「シェフー! カッコいいー!!

 ──おおーー!

 ──スゲーー!

 ──なんだあれ!?

 とっくにユキに倒されて、戻って見ていた隊員達も歓声を上げる!

 しかし! ユキも負けていない! 投げられたのに、空中でクルッと体の向きを変え、そのままシェフに飛び付いた!

 ──あぁーー!!

「シェフ! 残念!!

 あぁー、シェフが倒されちゃったよ! でも、超カッコ良かった! ビックリだよ! まさか、ユキを投げるなんて誰が想像するよ。

 投げられたユキも、空中で向きを変えるなんて一体どうやっているんだ?

「殿下ぁッ! 倒されてしまいましたぁーッ!

「シェフ! 凄かった! ビックリした! 超カッコ良かった!」

 俺は台の上で、旗をパタパタと振りながらピョンピョン飛んで感動を伝える。

 だって、本当に凄いよ。ユキを投げたんだぜ。神獣を投げるシェフ……意味が分かんない。

「ハハハ、そうですか!? 有難うございますッ!」

 後は誰が残っているんだ?

「後は、オクソール殿とリュカの二人だけですね」

「ウル、そうなの? もうみんな倒されちゃったの?」

「はい、殿下。面目ないです」

「あらら……」

「あぁ! 殿下! ユキはオクソール殿を倒す気ですねッ!」

「シェフ、本当だ! オクソールにロックオンしてる!」

「アハハハ! ロックオンですか!?

 ユキめ。オクソールよりリュカの方が、倒しやすいだろうに敢えてオクソールを狙っている。それだけ自信があるんだろうな。

「オク! 逃げて! 逃げてー!」

 オクソールは逃げずに真正面からユキと対峙した。だが獣化していたらどうだか分からないが、人型のままだとオクソールが不利だ。

 ユキが仕掛け、オクソールが躱す。何度か攻防があり、ユキがジャンプしてオクソールに飛び掛かった時だ。オクソールはヒョイと横に躱した。すると、オクソールの後ろ側にいたリュカが巻き添えを食らった。ジャンプした勢いのままのユキに、倒されてしまったんだ。

「ブヘェッ!!

 リュカ……なんて声出してんだよ。超カッコわりー。リュカって本当決まらない。

 なんでそんな場所にいたんだよ。

「あぁ〜! 倒されちゃった〜! はい、リュカおしまーい!」

 あっと言う間に倒された。

「優勝! オクー! おめでとー!」

 まあ、そうだろな。堂々の優勝だ。

「2位でーす! リュカー! おめでとー!」

 はい、やっぱ獣人だね。最後はカッコ悪かったけどね。

「3位でーす! シェフー! おめでとー!」

 もう、意味が分からん。本当に最強のシェフだ!

「みんなー、おつかれさまー!」

 ──おおーー!!

 しかし、誰が考えたんだろうね。ユキは一応神獣だよ? 神獣!

