
テストまでの2日間、チラホラと領地内から薬師希望の者達が集まり始めた。女性も何人かいる。見ていると若い人が多い。領主邸の薬師になると収入が安定する。と、いう事は生活が安定するんだ。良いチャンスだと思っているのだろう。
──コンコン
「殿下、宜しいでしょうか?」
レピオスが手に書類を持ってやって来た。
「レピオス、どうしたの?」
「テスト問題なのですが、2問だけ用意しました。見て頂けますか?」
「ボクが見ていいの?」
「もちろんです。殿下のご意見をお聞かせ頂きたいのです」
「分かった」
レピオスが持ってきた、テスト問題。
一つは……症状が、のどの痛みや鼻水に鼻づまり、くしゃみや咳。突然の発熱、頭痛、関節痛や筋肉痛、倦怠感。下痢や食欲不振。
もう一つは……全身に剣等での切創。打撲。出血有り。意識消失状態。
それぞれの治療方法、診断理由を答える。
うん、良いんじゃないか? 内科的治療と外科的治療。
レピオスが以前に教えてくれた、治癒魔法やポーションに頼り過ぎない、患者の治療後の生活も考える。そこを見たいんだろう。
「うん。レピオス、良いと思う。あと、ポーションも作ってもらうんだよね?」
「ええ。自分が作れる中で一番上位のポーションを、作ってもらいます」
「うん。ボクはいいと思う。アラ殿にも確認してもらってね」
「はい、殿下」
「いい人材が集まると良いけど」
「そうですね。今の薬師達では、いざと言う時に対応しきれるかどうか少し不安ですから」
「え? レピオス。そうなの?」
「はい。ハイポーションをなんとか作れるかどうかと言う状態です」
「今まで何もなくて良かったよ」
「はい、本当に」
魔物の討伐が当たり前のこの領地なのだから、最低限ハイポーションは作れる様になって欲しいものだ。
結局、応募してきたのは23名。領地の彼方此方から集まってきた。女性がたった3名か……少ないなぁ。
さあ、テスト当日だ。先ずは、レピオスが作成したテストを受けてもらった。
まとめ役を決める件も兼ねているので、今いる薬師達も同じテストを受けている。治療方法を記入する、筆記テストだ。
テストが終わって、俺とレピオスはその解答用紙を見ている。その間にポーションを作ってもらうというわけだ。
「うん、なかなか良いよね?」
「はい、殿下。想像以上ですね」
今、薬師として従事している者達の解答も、なかなか良い感じだ。皆、ちゃんと完治した後の事も、視野に入れている。
良いんじゃないか? テストを受けに来た者の中には、まあ、駄目なやつもいるが。そんなやつは撥ねていく。
「殿下、レピオス殿。名前を見ると、以前辞めた者が受けに来ていますね」
そう言っているのは、一緒に解答用紙を見ているアスラールだ。
「アスラ殿、それはケイアが辞めさせた者ですか?」
「恐らくそうだと思います」
「アスラ殿、誰ですか?」
「女性が3名おりますが、その内の一人です。アイシャ・ピオネールですね」
俺とレピオスは解答用紙を見た。
「え、完璧じゃん」
「ええ、殿下。完璧ですね」
投薬方法も薬湯の内容も、回復魔法を使用する場合も、万が一悪化した場合まで想定して解答している。ハナマルをあげたくなる様な解答だ。
「なんで辞めたんだろう?」
「殿下、薬師達が言っていたアレではないですか?」
「レピオス、自分より出来る者を辞めさせる、てやつ?」
「はい。イジメたり、嫌味を言ったりでしたか?」
「そうなの? ボク、具体的に何をしたかは知らなかった」
「殿下、このアイシャはまだ20歳過ぎだったかと」
「アスラ殿、知ってるの?」
「はい。薬師として邸におりましたから」
「そうだった」
「確か……アスラール様に、色目を使っているでしたか?」
「レピオス殿、そんな事を言われていたのですか!?」
おや、これはアスラールも知らなかったのか。
「はい。薬師達が話していた者なら、そうだと思います」
「信じられない!」
「アスラ殿?」
「いえ、殿下。実はこのアイシャは三姉妹なのです。一番下の妹が、アイシャより2歳下で私と同い年です。子供の頃に、よく一緒に遊びました。ケイアもそれを知らない筈がありません」
「あー、アスラ殿。だから、余計に気に食わなかったのかも知れないね」
「私達家族は、一体どれだけの領民に迷惑をかけていたのでしょう。今更ですが、情けなくなってきました」
アスラールが肩を落とす。
「アスラール様、だからこそ今回はしっかり改善しませんと」
「レピオス殿、そうですね。そうだ。これから改善するんだ」
さて、ポーションが出来てきたらしい。俺達のいる部屋に運び込まれてきた。
「殿下、お願いできますか?」
「うん。レピオス、分かった」
俺は目の前に、並べられた、ポーション系回復薬を見つめて鑑定する。
「ハイポーションが1/3だね」
ハイポーションを選んで、横に寄せて並べる。先ずはポーションから見てみよう。
「ポーションの中で一番効果が高いのは……これだ」
俺は一つの、ポーションが入った容器を手に取る。容器に番号札がぶら下げてある。
「ああ、これは今いる薬師の物ですね」
レピオスが、ポーションの容器の番号と、名前を照らし合わせる。
「あとは悪くもないし、普通だね」
レピオスが番号を確認している。
俺は、ハイポーションを見る。
「ハイポーションは、これだ。ハイポーション以上はいないのかな?」
俺はもう一度、並べられた容器を見る。
「あ、これ」
俺は、一つの容器を手に取った。
「殿下?」
「これ、おしいな。薬草を加えて、もう少し魔力をしっかり通したら万能薬も作れそうだ」
「殿下、そうですか」
「うん、加える魔力量をアドバイスしてあげたら、もう作れるんじゃないかな?」
「なるほど。この番号は……殿下、アイシャです」
「レピオス、そうなの?」
「優秀な人材を……なんと言う事だ……」
アスラールが、またガックリ肩を落とした。
多分ケイアに辞めさせられただろう人物が優秀だったんだ。いや、優秀だったからなんだろう。
すべて見終わった。思っていたより、良い感じなのでそれは良かったのだが。
「今いる薬師達は、皆悪くない。むしろ、ケイアの下にいたのに、よく歪まないでいてくれたよね。勉強もしている様だし、いいんじゃないかな? アスラ殿、どうかな?」
俺はアスラールに振ってみる。何か考え込んでいるか?
