
薬師達と会った後は予定もなく、昼食までの間に裏庭でまたアウルースとアンシャーリと一緒に皆でのんびりとしていた。
アースがオクソールに、軽く稽古をつけてもらっているのを、ぼんやり見ている。
「あー! クソッ! 全然敵わねー!」
アースがオクソールに軽くあしらわれている。まあ、そりゃそーだ。敵う訳ないじゃん。
「リリしゃま、らめらめれしゅ」
アウルースがアースを指差して容赦なく言う。
「アウル、そうだね。ダメダメだね」
「本当に、アースは。敵うとでも思っていたのでしょうか?」
「レイ、まったくだ」
皆、並んで見学だ。俺の両側にアウルースとアンシャーリがいる。リュカとラルクは俺達の後ろに立っている。
「リリ! 楽しんでるか?」
そこにポンッと、ルーが現れた。
「ルー、久しぶりだね」
「ああ。平和そうだな」
「リリしゃま! とりしゃん、しゃべってましゅ」
アウルースがルーを指差している。あれ? もっと驚くんじゃないの? 普通はさ。
「ああ、アウル。この鳥さんはね、特別なんだ」
「アウルか。ルーだよ。宜しくね!」
「あい! ルー!」
「アウル様、ルー様です」
「えー? らりゅく、ルーしゃま?」
「いや、アウル。ルーでいいよ」
「ほりゃ、ルーれしゅ!」
「とりさんが、どうしておはなしできるの?」
「アーシャ、この鳥さんは特別だからだよ」
「リリでんか、とくべつなのですか?」
「そう。特別なんだ。ボクのお友達だ。仲良くしてね」
「はい! リリでんか!」
「あい!」
「ハッハッハ! 良い子達だね〜!」
「ルー、どうしたの? 暫く見なかったね」
急にルーが出てくると、何かあるんじゃないかと思ってしまう。
「リリ、まあ別に何もない時も来るよ」
「本当に?」
「本当だよ。リリが穏やかだから、ちょっと見に来ただけだ。なんて言いたかったんだが……」
「リリアス殿下! オクソール殿!」
「アスラ殿! どうしました!?」
アスラールが慌ててやってきた。どうした? 何かあったのか? オクソールもアースを相手していた手を止めてやってくる。
「森に巡回に出ていた兵からの報告で、森の中にダンジョンらしき洞窟を発見したと!」
「ダンジョン!?」
ダンジョンと言えば魔物の巣窟だ。放っておけば、魔物が溢れ出してきてしまう。早いうちにダンジョンコアを見つけて破壊しなければならない。
スタンピードなどに発展したら、どれ程の被害が出るか分かったもんじゃない。
「ルー! やっぱ何かあるじゃん!」
「あー、まあな。だが、まだ出来たてのダンジョンだ。潰すなら今だよ。幸い、兵力は普段以上にあるだろ? 騎士団も近衛師団も来ている。リリもいるし、フレイ、オクソールにリュカ、シェフもいる。早いうちにさっさとダンジョンコアを見つけて破壊すればいい」
「そんな悠長な! 簡単に言うけど!」
「リリ、簡単さ。リリ達ならね」
ルーが言うならそうなのか? いや、油断は禁物だ。
「リュカ、あれ使えるな?」
「はい! ルー様! もちろんです!」
「よし。リリ大丈夫だ」
「ルー、分かったよ。頑張ってみるよ」
「何かあったら直ぐに呼ぶんだよ。大丈夫だ。気をつけて行っておいで」
そう言ってルーはポンッと消えた。ダンジョンだって。俺も行くのが決定なのか?
「ふぇッ! とりしゃんいないいない!」
「アウル、母様のところへ行こう」
アスラールがアウルースをひょいと片手で抱き上げた。
「おとうさま!」
「アーシャ、お前もだ」
もう片方にアンシャーリも抱えた。あら、慣れたもんだな。
「リリアス殿下! 父の執務室へお願いします! オクソール殿、リュカも頼む!」
「はい! アスラール様! 殿下、行きましょう」
「ああ、リュカ」
「リリアス殿下!」
「ああ、ラルク達も邸に! オク!」
「はい! 殿下、参りましょう」
皆で邸に急ぐ。選りに選ってダンジョンか。俺まだダンジョンて見た事ないぞ。どうするんだ?
