
突然のテュールの登場にビックリしたが、俺は相変わらずオクソールに乗せてもらっている。
まだ全然1人で馬に乗れない。なんせ
邸を出発する時は、またアウルースに大泣きされるかと思ったが大丈夫だった。本人が必死で涙を堪えていてくれた。唇を嚙みしめて、プルプルしながらだ。健気に我慢しているんだよ。
「リリが行ったらすぐに寝るわよ。今朝はいつもより早くに起きたからもう眠いはずよ。気にしないで。それよりもリリ、気をつけてね。心配だわ」
と、アウルースを抱っこしながらフィオンが言っていた。母は動じないんだな。俺の母もだが。
「リリ、無事に戻ってきなさい。必ずよ」
「リリアス、待ってるわね」
俺の母と、皇后様に言われた。母は強し、だな。
「リリアス殿下、どうされました?」
「オク、出る時の事を思い出していたんだよ」
「アウル様ですか?」
「うん、アウルもだけど。姉さまと、母さまと皇后様だよ。母は強いなぁ、て思ってさ」
「リリアス殿下。時々お忘れになる様ですが、殿下はまだ10歳の子供ですから。もっと私共に甘えて頼って下さって良いんです。急いで大人になられる事はありません」
オクソール、そうだった。俺はまだ10歳だったよ。
「オク、有難う。本当だね、忘れていたよ。アハハハ」
領都の中をカッポカッポゆっくりと進む。まだ朝早いのに領民達が沿道に出てきてくれている。
──フレイ殿下ー!
──え!? あれはテュール殿下じゃない!?
──本当だ! いつ来られたんだ!?
──テュール殿下ー!
おお! テュールも超人気じゃん。
俺が3歳の頃、別邸で寝込んでいた時にヒョコッと可愛らしい顔を出してくれていたテュール。いつもフォルセと一緒だった。テュールは少しウェーブのあるブルー掛かった金髪を短髪にしていて、キリッとした涼しげな紺青色の瞳。身長も高くなった。兄弟の中で、1番大きいフレイと大差ない。大人になって、あの頃の可愛さは薄れていき代わりに精悍さが出てきた。
そっか、テュールももう21歳か。早いもんだ。
「殿下、お顔が父親みたいになってます」
「オク、なる訳ないじゃん! 後ろから見えないじゃん!」
「ハハハ! どうせテュール殿下の事を思っておられたのでしょう? 早いものだなぁ、みたいに」
「え、オク。何で分かんの?」
「殿下は分かりやすいですから。それに殿下をお守りしてもう8年です」
「そっか。8年か。早いね〜」
「はい。まだまだ無事に大きくなっていただきませんと」
「うん。ちゃんと大人になるよ。ボク長生きするんだ」
「おや、それは宜しいですね」
「でしょぉ? 沢山の甥っ子や姪っ子に囲まれて生活するんだ」
「殿下、ご自分の子供は?」
「あー、考えられないなぁ。多分ボクは婚姻しないよ」
「殿下……!」
「ああ、オク。内緒ね。まだハッキリとそう思っている訳じゃないから」
「はい、殿下」
ヘヘヘ、ちょっとバラしてしまったな。マジで俺はこの世界では婚姻しないと思うよ。
もちろんこの世界も嫌いじゃない。良くしたいと思ってるさ。
でも……何年経っても忘れられない。前世の家族を。まさかこんなに思うとは想像もしなかった。
寂しい気持ちはもう消化した。二度と会えない事もとっくに理解した。前世の家族を思って涙する事もない。だからなのかな? 余計に大切に思えてしまうんだ。
あの笑顔が忘れられないんだ。前世の妻と息子達が、俺の家族だよ。
だから、多分婚姻しないと思う。多分だよ。ほら、俺って意志が弱いから分かんないよ。コロッと誰かを好きになっちゃって婚姻しちゃうかも知れない。未来は誰にも分からないからね。
「殿下、そろそろ森です」
「うん」
アスラール達と近衛師団はここまでだ。
「お気をつけて!」
隊員達が皆、片手を胸に持っていき見送ってくれる。この世界での敬礼だ。
「ユキ、また森に来ちゃったね」
俺の横を行くユキに話す。
「リリ、そうだな」
そう、ユキを見つけたのもこの森だからな。
「ユキ、懐かしい?」
「いや、我はこの森に住んでいた訳ではない。逃げてきたのだからな」
お隣の国で、呪詛を込めた銃弾で狙われて河を渡ってきたんだった。
「しかし、この森に来なければリリには会えなかった。我は死んでいただろう」
「ユキ、人間を怨む?」
「いや、リリと一緒にいて人間も色々だと知った」
「そっか。ユキは偉いね」
「リリ、我は何年生きていると思っている?」
「え? 何年?」
「もう数えるのも面倒な位生きておる」
「ユキ、908歳だな」
「オク! 本当!?」
「はい、殿下」
オクソールが『精霊の眼』を使いこなしている! ユキさん、超長生きじゃないか。
「殿下、神獣に老いと言う概念はありません。不死身ではありませんが」
「オク、そうなんだ!? ユキって凄いね!」
「殿下、今更です」
「あらら……」
「殿下、もう森に入りますよ。少し速く進みます」
「うん、オク」
俺はしっかりと馬に摑まる。風が感じられる程度の速さで進む。森の中なので樹々が邪魔をしてそんなにスピードは出せない。どんどん森の奥へと入って行く。
先頭は領主隊だ。領主隊は全部で30名の選抜隊員がダンジョンに入る。その半分の15名が先頭にいる。
次に、騎士団30名の内15名が続く。その後が、俺たちだ。フレイ、その側近デューク、テュールとその側近ノア・エルスマン。オクソール、俺、ユキ、後ろにリュカとシェフ。それに、アルコースと側近のローグだ。
1番後ろに、騎士団と領主隊の15名ずつが続く。おっと、その騎士団達の後ろに俺たちがダンジョンに入っている間、結界を張ってその中で馬を守ってくれる領主隊の6名がいる。これ大切。馬をしっかり守ってもらわないとな。
テュールの側近、ノア・エルスマン。一緒に何かをするのは、俺は今日が初めてだ。
赤茶の癖っ毛を後ろで一つに纏めていて、茶色の瞳だ。しっかりテュールの横に付いている。
朝、挨拶をしてくれた。彼の弟がフォルセの側近だ。
側近に付くために、小さい頃から教育と鍛練を受けている例の然るべき指導を受けた家系だ。
テュールと側近のノア。なんだか嬉しそうなんだよ。もしかして魔物を討伐するのが嬉しいのか?
