「いーやぁーッ!! ぼくもリリしゃまといっしょにいくのー!!

 アウルースが駄々をこねている。小さな身体で両手をギュッと握り締めて、お顔を真っ赤にしてフィオンに訴えている。もう涙目だ。今にも涙が零れてしまいそうだ。

「アウル、駄目。まだ小さいんだから、いくらなんでも今日は駄目よ!」

「かあしゃまー! らめはらめーッ!」

「何言ってんのかしら? もう意味分からないわ。とにかく、駄目です!」

「ゔッ……ゔぇ……ゔわぁーん! あぁーん!!

 あーあ、大泣きしちゃった。想像通りだ。アウルースが一緒に行くと言って聞かなくて、それでもフィオンに駄目だと言われてとうとう大泣きし出した。でもこればっかりは、危ないからなぁ。

「リリしゃま! ぼくらめれしゅかー!?

 大粒の涙をポロポロ流しながら、今度は俺に訴えに来た。もう見てらんないよ。でもな、危ないから駄目なんだ。俺はしゃがんでアウルースの目線に合わせる。

「アウル、今日は船に乗るから危ないんだ。あのリュカでも転ける位だからね。もしアウルが転けて、海に落ちちゃったらどうする? ブクブクーッて沈んでしまって、もう母さまや父さまと会えなくなっちゃうよ? もちろんボクともね」

「あえなくれしゅか……グシュ」

「そうだよ。みんなと会えなくなるんだ」

「いやれしゅ! しょれはいやれしゅ!」

「そうでしょ? だからアウル、今日は母さまとお留守番していてくれないかな? もっとアウルが大きくなったら一緒に行こう」

「リリしゃま……ゔぇ、ひっく……またリリしゃま、きてくれましゅか?」

「ああ、もちろんだよ!」

「やくしょく!!

「ん? ああ、約束か。うん、約束だ。絶対にまた来るよ。アウルに会いに来るよ」

「ゔッ……リリしゃま、やくしょくれしゅ。ゔぇ……きょうは……ヒック、が、がまんしましゅ。リリしゃま〜! れもいっしょしたいれしゅ……えぇーん! ゔぇーん!」

「アウル、リリ殿下を困らせたら駄目だ」

 アルコース、父親の登場だ。

「殿下、申し訳ありません。アウルの中ではリリアス殿下はヒーローなんです。アウル来なさい。もう泣きやみなさい」

「とうしゃま……ヒック……」

 ヨチヨチと歩いて、アルコースの腕の中に向かってアウルースは歩く。アルコースは抱き上げて、背中をトントンとしている。アウルースは泣き疲れたのかウトウトとし出した。

「リリアス殿下が来られて、最初に引っ張って行ったのがあの5本の樹です。アウルはあの樹に花を咲かせた皇子殿下にずっと憧れてお会いしたがってました。自分も花を咲かせたい。花を咲かせてみんなを守るんだと、よく言ってました」

 な、な、なんて健気な事を!!

「リリアス殿下が来られて、アウルは感激したのでしょう。あの皇子殿下だと。リリアス殿下は、ピカピカしていてポカポカだそうです」

「ボクが?」

「はい。昨日寝る前にアウルが言ってました。こんなにピカピカでポカポカな人は初めてだと。もう離れたくないんでしょうね。本当にアウルも頑固で困ったものです」

 あ……アウルも、と言ったぜ。『も』てな。フィオン『も』頑固だからな。

「あら、私も頑固だと言われているみたいだわ」

「頑固じゃないか。アウルはフィオンそっくりだよ」

 アルコース、はっきり言っちゃったよ。でも夫婦らしくなったなぁ。

「リリアス殿下が大好きなところまで、そっくりだ」

「いやだわ。私こんなに頑固かしら」

 あれま、なんだかホンワカしてるぞ? 俺達お邪魔じゃないか?

「リリアス殿下、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」

「いえ! アルコース殿。小さい子供なんです。迷惑なんて事はありません。このまま元気で素直に育って欲しいですね」

「有難うございます。今のうちにお出掛け下さい。私はアウルを寝かせてきます」



 さてさて、やってきましたよ! ニルズの待つ港にやってきました。もちろん、フレイも一緒だ。

「おっちゃーーん!!

「おう! リリ殿下!」

「ニルズ、宜しく頼む」

「フ、フレイ殿下! 本当に来たんですか!?

「いや、来るさ。来ると言っただろう?」

「おっちゃん、フレイ兄さまはクーファル兄さまとは全然タイプが違うから。畏まらなくていいよ!」

「リリ殿下、そうかい。ならそうするさ。さ、皆さん船にどうぞ! ああ、紹介します。俺の息子でニディです。今日は手伝ってもらいます」

「ニディです。いつも親父がお世話になってます」

 ニルズとテティの息子、ニディ。長男で漁師を継いでいるそうだ。赤茶のウェーブがかった短髪に茶色の瞳。どちらかと言うと、テティによく似ている。被っていた帽子をとって頭を下げている。

「フレイだ。今日は宜しく頼む。俺の側近のデュークだ」

「リリアスです。ボクのお友達で、アースにレイです。それから、オクソールとリュカとシェフにラルク。こっちはユキです。宜しく!」

「いや、こちらこそ! 殿下方をお乗せできるなんて光栄です!」

 アハハハ、あんま堅苦しくなるなよな。楽にいこうぜ。

「ニルズ、ニディ。今日は宜しく頼むよ」

「ああ、次期様。任せとけ」

 アスラールの事、次期様て呼ぶのか。次期辺境伯だからか?

