「今年も、駄菓子屋コリアンダーが開店致しております。どうぞ皆様ご一緒にお越しください」

「うむ。去年の今頃は、まだ空は連れて行けなかったからの。今年は良かろう。ちと待っておるのだぞ」

ヤナはそう言って頷くと傍にいたフクちゃんとテルちゃんをさっと掬い上げ、両手に抱えた。

「ホピッ!?

「キャー」

ジタバタと暴れる一羽と一匹を連れて、ヤナは裏庭に向かって走っていく。

裏庭の畑では、幸生と雪乃が野菜に支柱を立てたり紐を張ったりといった作業をしている。しばらくしてヤナはまた駆け戻ってくると、空に笑顔で頷いた。

「空、行って良いそうだぞ。あそこなら危険はないし、ヤナも付いていくからの!」

「えっと……フクちゃんとテルちゃんは?」

「あれらは留守番だ。あそこは子供が大勢来ておるはずだから、連れて行ったらきっともみくちゃにされるのだぞ」

空には危険はないが、フクちゃんたちは危険なので留守番ということになったらしい。

「ウメも明良と行くよぅ」

「やったぁ! そら、いっしょにいこう!」

「おにいちゃん、わたしたちもいいよね?」

「うん、皆一緒だし、コリアンダーなら、もう何度も行ってるから大丈夫!」

皆は大喜びだが、空は一体どこに行くのかわからずちょっと戸惑いつつ、頷いた。そんな空をヤナが抱き上げ、大丈夫だと微笑む。

「駄菓子屋と言って、色々な菓子を売る楽しい店に行くのだ。危険はないのだぞ」

「ええ、ええ。危ないことはございません。さ、皆様どうぞこちらに」

行くことが決まると、水まんじゅうはぽよんと揺れながら皆を手招き、そしてぽちゃんと水たまりに吸い込まれるように消えてしまった。

「おれ、いちばんのり!」

明良はそう言って笑って門から駆け出し、水まんじゅうの後を追って水たまりに飛び込む。

「アキちゃんっ!?

空は驚いて思わず叫んだが、明良の姿は水も跳ねさせず水たまりにスッと消えていった。そのすぐ後をウメが追い、同じように水たまりに消えていく。

「ほら、結衣」

「うん!」

武志が結衣に手を差し出すと、結衣は嬉しそうにその手をしっかりと握った。

「空、先行ってるな!」

「そらちゃん、こわくないよ!」

武志と結衣は並んで水たまりに足を進め、するりと沈んで消えていく。

「わぁ……いっちゃった?」

「うむ。大丈夫だぞ。ここを潜ればすぐだ」

そう言ってヤナは空を抱いたまま、水たまりへと足を出した。そして二人もまた吸い込まれるように落ちてゆく。水たまりに底はなく、ふわりと浮いてゆっくりと沈んで行くような感覚が身を包む。

空は水面が迫ってきた瞬間、反射的にきゅっと目を瞑ったが、薄い膜を潜ったような微かな感触だけが頬を撫でた。


「空、もう良いぞ」

優しいヤナの声にそう促され、空はパチリと目を開いた。

「ほら、ここが駄菓子屋だ」

「ここが……」

空の目の前には、これぞ駄菓子屋とでもいうような、良い感じに古びたお店があった。店先では明良たちや、それ以外にも何人もの子供たちがわいわいと楽しそうに騒いでいる。

空はそれをしばし眺めて、それから周りを見回し、ここが森の中であることに気がついた。ここにあるのは木漏れ日を浴びた店と、その周りを囲む木々だけだ。

コケモリ様の山に飛ばされたときのように、どうやら空たちはあの水たまりで、どこか遠い場所に移動したらしい。

ヤナは空を下ろすと、その手を引いて店ののれんを潜った。

「邪魔するぞ」

「はい、いらっしゃい。おや、ヤナ殿、お久しゅう」

「うむ。久しいの」

ヤナが声を掛けると、店の中で子供たちの相手をしていた妙齢の女性が振り返って軽く頭を下げた。

着物に前掛け姿で長い髪を一つに結んだ、切れ長の目が美しい女性だ。ただし、その頭の天辺には三角の獣耳がぴょこりと立っている。女性はヤナと手を繋いだ空に目を留めるとにこりと微笑んだ。

