小さな手。小さな足。小さな身体。この小さな手の中に沢山の未来があるんだ。俺達は守っていかないと。子供達が自由に選べる未来を作りたい。
なあ、初代皇帝。あんたはどんな思いでこの世界にいたんだ? この国を作ったんだ?
初代皇帝の思いは受け継がれている。良い国だと俺は思う。問題がない訳じゃないが。
あんたはこの国で生きていたんだな。俺も生きて行くよ。前世の家族を忘れる事はできないけど。

「……んん〜、リリしゃま」
「おきた? アウル、おはよう」
「エヘヘ、おはようごじゃましゅ」
「さあ、起きて朝食食べよう」
「あい」
アウルと一緒に手を繫いで食堂へ行く。この辺境伯領での最後の食事だ。アウルがいるせいか……母も一緒に来ているせいか……帰るのが寂しい。城より辺境伯領の方が俺は自由でいられる。当然だ。城では10歳の俺にも皇子としての責任が付きまとう。皇子としての立場を思い知らされる。仕方ない事だ。分かっている。だからこそ、この地が好きだ。
「リリ、おはよう。アウルもおはよう」
「母さま、おはようございます」
「おはようごじゃましゅ」
「2人共、沢山食べなさいね」
「はい、母さま」
「あい」
アウルが俺の隣に座る。もう俺の隣が定位置だ。
「リリ、駄目よ。堪えなさい」
母が俺にだけ聞こえる様に声を抑えて言う。
「はい、母さま。分かってます」
俺も小さな声で答える。もう泣きそうなんだ。駄目だ、俺。小さいアウルが泣いてないのに俺が泣いたら駄目だ。今は食べる事に集中しよう。でも、シェフごめん。今朝は味が分からない。
「皇后様、殿下方」
アルコースが話し出す。
「大変申し訳ないのですが、また領民達が集まってきておりまして」
「そうか。母上、構いませんか?」
「フレイ、もちろんよ。有難い事だわ」
「では、辺境伯。食事の後に挨拶しよう」
「フレイ殿下。有難うございます」
来た時の様に邸の前庭に出る階段まで出る。また沢山の領民達が集まっていた。
──あ! 出てこられた!
──フレイ殿下! カッコいい!
──リリアス殿下! また来て下さい!
──皇后様!
──エイルさまー!
「リリ殿下! また来いよー!!」
もう、反則だろ。ニルズ、それはないよ。我慢してるのに……ニルズの声が聞こえた途端に、俺の涙腺は崩壊だ。我慢なんて全然できなかった。
「リリ! 行くぞ!」
「え? 兄さま!?」
「オクソール、リュカ、ユキ」
「はい、フレイ殿下」
フレイは俺をヒョイと抱き上げ、ニルズの声の方へ下りて行った。フレイの前の道を開ける様に、オクソールとユキが進む。リュカとフレイの側近デュークが後ろに続く。
「フレイ殿下! また無茶を!」
「ニルズ! お前が声をかけるからだろうが」
「おっちゃん! うぇ〜んッ!」
「あぁー! リリ殿下、泣くな! またいつでも来ればいいさ!」
なんて言いながら俺の頭をクシャッと撫でるニルズの眼にも涙が溜まっている。
「うん! おっちゃん! 絶対にまた来るよ! グシュ……」
「殿下、お待ちしてますね」
「テティ、元気でね。ニディにも宜しく」
「はい、有難うございます。あの子もお見送りしたがっていたのですが、漁があるので来られず残念がってました。どうか殿下もお元気で。あまり、無茶をなさらないで下さい」
「フレイ殿下、またいらして下さい!」
「ああ、ニルズ。有難う」
「オクソールさん、リュカ、ユキ、側近のにーちゃんもまた来いよ!」
「ああ、世話になった」
オクソールがニルズと握手する。
その時、俺たちを囲んでいた人集りがまた割れた。
「母さま!」
ビックリしたよ。侍女に先導されて母がにこやかにゆっくりと優雅にこっちに歩いてきていた。後ろにニルが付いていてくれる。
「ニルズとテティね。リリがお世話になったわ。有難う」
母が頭を下げた。側妃なのに、元侯爵令嬢なのに自分が必要だと判断した時は迷わず頭を下げる。俺はこんな母が好きだ。
「エイル様! 勿体ないです!」
「息子が、お世話になったのだから当たり前よ。リリを可愛がってくれて有難う。本当に感謝しているわ。また、リリが来たら宜しくお願いね」
「はい! もちろんです!」
もう、さすが俺の母だ。肝が座ってる。怖いもんなしだ。
フレイが周りの領民達を360度ゆっくりと見渡す。そして、片手を高く上げ声を張った。
「皆、世話になった! 有難う! この地は素晴らしい! 豊かな食料に、豊かな資源。魔物はいるが、領主隊のお陰で安全に生活できる! この地は帝国の要だ! どうか皆、元気でいてくれ! 日々の生活を大切にしてくれ! これからも、ちょくちょくリリアスが来ると思う! また宜しく頼む! 有難う!」
──フレイ殿下!
