
「アウル、おはよう」
「リリしゃま。おはようごじゃましゅ」
こうしてまた1日が始まった。最後の1日だ。
「アウル、今日も沢山一緒に遊ぼう」
「あい! リリしゃま!」
その日は朝から大騒ぎだった。朝食を食べて邸の前庭に出るともう皆が集まっていた。領主隊、騎士団、近衛師団だけじゃなく、領民まで集まっている。
「殿下! おはようございます!」
リュカがいち早く俺を見つけて走ってくる。
「リュカ、早いね。もう始めるの?」
「もうすぐですよ。殿下方はあちらのテントにいらして下さい」
「うん、分かった」
リュカが指差した所に以前もあった、よく運動会で見る様な大型のテントが設置してある。
「リリでんか?」
「リリしゃま?」
アウルースとアンシャーリが両側から俺の手を握っている。あれ、いつもより人が多いから少し怖いのかな?
「アーシャ、アウル、大丈夫だよ。みんな見に来ているんだ」
「リリ殿下、凄い人ですが。どんな事をするのですか?」
「あれ? ラルク聞いてない? もしかしてみんなも?」
アウルースとアンシャーリが頷く。アースとレイまで。何でだよ。今までそれっぽい事を言ってなかったか? ま、先にテントまで行こうか。
リュカが先導してくれる。とりあえず、テントの下に座って落ち着こう。
「騎士団が遠征した時に、騎士団VS領主隊の3種競技大会をするんだ。初代皇帝がやり始めたらしくて名物になってるんだよ」
俺はラルク達に説明した。
まず一つ目が、綱引き。普通に綱引きだ。ただし、前世で使っていた縄より太い。
二つ目は紙風船割り。フワフワした剣の様な物で、相手の両手首につけた紙風船を割る。
三つ目が玉入れ。騎士団と領主隊から、各2名が玉を入れる籠を背負って逃げる。
それを玉を2個ずつ持った、残りの隊員達が追いかけながら玉を相手の籠に入れる。要するに追いかけっこしながら、玉を入れる。
「スゲー! 俺もやりたい!」
アースはそう言うと思ったよ。将来、騎士団に入ってからやりな。今はヘッポコだからな。
「ねえ、リュカ。近衛師団は人数少ないでしょ? どうするの?」
「そうなんですよ」
オクソールとリュカ、シェフは騎士団から外せないらしい。だって勝ちにいってるから。
そして第1騎士団はフレイだ。当然、フレイと側近のデュークも参加だ。これで騎士団チームは35名。近衛師団団長ティーガル・オークランスも参加だ。近衛師団は団長が参加しても11人しかいない。そこで、騎士団でくじ引きをしたそうだ。騎士団から12名の隊員が近衛師団チームに入る。
その数に合わせて領主隊も選抜済みらしい。きっと昨日からやっていたんだ。
皆其々の隊の鍛練着を着ている。騎士団から近衛師団チームに入る者は分からなくなってしまう。
そこで、近衛師団チームは皆お揃いのビブスを着る。よくスポーツで間違えない様にユニフォームの上から着るベストのような形のウェアだ。騎士団から近衛師団チームに入る時はこのビブスを着る。本当によく準備したよ。昨日も港から帰ってきてちょっと驚いたからね。
もう既に邸の前庭に区割りがしてあったからさ。
「まあ、凄く盛大にするのね」
母が優雅にやってきたよ。ユキもニルも一緒にいる。
もしかして、母は此処で観戦するつもりなのか? と、ニルを見ると諦めた顔で首を振る。
ああ、一応説得はしてくれたんだな。母は言い出したら聞かないからなぁ。
「母さま、まさか此処で見るのですか?」
「あら、リリ勿論よ。近くで見ないと意味がないわ」
そう言いながら、さっさと俺の横に座っているアウルを挟んで座る。
「アウルもアーシャも可愛いわね。お膝に乗せたい位だわ」
そう言ってアウルの頭を撫でている。いや、母よ。今はそんな話じゃないんだ。後ろにいる母の侍女を見ると、ニルと同じ顔をしている。皇后様とフィオンはどうしてるんだ?
