ちなみに近くにいた幸生は、可愛い孫が一生懸命踊る姿を見ては天を仰ぎ、慌ててまた視線を戻すという動きを繰り返し、それもある意味一緒に踊っているように見えた。


「よし、おわりー!」

「はー……つかれたぁ」

体感で十分ほども踊り続けただろうか。

空が段々とふらふらしてきたのに気付いた明良が最後にくるくるっと大きく回り、パン! とタンバリンを強く叩いて踊りは終わりになった。

慣れないことをした空は思わずその場にへたへたと座り込んだ。

「空、大丈夫? お疲れ様」

「うん、ちょっとつかれただけ……」

「ホピ、ホピホピッ!」

空が踊り出したのでその頭から避難していたフクちゃんが、戻ってきて労うようにぐるぐると回る。空は優しいフクちゃんをひょいと持ち上げ、頬ずりして元気を分けてもらった。

「さてさて、明良と空ちゃんが頑張ってくれたから、ワラビがすごいわよ」

「やった、すっごいいっぱいいる!」

「ほんと?」

最後は踊りに夢中で、空はワラビたちがどのくらい集まったのかあまり気に留めていなかった。どのくらいいるのか確かめようと空は立ち上がって周りを見回し、思わず声を上げた。

「うわあ、ほんとにいっぱいいる!」

背の低い草の中からにょきにょき伸びたワラビたちが、空と明良の周りをぐるりと取り囲むように生えている。ツクシほどぎゅうぎゅうに密集して生えているわけではないが、それでもその数は相当なものだ。

「すごい……けど、なんでわらび、あつまったの?」

空はそこを疑問に感じて明良の方を見上げた。

「んっとな、わらびは、あかるいとこがすきで、たのしいこともすきなんだって! だからおどるとあつまってくるんだよ!」

「へ、へー……」

(陽キャ……?)

それが植物の習性だと思わなければ、理解出来なくもないのだが。

「人が踊ると気になって集まってくるのよ。それで一緒に踊ると楽しいのかアクが抜けて、美味しいワラビになるの」

「おいしいのはいいとおもう」

それなら頑張って踊った甲斐があるというものだ。空は美味しくなったらしいワラビをぐるりと見回し、美枝の方を振り向いた。

「みえおばちゃん、わらび、とっていいの?」

「ええ、大丈夫よ。満足したからどうぞって。でも全部は多すぎるかしらね?」

美枝がそう呟くと、ワラビたちがざわっと茎を揺らした。何事か相談するようにワラビたちはわさわさとゆれ、しばらくするとどうやって移動しているのかはわからないがもそもそと動き出した。