 神獣相手に、ガチ鬼ごっこなんてさ。面白すぎる。

「殿下、2冠達成です」

「うん、オク凄いや! オクもリュカも、やっぱ早いねー」

「そうですか? それよりも、シェフには驚きました」

「ねー! 投げちゃうんだもん!」

「あれは、我も驚いた。まさか投げるとはな」

「ほんと、ほんと。あれ? そのシェフは?」

「はい、昼食の用意があると走って行きましたよ」

「リュカ、そうなの? もう?」

「はい。殿下のお食事の用意を! て、言ってました」

「ほんと、分かんない」

「ハハハハ、シェフですから」

「そうだね〜、シェフだから。アハハハ!」

 俺はユキに乗せてもらって、邸に戻る。ご機嫌だぜぃ。

「リリ、何を騒いでいたんだい?」

 邸に入ると、クーファルとソールがいた。

「兄さま、鬼ごっこしてました!」

「鬼ごっこ?」

 リュカがクーファルに説明している。

「お前達は神獣相手に何を……勝てる訳ないじゃないか」

「兄さま、シェフ凄かったですよ!」

「え? シェフが一番ですか?」

「ううん、ソール。優勝はオクだよ」

「だろうなぁ」

「兄さま、凄い盛り上がりましたよ。めちゃ楽しかったです!」

「そうか。リリ、それは良かった。さあ、昼食だ。食堂へ行こう」

「はい、兄さま」

 今日の昼飯はなんだろなー。また和食だったら嬉しいなー。


 あれから、昼食食べてお昼寝してた。ユキも小さくなって、一緒に寝ていた。

 ぴょん、とベッドからおりてくる。

「殿下、大騒ぎでしたね。お昼前に邸の裏で」

「ああ、あれね。楽しかった」

「それは良かったです。邸の窓から皆見ていましたよ」

「そうなの? 全然知らなかった」

「殿下が台の上で、ピョンピョン跳ねてらして、超可愛いとフィオン様が」

 フィオンよ、見るとこ違うだろ……

「殿下、起きておられますか?」

「リュカどうしたの?」

「ニルズが、また変わった魚を持って来ているのですが、殿下に見て頂きたいと言ってます」

「おっちゃんが? ニル、ユキ、行こう」

「はい、殿下」

「何、美味いのか?」

「美味しいかどうかは、見てみないとね」

 皆で調理場に向かう。小さいユキが、トコトコついて来る。まるで白い猫ちゃんだ。

「よお、リリ殿下。急にすまないな!」

「おっちゃん、全然いいよー」

「殿下、この魚なんだがな。小さいだろ? 沢山いるんだが、骨も多いし食べてなかったんだ」

 俺はニルズが持ってきた魚を出して分ける。

「おっちゃん。こっちのと、これとは別の魚だよ?」

「お? そうか?」

「うん。こっちはイワシ。これはニシンだね」

「食べれんのか?」

「当たり前じゃない、美味しいよ。小骨が多いけど」

「だよなー」

「シェフ!」

「はいぃ、殿下ッ!」

「このお魚は、頭と内臓をとってソイとお砂糖で甘辛く煮よう」

 そう俺が言うと、料理長がきた。

「これはこっちでやっときます。殿下、シェフ、次を」

「そう? じゃあお願い。料理長、臭みを消すお野菜ないかな? そうだ、ジンジャーない?」

「ジンジャーですか? ありますよ」

「そう、その千切りも一緒に入れて煮てほしいな」

「了解です」

 料理長が他の料理人に指示を出す。

「シェフ、このお魚ね、卵もってないかな?」

「捌いてみますか?」

「うん、お願い」

 シェフが、鱗をとってお腹をあけてくれた。

「やっぱり。この卵食べるから」

「リリ殿下、こんなのも食べれんのか?」

「うん。お魚はこのまま塩焼きにしたり、煮付けても美味しいよ。あ、三枚におろしてからフライにしてもいいかな。卵だけ別にして煮物にしてもいいな。このお魚の卵はプチプチしていて美味しいよ」

 カズノコだ。懐かしいなぁ。正月にはかかせないよな。作れんのかな? 作ったことがないから、俺は分からん。

 また別の料理人もきて二人でニシンを捌きはじめた。

「そうだ、昆布! 昆布に巻いて煮るの」

「ああ、テティが今干してるやつか?」

「そうそう。あれで巻くの」

 ニシンの昆布巻きだよ。正月だ。

「殿下、この黒い貝は?」

「うわ、おっちゃん。沢山あるねー」

「おう、なんせ今迄食べてないからな。海にはまだまだいるぞ」

「本当に? シェフ、おっちゃんこれ今食べよう」

 シェフに言ってワイン蒸しにしてもらった。バジルのみじん切りも掛けてもらった。爽やかで食欲をそそる匂いだ。

「殿下、できましたよ。これで良いんですか?」

「うん。みんな、味見しよう」

 大量のムール貝だ。これも前世のものより大きい。パエリアやパスタもいいよなぁ。

「いただきまーす。んッ、美味しい。濃厚だね、プリプリしてる!」

「お、美味いな!」

「殿下、これはパスタもいいですね」

「シェフ、そうなんだ。パスタも絶対美味しいよ」

 アクアパッツァと、パエリアも説明しておいた。

 あれ? ニルとユキは? と、思って周りを見たら、やっぱり食べてた。ユキは小さいまま、ニルに食べさせてもらってる。

「殿下、今日の夕食ですが」

 料理長とシェフがきた。

「うん、何?」

「さっき殿下が仰っていた……」

「うん、うん。夕食はこれだね」

「はい、殿下。試しに作ってみます」

 料理長が作りに行った。

「殿下! 味見して下さい!」

 どこかから声がかかる。

「はーい!」

 イワシが煮えたみたいだ。うん、いい感じだ。マジ、箸がほしい! こんな時はニルだ。

「ニル!」

「はい、殿下」

「ニルお願い。これ食べたい」

「はい、分かりました」

 ニルは、ナイフとフォークで小さなイワシを、器用に切り分けていく。

「殿下、あーんして下さい」

「あーーん……うん、美味しい」

「どれ、俺もくれ」

 ニルズが寄ってきた。さっきまでリュカと二人で、ムール貝に食い付いていたのに。

「おー、美味いな! 骨がなかったら言う事ないのになー」

「だよねえ、おっちゃんあのさ……あーん」

 また自動で口の中にイワシが入ってくる。ニル、いつもありがとう!