「殿下、彼方に」
ニルが示す邸の方を見ると、窓から皆見ている。そうだよな、何で母だけ此処なんだよ。
「リリ、諦めろ。皆説得したが無駄だった」
ユキさん、そうなの?
「ユキ悪いけど、もしボールが飛んできたりしたらお願い。母さまの前に伏せていてくれる?」
「ああ、分かった」
そう言ってユキが母の足元に寝そべる。
「まあ、ユキ。有難う」
本当に、母よ。お転婆はもう卒業しようぜ。
──見ろよ! あれ、エイル様じゃないか?
──本当だ! リリ殿下と一緒に観戦されるんだ。
──お2人並ばれると良く似ていらっしゃる!
あらら、なんか良い感触じゃないか? 母って人気あるんだね。知らなかったよ。
母が他所行きの笑顔で軽く手を振っている。こうしてたら、侯爵令嬢なんだけどね。
「殿下、エイル様はリリ殿下の母君ですから」
「え? レイ。どう言う事?」
「帝国中が待ち望んだ、光属性の皇子殿下をお産みになられた母君、て事です」
そうなのか!? ちょっと待てよ。俺ってそんな感じなの!?
「殿下、何驚いているんですか? 殿下はご自覚がないみたいですけど」
ラルクまで! そうなんだ!? だって俺はそんな扱いされてないよ。
やれ辺境伯領に行けー、やれ鉱山に行けー、王国に行くぞー、て行かされてるよ?
その上、あれ作れー、これも作れー、てさ。まるで町の便利屋さんだよ?
「リリしゃま、リリしゃま。じーしゃまれしゅ!」
アラウィンが、前に出てきてこの場にいる皆に始まりを宣言する。後ろにアスラールがいる。次期様だ。アラウィンの始まりの挨拶が終わると縄が出された。さて、領主隊は今回勝てるかな?
「殿下、今までの成績はどうなんですか?」
「レイ、びっくりするよ? なんと、騎士団は負け知らずなんだよ」
「スゲー! 兄貴スゲーんだな!」
アース、正確にはお兄さんが所属している騎士団が凄いんだよ。言わないけどな。
「当然だわ。騎士団は帝国中の兵達の頂点ですからね」
「でも、母さま。今回は近衛師団がいますよ」
「あら、リリ。近衛師団って騎士団ほど腕っ節は強くないわよ?」
そうなのか!? 母が言うには、騎士団は入隊試験をパスすれば平民でも入隊可能だ。
しかし、その入隊試験にパスする事がとんでもない難関らしい。
近衛師団は皇帝と皇后の護衛を任務としている。だから、貴族のご子息しか入隊できない。もちろん、入隊試験はあるので簡単に入隊できるものではないし、身辺調査もきっちりされる。そして全員がアカデミー卒だ。だが、腕っ節が最優先の騎士団に比べると、お上品なんだそうだ。
「母さま、でも近衛師団にも獣人の隊員がいますよ」
「そうよ、それよ。どれだけその2人の力が影響するかだと思うわ」
あら、母は結構詳しいんだね。
「僕はオクソール様とリュカさんしか知りませんでした」
「レイ様、騎士団にも近衛師団にも何人かおられますよ」
「そうなの? ラルク詳しいね」
「殿下をお守りする為の情報は全て覚えています。もちろん、ニル様もです」
「え、ニルも?」
俺は後ろに控えているニルを見る。当然じゃないか? て、顔してるよ。
ニル、久しぶりに出たね。天然がさ。
「母さま、ニルは昔からあんな感じですか?」
ニルが、エッ!? て、顔してるよ。
「そうなのよ、リリ。あの子、急に天然になったりするでしょう? あれは治らないわね」
あー、母も思っていたんだな。やっぱりな。
