俺の横で、小さいユキが伸びをしている。最近寝る時は小さくなって、ベッドに入ってくる。寒いのかな? ネコ科だし。俺はユキの体温とモフモフで、天然の湯たんぽ状態でホコホコだ。

「殿下、ご用意して下さい。早く朝食を食べませんと」

「ニル、そうだった!」

 俺はぴょんとベッドから下りる。顔を洗って着替えて、食堂へ向かう。

 今日はさ、アレだよ。アレ。騎士団vs領主隊の3種競技大会だ。

 昨日からもう既に、邸の前庭には区分けがされている。

 ここから領民は入ったらダメだぞ。て、区分けでロープが張ってある。

「リリ、今日は何だ?」

「ユキ、昨日綱引きやったでしょ? あの本番だよ。あと玉入れと紙風船割りをするんだ。領主隊と騎士団の対決だ」

 食堂のある階に下りると、ワゴンを押しながらシェフがやって来た。

「殿下ッ! おはようございますッ!」

「シェフ、おはよう! 準備しなくていいの?」

「殿下のお食事が終わったら行きますよ。騎士団も食事中ですから」

「そうなの? 応援してるから、頑張ってね!」

「はいッ! 殿下、有難う御座います! 殿下、ちょっとご相談が」

「どうしたの?」

 食堂まで歩きながら話す。

 対戦が終わってから、昼食を見に来ている領民達にも振る舞うのだそうだ。だから……

「皆で、ワイワイと食べられるメニューは、何かありませんか?」

「んー、外でかぁ……」

 じゃあ、アレに決まりだろ!?

「シェフ、バーベキューは?」

「バーベキューですか?」

「うん。シチューかポトフとかもあればいいなぁ」

「殿下、そのバーベキューとは?」

「あのね、野外でね……」

 はい、説明は省きます!

「さあ、殿下。どうぞ。沢山食べて下さいッ!」

 今朝は、おにぎりだった。和食だよ。前に話していた卵焼きまである。

「シェフ、ありがとう! いただきまーす」

 と、俺はしっかりと大きな口をあけておにぎりを頰張る。ウマウマだぜ。俺の可愛いほっぺも膨らむよ。で、何で今朝はおにぎりなのかな?

「はい。隊員達からのリクエストです。米の方が腹持ちが良いからと」

「なるほろね〜……」

 うん、そりゃパンよりはな。

「シェフ、これも美味しい!」

「はい! ソイがあると料理の幅が広がります!」

「そっか! 良かった!」

 牛肉ときのこの時雨煮だ。おにぎりに合わない訳がない。おにぎりと一緒にあーんと頰張る。ワカメの味噌汁も美味いよー。しかしなぁ、和食をナイフとフォークで食べるこの違和感よ。残念だ。

「あれ? 今日はユキもう調理場に行ったの?」

「はい。今日は慌ただしいので、早く食べてもらってます!」

「いつもごめんね」

「殿下、何を仰います! 神獣の食事を担当する事などありませんから。皆、喜んでますよ!」

「本当? なら、良いけど。ユキ、めちゃ食べるからさ」

「はい、凄く食べますねッ!」

「リリ、おはよう。今朝は早いね」

「兄さま、おはようございます!」

「あら、本当に」

「姉さま、おはようございます!」

 クーファルとフィオンが、食堂に入ってきた。

「リリ、おはよう。どうしたの? 早いのね? あらあら、可愛いほっぺにご飯粒がついてるわ」

 あらら。フィオンは俺のほっぺのご飯粒を摘んでついでに拭いてくれる。

 ちょっと恥ずかしい。もう5歳なのに。

「姉さま、ありがとうございます。今日は本番ですから! ボク、食べるのが遅いので早く来ました」

「ああ、対戦だね」

「はい、兄さま!」

「リリ、出ないのに張り切ってるね」

「兄さま、ボクも本当は出たいです。でも、オクに駄目と言われました」

「そりゃあそうだよ。まだ小さいリリが、あの中に入ったら潰れてしまうよ?」

「えぇッ! 兄さま、ボク潰れますか!?