「リリ殿下、大丈夫です。お守りします! それにルー様も大丈夫と仰ってました!」
そうだな、落ち着こう。
「リュカ、有難う」
俺達は急いで邸に戻った。俺とリュカとオクソールはアラウィンの執務室へ向かう。ラルクとアースとレイには、アウルースとアンシャーリを任せた。
「リリアス殿下、こんな時に申し訳ありません。しかし、お力をお貸し頂きたく」
「アスラ殿、もちろんです。分かってます」
「有難うございます」
アラウィンの執務室に入ると、フレイ達と、近衛師団団長のティーガル、それに領主隊隊長のウルがいた。皆勢揃いしている。
「リリ、お前はダンジョンは初めてだな」
「はい、フレイ兄さま。ボク、足手まといになりませんか?」
「何を言っている。リリが足手まといになるなら、騎士団全員役に立たない事になるぞ?」
いや、フレイさん。意味不明だよ。俺は全然強くないからね。戦った事ないんだから。実戦経験ないんだよ? そこんとこ、忘れないでほしいな。
「皆さん、領主隊隊長のウルからご説明致します」
アラウィンから紹介されて、領主隊隊長のウルが説明を始めた。
ウルの話によると、いつも通り領主隊が森を巡回していた。今日はやけに魔物の数が多かったそうだ。それで不審に思った領主隊は、魔物が出てくる方角を突き止め森の奥を調査したところ洞窟の入り口を見つけた。領主隊は毎日森を巡回しているが、昨日はなかったらしい。
やはり、ルーが言ってた様にできてすぐのダンジョンなんだろう。
領主隊が入り口付近を調査したところ、洞窟の中で魔物を倒すと魔物の死体が消えたそうだ。ダンジョン特有の現象だ。ドロップアイテムを落とす魔物もいたらしい。
ダンジョンかぁ。俺、本当に経験ないんだよ? そんなファンタジーはいらないよ。
「父上、早くダンジョンコアを見つけて破壊しなければ。放っておくと、どんどんダンジョンは大きくなります。スタンピードになったりしたらどれだけの被害が出るか」
「ああ、アスラール。分かっている」
「ウル、ダンジョンに入るメンバーを選んでくれ」
「はい、アラウィン様」
「辺境伯、騎士団も出るぞ」
「フレイ殿下、お願いできますか?」
「ああ、もちろんだ。何人で出る?」
「はい。ウルの報告ではまだできて間もないダンジョンだと思われます。階層が進んでいたとしても、せいぜい30階層ほどではないかと。10階層毎に区切って、攻略するメンバーを選出します」
「よし。騎士団30名を3班に分けよう。近衛師団は念の為、領都の守備にあたらせよう」
おー、フレイ即決だ。こんな時は頼りになる兄だ。
「リリ、オクソール、リュカ。出られるな?」
「はい、兄さま」
俺が返事をすると、オクソールとリュカも力強く頷く。当然だ。俺が役に立つなら行くさ。
「よし。俺もリリ達と出る。最下層を目指すぞ」
「フレイ殿下! それは危険過ぎます!」
「アスラール、オクソールがいるのだぞ? 最強の騎士が最下層を目指さないでどうする?」
「しかし……リリアス殿下まで」
「リリも強いぞ? それに、良い機会だ」
ええー! フレイさん! 良い機会で10歳児をダンジョンに連れて行かないで欲しい!
「リリ、お前は魔法が使えるだろ? それに回復もできる」
「はい、兄さま」
あー、そっか。回復魔法か。忘れてた。やっぱフレイは、統率力があるんだよ。もちろん、クーファルもない訳じゃない。しかし、フレイはやはり次期皇帝だからか? カリスマ性が違う。決断に迷いがない。それは大事な事だ。迷いがあると皆に不安を与える。
フレイは迷いなく的確に決めていく。俺の兄達は優秀だ。
結局、騎士団から10名、領主隊から10名で10階層分を攻略する事になった。
最初は騎士団30名、領主隊30名でダンジョンに入るが、選抜された10名は指定された10階層分の魔物を倒す為に残る。1階層から10階層までを両隊から10名ずつ。次の10階層分をまた両隊から10名ずつと言った具合だ。最終的に最下層まで行くのは俺達と騎士団10名と領主隊10名だが、隊員達は最下層のある10階層分を攻略する為に残る。
とにかくできる限りダンジョン内の魔物を減らすのが目的だ。
ダンジョンコアを目指すのは、フレイ、デューク、オクソール、リュカ、そしてシェフ、ユキ、アルコース、アルコースの側近のローグそれに俺だ。
よく転生モノにある様な、冒険者達が魔物の素材を採る為や、レベルアップの為等と言った悠長な目的ではない。辺境伯領の街が直ぐそこにあるんだ。それに、ダンジョンなんかなくても魔物はやってくる。倒しても倒しても、河を渡って隣国からやってくるのだ。
ダンジョンなど、ない方が良いに決まっている。リアルと架空の違いだ。
「アラ殿、以前ボクが作った魔石は皆持ってますか?」
俺が以前、辺境伯領に来た時に作った防御と結界を付与した魔石だ。
「リリアス殿下、もちろんです。皆、肌身離さず持ってますよ」
「良かった。今回も必ず持って行く様にと……マジックバッグはどの程度ありますか?」
「マジックバッグはダンジョンに入る隊員、10名のチームに2個持たせます」
「たった2個なのか?」
「フレイ殿下、そう数がありませんので」
「リリ、余分を持ってきてないのか?」
「はい、ボク余っていたのは全部あげてしまって」
フレイがこんな事を言うのも理由がある。実は、騎士団と近衛師団全員が腰の剣帯に付けている揃いの小さなポーチ。マジックバッグなんだ。
見た目は本当に小さなポーチなんだが、そこそこの容量で作ってある。もちろん、俺が作った。いや、父の側近セティに作らされたと言うべきか。俺も愛用のマジックバッグを腰につけている。オクソールやリュカ、シェフもだ。実はニルまでエプロンの腰のリボンに付けている。
王国に行く時に頑張って作った。かなり便利だったので、セティに是非皆の分もと言われたんだ。
「辺境伯、出発は明日の朝か?」
「はい、フレイ殿下。そうしようかと」
「リリ、作れるか?」
「はい、兄さま。元にする物があれば、直ぐに作ります」
結局、作る事になった。しかし、マジックバッグにする元のポーチや鞄がそんなに数がなくて、今回は隊員用のポーチ6個と、アスラール用のポーチだけになった。
皆、俺達が腰に付けているのに気付いていたんだ。剣帯に付けられるポーチを出してきた。
んー、誰か作れないかなぁ?
