俺達の後ろには、オクソールとリュカだ。

「エヘヘ」

「ん? リリどうした?」

「兄さまと手を繫いで歩くのは、久しぶりです」

 俺はちょっとスキップしてしまった。中身は大人なのに、かなり恥ずい。

「ああ、そうだね。リリはもう5歳だから、手を繫ぐのも少なくなったね」

「はい。兄さまは大きいです。手も、背も大きいです」

「リリも大きくなるさ」

「そうですか?」

「ああ。兄様はずっと、小さいリリでいてほしい気もするね」

「兄さま、それは嫌です」

「そうかい?」

「はい。いつまでも、守ってもらうだけなのは嫌です」

「リリ……リリはまだ小さいから良いんだよ」

「だから、早く大きくなりたいです」

「急がなくていい。ゆっくりでいいよ」

「兄さま」

 前を歩いていたアルコースが、手で指しながら教えてくれた。

「殿下、この一画が魔石や魔道具を、売っている店が並んでます」

「アルコース、魔石はどこがお勧めかな?」

「はい、こちらです。邸にも納品して貰っている店があります」

 アルコースが一つの店に入って行く。辺境伯家御用達の店なのに、こぢんまりとしていて、家庭的な雰囲気のある店だ。ソールが扉を開けてくれている。カランコロンと懐かしい音がする。

「ソール、ありがとう」

「いいえ、殿下」

 ソールは、気遣いの出来る大人って感じだ。

「わぁ、凄い……!」

 店に入ると、魔石や魔道具にアクセサリーがいっぱいだった。全部魔石を使っているのだろう。

 お高そうな魔石やアクセサリーは鍵付きのガラス棚に入っている。かと思えば、お手軽に買えそうな小物類も置いてある。この店で全部揃いそうだな。

 店番のお婆さんがニコニコして見ている。おう、黒いマントを着ていて凄く魔女っぽい。

「リリ、ルー様が言ってたのは魔石だけだったかな?」

「いえ、兄さま。お手紙を入れる箱もいるそうです」

「そうか。この店で揃いそうだね」

「兄さま、またお願いがあります」

「ん? どうした?」

 ゴニョゴニョと、クーファルに耳打ちした。

「ああ、好きなのを選ぶといいよ」

「兄さま、ありがとうございます!」

 やったぜ、クーファル有難う! 取り敢えず、先に魔石だ。

「どれ位の大きさがいるのかな?」

「兄さま、1センチ位で良いそうです。あ、あと、例えば魔力を流す人が火属性なら、火属性を通しやすいのがいいと」

 俺はよく分からん。

「そうか。アルコース、ちょっといいかな?」

「はい、殿下。どうされました?」

「君の家族で、共通した魔力属性はあるのかな?」

「共通ですか……風ですね。父や兄も私も風属性が使えます」

 なるほど、そうか。風属性と相性の良い魔石を使うと、三人に使えると言う事か。

「兄さま、どの属性にも、相性の良い魔石はあるのですか?」

「ああ、あるよ。そうだな……例えばこれだ」

 クーファルがガラス棚に陳列してあった透明な石を指さした。これは前世にもあった馴染のある物だ。

「クリスタルですか?」

「ああ。でもこのクリスタルは、装飾に使うのとは違って、魔素を多く含んでいるんだ。魔物からとれる魔石は、魔物の属性と同じだ。鉱石もそうなんだが、その中でもクリスタルは違う。後は、ここにはないけど、白金だね。どれも普通の石とは違う魔石だ」

