七 なよ竹の姫大捜索

竹林は一見、さっき出てきた時と様子は変わらなかった。

善三に案内されながら、竹林の中を一行は静かに進む。タケノコ狩りが済んだ場所を選んでいるので今のところ襲われることもない。

たまに美枝の足元にひょこりと狩り損ねた小さなタケノコが顔を出すこともあるが、「あら、あなたはまだ小さいじゃない。気持ちは嬉しいけど、今はゆっくり育ってね」とよしよしされてまた土に潜っていくくらいだ。

それを空や若者たちは感心や驚愕きょうがくの眼差しで見つめているが、雪乃たちはさすがに慣れたもので動じもしなかった。

やがて竹林の真ん中辺りまで来ると、善三は慎重に周囲を確かめてから振り向き、美枝に頷いた。

「この辺からは、まだタケノコを狩っていなかったはずだ。まずここから横に進んでタケノコが出てくる範囲を把握して、あらかじめ狩っておきたい」

「じゃあ私の出番ね」

美枝は任せておいて、と頷きスタスタと気負いもせずに進んだ。すると美枝が歩くごとに、その足元が何だかもごもごと動き出す。

少し歩いてから美枝が足を止めて周りを見回すと、待ちかねたと言わんばかりにその周囲に次々タケノコが姿を現した。

地面からボコボコと土を割って現れるが、美枝の周りをぐるりと取り囲むだけで襲ってくるようなことはない。

美枝はその場にスッとしゃがみ込むと、一つ一つのタケノコを手で優しく撫でた。

「今年は豊作って聞いたけど、本当ね。でも貴方たちが頑張って育てた次の子供たちなのだから、全部は貰えないわ。よく育った子を少しだけ分けてちょうだい」

優しい言葉を掛けられ、タケノコたちがまたもごもごと動く。そして特に大きく育っていた五本ほどが、自らを根っこと切り離してその場にごろりと転がった。

「ありがとう、美味しくいただくわ。他の子たちは、まだ眠っていてね。これからこの近くで、貴方たちの仲間を支配している悪い子と戦うから、通る人は襲わないでね。土の中にしっかり隠れていないと駄目よ?」

美枝の忠告を受けて、まだ小さいタケノコたちはもぞもぞ動いて土の中へと帰って行った。

「……みえおばちゃん、すごい! たけのこが、こいぬみたいだった!」

空は幸生の頭の上でパチパチと小さな手を叩いた。美枝を前にしたタケノコたちは、まるで母の周りに群がる可愛い子犬のようだった。

「皆、怖がりなだけで優しいのよ」

そう言って美枝は傍にあった竹を優しく撫でる。竹の声に耳を傾け、一つ頷くと美枝は少し先を指さした。

「この方向は、まだ浸食されてないみたいね。けど、この辺から奥に向けては何だか最近話が通じないって言ってるわ」

「そこまでわかるのか。ありがてぇ!」

「じゃあとりあえず、無事なところを美枝ちゃんに進んでもらって、タケノコを回収しちゃいましょうか」

雪乃がそう提案すると、美枝はにこやかに頷いた。

「任せてちょうだい。あ、でも誰か籠を持ってたら貸してくれる? タケノコを入れたいの」

「あ、俺が予備を持っています」

正竹が腰に付けていた魔法鞄から大きな籠を出して美枝に渡した。美枝が貢がれたタケノコをその中に入れると、それを正竹が背負う。

「じゃあさっきみたいに回収したら、大人しくしているよう言い聞かせるわね」

植物を前にした美枝は本当に頼もしい。

その後もタケノコたちは通りがかる美枝にせっせと自身を貢ぎ、言い聞かせられて大人しく地面に戻って行ったのだった。


「この辺りで終わりね」

やがて一行は妄想竹の林の外れまで到達した。林の外には長い竹垣が見えている。

ここまでは安全が確保できたことを確認し、また様子を見ながら来た道を戻る。善三は油断なく周囲を警戒しながら、時折奥に近づいては竹がざわりと揺らめくのを確かめ、そして戻ってきてはため息を吐いた。

「やっぱり、かなり広い範囲でやられているみてぇだな。こんなに浸食されるまで気付かなかったとはな……」

竹林には手入れをする季節が大体決まっている。

春はタケノコを採り、夏は草刈りをし、秋から冬にかけては材料となる竹を伐採する。肥料や土を入れることも必要だが、本格的な冬が来てから春のタケノコの季節までは、あまりやることがないのだ。恐らくはその冬の間に侵入され、浸食されたのだろう。