「きっと潰れるね」

「ええ、潰れちゃうわね。ふふふ」

「姉さままで!」

 ショックだぜ! 俺ってそんなに小さいか!?

 まあ、ちびっ子だよな。5歳児だもんな。一瞬、忘れてた。

「シェフ、ごちそうさまー! シェフ、ユキに食べたらお庭に来るように言っといて!」

「殿下、もう行かれるのですか!?

「うん! 見に行く!」

「リリ! 待ちなさい!」

「え、兄さま。駄目ですか?」

「リュカが来るまで待ちなさい。危ないからね」

「はーい」

「おや、リリアス殿下。今日は早いですね。もう食べられたのですか?」

 アラウィンが入ってきて、俺の皿が空になっているのを見て言った。

「おはようございます! だってアラ殿、早く見に行かなきゃ!」

「対戦ですな。今度こそ、騎士団に勝たせてもらいますよ」

「アラ殿、どうでしょうね? オクもリュカもいますから!」

「せめて1種目位は、勝ちませんと」

「え、騎士団てそんなに強いのですか?」

「リリ、騎士団は負け知らずだと言っただろう? 騎士団は3種目すべて勝っているよ」

「兄さま、まさか3種目全部勝ってるとは、思いませんでした」

 マジか!? 騎士団スゲーな! もしかしてオクソールの、あの地獄の鍛練の賜物か?

「失礼致します。リリアス殿下、お待たせしました」

「リュカ! もう、食べたの?」

「はい! 行きますか?」

「うん! じゃあ、ボク行きます!」

 椅子から下りてリュカと部屋を出る。

「リリ、気をつけなさい! リュカ、頼んだよ」

「はい、クーファル殿下。失礼致します」

「リュカ、待ってたんだ!」

「ハハハ、殿下ならそうだろうと思って、早く食べて来ました」

「えー、リュカちゃんと食べた?」

「はい、食べましたよ」

「じゃあ、いいけど。急がせちゃって、ごめん」

「いえ、殿下。大丈夫です。今日も全種目勝ちますよ!」

「うん、頑張って!」

 邸の前庭に出ると、もう隊員達がかなり集まっていた。みんな、ヤル気だぜ!

「殿下、おはよう御座います」

 オクソールが俺を見つけて、やって来た。

「オク、おはよう! ちゃんと食べた?」

「はい、食べましたよ」

「ちゃんと食べないと、力が出ないからね」

「殿下、大丈夫です。勝ちますよ!」

「うん! 頑張って!」

 楽しみだ!

「殿下、おはよう御座います!」

 アスラールと、アルコースだ。

「おはようございます。あれ? アスラ殿。アラ殿はまだ食べてましたよ?」

「私達はもう食べました。殿下も今日は早いですね」

「うん! だって楽しみだもん!」

「ハハハ、どっちが勝つでしょうね」

「アスラ殿、騎士団は負けません!」

「殿下、領主隊だって負けません!」

 アスラールとアルコースは審判をするのだそうだ。だから競技には参加しない。

「殿下、始まると危ないから、彼方に行きましょう」

「リュカ、分かった」

「殿下、このロープから中に入ったら駄目ですよ」

「うん。リュカ分かってる」

「では、殿下。また後で」

「はい、アスラ殿」

 俺はオクソールとリュカと一緒に、正面の長椅子が並べてあって天幕が張ってある場所に行く。

 よく小学校の運動会で、張ってある感じのパイプ式のテントだ。なんか懐かしいなぁ。

 領民達も大勢集まってきている。みんなロープの外側に敷物を敷いて見物だ。

 彼方此方から、両方の隊員達が声を掛けてくれる。嬉しいねー!

 ──殿下! おはよう御座います!

 ──勝たせてもらいますよ!

 ──騎士団は全種目勝ちます!

「うん! 領主隊も騎士団も、みんな怪我しない様にね! 頑張ってー!」

 ──おおーーッ!!