「ニル、食べた?」

「はい、食べましたよ」

「殿下、何だ?」

「ああ、おっちゃん。ホワイトクラーケンの小さいのいる? 普通のやつ」

「ああ、いるぜ。今朝、殿下に教えてもらった罠を仕掛けておいたら、入ってたぞ」

「あれ、開いて干してほしいな」

「干すのか?」

「うん。色が変わる位まで干してほしい……ニル、こっちも食べたい」

 ニシンの煮付けも出来てきた。

「はい、殿下」

「干してどうすんだ?」

「1日や2日干したのだと、そのまま軽く炙って食べても美味しいの。お酒にめちゃ合うよ。あとね、1ヶ月位なのかな? 色が変わる位まで干したのもね、炙って食べるとまた風味があって絶対にお酒がすすむよ。白いのは、干さないで生で食べても美味しいけどね」

「そうか、酒に合うのか!? それは楽しみだな。出来たらまた持って来るわ。干さないのも持ってくるか?」

「うん、楽しみ」

 リュカとユキがめっちゃ食べてる。ユキは丸ごと、がっついてる。夕飯食べられないよ?

「殿下、味見をお願いします」

 料理長がパエリアを作って持ってきた。

「いたらきます!」

 あー、さすがプロだ。俺の適当な説明だけで、ここまで作るか。

 俺は、魚介を炒めて生米の上にのせてコンソメスープで煮るくらいの説明しかしていないんだ。なのに、完璧な出来上がりだ。サフランはないんだけどね。

「料理長、美味しい! 凄いね。さすがプロだよ」

「殿下、有難うございます」

「アサリも入れたら美味しいよ」

 あ、リュカがやってきた。皿にパエリアを入れてもらっている。

「ニル、あーん」

「え、殿下。私は……」

「駄目。さっき食べさせてもらったから、今度はボクがニルに食べさせてあげるの。はい、あーん」

「殿下……あーん。まあ、美味しいです!」

「だよねー。貝の旨味もしっかり出ていて美味しい」


 夕食に出てきたパエリアは好評だった。シェフ達がアクアパッツァも作っていて、まるで前世のどこかのお店に食べに来たみたいだ。食が豊かなのは良いよな。本当に豊かな海だ。

「リリ、もう食べないのかい?」

「兄さま、実はボク沢山味見をしたんです」

「まあ、じゃあ今日の料理はリリが考えたの?」

「いえボクは、こんな感じ〜て、言ってただけです。こんなに美味しいのは、シェフや料理長や料理人達の腕です」

「殿下ぁッ! 滅相もないですッ!」

「ううん、シェフ達は凄いよー」

 本当に凄い。まあ、前世で俺は結構料理はできる方だった。なんせ、俺よりうちの奥さんの方が仕事は忙しかったから、作っているうちに出来るようになった、て程度だ。しかし、前世ではレシピがあった。クック○ッド先生が!

 だからさ、うろ覚えなんだよ。確かこんな感じだったよな? て、程度しか覚えていない。

 そんな、俺のふんわりとした記憶で話すレシピで、しっかりと美味しく仕上げてくれる。素晴らしい。さすが、プロだ!


 さて、翌朝だ。

「今日はルー様がいらっしゃるそうです」

「うん。転移門の修復だね」

「お着替えして、食堂に参りましょう」

「うん」

 俺は顔を洗って着替える。

「殿下、本当にご無理なさいませんように。ルー様がついておられるので、大丈夫だとは思いますが……」

「どうしたの?」

「先代の皇帝陛下の事を……」

 先代の皇帝は、スタンピードの時に転移門に魔力が枯渇するまで流し続けて兵を送った。その影響で早逝だったそうだ。

「大丈夫だよ。ボクは先代より魔力量が多いから」

 そっか。先代て知らないけど、今の俺のじーちゃんに当たるのか。

 そう考えると、代々守ってきたんだと少しは実感できる。

「ニル、大丈夫だよ。ありがとう」

 朝食を終えたら、ルーが現れた。

「リリ、元気か?」

「うん。ルー、今日はお願いね」

「ま、サクッとやっちまおう」

 軽く言うなぁ。そんな簡単な物なのか?

「リリ、何言ってんだ? リリなら簡単だよ。本当にサクッと出来ちゃうよ」

「それなら良いけど」

「リリ、この邸の修復が終わったら、城の方の転移門も修復しような」

「うん。帰ったらね」

「いやいや、リリ。だから、ここの修復が終わったらだよ」

「え? 意味分かんない」

「だからな、こっちの修復が終わったら、僕がリリを連れて城に転移するんだよ。向こうでも、待ってるからな。それから、城の転移門を修復するんだ」

 そうなのか? そんな事できるのか? 一度に二箇所もだぞ。

「うん。リリなら余裕だ」

「なんか信じらんない」

「お前なぁ、僕を何だと思ってんだ?」

「ん〜、食事を運ぶ鳥さん」

 へい、お待ちー! てな。プププ。

「リリ、酷いな! リリの両親が、どうしてもと言うから、やってやってるんだぞ」

「そう?」

「そうだよ。親心に負けたんだよ」

「ありがとう。配達鳥さん」

「リリー!」

 ハッハッハ!