「ニルズはあの呼び方を止めてくれないんです。名前で呼んでくれる様に言っているのですが」

 なるほど。しかし、アスラール。5年前とは違う。しっかり次期辺境伯してるよ。



「で、で、殿下! そんな立ってたら危ないです!」

 俺達は船で沖に向かっている。俺が平気で前を見て立っていたら、ラルクが立てないでいる。

「キャハハハ! ラルク、腰が引けてるよー!」

「あー、殿下! 危ないッスよ!」

 リュカがスタスタと普通に歩いてきて、俺を支える。

「リュカ! あれ? リュカ、前と違うね?」

「え? 殿下、そうですか?」

「ああ、違う」

「オク、だよねー。前はフラフラして転けまくってたよ」

「ああ、全然違うぞ。リュカ、殿下に通してもらったからじゃないか?」

「あー、そうですね! きっとそうだ!」

「リュカさぁ、自分で分かんないの?」

「アハハハ、まあ細かい事はいいッスよ!」

 リュカは、オンとオフと言うのか? 外では言葉使いが変わる、と言うか戻る。俺は気にしないからそのままで良いんだけどね。城の中だとそうもいかないらしい。

「あれ? アースとレイは?」

 あの2人、どこ行った? 絡んでこないな。と、思って見ていたらニルズの側にいた。

「ニルズさん、どこまで出るんですか?」

「ああ、もう少し行ったら良い漁場があるんだ」

「漁場って何だ?」

「漁場ってのはだな……」

 アースとレイが、ニルズにくっついてあれこれ質問攻めにしていた。

 まあ、船酔いしてなくて良かったよ。ユキさんは船も平気? お昼寝中?

「リリアス殿下、フレイ殿下が」

「え? デューク、兄さまがどうしたの?」

 デュークに言われてフレイを見る。あらら。マジか。意外な人が酔ったな。

「リリ……まだか?」

「もう少しだと思いますよ。でも、兄さま。船が止まっても、揺れは無くなりませんよ。マシにはなりますが」

 フレイが、船酔いでグロッキー気味だ。

「あー、船酔いしましたか。じゃあ、これを舐めて下さい」

 ニルズの息子のニディが、飴玉を出してきた。

「飴なんですが、薬師が開発した船酔いを治す飴です。気分もスッキリしますよ」

「兄さま、飴ですって」

「ああ、リリすまん」

 フレイが口に入れる。

「嚙まないで舐めて下さい。少ししたら楽になりますよ」

「ニディ、有難う」

「いえ、リリアス殿下。初めての人は酔いやすいですからね」

 デュークが、フレイの背中をさすっている。

「兄さまが船酔いなんて、意外です」

「俺だって意外だよ」

「フレイ殿下、少し大人しくされる方が宜しいかと」

「ああ、デューク。そうする」

 手の掛かる長男だ。


 漁場に着いて、皆並んで釣り糸を垂れる。フレイも飴のおかげで、船酔いが治ったらしい。

 俺とラルクはニルズの横で、釣り糸を垂れる。

「ねえ、おっちゃん」

「なんだ? リリ殿下」

「まだ?」

「まだだよ。さっき垂らしたばっかじゃねーか」

「そぅ?」

「ああ、そうだ。てか、5年前も同じ様な会話しなかったか?」

「そう? 気のせいだよ」

「リリアス殿下、落ち着いて待ちましょう」

 ラルクにまで言われた。

「うおッ!! デューク! ニディ! コレどーすんだ!?

「あ……兄さまがかかった」

「みたいだな」

 フレイとデュークがニディに教えてもらいながら、魚を引き上げている。

「シェフ凄い! 何でですか!?

「ハッハッハッ! リュカ! 私に掛かればこんなもんですッ!」

「あ……シェフまた大漁だ」

「みたいだな」

「シェフ、凄い」

 リュカがシェフの釣った魚を見て驚いている。ラルクまでビックリしている。

「アース! これ! どうしたらいいんだ!?

「いや、レイ! 自分で何とかしろよ! 俺だって引いてるんだよ!」

「あ……アースとレイもかかった」

「みたいだな」

「ボク、まだ?」

「まだだ……じゃねーよ! リリ殿下! 何ボーッとしてんだよ! 引いてるじゃねーか!!

「えッ!? えッ!? 殿下! どうします!?

「え!? おっちゃん、どーしよ!?

「こりゃ、デカイぞ!!

「殿下! 早く引かないと!」

 ニルズとラルクが大騒ぎで釣り上げた。俺は釣り竿を持っていただけだ。

「キャハハハ! 見て見てー!」

 ドドン! と、釣り上げた魚を見せる。ニルズがだけど。2メートルはありそうな立派なマグロだ。こっちの世界では、ツナスだったか? 釣り上げるのも必死だった。てか、俺よりデカイ。

「殿下、デカイですね!」

「アスラ殿! でしょ? でしょー!」

「フッフッフッ。殿下、まだまだですなぁッ!」

「え? シェフ?」

「どーですかぁッ!!