レイリ位なら作れそうな気もするが。試してみよう。
この後、ダンジョンへの対処方法を検討し、明日の朝一番に出発が決まった。
「では、殿下方。どうか宜しくお願い致します。お力をお貸し下さい」
「辺境伯、帝国の為だ。当然だ」
そうだ。フレイの言う通り、これは帝国の為だ。もしも、最悪辺境伯領が魔物に
昼食を食べて、明日までまだ時間がある。俺は、早速レイリを部屋に呼んだ。
「レイリ、呼び出してごめんね」
「いえ、リリアス殿下。ダンジョンの件ですか?」
ああ、そっか。悪かったかな、薬師達も忙しいだろう。
「レイリ、ごめん。忙しいよね?」
「いえ、ポーション類は充分な量を作ってありますので、忙しくはありません」
おや。本当に5年前と全然違う。前は納品が遅れていたくらいなんだから。ま、ケイアの所為だけど。
「そう? じゃあ、少しやってみて欲しい事があって。まず、レイリ。鑑定してもいい?」
「はい、どうぞ……て、え? いや、は? 殿下、鑑定ですか?」
なんだ、やっぱ嫌か? 俺の周りは嫌がる人がいなかったからさ。
「そんな……! 鑑定のスキルなんて見た事ありませんよ! どうぞ! 私で宜しければ幾らでも鑑定して下さい! あ〜、ワクワクします!」
ん? 何? そっち? あれれ? 俺、鑑定使えるってレイリには言ってなかったっけ? レピオスも言ってなかったっけ? 確か5年前に試験を受けに来た皆が作ったポーションを鑑定して……あ、そっか。レイリ達の前では鑑定してなかったか? そっか?
「じゃあ、レイリ。そこに座って」
「はい! リリアス殿下!」
まあ、別に座らなくても鑑定はできるんだけどさ。鑑定の後の事もあるからね。
『鑑定』
あー、はいはい。なるほど。そっか。そう言えば5年前の面接で、魔法が特別得意な訳でもないと言ってたっけ。
「レイリ、両手を出して」
「はい……?」
俺が両手を出すと、レイリは手を重ねた。少しずつ、リュカの時の様にゆっくりと探る。ああ、やっぱり。詰まりがあると言うか蓋みたいになっているから、魔力が全身に行き渡りにくいんだ。
なんでだろ? こうなっている人が時々いる。原因が知りたい。調べてみる方がいいのかも。
「あ……殿下、何を……!?」
「分かる? レイリの魔力を流したんだ。今まで魔力操作が苦手だったんでしょ? それは何故か詰まりがあって、蓋みたいになっていた部分があったから魔力が上手く流れなかったんだよ。今、通したからね。もう大丈夫だよ」
俺はレイリの手を離す。レイリは手をグッパしている。ハハハ……面白い。
「でね、レイリに試して欲しい事があるんだ」
──コンコン
「リリアス殿下、お持ちしました」
ハイクが剣帯につけるポーチを持って入ってきた。そう、マジックバッグにするポーチだ。
「ハイク、有難う」
「いえ、殿下。宜しくお願いします。レイリ、どうしたんだ?」
「ハイク様、私は殿下に呼ばれて」
「ああ、ハイク。これからレイリに、マジックバッグを作ってもらおうと思って呼んだんだ」
「レイリがマジックバッグをですか? いや、殿下。レイリは魔法が苦手では?」
「苦手な訳じゃないんだ。それに、もう大丈夫だよ」
「は? 殿下?」
「まあ、見てて」
「殿下! 私にマジックバッグなど作れる筈がありません!」
マジックバッグと聞いて、レイリは弱気になる。なんでだよ。やってみなきゃ分からないだろう?
「レイリ、魔力量は充分だ。魔力操作ももうできる。大丈夫だ」
俺は真っ直ぐにレイリの目を見た。
「……殿下、分かりました。教えて下さい」
よし。いいぞ。腹を括ったな。俺はレイリに空間魔法と、時間停止を教えながらマジックバッグを作った。1個目はお手本だ。次はレイリだ。
「レイリ、ゆっくりだよ。急ぐと容量が小さくなっちゃう事があるんだ。急がなくていい。ゆっくり、丁寧に」
「はい、殿下……」
レイリが慎重に魔力を流して行く。うん、やはり魔力操作は完璧だ。途中で詰まっているあの状態でもハイポーションを作っていたんだ。その方が凄いよ。ああ、だから魔力量が増えたのかな? レイリは俺が思った以上に魔力量が多かった。
魔力を循環させる道筋の、詰まりを取り除いた今のレイリにはマジックバッグだって楽勝なはずだ。
「殿下、どうでしょう?」
「うん。じゃあ鑑定するね」
『鑑定』
「大丈夫、ちゃんとできているよ。容量は……そうだな、この部屋半分位かな。初めてだからね」
俺が作るマジックバッグの1/3位だな。それでも充分だ。慣れれば容量も増えるだろう。
「ハイク、これでいつでもマジックバッグが作れるね」
「殿下! 有難うございます! 早速、アラウィン様に報告しなければ! 失礼致します!」
「アハハハ、行っちゃった」
「殿下、有難うございます。魔力操作がこんなにスムーズになるなんて、以前とは全く違います」
うんうん。良かったよ。
「レイリ、数を
「なるほど。殿下が作られると、どれ位の容量の物になるのですか?」
「そうだな、ボクだとこの部屋1個半位かな」
「……そんなに!?」
だって、魔力量も違うし、なにより俺は5歳の時から作ってるからね。そりゃ、今初めて作ったレイリとは容量が違って当たり前だ。
「レイリ、魔力切れに注意してね」
「ああ、そうですね。分かりました。殿下、私は何故詰まっていたのでしょう?」
「なんでだろ? リュカもそうだったんだ。時々、そんな人がいるみたいなんだ。しかも同じ様な場所だった。ちょっと、時間があったら調べてみたいな」
そんな話をしていたら、リュカが話に入ってきた。
「殿下、実は心当たりがあるんです」
なんだと!? リュカの話を聞くと、リュカは俺が保護する前に奴隷商の邸の牢に入れられていた。その時に手に拘束具をつけられ、魔法を封じる魔道具をつけられていたそうだ。
脱出する時に力任せに其れらを壊して逃げた。その後、俺に発見されて助かり暫く高熱が続いた。
「その時じゃないかと思うんです。だから、魔法を封じる魔道具の影響か、高熱を出した影響ではないかと。それまで、魔力を操作するのは抵抗なくやってましたから」
「なるほど。じゃあ魔道具の影響だとしたら、もしかしてその時一緒に捕まっていた人達もリュカと同じ様になっているかも知れないね」
「そうかも知れません」
リュカ、何故今までその事を言わなかったのかな?