 でも、きっとそれだけお値段もいいのだろうな。

「兄さま、じゃあ今日は風ですか?」

「そうだね。ここら辺かな?」

 クーファルが選んだのは、エメラルドの様な緑色の魔石。

「兄さま、お城には魔石はありますか?」

「ああ、あるよ。だから、風属性だけで大丈夫だ」

「はい。じゃあこれにします。兄さま、これを買って下さい」

 俺は緑の魔石を手に乗せて、クーファルに差し出す。

「リリ、1個でいいのかな?」

「はい。もし改良したら、またその時に考えます」

「そう。じゃあリリ、あっちを見ておいで」

 クーファルが目で店の一角を示す。

「はい、兄さま。ちょっと待ってて下さい」

 俺はクーファルが示した方へ行く。んー、どれも一緒に見えるぜ。

 俺、前世でもこんなの苦手だったんだよな。

「殿下、贈り物ですか?」

「オク、まだ内緒だよ。姉さまにね。でも、どれも一緒に見える」

「そうですね」

「殿下もオクソール様も、疎いですもんね」

「リュカ、なんかやだ」

「え? 何でですか?」

「ねえ、オク。嫌だよね? まるでリュカは疎くないみたいじゃん」

「はい、そうですよね」

 ん〜、これは自分で選びたい。普段使えて、他にアクセサリーをつけても邪魔しないのがいい。それに、俺の金じゃないし。

「これにしよ」

「殿下、そんなに華奢なので良いんですか?」

「うん。守る魔石をつけるからいつも身につけてほしいの。だから邪魔しない様に。それに、ボクのお金じゃないから」

「そうでした。殿下は今日が初めてでしたね」

 そうなんだよ。俺は、街に出るのも初めてだ。城に戻っても、時々街に出たいな。父に要相談だ。

 俺は選んだ物を、クーファルに持って行った。

「兄さま、これをお願いします」

「リリ、これで良いのか? 遠慮しなくて良いんだよ?」

「兄さま、他のをつけても邪魔しない様に。いつも、つけてもらえる様に、これを選びました」

「そうか。じゃあ、これにしよう」

「はい。お願いします」

 クーファルに買ってもらったぜ。太っ腹だね。て、俺はまだお金の価値が全然分かってないんだけど。

 無事に買い物を済ませて、クーファルと手を繫いで街を歩く。

 なんか、やたらと見られてる? 視線を感じるぞ? ジッと見るのじゃなくて、遠慮がちに見てくる。嫌な感じじゃないんだけど。

「兄さま、見られてますか?」

「ああ、そうだね」

「殿下、皆クーファル殿下とリリアス殿下だと、分かっているのですよ」

「アルコース殿、そうなの? なんで?」

「アハハ。リリは来る時に、辺境伯の馬に一緒に乗っていただろう? その後も何度も馬で通っているからね」

「兄さま、何度も通ってますか?」

「ああ、通っているよ」

「殿下、リリアス殿下は殆ど寝ていらしたので」

「オクソール、そうか。リリは覚えてないか」

 なんだと!? 俺は寝ている姿を、街の人達に見られていたのか?

「兄さま! 恥ずかしいです!」

「アハハ、リリ。もう遅いよ」

 マジかよー! 俺、寝ながら涎垂らしてなかったか!?

「リリアス殿下、大丈夫です。可愛らしいと評判でしたから」

 うわぁ……最悪じゃん。

「ねえ」

 急に服の袖を引っ張られた。なんだ? 少し驚きながら、振り返る。

 そこには俺より小さい女の子がいた。

「なぁに? どうしたの?」

「リリ殿下?」

「うん。そうだよ」

「これ、うちのばぁばがリリ殿下にって」

 小さい女の子が差し出してきたのは、小さなピンク色した花だ。

「え? ボク?」

「うん。守ってくれて、美味しいものを見つけてくれてありがとう。て、言ってた」

「お利口さんだね。ありがとう。よく覚えたね」

「うん。ばぁばに何回も言わされたから」

 アハハハ、何回も言わされたんだ。

「ばぁばはどこにいるの?」

「あそこ」

 女の子が指差す方を見ると、お花を売っているお婆さんがいた。

「一緒にばぁばのとこに行こうか」

「うん」

 俺が女の子と、手をつないで一緒に近付いて行くと、お婆さんが膝を折って頭を下げた。

「ばぁば、リリ殿下が来たよ!」

「こんにちは。可愛いお花をありがとう」

「リリ殿下、こちらこそ有難うございます」

「こんにちは、リリに花をくれたの?」

「まあまあ! クーファル殿下まで!」

「有難う。売り物じゃないのかい? リリが貰ってもいいの?」

「はい。こんな花で申し訳ないですが、宜しければどうぞ」

「有難う。リリ、良かったね」

「はい、兄さま。お婆さん、ありがとう!」

 俺はニッコリしながら礼を言う。

「まあまあまあ! なんてお可愛らしい!」

「あ、ありがとう……?」

「クフッ」

 リュカだ。こいつはいつも吹き出してる。

 ──クーファル殿下! リリ殿下! ありがとうー!