「げッ!!

 シェフが釣った魚を持ち上げている。なんと、俺のよりデカイ!! しかも2匹だ。

 2メートルを超えているだろうツナスを両手で軽く持ち上げている。

「またシェフに負けた!」

 前に来た時もシェフには負けたんだ。

「さて殿下、今日はどの魚をさばきましょうか!?

 シェフ、切り替え早いな。もう普通に捌くとか言ってるし。

「シェフ、おにぎりとミソスープは持ってきた?」

「はい。持ってきましたよ」

「んー、どうしよっか?」

「とりあえず、ツナスは捌きましょう!」

「うん。あと……あ。この左ロンブスにしよう」

「はい。了解ですッ!」

 シェフがさっさと捌きに掛かった。左ロンブスとはヒラメの事だ。

「殿下、捌くとは?」

「ラルク、魚をね解体するの。で、食べるんだよ」

「リリ、生で食べるのか?」

 側にいたフレイが聞いてきた。生で食べる習慣がないからな。

「はい、兄さま。新鮮だから美味しいですよ!」

「生で食べた事はないな」

「フレイ殿下、帝都では魚自体があまりありませんから」

「デューク、そうだね。転移門が使える様になって、少しは流通する様になったけど。まだ帝都民は慣れないから、あまり食べられてないね」

 俺が5年前に転移門を修復して、前よりは手軽に辺境伯領のものが手に入る様になった。でも、魚はなかなか流通しない。なんでかな? 食べ慣れてないからか?

「リリ殿下、本当に生で食べんの?」

「うん、アース。美味しいよ」

「しかし、凄いな。シェフのあれ、料理する包丁じゃないぞ?」

 フレイが感心して見ている。

 シェフが普通の包丁の何倍もの大きさの包丁で、ツナスをザックリと捌いている。

「兄さま、ツナスは大きいですから。普通の包丁じゃあ捌けないんですよ」

「そうなのか。しかし、手際の良い」

「はい。シェフは力も技術もありますから」

 アッと言う間に、シェフはツナスを捌いた。ツナスのお刺身の出来上がりだ。

「さあ、殿下。どうぞ」

「シェフ、有難う。いただきまーす!」

 チョンチョンと醬油をつけて……こっちでは、ソイか。

「ん〜! 美味しい! めちゃ脂がのってる!」

「リリ、美味いのか? そうか?」

「はい、兄さま。このソイを少しつけて食べて下さい。ほら、みんなも」

 もう以前食べて知っているオクソールとリュカは、座り込んでおにぎり片手にガッツリ食べている。アスラールもだ。

「……! 美味い! リリ、トロけるな!」

「でしょう? 兄さま、おにぎりとミソスープもどうぞ」

 アースもレイもラルクも食べ出した。ユキは生のブロックを貰って、がっついている。

「アハハハ! リリ殿下! 懐かしいな!」

「おっちゃん、本当だね。5年も経っちゃった」

「だけどまたこうして来られたじゃねーか。それで充分だ。殿下もちょっと大人になったしな」

「えー、ちょっと?」

「ああ。ちょっとずつでいいんだ」

 ニルズが親目線、いや祖父目線で見ていてくれるのが有難い。

 皇帝はこの世界の父親だが、やはり皇帝。いや、嫌いじゃないよ。ちゃんと親として好きだぜ。

 でも、やはり皇帝だと言う意識は当然大きい。

「殿下ぁッ! 私、今日は潜りますよぉッ!」

 またシェフが言ってるよ。5年前も言っていた。

「えー、シェフ駄目!」

「え、殿下。今日は準備もしてきて……」

「駄目。シェフは作る人で捕る人は漁師さんて前にも言ったじゃん」

「ハハハハ! シェフ、また言ってんのか!」

 そうだよ、ニルズ。何とか言ってやってくれよ。それよりフレイだよ。

「兄さま、めちゃ食べてますね」

「美味いからな!」

 フレイが、ツナス、左ロンブス、おにぎりと順に頰張って食べている。

「フレイ殿下、海底にも美味いのがいるんですよ。それを捕りに潜りたいのですが、リリ殿下が駄目だとぉッ!」

「そりゃそうだろ。そういうのは漁師に任せる方が良い。慣れない者が潜ったら危険だろう?」

「ほら。フレイ兄さまも同じ事言ってるじゃん」

「殿下ぁーッ! 今日だけッ! 今日だけお願いしますッ!」

 側にいたオクソールがおもむろに立ち上がった。

「では、私が……」

「いや、だからオク。なんでだよ」

 このくだり、5年前もやったぞ?