「殿下……! それなら私、思い当たります!」
レイリの話だと、20歳になったばかりの頃に流行病に罹って、3日間高熱が下がらなかった時があったらしい。今から思えば、それ以来魔力操作が苦手になった様な気がすると。
「レイリ、リュカ。他に同じ状態になった人はいないかな?」
「私は流行病だったので、領地に何人もいると思いますよ」
「俺は……村人みんな捕まりましたけど、怪我して熱を出したのは俺だけなんで」
そっか。リュカはそうか。でも、魔法を封じる魔道具も気になるなぁ。ん〜……。
「一度、リュカの村に行ってみたいな」
「えッ!? 殿下、それは止めましょう!」
あれ? なんで? なんで嫌がるんだよ?
「え? リュカ、ボクが行ったら迷惑?」
「いえ、そうではなくて。歓迎されると思いますが、俺が恥ずかしいんッスよ!」
なんだよ。そんな理由なら却下だ。
「レイリ、さっきボクがやったみたいに魔力を流す事はできる?」
「はい、できますよ」
「そっか。じゃあ、聞き取りしてもらって、レイリと同じ状態の人がいたら魔力を流してみてよ」
「え? 私がですか? 私にできますか?」
「できる、できる。ゆっくり流すと引っ掛かりが分かるから」
「そんなものでしょうか?」
「うん。大丈夫だよ。じゃあレイリ、次のマジックバッグ作って」
「はい、殿下」
うん。俺がいないとできないなんて事は避けたいからね。レイリがいれば大丈夫だ。
出産が無事に終わればアイシャに教えてあげてもいいしさ。いやいや、大事な事を忘れていたよ。魔術士団があった。そっちの方が専門だ。魔術士団に覚えてもらう方が早い。
──バンッ!!
その時突然、俺の部屋のドアが大きな音を立てて開いた。
「レイリ! 酷いわ!」
「え? アイシャ、どうした?」
なんだよ、なんだよ。夫婦喧嘩なら他所でやってくれよ。
「リリアス殿下もです! 酷いです!」
「へっ?」
俺か!? 俺もなのか!?
「落ち着こう、何をそんなに怒っているんだ?」
「だって、レイリだけ抜けがけして! 自分だけリリアス殿下からマジックバッグの作り方を教わっていたんでしょ!?」
「アイシャ、抜けがけ!?」
あー、誰から聞いたんだ? ややこしくなっているじゃないか!
「アイシャ、抜けがけじゃないんだ。ボクがレイリを呼んだんだ」
「リリアス殿下、そんな! 私は駄目なんですか!? レイリより私の方が魔力操作は得意です!」
もう、臨月なのに興奮したら駄目だよ。赤ちゃんに悪いからね。
「あー、アイシャ。そうなるからだよ。アイシャより、レイリの方が冷静だ」
悪いけど本当の事なんだ。気持ちに左右されるから、敢えてレイリを選んだんだ。容量をできるだけ均一にしたかったんだよ。
まあ、俺とレイリが作った物だと違うんだけどね。でも、今後の事を考えるとさ。
「アイシャ、まあ座って。あのね、同じマジックバッグなのに自分のと誰かのと容量が違うとどう思う? 皆、同じだけの物が入ると思っていたのに自分だけ入らないとどう思う? それを、できるだけ無くしたかったんだ」
「リリアス殿下、私だとそうなると仰るんですか?」
「だって今実際に、感情に任せてボクの部屋に怒鳴り込んできたじゃない。それは駄目。レイリならそんな事は絶対にしない」
「あ……殿下……申し訳ありません」
「あのね、アイシャ。何もレイリしか作っちゃ駄目と言っているんじゃないよ。アイシャも出産して、気持ちが落ち着いたらレイリに教わるといい。ただ、今はレイリってだけだ。レイリなら冷静に教えられるだろうしね」
「本当ですか? 私も教えてもらって良いんですか?」
「もちろんだよ。アイシャだけじゃなくて、魔力量があって魔力操作ができる人なら挑戦してほしいな。ほら、魔術士団あったでしょ? レイリ、教えてほしいな」
「はい、殿下。分かりました」
「殿下、有難うございます。私ったら恥ずかしいです」
「アイシャはもう少し落ち着こうね。母親になるんだしさ」
「はい、殿下。すみません」
あー、お顔を真っ赤にして小さくなっちゃったよ。レイリ、大変だね。察するよ。
空間魔法と時間停止を同時付与するには、魔力量が大きく影響する。俺は、アイシャとレイリに魔力量を増やす様に話した。寝る前にギリギリまで使えと。枯渇させないように注意してだ。
魔力量は寝たら復活する。だから寝る前が1番効率が良い。そしたら、魔力量は増える。
「ただし、アイシャは出産してからだ。今はお腹の赤ちゃんが最優先だよ。出産してからも最低1ヶ月はやっちゃ駄目。アイシャの身体がちゃんと元気になるまでは、絶対に駄目だよ。アイシャの身体と、赤ちゃんが最優先だ。それを約束して」
「はい、殿下。お約束します。命が最優先ですね」
うん、よく覚えていてくれた。嬉しい。
「じゃあ、レイリ。あと何個か作れる?」
「どうでしょう? 自分でどれだけ魔力を使ったのか分からないです」
そっか。そんなもんか。じゃあ、もう一度鑑定だ。
おや、結構減るもんなんだな。うん。あと1個だけにしておこうかな。
「レイリ、2個作ったからあと1個だけ作ろう」
「殿下、もうそんなに減っているんですか?」