 隊員達が揃って叫ぶと、雄叫びみたいだ。圧倒されるよ。

「ねえ、オク。綱引きって3回するんだっけ?」

「はい。16名ずつを2回やって、勝ち残った者で決勝です」

「オクとリュカは別々のチームなの?」

「いえ。勝ちを狙ってますから。リュカと一緒のチームですよ」

 オクソールとリュカが同じチームだなんて、ちょっと反則な様な気もする。マジで勝ちにいっているんだ。

「殿下、当然です」

「そうですよ、殿下。今まで騎士団は負け知らずなんですから。ここで負ける訳にいきません」

「オクは良いけど、リュカ頑張ってね」

「殿下、どういう意味ッスか?」

「だってリュカさぁ……」

「あーもういいです! 見てて下さい! 絶対、勝ちます!」

 だってなぁ、リュカは領主隊ではないアラウィンの側近のハイクに、腕相撲で負けてるもんなー。

 と、思い出して邸を振り返ってみる。やっぱり、窓からみんな見てるよ。

 あ、レピオスが夫人に付いていてくれてる。手を振っておこう。

「殿下、遅くなりました」

 ニルがユキを連れてきてくれた。

「ニル、ちゃんと食べた?」

「はい。食べましたよ。殿下、もう沢山集まってますね」

「そうだね。みんな張り切ってるしね。ユキ、沢山食べた?」

「ああ。美味かった」

「そう。良かった。ここで見るからね。ユキも一緒に見よう」

「リリ、我は出ないのか?」

「うん。ユキが出たら対戦にならないよ」

「本当ですね。楽勝です」

「ねー、ニルも一緒に見れるの?」

「いえ、私はクーファル殿下が来られたら、フィオン様の所に参ります」

「そっか、お願いね」

「はい。大丈夫ですよ」

「そうなの?」

「はい」

 そこへクーファルがやって来た。

「リリ、特等席にいるじゃないか」

「兄さま、はい! 真正面です!」

「ハハハ、張り切っているね。ニル、頼んだよ」

「はい、クーファル殿下。ではリリ殿下。私はこれで」

「うん、ニル。ありがとう。お願いね」

「はい、殿下」

 ニルが邸に戻って行った。その邸を見上げると、フィオンが窓から見ているのが分かる。

「フィオンねーさまー!!

 俺は大声で呼びながら、ぶんぶん手を振った。

「アハハッ。リリ、フィオンが困っているよ」

 フィオンが、少し恥ずかしそうに小さく手を振ってくれる。

「でも兄さま。姉さまは手を振り返して下さいましたよ」

「ふふふ、そうだね。フィオンはリリが大好きだから喜んでいるだろう。さあ、始まるみたいだよ」

 アラウィンが前に出てきた。先ずは領主のお言葉だ。

「皆おはよう! 先日、領主隊と騎士団による、森の合同調査を無事に終える事が出来た! 暫く皆を悩ませていた、原因不明の発熱の原因を解明し無事に駆除する事ができた。皆、ご苦労であった! 今日は、恒例の騎士団対我が領主隊の対戦だ! 領主隊の諸君! 騎士団の全勝記録を止めるのだ!」

 ──おおーーー!!

「騎士団の諸君! 諸君等の実力を遺憾無く発揮してくれたまえ!」

 ──おおーーー!!

 さあ! 始まりだ!

 長くて太いロープが用意される。ロープの真ん中に旗がつけられている。まず1回目の対戦だ。

 騎士団16名、領主隊16名がロープを挟んで向かい合わせに定位置につく。

 騎士団は団長と副団長がいる。

 審判はアルコースだ。

「Ready……」

 アルコースが手に持っている旗を上げた。

 隊員達がロープを摑む。

 見物人まで静まり返っている。

「go!」

 アルコースが同時に勢いよく旗を振り下ろし、直ぐに離れる。

 ──せーーのッ! せーのッ! せーのッ!

 騎士団も領主隊も同時にロープを引きだした。

 真ん中につけられた旗が、ユラユラと領主隊の方へ倒れた。

「ピピー!!