「は、はい。殿下。今いる薬師達には、面接はしないのですよね?」
「アスラ殿、どうしたいですか?」
「殿下……私は話がしたいです。もし……殿下とレピオス殿が許して下さるのなら……皆一緒で良いので、立ち会って頂けませんか?」
それは良いんだが……
「アスラ殿、レピオス。面接が終わったら、合格者の皆を集めて少し話をしませんか? あ、もちろん、アスラ殿が言っていた薬師達に話をするのも賛成です」
「殿下、宜しいのですか?」
「うん。ボクは構わない。アスラ殿が言っていた、今残ってくれている薬師達に話をする事は、むしろ必要な事だと思うよ」
「殿下、有難うございます!」
「アスラ殿、本当によく残ってくれていたと思うよ。ケイアがしていた事を知れば知る程、そう思う。だから、話をしよう」
「では、殿下。面接する者ですが」
「レピオス、ボクは全員と面接したい」
「殿下、それは……」
「だって全員と言っても、たった23名だよ。10分でも良いんだ。面接したい」
「殿下、そこまでして頂く訳には……」
そうじゃないんだ。俺はアスラールに考えを話した。勘違いしてはいけない。万が一、30年前みたいにスタンピードが起こったとする。そうしたら、領主邸にいる薬師達だけでは、手が足らなくなるかも知れない。そんな事がなくても、領民達が普段頼るのは街の薬師達だ。だから俺は薬師達の意識を確認したいんだ。
この領地が魔物に蹂躙されたら、帝国全土が危ない。自分達薬師の役割が、どんなに大切か分かっておいて欲しいと。
「だからね、帝国第5皇子として面接したい」
「リリ、よく言った」
「兄さま!」
いつの間にか、クーファルが部屋のドアのところに立っていた。
「兄さま、声をかけて下さい」
「ハハ、悪いね。リリが喋っていたから、聞いていたんだ」
「もう、黙って聞くなんて。ズルいです」
「リリ、ごめんよ。でも、リリの言う通りだ。リリがそう言うという事は、危なっかしい者もいると言う事かな?」
「はい。兄さま。残念ながら、そうです」
そうだ。明らかに、領主邸の薬師になれば給金も良いだろう、楽できるだろう、カッコいいだろう、て感じに思っているだろう者がいる。それは、駄目だ。あと、俺様は凄いだろう。て、考えている者も駄目だ。早いうちに、意識を変えさせたい。
「クーファル殿下。しかし、リリアス殿下にばかり頼るのも。もう私達は、大変ご迷惑をお掛けしているのです」
「アスラール殿、そこだ」
「クーファル殿下?」
「だからリリが敢えて、帝国第5皇子としてと言ったんだ。サウエル家の為だけではなく、辺境伯領の為にするんだ。それは、帝国の為だ。分かるかい?」
「クーファル殿下、有難うございます」
うん。クーファル、流石だよ。やっぱ、なんか威厳があるよな。俺とは大違いだ。
「じゃあとりあえず、領地から受けに来た者の面接を始めよう。私も立ち会うよ」
「兄さま、いいのですか?」
「ああ。リリに全部任せてしまったら、兄さまの立場がないじゃないか」
クーファル、そんな誤魔化さなくても……あれだろ? 俺はまだ子供だから、舐められない様にいてくれるんだろ? クーファル、良い奴だよ! つい、ニマニマしてしまう。
「兄さま、有難うございます!」
「もう、リリには敵わないね」
レピオスとアスラールと一緒に、合格ラインの者とそうでない者を確認する。
知識や技術が合格ラインでも、実際に面接してみて駄目な場合もある。
「では、クーファル殿下、リリアス殿下、アスラール殿。宜しいですか?」
合否の者を確認して、さあ、面接だ。
「あ、兄さま」
「ん? リリどうした?」
「お腹がすきました」
「ああ、殿下。お昼ですね。面接は午後からにしますか?」
「うん、頑張る」
「そうだね、リリはお昼寝があるからね」
そうだ。5歳児にはお昼寝は大事!
「……ふわぁ……あっ! ニル、寝ちゃった……!」
「はい。寝てしまわれましたね」
「あー、午後から面接だったのに」
「殿下、りんごジュースをどうぞ」
「うん、ありがとう」
ユキが大きなまま、横にきた。
「ニル、我も」
「はい。ユキ、どうぞ」
おいおい、りんごジュースを入れる器じゃないぞ。まるでスープじゃないか。
「ユキ、凄いね。りんごジュースに見えないや。量が多くて……」
──コンコン
「殿下、起きられましたか?」
レピオスがやって来た。待たせちゃったよな。
「うん。レピオスごめんなさい。寝ちゃった」
「はい。想定してましたから、大丈夫です。面接も待ってますよ」
げっ! めちゃ悪いじゃんか!