「いらっしゃい、米田の坊ちゃん。お使いはちゃんと仕事をしたようですね」

「うむ。久方ぶりの招きだったぞ。この子は紗雪の子で、空というのだ」

「ええと……そ、そらです、はじめまして!」

彼女の頭の上の耳に心を奪われながらも、空はきちんと挨拶をした。

「初めまして、私は狐夜乃こやのと申します。この駄菓子屋、狐狸庵陀亜の店主ですよ。ご来店、どうもありがとうございます」

狐夜乃は微笑むと、店に並んだ沢山の棚を手で示した。

「さぁ、ここにあるのは全て、我ら狐狸族こりぞく自慢の美味しく楽しい駄菓子です。ぜひ、お買い物を楽しんでいってくださいな」

棚には色々なものが所狭しと並んでいた。

色とりどりの大粒の飴が詰まった瓶、棒のようなお菓子が綺麗に並んだ箱、串に刺さっただんごのようなものから、袋に入った綿菓子や、平たい紙のようなお菓子もある。

お菓子以外にも、笛やメンコ、コマ、狐のお面、木製の刀や手裏剣のような玩具もあった。

空がそれを眺めていると狐夜乃は店にいた子供たちに呼ばれ、ぺこりと頭を下げてそちらに歩いて行った。

空はその背中を見送り、それから色々な物が溢れた空間を物珍しく眺める。そうしてしばらく考えてから、ヤナの着物の袖をくいと引っ張った。

「どうした、空?」

「ね、ヤナちゃん……さっきのおねえさん、きつねさん? ここって、きつねさんのおみせ?」

「うむ、そうだぞ。ここは狐族と狸族が昔から共同経営している店なのだ」

「きつねぞくとたぬきぞく……あのね、ばかされたりしない?」

空が小さな声でそう聞くと、後ろからブハッと吹き出す音がした。空が驚いて振り向くと、そこには人の良さそうな顔をした青年が一人立っていた。

狐夜乃と同じく着物に前掛けという古風な格好で、頭の上には茶色く丸い耳がぴょこりと生えている。見ただけでこちらは狸族とわかる姿だ。

「あっははは、ごめんよ。いやぁ、化かすなんて懐かしい言葉を聞いたもんだから、つい」

「うちの空はなかなか博識なのだぞ」

ヤナがそう言って胸を張ると、青年はうんうんと頷いて、しゃがみ込んで空に笑顔を向けた。

「いらっしゃい。僕はここのもう一人の店主で、狸緒りおだよ」

「そらです……あの、へんなこといって、ごめんなさい」

空がしょんぼりと謝ると、狸緒は首を横に振って空の頭を撫でた。

「気にしないで。昔はそういうこともあったから、人の間ではまだそう言い伝えられている地方も多いしねぇ。今はそんなことはないよ。この店の商品は、信頼と実績ある狐狸族の清潔な工場で大量生さ……いや、ええと、丁寧に手作りされているからね! どれも美味しくて面白いよ!」

何故言い直したのかが少々気になったが、狸緒はそれを誤魔化すかのように傍にあった箱のガラス蓋をサッと開け、中から丸いものを一つ取りだして空に見せた。

「例えばこれ! 妖精笛飴ようせいふえあめ! 口で挟んで、ふーっと吹くと……」

妖精笛飴、というのは平たい円筒状の飴の真ん中に、丸い穴が空いたものだった。狸緒はそれを唇に挟み息を吹き込む。すると穴からピーッと甲高い音がして、それと同時に狸緒の周囲にチカチカと小さな光が現れた。