他の仕事の都合もあって手を掛けなかったことを悔やみ、善三はまた肩を落とした。

「……元気を出せ。まだ竹は全て死んだというわけじゃない」

「そうだぜ、善三! 元凶を倒したら、肥料を追加して、美枝さんに協力してもらって元気にして回りゃいいじゃねぇか!」

「そうだよ、父さん。俺も手伝うから」

「俺も手伝いに来るよ」

幼馴染みや息子たちに励まされ、善三はそうだな、と呟いて顔を上げた。

「ああ、くよくよしてらんねぇな。よし、じゃあ次の作戦だ!」

善三は気を取り直して顔を上げ、次の段階への移行を宣言した。


「一番真ん中は、俺が行く」

次の段階は姫の本体がいる方角を見定めるための偵察だ。

敵がいると思われる半分残った竹林を大雑把に横長の長方形と捉え、縦に幾つかの区画に分ける。そこを偵察係が一区画ずつ担当し、全員一斉に前に進んで竹の襲撃の激しさなどを遠見や探知で見比べる。

真ん中辺りに姫がいる可能性が高いため、一番危険そうな所は竹に慣れている自分が引き受けると善三は主張した。後は主に素早さや竹への慣れで分けて善三の両脇に配置していく。

最終的には、手前から順に、佳乃子、芳竹、正竹、善三、良夫、和義と六人が並ぶこととなった。

「いいか、避けるのが基本と言ってもそりゃあ出来ればの話だ。さっきも言ったが危なかったら竹を切り倒してくれて構わねぇ。それよりも、怪我をしないよう気をつけてくれ」

善三がそう言うと偵察班は皆、真剣な表情で頷いた。

「じゃあ、そっちは監視を頼む」

善三の立つ場所の後方に雪乃が結界を張り、監視班はその中で待機だ。千里と菫も新しい符を耳や顔に貼って、術の準備は万端だ。

千里や菫以外もその様子を確認出来るように、ここに来る前に良夫が祖母に連絡して雑貨屋から一枚の金属鏡を持ってきてもらった。

遠見の術を使う者が鏡に付いている朱色の組紐を握ると、その視界を鏡に映すことが出来るという物だ。千里はその紐をくるくると手の中で回しながら、出番が来るのを待っていた。


一方、それを見学する空や泰造は少々暇だった。

泰造は役目があるが、空は当然見学だけだ。年齢を考えれば、こんな現場に連れてきてもらえたのも孫に甘い幸生がいたからこそ。その幸生も、役割としては一応観察班の護衛ということだが結界の中では特にやることがない。

今の幸生の役目は敷物の上に胡座あぐらをかき、可愛い孫の椅子になることだった。

空は幸生の膝の上にちょこんと座りながら、まだ少々眠そうなフクちゃんを両手でもみもみしていた。偵察班がそれぞれの配置につくのを待っているので、少々暇がある。

空はフクちゃんをもみもみしながら、同じように隣に座って待機している泰造に声を掛けた。

「たいぞうにいちゃん、なんでさっきから、てでめをかくしてるの?」

「あー……魔力の温存? あと目を開けると、視界にずーっと、竹、竹、竹、竹、竹、って見えるから鬱陶うっとうしい」

なるほど、それはかなり鬱陶しそうだ。

「たいへんなんだね……そういえば、たいぞうにいちゃんて、よしおにいちゃんとなかわるいの?」

空は子供らしく、気になっていたことをズバリと聞いてみた。

「えー……それ聞いちゃう?」

「だって、きになるもん。よしおにいちゃんは、おさななじみ? っていってたし」

空の言葉に泰造はしばし黙り込み、それから首を縦に振った。

「幼馴染みなのはまぁ確かだな……仲はわかんねぇ。なんたって常に俺が一方的に嫉妬して噛みついてるだけだからな!」

「うわぁ、正直者~」

「それを一切隠さないところがお前の憎めないところだな……」

千里と菫が思わず感心するほど、泰造はキリリと言い切った。

「しっとするの?」

(そういえば前に、同い年だったら嫉妬で死んじゃう! って叫んでたっけ)

保育所で泰造がそんなことを言っていたなと思い出す。

「だってよ~、見ただろあの良夫の平凡顔! 見た目もすげー普通!」

「うん……?」

「なのにアイツ努力家だし、だるそうにしてるくせに同年代で一番強いし、希望の星なんだぜ!? もう完全に主人公じゃん! 年も一緒で家も近所で同じように育ったのに、俺がアイツに勝ってるとこなんて顔の良さくらいしかねぇのよ! 嫉妬するわ!」