さあ、綱引きが始まるぞ。スターター兼審判はアスラールだ。
長い太い縄が用意されていて、縄の真ん中に旗がつけられている。
まず1回目の対戦だ。騎士団23名、領主隊23名が縄を挟んで向かい合わせに定位置へつく。
オクソールとリュカが最後尾だ。今回は人数の関係で、騎士団23名VS領主隊23名。近衛師団と騎士団の混合チーム23名VS領主隊23名で対戦する。
「Ready……」
アスラールが旗を上げた。隊員達が真剣な顔で縄を摑む。見物人までシーンとしている。
「go!!」
アスラールが勢いよく旗を振り下ろし、直ぐに離れる。
「「「「せーーのッ! せーのッ! せーのッ!」」」」
騎士団も領主隊も同時に縄を引き出した。が、最初は耐えていただけだったオクソールとリュカが縄を引き出すと、真ん中につけられた旗があっけなく騎士団の方へ倒れた。
「ピピー!!」
アスラールの笛が鳴り響く。
「騎士団の勝利!!」
やっぱ、オクソールとリュカは強いよ。反則ものだよ。
「え!? 殿下、もう終わり!?」
「うん、アース。騎士団の方が全然強かったね」
オクソールと、リュカがいると毎回こんなだけど。縄が整えられて、隊員達が入れ替わる。今度は近衛師団と騎士団の混合チーム23名VS領主隊23名だ。
「母さま、どっちが勝つと思いますか?」
「領主隊ね。楽勝だと思うわ」
えッ!? そうなのか!? そんな感じなのか!?
「力だと領主隊だわ」
なるほど〜。
「リリしゃま、オキュとリュカはおしまいれしゅか?」
「アウル、オクとリュカは勝ったからもう1回あるよ」
「かった!」
「アウル、そうだよ」
「リリでんか、りょうしゅたいは、よわいのですか?」
「アーシャ、そうじゃない。オクとリュカが強いんだよ」
「スゴイです!」
「Ready……」
アスラールが旗を上げた。
「go!!」
アスラールが勢いよく旗を振り下ろし、直ぐに離れる。
「「「「せーーのッ! せーのッ! せーのッ!」」」」
混合チームも領主隊も同時に縄を引き出した。あれッ!? あれれッ!?
「ピピー!!」
アスラールの笛が鳴り響く。
「領主隊の勝利!!」
うわ、本当だ。あっけない。
「ね、リリ。母様の予想通りでしょう?」
「はい、母さま。驚きました」
そうさ、近衛師団が全然駄目だった。縄の中央寄りに近衛師団、次に騎士団。そして最後尾に近衛師団団長と騎士団団長が縄を持っていた。
両方が引き始めた途端に、中央寄りの近衛師団隊員がズルズルと引っ張られてしまった。
必死で後半の騎士団と団長2人が耐えたものの、敢え無く惨敗て訳だ。
「近衛師団はね、公の行事等で護衛する事も多いでしょう? もちろん剣の腕は確かだし強いんだけど、腕っ節となるとね。近衛師団はそれよりも見掛けなのよ」
なるほど。スマートな隊員が多いとは思ったんだ。
さあ、決勝戦だ。騎士団と領主隊が出てきた。オクソールとリュカがいる。負けらんないぜ。
アスラールが合図をする。
「Ready……go!!」
「「「「せーーのッ! せーのッ! せーのッ!」」」」
領主隊が力一杯縄を引いている。あれ? オクソールとリュカが余裕じゃないか。
2人は最後尾で縄を持っていた。そう、『持って』いたんだ。引っ張る訳ではなく、耐えている様子もない。2人の前にいるフレイやシェフ、隊員達も必死さがない。平気な顔をしている。領主隊は力一杯引いてるんだよ? そして、2人が引っ張り出すと瞬く間に決着がついた。