「わぁ……!」

光は笛が鳴る度に少しずつ形がはっきりしてゆく。どれも色とりどりの丸い球状で、大きさは様々だがチカチカキラキラと瞬いている。

妖精というには形がはっきりしないが、それでもなかなか綺麗だった。きっと夜に見たらもっと綺麗だろう。

「どうかな、綺麗だろ?」

「うん!」

「これは吹くのを止めると消えるからね」

その言葉通り、狸緒が飴を口に放り込むと光は段々薄くなる。狸緒は頬を飴で膨らませながら、お菓子が並んだ平置きの箱の蓋を、トントンと叩いた。

「こういう面白いものがこの店には沢山あるんだ。魔力一回分で、お菓子なら五個まで買えるからね」

「え……おかねじゃないの?」

魔力一回分、という言葉に空は驚いて目を見開く。狸緒はそんな空に頷くと奥のレジ台のような場所まで歩き、その台に載っていた大きな瓶の蓋を開けた。

瓶の中には親指と人差し指で輪を作ったくらいの大きさのガラス玉のようなものが沢山入っている。狸緒はそれを一つ取り出すと、空のところに戻り、手の平に載せて見せた。

「これは仔守玉こもりだまといって、魔力を入れられる道具だよ。この店は何でも魔力払いなんだ。この球を指で摘まむと、君の魔力がちょっとだけ入る。これ一個分で、お菓子なら五個まで、玩具なら種類によって変わるかな。玩具一つとお菓子二つか三つっていう風に組み合わせてもいいよ。あ、空くんは今、何歳かな?」

「よんさいだよ!」

「じゃあ空くんから一日に受け取れる魔力は、この球一個分までだね」

「空、試してみると良いのだぞ。その球一個なら、空にとってはどうということもない量だ。おやつのどら焼き一口分になるかどうかだの」

「そんなちょっとなんだ……」

空はそれならばと安心して手を伸ばした。落とさないように球を摘まみ、透明なその中を覗き込む。すると摘まんだ指先から少しだけ魔力が球に流れたのがわかった。確かにその量は大したこともなく、空が保育所で動かした風車や鶴に使った程度のような気がした。

空の魔力が流れた球は、キラキラと中に小さな光を灯す。

「わあ、ひかった!」

「うん、もういいよ。毎度あり!」

狸緒は魔力が入った球を空から受け取ると、大切そうに別の瓶にしまい込んだ。

「さ、菓子でも玩具でも、何でも好きな物を選んでどうぞ! 何かわからない物は何でも聞いてね」

「うん!」

空は頷き周りのケースを見回したが、何がどんなものなのかやはり全く想像が付かない。何が人気だろうかとさらに見回すと、少し離れた場所で真剣にあめ玉の瓶を眺めている結衣が目に入った。

「ゆいちゃん、なにえらんでるの?」

「あ、これ? あめだよ。これね、なめてるあいだ、かみのいろがかわるの! なにいろがかわいいか、なやんでたんだよ」

「へ~、おもしろいね!」

「でしょ? どれがいいかなぁ。やっぱりピンク? でもあかとか、きいろもかわいいとおもうんだよね」

「ふたつくらいえらぶのは?」

「それもいいかも……ううん、でもほかのもほしいし、どうしよう~!」

結衣の迷いもなかなか長引きそうだ。

空はせっかくだから明良や武志も探そうと店の中をさらに見回した。武志の声がしたので外を見ると、武志は店の外で友達らしき子供たちと一緒にコマを回して遊んでいた。

紐を巻いてピッと飛ばすと、地面に落ちず空中に留まったままくるくると回ってぶつかり合う不思議なコマだ。

楽しそうだけれど少し難しそうだなと思い視線を外すと、ウメと明良が一緒にいて、何か細長いものを食べている姿が目に入った。

「アキちゃん、なにたべてるの?」

声を掛けると明良が振り向く。その手にあったのは、竹串に細長いグミのようなものが刺さったお菓子だった。

明良は空に返事をしようと口を開いたが、しかしその口から出てきたのは明良の声ではなく、可愛らしい小鳥の囀りだった。

「えっ!?

空がその声に驚くと、隣にいたウメがクスクスと笑う。そして明良の代わりにその手のお菓子を指さした。

「これはさえずり餅っていうお菓子なんだよぅ。これを食べると、食べてる間は喋る言葉が可愛い小鳥の声になっちゃうの。明良はこのお菓子が好きなんだよぅ」

明良はウメの説明にコクコク頷き、チュルチュルピチチ、と可愛い声で何か喋った。

「なんかたのしそう……アキちゃん、ほかにはなにかかったの?」

空が聞くと、明良は手に持っていた小さな袋を見せてくれた。雲の絵が描いてある、十五センチ四方くらいの袋菓子らしきものだ。

「それは浮き綿菓子なのだぞ。食べると、ちょっとだけ体が浮くのだ」

「むむ……それもたのしそう!」

空は段々色々なお菓子が気になってきて、自分でも熱心に箱の中を眺め始めた。まだ鳥の声しか出せない明良に代わって、ヤナやウメがわかるお菓子は教えてくれる。

「これは……ちょこ?」

「それは確かご縁チョコだの。食べると小指から赤い糸が出て、相性の良い相手を教えてくれるのだぞ。女子に人気の菓子だの。まぁ大体は相手が遠くにいすぎて今いる方角しかわからぬことが多いようだ」