「へいぼんがおって、だいじだった?」

その要素は今の会話に必要だったか、と首を傾げる空に泰造は何度も頷く。

「大事に決まってるだろ! 俺みたいな顔の良すぎるやつは好感度が稼げないから、主人公には向いてねぇんだよおぉぉ!」

一体泰造はどんな漫画や物語を読んで育ったのだろう、と空は内心で首を傾げた。しかし泰造は大真面目だ。

「泰造が好感度稼げないとこはそこじゃないと思う~」

「同感だ。そのよくわからない思考回路を修正したほうが良い」

千里と菫が突っ込むと、泰造はうるせーと言って顔を横に背けた。ふと、この二人もそう言えば年が近そうだと空は思い至った。

「おねえちゃんと、おにいちゃんも、みんなおさななじみ?」

「私は一個上かな。でも仲は良いよ! あ、私のことは千里って呼んでね~!」

「俺は同じ年。スミでいいぞ」

「ぼくはそらです! たいぞうにいちゃんって、むかしからこんなかんじ?」

空が全く悪気なく問うと、二人はうんうんと頷いた。

「小さい頃は違ったけど、中学生くらいからはこうだね~」

「それ以後は年々悪化して変に……いや、気難しくなっているぞ」

「やかましい! あと気を使うな!」

どうやら泰造には、中二病を激しく悪化させたままこの年まで拗らせている自覚があるらしい。

「くそ~、俺だってこの『森羅万象』に能力を使われてなければ、今頃もっと忍者っぽくかっこよく活躍してモテたりしてたかもしれねぇのに……」

泰造はそう言ってブツブツとぼやく。忍者っぽくかっこいい、という観点で見ると確かに良夫の戦い方はそれに当てはまっている。良夫は泰造の憧れる姿に近すぎて、それが幼馴染みだからこそ突っかかってしまうのかもしれない。

「そういうきぼうはあるんだ……じゃあひよこのかんていしは?」

「それが叶わないから、俺はいっそふわふわに埋もれて暮らしてぇの!」

人並みの願望はあるが、叶わないならその対極にいたいらしい。なかなか難しい男だ。しかし空はそれを聞いて、ふと気付いたことがあった。

「ひよこのかんていしって、ずーっと、ひよこ、ひよこ、ひよこ、ひよこ、ひよこ……って、めのまえがいっぱいで、よくわかんなくならない?」

「ハッ……!?

竹林で目を塞いでいる男に、ぎゅうぎゅうに集まったヒヨコは無謀だろうと空は気付いてしまった。そして泰造も。

「あああ……ふわふわ……」

がくりと地に伏せた男の頭に、空はそっとフクちゃんを乗せてあげた。何だかとっても可哀想だったので。


「よし、全員配置についた。そろそろ始めるぞ」

フクちゃんがホピホピと泰造を尻に敷いて慰めて(?)いると、善三から声が掛かった。

怪異当番の二人が慌てて結界の端に行って座り直し、術の準備を始める。

「準備完了~! いつでもどうぞ!」

「同じく」

「よし」

二人が手を挙げると、善三は手に持っていた竹笛を口に当てた。美枝がタケノコを貰っている間に手持ちの細い竹で作った物だ。

それに強く息を吹き込むと、ピィー! と甲高い音が竹林に響く。少し遅れて、同じ音が遠くから幾つも返ってきた。

「行くぞ!」

善三は竹笛をしまうと竹林の奥に向かってゆっくりと歩き出す。

するとすぐに善三の周りに生えていた竹が、わさっと葉を揺らした。

「あっ!」

空はそれを遠目で見ながら、思わず声を上げ幸生の腕にしがみ付いた。少し離れた場所に生えていた太く長い竹が器用に身をしならせ、ぶんっと善三の頭上に真っ直ぐ襲いかかったのだ。

だが善三は気にした様子もなく、普通に歩いてその竹をするりと避けた。一瞬善三の動きがぶれたように見えたが、次の瞬間には竹のすぐ横を変わらぬ様子で歩いている。

頭をもたげた竹が身を捩り、今度は横薙よこなぎに幹を大きく振った。しかし善三は気付けばその幹の反対側に立っている。空はその様子を見てホッと息を吐いた。

善三は襲い来る竹を次々躱しながら少しずつ奥へと進んでいった。その背中が徐々に遠くなる。

「千里ちゃん、どう?」

「んー……いまのとこどこもそんなに変わりがないっぽいです……良夫の辺りが、ちょっと反応する竹が多いかもっていう程度?」

「魔力は動きが感じられないですね。音も特には……いや、何か微かに変な音が聞こえるかな。だが竹が暴れる音が大きすぎる」

千里は遠見の術の視界をこまめに切り替えながら、前に進む六人を上空から見ている。今のところ竹林は踏み入った六人に大体平等に襲いかかり、それほど差があるようには見えなかった。

千里の視界に合わせて鏡に映る様子はめまぐるしく変わる。

空はそれを見ている雪乃の横からそっと覗き込んだ。

善三は相変わらず、普通に歩いているように見えながら竹の攻撃を避けてゆく。

良夫は竹に襲われると地面を蹴り、他の竹を一瞬足場にしながらピョンピョンと器用に飛んで避けている。

正竹と芳竹はさすがに善三の息子で、同じように普通に歩きながら、時折シュッと瞬間移動するような動きで竹を避けていた。

(わぁ……皆すごい、かっこいい!)

空はどの人が映っても、その信じられないような動きに目を見張るばかりだ。

特に佳乃子は、ある程度竹を引きつけてからフッと体重を感じさせない動きで跳び上がり、襲ってくる竹と竹の間をすり抜けるように避けていて、まるでアクション映画の俳優のようだった。

(こういうの、前世の映画で見た気がする……! 銃弾とか、そういうの避けるやつ!)

