マジ、俺涙出そうだよ。和食じゃねーか! 完璧な和食だよ! なんなんだ!? なんでこの世界に和食があるんだ!? もう、なんでも良いよ! 嬉しいよ!
「おや、殿下。それは、漁師の……」
「はい、アラ殿。シェフがおっちゃんに教わったそうです。スッゴイ美味しいです!」
「ハハハ! 殿下、お口いっぱいですよ。ほっぺが!」
アスラールもアラウィンに続いて入ってきた。
「ほふ?」
「リリ、飲み込んでから喋りなさい」
クーファルに叱られちゃったぜ。
「ふわい……アスラ殿、食べて下さい。美味しいですから」
「はい、頂きます」
「クーファル殿下、リリアス殿下。ご相談があるのですが、この後お時間をいただけますでしょうか?」
アラウィンが改めて言った。なんだ?
「私はかまわないが、リリは?」
「兄さま、ボクも全然大丈夫です」
「ではこの後、応接室でお話し致します」
さてさて、応接室に来ている。満腹だぜ。やっぱ和食は美味いね。食べ過ぎちゃったよ。
「殿下、りんごジュースです」
「ニル、ありがとう」
俺以外はみんな紅茶だ。応接室には、アラウィンにアスラール、側近のハイク。クーファルと側近のソール、で、俺にレピオスだ。
レピオスは夫人の治療にあたっていたが、もう大丈夫なのかな?
「レピオス、アリンナ様のご様子はどう?」
「ええ、殿下。もう大丈夫ですよ。あとはゆっくりと体力を戻すだけです」
「そう、よかった」
さすが、レピオスだ。
さて、アラウィンのお話は何かな?
「クーファル殿下、リリアス殿下。実は、ケイアの後任の事でご相談したいのです」
ああ、成る程ね。後任か。考えてなかったな。
「実は、後任には一番実力のある者をと、伝えたのですが」
うん、いいんじゃね? クーファルを見ると、少しうなずいた。だよね。やっぱ実力がないとね。
「少し揉めておりまして……」
あら、揉めちゃったのか。
「皆自分は先頭に立つ程の実力はないと言うのです。殿下、どうしたものかと」
あらら。そっちなのか。自信がないのかな?
「辺境伯、テストをしてみたらどうだ?」
「クーファル殿下、テストですか?」
「ああ。リリ?」
え? 後は俺に振るの? 丸投げじゃん。んー、テストかぁ。まあ、無難にいくか。
「何か薬湯でも作ってもらいますか? ああ、回復薬も」
「なるほど。実際に作らせるのですな」
作ってもらうにしても、俺は普通の基準が分からん。
「ねえ、レピオス。ポーションが作れる人は、皆ハイポーションが作れるの?」
「そんな事はありません。それは殿下だけですよ」
「あら。そうなの?」
「はい。普通ハイポーションは、ポーション作成を何年もやって慣れてからですね」
「じゃあ、一番難しいのは?」
「万能薬じゃないでしょうか?」
「あらら」
「はい、殿下は簡単にお作りになられましたからね」
俺は3歳の時からレピオスに師事している。薬湯やポーションの作り方も勿論レピオスに教わった。その時の事をレピオスは言っているんだ。
俺は、教えてもらったその日に万能薬やハイポーションを作る事が出来たんだ。
だから、皆もそう苦労せずに作れるものだと思い込んでいたんだ。
「んー……じゃあ、例えばで架空の患者の状態を設定する。それに対してどんな薬湯を作るかと、併せて治療方針を提出してもらう? それと、ハイポーションを作れるか? が、基準かな? 万能薬だと無理っぽい?」
「そうですね。回復薬の中から、自分が作れる一番上級の物を作ってもらいましょうか?」
「うんうん。そうだね。アラ殿、どうですか?」
「それは良い考えだと思います」
うん、アラウィンも納得かな。
「では殿下、判定はどうしましょう?」
「レピオス、判定?」
「はい。ハイポーションが作れても、質が悪かったり効果が低いと話になりません」
「あー、そっか。んー……ボクが鑑定するよ」
「お願いできますか?」
「うん。それが確実だよね。アラ殿にも立ち会ってもらえますか?」
「それはもちろんです」
やっぱレピオスは頼りになるね。俺が気付けない事に気付いて言ってくれる。
「それで、レピオスが見て今いる薬師達の実力はどうなの?」
「殿下、そうですね……まあ、まだまだと言う所でしょうか?」
「え、そうなの?」