「このいっぱいひもがでてる箱は、なにがはいってるの?」

「それは飴くじだよぅ。この紐の先に長さの違う飴が入っていて、舐めてる間は飴の長さによって背が伸びたり縮んだりするんだよぅ」

「大当たりだと大人のように大きくなれるそうだぞ」

それはちょっと面白そうだと思うが、背丈が変わるのは見た目だけなのかそれとも本当に変わるのかはちょっと心配だ。いきなり大人の背丈に変わったらふらふらするかもしれない。

「このぺらぺらのは、おかし?」

「これは……のしたイカだったかの?」

ヤナが近くを通った狐夜乃に声を掛けると、狐夜乃は笑顔で頷いた。

「それはペラペライカですね。それを食べるとその間だけ小鳥や動物と話が出来るようになるんですよ。色違いのは、植物と話が出来るようになりますね」

「えっ、じゃあみえおばちゃんみたいになるの?」

空が驚いて色違いのものを見下ろすと、狐夜乃は美枝のことも知っているらしく少し考え、困ったように首を横に振った。

「美枝さんのようにとまではちょっと難しいかと……その、子供の玩具のような物なのですみませんが」

子供だましとまでは言わないが、美枝ほどはっきりと会話出来るというものでもないようだ。空はそれは仕方ないと納得して頷いた。

その他にも、この店には面白いものが沢山あった。

この村の町内くらいなら離れていても話が出来る糸電話のようなものや、本当に当たるおみくじが入ったおせんべい。水の中でちょっとだけ呼吸が出来るようになるガムや、食べると息が冷たくなって、キラキラした氷の結晶を吐き出せる氷菓子。

声が変わる飴も色々な種類があるし、髪の色だけではなく、目の色や肌の色が変わるお菓子もあった。

それらを一つ一つ眺めて説明してもらうだけで、あっという間に日が暮れてしまいそうだ。

空は不思議で楽しい沢山のお菓子や玩具をじっと眺め、けれどなかなか選べない。

「ううん……どれにしよう」

「選べぬのか?」

ヤナが聞くと空はこくりと頷く。どのお菓子も楽しそうで選べないというのもあるのだが、空には他にも気になることがあった。

「あの……こやのさん?」

「はいはい、何ですか?」

「あのね……このなかのおかし、とうきょうにおくってもだいじょうぶなのってある? それとも、おくったらだめになっちゃう?」

空の問いにヤナは目を見開き、狐夜乃は少し考える。

「そうか……兄弟にも送りたいのだな?」

「うん。だって、すごくたのしそうなんだもん……それに、ごがつ、あえないってままいってたし」

早ければ五月に会えるかも、という別れ際の紗雪の言葉は、仕事や学校の都合が悪く結局実現しなかった。

空の前世と歴史が違うせいか、五月に連休はあるのだがゴールデンウィークと呼ぶような長い休みでもなかったのだ。

もとより夏休みのほうに大きな期待をしていたので平気だと空は納得したが、それでもやはり何かにつけて家族のことを思い出す。何か一つでも兄弟にも送れるものがあればと、空は並んだお菓子を眺めた。

狐夜乃はそんな空に頷き、袋に入ったお菓子を手に取った。

「この浮き綿菓子はどうです? 中身が潰れやすいので、しっかりした包装にして空気で膨らませてあるんですよ。箱に入れて送れば大丈夫ですし、袋さえ開けなければ魔素も抜けないので東京でも変わらず楽しめるはずですよ。入っている魔素もそれほど多くないので、都会の子でも食べられます」