「殿下、今日だけ! 一度だけですぅッ!」

「もう。兄さま、どうしましょう?」

「シェフ、お前絶対に無事に戻ってこいよ? リリのシェフはお前だけなんだからさ」

「もちろんです! 分かっていますッ!」

「まあ、じゃあ一度だけ良いんじゃないか?」

「殿下ぁッ! 有難うございますッ!」

 ニディが一緒に潜ってくれる事になった。もうシェフは、なんでそんなに潜りたいのかね。

「シェフ、これをくわえて下さい。息が続かなくなる事がありませんから」

 ニディがシェフに長細い小さな白い石? を手渡した。表面は多孔質か? 軽石の様な表面だ。

「この辺りの漁師は皆持ってます」

「おっちゃん、あれ何?」

「ああ、咥えておくと息ができるんだ」

「へえ、天然の物?」

「ああ、領内で採れる石だ。石と言っても軽いんだ」

「へえ、凄いね」

 前世のダイビングみたいに背中に大きなタンクを背負わなくてもいいんだ。ファンタジーだよ。

 シェフがニディに先導されて、海に飛び込んだ。素人だし、潜れないんじゃないか? なんて軽く思っていたんだが。シェフはまた凄かった。軽く水を蹴ると、すんなり潜って行った。

「もう、シェフの身体能力はどうなってんの?」

「凄いですよね」

「リュカ、できる?」

「いや、俺は泳ぐのは苦手です。泳げますけどね」

「獣人は皆苦手ですね」

「じゃあ、オクなんで潜りたいと言ったの?」

「まあ、一度海の底を見てみたいと」

 オクソールも意味不明だ。そうして暫く潜っていたシェフが、海から顔を出すなり叫んだ。

「殿下ぁッ! 凄いですッ!!

「シェフ! どうしたの!?

「この辺り全部ですッ! ビッシリとぉッ!! ウニと牡蠣です! この辺りの海底にビッシリとです! 一面全部ですッ!」

「えぇーッ!!

 シェフとニディが船にあがってきた。

「アハハハ! シェフ! 面白すぎです!」

 船にあがるなり、ニディが爆笑している。

「ニディ、迷惑かけちゃった? シェフ、食べ物の事になると見境ないから」

「いえ、殿下。迷惑など全然です。それより、シェフが……アハハハ!」

「ニディ、そんなに笑わなくても」

「だってシェフ!」

 え? シェフ、何やったんだ? ニディの話だと、シェフはウニや牡蠣がびっしりとある海底が見えた途端に、その海底目掛けて突進? して行って海底で両手を広げてもだえていたらしい。

 まあ、気分は海底を抱きしめたかったのだろう。うん、多分。

「それでですね、殿下」

 シェフがウニの殻を割りながら話す。

「うん、シェフなぁに?」

 俺は、それをフォーク片手に待っている。小さいスプーンが欲しい。

「私、気付いたのですが、ここから沖は深くなっています。あんな大型のツナスが回遊してくる位ですから。はい、どうぞ。割れましたよ」

「うん、有難う。それで?」

 ウニをもらい食べる。美味い! 甘いんだよ。

「浅瀬になっている場所があるんですよ」

「え、そうなの?」

「はい。今、船があるこの辺りは徐々に深くなっていっています。もう少し沖に出ると、もっと深くなるでしょう。ここはちょうど境目ですね。陸からこんなに離れているのに浅いんです。珊瑚礁なんです。で、殿下。陸側の海をよーく見て下さい」

 え、陸側……? シェフがあの辺と、指を差す方をじーっと見る。

 んんー………………んッ!?

 珊瑚礁らしき白い物が見える。もしかして円になっているのか? 珊瑚礁が浅瀬の海面近くまで積み重なっているから白く見えるんだ。

「あれれ? おっちゃん!」

「なんだ?」

「あそこ! あれ白くない?」

 俺が指差す方をニルズが見る。

「ああ、あそこか。あそこは浅くてこの船では行けないんだ」

「おっちゃん、あそこ何とかして行けないの?」

「一度港に戻って船を乗り換えたら行けるぞ」

「行きたい!」

「まあ、明日にしな。今日はもう無理だけど、明日なら船を用意しておいてやるよ」

「そう? いいの?」

「ああ。いいさ。な、ニディ」

「はい。明日準備しときますよ」

「本当? 迷惑掛けちゃうね」

「いえ、リリアス殿下。嬉しいです」

「え? ニディ、どうして?」

「親父に凄い自慢されてたんですよ。リリ殿下、リリ殿下って。だから、今回は俺もご一緒できて嬉しいです」

「有難う。おっちゃんもニディも有難う!」

「まあ、今日は食べな!」

「うん!」

「殿下! ウニと牡蠣もどうぞ! 牡蠣はソテーしてみました!」

 ソテーの匂いに釣られてフレイがやってきた。

「おー! 美味そうだ!」

「フレイ殿下、どんだけ食べるんですか!」

「デューク、いいじゃん。美味いんだよ」

「兄さま、お腹大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ! 外で食べる事なんてないしな。それに捕れたてだぞ?」

 フレイよ、食べ過ぎで腹痛くなっても知らないぞ。


 捕れたての海の幸をたらふくたんのうして、辺境伯邸に戻ると、アウルースが待っていた。

「リリしゃまッ!!

「アウル、ただいまー!」

 アウルースが抱きついてきたので、俺は抱きとめる。

 俺、10歳だけど2歳児を抱っこするのはちょっと怖い。だから抱きとめるだけ。

「リリしゃま! まってたの!」

「そう。お利口にしてた? 母さまを困らせなかった?」

「あい! おりこうちてた!」

「リリ、お帰りなさい」

「フィオン姉さま、ただいま!」

「リリ、兄上はどうしたの?」

「あー、食べ過ぎですよ。途中でデュークが止めてたんですけどね。きかなくて」

 フレイは案の定食べ過ぎで、腹を抱えている。痛くはないらしい。苦しいんだと。

 そりゃ、凄く食べていたからな。

「姉さま、実は明日も行く事になってしまって……」

「えぇぇッ!! リリしゃま! あちたもぉッ!?