「ごめん、直ぐ行くよ」
俺は慌ててりんごジュースを飲む。
「殿下、慌てなくても大丈夫です。受けに来た者達も、昼食を食べてゆっくりしてますから。大丈夫ですよ」
「本当? ありがとう。じゃあ、ニル。行ってくる」
「はい、殿下。頑張って下さい」
俺はレピオスと部屋を移動する。
「レピオス、兄さまは?」
「はい。アスラール殿が呼びに行っておられます」
「そう。兄さま、優しいね」
「そうですね。殿下、分かっておられましたか?」
「そりゃ分かるよ」
「良い兄上です」
「父さまが頼りない分、兄さま達は頼りになるね」
「おや、殿下。それは言ってはいけません」
ゲフンゲフン……
「ねえ、レピオス」
「はい、殿下」
俺とレピオスは、面接する部屋に移動中だ。
「最初に皆の前で、ボクがポーション作るよ」
「殿下、ポーションをですか?」
「うん。皆上手に作っているけど、多分、魔力操作がイマイチなんだ」
「イマイチと申しますと?」
俺はレピオスに1対1で教えてもらった。それこそ、基礎中の基礎から全部細かく丁寧にだ。それだけ俺がレピオスの医局に入り浸っていたって事でもあるんだけど。だから、細かい魔力操作とかもバッチリ教えてもらえたんだ。ポーションならこれだけ、ハイポーションならもう少し、万能薬ならもっと、て必要な魔力量を分かっている。
そんな俺の眼でみた受験者が作ったポーションは雑でとても
鑑定眼で見る事ができる俺だからこそ分かった事なのかも知れないけど。
「殿下はそう思われたのですか?」
「そう。バラつきがあり過ぎた」
「そうですか。普通は、師と思える者に教わるのですが」
「レピオスはボクの師匠だからね」
「また殿下、それはやめて下さい」
「まあ、いいけど。だからね、皆の前でポーションから万能薬まで作るよ。そう時間はかからないから、いいでしょ?」
「それはとても良い事だと、私は思います。では、クーファル殿下とアスラール殿にお話ししてから、私は薬草を準備致しましょう」
「うん。レピオスお願い」
そうして、俺は受けに来た皆の前で実際にポーションを作る事にした。
「では、皆さん。前から順に座って下さい」
ソールが手伝ってくれている。助かるねー。有難う。
「宜しいですか? では、皆さん。ご存知ない方もおられるでしょうから、ご紹介致します。一番奥から、クーファル第2皇子殿下、リリアス第5皇子殿下、アスラール様、レピオス皇宮医師です」
部屋の中に通されて、座っていた者達に緊張が見える。まさかこの場に皇子が出てくるなんて思いもしなかっただろう。
「これから、お一人ずつ面接致します。その前に、リリアス第5皇子殿下が実際に皆さんの目の前でポーションを作成して下さいます」
緊張でか、室内はシーンとしていたのに、ざわめき始めた。
子供の俺がポーションを作るのが、そんなに珍しいか?
「お静かに。宜しいですか? では殿下、お願い致します」
ソールに振られて俺は前に出る。部屋にいる受験者を見回した。
「皆さん、今日はお疲れ様でした。ボクはリリアスです。皆さんの作ったポーションを拝見しました。少し、魔力操作に迷いがある様な印象を受けたので、実際にこういう物だと確認してもらう為にこの場を設けました」
また、ざわつき出す。
「子供に出来る訳がない……」
「え? 皇子殿下が?」
など、声が聞こえてくる。当然の反応だろう。だって俺はまだ5歳なんだから。
「今、子供と言ったのは誰だ?」
あー、ほら。クーファルが反応しちゃったよ。クーファルの一言で、シーンとした。
「よいか。リリアスは皇子だ。分を弁える事だ」
「兄さま、ありがとうございます。じゃあ、まずポーションから……」
俺は込める魔力量を説明しながら、ポーションを作った。ハイポーションも、サクッとな。
「ポーションに必要な魔力量は分かったかな? じゃあ、最後。万能薬です」
またざわめきだした。
「万能薬なんて……」
「噓だろ……」
また、クーファルが口を出そうとした時だ。
「静かにしてちょうだい! 殿下、私もう少し前で拝見させて頂いても、宜しいでしょうか?」
見ていた者の中から一人が手を上げて言った。しかも女性だ。
「構わないよ。見たい人は前に出てきてもいいよ」
「有難うございます! では、遠慮なく!」
その女性は一番前の席を通り越して、俺の目の前でしゃがんだ。
「えー……そこ?」
「はい、殿下。しっかり見たいので! 万能薬を作るところを見られる機会なんてありませんから!」
「君、名前は?」
「はい! 私はアイシャ・ピオネールと申します」
さっきアスラールから聞いていた人だ。ストレートの金髪に茶色の瞳の、快活そうな女性だ。この場でこんな行動ができるなんて、度胸もある。
「ああ、君が。君のハイポーション惜しかったよ」
「殿下! 本当ですか?」
「うん。もう少し、魔力操作をうまくやれば万能薬だって作れるよ」
「万能薬! 頑張ります!」
「ハハハ、見ていてね。参考になれば良いけど」
「はい! 有難うございます!」
それから、我も我もと皆前に寄って来た。
「前の人はしゃがんで下さい。後ろの人にも、見える様に」
ソールが慌てて注意してくれる。