「精霊よ」

「ん? ユキ、なんだ?」

「我もリリの側にいる」

「好きにしたら良いよ」

「ルー様、もう始めるのですか?」

「ああ、クーファル。サクッとやっちゃうよ」

「私も、ご一緒しても?」

「構わないよ」

 クーファルとソール、ルーとユキと一緒に邸の地下に向かう。勿論、俺はオクソールに抱っこされていて、リュカも一緒だ。

「ルー様、リリに負担のかからない様に、呉々もお願いします」

「クーファル、大丈夫さ」

「しかし、今までできる者がいなかった転移門を、修復するとなると……心配です」

「大丈夫だ。リリなら同じ転移門を、幾つも設置できるだけの魔力量がある」

「そんなにですか?」

「そんなになんだ。僕にも、総魔力量がハッキリ測れない位だ。多分、初代より多いだろう。クーファル、これは内緒だぞ」

「はい、ルー様。抜きん出た力は、狙われやすいですから」

「その通りだね」

 ルーとクーファルが何か言ってる。気付かない振りしておこう。

 地下に着くと、石の扉の前で、アラウィンとアスラール、側近のハイクが待っていた。

「ルー様、クーファル殿下、リリアス殿下。お待ちしておりました」

 アラウィン達が頭を下げる。

「待たせたかな?」

「いえ、ルー様。とんでもございません」

「悪いけどな、お前達はここで待っていてほしい」

「ルー様、それは……」

「これからこの中でする事は、皇家の機密事項だ。辺境伯が目にする事も、口外する事も許されない」

「はッ、ルー様。畏まりました」

 アラウィンとアスラールが跪いた。

 そんな、大層な事じゃないだろ。さっきは、サクッととか言ってたじゃないか。

「リリ。本当なんだよ」

「ルー、分かった」

「じゃあ、行こうか」

「うん」

「ルー様、私共は?」

「ああ、オクソールとリュカもここまでだ。ソールもだ」

「はい、分かりました」

 俺はオクソールに降ろされ、クーファルやルー、ユキと部屋に入る。

 リュカが泣きそうな顔をして、俺を見ている。大丈夫だよ、心配すんな。

「リリ、円の中央へ」

「精霊よ、我も」

「いや、ユキは入るな」

「しかし!」

「大丈夫だ。入るな」

「……分かった」

 パタパタとルーが飛んで来て、円の中央にいる俺の肩に止まった。

「ルー」

「リリ、少し集中してみな? 分かるか?」

 俺は、集中する。これは……初代皇帝なのか? 設置している場面が脳裏に浮かぶ。

「うん。分かる」

「じゃあ、始めるか」

「うん」

 ルーがふんわりと飛び、俺の目の前で止まる。鳥の姿から、大きな白い光に変わった。

 俺は、体の中で魔力を集め凝縮し練り上げる。どんどん大きくなっていく。その光に向かって両手をかざす。光が俺を包み込んでいく。全身が光に包み込まれると、俺はかざしていた両手を天に向ける。俺を包んでいた白い光が強く大きくなる。まるで、宝石の屑を散らした様に煌く。

 光に包み込まれているのか、俺自身も光っているのか、分からなくなる程の強くて白い光が11本の柱が建つ十一芒星の円いっぱいに広がり始めた。

 俺はルーを感じていた。教えてもらっていないのに、どうして分かったのか? どうして、脳裏に浮かんだのか?

 初代皇帝の、残滓が分かる。俺を手伝ってくれているのか? 俺は……知っているのか? この感情は何だ?

 そのまま、意識をルーに向ける。すると、俺の両手から光が天井を抜けていき、丸い土台の床に描かれた十一芒星の様な魔法陣が光った。

 光が収まっていくのと同時に、全ての柱に埋め込まれていた魔石が白く光りだした。

 よし、成功だ。どんどん光が小さくなっていき、鳥の姿のルーに戻っていった。

「リリ、成功だ」

「うん、ルー成功だね」

 ルーが俺の肩に止まった。

「リリアス! なんともないか?」

 クーファルが、血相を変えて駆け寄り抱き締めてきた。

「リリよ!」

 ユキも身体を擦り付けてきた。大きなネコちゃんみたいだ。

「兄さま、ユキ、大丈夫だよ」

 俺はニッコリ笑った。どうした? そんなに心配だったか?