「はい。実力と経験のある者は、ケイアが辞めさせていたらしいですから」
「あー、それじゃ駄目だね。この領地を任せるにはちょっと不安だ。いっそのこと、領内で希望する薬師も参加させちゃう?」
魔物を討伐しなきゃいけない領地で、その程度だと不安だろ。
新しい風を入れるのも、良いかもよ? 実力主義でさ。
「殿下、それはいい考えです。ねえ、父上」
「ああ、アスラール」
後は、そうだな。城のシステムを真似するか。
「アラ殿。城では定期的に、薬師達の実力を見極める為の、テストを行っています。可能であるなら、それも今後行う方が良いと思います」
「なるほど、そうですな」
「あと、アラ殿。肝心なのは薬師としての心構えです。いくら腕が良くても、心が歪んでいては駄目です」
「はい、殿下。それはもう痛感しております」
「ですので、併せてそれも確認する方が良いと思います」
「それは、城ではどうやって確認されているのでしょう?」
そこは俺よりもだな。
「レピオスおねがい」
レピオスに説明してもらったんだ。城での薬師達の実力や心構えの確認方法だ。
城では、薬師をまとめる者の中からランダムで2名選出される。それと、皇族の側近だ。今は父の側近のセティかフレイの側近若しくはクーファルの側近だ。その中からランダムで一名選ばれる。
あとは、官職の長の中から、これまたランダムで2名。合計5名の面接官が選ばれ、実技の合格者を面接する。
「なんと、その様な」
「はい。新人採用の登用試験は毎年行われますが、実力の確認は3年に1度です。面接官をランダムで選ぶのは、不正防止の為です」
「しかし、我が領地では選ぶ者がおりません」
「アラ殿。今回はレピオスにやってもらいませんか? あと、アラ殿が考える方1名で。アラ殿かアスラ殿が参加されても良いですね」
「殿下、何から何までお世話になる事になってしまい、申し訳ありません」
「ああ、気にしないで下さい。辺境の地を守ってくれている領主隊の命綱ですから」
「ああ、リリの言う通りだ」
うん。クーファルも賛成かな。
「では、父上。早速領地全域に触れを出しますか?」
「そうだな。リリアス殿下に鑑定をお願いするのであれば、出来るだけ早くテストを行いたいな」
「希望者はその地の衛兵に邸まで連れて来させれば、明日と余裕をみて明後日まであれば充分でしょう。3日後にテストは如何でしょう? こちらもその間に準備できます。テスト受験者の中で、必要があれば邸に滞在させましょう」
おお、いい感じだ。それなら薬師達に負担が掛からないな。
「それじゃあ、リリ」
「はい、兄さま」
「リリは明日、転移門の修復をしようか?」
「兄さま、分かりました。でも、ルーがいないと。ボク一人では全然分かりません」
「ああ、大丈夫だ。こちらの予定は全て把握されているよ」
「へえ〜、ルーって凄いんですね」
「リリ、ルー様は精霊様だからね」
「兄さま、そうでした」
なんて言ったら怒って出てきそうだ。
「リリ、その通りだ」
ポンッと、白い光と共にルーが現れた。
「あ……」
「リリ、あ……じゃないよ?」
「ルー、ごめんなさい」
「いいけどさ。明日だね」
「はい、ルー様。お願いします」
「クーファル、分かったよ。じゃ、リリ。シェフは調理場かな?」
「うん、多分」
「そう。じゃあまた明日ね」
そう言ってルーは消えた。またシェフに食事をもらうんだ。
本当、ルーも毎日大変だね。精霊さんなのに申し訳ないよ。
「今日は早朝からテティと、街の女性達が来てますよ」
「アスラ殿、そうなんですか?」
「ええ。干物を持って来たついでに、またシェフに色々教わっている様です」
「そうなんだ。テティがいるなら、ボクも行こうかな。兄さま、いいですか?」
「ああ、構わないよ。辺境伯、もう構わないよね?」
「はい、有難うございます」
俺はリュカと一緒に、調理場に向かう。何を作ってるのか、楽しみだ。
「テティ、来てたんだね! 干物ありがとう。美味しかったよ!」
「リリアス殿下、それは良かったです」
あれ? ユキめちゃ食べてるぞ。
「ユキ、まだ食べてんの?」
「ああ、リリか。美味いぞ」
「ユキ、太らないでね」
「リリ、何を言うか」
「だって食べてばっかじゃん」
「そ、そんな事は……」
あるじゃん。本当、今までどうしてたんだ?