「ん〜、減っているのもあるけど、今はダンジョンの事もあるからこれ以上魔力を減らすのはどうかな? て、思って。レイリなら、マジックバッグを作るのは1日に4個迄だね」
「分かりました」
さて、俺は残りのマジックバッグを作るかな…………て、あの……。
「アイシャ、そんなに見る?」
「殿下、お気になさらず」
君は本当に元気な妊婦さんだね。アイシャが大きなお腹を邪魔そうに身を乗り出して俺の手元を見ている。レイリの気苦労が分かる気がする。
そっか、そういえば面接の時もそんな事を言っていたな。
「殿下は何故そんなにサクサクと作れるのですか?」
「ん? アイシャ。だってボク、5歳の時から作ってるから。もう慣れてるんだ」
「「ご、5歳!?」」
「ん? そうだよ」
あら、リュカが吹き出さないな。いつもの流れだと、絶対に吹き出してるよな?
リュカを見ると、めっちゃニコニコしていた。何故に……?
「じゃあ、レイリ。今後のマジックバッグは頼んだよ」
「はい、リリアス殿下。有難うございます」
うんうん。任せて安心。やっぱ冷静なレイリは頼りになるね。
「リリ、いるか?」
お、フレイとデュークが来たよ。何だろう?
「はい、兄さま」
「では、殿下。私達はこれで」
「うん。レイリもアイシャも頼んだよ」
「はい。リリアス殿下」
レイリとアイシャが、フレイに一礼して戻って行った。
「リリ、剣は持ってきているな?」
「はい。父さまに頂いた物を持ってきています」
「リリの武装が城から届いた」
「武装ですか?」
そうか。以前森に行った時、騎士団も近衛師団もオクソール達も普段の制服じゃなかった。
「父上とセティが作ってくれていたらしい」
「父さまが?」
実は、騎士団や近衛師団の制服は普通じゃない。もちろん、フレイやデューク、オクソールとリュカが着ている物もだ。
防御力の高い魔物の素材を使用している。多少の事では傷つかず汚れない優れものだ。
その上、俺が作った物理攻撃防御アップ、魔法攻撃防御アップ、シールド、状態異常無効の効果を付与した魔石を認識票に付けているのだから、ほとんど無敵と言ってもいい。
俺は最前線で先陣を切る訳ではない。だから、普段の服装と変わりなかったのだが。
デュークが持ってきた物を、ニルが広げてくれる。
「兄さま、これは……」
「ああ、武装と言うより戦闘服だな」
10歳の子供に戦闘服なのか。
「でも、普通の生地に見えますね」
「だろ? だが、歴とした魔物素材だ。騎士団や俺達と同じだ」
黒のチュニック丈のシャツに、襟と中央にグリーンブロンドでラインが入っている。膝下丈のズボンにロングブーツだ。上からパーカーの膝丈のコート。これも同じ様にグリーンブロンドで縁取りをしてある。
「兄さま、これに剣帯ですか?」
「ああ、そうだ」
なんと言うか……まるでコスプレだ。前世のその手のイベントだと、撮影会が始まりそうだ。
「シェフの分も届いた」
「兄さま、本当ですか? 良かった!」
「ああ。シェフは特別だからな」
「はい!」
これを機に、俺付きのオクソールとリュカも俺と同じデザインで色使いの物に変わるらしい。勿論、ズボンは膝丈じゃないよ。ただし、俺は黒だがオクソールとリュカとシェフはダークグレーだ。
なんかちょっと嬉しい。チームみたいじゃないか? こんな戦闘服が必要な所に行くのは気が引けるけど。だってまだ10歳だからな。
因みにフレイは、第1騎士団の制服のダークグレーが黒の物になる。
「あれ? コレは……もしかしてニルとラルクのですか?」
「ああ。今回ニルとラルクは出ないが、必要な時があるかも知れない。侍女の制服では、心許ない」
ニルのも、オクソール達と同じ色で、ズボンではなくミディアム丈のスカートにブーツだ。エプロンまである。できれば、ニルには着せたくない。
これが必要な所には連れて行きたくないよ。強いのは分かっているけどさ。
「リリ、まあ備えあればだ」
「はい、兄さま」
そう言えば、聞いていなかったけど。
「兄さま、もしかしてラルクも強いのですか?」
「ああ、強いぞ。同じ年齢の者だと敵わないだろう。それ以上の歳でもな」
そうなんだ。訓練したんだろうな。努力してきたんだ。
「だが、今はまだリリの方が強いな」
ん? フレイがサラッとおかしな事を言ったぞ。
「兄さま、ボクは強くないですよ?」
「リリ、お前は自覚がないのか?」
だって俺、全然強くないよ? 毎日オクソールのしごきでそりゃあもうヘロヘロだよ。
「オクソールに、あれだけ付いていける者はなかなかいない」
いや、リュカは楽勝だよ? 息切れもしない。
「リリはオクソール以外と打ち合いをした事ないだろう? 一度やってみるといい。そうすれば分かるさ」
なんだよ、意味深だな。まぁ、いいか。俺は強くない、て事でいいさ。うん、それがいい。
「しかし、リリアス殿下。強さはご自分や大切なものを守る為に必要な時がありますよ」
「うん、デューク。そうだね、分かった」
そっか。守ってもらうばかりじゃなくて、俺も守れるのか。そう考えると、強さも欲しいな。守られるばかりじゃ嫌だ。
「ところで、リリ。王国に行った時に便利な魔道具を作っただろう? あれは持ってないのか?」
あれ? また? 嫌な予感がするよ?