「良かった! リリが、光に溶けてしまったかと思った」

「そうなのですか?」

「ああ。光でリリの姿が見えなくなったんだ。焦ったよ。ユキが、大丈夫だ。リリはちゃんとそこにいると、言ってくれなかったら踏み込んでいた」

「兄さま、それは危ないです。ユキ、ありがとう」

「リリ、分かってはいたが心配した」

「だから、リリなら大丈夫だって言っただろう? 楽勝だったな」

「ルー、そうなの」

「そうだろ? リリ、何も変わってないだろ? 魔力が減ったと感じるかい?」

「ううん、全然なんともないよ」

 うん、何ともないな。実際、魔力が減った感じが全くしない。

 まあ、今までに魔力が減ったと感じた事がないから、分からないんだけど。

「リリ、とにかく良かったよ」

「じゃあ、クーファル。リリと皇帝のとこに行ってくるね」

「えっ? ルー様。今からですか?」

「そうだよ、向こうで待ってるんだよ」

「そんな、休まずにですか?」

「だから、クーファル。リリはなんともないさ」

「しかし……父上は何を考えておられるのか」

「ハハハ、我慢できないんだろう? 長く使えなかったからね」

「我も行くぞ」

「ユキ、待てないか?」

「いや、行く。我はリリから離れないと言ったであろう?」

 そう言ってユキが俺に寄り添う様にくっついてきた。よしよし、可愛いなぁ。

「まあ、いっか。じゃあ、クーファル、後は頼んだよ。部屋で待っていてくれるかな? 外の者達にも伝えておいてほしい。ま、直ぐには戻って来られないだろうからね」

「ルー様、どうしてですか? やはり、体に支障が……」

 クーファル、だから俺は全然大丈夫だって。

「いや、違うよ。皇帝と、リリの母上が離さないだろう、て話だ。そんなに心配なら、リリを辺境までやらなきゃいいのにさ」

「あー……分かりました。では、部屋でお待ちしております。辺境伯はもう入っても宜しいですか?」

「構わないよ。だけど、絶対に柱には触らない様にな。まだ城の転移門が壊れたままだからな。もし作動したら、どこに飛ばされるか分からないよ」

「はい、分かりました。じゃあ、リリ。行っておいで」

 そう言ってクーファルは俺の頭を撫でる。

「はい、兄さま。行ってきます」

「ユキ、リリを頼む。守っておくれ」

「勿論だ」

 そして、ルーとユキと俺は光に包まれて消えた。


「母さま!」

「リリ! リリ! 会いたかったわ!」

 光が消えたら、目の前に父と母達がいた。俺は思わず母に抱きついた。

「母さま! 母さまー!! ヒック……ゔぇーん! ヒグッ、母さまぁ!」

「やだ、リリ。泣かないで。お母様まで泣いちゃうわ」

 5歳児全開だ。涙腺が崩壊してしまった。かなり恥ずかしい。

 そして、お決まりだ。やっちまった。泣き疲れて寝てしまったよ。ニルは、向こうで心配してるだろうな。ごめんよ。俺、寝てしまったから、ちょっと戻るの遅くなっちゃうよ。

「……ん……母さま」

「リリ、起きた?」

「はい、母さま」

 俺はポフンと母に抱きついた。目が覚めたら父と母が側にいてくれた。

「まあ、リリったら。リリ、ごめんなさいね。また、リリに辛い役目をさせてしまって」

「母さまは悪くないです」

「リリ、すまない。父様が悪いんだ」

「はい。だからボクは行くのは嫌だと言ったのに」

 母に抱きついたままで、父を横目でジトッと見る。

「リリ、許してくれないか? でも、リリが行ってくれたお陰で、色々発見したじゃないか」

「父さま、ルーを使って届けさせてましたね」

 本当に、毎日毎日よくやるよ。ルーに悪いよ?

「リリ、だって気になるじゃないか。どれも、とても美味しかったよ」

 美味しかったよじゃねーよ。この父はやっぱり吞気だ。いや、ある意味天然なのか? ポヤポヤしているよな。

「リリ、お父様を責めないで。私もルー様にお願いしたのよ。リリの事を知りたかったのよ」

「母さま! 母さまはいいんです!」

「ええー! リリ、父様は駄目なのかい?」

「んー……仕方ないです。父さまもいいです」

 俺は父に抱きついた。仕方ない。普段の父はいつもちょっと頼りない。

「リリ、有難う。リリのお陰だ。よくやってくれた」

「父さま、ボクは何もしてません」

「いや、変化をもたらしたんだ。リリのお陰だ」

 父は俺の頭を撫でた。大きくて安心する手だ。しかも、とても優しく撫でてくれる。

「あ、ユキは!?