テュールは、良い機会だとか言ってたし。ダンジョンの攻略を良い機会なんて俺は思えない。討伐だとか戦闘だとかは嫌いだから理解できない。体育会系だぜ。俺は平和な元日本人だからな。
先頭が魔物を討伐し出した。俺も気を引き締めて行こう!
「魔物が増えてきましたね」
「ねえ、オク。ボクの印象なんだけど、以前森に来た時より多くない?」
「多いですよ。ダンジョンがありますから、近辺にいた魔物はダンジョンを避けて移動します」
「そうなんだ」
「殿下は鑑定を常時発動できますか?」
「うん。できるよ」
「では、そろそろそうして下さい」
「分かった。オクは? 精霊の眼があるでしょ?」
「私は常時は無理です。魔力はルー様のをお借りできますが、私の方が保ちません」
なんかよく分からんが、そういう事なら常時発動しておくよ。
それと、サーチもしておこう。そう思ってサーチと鑑定を展開して直ぐだった。
「あ、オク。左奥からウルフ系が来る! 多いよ!」
「了解です! 左展開!!」
オクが叫んだ。
──おぉー!!
騎士団と領主隊が一斉に構えた直後、ウルフ系で中型のグリーンウルフが十数頭一気に襲いかかってきた。騎士団はミスリルの剣を試したいとばかりに突っ込んで行く。皆、一振りで首を狙い確実に仕留めて行く。
「アハハハ、これじゃあ俺が来た意味ないよ!」
テュールが吞気に笑っている。俺は怖いから、いつでも対応できる様に魔法の準備をしているのさ。準備なんてないんだけど。気持ちだ。
その肝心のダンジョンはどこなんだ? まだかな? サーチをもう少し展開してみる。
「オク、ダンジョンからも出てきているんだね?」
「はい、まだ少しですが。これを放っておくとスタンピードに繫がります」
「オク、左側を奥へ行ったところにダンジョンがある。だから、ここからはずっと魔物がいるよ」
「ええ、皆分かってますよ」
そうなのか? あ、シェフが行った。テュールとノアもだ。馬に乗ったままだから、ブーストは使えない。でも、プロテクトはしている。皆自分で使えるんだ。
「殿下、もうそれを使えるのは最低限になりつつありますよ」
──ザンッ!!
オクソールが話しながら軽く魔物を斬った。コエー!! コエーよ!
「え? え? オク、何が最低限?」
「自分でブーストとプロテクトです。今では騎士団も領主隊も全隊員が使えます」
──ザシュンッ!!
「殿下、何してんスか!? 剣持ってるんスから抜いて下さい!」
あー、リュカに言われたよ。しかも魔物を斬りながら言われたよ。
「えー、リュカ。ボク嫌なの」
だって怖いじゃん。俺10歳だよ、覚えてくれているかなぁ。
「ブハハハッ! 殿下! マジッスか!?」
「殿下、今は構いませんから、プロテクトだけ展開して下さい。ご自分の身を守って下さい」
「オク、分かった」
オクに言われてプロテクトを展開する。だって俺は平和な国の一般人だったんだ。慣れないよ。
「オク、そろそろダンジョンが見えてくるよ」
「はい。近いぞー!!」
オクが叫ぶと、少しスピードが落ちた。少し走るとダンジョンの入口が見えてきた。
森の中の不自然な岩山にポッカリと洞窟ができている。俺達を誘っているような、それでいて入ったら最後、出てこられないような何か異様な雰囲気だ。
「停止!!」
前から号令が聞こえてゆっくりと隊列が止まった。後ろにいた馬を守る役目の領主隊が前に出て、其々魔除けを設置して行く。設置が終わったら、ユキの出番だ。
「ユキ、お願い」
「ああ」
ユキの身体が光り、魔除けを基準にシールドが張られる。乗ってきた馬全部だから、かなり広い。その中にダンジョン攻略の拠点も作られる。ここに残る6名が馬を管理し、連絡係も兼ねる。
予め用意されていたシールドの魔石も設置される。ユキと魔石でシールドの強度が上がり、これで1日や2日は大丈夫だ。
「さて、ここからが本番です」
アルコースが話す。
「先に確認した通りの隊列で行く! 先発隊!」
──はッ!!