「あれだ、話せる魔道具だ」
「兄さま、ピアス型のですか?」
「ああ、それだ」
俺が7歳の時に王国に行った。その時に、インカムをイメージして作った魔道具だ。魔力を流すと離れた所にいる人と話ができる。
「えっと……」
俺は腰に付けているマジックバッグをあさる。
「ああ、5個だけありますよ」
「そうか! 持ってるか!」
「兄さま、使いますか?」
「ああ、其々のフロアにいる者と連絡できれば便利だろう? 本当は各フロアにいる者に持たせたいんだ」
「じゃあ、作りますよ。魔石を下さい」
あれ? フレイとデュークが変な顔してる。
「リリ、今から作れるのか?」
「はい、ん〜と……2人に1個位でも良いですか? それ位ならなんとか。いえ、魔石があれば余分に作りましょう。あ、侍女の人達にも手伝って欲しいです。ピアス型に加工しないといけないので。職人さんが1番良いのですが」
「分かった。辺境伯にすぐ要請しよう。デューク、行くぞ」
フレイとデュークが慌ただしく出て行った。
「殿下、ご無理なさらなくても」
「ん? ニル、無理じゃないよ。ボクはね」
「ああ、そうでした。ピアス型に加工する方が手間でしたね」
「ニル、そうそう」
あの時は、ニルと侍女達総動員で加工してもらったんだ。懐かしいな。
「ニル達には感謝だよ」
直ぐに辺境伯アラウィンの側近ハイクが魔石を持ってきた。侍女や数人の職人さんも俺の部屋に待機だ。俺は以前に作ったピアス型の魔道具を見せる。ニルが説明してくれる。
俺は早速、魔石に付与する。受信する側と、送信する側。2種類の魔石が必要だ。それに、空間魔法と音声を飛ばす魔法を付与する。
「ニル、これ取り敢えず2セットね」
「はい、殿下」
ニルが早速それを持って皆に説明してくれる。俺は色々魔道具を作っているけど、いつもその陰にはニル達侍女の力があるんだ。ネックレスにしろ、認識票につけるチャームにしろ。いつもニルが手助けしてくれている。
ニルは何でも俺が思った通りに形にしてくれる。器用だね。本当、感謝だよ。
その日はずっと魔道具を作っていた。あれ? いつの間にかユキがいないね、調理場かな?
魔道具も全部作り終えて、皆で夕食だ。
「リリしゃま、なにしてましたか? ……モグモグ」
アウルースだ。食べながら一生懸命聞いてくる。
「ボクはずっとご用事があったんだ。今日はアウルと遊べなかったね」
「あい……れも、リリしゃまいしょがしいかりゃ、がまんれしゅ」
なんて聞き分けの良い! お利口さんだ!