「リリ、我はここにいるぞ」

「ユキ、良かった。ボクの母さまだよ」

「ああ、父君に聞いた」

「リリ、凄いわね。母様、神獣なんて初めて見たわ」

「私もだよ。しかも光の神の使いと言うじゃないか。リリ、凄いよ」

「え? 光の神の使い? ユキ、そうなの?」

「そうだ、助けて貰った時に精霊が言っていたではないか」

 そうだっけ? 全然、覚えてないよ。

「さて、リリ。こっちの転移門も修復してしまおう」

「ルー、ちょっと待って」

「リリ、どうした?」

「りんごジュース飲みたいの」

 起きたら、りんごジュースは欠かせないぜ。


 そして俺は、父に抱っこされて城の地下に向かった。

 側近のセティと近衛師団の護衛が後に続く。城にこんな装置があるなんて、知らなかった。

 辺境伯の邸の地下と同じ様に、馬車でも通れる様な広さで階段の両側はスロープになっている。

 そして、重厚な白っぽい石の扉があった。セティと護衛はここまでだ。

 中に入ると、同じ様な魔石が嵌め込まれた石の柱がある。やはり、1本の柱の魔石だけ大きさが違う。一段上がった丸い土台に設置されている。

 土台には十一芒星の様な魔法陣。柱にある魔石は光っていない。

「父さま、向こうと同じなんですね」

「そうだよ。初代皇帝が設置した物だ。父様の父上が無理な人数を転移させたから、壊れてしまった。それを、私の息子が修復するなんて思いもしなかったよ」

「父さま、母さま、直ったら一緒に辺境伯領に行きましょう。おっちゃんにも紹介したいです」

「漁師のおじさんだったか?」

「はい! ボク大好きです」

「まあ、是非お会いしたいわ」

「はい! 母さま!」

「じゃ、リリ。いいかな?」

「うん、ルー」

 俺はまた同じ事をして、転移門を修復した。前にルーと相談していた様に、今度は部隊を送っても大丈夫なようにした。だから、帰りはサクッと帰れるぞ。

「リリ、素晴らしい」

「ええ、本当に。母様、ずっと忘れないわ」

 母に抱き締められた。柔らかくて温かい。

「大丈夫なの? なんともない?」

「はい、母さま。大丈夫です」

「リリ、有難う。改めて礼を言うよ」

「父さま、これでいつでも行けますね」

「ああ。そうだな。じゃあ、早速行こう」

「え? 陛下?」

「さあ、エイルも行こう。セティ!」

「はい、陛下」

 控えていたセティが入ってきた。

「ちょっと行ってくるよ」

「陛下、必ず今日中にお戻り下さい」

「ああ、セティ。分かっている。頼んだよ」

「はい、陛下」

「やった! 父さま、母さま! 行きましょう! ルー、ユキ早く!」

「もう、仕方ないなぁ」

「ルー様、行きますよ。リリ、いいかな?」

「はい! 父さま!」

 父が魔力を流したのだろう。柱に嵌め込まれているすべての魔石から白い光が放たれ、丸い土台に描かれた十一芒星の魔法陣が光った。強い光で目の前が真っ白になる。そして……

