「ケイア……」
「ケイア、元気になってくれ」
「ケイア、お手紙を出すわ。元気でいるかだけでも教えてちょうだい」
「アリンナ様……私は酷い事を……」
「ケイアを抱き締めるのは、いつも私だったでしょう?」
「あ……あぁ……」
「ね、ケイア。お手紙出すわね」
「はい……はい」
ケイアは大粒の涙を流しながら、アリンナを見ていた。
「ケイア、幸せにならなきゃね」
「うぅ……ど、どうか……」
「なあに?」
「皆様も……幸せに……お元気で……」
「ありがとう。ケイアもよ」
「は、はい……」
ケイアは最後までアラウィンを見なかった。それでも、アラウィンが自分で会いに行った事は大きい。そして、アリンナが一緒に行った事。ケイアがアリンナに申し訳ないと言った事もだ。
時間は掛かるだろうが、きっと立ち直ってくれるだろう。
生きていたんだ。やり直せるんだ。ケイアだって幸せになれるんだ。

「殿下、さあお食事ですよッ! 今夜はステーキですッ!」
「おー! シェフ張り切ってるね!」
俺は食堂にいる。目の前にステーキがドドンッと出てきた。急にステーキなんて、どうしたんだ?
「はい! 明日は領主隊と対戦ですからねッ!」
あ、なーる。力をつけなきゃ、て事ね。ま、俺は出場しないけど。
「いただきまーす! ……んん〜! 柔らかーい。シェフおいしいよ!」
「有難うございますッ! 殿下、沢山食べて下さい。今日はおやつを食べなかったのですから」
「うん、そうなんだよ。だからお腹すいちゃった」
「おやつの時間に、リリは寝ていたからね」
「兄さま、今なんか悪意を感じました」
「リリ! 兄さまがリリに悪意なんてある訳ないじゃないか」
「はい、そうでした。兄さま、いつもありがとうございます」
ステーキを切る手を止めて、ニコッとしながら言った。クーファルにはいつも頼ってしまっている。良い兄だ。
「おや、どうしたんだい?」
「いえ……そう思ったんです」
「まあ、またお兄様。リリを独り占めしたら駄目ですわよ」
「フィオン、お前は本当にその考え方やめなさい」
「お兄様、何がですか?」
「兄弟で、独り占めも何もないだろう?」
「だって、お兄様は狡いですから」
「ハハハ、フィオン様は本当にリリアス殿下がお好きなんですね」
「辺境伯、当然ですわ。リリは末っ子ですもの」
「ああ、そうでした。リリアス殿下は一番下でしたな。なのに、我々大人が情けない……」
「アラ殿、これからなのでしょう?」
「殿下、何でしょう?」
「父さまと約束してませんでしたっけ? これから、領地の為に頑張るぞ! みたいな? ボク、殆ど寝てたからあんまり覚えてないけど」
「殿下、そうですね。これから、より一層頑張りますよ。陛下のお気持ちに報いる事ができるよう」
「うん。アラ殿なら大丈夫!」
「殿下、有難うございます」
夕食を食べて、応接室にいる。クーファルと、アラウィンとアスラールが一緒だ。応接室で何をしているかと言うとだな。ユキがまだ厨房から戻って来ないんだよ。まだ食べているんだ。
「殿下、りんごジュースです」
「ニル、ありがとう。ユキどんだけ食べてんの? ボクもうそろそろ眠いんだけどな」
「リリ、もう少し待てるかな?」
「兄さま? 何ですか?」
「うん。もうそろそろだよ」
そうクーファルが言ってた時だ。
──コンコン
「あ……!」
フィオンとアルコースに両側から手を添えられながら、辺境伯夫人が入ってきた。
「歩いて大丈夫なのですか!?」
目が覚めたよ。思わず走り寄ってしまったよ。
「リリアス殿下、大丈夫です。有難うございます」
「早く、姉さま。ソファーへ!」
「リリ、大丈夫よ」
ゆっくりだが、足取りはしっかりしている。顔色も悪くない。良かった。元気そうだ。
ソファーに座り、何度か軽く深呼吸をしてから話し出した。
「リリアス殿下、お帰りになられる前に、ちゃんとお礼を申し上げたかったのです。本当に殿下、有難うございました。今日は、ケイアに会って下さったと聞きました」
「そんな、ボクは別に大した事はしてません。それに、ケイアにはボクが会いたかったのです」
夫人が、ふんわりと微笑んだ。
「殿下、失礼は承知ですが。一つ私のお願いをきいて頂けませんか?」
「なんですか?」
「殿下、抱き締めさせて頂けませんか?」
「ボクをですか? それくらい、いつでも」
夫人が両手を出した。
俺はゆっくりと、怪我に障らない様に夫人の腕の中に入っていく。
ふんわりと優しく抱き締められた。良かった。暖かい。
「殿下、私がベッドでお話しした事を覚えて下さってますか?」
夫人が声を抑えて話す。
『どうか、殿下。まだ子供でいて下さい。慌てて大人になる必要はありません。笑って元気な子供でいて下さいね』
夫人がまだベッドにいる時に、言われた言葉だ。
「うん。覚えてます」
「なのに……また殿下に大人の役目をさせてしまいました。申し訳ありません」
「そんな事はないです。ボクが会いたかったのです」
「私はお母様ではありませんが、殿下を抱きしめる事はできます」
おいおい。やめてくれ。5歳児の涙腺はまだ弱いからさ。
「殿下……」
「うん……グシュ。大丈夫。ありがとう」
俺の後ろから、夫人ごとフワッと抱き締められた。フィオンだ。
「リリ、アリンナ様……」
「姉さま……ヒック」
今度は横からガシッときたぞ。なんか力強い腕が回されたぞ。
「フィオン様、殿下。もう二度とこの様な事はありません! 我ら一家で、しっかり守っていきます!」
アルコースだ……ちょっと、テンションが違う。お陰で涙が引っ込んだ。
「アルコース殿、ダメダメです」
「え? え? リリアス殿下?」
「姉さま、離して下さい」
「リリ?」
フィオンとアルコースが離れた。でも、俺はまだ夫人にくっついてるよ。
「アルコース殿、こう言う時はもっと、そぉ〜っとふわぁ〜っとです。ガシッ! は駄目。もう、雰囲気分かってないですよ?」
「えっ? 殿下?」
「それに、もっと優しく言わないと」
俺は夫人から離れて、短い人差し指を立てて、ダメダメと横に振りながら言った。
「アハハハ、リリそうだね」
「はい、兄さま。もう、アルコース殿。雰囲気は大事ですよ?」
「はい、殿下。気をつけます?」
「アハハハ。リリの方が大人じゃないか!?」
「アルコース殿、まだまだですね。そんなんじゃ、姉さまを任せられませんよ?」
「リリ、止めて」
「え!? リリアス殿下、駄目ですか? それは困ります!」
「アルコース殿、何を言ってるんですか!?」
あらあら、フィオンは真っ赤だ。
「ふふふ。クーファル殿下、フィオン様、リリアス殿下。心から感謝致します。有難うございます」
夫人が座ったままだが、頭を下げた。
俺はもう一度、そうっと夫人に抱き着いた。へへへ、役得だ。