「皆、魔力を込められるだけ込めている感じなんだ。そうじゃないんだよ。よく、見てね。今魔力を込め始めたけど、少し微妙に色が違ってきてるでしょう? このまま魔力を込めると抵抗があるんだ。一気に沢山込めるんじゃなくて、少しずつ丁寧に魔力を馴染ませる感じだ。はい、これで万能薬だ」
「凄い……」
「え、もう?」
「俺なんて、ポーション作るのでももっと時間がかかる」
皆、それぞれ思う事があるんだろう。
「今、自分はもっと時間がかかると、思った人……」
俺は皆を見渡す。一人の男性が手を上げた。
「俺……あ、私です。いつももっと時間がかかります。なかなか魔力が入ってくれないのです」
「それはね、最初からいきなり全力でガツンと魔力を込めようとするからだよ。もっと優しく、最初は少しずつ様子を見ながらやってみて。魔力が馴染みだしたら早いから」
「はい! 有難うございます!」
ソールを見て合図する。
「では、皆さん。控室に戻って下さい。お一人ずつ、お呼びします」
すると、一番前で見ていたアイシャが……
「殿下、有難うございました! これを見せて頂けただけでも、今回応募した甲斐がありました!」
「私もです! 有難うございました!」
「有難うございました!」
バラバラと彼方此方から声がかかる。皆、確実な事が分からないまま作っていた事もあるのだろう。これが、一つの指標になってくれたらいいなと思う。
「良かった。じゃあ、面接を始めるから。名前が呼ばれるまで、待っていて下さい」
うん。俺の摑みはOKだろう!
「リリアス殿下! どうか、私を弟子にして下さい!」
面接で開口一番に、アイシャが言った。
「ええー!」
これは俺がビックリした声ね。そりゃ驚くよね。だって突然『弟子に』なんて言うんだから。
「アイシャ、とにかく座りなさい」
アスラールが収めようとしてくれる。
「アスラール様は黙っていて下さい! この機会を逃したら、もうリリアス殿下にお会い出来る機会なんてないんですから! リリアス殿下! どうか私を!」
「あー、アイシャだっけ? 座ろうか、面接を始めよう」
「アイシャ、座りなさい。落ち着いて」
アスラール、頼むよー。アイシャがやっとおとなしく座った。
俺、ハートをガッチリ摑み過ぎちゃったか?
「レピオス、おねがい」
「はい、殿下。アイシャ・ピオネール。志望動機を教えて下さい」
「はい。ご存知だと思いますが、私は以前こちらに仕えておりました。一度は辞職致しましたが、募集されていると知って、もう一度領主隊の方々のお役に立ちたいと思い志望致しました」
「アイシャ、辞めた原因を教えて欲しい」
アスラール、はっきりさせたいよな?
「アスラール様や、辺境伯様御一家はご存知ないでしょう? ケイア様のされていた事を。私は許せなくて、最初は抵抗しました。でも、あの人は普通じゃないんです。自分の殻に閉じこもっていて……そんな人を相手にするのも、それを気付こうともしない御一家にも……と言うか、もう何もかも面倒になってしまいました。それで、辞職しました」
あー、よっぽどだわ。しかし、面倒になったなんて……なかなか強い人なんじゃないか?
だって、ケイアにイジメられて傷付いて、て感じの言い方じゃないよな?
「アイシャ、どんな事をされたんだ?」
「アスラール様、もう彼女はいないのでしょう? 今更、言っても仕方ないです」
おっ? なかなか良いじゃないか。もう割り切ってるじゃん。
「アイシャ、知りたいんだ」
「アスラール様、これは面接でしょう? まぁ、いいですけど。彼女はアスラール様と、私の妹が仲が良いのを知ってました。それで、私とも特別な関係だと。アスラール様に言い寄って、次期辺境伯夫人の座を狙っていると。自分が辺境伯夫人になるから、絶対にそんな事はさせないと、言われました。そう、グダグダとネチネチと、それはもう毎日しつこく。それでもう相手をするのも馬鹿らしくなって。ここでは、まともに薬師の仕事も勉強も出来ないと思い、それで辞めました」
あー、やっぱりそうなんだ。
「アイシャ、すまない。私達が気付けなかったから、君達に迷惑をかけた」
「私だけではありませんよ。皆、何かしら言われてました。奥様に対しての彼女の仕打ちは見ていられませんでした。私達は逃げる事もできます。でも、奥様はそうもいきません。本当にお気の毒でした」
「そうか……」
ま、言葉もないよな。実際にあんな事になってしまったし。それはそれとして、今回のテストだ。
「アイシャ、君の治療方法やポーションも良く出来ていたよ。よく、勉強しているね」
「リリアス殿下! 有難うございます! どうか私を……」
「待ちなさい」
「兄さま」
「まったく君は、優秀なのにどうしてそう……」
クーファルが片手を額に当てて、少し呆れている。こんな表情のクーファルも珍しい。
「え? だってクーファル殿下、リリアス殿下が素晴らしくて、つい!」
「リリは皇子なんだ。そこを考えなさい。皇子に弟子入りなんて有り得ない。君はもう少し落ち着く方が良いね」
「申し訳ございません!」
アイシャがガバッと頭を下げた。猪突猛進っぽいところがあるのかな?