当然、騎士団が勝ったよ。楽勝だった。これは、2人だけじゃなくて騎士団が皆強いんだな。
「騎士団の勝利!!」
「駄目ね。力の差がありすぎるわね」
母は厳しい。
「きしだんすごい! りょうしゅたい、だめじゃない!」
アハハハ、アンシャーリは厳しいなぁ。
「リリしゃま! リュカかった?」
「アウル、リュカが勝ったよ。凄いね」
「リュカー! しゅごいー!」
アハハハ! アウルがすっかりリュカに懐いている。
「リリー!! 見たかー!!」
はいはい、フレイさん。見てましたよ。俺は、フレイに手を振る。
次は紙風船割りだ。
領主隊は、両手首に赤色の紙風船をつけ、赤の棒。
騎士団は、両手首に青色の紙風船をつけ、青の棒。
近衛師団騎士団混合チームは、両手首に黄色の紙風船をつけ、黄色の棒。黄色のビブスもつけている。ちなみにこの色分け、各隊のトップの瞳の色で決めているらしい。何故かこの世界は髪や瞳の色をよく使う。
近衛師団団長ティーガルは黄褐色の瞳だから黄色。領主隊は何故か赤。騎士団はフレイがスカイブルーの瞳だから青。クーファルだと碧。テュールだと紺青色の瞳で青。
俺は全く気にしないが、俺の洋服や持ち物にも瞳の色の翡翠色や、髪の色のグリーンブロンドがよく使われている。なんでも良いじゃんと俺は思ってしまう。元は真っ黒な髪と瞳の日本人だから。
さて、次は前庭に描かれている、テニスコート位の大きさの長方形に其々のチームに分かれてうつ伏せの状態からスタートだ。
「リリしゃま、なにしゅるれしゅか?」
俺達はまたテントに戻り観戦だ。アウルとアーシャが不思議そうに見ている。
「隊員の手首に紙風船つけてるでしょ? あれをね、棒で叩いて割るんだよ」
「いたくないのですか?」
「アーシャ、あの棒は痛くない様に作ってあるんだ。叩いた時の音が違うよ」
「へぇ〜、面白そう」
「アースも騎士団に入ったら対戦するんだろうね」
「リリ殿下! 俺負けないぜ!」
アース、先に騎士団に入らないとな。ワハハハ!
審判のアスラールが前に出る。
「分かっているな、顔や頭を殴るのは反則だからな!」
──おうっ!!
「Ready……」
アスラールが旗を上げた。騎士団も領主隊も近衛師団も、全員うつ伏せだ。
「go!!」
アスラールが勢いよく旗を振り下ろした。
同時に、うつ伏せだった隊員達が一斉にガバッと起きて走り出した。
──パフン! パフン! パフパフーン!
これは、隊員達が棒で手首に着けている紙風船を狙って叩いている音だ。
「アハハハ。この音、気が抜けちゃう」
「いや、リリ殿下。めちゃくちゃはえーよ!」
アースが隊員達の動きを見て感心している。
「殿下、これは全員の紙風船が破られたら終わりですか?」
「レイ違うよ。10分間、破られずに何人残っているかなんだ」
「本当にリリのシェフは凄いわね。あの身のこなし、シェフなのに。信じられないわ」
「母さま、シェフはオク相手に毎日鍛練していますからね」
「そうだったわ。リリのあの事件から、また本格的に鍛練を始めたのだったわね。心強いわ」
シェフの手元が目で追えない位速い。これでみんなブースト無しだもんな。
シェフなんてブースト無しであの高さのバック宙だ。隊員達の頭の上で回転している。隊員達の身体能力はどうなってんだ?