 アルコースの笛が鳴り響く。

 1回目の対戦は、領主隊の勝利だ。

「ああ〜! 兄さま、騎士団が負けました!」

「まあ、リリ。これは予選みたいなもんだからね。次はオクソールが出るよ」

 なるほど、次が本命って訳だな。

 ロープが整えられ、隊員達が別の16名と入れ替わる。

「兄さま、オクとリュカです! 一番後ろです!」

「ああ、いつもオクは一番後ろだ」

「そうなのですか?」

「ああ。一番力のある者が、最後尾なんだよ」

「オクとリュカがアンカーだと言ってました!」

 審判のアルコースが真ん中に立つ。

「Ready……」

 アルコースが旗を上げた。

 隊員達がロープを摑む。

 なんか空気がピリピリするぜ。たかが綱引きなのにな。屈強な隊員達がやると、迫力が違う!

「go!」

 アルコースが同時に勢いよく旗を振り下ろし、直ぐに離れる。

 ──ピピーー!

 アルコースの笛が鳴り響く。なんと、あっという間だった。

 最後尾から、オクソールとリュカが数回ロープを引いただけで、勝敗が決まってしまった。

「兄さま、これオクとリュカは反則になりませんか?」

「ハハハ、若干そうかも知れないね」

 いや、本当に。若干どころじゃないよ。

 こんなの、力の差がありすぎるじゃないか。だってオクソールとリュカは全然全力じゃなかったぞ。余裕があった。だってリュカなんて俺の方を見て満面の笑みだったからな。

 さて、決勝戦だ。

 騎士団は、オクソールとリュカがいる。

 領主隊は、隊長のウルや副団長がいる。

「Ready……」

 アルコースが旗を上げた。

 隊員達がロープを摑む。

 最終決戦だ! どっちも頑張れ!

「go!」

 アルコースが、同時に勢いよく旗を振り下げ、直ぐに離れる。

 ──せーーのッ! せーのッ! せーのッ!

 騎士団も領主隊も同時に、皆ロープを脇にしっかり挟んで引きだした。

 おー! 今度は領主隊も踏ん張っている。

 ──せーーのッ! せーのッ! せーのッ!

 しかし、最初は耐えているだけだった最後尾のオクソールとリュカが引き始めると、しっかりと踏ん張っていた筈の領主隊がズルズルと引きずられ始めて……

 ──ピピーー!

「騎士団の勝利!!

 ──おぉーー!!

 そりゃそうだよ。獣人が二人もいるんだよ。身体能力が違いすぎる。やっぱ反則だよね。

「兄さま、次からはオクとリュカは、出場させたら駄目ですね」

「リリ、何を言ってるんだい? 勝つためには手段を選んではいけないよ?」

 ええー! クーファルも確信犯だったか!?

 騎士団と領主隊から2名ずつ、籠を背負った隊員達が出てきた。

 あ、シェフだ! 籠を背負って出てきた。

「シェフー! 頑張ってーー!」

 俺は大声で、応援する。シェフが手を上げて応えてくれた。

 両手に一つずつ、ふわふわの球を持った隊員達が31名ずつ出てきた。

 領主隊が赤、騎士団が第2騎士団の色の碧色だ。

 籠を背負った隊員だけ立っていて、後の隊員は皆しゃがんでいる。

「兄さま、しゃがんでスタートなんですか?」

「ああ。球を入れる者は必ず片膝をついて、しゃがんでスタートだ」

 へぇ〜。そんなルールなんだ。

「兄さま、何分入れられるのですか?」

「3分だ。昔は5分だったらしいんだけどね。5分だと、騎士団は全部入れてしまうんだよ。それで最近は3分に短縮したんだ」

「全部入れちゃうんですか!?

「そうだよ」

 騎士団凄い! 想像できないぞ。全部球を入れてしまうなんて聞いた事がない。

 今度はアスラールが審判で前に出てきた。片手に旗を持っている。

「片膝をついているかー!?

 ──おぉー!!

「Ready……」

 アスラールが旗を上げた。

 隊員達が、じっと目当ての籠を見る。

「go!!