「あー、アイシャ。ボクもまだレピオスに、教えてもらっている立場なんだ。だから、もしボクが皇子でなくても弟子入りはないよ」
「レピオス様にですか?」
「うん。レピオスはボクの師匠だからね」
「殿下、また。どうかそれは……」
「レピオス、本当なんだからいいんだ。だからアイシャ、君はもう一度この領地の為に働いてくれるの? この領地で辺境伯に仕えると言う事は、どういう事か分かっている?」
「はい。もちろんです。この領地が倒れると、帝国全土に影響を及ぼします。それを支えているのが、領主隊の皆さんです。討伐に出られる時は少しでも安心できる様、出来る限り万全の準備で送り出したい。もし怪我をされたなら、少しでも早く、少しでも後遺症がない様、治して差し上げたい。そう思っております。それが、皆の日々の生活を守る事に繫がると信じております」
うん。完璧じゃないか。
「でも、君は一度辞めている」
クーファル、意地悪だな。
いや、覚悟を知りたいのか?
「はい。クーファル殿下の仰る通りです。私は一度諦めました。逃げたのです。逃げて、落ち着いて考えれば……あの時、勇気を出してアスラール様や領主様にお話ししていればと思いました。逃げる事しか出来なかった自分が、情けなくて……落ち込みました。後悔もしました。ですから! もう私は逃げません! 私も一緒に戦います! なんでしたら、討伐にだってついて行きますよ!」
あれ? 何か違ってきたぞ? 元気な人だな。
「ハハハ! アイシャ、討伐には行かなくていいさ」
「アスラール様、それ位の気持ちだと言う事です! 恥ずかしいですから、笑わないで下さい!」
決まりだな。物怖じしないところも良い。何より、この地での薬師の役割をよく理解している。
「アイシャ、よく分かった。では、部屋で待っていなさい」
「はい、分かりました。どうか、宜しくお願いします!」
最後に一礼して、アイシャは部屋を出て行った。
「リリ、驚いたね」
「はい、兄さま。もう、ビックリしました」
「だが、彼女。良いんじゃないか?」
「クーファル殿下。そうですね」
「はい、私もそう思います」
クーファルやアスラールだけでなく、レピオスもアイシャは良い感じに受け取っている。
「では。次を呼びますよ?」
「ああ、ソール頼む」
ソールに呼ばれて、大人しそうな男性が入ってきた。茶髪を後ろで一つに編んで結んでいる。茶色の瞳の、線の細い男性が俯き加減で入ってきた。アイシャと同じ位の年か?
「名前と、志望動機をお願いします」
レピオスが尋ねた。
「はい。レイリ・マカオンと申します。領都で薬師をしております。お触れで今回の募集を知り、応募致しました」
あれ、そんだけ? アッサリしてるね。目線も合わないな。
「レイリですか。既に領都で薬師をしているのなら、わざわざ何故こちらに?」
レピオスの質問はもっともだ。
「その……」
……ん?
「えっと……」
……んん?
「はぁ……」
……んんん?
俺はレイリの解答と、ポーションの資料を見る。
あれ? どっちもちゃんとしてるじゃん。どうしてそんなに目が泳いでいるんだ?
「レイリ、君は薬師としての心構えも良い。ハイポーションも作れる。領都でも充分やって行けるよね?」
俺はそう言った。志望動機が分からん。
「はい。まあ……」
「じゃあ、何故?」
「あの……本当の事を言っても宜しいでしょうか?」
ん? 本当の事を言わないで、どーすんだ?
「うん、構わないよ」
「実は、私はアイシャとは幼なじみで……」
「あ! レイリ! 思い出した!」
「アスラ殿?」
「アイシャにいつも泣かされていた、泣き虫レイリだ!」
泣かされていた!? 泣き虫!?
「アスラール様、その思い出し方はちょっと……」
「あ? ああ、すまない。子供の頃に、何度か遊んだ事があるな?」
「はい」
「確か、アイシャの両親と親同士の仲が良いのだったか?」
「はい。家も近くて」
「そうだった。そうか。薬師になっていたのか」
「はい」
「で?」
「はい?」
話が全然進まないじゃないか!
「どんな志望動機でも構わないから、話してほしいな」
焦ったぜ! 泣き虫レイリ君、ちゃんと志望動機を言ってほしいな。で、目も合わせてほしいな。
「はい、リリアス殿下。今回の募集を知って、アイシャが騒いでまして。アイシャは実力も志しもあります。意欲だってあります。ですので、アイシャは合格するだろうと思いました。しかし、あの性格ですので。一人突っ走って、皆様にご迷惑をお掛けしてしまうのが、目に見えてます。アイシャを抑えるのは、私しかいないと。尚且つ、薬師の仕事も出来るのであればと……その……申し訳ございません」
アハハ! 何だそりゃ、謝っているよ。要するに、アイシャと離れたくないんじゃないか?
