近付ける事自体がとんでもない身体能力なのだけど、ちびっ子を背負いながらそれを軽々とやってのける2人。

「アウル様! 今です!」

「あいッ!」

 ぴょーんとアウルースが投げた玉が、見事に籠の中に入った。

「やったーッ!」

「アハハハ! アウル、上手だよ!」

「あい! リリしゃま!」

「えいッ!」

 アンシャーリも上手に入れている。いくら直ぐ側に近寄られたからと言って、こんなちびっ子に入れられてしまうってどうなんだ?

「リリ! 吞気に見ているんじゃないぞ! 逃げろ!」

 フレイに言われちゃった。だってアウルースとアンシャーリが、あまりにも可愛いのだもの。

 運動会の父兄の心境だよ。カメラがあったら絶対に連写だ。いや、ビデオカメラ持参だ。

 もう一つの籠を背負っているシェフは相変わらずだ。ハイッ! ホイッ! と、掛け声を掛けながらヒョイヒョイと軽く玉を避けている。まるで後ろが見えているみたいだ。

 さすが、シェフだ。あれじゃあ、入れようがない。

 と、いうユキさんもだ。ヒラリヒラリと躱すものだから、俺が何もしなくても玉が届きもしない。あれれ? これって俺は必要なのか?

 ──ピピーー!!

 終了の合図だ。

「アウル、アーシャ、頑張ったね!」

「あいッ!」

「リリでんか、たのしかったです!」

 それは良かった。さて、もう一つお仕事をしようか。

「アウル! アーシャ! おいで!」

 俺は2人を呼ぶ。アスラールとアルコースはもう分かっていた。

 2人で籠を持って待っていてくれる。

「リリアス殿下、数えますか? 覚えてますか?」

 もちろんだ! 覚えてるさ!

 ──リリアス殿下!

 ──あー! アウルース様! アンシャーリ様!

 ──お上手でしたよー!

 見学の領民達から声が掛かる。

「殿下、殿下! これに乗って下さい! 殿下、小さいから!」

 リュカが台を持って走ってきて、また余計な事を言った。ニヤニヤしている。

 アハハハ! 絶対にわざとだよな? リュカも覚えているんだ!

 アスラールとアルコースとリュカが籠を持ってスタンバッている。

「アーシャ、おいで! 一緒に玉を投げよう!」

「はい! おとうさま!」

 アンシャーリが籠を持っているアスラールの横に行ってスタンバイする。

 俺はピョンと台に乗った。アウルも台に乗せて手を繫ぐ。

「いい? 数を数えるんだよ? できるかな?」

「あー、ありぇ?」

「アウル、分からなかったらボクの真似して。一緒に此処にいれば良いよ」

「あい!」

「いきまーす! いーち!」

「ち!」

「にー!」

「にー!」

「さーん!」

「しゃーん!」

 俺が数えるのに合わせて、玉が上に投げられる。アウルースも一緒に数える。ま、アウルは分かってないけど。合いの手みたいなのがアウルだ。アンシャーリが上手に玉をポーンと上に投げている。

「……さんじゅう!」

「じゅー!」

「さんじゅういち!」

「いちー!」

 ここで、領主隊の玉が無くなった。

「さんじゅうさーん!」

「しゃーん!」

 近衛師団の玉が無くなった。

「さんじゅうよーん!」

「よーん!」

「さんじゅうごー!」

「ごー!」

「さんじゅうろーく!」

「りょーく!」

「さんじゅうなーな!」

「ななー!」

 ここで騎士団の玉も無くなった。

373331で、騎士団の勝ちー!!

「かちー!!

 俺とアウルが大きな声で告げる!

「騎士団の勝利! よって、今回の対戦は騎士団の勝利!!

 ──おおぉーー!!!!

 ──くそー! まただ!

 ──マジかよー!

 アハハハ、みんな悔しいんだな! フレイが皆の前に出てきた。

「皆、よく頑張った! 騎士団、よくやった! 連勝記録更新だ! 近衛師団、初めてなのによく奮闘した! 領主隊、まだまだやれるぞ! 頑張れ! 鍛練あるのみだ! 皆、隊は違えど帝国の守りの要である事には変わりない! 皆の双肩に掛かっている! 帝国を頼んだぞ!!

 ──ははッ!!

 全ての隊員がフレイに向かって手を胸の前にやり最敬礼した。フレイさん、流石だ。カッコいいよ! 綺麗にまとめたな! 紛れもない皇帝の資質、てやつだな。そう言えば、忘れてたけど近衛師団はこんな対戦しないんだな。初めてだったのか。それにしてはよく頑張った。

 ──おおぉーー!!

 もう、雄叫びだね。圧倒されるよ。

「リリしゃまッ! えいッて!」

「うん、上手だったね」

「たのしかったですッ!」

「アーシャも入れてたね」

 これは2人共良い思い出になったんじゃないか?