 アウルースが、この世の終わりの様な顔をして驚いている。そんなに、ショックを受けなくても……俺、めちゃ罪悪感だよ。

「うん。アウル、ごめんね。でも、今日も早く帰ってきたでしょ? 明日も早く帰ってくるから。アウルがお昼寝してる間に帰ってくるよ」

「うぅ……リリしゃま……かえってきましゅか?」

「うん! もちろん!」

「じゃあ、かえってきたりゃ、あしょんれくりぇりゅ?」

「うん、約束だ!」

「じゃあ、まってりゅれしゅ」

 うぅ……アウルース。ごめんよぉ。罪悪感に潰されそうだ。

「アウル、今日はもうお昼寝した?」

「あい、したれしゅ」

「じゃあ、これからボクとユキと遊ぼう!」

「リリしゃま!」

 目をキラキラさせてるよ。可愛いなぁ。早速俺は、アウルースと邸の裏に来ている。ユキが横にいる。レイとアース、リュカとラルクも一緒だ。

「リリしゃま、こわくない?」

「怖くないよ。近寄り過ぎなければ大丈夫」

「マジかよ! 超デカイ!」

「アース、本当に!」

「殿下、コレ魔物ですよね?」

「ラルク、そうだよ。ここでは飼ってるんだ」

 俺達は鶏舎に来ている。と、言っても鶏舎にいるのは、ホロホロヤケイとレグコッコ。どちらも歴とした魔物だ。魔物を見るのが初めてのアース、レイ、ラルクは驚いている。

 鶏舎の中から、ヒョコッとシェフが顔を出した。

「おや、殿下。見学ですか?」

「うん。アウルと遊んでるの」

「シ、シェフ! あぶにゃいぃッ!!

 アウルースが驚いてアタフタしている。

「ハハハ、アウル大丈夫だよ。シェフは凄く強いから」

「ひょ〜! シェフ、ちゅよいれしゅか!?

「そうなんだよ。リュカより強いからね」

「ひ、ひゃ〜! リュカより!?

「アハハハ、そうですよ。シェフは強いんです」

 リュカ、笑ってる場合かなぁ?

「シェフ、また卵なの?」

「はい、殿下。この卵は絶品ですからね。また、プリンでも作りますよ」

「わ、プリン! 楽しみ! アウルはプリン好き?」

「らいしゅきれしゅ!」

「アハハハ、そうか! シェフのプリンも美味しいよ!」

「殿下、魔物の卵ですか?」

「うん。そうだよ。リュカ、説明して」

「あのですね、茶色で大きい方がホロホロヤケイで、肉が美味いです。白くて一回り小さいのが、レグコッコで、卵が美味いです」

「ほぉ〜! 知りませんでした!」

「ラルク殿、そうですか。美味いですから、楽しみにしていて下さい!」

 ではッ! と、シェフは戻って行った。さっき海に潜っていたかと思ったら。タフだなぁ。

「リリ、我もそのプリンとやらを食べたい」

「うん、ユキ。シェフに作ってもらおう」

 ユキさん、食いしん坊だもんね。

「殿下、マジでシェフ大丈夫なんですか?」

「ああ、アース。シェフなら威圧一発で平気だよ。それで駄目なら蹴りを入れるらしいよ」

「威圧! 蹴り!?

 おや? 驚いたか? シェフは楽勝だぞ?

「我も威圧で一発だ。あれは美味い」

「ユキ、食べてたの!?

「まあ、タマにな」

 ユキさん野生的だね。まあ、野生なんだけど。

「アース、レイ、ラルク。向こうにも魔物がいるんだよ」

 俺はアウルースと手を繫いで移動する。

「リリしゃま、あっちはモーモーしゃんれしゅ!」

「よく知ってるねー!」

 そうだ、今度は牛舎に来ている。こっちも超デカイ魔物だ。大きい方は2メートルはある。

「リュカ、お願い」

「はい。赤褐色と黒褐色の大きい方がオータウロスと言って肉が美味いです。白と黒のブチの少し小さい方がミルタウロスと言ってミルク用ですね」

「はぁ〜! デカイ!」

「殿下、辺境伯領はこれが普通ですか!?

「ああ、らしいよ。でも、ミルクも美味しいんだよ」

「ほぉ〜……!

 あらら、ラルクまでビックリか?

「モーモーしゃん! けられりゅから、ちかくはらめ!」

「おー、アウル偉いねー。そうだよ、危ないから近寄ったら駄目だよ」

「あい!」

「蹴られる!?

「そうですよ、アース様。シェフみたいに威圧できないなら、近寄ったら駄目です。蹴られますよ」

「リュカさん、マジ!?

「マジです。あいつら魔物ですからね。人間を舐めてるんですよ」

「今は我がいるから大丈夫だぞ?」

 ユキは神獣だから? あれ? なんでみんな固まってんの?