「アハハハ!」
「リリ……」
「だって兄さま! そんな志望動機もあるんだと思って!」
「まぁ、そうだね……」
本当、色んな人がいるわ。アイシャといい、このレイリといい個性豊かだ。
「レイリ、薬師は続けたいんだ?」
「はい、それはもちろんです。私は剣も使えません。特別、魔法が得意な訳でもありません。人と話すのも、得意な方ではありません。そんな私が少しでもお役に立てるのは、薬師しかないと」
ほうほう。なるほど。
「で、アイシャの側にもいれると」
「で、で、殿下!」
「ん? ボク、何か間違ってた?」
「あ、いえ……その……間違っては……えっと……」
もう顔が真っ赤じゃないか! 耳まで赤くなってる? あれだけ堂々とアイシャの事を話しておいて、ここにきて照れるのかよ。
「アハハハ」
「リリ」
「兄さま、すみません。でも、彼はなかなか優秀なんですよ。ね、レピオス」
「そうですね。治療方法も良いですし、ハイポーションも作れますしね。ああ、もう少し頑張れば、より効果の高いポーションになりますね」
「そうなんだよ。でも、アイシャなんだ?」
「その……殿下。アイシャは本当に思い込んだら、周りが見えなくなるのです。猪の様に、突き進んでしまいますから。皆様のキャパやペース等、お構いなしになってしまうのです。それが欠点で……しかし、有能です。同じ薬師の私から見ても、良い薬師です。ですので、街に埋もれさせておくのは勿体ないのです。でも本当に、一人突っ走ったら問題を起こしかねません」
「うん。分かった。アイシャの事は分かったよ。レイリはどうなの? 領都での薬師の仕事を辞めても、ここで仕えたいと思うの?」
「それは、当然です!」
「どうして?」
「薬師なら、街の人達の病や怪我を癒したいと思います。また、我々の為に、恐ろしい魔物を討伐に出る領主隊の皆様のお役に立ちたいと憧れます。病なら少しでも楽に、怪我なら少しでも早く痛みを無くせる様に、古傷などになって跡を残さない様に。適切な治療をと……あ、すみません。喋りすぎました」
いやいや、喋ってもらわないと面接にならないからね。志はあるんだ。
「ううん、喋り過ぎなんかじゃないよ。アイシャはもっと喋ってたよ」
「ああ……やはり。リリアス殿下の万能薬を見て、興奮してましたから。申し訳ありません」
そう言って、レイリは頭を下げる。アイシャの事なのに、レイリが謝ってんの。
「レイリが謝る事じゃないよ。レイリはここに仕えたくて来たの? それとも、アイシャについて来たの?」
「もちろん、お仕えしたくて来ました」
「そう。分かった。兄さま、アスラ殿、レピオス聞いておきたい事はありますか?」
「殿下、一つ」
「アスラ殿、どうぞ。幾つでも」
「レイリ。じゃあもしも、君だけが合格してアイシャが不合格だったら仕えてはくれないのか?」
「いえ、その場合は仕方ありません。私はお仕え致します」
おや、意外と迷いがないんだな?
「レイリ、仕方ないとは?」
「はい。アイシャには悪いですが、私はこちらに仕えさせて頂きます。仕方ないので、アイシャは一人街で頑張ってもらうしかありません。悔しそうな、アイシャの顔が目に浮かびます。フフフ」
あ? そこは良いんだ? 面白い!
「リリ、目がキラキラしてるよ?」
「兄さま、そんな事ありません! ブフフ」
クーファルにバレたぜ! だってキャラが面白すぎるんだ。
「もう、宜しいですか?」
レピオスが聞いたから、俺は頷いた。クーファルもアスラールも良い様だ。
「では、部屋に戻って下さい」
「はい、有難うございました」
また俯き加減で、レイリは部屋を出て行った。
「兄さま、色んな人がいるんですね」
「ああ、本当だね」
「彼は結局何がしたいのでしょう?」
「レピオス、そんなの決まってるよ」
「リリアス殿下、決まってますか?」
「うん。アイシャと二人一緒に、ここに仕えたいんだよ」
「なるほど……」
いや、レピオス。感心するとこじゃないからね。
全員の面接も終わった。思った以上に皆優秀だった。勿論、実力不足の人もいた。
だが、全員採用する訳ではないのだから許容範囲だ。
今後に期待するって感じだ。それに、薬師としての心構えを話せたのは良かった。
「兄さま、アスラ殿、レピオス。誰が良いと思いますか?」
俺は決まってるぜ!
「アスラ殿は?」
「殿下、私ですか? 私はアイシャとレイリが良いと思いますが」
「レピオスは?」
「私も同じです」
「うん、そうだね」
「ですよね」
「では、皆様。決定で宜しいですか?」
ソールが確認する。
「はーい」
クーファルとアスラール、レピオスも頷いた。満場一致だ。
その日、皆で夕食を食べた。受験者達も別室で食べているだろう。久しぶりに、気持ちが少しすっきりした。薬師達は一番被害が大きかったから気になっていたんだ。なんとかなりそうで良かった。採用にならない人の中にも良い薬師がいたし、今後も安心って感じだね。
「で、リリ。明日、発表するんだろ?」
「兄さま、それはボクではなくて、アラ殿かアスラ殿の役目です」
「ああ、そうだね」
「父上、お願いできますか?」
「いや、アスラール。これは、最初から関わっていたお前がしなさい」
「父上、しかし……」
「いや、お前がいい。次期辺境伯だからな」
うん。俺もそれがいいと思う。最初から仕切っていたんだからな。
「はい。分かりました。では、リリアス殿下。その後、皆を集めますか?」
「うん、アスラ殿。顔合わせも兼ねてね。それがいいと思います」
「父上、やっと落ち着きましたね」
「アルコース、そうだな」
うん。なんだか穏やかだ。雰囲気が違う様な気がする。気がするだけだよ。俺は分かんないからね。
翌日、俺は薬師達が集まっている部屋にいる。
「リリアス殿下、お願いします」
いきなり振られちゃったよ。合否の発表も済んで、邸の薬師達との顔合わせだ。不合格だった者は、もう帰途についている。今日もアスラールとレピオスが一緒だ。部屋の隅にはリュカもいる。
そこで、アスラールにいきなり振られた訳だ。
「え、最初はアスラ殿でしょう!?」
「いえ、とんでもない! 殿下、どうぞ!」
アスラール、いい笑顔で言うなよ! いきなり振らないで欲しいな〜。
「えぇー……じゃあ、ボクから少しだけ。あなた方は、これまで不遇な環境を耐えて来られました。腐らず、道を外れずにここまできた人達です。そんなあなた達には、簡単に揺るがない強さがあると、ボクは信じています。ボクはそんなあなた達を、誇りに思います。みんな、帝国の要であるこの領地をお願いします! 以上ですッ!」
「「「「「はいっ!」」」」」
うん。みんな良い顔だ。心機一転だ。
「今まで、我慢させて、辛い思いをさせて、申し訳なかった」
アスラールが薬師達に頭を下げた。薬師達が驚いている。領主の長男が、頭を下げたんだからな。
「もう二度と同じ間違いはしない。皆が働きやすい様、全力で対応していくつもりだ。これからはこのメンバーで頑張ってほしい。宜しく頼む」
「「「「「はいっ!」」」」」
再出発て感じだ。いいんじゃないか?