「ふふふふ、リリはまだまだね。ユキに乗っていただけじゃない」

「母さま、だってボクはする事がないですよ」

「リリ、我は何もしていないぞ?」

「ユキ、あれで良かったんだよ。勝ったんだ」

「そうか、それならば良い」

 ユキさんったら、クールなんだから。首筋をワシャワシャと撫でる。

「ユキ、カッコよかったよ」

「そうか?」

 なんて、いいながら尻尾が大きく左右に揺れている。

「さあ! お昼だ! バーベキューだよ! みんなー! いっぱい食べてねー!」

「てねー!」

 ──おー!

 ──リリ殿下ー!

 アウルはしっかり合いの手忘れないね。

「さあ! 皆さん沢山食べて下さい! たっぷり用意してますよッ!」

 シェフは、早着替えだ。もうエプロンをつけている。前もそうだった。

 前庭にバーベキューが用意される。肉も魚介類も焼かれ、オニギリ、グラタンやシチューもドドンッと出されて並べられる。観戦していた領民達も、ワァッと食べ始める。

「リリしゃま! おにく! おににり!」

「アウル、アーシャ、貰いに行こう!」

「あい!」

「はい! リリでんか!」

 皆で簡易に設置されたテーブルセットに向かう。

「リリ殿下! 有難うございます!」

 アスラールがやってきた。アルコースもいる。アウルースをアルコースに預ける。アンシャーリもだ。小さいから、抱っこしてもらわないと危ない。

「楽しかったですね」

「2人も楽しそうでしたね」

「とうしゃま! ぼく、リリしゃまとたべりゅ。おりょしてくらしゃい!」

「アウル、人が多いから危ない。座るまで父様が連れて行くから、それからリリ殿下と一緒に食べなさい」

「あい! リリしゃまのとなり!」

「アウル! あたしもリリでんかのおとなりよ!」

「えー! アーシャはアーシュれしゅ!」

 おやアウル、よく見てるね。

「リリでんかと、アースさまのおとなり!」

 お、おお。やっぱ女子はたくましい。座ると、シェフやニル達が色々盛って持ってきてくれた。

「殿下、りんごジュースです」

「ニル、有難う。ユキにもね」

「ああ。すまぬ」

「ユキ、有難う。沢山食べて」

「リリ、我は肉がいいぞ」

「はいはい、ユキどうぞ。ユキ用にブロック肉を焼いておきました」

「シェフ、すまぬ」

「いえ、とんでもないですよ。まだありますからね」

 ユキ、どんだけ食べるんだ。その肉の塊、1キロはあるよな? もっとか? よく分からん。

「リリ!」

 フレイとデュークがやってきた。フレイさん、得意気だよ。

「フレイ兄さま! お疲れ様でした!」

「ハッハッハ! 大勝利だ!」

「はい! 見事でした!」

「だろぉ? 第1騎士団は俺が特訓してるからな!」

「フレイ殿下、お見事でしたわ」

「エイル様、有難うございます」

「兄さま、デュークも座って! 食べましょう!」

 よく考えると、こんなに身分差別のある世界で、皇族と貴族と平民が同じ場所で同じ物を食べるのはきっと他の国ではありえない事なんだろう。王国に行ってからそれがよく分かるよ。

 王国で城を襲撃された後、父の部屋に集まって皆で普通に食事をした時に、王国の王子2人が驚いていた。俺達には当たり前の事だった。皇帝である父も母もクーファルも、一緒に行った者達にも当たり前の事だった。オクソールとリュカなんて、さっさと床に座って、ユキと一緒に食べてた。

 でもそれを見て、王国の第2王子は泣いたんだ。羨ましいと。別世界だと。自分も中に入りたかったと。俺はそれを知ってから余計に、こうして食べられる国で良かったと思うよ。

 同じ日本人だった初代皇帝さん。あんたの功績だ。有難う。感謝するよ。


「リリしゃま、ぼくわしゅれないれしゅ」

「アウル、どうしたの?」

 夕食も食べて、アウルと一緒にベッドに入っている。もう明日帰るとなると、アウルと離れ難い。

「ぼく、おはなしゃかしぇたおうじしゃましゅきれした。リリしゃま、あってもっともっとしゅきになりました!」

「そう、有難う。ボクもアウルが好きだよ」

「ほんとれしゅか? ぼくなにもないれしゅ」

「アウルはまだ小さい。でもアウルはとってもお利口さんだよ」

「うれしいれしゅ。リリしゃま、ピカピカのポカポカれしゅ」

「アハハ、有難う」

「リリしゃま、いなくなりしょうれ……ちょっとこわいれしゅ」

 アウルがモゾモゾと丸くなりくっついてきた。いつもの寝る体勢だ。

 アウルはまだ幼児体温だ。それにもう眠いのだろう、体が温かい。

「ボクがいなくなるの?」

「あい……」

「いなくならないよ。また絶対にアウルに会いにくるからね」

「あい……やくしょく……」

 寝たか……小さいアウルの目にはこの世界はどう見えているんだろう。