「殿下、そりゃあ魔物を見る事がありませんから」

「あー、そうだった」

「リリしゃま、まものいないれしゅか?」

「ん? ボクが住んでるところにかな?」

「あい」

「いないよ。だからね、皆珍しいんだ」

「ほぇ〜、いないれしゅかぁ」

「そっか、アウルは魔物がいて当たり前の所に生まれたからなぁ」

「あい? リリしゃま?」

「あー、アウルが住んでるところには魔物がいるから、魔物がいない所を知らないんだよね?」

「あい。しりゃないれしゅ」

「でもね。魔物はいるけど、ここは良い所だよ。ボクは大好きだ」

「リリしゃま、しゅきれしゅか?」

「うん。好きだよ。アウルは好き?」

「あい。しゅきれしゅ。おしょらはきれいれしゅ。うみもかわも、はたけもみんなきれいれしゅ。あと、あと、おいちいれしゅ!」

「アハハハ! そっか! アウルは賢いなぁ!」

「良い子だ」

 ユキ、そうだね。偉いよ。よく分かってるよ。空に海に川に畑か。アウルースは大事な事をもう分かってるんだな。まだ2歳なのにさ! 本当、良い子だ!



 翌朝、俺は港に向かう為に、オクソールに馬に乗せて貰っている。

 アウルースがグズらずにちゃんと送り出してくれた。聞き分けのいい子だ。

 早く帰って一緒に遊ぼう。アースは朝からアンシャーリに捕まってしまった。今日は1日アンシャーリの相手だ。レイもそれに付き合う。アース1人だと不安だからな。

「殿下、アウル様お利口さんでしたね」

 リュカが並走しながら話してきた。リュカはラルクを乗せている。

「ね、リュカ。あの子は賢いよ。ちゃんとボク達が話している内容を理解している。大きくなるのが楽しみだ」

「殿下、またおじさんみたいな事を」

「アウルはいい子だ。この地に必要な子だ」

 俺が乗る馬の、直ぐ横を走っているユキが言った。

「ユキ、そうなの?」

「ああ。我はそう思う」

「そっか。次男のアルコース殿の息子なんだけどな」

「後継者と言う意味ではないぞ。リリは特別だが。時々その地に愛された子が産まれる。アウルはそうだ。この地に愛されている」

「そっか。そうなんだ」

 アウルースは言ってたなぁ。空が綺麗で、海も川も畑も綺麗だと。

 あの子の目には、どんな風に映っているんだろう。


「リリ殿下! こっちだ!」

「おっちゃん! ニディ!」

 港で2人が待っていてくれた。

「今日は少ないんだな」

「うん。アースとレイがアンシャーリの相手をしてるんだ」

「そうか。嬢ちゃんか。まぁ子供は皆そんなもんだ。さ、今日はこっちだ」

 俺達は馬を預けて、ニルズとニディの後を歩く。今日のメンバーは、オクソール、リュカ、シェフ、ラルク、ユキそれにアスラール、アスラールの側近セインだ。

 側近のセインは何度も会っているが、控えめな人でまだあまり話したことがない。

「それよりフレイ兄さまだよ。大人なのに」

「フレイ殿下がどうかしたのか?」

「食べ過ぎなんだよ」

「へ? 食べ過ぎなのか?」

「おっちゃんそうなの。兄さまって、子供みたいな所があるんだよ」

「クーファル殿下とはまた全然違うんだな」

「うん。クーファル兄さまはいつも冷静で頼りになる。でもね、カリスマ性ではフレイ兄さまなんだ」

「ほぉ。さすが次期皇帝じゃねーか」

「親父、俺先に乗るから」

「ああ、分かった。殿下、今日の船だ。昨日より小さい船じゃないと、あそこに行けないんだ。浅いからな」

「うん。おっちゃん」


 もう船は動き出して、昨日シェフが見つけたポイントを目指している。

「シェフ、どこら辺だった?」

「殿下、もう少し沖ですね。白く見えたので、きっと珊瑚礁があるのでしょう」

「うん。どうなってるんだろう。楽しみだ」

 実は少し思い浮かべている事がある。

 前世、地球で世界遺産に登録されていたアレじゃないかな? て、思っている。

 だって、浅瀬で珊瑚礁だからな。前世でも見た事ないから、是非見てみたい。

「殿下! もうすぐだ! あそこに白く見えるだろ?」

 ニルズが指差す方を見る。確かに白く見える。もう少し近くで見たい。

 どんどん船が近づいて行く。今、船が進んでいる海底にも珊瑚がある。海の色が違う。その上、透明度が高い。綺麗な海だ。地球だと、良いリゾート地になるだろうな。

 まあ、ここには魔物がいるんだけど。そのうち、大海原に白い珊瑚が頭を出しているのが分かる距離まで来た。そして船からでも分かる程、海の色が違って見える。

 やはり、そうだ。これは凄い。実際に見られるとは感動だよ。

「殿下、ここだ」

「うん、おっちゃん」

「殿下、これは……?」

「昨日シェフが見つけたのが、この円状に残った珊瑚だね。これはブルーホール」

「ブルーホール?」

「殿下、ブルーホールって言うのか? ここだけ海の色が違うから、地元の連中は気味悪がって近付かないんだ」

「おっちゃん、そうなの?」

「そうなんですよ。だって殿下、魔物でも出てきそうでしょう?」

「ニディ、色が違うから?」

「はい。この珊瑚礁の内側だけ海の色が違います」

「うん。それは単純に深さが違うからだ」

「深さですか?」

「そう。ここはね……」

 俺はブルーホールを説明した。ブルーホールとは、まるで海中に現れる巨大な穴のような場所の事だ。浅瀬の海底に穴が空いて、その部分だけ水深が深くなるため、上空から見るとその部分だけ色が濃く、まるでそこから怪物でも現れそうな場所に見える。