「今回の募集で合格した者を紹介する」
アイシャとレイリが、その場で立ち上がった。
「アイシャ・ピオネールと、レイリ・マカオンだ。アイシャは皆も知っているな。アイシャ、よく戻って来てくれた。これからアイシャには、皆のまとめ役の薬師長をやってもらう」
アイシャが一礼をした。
「アイシャの補佐、副長にレイリだ」
レイリも同じ様に一礼をした。
「アイシャとレイリは治療方針も回復薬も、リリアス殿下が合格点を下さった。皆で切磋琢磨して知識や技術を高めてほしい。皆はこの領地の要である領主隊の支えだ。どうか、皆で力を合わせて頑張ってくれ。期待している!」
「「「「「はいッ!」」」」」
「では、レピオス殿」
レピオスが席を立った。
「はい。私から少しだけ。皆さん、今回のテストは如何でしたか? 難しい問題ではなかったと思います。皆さんの解答を拝見しました。大事な事は、分かっておられる様で安心致しました。再度、確認して頂く為に少しだけお話し致します。リリアス殿下と私が、常日頃から大切にしている事があります。それは、無理をしないさせない。病や怪我を完治した後の事も考える。と、言う事です。普段の生活が、いかに大事かと言う事。そして、最優先はもちろん命です。命以上に優先する事はありません。今ここにいる皆さんは、分かっていると思いますがその事をどうか忘れないで下さい。殿下も私も、期待しております。頑張って下さい」
「「「「「はいっ!」」」」」
はあ、終わった終わった。ケイアの事があって、薬師達はどうなるのか心配だったんだ。まとめ役がいないと統率がとれない。いざという時、それは大きな障害となる事もある。これでもう大丈夫だろう。後はみんな仲良くしてくれたら良いな。
だが、帰る迄にケイアには会えるのだろうか?
「殿下、終わりましたね」
「リュカ、うん。ホッとしたよ」
「裏で、領主隊が選抜戦をやってますよ。見に行きませんか?」
「そうなの? 行く行く!」
明日、行われる事になった、騎士団vs領主隊の3種競技大会の選抜戦だ。領主隊は騎士団より多いから選抜戦をやっている。今日の選抜戦で勝ち残った者が、明日の本戦に出られる。
リュカと二人で邸の裏に出た。おや、領主隊だけでなく騎士団の姿もあるな。
「あれ? リュカ。騎士団もいるよ?」
「ああ、はい。練習してるんじゃないですか?」
「ふーん。リュカはいいの?」
「俺とオクソール様は、いいんです」
「え、なんで?」
「獣人ですから」
おや、リュカさん。自信満々ですね。
「でもリュカさぁ、腕相撲でも予選敗退だったじゃない?」
「あれは、相手が悪かったんですよ!」
「えー……」
「なんスか?」
「もしかしてリュカって、あんまりなんじゃない?」
「殿下! 何言ってんスか!? 獣人を舐めたらいけません!」
舐めてないけどね。本当かなぁ? リュカ、頑張ってよ? 足引っ張ったりしたら駄目だよ。
リュカは何もないところでも転けたりするからさ、ちょっと心配だよ。
「殿下、終わりましたか?」
オクソールが俺に気付いてやって来た。相変わらず、クールだ。本当は笑い上戸なのに。
「うん、オクソール。終わったから見に来たの」
「お疲れ様でした。落ち着きましたか?」
「うん。いい感じになったよ」
「それは、良かったです」
「明日、楽しみにしてるからね」
「はい、負けませんよ」
「はい! 負けません!」
「リュカが言うとなぁ……」
「殿下!」
「クフフッ」
ほら、オクソールが笑ってるぞ。
「それにしても、オク。まるでお祭り騒ぎじゃない?」
明日の騎士団vs領主隊の競技は領民達にも公開される。辺境伯邸の、だだっ広い前庭が競技場になっている。競技本番は明日なのに、領主隊が裏で選抜戦をしているせいか、既に領民達が集まっていてちょっとしたお祭り騒ぎになっている。お弁当まで広げている人がいるぞ。場所取りをしている人もいる。運動会みたいだ。
「まあ毎回こうなりますね」
「で、今までの成績はどうなの?」
「騎士団は負け知らずです」
「凄いッ!」
「獣人の私が参加しますから。ちょっと、反則かも知れないですね。今回はリュカもいます。騎士団に勝つのは、難しいのではないでしょうか?」
なるほど、獣人が二人もいるもんな。でも、リュカは頼んないよ? ぶへッてよく転けるもん。
「「「「せーーのッ! せーのッ! せーのッ!」」」」
領主隊が綱引きをしている。コレッて綱引きなのか? いや、綱引きだよな?
