。しかし空はフクちゃんが何を言ったのかわかったことの方が嬉しくて、そんなフクちゃんのお怒りすら可愛く感じてしまう。

「ホピピピピッ!」

「あ、こんどは、『ちゃんときいて!』ってプンプンしてる。うんうん、きいてるよ!」

「うむ、フクは怒っておるが、連れて行ったらきっと見知らぬ子供たちにもみくちゃにされたのだぞ?」

「ホピ……ピピ」

それはやだ、と不満そうに呟くフクちゃんを優しく撫で、空は大満足で口の中のイカを噛みしめ、呑み込んだ。のしイカは甘じょっぱい濃いめの味が付いていて美味しかった。

しかしフクちゃんの言葉を直接聞くのはたまにで良さそうだと、空は残りのイカもさっさと食べきってしまうことに決めた。

フクちゃんがその辺をトコトコと歩きながら、ピ、ピ、ピと呟いているのは『砂、空、ごはん、石、ごみ、空、ごはん』というような、特に意味のない言葉が多かったので。

どうやらフクちゃんは歩きながら目に入ったものを判別し、呟くクセがあるらしい。

(……でも床から謎のものを拾って、「ご飯」って言うのはちょっと止めてほしい)

空はそんな感想を抱いたが、それはもしかしたら、小動物を飼う人全てに共通する悩みかもしれない。


「……だがしやさん、またいきたいなぁ」

のしイカがなくなる頃、空は窓の方を見てポツリとそう呟いた。

まだ帰ってきたばかりだし、ヤナが買ってくれたお菓子も残っているのだが、何だか食べたり使ったりするのが勿体なくてついそんなことを考えてしまう。

そんな子供心がわかったのか、ヤナはくすりと笑って空の頭を優しく撫でた。

「次は来週の同じ頃に店を開くそうだぞ。水たまりから誘いが来ればわかるから、ヤナと一緒に行こうな。空はまた兄弟に送れる物を探しても良いぞ。空が食べたい菓子があれば、ヤナが買ってやるでな」

「ほんと!? ヤナちゃん、ありがとう!」

「ホピピピ、ホピ!」

喜ぶ空に、フクちゃんが何事かを訴える。

もうイカを呑み込んだ空にはその言葉はわからないが、けれど想像は付いた。

「つぎはフクちゃんもいくの? でもかくれてなきゃだめだよ?」

「テルモイク!」

どうやら次は皆で遊びに行くことになりそうだ。

空はふと、東京に送ってもらうため、箱に入れて大切に取ってある浮き綿菓子のことを思い出した。

空の分は駄菓子屋にいるときに明良と一緒に食べて遊んだので、もう既になくなっている。

浮き綿菓子は見た目は普通の綿菓子だったが、口に入れるとシュワッと溶けて消え、その後少しの間だが体が三十センチほど浮いて、ふわふわ漂うことが出来るという面白いお菓子だった。

明良や他の子供たちと一緒にふわふわと宙を漂い、泳ぐように空気をかいては追いかけ合ったりして楽しく遊んだ。

それを食べた兄弟たちの反応が見られないのは残念だが、きっと喜んでもらえるはずだ。

「だがしやさんて、きょねんはぼくいかなかったけど、はるだけなの?」

「うむ。春しか人の子を店に招いてはいけないという約定があるのだぞ」

「そっかぁ……じゃあ、りくとかおにいちゃんたちとは、いけないね」

空が肩を落とすと、ヤナは少し考えてからポンと手を叩いた。

「では、次に駄菓子屋に行ったときに来年は少し早く開店してくれとヤナが頼んでやるのだぞ!」

「ほんと!?

「ああ。店を開けるのは春の間と決まっているが、確かいつでも良かったはずだ。何となく田植えが一段落した頃に来ることが多かったが、少し早く一度開けてくれと頼んでみよう。そうしたら、学校が春休みの時に合わせられるかもしれぬぞ」

「ヤナちゃん、ぜったい、ぜったいおねがいして!」

それなら皆が魔砕村に帰ってきたときに、一緒に駄菓子屋に行けるかもしれない。空はヤナに何度も何度も頼んだ。

「わかったわかった、大丈夫だ。ちゃんと忘れぬからな! 来年の春も帰ってくるよう、紗雪たちにもまず頼んで……皆が帰ってくる日が決まったら狐狸族の里に文を飛ばすと約束して、駄菓子屋にお願いしてみような」

「うん! わぁい、やったー!」

空はまだ実現もしていない、来年の春のことを考えて嬉しくなって飛び上がった。

本当にそうなるかはわからないが、けれどそうなればいいと強く願う。

(今年も、来年も、ずっとずっと一緒に楽しいこと、いっぱいするんだ!)

春だけの不思議な駄菓子屋は、きっとその日も変わらず、子供たちを歓迎してくれるのだろう。