「アウル、ずっとリリさままだかな? て、いってたじゃない」
「アーシャ、いったららめ! モグモグモグ……リリしゃまといたいの! じゅっといたいの!」
「ほら、アウル。ちゃんとお口に物がなくなってから喋りなさい。こぼしてるわ」
「あい、かあしゃま」
「アウル、ご用事が済んだらたくさん遊ぼうね。それまでごめんね」
「リリしゃま! らいじょぶれしゅ! ぼく、まってましゅ!」
「リリでんか! あたしもまってます!」
「うん、2人共良い子だね」
「皆様、この後最終確認を」
「ああ、辺境伯。分かった」
フレイが返事をして、俺を見る。大丈夫だよ。全部用意できたよ。と、頷く。
夕食後、応接室に移動した。メンバーは、辺境伯アラウィン、アスラール、アルコース、其々の側近、領主隊隊長ウル。フレイ、デューク、近衛師団団長ティーガル、オクソール、リュカ、シェフ、ユキ、それに俺だ。
部屋の隅には、ニルとラルクも控えている。このメンバーの中で、辺境伯アラウィンとアスラール、近衛師団団長ティーガルはダンジョン攻略には参加しない。
アスラールは近衛師団と領主隊の一部隊と一緒に森の入口前に待機。もしも、魔物が森から出てきた時は討伐する。アスラールと近衛師団団長ティーガルが指揮をとる。
辺境伯アラウィンは邸に待機だ。もちろん領主隊も配置する。
何かあった時には、速やかに城に救援を求める。最後の砦だ。
父の魔力で騎士団を転移できる様、俺は転移門に魔力をこめた魔石を余分に配置し、転移門自体にも目一杯魔力を込めておいた。城の方でも父が魔力を込めてくれているはずだ。
「明日の最終確認をしたいと思います」
アスラールが話し出した。もうすっかり次期辺境伯が板についている。アスラールの側近セインがピアス型の魔道具を皆に配る。
「今、お配りしているのは、フレイ殿下の要請でリリアス殿下が
前に来た時にも魔道具を作ったから、皆すんなり受け入れてるな……と、思ったら違ったよ。
近衛師団団長のティーガルがピアス型の魔道具を手にビックリしている。そっか、近衛師団は慣れてないか。防御の魔石を持ってるのになぁ。オクソールが近衛師団団長のティーガルに説明してくれている。あ、そうだ。忘れてた……リュカを見る。
「ボクからもう一つ魔道具を。マジックバッグに入っていたので、皆さんに持ってもらおうと思います」
リュカが皆に配ってくれる。
「殿下、これは?」
「アルコース殿。転移玉とボクは呼んでます。行きたい場所を思いながら魔力を込めて下さい。その場所に転移できます。1個で大人3人は転移できます。但し、行った事がある場所じゃないと駄目です。それと簡易的な物なので、一度転移すればもう使えません」
「ダンジョン脱出に良いな」
「はい、兄さま。数があったので、其々人数を考えて配布してもらえたらと思って」
「実際に使った事はあるのか?」
「はい、兄さま。リュカが」
「リュカ、どうだった?」
「はい、フレイ殿下。あの時は大人2人を抱えて転移しました。行きたい場所を思い浮かべながら魔力を込めていくと、必要量になれば勝手に転移してくれますから便利です」
「なるほど」
フレイが手に取って見ている。
ダンジョンの最深部にあるダンジョンコアを目指す計画は変わりなかった。
俺達はとにかく最深部を目指す。魔物討伐は各エリアを担当する隊員達に任せて最深部を目指す。途中、10階層ごとにエリアボスがいるそうだ。それも俺達は無視だ。エリアボスを倒さないと、次の階層には行けないので倒すのを待つ。エリアボス程度には領主隊も騎士団も負けはしない。
そうして俺達は、ダンジョンコアを守っているダンジョンボスがいるエリアの最下層を目指して進む。元々ダンジョンは、魔力を多く持つ魔物や魔石等がコアの元となる。そこに魔物の死骸が積み重なると澱みができダンジョンとなる。
ダンジョンコアがダンジョン自体の階層を作り魔物を生み出す。なので、ダンジョンコアを壊してしまいさえすれば、もうダンジョンから魔物が溢れ出してスタンピードをおこす事はなくなる。
すぐにダンジョン内の魔物がいなくなる訳ではない。数年かけて徐々に少なくなり、放っておいても最終的にはゼロになる。コアを破壊されたダンジョンに出る魔物はそう強くなく、数年は冒険者達の稼ぎ場になるだろう。ドロップアイテムもちゃんと出るからな。
そして、魔物がいなくなった後のダンジョンからは、貴重な鉱石が採れたりする。
最終的には、また何年もかけてダンジョンの入り口も崩れ、ダンジョン自体がなくなる。
しかし、ダンジョンコアを破壊しないで何年も放っておくと、どんどんダンジョンの階層が深くなり下層に行けば行く程魔物も強くなる。最下層になかなか辿り着けなくなり、ダンジョンコアも破壊できなくなる。魔物も強くなり増殖する。そしてスタンピードが起こってしまう。
そうなる前に、ダンジョンは見つけ次第コアを破壊するのが鉄則だ。
今回のダンジョンは30階層と予想される。できて間もないダンジョンは、大抵30階層だ。魔物もまだそう強くない。
早く発見できて良かった。領主隊が毎日しっかり巡回してくれているお陰だ。
「では、皆様。明日の朝出発致します。宜しくお願い致します」
アスラールの言葉で、お開きになった。
もうアウルースとアンシャーリは寝てるよなぁ。少しだけでも遊びたかったなぁ。
「リリしゃまッ! おはようごじゃましゅ!」
「アウル、どうしたの? 早いね?」
今日は森に出発するから、いつもより早い時間の朝食なのに、食堂に行くとアウルースは起きて来ていた。アンシャーリがいないのはきっとまだ寝ているんだろう。
「エヘヘ、リリしゃま」
ニコニコしながら、アウルースが側にやってくる。
「いっちょにたべるれしゅ」
「うん、一緒に食べよう」