空はこれを現実で見る日が来るとは、と思わずここが現実か疑うような気分で遠い目をした。

「……和義は避けていないな」

鏡に映った幼馴染みを見て、幸生が呆れたように呟く。

「かずおじちゃん、ぜんぶたたいて、ぺってかえしてるね……」

和義だけは避けることを選ばず、襲いかかる竹を拳で殴って弾き返していた。どうやら和義はいつでも変わらず、俺より強いやつに会いに行くタイプの男らしい。

しかし意外にも器用に加減し、殴り返した竹が折れるほどの力は込めていないようだ。弾かれた竹はビヨンビヨンと激しく揺れ、目を回したようにしばらく動けなくなっているが折れたりはしていなかった。

「和義は意外と器用だ。羨ましい」

幸生がそんな感想を零すと、隣でごそりと動く気配がした。

「米田さんにも、誰かが羨ましいとかあるんだ……」

泰造は頭にフクちゃんを乗せたまま、どこか呆然と呟いた。

「……俺は、力の加減が昔から下手だ。善三や和義のように器用にアレコレとは出来ん。特に若い頃は、俺が出る時は大体、周辺の被害も覚悟しての最後の手段だった」

村を襲う危機に対して皆が手を尽くし、もう他に手立てがないときにばかり幸生は呼ばれていた。だから幸生は、そうやって呼ばれることが昔は嫌いだった。

「だから俺は羨ましかった。弱くても、お前のように色々な方向に役に立つ特技がある者たちが、ずっと」

幸生は力が強すぎたからこそ、誰よりもそれを制御する努力をしてきたのだ。

けれどやはり今もこうして留守番になることが多々ある。和義のように友の役に立てないことが少しだけ悔しい。

空は鏡から目を離し、そんな幸生を振り仰ぐ。

「じぃじ、いっつも、すごくかっこいいよ!」

「む……そうか」

「うん! あとで、ひめがみつかったら、じぃじのでばんもくるんじゃない?」

「ああ、そうだといいな」

そう言って祖父と孫は和やかに笑う。

泰造は目を見開いて、そんな二人の姿をじっと見つめていた。



「あっ、動いた! 良夫と善三さんの間くらいのとこ!」

突然、千里が声を上げた。鏡には良夫と善三に竹が激しく襲いかかる姿が映っている。

避ける隙がほとんどないくらいの速度と密度で、周辺の竹がその体を振り回し、二人の進路を妨害していた。

「当たりのようだな。他の所は竹の攻撃速度など変わってないようだ」

「じゃあそこだね!」

善三は竹を避けながら白く細い布を懐から取り出し、襲ってくる竹とのすれ違いざまに、それを相手の幹にするりと器用に結んでいく。良夫も同じように攻撃が激しくなった場所を明らかにするため、目印となる布を竹のうちの何本かに結んでいた。

それを終えると二人はその場から大急ぎで撤収てっしゅうを始める。善三はその途中で竹笛を取り出して吹き鳴らし、偵察班に撤収を伝えた。

「泰造、鏡越しに鑑定は無理か?」

「無理だ。直接見ないと駄目だ、悪い」

遠見鏡を覗き込んだ泰造は、悔しそうに首を横に振る。

「千里、何か姫らしき竹は見えるか?」

「うーん、わかんない……奥の方の竹は動いてないし……どう見てもどれもただの竹に見えるよ」

遠見で見る竹たちは、偵察班が後ろに下がったことで少しずつ落ち着きを取り戻してきている。

千里はさっき善三と良夫が進んでいた場所から先も見てみたが、怪しい竹は見つからなかった。

「それでも、進むべき場所はわかったんですもの。皆の帰りを待ちましょう?」

雪乃に宥められ、皆が頷く。それからまもなく偵察班は全員待機場所まで戻ってきた。

「道具と籠も回収してきちゃいました!」

佳乃子は自分の道具と掘ったタケノコを取り戻せて嬉しそうだ。

全員が揃うと、その視線は自然と千里に向いた。

「どうだった?」

善三が問うと、千里は頷く。

「奥に進んで特に攻撃が激しくなったのは、善三さんとこと良夫のとこ。特に良夫の方が少し反応が早くて攻撃的だったと思うかな。だから、多分二人が進んでた場所の間の先、少し良夫がいた場所寄りかなって思うよ」

「なるほど……なら、次はどうやって泰造を連れてそこに近づくかだな」

周囲の竹をある程度切り払うことも覚悟しているが、なるべく被害を減らしたい。そんな葛藤を抱えて善三は迷うそぶりを見せた。

そこに声を掛けたのは美枝だった。

「善三さん、せっかくだから竹を鎮められるか試してみたいんだけど、良いかしら?」

美枝はそう言って立ち上がり、幸生を見る。

「幸生さん、ちょっと手伝ってくださいな」

「……うむ」

幸生は何をとは聞かずに頷くと、空をそっと膝から下ろして立ち上がる。

美枝は座っていた敷物から降り、姫に支配されている竹がいる境目の近くまで進んだ。その後を幸生も追っていく。

「美枝さん、何をすれば?」

「まずは触ってみないと、どういう状態なのかわからないでしょう? だから、幸生さんに一本捕まえてほしいのよ」

「わかった」

美枝の提案を聞き、幸生はそれなら任せろと頷いて無造作に竹林の奥に向かって足を踏み出した。

するとたちまち少し離れた場所にある一本がぐっと身をたわめ、幸生を殴り飛ばそうとするように幹を傾ける。幸生はそれを避けもせず頭上に手を伸ばすと、バシッと振り下ろされた幹を両手で掴んだ。鋭い葉や固い枝が顔や体を打つが、気にした様子もない。幸生は暴れようとする太い幹をぐっと掴んで離さず、逆に引っ張り下ろすと脇に挟んで締め上げた。竹は慌てたようにバサバサと枝葉を激しく揺するが、幸生の体は小揺るぎもしない。