騎士団から10名、領主隊から10名。この20名が先発隊として、1階層から10階層までを討伐する。
アルコースが皆の士気を高めるように鼓舞する。
「皆自分の身を守ってくれ! ポーションは充分にある! もしもの場合は魔道具で直ぐに知らせろ! 良いか! 領地の平和は俺達に掛かっている! 絶対に全員無事に帰るぞ!!」
──おぉーー!!
「殿下、良いですか? ここからは嫌だと言ってられません」
「うん、オク。分かってる」
「大丈夫だ、リリ。我が守る」
「ユキ、有難う」
「リリ! 疲れたら直ぐにユキに乗せてもらえ!」
「はい! 兄さま!」
フレイはやる気満々だ。おっと、テュールもだ。
先に決めた騎士団と領主隊の20名がどんどん先に入って行く。
「ストップ! そこ罠がある!」
ずっと鑑定眼で見ている俺が、時々叫ぶ。俺たちは魔物を無視して下へ進んで行く。
「駄目! そこはフェイクだよ! 階段は左!」
サーチと鑑定を重ねて常時発動している。罠やフェイクがしっかりと表示される。ダンジョン内の詳細な地図と攻略本があるのと同じだ。後ろから大きな声で指示をしながら進んで行く。
「次の階段下りたら直ぐ罠だから、右に寄って!」
「リリが先導する方が良くないか?」
「え、フレイ兄さま。そんな怖い事言わないで下さい」
「リリ、でも俺もそう思うよ?」
「大丈夫だ、皆守るから。ほら、リリ!」
脳筋&ジャイ◯ンのフレイに引っ張られて先頭に出された。本当止めてほしい。
俺は諦めて剣を抜き風を纏わせる。
「おお! リリ、やっとやる気になったか!? アハハハ!」
笑い事じゃないよ、フレイさん! 俺、10歳だよ? 忘れてないか?
あー、ほら出てきた。しかも沢山の魔物がサーチに引っ掛かった。
俺は剣に魔力を再度流して、身体全体を使って大きく横に一振りした。
──キュイ〜ン!!
魔力を流した剣身が伸び、魔物を真っ二つに切っていく。よし! 取り敢えず一掃したな。
「おぉーッ!! リリ凄いじゃないかッ!!」
「アハハハ! リリ! 無敵だ!」
テュールまで脳筋だとは思わなかった。2人の兄は面白がっているな。
──キュイ〜ン!!
俺はまた斬撃を飛ばす。近付きたくないから、できるだけ斬撃でいこう。痛いの嫌だし。どこまでも、前世平和な日本人だ。
「もう少しでまた罠があります! 先に解除します!」
地面に両手をつき土魔法で地面を揺らすと、両側の壁から土の槍がドドドッ! と飛んできた。
「おぉ〜!!」
「進みましょう!」
「殿下、全て見えているのですか?」
「うん、オク。ダンジョンに入ってから、鑑定とサーチを重ねて常時発動してるの。そしたら、めちゃよく分かる様になったから楽勝だよ」
「はぁ……無敵ですね」
──ザシュッ!!
リュカが俺の前に出て、蜘蛛の魔物を一掃してくれる。
「オク、そんな事はないよ。みんなが周りの魔物をやっつけてくれているからだ」
魔物を討伐すると、死体は消えるがアイテムがドロップされる事がある。それも忘れずに回収してマジックバッグへ入れる。
「次の階段で10階層終わりだ。エリアボスがいるよ」
「殿下、了解です。私達が行きます!」
「お願いね。頑張って」
「殿下にばかり頼っていては騎士団の名が
おー! 頼もしいじゃん! 階段を下りると、仰々しい大きな扉があった。ゲームのボス戦に出てきそうな扉だ。でもここはまだ最初のエリアボスだ。
「行くぞー!!」
──おおーッ!!
いや、なんと言うか……まあ最初のボスだしね。さっき出てきていたし。最初に出てきたキモイ植物とお花の大きいのと、大きな蜘蛛の魔物だったんだけど。ビッグスパイダーて言うらしい。
それらエリアボスを討伐隊はあっという間に倒してしまった。瞬殺だ、驚いたよ。
このエリアボスのドロップアイテムが大量の糸と蜂蜜だった。この糸で布を織って服を作ると防御率がアップする、と鑑定で見えた。戦闘服に良いね。しかし、一体何着作れるのだろう? て、くらいの大量の糸だ。蜂蜜は回復効果があるんだって。いいじゃん。美味しいのかな?
「リリ、次行くぞ」
「はい、フレイ兄さま」
「後は頼んだぞ!」
アルコースが残る隊員達に声を掛ける。
次の10階層分はミミックとゴブリンだらけだった。ゴブリン、本当にいるんだな!
宝箱って、初めて見たよ。しかも8割ミミックだ。でも、全然強くない。楽勝だ。
「次がエリアボスです」
「はい! 行きます!」
また騎士団と領主隊が扉を開けて進んで行く。まあ、予想通りだ。ホブゴブリンと大きなミミックだった。ミミックは小さいのを沢山従えた超デカイやつ。大きくなっても、あまり強くなかった。結果、どちらも瞬殺だ。もう、慣れたよ。瞬殺に。
ドロップアイテムが、ハイポーションだった。持ってるし、作れるし。ホブゴブリンからは斧がドロップした。ショボい。俺たちは先に進む。次が最後の10階層だ。その先がない事を祈る。
「まだ、出来たてのダンジョンだから魔物も強くないの?」
俺はオクソールに聞く。
「はい、そうですよ。早く見つけて良かったです。後は、30階層の先に何階あるかですね」
え? オクソールよ。先があるのが前提なの? 俺は無い事を祈ってるよ?
