電子書籍特典 フォルセ兄さま


 帝城の最奥、俺達皇族のプライベートな部屋のある一室だ。

 そこに、アーサヘイム帝国第4皇子フォルセのアトリエがある。

 俺は初めてこの部屋へとやって来た。神獣である真っ白なユキヒョウのユキと一緒に。

 その部屋に入ると同時に思わず声を上げた。

「うわぁー、凄い本格的ですね!」

「リリは初めてだったかな?」

「はい、フォルセ兄さま!」

 部屋中に、フォルセの趣味のものが所狭しと置いてあったからだ。なにより眼を引いたのは部屋の奥に無造作に置いてあった彫刻だ。そう大きな物ではないのに、そこに眼が行く。

 真っ白な翼を広げた鳥さんだ。その前に行き、見つめてしまう。

「ああ、それはね孔雀鳩という鳥なんだ。綺麗でしょう?」

「はい、今にも飛び立ちそうです」

 尻尾が孔雀のように豪華で、冠を被っている様な鶏冠も特徴的だ。これは、ルーによく似ている。

 だから余計に眼に留まったのかな。

「ねえ、ユキ。そこに座ってくれるかな? いや、伏せる方が良いかな?」

「リリ、我なのか?」

「うん。ユキをスケッチしたいんだって。だから暫くじっとしていてね」

「仕方がない」

 ノッシノッシと、フォルセが示した場所へとユキさんが歩いて行く。

 手足を動かす度に、体の筋肉の動きが分かる。弾力はあるが、よくなめした皮を張ったように滑らかで美しい堂々たる体躯だ。

「ここで良いか?」

「うん、ユキ。有難う」

 そう言いながら、フォルセはピンと張ったキャンバスに向き合う。

 俺は物珍し気に、部屋の中を見ている。幾つもキャンバスが立て掛けてあって、全てフォルセが描いたものらしい。

 窓下に作り付けられた棚には、彫刻が並べてある。女神の像だったり、動物だったり。

 また別の場所には、ヴァイオリンが綺麗に並べて置いてある。

 剣は得意じゃないが、芸術に秀でていたフォルセ。またフォルセ自身もそれが好きだった。

 そんなフォルセがユキに興味を抱いた。

「ねえ、ユキ! 是非描かせて!」

 フォルセの申し出を断る理由もなく、また俺自身も興味がありやって来たという訳だ。

「リリ、適当に座っててね」

「はい、兄さま」

 そのままフォルセは集中し、時間が流れる。そろそろ、ユキさんが退屈になってきたみたいだ。

「くわぁ~」

 と、大きな欠伸をしたユキ。鋭い犬歯が見える。その内、暇なのか自分の尻尾を咥えだした。

「ユキ、ごめんね。暇だよね」

 フォルセが手にした木炭を置く。

「じっとしていると、体が強張る。我は動いている方が性に合っている」

 要は飽きたという事らしい。

「アハハハ、じゃあ今日はこれ位にして外に出ようか」

「うむ、それがいい」

 ゆっくりと立ち上がり、四肢をグググッと伸ばしている。長くて太い尻尾がゆらりと揺れた。

「ユキ、乗せてよ」

「ああ、良いぞ」

「え? リリ、乗れるの?」

「はい、兄様も乗りますか?」

「うん! もちろんだ!」

 フォルセと一緒にユキの背に乗り、城の中を闊歩する。本当ならそう遠くない場所に俺の部屋がある。なのに何故が中庭を行く。だって少し遊びたいだろう?

「ねえねえ、ユキ。走ってみてよ!」

「ああ」

 返事したかと思うと、ユキは地面を力強く蹴って走り出す。

 フォルセと俺は、タイプは全然違うのに何故か気が合う。

「凄い! ユキは速いね!」

 ほら、フォルセだって喜んでいるだろう。

「アハハハ! 凄く気持ち良いー!」

「リリ! フォルセもか!」

 うわッ、クーファルだ。見つかっちゃったぞ! どうしてだよ!?

 中庭に出る廊下のところで、腕を組んで仁王立ちしている。

 ユキは仕方なくクーファルの前で止まった。

「クーファル兄さま、どうしてこんなに早く見つけるのですか?」

「リリ、上から見ていたんだ」

「クーファル兄様、気持ち良いですよ!」

「フォルセ、お前は兄なんだから一緒になって遊んでどうするんだ」

「だって、兄様」

「だっても何もない。降りなさい」

「はあーい」

 まあ、仕方ない。クーファルには敵わない。

 いつも結局クーファルには見つかっちゃうんだ。どうして分かるのかな? 今日だけじゃない、毎回なんだよ。城にいる誰かがクーファルに伝えたとしても、来るのが早すぎるだろう?

 その日はクーファルの説教が長くなって、2人で反省文まで書かされちゃった。

 ユキにまで「城の中を走るんじゃない」って説教していたもの。その間、ユキはずっとお座りだ。尻尾まで丸まっている。

 結局フォルセの絵のモデルの続きは、また別の日にする事になった。

「クーファル兄様は心配性だからね~。まるで母上みたいだと思わない? 皇后様にそっくりだよね~。アハハハ」

 そんな事をクーファルに聞かれたらまた説教だぞ。

 フォルセは懲りていないみたいだ。アハハハなんて笑っている。ここは俺がしっかりしなきゃいけないと思った。

 今度は俺が、ちゃんと計画を立てないとな。クーファルに見つからない様にさ。