「ありがとう。じゃあちょっと失礼するわね……」

美枝は幸生の後ろ側に突き出て暴れる竹にそっと手を伸ばした。

「あら……ああ、なるほど……うーん……」

美枝に触れられると、竹はすぐに暴れるのを止め大人しくなった。しかし美枝の表情はあまり明るくはない。美枝はしばらくそのまま竹を触っていたが、一つ頷くとその場を少し離れた。

「ありがとう幸生さん、もう離しても大丈夫よ」

「うむ」

幸生が竹から手を離して解放してやると、竹はしばらく呆然としているかのようにそのままだった。しかし二人がその場を離れると、ゆっくりと幹を持ち上げまた元に戻ってゆく。けれどその姿はどことなく戸惑っているように見えた。

「美枝さん、どんな状態だったんだ?」

善三が戻ってきた美枝に問うと、美枝は難しい表情を浮かべ首を捻った。

「そうね……やっぱり上手く話が通じなかったわ。たとえるなら……ものすごく酔っ払って理性がなくなって、ひたすら自分の奥さんをべた褒めしている男の人みたいな感じ?」

「ああ……たまにいるな、それは。飲み会とかで面倒くさい奴だな」

何となく幸生と善三の視線が和義に向き、和義の視線はそっと明後日の方向に逸らされた。

あまりに酔っ払いすぎると、何を言っても半ば聞こえていない、ただひたすら自分の奥さんの自慢話や自分との仲の良さを誰彼構わず語る、時には人の話を曲解し奥さんを馬鹿にされたと怒り出す。