──有難うございます!
ああ、まさしくフレイは次期皇帝だ。
「さあ、リリも一言」
「兄さま……グシュ、無理ですぅ……」
俺は泣き顔を隠したくて抱き上げてくれているフレイの首にしがみ付く。
「リリ、堪えなさい。ほら、皆が待ってるわ」
「母さま……グシュ」
くそ、俺はまだまだだ。しっかりしろよ!
「フゥ……」
俺は一度大きく息を吐いた。よしッ!
「みんなー! 有難う! また来るからねー! 一緒に遊ぼうねー! 有難うー!」
俺は思いっきり笑顔で片手を上げて大きく振った。
──リリ殿下!
──リリ殿下!!
──うぉーー!!
「リリ、あなたまた一緒に遊ぼうなんて……もう子供に言うのではないのだから」
母よ、此処でダメ出しは止めてくれ。
「エヘヘへ」
「さあ、戻ろう」
「はい、兄さま。ニルズ、テティ、またね!」
「ああ! またな!」
「はい! リリアス殿下!」
ニルズ、テティ、俺の大事な人達。また来るからさ。そん時は宜しく頼むよ。
一緒に遊ぼうぜ!!

辺境伯邸の地下の転移門だ。
もう既に、近衛師団と騎士団、アース達は送った。あとは俺たちが転移するだけだ。
「リリしゃま……」
「リリでんか」
アウルースとアンシャーリが、俺の前でポロポロと大粒の涙を流している。くしゃくしゃの泣き顔だ。俺はしゃがんで2人を両手で抱き寄せる。
「ああアウル、アーシャ、泣かないで。また来るから。2人共、約束だ。ボクはまた絶対に来るからね。それまでアーシャもアウルも沢山食べて、しっかりお昼寝して、いっぱい笑っていてね」
「リリしゃま、あい。うぇ~ッ……」
「リリでんか、はい! うぅ……」
「まあ、泣き方までアウルはリリにそっくりなのね」
母よ、雰囲気読もう。て、ワザとだろう? 俺が泣き出さない様に気を逸らしてくれているんだ。
「フィオン、身体に気をつけるのよ。会えて良かったわ」
皇后様もフィオンの手を握って名残惜しそうだ。
「お母様、有難うございます。お母様もお身体に気をつけて下さい。また、いらして下さい」
「ええ有難う。アウル、アーシャ、おばあさまにもお顔を見せてちょうだい」
皇后様が、アウルースとアンシャーリに目線を合わせて話しかける。
「あい、おばーしゃま」
「おばあさま、またいらしてください……ヒック」
「有難う。まあまあ、そんなに泣いたら可愛いお顔が台無しよ? さあ、笑顔で送ってちょうだい」
皇后様が両手でアウルースとアンシャーリを抱き寄せた。
そうさ、二度と会えない訳じゃない。笑顔でさよならだ。また、来るよ。絶対にな!
「アウル、アーシャ、またね! 元気でね!」
「リリしゃまッ!! リリしゃまッ!」
ああ、抱きついてきちゃったよ。泣かせたくないんだ。俺はアウルースを抱きしめる。背中をトントンとしながら、優しく抱きしめた。これが最後じゃないんだよ、アウルース。
「アウル、リリ殿下を困らせるんじゃない。またお会いできる」
アルコースがアウルースを抱き上げて宥めてくれる。
「リリ」
「はい、兄さま」
「辺境伯、世話になった!」
「フレイ殿下、また是非お越し下さい」
「ああ、有難う! アルコース、フィオンを頼む」
「はい、フレイ殿下」
俺は転移門に魔力を流した。
「アウル! アーシャ! またねー!」
俺は手を思い切り振る。俺たちが白い光に包まれる。
「リリしゃまッ! リリしゃまッ!! リリしゃ……」
アウルースの声が途中で聞こえなくなり、光が消えるとそこは城の転移門だった。
父とクーファルが出迎えてくれている。
「リリ、泣いてしまったか」
「クーファル兄さま……ヒック」
「リリ、よく我慢したわ」
母が俺を抱きしめてくれる。
「……ゔぅ……ゔぇ……」
「大丈夫よ。あれに気付いたら、きっとアウルも泣き止むわ」
「はい、母さま。グシュ」
まだ耳にアウルースの声が残っている。きっと向こうで泣いているんだろうな。
絶対に直ぐに会いに行くぞ! 約束したからな! 贈り物の感想も聞きたいしさ。
俺は内緒で贈り物を残してきた。ビックリして泣き止んでくれると嬉しいよ、アウル。