「ほんと!? じゃあ、それにする! それ、よっつください!」

空は迷うことなくその浮き綿菓子を選んで手に取った。兄弟と何でも同じことを楽しみたいというその気持ちに、ヤナは思わずその頭を優しく撫でた。

「あと一つはどうします?」

綿菓子を四つ取り分けながら狐夜乃が聞くと、空は少し悩んでから小動物の声がわかるようになるというのしイカを手に取った。

「これで、フクちゃんとおしゃべりする!」

「うむ……期待してるほどお喋りできるかはわからぬぞ?」

「できなくても、ちょっとでもわかればいいよ!」

空がそう言うと、ヤナは袂から風呂敷を取り出して狐夜乃に渡し、選んだ菓子をそれに包んでくれと頼んだ。

「空、これは包んでもらっておくから、明良たちと遊んでくると良いぞ」

「うん!」

外ではいつの間にか明良もコマに参加し、その傍では髪をピンク色に染めた結衣が別の女の子とあやとりをして遊んでいた。

あやとりとは輪にした糸を指に掛けて、橋や塔など色々な形を作る遊びだが、その糸もこの店の品らしく、形を作る度に幻の橋や塔がキラキラと現れ消えてゆく。

上手く出来て幻が現れる度、女の子たちは嬉しそうな声を上げていた。空はそちらが気になったらしく、傍に行って結衣に声を掛けた。あやとりを物珍しそうに眺めては、説明をしてもらっている。


「……良い子ですねぇ」

狐夜乃がその姿を見ながらそう言って微笑む。ヤナはふふんと胸を張り、うむと頷いた。

「そうであろ? 空は本当に可愛くて良い子なのだぞ」

「紗雪ちゃんとよく似ていますね。ヤナ殿が、紗雪ちゃんと来た頃が懐かしいですね」

「ああ。あれからもう随分経ったな。あ、ヤナにも仔守玉を一つくれ」

ヤナは魔力を入れる球を一つ借りると、そこに自分の魔力を籠めて狐夜乃に返した。

「ヤナ殿も何か買い物を?」

「ああ。そこのさえずり餅と、妖精笛飴、あと植物用のペラペライカと……吹くと蝶が飛んでゆくシャボン玉はなかったか?」

「ええ、ありますよ」

「ならそれも一つ頼む」

ヤナは適当に空が喜びそうな菓子や玩具を選び、空のものと一緒に包んでもらった。空は自分の魔力で兄弟へのものを買ったから、これはヤナから空への贈り物だ。

「今年の子供たちはどうだ?」

「よく育っています。いつもながらどこの里の子も元気いっぱいですよ」

狐族や狸族は全国にそれなりの数がいて、あちこちに散らばって小さな集落を形成して暮らしている。人の中に紛れて生活している者や、神の眷属として仕えている者もいる。

しかし彼らは生まれてすぐの小さなうちにそれなりの量の魔力を得られなければ、僅かな知性しか持たず化けることも出来ぬ、ただの獣になってしまうことが多いという特性を持つ。

「春だけでなく、もっと他の季節も店を開ければ良いのだがの」

「子供たちから魔力を貰うのは、我らの仔らのため春の間だけ、という約定ですから」

狐狸族の仔に与える魔力は、人のものが良いとされている。特に小さい子供のまだ純粋な魔力が良いらしい。それを与えられて育った狐狸族は、賢く強く、人に化けるのが上手くなると言われているのだ。

「獣として生きていくのも悪いことではありませんが、我らにはもはや戻れぬ者も多い。ならば人との約定はきちんと守らなければね」

狐夜乃はそう言って、子供たちに交ざって外で輪投げ遊びをして笑っている狸緒の姿を眺めた。

輪投げが成功する度、パチパチと小さな魔法の花火が上がって子供たちが歓声を上げる。

魔素の少ない場所で生まれ育つ一族の子供のために、人の子の魔力を円満に少しばかり分けてもらおうと、この店は作られ運営されている。

店はもちろんここだけではなく他にもある。だがどこの店も狐族と狸族から一人ずつ、子供好きで人当たりの良い者たちが店を任されるのだ。

「春の間はまだ何回か営業するか?」

「ええ。魔砕村の子供たちは良い魔力をお持ちですからね。週を跨いであと二、三回は店を開ける予定ですよ」

「そうか。それならまた空を連れてこよう。ここの菓子では空の腹の足しにはならぬが、楽しみにはなるからの」

駄菓子屋はいつだって、子供たちの楽しみであり大事な社交場だ。

小さな紗雪の手を握って一緒に水たまりを越えた日々を、ヤナは懐かしく思い出す。

空はいつの間にか見知らぬ子からけん玉を貸してもらって挑戦し、あの頃の紗雪とよく似た顔で笑っていた。