そんな面倒くさいのがたまにいるな……と心当たりのある人たちは少々げんなりして、奥の竹林を見上げた。

「美枝さんでも、こいつらに理性を取り戻させるのは無理そうか?」

「うーん、私が触って魔力を少し流したら、一応目が覚めたのよ。でも、多分またすぐにあの群れに戻ってしまう気がするのよねぇ」

先ほどの竹はもう他の竹に紛れて、何事もなかったかのようにそこにたたずみ風に葉をそよがせている。だが近寄ればまた襲ってくるだろうと美枝は考えていた。

「ちょっといいですか」

不意に、後ろにいた菫が手を挙げた。皆の視線が彼に向くと、菫は符を貼った自分の耳をトンと指さした。

「さっき矢田さんが触れた竹が元に戻った後、何か音というか……歌のようなものが微かに聞こえたんですよ。人間の耳にはほとんど聞こえないような僅かなものですが」

偵察班が竹に近づいたときも聞こえていた気がする音だが、竹が暴れる音にかき消されてしまっていた。だが、さっきは探知術に音としてはっきりと聞こえたと菫は語った。

「じゃあ姫はその歌みたいな手段で竹を操ってるのか……」

「恐らくは。酔っ払いと矢田さんが表現したし、魅了や洗脳に近いものなんじゃないかと」

ただひたすらに妻をたたえる酔っ払いのように、魅了された竹たちはひたすら姫を讃え守っている、ということらしい。

「……姫と名の付くもんは、敵に回ると本当に厄介だな!」

善三は吐き捨てるようにそう言って、足元の落ち葉を踏みしめる。空はそんな善三の姿を珍しく思いながら、ふと良いことを思いついた。

「ね、じゃあ、みえおばちゃんも、うたをうたったら?」

「え? 歌?」

「うん。だって、みえおばちゃん、しょくぶつのおひめさまみたいじゃない? おばちゃんがうたったら、たけもそっちがきになるとおもう!」

空の提案に美枝は戸惑ったような表情を浮かべる。しかし反対にすぐに乗り気になったのは意外にも雪乃だった。

「そうだわ、それよ! 美枝ちゃん、歌よ!」

「雪乃ちゃんまで?」

困惑した美枝に、雪乃は何度も頷いた。

「子供の頃に、美枝ちゃんがよく聞かせてくれた歌があったじゃない! 美枝ちゃんが大好きだって言ってた歌! アレを歌うのよ!」

「アレを!? で、でもアレはもう封印したのよ。その、すごく迷惑だったから」

美枝は目を見開いて、次いで頬を赤く染め、それから俯いて首を横に振った。

「ふういんって、なにしたの?」

歌に使うとは思えない言葉に空が首を傾げると、雪乃が苦笑を浮かべた。

「美枝ちゃんがあの歌を歌うと、辺りの草がまぁよく育って育って。野菜や花や植木も育つけど、雑草がすごすぎて草刈りが大変だったのよね」

「そうなのよ……それでご近所迷惑になっちゃって両親にすごく怒られたから、あの歌を外で歌うのは止めて、それっきりなの」

それは確かに困った話だが、今のこの場なら役に立つ予感しかしない。善三は悩む間もなく美枝の前に出ると頭を下げた。

「美枝さん、頼む! その歌を歌ってくれ!」

「でも、竹たちに効果があるかはわからないのよ? 雑草がすごく生えるだけで終わるかも……」

「雑草に埋もれても刈りゃいいだけだ! 何でも可能性があるなら試してみてぇんだ!」

善三にそう言って何度も頭を下げられ、迷っていた美枝もやがては頷いた。

「仕方ないわねぇ。こんな歳で、人前で歌うなんて恥ずかしいわ……」

「声は私が魔法で拡散するわね!」

恥ずかしそうな美枝に雪乃が良い笑顔でそう言って、肩をぽこりと叩かれている。本当に仲の良い二人を見ながら、空は面白いことになりそうだとワクワクとその時を待つ。

(タケサーの姫VSムラサーの美枝……すごい対戦になりそう!)

作戦はどうやら、次の段階へと無事に移行しそうだ。


「じゃあ、その手はずで行くぞ」

しばしの相談の結果、次の作戦はまず美枝の歌から始めることとなった。

美枝が歌を歌い、それを雪乃が姫に魅了された竹林に向かって魔法で拡散させる。

ある程度歌ったところで良夫たちが近づいてその効果を確かめ、歌の効果が出ているようなら、泰造を守りつつ何人かで姫がいると思われる場所を目指す。

「姫の周りは、恐らく抵抗も激しいだろう。そうなったらもう竹を切り倒して構わねぇ。どんどんやっちまってくれ」

もとより竹林が無傷で済むとは善三も思っていない。

奥に行く班は、善三と和義、良夫、正竹。それに加え、幸生も一応付いていくこととなった。

芳竹は雪乃と共に美枝や待機班の守りで、佳乃子は鋤以外のちゃんとした武器の持ち合わせがないため、待機となった。

出番が近づいた泰造は落ち着きをなくすかと思っていたが、意外にも静かだった。下ろした前髪をパッチンピンで上げ、しかし魔力を温存するためか、目元はフクちゃんで隠したまま黙ってその時を待っている。

「ホビー……」

泰造に両手で持ち上げられ、目元にふかっと当てられているフクちゃんが、首を伸ばして嫌そうにビービーと低い声で鳴いている。空は手を伸ばして、じっと我慢しているフクちゃんの頭を優しく撫でた。

「もうちょっとだけ、がまんしてあげて。あとフクちゃん、ちょっとおっきくなれる?」

「ビ……」

フクちゃんは空のお願いに、仕方なさそうに体を震わせむくっと二回りほど大きくなった。

「おおう!?

突然大きくなったフクちゃんに泰造が一瞬慌てるが、すぐに「ありがとう!」と叫んでまた顔を羽に埋める。

「ふわふわ……あ~、やる気出るぅ」

やる気が出るなら仕方ない、とフクちゃんは不機嫌そうにしつつも諦めてくれた。


「……じゃあ、始めるわね」

全員の準備が出来たと見て、美枝がそう言って一歩前に出る。まだ少し照れくさそうな表情だが、それでも目の前の竹たちを救いたいと願いながら、美枝は口を開いた。


『目覚め、目覚めよ、春の野よ』


美枝の歌声は本人の雰囲気そのままに優しく響いた。子供の頃によく歌っていたというだけあって童謡のような可愛らしくのどかな曲だ。


『きらめく新芽、緑の若葉、あなたの花はどんな色』


歌は雪乃が起こす風に乗って拡散され、竹林に広がってゆく。ざわざわと竹がざわめき、やがて頭の上が少しばかり暗くなった。

今いる場所は安全な竹林の境界の内だが、その安全な竹たちが美枝の歌声を聞こうと体を傾けるように幹を曲げている。そのせいで葉っぱが頭上を覆い、周囲が暗くなったらしい。

やがてその歌声が広がるにつれ、姫に支配されているはずの竹たちにも変化が見られた。

安全な竹たちがしているのと同じように、美枝の歌声が聞こえる方に向けて幹を傾け始めたのだ。


『明るい黄色、優しい桃色、それとも春の朝の色』


「いけそうだよ! 上から見ると、かなりの広範囲の竹がこっちを向いてきてるよ~!」

千里が嬉しそうに声を上げるが、しかし隣の菫は難しい表情を浮かべ首を横に振った。

「だが相手も気付いたらしいぞ。向こうの歌が強くなった」

なよ竹の姫の歌声は竹と菫にしか聞こえていない。美枝の歌とは違う、長い叫びのような、様々な音を集めた旋律のような、不協和音一歩手前の不思議な音だ。

人には作用しないようだが、竹たちは迷うようにさらにざわめいた。

「美枝さん、歌を続けてくれ!」

美枝は善三の要望に頷くと、二番を歌い始めた。


『歌え、歌えよ、夏の森』


様子を見に近くの竹に良夫や正竹がそっと近づくが、竹たちは攻撃をしてこない。うっとりと美枝の歌に聴き入っているように見える。

(さすが美枝おばちゃん、植物界のアイドル……)