 アスラールが同時に勢いよく旗を振り下げ、直ぐに走ってコートから離れる。

 籠を背負った隊員達が、逃げまくる。

 その籠を目掛けて、球を投げる隊員達。ポコポコと隊員達に当たっている。籠を持った者は頭にも当たっている。

「うわ、痛そう!」

「ハハハ、リリ当たっても痛くないよ」

「兄さま、そうですか?」

「ああ、おがくずを入れてあるからね」

「そうなんだ」

 シェフが逃げまくっている。

 逃げながら、飛んでくる球をヒョイヒョイと身をひるがえして避けている。

「シェフ、凄い!」

「アハハハ! 本当に、リリのシェフは凄いね」

 シェフ、楽しんでる? 遊んでるのか?

 ヒョイと片足を上げたり、ピョンとジャンプしたり。ヨッ! ホッ! ハッ! と、かけ声までかけている。全然、余裕じゃん! あれは対戦相手はムカつくよなぁ。

 ──ピピーー!

「殿下、数えますか?」

 アルコースが誘いに来てくれた。

「うんッ! 数える!」

 俺は、アルコースに抱き上げられて、中央へ行く。

 ──リリアス殿下だ!

 ──あー! 殿下!

 ──殿下、かーわいーい!

 見学の領民達から声があがる。恥ずかしいからやめてほしい。

「殿下、真ん中で数えて下さい。俺は騎士団の球を、兄は領主隊の球を1個ずつ上に投げます。どちらかが、無くなったら終わりです」

「うん! アルコース殿、分かった!」

「殿下、殿下! これに乗って下さい! 殿下、小さいから!」

 リュカが台を持って走ってきて、また余計な事を言った。

「もう! リュカ、また!」

「ほら、始めて下さい!」

 アスラールとアルコースが籠を持ってスタンバッている。俺はピョンと台に乗った。

「いきまーす! いーち! にー! さーん! …………!

 俺が数えるのに合わせて、球が上に投げられる。

「……ごじゅう! ごじゅういち!」

 ここで、領主隊の球が無くなった。

「殿下、騎士団が無くなるまで数えましょう」

 アスラールが教えてくれる。

「ごじゅうにー! ごじゅうさーん! ごじゅうよーん! ごじゅうごー! ごじゅうろーく! ごじゅうなーな! ごじゅうはーち!」

 ここで騎士団の球も無くなった。

5851で、騎士団の勝ちー!」

 俺が大きな声で告げる!

 ──おおーーー!!

 えっ!? 凄くない!? 其々62個あったんだよ。

 62個中58個入れるなんて、俺は聞いた事ない! まあ、小学校の玉入れしか知らないんだけど。

 領主隊だって、充分凄いよ。51個も入れたんだから。

「殿下、有難うございました。次は危ないので、戻りましょう」

 アスラールがそう言って、抱き上げてくれてクーファルの側に戻る。

「リリ、かわいかったよ」

「兄さま、やめて下さい。ボクも参加したいです」

「もっと大きくなったらね」

「兄さまは参加しないのですか?」

「私はしないよ。フレイ兄上はいつも参加するみたいだよ」

「そうなんですか? あー、でもフレイ兄さまは、ムキになってやっていそうです」

「アハハハ。リリ、その通りだね」

 ちょっと脳筋なうちの長男だ。

 騎士団とオクソール、リュカ、シェフ。

 領主隊から33名の選抜隊。

 両手に赤と碧の紙風船をつけて、剣の代わりのフヨンフヨンした柔らかい棒を持って出てきた。多少打たれてもそう痛くはないだろう。

 ──領主隊頑張れー!

 ──最後だぞー!

 ──勝てよー!

 領民達が声援を送る。

 さあ、最終決戦だ!

 領主隊は、両手首に赤の紙風船を着け赤の棒。

 騎士団は、両手首に碧の紙風船を着け碧の棒。

 前庭にテニスコート位の大きさの長方形が描かれている。

 最初は、左右両側に分かれて、地面にうつ伏せの状態からスタートらしい。

「兄さま、これは何分逃げるんですか?」

10分だよ。時々10分かからずに、騎士団が勝ってしまう事もあるんだよ」

「えっ、騎士団凄い!」

「ああ、騎士団は帝国の精鋭達だからね」

 そうだったよ。騎士団は選び抜かれた精鋭達なんだ。

 騎士団も領主隊も、それぞれ気合を入れている。

 ──勝つぞー!

 ──おーー!!