比較的背の高いワラビたちがずぞぞぞ……と前に動き、まだ小さいワラビたちは逆に少し距離を取る。動き終わると、手前と奥で大体半分ずつになったようだ。

「このくらいでどうかって」

「こんなにいいの? どうもありがとー!」

半分に減っても、かなり数が多い。

頑張りが認められて嬉しい明良は笑顔でワラビたちに近づき、手前に生えた一本にそっと手を掛けた。

「そら、したのほうの、ポキッとすぐおれるとこでとるんだ!」

「うん、やってみる!」

明良の手元を見ているとワラビは柔らかいようで、根元にかなり近い場所でポキリと折れた。

空も真似をしてワラビを一本摘まんでみる。なるべく下の方に手を伸ばし、握った場所に軽く力を入れるとワラビは容易くポキリと折れた。

「とれた!」

「やったな! じゃあ、もっととろ!」

「うん!」

まだまだ順番待ちをしているワラビたちは沢山いる。

大人たちも加わって、楽しい山菜採りはしばらく続いたのだった。


「沢山採れたわねぇ」

「採りに行ってない友達にお裾分けして、後は塩漬けかしらね。東京にも漬けたのを送ってあげようかしら」

収穫したワラビをまとめながら、美枝と雪乃が料理の話に花を咲かせている。

半分残っていたワラビたちも気がつくと解散して姿を消していた。近くに残ったものもいるが、もう十分な量を採ったのでそのままだ。

「ばぁば、ままたちにおくるときは、ぼくもがんばったってつたえてね!」

「もちろんよ。空が頑張って踊ったって、ちゃんとお手紙に書くわね」

「うん! えへへ……」

ワラビが兄弟たちの口に合うかはわからないが、少なくとも父の隆之や母の紗雪は喜んでくれるだろう。空は皆のことを思い返してにこりと笑う。

「いつかみんなとさんさいとり、できたらいいなぁ」

「そうねぇ。皆がもう少し近くに住めて、気軽に来れるようになったら一緒に来ましょうね」

「うん! じゃあそれまでは、ぼくがとるね!」

まだ一人では何も採れないが、連れてきてもらえば手伝えることは沢山ある。

田舎のものを食べたら、きっと家族も強くなる。そう思うと、山菜採りはさらに楽しさも喜びも増す気がした。


「いただきまーす!」

ワラビ採りが終わった後は昼ご飯だ。

木陰に移動して皆でお弁当を広げる。

空は本日二回目のおにぎりを貰って大きな口を開けて齧り付いた。労働の後に食べるおにぎりは最高だ。

「んむ……おいひい。さけだいすき!」

そう言ってもごもごと幸せそうに口を動かすと、隣にいた明良がクスッと笑いを零した。

「そらって、すきか、だいすきしかなくって、なんかいいなー」

「だって、たべられるならだいたいすきだし……おいしいなら、もっとすき! だいすきなのもいっぱいあるよ!」

米田家の食卓には大人向けの味付けや酒の肴用の料理も多く並ぶが、子供に良くないというもの以外は空はどれも一通り味見している。

塩辛いものはご飯と合うし、ほろ苦いものも少しだけなら食べられる。

辛いものとうんと苦いものはさすがに食べないが、いつか大人になったら美味しくなるかも、と期待は捨てていない。

「おれも、サケだいすき! ワラビいっしょにとったの、たのしかったから、おとなになったら、サケもいっしょにとろうな!」

「うん!」

米田家で保存されている鮭は秋に幸生が獲ってくるものだ。ものすごい速度で川を遡上していくので、捕まえるには技術がいる。

空はいつか、どんな食べ物も自分で捕まえられる大人になりたい。友達と一緒に採ったらきっと楽しいだろうな、と考えながら次のおにぎりに齧り付いた。

「こんぶのつくだに……これもすき!」

梅干しもしぐれ煮もおかかも、おにぎりはどれも美味しい。

「空、おかずも食べてね。唐揚げも卵焼きもあるわよ」

「ばぁば、ありがとー!」

大喜びでおかずを食べ、おにぎりを食べ、またおかずを食べておにぎりを食べる。

「そとでたべると、おいしいねぇ!」

もちろん家でも変わらず美味しいのだが。

(お昼はお弁当で、夜は山菜の天ぷらやおひたし、みそマヨ……ああ、楽しみ!)

空はうっとりと唐揚げを味わいながら、夜の天ぷらを想像してみた。

天ぷらと一緒なら、主食はざるうどんなどさっぱりしたものも合いそうだ。

「ゆうごはんはてんぷらうどん……」

「あはは、そらってば、おひるごはんたべながら、ゆうごはんのことかんがえてる!」

「だっててんぷらだもん! ごはんとたべるか、おうどんとたべるかは、だいじだとおもう!」

そう強く主張すると皆可笑しそうに笑い声を上げた。

「空はどっちがいいの?」

「おうどん!」

「じゃあそうするわね」

「うん!」

雪乃と夕飯の約束をして、空は満面の笑みで頷いた。

今日は頑張って山菜を採ったからきっと夕ご飯も一際美味しいに違いない。自分で採ったものを食べるという喜びに、空は魔砕村の一年で目覚めつつあった。

「はるは、あげもの!」

ようよう白くなりゆく衣はサクサクに揚がって、食卓でほかほかの湯気を細くたなびかせるに違いない。