「あれ? ルーは?」
「もう色々持って行かれましたよ」
早いな。今日は何を持っていったんだろう。そこにテティが話しかけてきた。
「殿下、教えて頂きたい事があるのです。シェフもご存知なくて」
「え? シェフも? 何だろ?」
「これなんです。食べ方が分からなくて。と、言うか、食べられるのでしょうか?」
テティが持ってきたのは、大きくて立派なアサリだった。
「おー、立派だねー! 美味しいよ、これ!」
「そうなのですか? でも、以前試した時は、砂でジャリジャリして食べられた物じゃありませんでした」
「ああ、砂抜きしないからだよ」
「殿下、砂抜きですか?」
「うん、そう。シェフ」
「はい、殿下」
「これをね……」
説明したよ、砂抜きの方法。
「こうして最低2〜3時間は、涼しい暗めの所に置いておくの。一晩置いても大丈夫だよ」
「まあ、これだけの事で食べれるのですか?」
「うん。これで砂を吐き出してくれるよ」
「殿下、それで調理法は?」
「ああ、あのね……」
はいはい、また説明しました。
今日の夕食で出てくるかな? 明日かな? アサリのお味噌汁もいいよな。
「殿下、このグラタンと言うのは、とても美味しいですね!」
テティがいつの間にかグラタンを食べていた。
「そう? 城では普通に食べてたんだよ」
シェフまた作ったのか。
「まあ! きっと皆知らないと思いますよ」
「そうみたいだね」
「先日殿下が、料理長に教えて下さった魚のフライですが、ポテトフライと一緒に試しに街の広場の屋台で、出してみたんですよ」
「そうなの? どうだった?」
「それはもう、大好評でした。あっと言う間に売り切れました!」
「そう、良かった!」
「ありがとうございます。本格的に広めようと、準備しているんですよ」
「領地の名物になりそうだね。新鮮なお魚なんて、他の領地じゃあ手に入らないもんね」
「そうでしょう? 良い名物になりますよ。ああ、それと昆布も今干していますよ。出来上がったらお持ちしますね」
「本当!? テティ、ありがとう!」
「あれ? 殿下もいらしたんですか?」
ヒョコっと領主隊隊長のウルが顔を出した。
「ウル、どうしたの?」
「これから対戦を始めるので、ユキを呼びに来たんです」
「あ、忘れてた!」
「何? リュカも出るの?」
「当然ですよ。全員参加です!」
「あー、私も参加しますよ!」
「またシェフも!?」
「もちろんですッ!」
また何の対戦をするのか知らないが。面白そうだ。
「ユキ、食べてないで行くよ」
「リリ、分かった。シェフ、また昼に頼む」
「はいはい。了解です」
「テティ、またね!」
「はい、殿下。ありがとうございました」
俺はユキに乗って、リュカとシェフとウルと一緒に邸の裏に向かう。
「リュカ、今日は何するの?」
「はい。誰が最後までユキから逃げられるかです!」
「何それ!? ユキは、めっちゃ食べてたのに動けるの?」
俺はユキの首筋をフニフニと摑む。太ってきてないか? 肉付きがよくなったよな。
「我にとっては、腹ごなしだな」
本当かよ!? しかし、色々考えるもんだなぁ。
「全員一斉にするの?」
「はい。ユキに倒されたら負けの、ガチの鬼ごっこですね」
「アハハハ、面白そう!」
領主隊と騎士団vsユキの鬼ごっこだ! 邸の裏に着くと、もう皆集まっていた。
シェフはエプロンしたまま参加なのか? やるんだろうな。
「殿下、来られたのですね」
「オク、ボクも参加したい!」
両手を握りしめて、キラキラお目々で言ってやった!