 昔あった洞窟や鍾乳洞が何らかの理由で海中に水没してしまった事から、海の一部に巨大な空間が作られたと考えられている。

「殿下、じゃあ魔物の巣とかではなく?」

「うん。まったく違うね。もしかしたら、海中に鍾乳洞があるかも。ああ、鍾乳洞て言うのはね、岩が水や地下水などによって浸食されてできた洞窟なんだ。この辺は石灰岩が多いから可能性はあるんだ」

「殿下、その石灰岩とは何ですか?」

「ラルク、ほら白っぽい岩だよ。この領地では防御壁とか魔物避けとかに色々使われている」

「そうなんですか。殿下はよくご存じで」

「そう? クーファル兄さまは、もっと詳しく知っていると思うよ」

 そうだよ。クーファルがいないから誰も分かってくれない。凄さを分かってくれない。

「ここに潜ってみたいなぁ」

「殿下、それは私が……」

「だからオク。それは違う」

「殿下、何かあるんですか?」

「もしかしたらまた魔石があるかもだけど。そうじゃなくて、ボクはこの中の景色を見てみたいんだ。もし、鍾乳洞があるなら入ってみたい。単純にボクの好奇心だよ」

 だってブルーホールだよ! しかも海の中に鍾乳洞があるかも知れないんだ。

 そりゃあ、是非とも見てみたい!

「殿下、俺ちょっと潜ってきますよ」

 ニディが、ちょっとそこまで行ってくるみたいなノリで言う。

「ニディ、危ないよ」

「殿下、大丈夫ですよ。俺は毎日漁で潜ってますから」

「ニディ、油断したら駄目。かなり深いから」

「はい、殿下。じゃ、ちょっと行ってきます」

 そう言ってサッサと海に飛び込んだ。

「ニディ! おっちゃん! 大丈夫なの!?

「あ? ああ、大丈夫だろ。あいつはこの辺じゃあ潜るの1番上手いからな。アハハハ!」

 暫くして、ニディが海面に顔を出した。早いな、もう海底まで行ってきたのか!?

「殿下! 凄いです! 見て下さい!」

 ニディが何かを投げた。ニルズがそれを受け止める。

「リリ殿下……コレ……!」

「おっちゃん……デカイね!」

「デカイよ……」

「親父! まだまだ沢山あるんだ! 網の袋をくれ!」

「おう!!

 ニルズが網の袋を投げると、それを持ってニディがまた潜る。

「殿下、これは……!」

「アスラ殿、魔石だ。本当にあるとは思わなかったよ」

 ニルズの手には、ニディが海底から取ってきた魔石がある。直径10センチメートルはあるだろうか。完全な球体じゃないけど、それでも大きい。この大きさの魔石を帝都で購入すると、一体いくらになるだろう。俺には想像がつかない。

「でも殿下はさっき、あるかもと言ってましたよね?」

「うん、アスラ殿。ほら、5年前に小島のある海岸で見つけたでしょ? あれを思い出したんだ。だから、もしかしたらあるかもとは、思ったんだけど。まさか、こんな大きな魔石があるなんて」

「殿下! 凄いですよ!」

「うん……でも……」

 ニディがまた顔を出した。

「ニディ! とにかく一度上がって!」

「え? 殿下、分かりました」

 手に大きな魔石を何個も入れた袋を持って、ニディは船に上がってきた。

「リリ殿下、この下かなり深さがあるのですが、海底に魔石がビッシリとありました!」

「うん、ニディ。でもね、危険かも知れない」

「殿下?」

「これ、魔物の魔石だよね? 魔物が死んだから魔石になったんだよね? じゃあ、その魔物は? もしかして魔物がこの辺にいるんじゃないの?」

「ああ、殿下。それはないです」

「ニディ、どうして?」

「この辺は浅いです。この大きさの魔石を持つ様な大型の魔物は入ってこられないんですよ」

「じゃあ、どうして魔石はあるんですか?」

「ラルク、そうだよね」

 俺は考える。んー、こんな時にクーファルがいればなぁ……。

「今日は一度戻ろう。安全が確認できない限り、駄目だよ」

「そうですね。リリアス殿下の言う通りだ」

 俺達は港に戻ってきた。

「ニディ、横穴とかなかった?」

「ありました! 人が余裕で立って入れる位の大きな横穴が」

 多分、洞窟になってるんだろうなぁ。

 しかし、問題は魔物だ。どうして、あそこに魔物の魔石が集まっているんだ?

「ニディ、ボクがいいと言うまで潜らないでね」

「殿下、分かりました」

「殿下、どうするんですか?」

「んー、ラルク。クーファル兄さまに相談したいんだ」

「殿下、その横穴も入ってみたいですね。どこかに繫がっていたりして」

「シェフ、そんな事は……」

 なんだ? もし繫がってたら……てか、大きな鍾乳洞だと言ってたな。

 んー、分かりそうで、ピンと来ない。なんだ……? 何か見落としているのか?