「陛下!? リリアス殿下!」

 光が消えたら、もうそこは辺境伯邸の転移門だった。オクソールとリュカが待っていた。

「オク、リュカ! 待っていてくれたの?」

「はい! 気になって、離れられませんでした。殿下、ご無事で良かったです」

「陛下、エイル様、殿下」

「オクソール、辺境伯はいるかな?」

「はい、部屋で殿下をお待ちです。リュカ、知らせてきてくれ。ああ、クーファル殿下とフィオン様とニル殿にも」

「はい、分かりました!」

 リュカが走って行った。父に抱っこされて、地下から1階に上がり応接室に入ると、アラウィンとアスラールが走ってやってきた。

「陛下!」

「ああ、アラ。また突然来てしまったよ」

「リリアス殿下、ご無事で!」

「アラ殿、ありがとう」

「辺境伯、リリアスがお世話になります」

「エイル様、とんでもございません! 申し訳ございません。まだお小さい殿下にお辛い思いを!」

 アラウィンとアスラールが頭を下げた。

「辺境伯、仕方のない事です。それより、夫人は大丈夫ですか?」

「はい、有難うございます。もう、落ち着いております」

「そう。お会いしたいわ。宜しいかしら?」

「勿論でございます! ご案内致します」

「陛下、構いませんか?」

「ああ、エイル。行っておいで」

「父上、私がご案内致します。エイル様、長男のアスラールと申します」

「まあ、お話しするのは初めてね」

「はい。お見知り置き下さい。どうぞ、ご案内致します」

「リリ、母様は少し夫人をお見舞いしてくるわね」

「はい、母さま」

 あ、クーファルとニルがやってきた。ソールとリュカもいる。

「リリ!」

「兄さま、ただいま!」

 クーファルに抱き上げられた。

「殿下、ご無事で良かったです!」

「ニル、ありがとう! あのね、母さまも一緒に来たの!」

「まあ、そうなのですか!? じゃあ、もう転移門は直ったのですね?」

「うん! 帰りはあっと言う間に帰れるよ!」

「まあ! それは助かりますね!」

「クーファル、変わりないね」

「父上、早速来られたのですか」

 クーファルの父を見る目が冷たいぞ。ちょっと呆れられているぞ。だって修復して即行だもんな。

「クーファル、お前はいつも冷たいね。おや、フィオンはどうした?」

「リリ! 父上!」

 パタパタと慌ててフィオンがやって来た。

「フィオン、元気そうだね」

「父上! リリに危ない事をさせないで下さい! 父上はいつもリリに無理を言って!」

「あー、フィオン。大丈夫だ。ルー様もついていて下さる」

「だからと……」

「あー、姉さま、ありがとうございます。ボクは大丈夫です。それより、これでいつでもこちらに来る事ができますよ」

「リリ、心配したわ」

 あ、アルコースがやってきた。

「姉さま、アルコース殿が来ましたよ」

「え? えっと……」

「ん? 次男かな?」

「はい、父さま。次男のアルコース殿です。姉さまがお世話になってます」

 ヘッヘッヘッ。言ってやった。

「おや、フィオンがかい?」

「はい、父さま」

「リリ、やめて!」

「フィオン様、リリアス殿下?」

「アルコース殿、紹介します。父さまです」

「フィオンが世話になっているそうだね。有難う」

「陛下! お初にお目に掛かります。次男のアルコースと申します」

「確か、フィオンの一つ上だったか?」

「はい、同じ学園でした」

「そうかい。ああ、思い出した。卒業式でフィオンが泣いた……」

「父上! 止めて下さい!」

 フィオンが耳まで真っ赤にして慌てている。

 俺はニルが出してくれた、りんごジュースを飲んでいる。ニマニマしながら。

「リリ、またりんごジュースか?」

「うん、ルーも飲む?」

「いや、いいよ……て、ユキもか!?

「ん? 美味いぞ?」

「失礼致します。殿下ッ! お昼は食べられましたかッ!?

 あ、シェフが来た。そうだ、俺寝ていたから食べてないぞ。

「へ、陛下! 失礼致しましたぁッ!」

 シェフが父を見てびっくりしてる。

「シェフ、いつも美味しい食事を有難う」

「とんでもございませんッ!」

「シェフ、ボクお昼食べてないや」

「なんとぉッ!? それはいけません! 殿下、食べられますか?」

「うん。軽めでお願い」

「畏まりました。少々お待ち下さい! では、陛下。失礼致しますッ!」

 ピュ〜とシェフが戻って行った。ブレないねー。


「リリ……」

「ん? ゴクン……ルー何?」

「美味いか?」

「うん……」

 俺はシェフが作ってくれたパスタを食べている。ちゅるちゅると。

 アサリやムール貝がたっぷり入った、魚介のクリームパスタだ。

「無心だな」

…………

「ユキ……お前もか」

「美味いぞ」

「良かったな。似た物同士か」

 何故かルーが呆れて見ている。なんでだよ? 美味いぞ?

「ルー、食べる?」

「いや、僕はいいよ」

「リリ、お腹空いてたのかな?」

「父さま、ボクお昼食べそこねたのです」

「ああ、泣きつかれて寝ていたからね」

「……」

「リリ、無心だね」

「シェフ、おかわりが欲しい」

 ユキ、もう食べたのか!?

「ユキ……城でも肉を食べただろう?」

 えッ!? いつの間に食べてたんだ?

「父君よ、シェフの料理は美味いのだ」

「そう、良かったね」

 父まで呆れている。なんでだ?