「「「「ええー!!」」」」
なんだよ。みんなしてブーイングかよ。仕方ないなぁ。
「いいよ。ボクは見てるよ」
ブーブー! 俺もブーイングだよ!
「殿下、それが宜しいかと。危ないですしね」
「オクも参加するの?」
「はい。もちろんです。2冠を目指しますよ」
「頑張って! シェフもリュカもね! みんながんばれー!」
「「「「おぉーーッ!!」」」」
スゲーな、めちゃヤル気じゃんか! お遊びなのに、ガチだね。屈伸したり脚をプラプラさせたりして準備万端だ。オクソールはこっちに来る道中の腕相撲大会で優勝している。だから、今回優勝したらマジで2冠だ。
「リリ、我も負けんぞ」
「うん! ユキも頑張って!」
みんな暇なのか? 気持ちはいつまでも子供ってヤツか?
「ボクが合図しまーす!」
「殿下、出来ますか?」
「オク、どうすんの?」
「この旗を振り下ろして下さい。で、同時にReady go!です」
「分かった。ユキも同時にスタートなの?」
「いえ、ユキは10カウントダウン後です」
「ボク、数えるね!」
「じゃあ、お願いします」
さてさて、いいかな? スタートラインまで引いてるよ。大の大人が、超マジで鬼ごっこだ。面白すぎるぜ! みんな目がマジだ。
「殿下、殿下! この台に乗って下さい。殿下、ちっちゃいから!」
「リュカ! ちっちゃいは余計!」
まあ、ちびっ子だけど。俺は旗を持って、リュカが持ってきた台にピョンと乗る。
「みんなー! いいかなー!?」
台の上でパタパタ旗を振りながら聞く。
「「「おおッ!!」」」
いくぞ! いくぞ!!
「レディー……ゴーッ!!」
俺はバサッと旗を振り下ろした!
──おおぉぉぉーーー!!!!
皆、一斉にスタートした! 流石にいつも鍛えているだけあって、皆早い! とにかく距離を取ろうと、遠くまで走って行く。
「いくよー! じゅーう! きゅーう! はーち! なーな! ろーく! ごー! よーん! さーん! にーぃ! いーち! ユキ! ゴー!!」
ユキが弾かれた様に駆け出した! はえーな! シュンッて音がしそうだ。
風を切って走るユキ。全身の筋肉の動きがしなやかで綺麗だ。
邸の裏庭いっぱいに使って、領主隊も騎士団もバラバラに逃げる! ユキがあっと言う間に、距離を詰める! 一瞬じゃないか。さすが神獣!
ユキがスタートして数秒で、もう倒されている隊員がいる。瞬殺だ。
「あー! ユキに倒された人は失格でーす! 戻って下さーい!」
すごすごと戻ってくる隊員達。
「キャハハハ! 逃げて! 逃げてー!」
ユキに倒されて、『おわッブフッ!』と、変な声を上げる者。『ぎゃー!!』と、叫び声を上げる者。普段は、カッコいい領主隊や騎士団が次々とユキに倒されていく。
「キャハハハ! アハハハ! あー! 逃げて!」
しかし、オクソールとリュカはやっぱ獣人だ。超身軽だ! ユキが倒そうとしても、ヒョイって避けている。これは、ウル達隊長格より若手の方が有利かな? 若い方が俊敏じゃね?
あ! 隊長のウルが倒された! ユキが近くまで来ていたのに、気付いてなかったんじゃないか!? 軽く倒されたぞ。
「ウル、残念!」
「はい、殿下。全く気付きませんでした。足音がしないなんて反則ですよー!」
アハハハ! 悔しそうだ!
「うわ! シェフとユキが見合ってる!」
「あー、あれはもうシェフ駄目ですねー」
ウルが言う様に、俺も駄目だと思った。
だがッ! ユキがシェフに飛び掛かった時、シェフはなんと!!
「「ええーーッ!!」」
ウルと二人で、思わず叫んだよ!
なんとシェフは、飛び掛かってきたユキの前足を摑んで投げたんだ!
それはもう見事な背負い投げ! しかも、追いつかれない様に遠くに投げた!