 ──有難うございます!

 ──また、いらして下さい!

 お婆さんと話した事が、切っ掛けになってしまったのか彼方此方から声がかかる。

 もしかして、皆、遠慮してくれていたのか?

 街の人達が集まって来てしまって、遠巻きに囲まれてしまった。

「兄さま、どうしましょう?」

「アハハ、困ったね」

「困りました」

 どーすっかなー……

「兄さま、抱っこして下さい」

「どうした?」

 クーファルに抱き上げてもらう。俺は、もらった花を持った手を上げた。

「ボクの方こそ、ありがとうー! 楽しかったよー! また、来るからよろしくねー!」

 大声で言ってやった。言い切ってやったぜ。めちゃくちゃ恥ずかしいけどなッ!

 ワァーー! と、声が上がった。

 ──殿下ー!

 ──待ってるぜー!

 ──ありがとうー!

 クーファルに抱っこしてもらいながら、馬車に戻る。

「ククククッ。リリ、兄さまは驚いたよ」

「兄さま、だって……」

「まあ、仕方ないね」

「はい」

「兄さま。今度来る時は、変装してこなきゃッ!」

「アハハハ! それは良い考えだ」

「いや、殿下。バレバレですって」

「リュカ、うるさい」

 もう、リュカは一言多いんだよ。

 邸に帰ると、庭でニルズとテティが待っていた。

「よう! リリ殿下! もう、帰るんだってな!」

「うん、おっちゃん! 明日、帰るよ!」

 俺は走って行って、ニルズに飛びついた。

「アハハハ! どーした!? やっぱ帰るのは嬉しいか?」

 ニルズはそのまま抱き上げてくれる。がっしりとしていて力強い。海の男だ。

「おっちゃん、ボクはまだ5歳だよ? そりゃ、母さまが恋しいよ」

「あー、そうだよな」

「でもね、おっちゃん。今度は、母さまと一緒に来るからね! 母さまも、おっちゃんに会いたいって言ってた!」

「そうかそうか! そうだな! 今度は一緒に来るといい! 色々案内してやるよ!」

「うん、おっちゃん! ありがとう!」

「もう、あんたは言葉遣いを気をつけて、て言ってるのに!」

「テティ、いいんだ。おっちゃんと、テティはそのままがいい」

「リリアス殿下……!」

「おっちゃん、テティ! ありがとう! 二人に出会えて、本当によかった!」

「殿下! 本当にまた来て下さいね! 待ってますからね!」

 あらら、テティ泣いちゃったよ。優しそうな淡い茶色の瞳から、ポロポロと涙が零れ落ちた。

「テティ、泣かないでー! おっちゃん、どーすんの!?

 て、おい! ニルズもか!? いい年したオッサンが泣くんじゃないよ!