「殿下、まさかピッタリ30階って事はないでしょう。何階かあると思いますよ」
えー、そうなの……嫌だなぁ……。
「殿下、ここまで来たのです。もういい加減に割り切りましょう」
「はーい」
あーあ、オクソールにまたバレたよ。
「あー、りんごジュースが飲みたい」
「ブフフッ!! 殿下、ある意味大物ですね?」
「だって、リュカ。お腹も空いたし」
「そうですね、次の階段エリアで昼飯にしましょうか」
「うん! アルコース殿、そうしよう!」
「ねえ、アルコース殿……モグモグ」
俺達は階段で座り込んで食事中だ。こんな時でもりんごジュースは美味い!
「殿下、食べてからになさっては?」
「うん、オク。でもね、気になるの……コクコクコク」
と、言いながらりんごジュースを飲む。
「アハハハ。殿下、何ですか?」
「あのね……ダンジョンってこんな階段は魔物が出ないの?」
「ええ、そうですね。もっと大きなダンジョンだとセーフティエリアがあったりしますよ。でも、ここはできて直ぐなのでありません。魔物が出ないのは階段エリアだけですね」
「へえ~……コクコクコク」
「リリ……りんごジュース美味しい?」
「はい! テュール兄さま! 飲みますか?」
「いや、いいよ」
「殿下、また一気飲みして。ニル様に叱られますよ?」
「あーい」
リュカに言われちゃった。仕方ない。マジックバッグに大事に仕舞っておこう。
「フハハハ! 本当にリリは……!」
「え? テュール兄さま、何ですか?」
「いや、リリは大物になるよ」
「そう言えばテュール兄さま、凄く背が伸びましたよね?」
俺は、じぃ〜ッとテュールを見る。
「うん。急にね。一時は身体が痛かった」
おー! 成長痛だな!
「おー! テュール兄さま、カッコいい!」
俺は
「……? リリ、どうした?」
なんでもないよ、テュールよ。
「さあ、そろそろ進みましょう」
アルコースの合図で、階段エリアを下りたらいきなり魔物がいた。熊さんエリアらしい。超凶暴な顔つきの可愛くない熊さん達が、両手を上げて
「せいッ!」
──ズザンッ!!
首を目掛けてジャンプして斬りつけ一発で仕留める。
「リリ、強いなぁ〜!」
フレイさん、どうも有難う。
「兄上、俺マジで出番ないですよ?」
「アハハハ。まさかリリがこんなに無敵だったとはな。楽勝だな!」
まだ最後の10階層に下りたとこだからさ、そんな事言ったら駄目だ。フラグ立ったら嫌だよね。
リュカが剣に魔法を纏わせて斬撃を飛ばした。
──キュイ〜ンッ!!
「おぉー!! リュカもか!」
「兄さま、そっち駄目ですよ! 罠がありますよ!」
「え? おお、悪い」
俺はまた土魔法で罠を作動させる。今度は天井から岩の槍が降ってきた。悪意があるよね。ここで仕留めてやるぞって悪意がさ。サクサクと先に進む。このエリアの熊さん達もあまり強くない。
「次がエリアボスです」
「はい! お任せ下さい!」
騎士団と領主隊が扉を開けて入って行く。やっぱ、エリアボスも熊さんだった。大きな大きな大きな可愛くない熊さん。一瞬でサヨナラだったけど。
熊さんのお肉と皮がドロップアイテムだった。とても美味しいらしい。皮は防具に使えるそうだ。あれ? ここでこそ蜂蜜じゃない? 超有名な黄色い熊さん、蜂蜜持ってるじゃん?
「ここでもう30階ですね」
「ああ、先に進もう。リリ、見えるか?」
そうなんだよ。やっぱ、オクソールが言ってた通り先があった。
「フレイ兄さま、見えますよ。まだ先があります」
ちょっと待てよ……。
「オク、見てほしいな」
「殿下、何ですか?」
「次のフロア。何か引っ掛かるんだ」
俺は、下に下りる階段の先を指差す。
「殿下……あと5階層ですね。次のエリアは魔法攻撃が効きませんね」
やっぱりか。
「よし、やっと出番がありそうだな。テュール」
「はい、兄上」
じゃあ、俺は最後尾で……と、移動しようと思ったらフレイに止められた。
「て、リリ。どこ行くんだよ。サッサと行くぞ」
はい、分かりました。
「ここまで頼むぞ!」
──はいッ!!
アルコースが残る隊員達に声をかけた。さあ、最後のエリアだ。気を引き締めて行こう!
31階層からは、ゴーレムのオンパレードだった。
人型だけじゃなくて、獣の形をしたゴーレムも出てきた。オクソールが見た通り、魔法耐性があって魔法攻撃が役に立たない。そこで、張り切ったのがフレイとテュールだ。
──ガキーン!!
──ドゴーンッ!!