 領主隊だ。前世でもやってたよなぁ〜。円陣組んでさぁ。

 ──きしだーん!

 ──おーー!!

 アハハッ! まんまじゃん!

 辺境伯邸の前庭に、野太い声が響き渡る。

「みんなー! 頑張ってー!」

 ──おぉーー!!

 俺も声援を送る。その場でピョンピョン跳ねながら、両腕をブンブンと大きく振る。

 審判はアスラールだ。

 地面に描かれている、長方形の外から合図をするらしい。危ないもんな。

「分かっているだろうが、顔や頭を殴るのは反則だからな!」

 ──おうっ!!

「Ready……」

 アスラールが旗を上げた。

 騎士団も領主隊も、全員うつ伏せだ。

「go!!

 アスラールが勢いよく旗を振り下げた。

 同時に、うつ伏せだった隊員達が一斉にガバッと起きて走り出した。

 パフン! パフン! パフーン!

 これは、隊員達が棒で手首に着けている紙風船を狙って叩いた音だ。

 当たっても痛くないように作ってあるのだろう。ふにゃふにゃらしいよ。でも見ていると痛そう。音がちょっと、おマヌケだ。

 しかし……これは……

 どっちも、身体能力が半端ない。オクとリュカなんて、躱すのが早くて紙風船にかすりもしない。

 あ、シェフもだ。ヒョイ、ヒョイと上手く躱している。シェフは身軽だよなぁ。

「ブヘェッ!!

 あ! リュカがズザッと転けた! あいつは何でいつも転けてるんだ!? しかもマヌケな声を出して。

 周りにいた領主隊の隊員達は、チャンスとばかりに転けたリュカの手首を狙って叩く。

 が、リュカはあっという間に、立ち上がって反撃に出た。

 油断していた領主隊は、慌てて回避するがリュカに紙風船を割られてしまう。

 オクソールとシェフは、涼しい顔をして飄々と避けている。オクソールなんて全然表情が変わらない。余裕なんだ。

「兄さま、オクとリュカは勿論ですが、シェフは凄いですね」

「本当だね。何でシェフを希望したのか分からないな。今でも朝のオクソールの鍛練に参加しているらしいしね」

 あの地獄の鍛練に参加しているのか。意味が分かんないぞ。

 今、両方の紙風船が残っているのは、オクソール、リュカ、シェフ、そして両隊の隊長、副隊長を含めて数人。あー、そっか。彼等は無駄な動きがないんだ。

 若い隊員達は体力も勢いもあるが、動作が大きいので分かりやすい。狙いやすいし、当てやすい。

「兄さま、これどうするんですか?」

「リリ、何がだい?」

「こんなの、オクとリュカには、当てられませんよ」

「そうだろう? 凄いよね」

 いや、クーファルそうじゃなくてさ。まあ、確信犯だからな。

 ──ピピーー!

 終了の笛が鳴った。

「手首の紙風船が残っている者だけ立て! 後はしゃがんでくれ!」

 あー……もう一目瞭然だ。

 オクソールとリュカ、シェフはもちろん立っている。

 領主隊で立っている者が隊長のウルを含めて3名。

 騎士団で立っている者が隊長、副団長含めて12名。

 アスラールが声高に言う。

「この競技、騎士団の勝利! よって、今回の決戦は騎士団の勝利!!

 ──おおーーーッ!!

 騎士団の隊員達が全員立ち上がって叫んだ! 手に持っていた、碧の棒を高く投げ上げている。

「「殿下ー!!」」

 騎士団の隊員とリュカが叫びながら、走って来た。

「おめでとうー!!

「よくやった!」

 俺もクーファルも、立ち上がって勝利を讃える! 観客からも拍手が起こる。

「殿下! 行きましょう!」

「えッ! リュカ!?

 俺はリュカに手を引かれて、中央に出る。

 ──殿下ー!

 ──やりましたー!

 ──あー! 殿下! 負けましたー!

 ──殿下ー!

 皆、口々に半分叫びながら、やって来る。

「皆! カッコよかったよー! おつかれさまー!」

 ──おーーッ!!

 俺はオクソールに高く抱き上げられた。