アウルースは自分の子供用の椅子を引きずって移動させようとする。え? そう言う意味の一緒に食べるなのか? 全然、良いけどさ。小さな手で、うんしょと力を込めて引っ張っている。
「ああ、アウル。どうしたいの? 危ないよ」
俺がアウルースを止めると、フィオンが訳を話してくれた。
「リリ、ごめんなさい。どうしてもリリの側で食べると言ってきかないのよ」
「なんだ、姉さま。構いませんよ。アウル、待って。大人の人にやってもらおう」
アウルースはキョトンとした顔をしている。俺が周りを見ると、近くにいたメイドさんが来てくれてアウルースの椅子を俺の横に移動してくれた。
「アウル、ここでいい?」
「あい! リリしゃま! エヘヘ~」
おう。満足気だな。良い笑顔だ。
「アウル、リリ殿下にご迷惑お掛けしたら駄目だ」
「とうしゃま。いっちょにたべるれしゅ! リリしゃま、めいわくれしゅか?」
「全然そんな事ないよ。一緒に食べよう。アルコース殿、大丈夫です。ボクも嬉しいですから」
アウルースはメイドさんに椅子に座らせてもらい、いつもの様に首にナプキンを掛けてもらっている。ニッコニコだ。こんなにストレートに好意を表現されるのは、とんでもなく嬉しい。
「殿下、おはようございますッ! おや、アウル様。殿下のお隣ですか、宜しいですね!」
シェフが俺に料理を出しながら、アウルースに優しく話しかける。
「あい! シェフ、リリしゃまといっちょなの!」
「まあ、アウル。じゃあお昼はおばあさまのお隣に来ない?」
「あい! おばーしゃま!」
「アウル、良かったねー! さあ、しっかり食べようね!」
「あい!」
皇后様が、気遣ってくださった。俺がいなくても気が紛れる様に。
アウルースと一緒に食べる。アウルースはお顔いっぱいで食べる。美味しそうに、嬉しそうに、大きくお口を開けて食べる。小さな手に持つカトラリーが大きく見える。
満面の笑顔だ。沢山食べて大きくなるんだ。これは孫が可愛いのと同じか? なんてね。
「シェフ、ここはいいからシェフも用意してね」
「はい、殿下! では失礼致します!」
シェフが下がる。そうさ、シェフも一緒に行くんだから。
ニルとリュカが戻ってきた。俺も早く食べてしまわなきゃ。
「リリしゃま、いきましゅか?」
ああ、アウルースの短い眉が下がっているよ。そんな顔しないでくれよ。
「アウル、帰ってくるから待っててね」
「あい、リリしゃま。まってましゅ……」
「ちゃんと食べて、遊んで、お昼寝して待っててね。そしたら直ぐだよ」
「あい……」
ああ、アウルースの目から涙がポロリと溢れる。そんな、泣かないでくれ。帰ってくるんだから。
「アウル、ボクは帰ってくるから」
アウルースの頭を撫でながら、下を向いたアウルースの顔を覗き込む。
「リリしゃま、ぼくはやくおおきくなって、いっちょにいたいれしゅ。ぼくはちいしゃい、なにもれきない」
ああ、アウルースはそう思うのか。自分は何もできない。無力だと。そうか、最初に5本の樹の所でもそう言ってたな。
「アウル、ボクだってそうだよ。まだまだ兄さまやオクやリュカに助けてもらわないとできない事が沢山ある。でも、アウル。急がなくていいんだ。ゆっくりでいいんだよ。ボクもよくそう言われる。さっきも言った様に、ちゃんと食べて、沢山遊んで、しっかりお昼寝するんだ。それが今アウルのしなきゃいけない事だよ。分かるかな?」
「ぼくの?」
「そうだよ。アウルのしなきゃいけない事だよ」
「あい! リリしゃま!」
「アウルはお利口だね〜! 帰ってきたら沢山遊ぼうね〜!」
「あい! リリしゃま! いたいいたいしないれ、かえってきてくらしゃい! やくしょく!」
「うん、約束だ!」
この子はちゃんと説明すれば理解する。本当にお利口さんだ。
「ああ、なんて健気なんだよ」
俺はリュカと一緒に部屋に向かっている。
「殿下、アウル様ですか?」
「うん、リュカ。ボクは小さいから何もできないと言って、涙を流すんだよ。まだ2歳だよ。信じらんないよ」
「リリアス殿下、お着替えを」
「うん、ニル」
部屋に戻ったら、ニルとラルクが待ち構えていた。もうリュカは着ている。色違いの戦闘服だ。と、言っても普通の服と変わりない着心地と肌触りだ。でも、多少の事では切れず破れない優れ物だ。それに、父からもらった剣帯をつけ剣を装備する。あれからオクソールにしごかれて剣の扱い方を教わったんだ。剣を抜く時、鞘に収める時、本当に何度も手を切りかけた。怖い怖い。
「リリ殿下、おはようございます」
「おはようございます」
「レイ、アース。どうしたの?」
「殿下、お気をつけて」
「ああ、レイ。有難う。大丈夫だよ」
「リリ殿下」
「え? アース、どうした?」
「俺も強くなって、ご一緒できる様に頑張る」
「ハハハ、アース。期待しているよ」
「リリアス殿下」
「うん、リュカ。行こう」
レイとアースの気持ちも嬉しい。ちゃんと伝わっているよ。
リュカと一緒に邸を出ると、前庭にはもう皆集合して整列していた。
「リリアス殿下、今日はご一緒させて頂きます。宜しくお願いします」
「アルコース殿、こちらこそ宜しくお願いします」
「私の側近です」
アルコースの後ろに控えていた人が挨拶をしてくれる。
「ローグ・ヴェスターです。宜しくお願い致します」
「こちらこそ、宜しくね」
「リリ!」
ん? フレイか? ……て、えッ!? 何で!? 俺は声のする方を見て驚いた。
「驚いたか? 助っ人だ!」
「リリ、宜しくな!」
「テュール兄さま! え!? 兄さま、どうしたんですか!? まさかフレイ兄さまに無理矢理?」
「おい、リリ。酷いな」
「アハハハ、リリ違うよ。兄上達のチームの人数が少ないと聞いたからね。俺も経験したかったんだ。良い機会に恵まれたよ」
城にいるはずのテュールが助っ人に来てくれた。何か超嬉しい! それに、こんな事ができるのも転移門を修復しておいたからこそだ。