「リリ殿下! 寂しくなるよー! 俺達の子供は、もうでっかくなっちまったからな。殿下は孫みたいなもんなんだよ。楽しかったぜ! また、一緒に海に出ような!」

「うん! おっちゃん!」

「殿下、シェフに干した魚や昆布とか、色々渡しておきました。お城でも、食べて下さいね」

「テティ、ありがとう。お手紙書くね」

「まあ! 殿下、待ってますね」

「うん! テティ、ありがとう!」

 俺はニルズに抱っこされながら、二人の首に手を回して抱き寄せた。

 二人のお陰で楽しかったよ。心の友ができた。


「……ふわぁ〜……

 いつもの様に、俺は昼寝から目が覚めた。いつもの様に、ニルが言う。

「殿下、お目覚めですか?」

「うん、ニル」

 いつもの様に、ベッドからおりてソファーに座る。

「殿下、りんごジュースどうぞ。ユキもありますよ」

 いつもの様に、ユキとりんごジュースを飲む。

「殿下……また、いつでも来れます」

「うん……グシュ……」

 いつもの様には、笑えなかった。やっぱ、ちょっと寂しい。滞在が長かったからな。

「リリ、起きてるかしら?」

 ヤバイ、フィオンだ。泣いているとこなんて見せられない。

「殿下!」

「うんッ、ニル!」

 ニルと二人で、慌てて涙を隠す。

「……リリ、ニル」

 あ……バレバレか? フィオンが入ってきて、そぅっと抱き寄せられた。

 あれ? いつもの、ガバッとじゃないぞ? どうした、フィオン?

「リリ、いつでも来る事ができるわ。それもリリのお陰よ。私が笑顔で帰れるのもリリのお陰。リリ、ありがとう。また、一緒に来ましょうね」

「姉さま……うぇッ……ヒグッ……」

「姉様が嫁ぐ地を、好きになってくれて嬉しいわ」

「姉さま……やっぱ嫌です!」

「リリ……!?

「姉さまと離れるのは、嫌です!」

「リリ……まだまだ先よ。それまで、沢山一緒にいましょうね」

「姉さま!」

 俺はフィオンに抱きついた。やっぱ、姉なんだよ。大好きな、大切なねーちゃんだ!

「リリ、起きたかな?」

 ポンッとルーが現れた。

「ルーって、本当に空気読まないよね」

「なんだよ! ボクほど空気の読める精霊はいないよ?」

 さて、俺は座ってりんごジュースを飲もう。

「フフフ、リリはルー様と本当に仲良しなのね」

「「…………」」

「え? あら? リリ、姉様は何か変な事言ったかしら?」

「フィオン、僕はリリに揶揄われているんだよ?」

「ルー様、それも仲が良いからこそですわ」

「ま、そう言う事にしておいてあげよう」

「ルー様、リリ、お兄様が起きたら部屋に来るようにと、仰っていたわ」

「はい、姉さま。ルー、行こう。魔石買ってきたんだ」

「そうか、じゃあ早速行こう」

 フィオンはそれを伝えに来てくれたのか? 何か用事だったんじゃないのか?

 さっさと部屋に戻って行ったからいいか。


「兄さま、リリです」

 俺とルーとリュカも一緒に、クーファルの部屋にやってきた。

「ルー様、リリ。早速、作ってしまおう」

「はい、兄さま。ルー教えて」

「ああ、買ってきたのを見せてよ」

 ソールが魔石と、転送の道具に使うつもりの小箱を持ってきた。

「うん。いいね。リリ、マジックバッグと似た感じだ。この小箱にだな…………

 ふむふむ。ルーに教えてもらった。早速、やってみよう。俺は魔石を手にした。

「リリ、分かったのか?」

「うん、なんとなく」

「なんとなくで出来るのか?」

「ん〜、多分」

 ルーが疑いの目で見てる。

「リリ、本当に分かったのかな?」

「兄さま、大丈夫です」

 俺は、魔石を小箱の上にのせて、魔力を込める。ほんのちょっと魔力を込めただけで、魔石が光りだした。もう少し魔力を込めると、小箱ごと光りだした。そして光が小さくなって消えた。

 小箱の蓋に魔石が嵌っている。よし、出来上がりだ。

「うん、できた!」

「どれどれ」

 ルーが魔石のついた小箱をじっと見る。

「うん、完成だな」

「じゃあ、ルー。城の分も作ってしまうよ。出して」

「リリ……なんで分かったんだ?」

「話をしただけで、盛り上がっていた父さまが、欲しがらないワケないじゃん」

「それもそうだ。じゃあ、頼むよ」

 ポイっとルーが、豪華な小箱と光の魔石を出してきた。

「ルー、魔石はこれなの?」

「ああ、変か?」

「そうじゃなくて、これ光属性でしょ? 兄さまや姉さまは使えないの?」

「リリ、魔石を良く見な」

 なんだよ。どう見ても、光属性の魔石だろ?