「あー、兄さま達強いや」
「ええ、本当に」
「あ、シェフも行ったよ」
「ああ、はい。側近の方々もなかなかですね」
「オク、行かないの?」
「必要ないでしょう」
「……確かに」
フレイとテュールとシェフ、兄達の側近2人で、ガンガン倒していく。ゴーレム? それは大きなオモチャですか? て、感じだ。
「魔力耐性はありますが、そう強くないですね」
「オク、そうなの? でも、みんなの剣はミスリルだよ?」
「まあ、そうですね」
「リリ! 次はどっちだ!?」
「フレイ兄さま、右です! 曲がったら止まって下さい! 先に罠を解除します!」
「おうッ! 分かった!」
俺達はフレイとテュールとシェフが倒したゴーレムの後始末だ。ドロップアイテムを回収しながら進む。
ゴーレムって、金属をドロップするんだ。知らなかった。
「ね、オク。ミスリルも落とすかな?」
「ああ、この弱さだと無理でしょう」
「そうなの?」
「はい、同じゴーレムでも、もっとレベルの高いゴーレムでないと無理でしょう」
そっか。そうなのか。ちょっと期待したのにな。
「フレイ殿下! ストップです!」
側近のデュークが咄嗟に引っ張ってフレイを止めてくれた。危ない、罠に突っ込むところだった。
「もう、兄さま。罠があると言ったのに」
「リリ、すまない。ついな」
俺はサッサと罠を解除する。地面に手をついて土魔法で揺らす。
──ゴゴゴゴドゴーーンッ!!
上下から岩の槍が降ってきた。これ、本気で殺す気だよな。超怖い!
「マジかよ……」
「ね、フレイ兄さま、言ったでしょう?」
「ああ、気をつけるよ」
「兄さま、真っ直ぐ行ったら階段があります!」
「よしッ!」
皆で階段を下りる。
「あらッ……!」
スライムさんがいっぱいだった。しかも巨大だ。『ボクは悪いスライムじゃないよ』て、言ってくれないかなぁ。さて、斬れるかな? 風魔法を付与した剣で斬ってみる。
──キュインッ!!
──ザシュッ!!
「あ、斬れた……」
ちょっと気持ちいいかも……。
──キュインッ!!
──ザシュッ!!
──キュインッキュイン!!
──ザシュザシュッ………………。
「おい! リリ! お前1人で倒してんじゃねーよ!!」
「え……!?」
フレイに言われて周りを見ると、巨大なスライムさんが全滅していた。ドロップアイテムなのか、核と魔石が沢山落ちている。
「あらら……」
「あらら……じゃねーよ!」
「アハハハ! リリ! 強いな!」
「テュール兄さま、つい……」
「本当にもう、これのどこが弱いんですか」
「リュカ、だって相手はスライムさんだし」
さあ、行こうぜ。あと3階層だ。
「いいか、リリ。次は俺達に任せろよ?」
「はい、フレイ兄さま。あ、兄さま。階段ですよ」
俺達は次の階層に繫がる階段を下りる。
「ぎょえぇぇーー!!」
俺は頭を抱えて座り込みながら叫んだ。
「アハハハ!」
フレイ、何で笑ってんだよ!
「無理! 無理! 無理ー!!」
あー、マジ無理だ!
──ザシュッ!!
──ザンッ!!
次の階層は5年前に森に繁殖していた、あの蛙の大きいのがいっぱいだった。ジャイアントトードって言うらしい。森にいたのは普通のトードで、それより大きなジャイアントトードだ。キモッ! キモーッ!! キモさも倍増だ! 俺は無理だ! ビジュアル的に無理!
あのヌメッとしていてブニブニした質感に、所々にあるイボイボ、それに色。何? 土色? ウゲー! 全部無理だ!
フレイとテュールが側近達と一緒に次々と斬って行く。一体、何匹いるんだ? キモッ!
「殿下、蛙嫌いなんスか?」
「リュカ、別に好きでも嫌いでもないけどコレはキモ過ぎる!」
「あー、シェフも凄いッスね」
「リュカとオクは行かないの?」
「私達は、殿下をお守りするのが最優先なので」
「オク。ありがと。うげッ!」
そこら中、デカイ蛙の死骸だらけだ。早く消えて欲しい。
「しかし、こんな低階層でこのランクの魔物とは……弱すぎますね」
「オク、そうなの?」
「はい。まだ上の階層の方が強い魔物がいましたよ。まあ、大きくはなってますが」
「え、どう言う事?」
「さあ、分かりません」
普通は、下層に行けば行くほど出てくる魔物は強くなるはずだ。
確かに、弱すぎるよな。まあ、数と大きさだけはとんでもないけどさ。
「よしッ! 終わったぞ!」
ダンジョンの良いとこは死骸が消える事だ。あの巨大な蛙の死骸を大量に持って帰るなんて、考えただけでもゾッとする。ドロップアイテムは、蛙の油と皮だった。大量にあるぞ。水を弾くらしいから、雨具に良いな。次の階層へ下りる。
「ビッグヴァイパーだ」
フレイよ、何? 何だそれ? 目の前にはマムシの様な……巨大な蛇か?
「殿下、毒を持ってますよ!」
「え、リュカ。そうなの!?」
「はい! しかも、普通のより巨大です!」
あー、やっぱ大きいんだ。巨大シリーズ決定だ。きっと次の階層もデカイのが出てくるぞ。
──ザギュンッ!!
──ドサッドサッ!!