「リリは、転移門を修復するなんて、大変な事をしたのになんともないのかい?」

「父さま、何がですか? シェフ、ごちそうさま、おいしかった!」

「はいッ、殿下! ユキ、足りましたか?」

「ああ、シェフ。美味かった」

「はい。では、陛下、殿下。失礼致しますッ!」

 さっさと片付けて、シェフは満足気にワゴンを押して部屋を出て行った。マイペースだ。

「殿下、りんごジュースです。ユキも、どうぞ」

「ニル、ありがとう!」

「ニル、かたじけない」

 ニルは、本当によく気のつく子だよ。

「オクソール、リリとユキはいつもこんな感じなのか?」

「はい、陛下。まあ、だいたいこんな感じですね」

「そうか。リリ、今日は凄い事をしたんだよ。分かっているかな? 転移門をここと、城のと修復したろう?」

「はい、父さま。便利になって良かったですね」

「ハハハ。皇帝よ、無駄だ。リリは何とも思ってないさ」

「ルー様、そうみたいですね。心配したのですが」

「だから、リリの魔力量なら余裕だと言ったろう?」

「それでも心配でしたわ。何が起こっても、不思議ではないのですから」

「姉さま、ありがとうございます。大丈夫です」

「リリ、無事でよかったわ」

「ああ、本当に。無事で良かった」

「父さま、兄さま。凄いのはボクではなく、最初に設置した初代の皇帝陛下が凄いのです。ボクは、ルーの力を借りて、少し直しただけです」

「リリ、何も感じなかったか?」

「ルー、何?」

「いや、前に言ったろう? リリは反応しやすいからと」

「ああ、なんかね。懐かしい感じがした。初代皇帝陛下の、残滓は分かったよ」

「そうか! リリはやっぱ凄いな! 残滓が分かったのか!」

 残滓だけじゃないんだけどな。何か見えたんだが……忘れちゃったぜ。

「ルー様?」

「ああ、皇帝。あの転移門にはな、設置した時の初代皇帝の魔力の残滓が少しだけあったんだ。630年前の魔力の残滓だよ。まさか、それを感じるなんて。本当にリリは想定の上をいくよ」

「ルー様、以前の様に引っ張られたりはしないのですか?」

「それが心配だったから、前にリリが転移門に近付いた時は止めたんだ。だが、もう大丈夫だ。残滓は消える事なくまだあるが、リリの魔力の方が多いからな。ああ、そうだ。定期的に魔力を込めないと駄目だよ。リリの役目だ」

「うん。ルー、分かったよ」

 そうこうしているうちに、母が戻ってきた。

「陛下、お待たせしました」

「母さま!」

 俺はまた母に抱きついてしまったぜ。

「リリ、お待たせしたかしら?」

「母さま、大丈夫です」

「ああ、リリはパスタを食べていたからね」

「陛下、パスタですか?」

「はい、母さま。ボク、お昼を食べそこねていたので、シェフが作ってくれました」

「それは良かったわ。シェフの料理は美味しいものね」

「はい、母さま」

「それで夫人はどうだった?」

「ええ、陛下。大丈夫です。お元気でしたわ。気持ちも吹っ切れた様です」

「そうか、なら良かった。じゃあ、クーファル。転移門も直ったことだし、明日にでも戻ってくるかい?」

「父上、準備ができ次第戻ります」

「そうか。これからは、いつでも来られるからね。ね、フィオン」

「え? 父上、何ですか?」

 フッフッフッ。ニマニマしてしまうぜ。

 急だったから、父と母は直ぐに城に帰って行った。

 あー、なんだかなぁ。中途半端に会ったからかな? なんだか寂しいぞ。

「リリ、城に帰る準備をしよう」

「はい、兄さま」

「フィオンもね。いつでも来られる様にはなったが、心残りのない様にね」

「兄上……」

「大丈夫だ。ちゃんと話しておきなさい」

 なんだ、なんだ? なんだか、意味深だな。

「クーファル殿下、では早速ですが明日準備をして、明後日開催致しますか?」

「オクソール、そうだね。ああ、まだ駄目だった。明後日は薬師のテストがあるんだ。だから、準備はその後だね。皆に伝えてくれるかな」

「はい、畏まりました」

 ん? こっちも何だ? 俺、全然分からんぞ。

「そうか、リリは知らないか?」

「兄さま、何ですか?」

「初代皇帝が開催してから、騎士団が地方に遠征した時の名物になっているんだ」

 クーファルの話を聞いて、驚いた! 要するに……騎士団vs領主隊の3種競技大会だ。

 まず一つ目が、綱引き。

 今回、騎士団はクーファルの第2騎士団から、30名しか来ていない。

 領主隊からは騎士団と同じ人数が選ばれて、綱引きだ。

 二つ目。玉入れ。

 と、言っても普通の玉入れじゃない。騎士団と領主隊から、各2名が玉を入れる籠を背負って逃げる。それに玉を2個ずつ持った、残りの隊員達が追いかけながら玉を相手の籠に入れる。

 要するに、追いかけっこしながらの玉入れだ。

 三つ目。紙風船割り。

 これまた普通に紙風船を割るのではない。フワフワしたおもちゃの剣の様な物で、相手の両手首につけた紙風船を割る。騎士団30名全員参加だ。領主隊からも30名選ばれる。ああ、違った。騎士団は30名だが、オクソールとリュカとシェフも参加するらしいので33名だ。