「殿下の事件とは、湖のですか?」
「ラルク、そうだよ。あれからボクに付いてくれている人達は皆、何かしら鍛練してるんだ。レピオスもね」
「凄い……負けてられません」
ラルク、頑張れ。期待してるよ。でもまずは自分の身を守ってほしい。
それにしても、リュカは本当に転けなくなった。前はこの競技でも転けてたのに、ピョンピョン飛び跳ねる様に素早く躱している。
──ピピーー!!
アスラールが終了の笛を吹いた。
「手首の紙風船が残っている者だけ立って、後はしゃがんでくれ!」
あらら。領主隊、どーした? 1人しか残ってないぞ? しかも片手の紙風船しか残っていない。
近衛師団は団長と例のキンイロジャッカルの獣人の隊員が残っていた。やっぱ獣人は身体能力が違うよな。アースの兄は残念ながら、破られてしゃがんでいた。
騎士団は、もちろんオクソール、リュカ、シェフ、フレイが両手共残っていて、デュークと隊長が片手のみ残っている。フレイ、凄いじゃないか! あれで皇子だよ? てか、皇太子だよ。
「アハハハ! 領主隊はまだまだだな!」
フレイが上機嫌だ。
最後は玉入れだ。追いかけながらの玉入れだ。これは力は関係ないから良い勝負をしてほしい。近衛師団、頑張って欲しい。
騎士団と領主隊、近衛師団チームから2名ずつ、籠を背負った隊員達が出てきた。
あ、シェフだ! 今回もシェフが籠を背負っていた。
「シェフー! 頑張ってーー!」
俺は大声で、応援する! シェフが手を上げて応えてくれた。
「あ! あれ兄貴だ!」
アースのお兄さんが黄色のビブスをつけて籠を背負っていた。近衛師団チームに入ったんだな。
是非とも頑張ってほしい。綱引きでは近衛師団チームはダメダメだったからな。
1人2個ずつ、ふわふわの玉を持った隊員達が21名ずつ出てきた。今回は3チームなので、とにかく自分の属する隊以外の籠に入れる。最後に数える時に、分別する事にしたらしい。
領主隊が赤、騎士団が青色、近衛師団が黄色だ。
「リリしゃまッ! ぼくもしたいれしゅッ!」
「あたしも!」
「ええー!」
2人共立ち上がって、キラキラした目で見つめてくる。そんな事を言われても、流石に無理だよ。
あんなにガタイの良い隊員達の中に、アウルースやアンシャーリみたいなちびっ子が入ったら、怪我をするに決まってるじゃないか。
「ふふふ、あら、それは良い考えね」
おいおい、母。何言ってるんだよ。
「リリも参戦してきなさいな」
「母さま、何を言っているんですか!?」
「あら、リリ達が入ったって騎士団は余裕だと思うわよ」
母がそう言って立ち上がり片手を上げた。それに気付いたアスラールが走ってやってきた。
いやいや、待って。そんな問題じゃないんだ。危ないんだよ。
「エイル様、どうされました!?」
「最終決戦は、リリとアウルとアーシャが参戦するわ」
「ええッ!?」
「あら、それくらい騎士団は平気よ?」
「母さま、いくらなんでも……」
「そんな事くらいで負ける騎士団ではないと私は思っているのだけど、フレイ殿下如何かしら?」
「当然ですよ、それしき騎士団のハンデにもなりません!」
「兄さま!」
いつの間にか、フレイが側に立っていた。手でオクソールと騎士団長を呼ぶ。
ああもう、だから母がいると大変なんだ。こんな時はいつも何故だか変な方向に張り切るんだ。
フレイや騎士団長やオクソールが協議した結果、アウルースはオクソールに、アンシャーリは騎士団長に背負われての参加になった。俺は何故かユキさんに乗っての参加だ。
アウルースとアンシャーリは玉を入れる。俺は籠を背負って逃げる。
どうして俺だけ逃げる方なんだよ。とっても理不尽だ。