「リリ、よく見てごらん?」

 なんだ? クーファルに言われた通りに、ルーが出してきた白銀色に光る魔石をじっと見る。

 そうだ、俺って鑑定できるんだった。

「あ……兄さまこれ!」

「分かったかな?」

「はい。兄さまが言ってた白金ですか?」

「そうだね。しかし、父上は何を考えているのか」

「クーファル、僕も同意見だ」

 なんだよ、俺は分からんぞ?

「リリ、とてもとても高価な物なんだよ」

「え……」

「多分……父上の事だから、リリが作る魔道具だから! とか思っているんだよ。変なテンションになっているんだ」

 え? そうなのか?

「さすが、クーファルだ。その通りの事を言っていたよ」

 本当にもう……悪い癖だ。

「ルー、駄目。父さまに返してきて」

「リリ、やっぱそうなるか」

 当然だろ、そんな高価な物を使ってどうすんだよ。

「ほい、じゃあこっちで」

 また、ルーがポイッと魔石を出した。

「ルー、何? どう言う事?」

「リリが何も言わずにそれを使ったら、これは出さない約束だったんだ。リリが駄目だと言ったから、こっちだ」

 なんだよ、それは!

「あー、リリ。父上は狡いね」

「兄さま、本当ですね。ルー、これはクリスタル?」

「ああ、そうだ。皆が使える様にな」

「分かった」

 俺はクリスタルを小箱にのせて、魔力を込めた。

「ああ、リリ。話していた事だけどね。取り敢えずだけど、なんとかなりそうだよ。また後でちゃんとした物を作るそうだ」

「兄さま、そうですか! ありがとうございます」

「後々、その方が便利だろう? リリが言ってた様に万が一の時にもね。対応できるようになったのなら使わないとね」

 やったね。クーファルが提案してくれて何とかなりそうだ。


 その日の夕食は、久しぶりに夫人が一緒だった。

「ご心配をお掛けしてしまって、申し訳ありませんでした」

「夫人、元気になられて良かった」

「クーファル殿下、有難うございます。それに、アルコースの事でもご配慮頂いて有難うございます」

「クーファル殿下、私からもお礼を。有難うございます」

「有難うございました」

 アラウィン、アスラール、アルコース揃って、クーファルに礼を言っている。

「まあ、まだこれから正式に婚約発表もしなければいけない。フィオン、あまり世話をかけたら駄目だよ」

「お兄様、私はそんな事しません。でもお兄様、有難うございました」

 あー、フィオンは自覚がないんだよな。

「リリ? 何か今失礼な事を考えたわね?」

「姉さま、そんな事ないです」

 俺はブンブンと首を横に振る。鋭いな。

「リリアス殿下、またいらして下さいね。今度はもっと一緒に、お出かけしたりしましょう」

「はい、是非!」

 元気になって良かった! 夕食はご馳走だった。シェフや料理人達が、腕を振るったのだろう。

「ん〜! シェフ、絶品だね!」

「殿下、有難うございますッ!」

 何の肉か分からないが、スネ肉らしい物のワイン煮込み。ナイフが抵抗なく入って、超柔らかい。

 俺はまたお口いっぱいに頰張っちゃうよ。お行儀悪いなんて言わないでくれ。美味いんだからさ。まだ5歳だしさ。ウマウマだね。超ウマウマだよ。凄いね。料理人の本気さが伝わってくるよ。