「うわ、テュール兄さま凄い」
「あれは、毒霧を吐きます。だからその前にやっつけてしまわないと」
「なるほど」
お、シェフも行った。またフレイとテュールとシェフで次から次へと斬り倒して行く。
俺達のすぐ横で、アルコースが啞然として立っていた。
「アルコース殿、どうしました?」
「殿下、いえ。皆さん凄すぎて……ハハハ」
え? もしかして、引いてる? あ、ドロップアイテムが落ちてる。毒かよ! まんまじゃん! いらないよ! 皮も落ちてた。うん、こっちの方がまだマシだ。マジックバッグに丁度いいや。
「さ、次に行きましょう」
「オク、次で最後だね」
「ええ、その筈です。魔物が少し強くなりましたね」
そうなのか? でもあの3人は軽く斬っていたよ? 皆で最後の階層へ向かう。
「オク、これは?」
「グレートタートルですね」
「デカイね。やっぱ大きいシリーズだよね」
「シリーズですか……クフフ」
「で、この大きい亀さんは何するの?」
「踏みます」
あら、そう……まんまじゃん。
「時々、毒を吐いて丸くなって転がって突進してきます。しかし、何よりあの甲羅が硬いので剣が通りません。氷属性魔法が効きます」
「オク……ほら見て。兄さま達斬ってるよ?」
「斬ってますね」
「剣が通らないんじゃないの?」
「はい、その筈ですが」
テュールとシェフが剣に氷魔法を付与して斬り倒していた。勿論、側近の2人もだ。あの2人は兄さま達が脳筋だから大変だろうな。
フレイは雷魔法だ。アルコースも剣に水魔法を付与して斬っている。剣がどうとか以前の問題だ。
ミスリルなのも大きいのだろう。しかし、剣に魔法を付与するとこんなに違うものなのか。
巨大な亀さんが沢山いたのに、あっという間に討伐してしまった。
この巨大な亀、ドロップアイテムで鉱石を落とす。時々、ミスリルも落とすらしい。
「殿下! ミスリルありましたよ!」
「アルコース殿、やった! アハハハ!」
アルコース、討伐よりドロップアイテムを回収するのが中心になってるじゃん。いいのか?
「兄さま! 扉です!」
「殿下、あの奥ですね」
「うん、オク」
フロアの最奥に大きな扉が現れた。
「オク、リュカ、シェフ、ユキ、行こう!」
さて、ラスボスは何が出るのか。
「リリ、行くぞ」
「はい、フレイ兄さま」
フレイが両手で扉を開ける。ゴゴゴゴーッと低い音を立てて扉が開く。広い部屋の両側、天井付近にジャイアントスパイダーが奥までびっしりと並んでいる。その名の通り、大きな大きな蜘蛛だ。
こいつは最初のエリアボスで出てきたビッグスパイダーのもっと大きい版だ。さっきのデカイ亀さんも天井付近にある段差に列をなしている。最奥に、ラスボスらしき奴がいた。
オークエンペラー。オークの中でも上位種だ。デカイし、そこそこ強い。そして、オークだが少し賢い。状態異常を使う。こいつがダンジョンコアを守っている。
「あー、ちょいウザイのが出てきたな」
「ええ、兄上」
「リリ! 蜘蛛と亀を任せてもいいか!?」
「はい! フレイ兄さま! シェフ! 兄さま達の方へ行って!」
「はい! 殿下!」
シェフがフレイとテュールの方へ走って行く。
「オク、様子を見て兄さま達の方へ行ってね」
「しかし、殿下」
「大丈夫、リュカと、ユキがいるから」
「リュカ、出し惜しみせずマルチプルガードを使うんだぞ」
「オクソール様、分かってます!」
「リリ、我に乗れ」
「うん、ユキ。お願いね」
「殿下、無茶はなさいません様」
「アルコース殿、大丈夫です。アルコース殿も気をつけて!」
俺はユキに乗って、天井付近にいるジャイアントスパイダーとグレートタートル目掛けて飛んだ。
「兄さま! オークエンペラーの後ろにコアがあります!」
「おうッ! 分かった!」
フレイ、テュール、シェフもオークエンペラー目掛けて走る。
フレイとテュールの側近達も後を追う。
──キュイーンッ!!
──ザシュ! ザシュッ!!
俺が攻撃するのと同時にオクソールとリュカもジャイアントスパイダー目掛けて斬撃を飛ばした。ユキは片っ端から後ろ足で蜘蛛と亀を下に蹴り落としている。アルコースも斬りつける。
──ズザンッ!
──ザシュ!
リュカが俺達をマルチプルガードで守る。ジャイアントスパイダーが糸を吐き出して攻撃してくるが、リュカのマルチプルガードで弾かれて届かない。マルチプルガード、いいなぁ。無敵だよ。
オクソールとリュカ、それにアルコースと俺で順調にジャイアントスパイダーを削って行く。あと半分だ。ふと見ると、フレイとテュールがブーストとプロテクトを掛けてオークエンペラーに斬りかかっている。
「リュカ! 兄さま達にもガードできる!?」
「殿下! やってます! 大丈夫です!」
よく見ると、オークエンペラーが振り下ろした大きな斧の様な武器の攻撃がガードされている。が、その前にフレイもテュールも上手く避けている。
凄いな。あの兄達は。それについて行っている側近2人も凄い。うわッ、シェフが1人でオークエンペラーの足を斬りつけている。こっちもジャイアントスパイダーとグレートタートルはあと少しだ。
「リリ、行くぞ」
「うん! ユキ!」
ユキがまた飛ぶ。同時に俺は斬撃を飛ばす。
──ギュイーン! ギュイン!
──ザシュ! ザシュッ!!
「殿下! ラストです!」
「うん! オク! お願い!」
ユキがジャンプして蜘蛛を蹴り落とすと、オクソールが剣を振り下ろした。
──ザシュッ!!
よしッ! ジャイアントスパイダーとグレートタートルは全部倒した。後はオークエンペラーだ。
「テュールッ! シェフ!」
「はい! 兄上!!」
「はいッ! フレイ殿下!!」
兄2人が高くジャンプしてオークエンペラーを
──ギャァァーーッ!!