と空が感心していると、空の胸元からチカッと光がこぼれた。空が視線を下に向けると、胸に下げた守り袋からシュルリとテルちゃんが現れた。

「ソラ、オハヨー!」

「あ、テルちゃん! もうおきたの?」

テルちゃんは大体いつも午後にしか目を覚まさない。その丸い体を空が抱き上げると、テルちゃんは嬉しそうにピコピコと両手を振った。

「ウタ、キコエタヨ! タノシイウタ!」

どうやらテルちゃんも美枝の歌声に惹かれて目が覚めたらしい。


『伸びゆくこずえ、影なす青葉、あなたの花はどんな色』


美枝の歌を間近で聞いて、テルちゃんは嬉しそうに帽子に付いた葉っぱをパタパタと揺らす。

「ソラ、ナニシテタ? ナニシテアソンデタ?」

「きょうはねぇ、たけのこがりのけんがくと……わるいひめたいじ?」

「ワルイヒメ?」

「うん。このたけばやしのはんぶんをね、ひめっていうこがのっとって、あやつって、よわらせてるんだ。ぜんぞーさんがたいへんなんだよ」

「ゼンゾー、タイヘン……」


まばゆい白か、揺らめく赤か、それとも夏の空の色』


歌の二番が終わる頃、菫が耳を押さえて小さく呻いた。どうやら抵抗する姫の歌声が耳に障るらしい。

「向こうも大分必死のようだ。だが、美枝さんの方がかなり押してる」

「中心部は、やっぱりこの辺から真っ直ぐっぽいよ! 竹がそこを中心に動いて、集まろうとしてる!」

二人の言葉に善三は和義や良夫らを見て頷いた。

「よし、なら今のうちに行くぞ! 皆、武器は忘れるなよ!」

善三は自分も腰に下げたなたを確かめ、前に出る。

良夫と和義がその横に立ち、後ろには立ち上がった泰造が付いた。その背中を守るのは幸生と正竹だ。

「泰造、武器はいいのか?」

良夫が聞くと、泰造は首を横に振った。

「一応持ってきてるけど、俺の攻撃なんてたかがしれてる。俺は見つける方に専念するから、そっちは任せた」

「……わかった」

良夫は深く頷くとまた前を向いた。

「たいぞうにいちゃん、これもってって!」

不意に後ろから空が駆けてきて、幸生がその体をひょいと捕まえる。

「危ないぞ」

「すぐもどるから!」

空はそう言って手に持った大きな板を泰造に差し出した。

「これは……盾か?」

「そう! ぜんぞーさんにつくってもらった、たらのめようの、ぼくのたて!」

タラの芽狩りの時に使った後、そのまま雪乃が魔法鞄に入れていた竹の盾だ。空はそれを思い出し、取り出してもらって持ってきたのだ。

「きをつけてね!」

「……ありがとな! 俺に任せとけ、絶対見つけてやるからな!」

「うん! いってらっしゃい!」

空はそう言って手を振ると、雪乃の所に駆け戻ってゆく。泰造は自分の体を隠すには小さすぎる盾をしっかりと握り、前を見据えた。


『踊れ、踊れよ、秋の山』


美枝の歌が優しく、並んだ男たちの背を押すように響き渡る。

「行くぞ!」

「おう!」

善三の掛け声で、六人は一斉に走り出した。


『舞い散る落ち葉、彩なす錦、あなたの色はどんな色』


美枝の歌が効いているのか、竹林は静かなものだった。竹が美枝の方に傾いているので少々避けながら進まないといけないが、それでも想定していた反発もなく遙かに楽だ。

六人は身を低くして竹の間をすり抜け、真っ直ぐに奥を目指した。泰造も遅れることなく付いてくる。


『うるわし茜、移ろう蘇芳すおう、それとも秋の日暮れ色』


周りにはまだ風に乗った美枝の歌が響いている。しかし奥に進むにつれ、徐々に周りの竹の向きが変化してきた。

美枝がいる方向に傾いていた竹たちの中に、少しずつそれと違う方向を向いていたり、迷うようにふらふらと揺れていたりするものが交じり始めたのだ。

「この辺からは危なそうだな」

善三はそう言ってスッと竹串を取り出す。

「来るぞ!」

何かに抗うようにぶるぶると震えていた周囲の竹たちが、侵入者を迎え撃たんと襲いかかる。善三はすかさず竹串をそれらの根元に打ち込み、動きを止めた。しかしまたすぐに別の竹が襲いかかる。