俺は小学校の運動会の綱引きしか知らないが、記憶にあるロープとは全然違う。太いんだよ! 長いんだよ! 俺の手では持ち上げられそうもない太さのロープだ。
「ねえ、オク。これ何人で引くの?」
「16人対16人ですよ。ですので、綱引きだけ2回戦あります」
「凄いね。掛け声で地響きがしそうだ」
「ハハハ、皆声が大きいですからね」
いやいや、それだけじゃないだろ。声が低いんだよ。まあ、みんな男だから当然なんだが。
「ひょえ〜〜!」
ふと、思いついて邸の窓を見る。あー、やっぱフィオンやニルが見ているな。手を振っておこう。
「ねーさまー! ニールー!」
あ、気がついた。手を振ってくれている。ヒョコッとユキが横から顔を出した。
「ユキー! 下りといでー!」
試しに呼んでみた。すると、窓からヒュンッとユキが飛び出した!
「えぇーー!!」
ユキは空中で1回転して、俺の前にシュタンッと着地した。
「「「「おぉーーッ!!」」」」
隊員達から、歓声があがる。ユキさん、超カッコいい。俺は何気なしに呼んだのに、まさか本当にあの高さから飛び降りてくるとは思わなかったよ。しかも、空中で1回転だ。
「リリ、呼んだか」
「ユキ、ビックリしたよ! 窓から飛び出すんだもん!」
「この程度の高さなど、我にはどうと言う事はない」
「ユキ、カッコいい!」
俺はユキに抱きついて、乗せてもらう。ヨシヨシ、首筋を撫でてあげよう。
「リリ、あれは何をしているのだ?」
「あれはね、綱引きって言うんだ。両方からロープを引っ張るんだよ」
「それだけか?」
「うん。それだけ。そう言うもんなの」
「人間とは、ロープを引くだけで何が楽しいのか。我は理解できん」
「アハハハ! そうだねー!」
「ユキ、やってみるか?」
「オクソール、我が人間に負ける訳がなかろう」
「ユキ、言ったな」
オクが隊員達の元へ、走って行った。きっとさぁ、ユキをみんなで負かしてやろうぜ! とか、言ってんだぜ。みんな負けん気が強いからね。
「殿下! ユキ!」
「ユキ、オクが呼んでるよ! 行こう!」
ユキに乗って、オクソールのところまで走る。楽ちんだ。
「ユキは向こうに引っ張るんだ。俺達は反対に引っ張るから、引きずられた方が負けだ」
「分かった」
「えっ!? オクvsユキじゃないの?」
「殿下、それでは俺が負けます」
「オク、狡いね……」
「殿下、ユキは神獣ですよ。いくらなんでも無理です」
「じゃあ、そっちは何人?」
「さあ、何人でしょう?」
「ええッ!? 駄目だよ! 本番と同じ16人だよ!」
「「「ええーー!!」」」
隊員達からブーイングの声があがる。なんて
「駄目! 16人!」
隊員達は、暫くあーだこーだと言い合っていたが、決まった様だ。
周りで見ていた領民達も、寄ってきた。
「オク! ボクもする!」
「殿下、またそんな事を」
「だって、やりたい!」
「殿下、無理です。危ないですよ」
リュカが横から口を挟む。
「リュカまで! リュカは参加するの?」
「もちろんです! オクソール様と二人でアンカーをします!」
「アンカーて何?」
「一番後ろで、ロープを引く人の事ですよ」
「ふぅ〜ん。じゃあ、ボクまた合図する!」
「まあ、それなら良いでしょう」
ユキに乗ったまま移動する。
「オク、どーすんの?」
「鬼ごっこの時と一緒ですよ。旗を上げて、Readyです。この合図で皆がロープを持ちます。旗を振り下げて、goです。そしたら直ぐに離れて下さい。皆がロープを引き始めますから」
「うん! 分かった!」
ユキはロープの横に、俺は旗を手に中央に立つ。
「いくよー! みんなー! 頑張ってー!」
「「「「「おおーーッ!!」」」」」
隊員達は超やる気だ! さすが脳筋集団!
「レディー……」
俺は旗を上げた。隊員達がロープを摑む。ユキは……ああ、そうだよな。ロープを咥えた。
「ゴーッ!!」
同時に勢いよく旗を振り下げ、直ぐに離れる。危ないからね。
「「「「せーーのッ! せーのッ! せーのッ!」」」」
隊員達もユキも同時にロープを引きだした。
「頑張れー!!」
どんどん人
──いけー!
──踏ん張れー!
──ユキちゃーん!
ん? ユキちゃんだと? なんで? いつの間に! ユキさん、有名になってない?
「「「「せーのッ! せーのッ! せーのッ!」」」」
屈強な隊員達16人vsユキ。隊員達はガンガン引いているが、ユキはビクともしない。最初の位置から全く動いていないんだ。神獣て凄いんだ!
「ユキ! 頑張れー!」
「「「「せーのッ! せーのッ! せーのッ!」」」」
「ユキ! いけー!!」
俺が叫んだ直後、ユキは咥えていたロープを一気にグイッと引いた!
「「「おおッ!!」」」
途端に16人の屈強な隊員達が、前に引きずられた!
「ユキの勝ちー!」
俺は真ん中で、旗をパタパタ振りながら、ぴょんぴょん跳ねる。ユキ、やったね。