「おっちゃん、ニディ、有難う! 今日はとりあえず帰るよ!」

「おう、リリ殿下。何か分かったら知らせてくれ!」

「うん! 分かった!」


 俺達は辺境伯の邸に戻ってきた。昼食前に戻ってきたので、アースとレイが驚いている。

「リリ殿下、早いですね。どうしました?」

「うん、レイ。ちょっとね」

 俺はアスラールに、直ぐに部屋で書いてくるのでクーファルに手紙を出したいと伝える。

「では、父の執務室まで」

「うん、アスラ殿分かった」

 俺は急いで部屋に戻る。

「ニル、ただいま」

「殿下、お早いですね。どうかされましたか?」

「うん。クーファル兄さまにお手紙書きたい」

「分かりました。こちらに……」

 ニルが机にお手紙セットを用意してくれる。俺は今日のブルーホールの事を詳しく書く。

 そして、ブルーホールの海底に沢山の魔石があった事、鍾乳洞があるらしい事。危険がないか分からない事を書いた。クーファルならこれだけ書けば理解してくれるだろう。

 リュカと一緒にアラウィンの執務室に行くと、アラウィンと側近のハイクと、アスラールと側近のセインがいた。

「アラ殿、これをクーファル兄さまに」

 俺が5歳の時に作った魔道具の小箱にお手紙を入れて魔力を流すと、お手紙は城に転送される。

「殿下、アスラールから聞きました。また魔石が出たとか」

「うん。そうなんだ。見た? 大きいでしょ?」

「はい。驚きました」

「それだけの魔物がどこにいたかなんだよ」

「しかし、殿下。ニディも申し上げたと思いますが、あの浅瀬には大型は入ってこられません」

「うん。そうだよね。なら、どうしてあそこに魔石があったんだろう?」

「殿下、鍾乳洞ですか?」

 お、セインが初めて喋った。

「そうかも知れない。もしかして、外海に繫がってるのかも。それなら、危険なんだ」

 そんな話をしていると、魔道具の小箱についている魔石が光った。

「あ、クーファル兄さま。もうお返事くれたのかな?」

「殿下、どうぞ」

 ハイクがお手紙を手渡してくれる。俺はその手紙を読む。

「あらら……」

「殿下、どうされました?」

「アスラ殿、クーファル兄さまが直ぐにこっちに来るって」

 慌てて地下の転移門のある部屋で辺境伯と一緒に待っていると、クーファルとソールが転移してきた。即行じゃないか。

「リリ! 手紙読んだよ!」

「クーファル兄さま! すみません、ボクでは分からなくて」

「いや、興味深い。是非ブルーホールを見てみたい!」

 クーファルも、好奇心に駆られたか。そうだよな、俺だってそうなるさ。だが先にだな。

「兄さま、お昼食べましたか?」

「え? リリ。急いで来たからまだだが?」

「ボクもです。兄さま、お腹が空きました」

「ああ……アハハハ。リリそうだね。私も頂いてもいいかな?」

「クーファル殿下! もちろんです! ようこそお越し下さいました!」

「辺境伯、急にすまないね。母上や兄上まで世話になっていると言うのに」

「いえ、とんでもないことです! さぁ、どうぞ」


「何でだよ! 何でクーファルがいるんだ!?

 昼食を食べに食堂に入ると、フレイがめっちゃ嫌そうに突っかかってきた。

「兄上、昨日食べ過ぎで寝込まれたとか。何をなさっているんですか」

「寝込んでねーよ!」

「兄上……」

「フレイ兄さま、すみません。ボクです。ボクには分からない事があって、クーファル兄さまに相談したのです。そしたら、兄さまがわざわざ来て下さって」

 そう話しながら、俺は食べるけどな。シェフの食事は美味しい!

「シェフ、これはドリア?」

「はい、リリアス殿下。久しぶりでしょう? グラタンはよく作っておりましたが」

「そうだね、美味しい!」

「有難うございますッ!」

「シェフ、本当に美味しいわ。このホワイトソースもチーズもとっても美味しい。ねぇ、皇后様」

「ええ、本当にそうね。とっても美味しいわ。フレイ、文句言ってないで食べなさい」

「母上、しかしクーファルが!」

「だって、フレイだとリリアスの疑問に答えられないのでしょう? 仕方ないじゃない」

「リリしゃま、リリしゃま」

「ん? アウルどうしたの?」

「リリしゃまの、にいしゃまれしゅか?」

「そうだよ。2番目の兄さまだ。クーファル兄さまだよ」

「くー、くーふゃる……」

 アウルース、ホワイトソースでベトベトのお口がタコさんみたいになってる。クーファルて言いにくいんだな。

「アハハハ、可愛いね。お口の周りがベトベトだよ? フィオンの子かな?」

「はい、兄上。アウルースです。アウル、母様のお兄様よ。ご挨拶は?」

 フィオンがアウルースの口の周りを拭く。アウルースはまだ1人ではちゃんと食べられない。スプーンを片手に持って一生懸命食べているが、汚さない様に首にかけられたナプキンにもこぼしている。小さい子は何でも一生懸命だ。それがまた健気に見えるんだ。