「何言ってんだ。ユキに乗るんだぞ。楽勝じゃないか」
フレイは他人事だと思って。いや、でも楽勝か。だってユキさんだもの。
「よしッ! アウル! アーシャ! やるよ!」
「やっちゃーッ!」
「はいッ!」
アンシャーリは女の子なのに、領主隊に憧れるだけの事はある。物怖じしないで、やる気満々だ。
「騎士団にとってはハンデにもならないけどな! ワハハハ!」
吞気にフレイが笑っている。ハンデになんてならないさ。逃げ切ってやるぞ。
「ユキ、いい?」
「リリ、我は何をすれば良いのだ?」
「ボクが籠を背負ってユキに乗るから、そこに玉を入れられないように逃げるんだ」
「なんだ、そんな事で良いのか?」
「うん、ユキ。勝つよ!」
「任せろ」
ふふふ、ユキさんって頼もしい。ちょっと面白くなってきた。アウルースがオクソールに背負われ、手に玉を持っている。アンシャーリも騎士団長に背負われている。
「アウル、アーシャ、籠に入れるんだよ。分かった?」
「あいッ!」
「はい! リリさま!」
さあ、最終決戦だ。
「フレイ殿下、リリアス殿下、良いのですか?」
アスラールとアルコースが不安そうな表情をしている。そりゃそうだろう。
「大丈夫だ。怪我はさせない」
「フレイ殿下、騎士団の足を引っ張るんじゃ」
「アハハハ、これしきどうって事ないさ」
はいはい、フレイは言うだけだもんな。もうフレイもやる気で、両手に玉を持っている。
俺は籠を背負ってユキに乗ってスタンバイだ。
──見ろよ、リリアス殿下が参戦されるみたいだぞ。
──アウルース様とアンシャーリ様もだ!
──おいおい! リリ殿下! 頑張れよー!
おっちゃんだ。見に来ると言っていたもんな。
見に来ている領民達も、俺達の飛び入り参加を興味津々で見ている。これは負けられないぞ。
「準備は良いか!」
審判のアスラールが声を上げ確認する。
「あいッ!」
アハハハ、アウルースは良いお返事だ。片手も上げている。
「エイル様、危険ではないですか?」
「あら、ラルク。平気よ」
「これは何分入れられるのですか?」
「確か3分だったと思うわ。昔は5分だったらしいのだけど、5分だと騎士団は全部入れてしまうらしいわ。それで何年か前から3分にしたそうよ」
「騎士団スゲー! 俺絶対入る!」
アースのそんな声が聞こえてきた。アース、頑張れ。
審判のアスラールが前に出てきた。片手に旗を持っている。
アルコースがアスラールの後ろで不安そうに見ている。その目線の先にいるアウルースは、そんな事に全然気づいていない。背負われているオクソールの首元に抱き着いて、ワクワクしているのだろう。身体を揺らしながら楽しそうな顔をして待っている。
玉を入れる者は地面に片膝をついてのスタートだ。オクソールと騎士団長も、背負いながらちゃんと片膝をついている。
「片膝をついているかー!?」
──おぉー!!
「Ready……」
アスラールが旗を上げた。隊員達が、じっと目当ての籠を見る。
「go!!」
アスラールが勢いよく旗を振り下ろし、直ぐに離れる。
籠を背負った隊員達が、逃げまくる。その籠を目掛けて、玉を投げる隊員達。
「ユキ!」
「ああ!」
ユキがヒラリと身軽に、投げ入れられる玉を躱していく。
オクソールと騎士団長が、アウルースとアンシャーリを背負いながら籠を持つ隊員を追いかける。
「キャハハハッ!」
「アウル! わらってないでなげるのよ!」
「あい! えいッ!」
ちびっ子2人は力一杯投げるのだけど、全然籠に届いていない。そりゃそうだよ、力が足らないんだ。それに気付いた、オクソールと騎士団長。なんと、敵の籠の直ぐ側まで近付いた。