 応接室に移って、デザートをいただく。今日はニルがお茶を出してくれている。俺はもちろん、りんごジュースだ。

「まあ、見た事のないケーキだわ! とても美味しい!」

「リリアス殿下に教えて頂いたものです。綺麗な層にして、崩さないようにするのが難しくてやっと納得のいく物が出来ました」

 俺は崩さない様に、そぅ〜っとナイフを入れて、パクッと食べる。思わずほっぺを両手で支えてしまうぜ。落ちないのに。

「ん〜、美味しい〜」

 甘すぎないカスタードクリームと苺、サクサクの生地。これも絶品だ! 苺のミルフィーユ。

 俺は流行り物よりも、こういう定番物が好きだね。

「リリ、忘れてはいけないよ? ほら、説明して」

「あ……美味しくて、食べるのに夢中で忘れてました!」

「リリ、それはないよ!」

 ポンッとルーが現れた。

「ルー、父さまはなんて?」

「ああ、項垂れていたよ」

「もう意味が分かんない」

 ルーは、俺が作ったお手紙転送のお道具を城に届けてくれていた。父は希望の魔石が使われていなかったので、残念だったんだろうが。あんな高価な魔石を、使う訳ないだろう。

 父は時々、頭の中がお花畑になるらしい。

「父上は、時々変な事に拘るからね」

「兄さま、本当無駄ですよね」

「ああ。まったくだ」

「お兄様、リリ? 何の事かしら?」

「フィオン、なんでもないよ。父上がまた、リリの事で無駄遣いしようとしていただけだ」

「まあ、父上は本当に」

 フィオン、内容は知らなくても同意するんだな。あの父はどんだけなんだ?

「ああ、リリ。それとね、城の方も大丈夫だよ。取り敢えずだけど、受け入れられるようにしておくってさ」

「そう。ルー、ありがとう」

「リリ、じゃあ渡して」

「兄さま、ボクですか?」

「ああ、当然だ。ソール、持って来てくれる?」

「はい、殿下。こちらに」

 俺はソールから小箱を受け取って、アラウィンの側へ行った。

「アラ殿。転移門をヒントに、ルーに教えてもらって作りました。材料費はクーファル兄さまが出してくれました。便利だと思います。使って下さい」

 アラウィンに、手渡した。

「殿下、これは何ですか?」

「この小箱の中に入る大きさのお手紙を入れて、蓋の上に付いてる魔石に魔力を込めて下さい。そうしたら、城にある小箱にお手紙が転送されます。こっちにお手紙が届いたら、魔石が光ってお知らせします。お手紙だけのつもりで作ったのですが、この小箱に入る大きさの物なら、なんでも送れます」

 どうだ? とっても便利だろう?

「それは、素晴らしい!」

「ボクが次に来る時は、先にお手紙でお知らせしますね」

「殿下、この様な物を頂いて勿体ない事です。有難うございます。大事に使わせて頂きます」

「はい、お手紙書きますね! ね、姉さま」

「リリ、有難う」

 俺はフィオンの側に行く。

「姉さま。ボクの大好きな姉さまには、これを」

 ニルが俺のそばに来て、手渡してくれる。細い華奢なチェーンに、小さな魔石を花の形になるように付けたトップ。フィオンを守ってくれる様、防御やシールドを目一杯付与したネックレスだ。

 俺は魔石の付与しかできないから、ニルが協力してくれて花の形にしてくれたんだ。

「リリ……」

「アルコース殿、姉さまに着けて差し上げて下さい」

「はい、リリアス殿下」

 アルコースが、屈んでソファーに座っているフィオンにネックレスをつける。

「アルコース殿には、これを」

 フィオンのネックレスと同じチェーンに、小さなクロスを象った魔石のトップ。

 これにも、同じように付与してある。

「姉さま、着けて差し上げて下さい」

 フィオンが黙ってアルコースにネックレスを着ける。

「どっちにも、防御やシールド等を目一杯付与してあります。いざという時に守ってくれます。いつもつけていて欲しいので、他の物を重ねても邪魔にならない物にしました。これも材料費は兄さまで、ニルが手伝ってくれました」

 次は、アスラールだ。

「アスラ殿、ボクは婚約者の方は知らないのですが、お二人にもペアで作りました」

「殿下、私もですか!?

「どうか、今迄我慢した分もお幸せに。また領地を案内して下さいね。とっても楽しかったです!」

「リリアス殿下……有難うございます」

 さて、最後だ。

「アラ殿と、アリンナ様にも」

 俺はアラ殿の側に行く。

「殿下……申し訳ありません! 失礼致します!」

 そう言ってアラウィンは膝をつき、俺を抱きしめた。ガバッとじゃないけど、しっかりと抱き締められた。太い腕だ。この腕でこの地を守ってきたんだ。