「やったッ!」
オークエンペラーが倒れて塵の様に消えて行く。
「フレイ兄さま! テュール兄さま! シェフ! 凄い強いッ!」
気付けば周りは、ドロップアイテムだらけだ。魔石がそこら中でキラキラ光っている。
「コアを壊すぞ!」
フレイが剣を振り下ろした。
──ガキーンッ!
台座に仰々しく載せられていた、真っ赤なクリスタルの様な大きなコアが崩れ落ちた。
すると、ラスボス部屋の扉が大きな音を立てて崩れた。
「これでもうボスは現れません。徐々に階層も消えていき魔物も少なくなるでしょう」
「ええ、オクソール殿! 皆様! 有難うございました!」
アルコースが叫びながら頭を下げた。
「エヘヘへ」
「アハハハ、殿下。アウル様と同じ笑い方ですよ」
「リュカ、ボクはあんなに可愛くないよー。フレイ兄さま! テュール兄さま! シェフ! お疲れさまー!」
3人が戻ってくる。側近の2人はまだオークエンペラーのドロップアイテムを回収している。オークのお肉が沢山だ。美味らしい。皆でバーベキューができるぞ!
「リリ! 少しは見せ場があって良かったよ」
「本当にな。リリばかりに活躍されたら、兄として立場がないぞ」
なんだよ、フレイもテュールも余裕じゃないか。
「殿下ぁ! ご無事でッ!」
「シェフ、有難う! 兄さま達も無事ですか?」
「ああ、問題ない」
3人共、怪我一つしていない。リュカのお陰だ。
「リュカ、有難う」
「殿下、お役に立てましたか?」
「もちろんだよ!」
「ああ、リュカ。助かった」
「はい!」
オクソールに『助かった』と言われてリュカは嬉しそうだ。師匠にそう言われたら嬉しいよな。
「さあ、皆様。戻りましょう!」
アルコースが魔道具で、其々のエリアに連絡をする。転移玉でサクッと地上に戻ろう。
ん? ちょっと待てよ? と、俺はコアが設置されていた台座の方を見る。
「殿下、何かいますね」
「オク、何だろう?」
俺はユキに乗ったまま、オクソールとリュカと一緒に台座を見に行く。見ると、コアが消えて無くなった台座に、透き通った羽を持つ小人が倒れていた。俺の顔より小さい。
「リリ、これは妖精だ」
「ユキ、妖精なの!?」
妖精なんているのか!? 初耳だぞ!
「コアに閉じ込められていたのでしょうか? ユキ、分かるか?」
「いや、オクよ。我はそこまでは分からん」
コアの中に閉じこめられていたであろう小さな妖精。グッタリしている。これはどうしたものか?
鑑定してみる。オクソールも精霊の眼で見ている。
「殿下……呪詛ですか?」
「うん、オク。助けなきゃ」
『ディスエンチャント』
俺が心の中で唱えると、妖精らしい小人の身が光り白い光が包み込む。
『ハイヒール』
もう一度光る。透き通った小さな羽がピクッと動いて、小さな妖精がゆっくりと目を開けた。
「気がついた? 大丈夫?」
「…………え? だれ?」
「ボクはリリ。解呪してハイヒール掛けたんだけど。気分はどう?」
台座に横たわっていた妖精は、呪詛が掛けられてここに縛り付けられていたんだ。
「え? 人間? 獣人も……それに神獣!?」
「ああ、ユキって言うの。ユキヒョウの神獣だよ」
「助けてくれたのか?」
「うん。解呪したからもう平気だと思うんだけど、どう?」
「そんな……人間が!?」
妖精さんが驚いてキョロキョロしている。
「リリは人間だが、できるのだ。驚く事ではない。我が守護している人間だ。信用していい」
「神獣が守護……信じらんない……!」
「ねえ、大丈夫? 苦しかったりしない?」
そんな事より、身体はどうなんだ?
「あ? ああ。有難う。助かったよ。リリ」
「うん、良かった。君、お名前は?」
「ボクはフィー。森に住んでる妖精だよ。オークに捕まって、コアに閉じ込められていたんだ」
「もう大丈夫だね」
「うん、有難う」
「いいよー。じゃあねー」
俺は妖精に向かってヒラヒラと手を振った。良かった、大丈夫そうだね。
さあ、皆で帰ろう。俺達は台座にいる妖精に背を向けた。
「え? えぇッ? ちょっと待って!」
「どうした? もう大丈夫であろう?」
俺達を引き止める妖精さんの言葉にユキが答える。
「外に出るならボクも連れて行って! ここがどこだか分かんないんだよ!」
「そうなの? いいよー」
「リリ! 有難う!」
妖精がフラフラと飛んで、俺の上着の胸についてるポッケにストンと入った。おや、まだ辛そうだ。本当に大丈夫か?
「リリ……君の魔力は光なんだね」
「うん」
妖精はそんな事も分かるのか?
「とても心地良いよ。少し……眠い……」
妖精はそのままポッケの中で寝てしまった。まだ身体が辛いのかな?