「切りますよ!」

「ああ、やれ!」

善三が許可を出すと、良夫が竹に向かって高く跳び、すれ違いざまに手にした小太刀で竹の幹をスパンと断ち割った。

「おりゃあ!」

反対側では和義が竹を殴って弾き飛ばしている。

「うっひゃ!」

泰造は良夫に切られて落ちてきた、竹の頭部分を跳びすさって避けた。

「あぶねーな! もうちょっと落とすとこ選べ!」

「悪い!」

良夫に悪態をつきつつも、泰造も足を止めることはない。善三たちが切り開いた道を、遅れることなく走るのが自分の役目だとわかっているからだ。

走りながらも泰造は、視界に映る竹たちを半ば無意識に鑑定し、判別していた。

竹(魅了)、竹、竹、竹(魅了)と美枝の歌が効いているものと姫の魅了にかかっているものとが入り交じり、本体はまだ見つかりそうにない。しかし近づいているのは間違いなさそうだった。

「魅了されてるのがどんどん増えてるぞ!」

気付けば竹の密集度も上がってきている。ここの妄想竹たちは根で繋がっているし大きいので、遠くまで移動したりはしない。

しかし根で繋がった場所なら、多少時間を掛ければ密集したり、離れたりといったことは出来るのだ。姫の指令によってじりじりと竹たちは移動し、集まっている。

となればその向こうに姫がいるのは明白だが、近づくのはそう簡単ではなかった。

妄想竹はとにかく背が高い。そのためその足元にいるうちはかえって攻撃してこないが、少し離れた場所にいる竹ほど攻撃を仕掛けてくる。

つい先ほど通り過ぎた場所に生えている竹が、後ろから不意に襲ってくるということもしばしばある。

しかしそれは幸生がまず受け止め、そこを正竹が鉈で切り落とすという連携攻撃で対処していった。


「……段々、竹が密集して進みづらくなってるみたい」

遠見の術で戦いの様子を見ていた千里が心配そうにそう告げた。それを受け、鏡を覗き込む皆の表情も曇ってゆく。

鏡に映る六人にはまだ余裕があるが、その進みは確実に遅くなっている。

密集した竹で見通しは悪く、葉陰が濃くなったことで昼だというのに周囲は段々暗くなっている。竹を切り落とせば足場は悪くなり、残った株は動きこそしないがその分進行の妨げになっていた。

美枝はまだ懸命に歌い続けているが、さすがに姫に近い場所の竹たちの支配権までは奪えていない。今はまだ良いが、これをずっと続けていればいずれは美枝にも疲れや限界が来るだろう。

「私も行ってあげたいわね……」

しかし雪乃はここに結界を張っている。ある程度張りっぱなしにしておけるし遠くから維持も出来るが万全ではない。芳竹や佳乃子はいるが、空や美枝、監視役の二人のことを思うとまだここを動かないほうがいい気がするのだ。

雪乃がちらりと空を見ると、空は鏡をじっと見てそれから傍にいるテルちゃんと話をしていた。

テルちゃんは空と一緒に鏡を覗き込みながら、空に一生懸命質問している。

「ソラ、コレ、ナニシテル?」

「んとねー、このたけのむこうに、たぶんわるいひめがいるんだよ。だから、みんなはそこにいって、みつけたいんだ」

「タケ、ジャマシテル?」

「そう。たけさんたちは、あやつられて、じぃじたちのじゃまをしてるの」

「ワルイコダネ!」

テルちゃんはぷるぷると天辺の葉っぱを揺らして竹林の方に視線を向けた。

それからくるりと周りを見回し、最後にフクちゃんと空を見る。

「ソラ、ソラ、テル、テツダッテクルヨ!」

「えっ!?

「ダカラ、ソラノマリョク、チョットチョウダイ!」

空はテルちゃんの提案にしばし悩んだ。ピッと片手を出して頂戴をしているテルちゃんと、鏡を交互に見つめ、どうしようかと考えた。

(テルちゃんがどんな風に手伝うのか想像も付かないけど……でもテルちゃんだしなぁ)

何だかテルちゃんなら何かやってくれそう、という気も確かにする。

鏡の中では泰造が盾を持って竹の攻撃を防ぎ……しかしすぐに油断してうっかり吹き飛ばされそうになったところを幸生に引っ張られ、小脇に抱えられた姿が映っている。

戦いには全く自信がないと言い切る割に、逃げ出したりしないところはさすがに魔砕村の男だった。

「いいよ、テルちゃん。ぼくはおなかすくだけだしね! でも、むちゃはしちゃだめだよ?」

空はまぁいいかと頷き、テルちゃんの小さな手をぎゅっと握る。握った途端、そこからするりと魔力が抜け出たような感覚がした。

「テル、ムチャシナイヨ! アト、フクモテツダウ!」

「ホピピッ!」

テルちゃんはいつの間にかフクちゃんとも話を付けていたらしい。フクちゃんは一声鳴くとむくむく大きくなり、そこにテルちゃんがスタッと器用に飛び乗る。

その途端、空のお腹がグルルル、と高らかに鳴いた。

「オテツダイ、イッテクルネ!」

「ホピピピッ!」