「あらら……どうしよう」
「連れて行ってやったらどうだ?」
「兄さま。いいですか?」
「良いも何も、俺は分からん」
なんだよ。そうだよ、こんな時はアイツだ。
「ルー!」
「はいな!」
ポンッとルーが現れた。俺のポッケで眠る妖精を見るなり……。
「え……リリ、今度は妖精かよ」
「うん。疲れて寝ちゃった」
「そうか。何でまたこんな所に?」
「オークに捕まったんだって」
「ああ、なるほど。コアにされていたのか」
「うん、そうみたい。連れて出てあげてもいい?」
「ああ、仕方ないだろ? まさか、また名付けしてないよな?」
「うん。お名前あったもん」
「何!? リリ、名前を聞いたのか!?」
「うん。フィーって言うんだって」
「マジかよ。リリ、気軽に名前を付けたり、聞いたりするのは止めな。大事な事なんだぞ。『ボクはリリ』も言わない方が良いよ。真名を知られたら支配され操られる事だってあるんだ」
何その設定。コワッ。
「妖精は俺達と違って気まぐれだからな。あんまり関わるな」
え、ルーも充分気まぐれだと思うけど……。
「リリ、僕は気まぐれなんかじゃないよ?」
「はーい。ルー、オクとリュカに精霊魔法を有難うね。2人共もう使いこなしていたよ」
「ああ、役立って良かった。もう、サッサと帰りなよ。ヒヤヒヤするよ」
「帰ろうと思ったら、妖精さんがいたんだよ」
俺だっていつまでもダンジョンの最奥になんていたくない。
「もう外には出られるのかな?」
「はい、ルー様。他の者達にも連絡済です」
「じゃあ、取り敢えず出よう」
そう、ルーが言った瞬間真っ白な光に包まれた。光が消えたらそこはもう外だった。
「おー、ルー凄い」
「まあな。僕は精霊だからな」
白い小さな鳥さんが、胸を張って自慢気にしている。胸の部分の羽がフワッフワだ。
「アルコース殿、転移玉使わなかったから得したね!」
「アハハハ! リリアス殿下、そんな場合ですか?」
周りが驚いてる。しかし、それよりもだ。
「ルー、この子どうしよう?」
「リリ、常時鑑定するんじゃなかったのか?」
「してたよ」
「今、見てみたら? 今の状態が分かるさ」
なるほど……今の状態ね。
「なんだ、本当に疲れて眠ってるだけなんだ」
「ああ。暫くしたら起きるだろ」
じゃあ、待つか。俺のポッケで寝ている妖精さんが起きるのをね。
「アルコース殿、直ぐに戻りますか?」
「いえ、殿下。状況確認をこれからします。必要であれば、もう少し討伐します」
「そう、じゃあボクが必要な時は呼んで下さい」
「はい、殿下。有難うございます」
「殿下、出てきてからダンジョンを見ましたが、もう『元ダンジョン』と言う表現に変わってます」
オクソール、凄いじゃないか! そうか、ダンジョン自体を鑑定するのか。
いやいや本当に、俺は魔法の使い方を再確認しなきゃいけないな。そんな発想はなかったよ。
「オク、有難う。凄いや」
「いえ、殿下」
「本当に。ボクにはそんな発想がなかったよ。目から
「殿下はあまり魔法を使われませんから」
「そうなんだよね。馴染まないと言うか……ね」
「私も普段はあまり使いませんが、ルー様に頂いた『精霊の眼』は見る世界が変わるほどのものなので。慣れるためにも意識して使うようにしております」
そうか。その意識だよ。俺には全くなかったよ。
「うん。オク、有難う。参考になったよ」
「殿下、それより妖精はどうなさいますか?」
「もちろん、森に戻すよ。人の手に余るものは、これ以上側にいない方がいい。妖精はユキやルーとは違うみたいだからね」
そうさ。其々、棲み分けが必要な場合だってある。何でも受け入れる必要はない。
俺もちょっと大人になったのさ。さて、俺はりんごジュースを飲もう。
領主隊の隊員達が、またダンジョンに入って行った。きっと、もう少し魔物の数を減らしておきたいのだろう。
「コクン……コクン」
「殿下、オヤツ食べますか?」
「え!? シェフ、オヤツあんの!?」
「はい、簡単な物ですが!」
そう言ってシェフがマジックバッグから、白いフワフワの丸い物を出した……肉まんだ!
「うわッ! シェフ! 何でこれ知ってるの!?」
「何でって、殿下が小さい時に食べたいと仰って教えて下さいましたよ? 思い出して久しぶりに作ってみましたッ!」
えぇ? 本当に!? 小さい頃の俺って、食べ物に執着してないか? 食べたかったんだろうなぁ。ま、嬉しいけども。
「嬉しい! 頂きまーす……美味しい! シェフ、数はあるの?」
「はい、もちろんです! 皆さんの分もありますよッ!」
さすがシェフだ。よく分かってるよ。
「手が空いてる人はオヤツあるから食べてー! シェフが作ってくれたの! 美味しいよー! みんな食べてー!」
俺が叫ぶと、隊員達はワラワラと寄ってきた。
「……んん……?」
妖精さんがポッケの中で動いた。起きたかな?
「あれ? 外? 良い匂いがする」
ポッケからヒョコッと顔を出した。
「目が覚めた? あんまり寝てないけど大丈夫?」
「うん、もう外に出たんだね」
──キュルルゥ……。
これは妖精さんのお腹の音か?
「もしかして、お腹すいてる? 食べる?」
「うん! 食べる?」
シェフにもう一つもらって妖精さんに食べさせてあげる。肉まんの方がデカイからさ、持っていてあげるだけなんだけど。
「うぅッ! 美味しい!」
妖精は俺の膝の上で肉まんにかぶりつく。