「初めまして、上手にご挨拶できるんだね。宜しくね。ボクはリリ。リリでいいよ」

「リリでんか?」

「うん、そうだよ。アーシャも一緒に沢山遊ぼう!」

「はい! リリでんか! リリでんかとってもかわいいです!」

「アハハハ、アーシャには敵わないな〜! アーシャはお姫様みたいだ!」

 次期辺境伯、アスラールの子でアンシャーリ・サウエル。ブルーシルバーの髪を緩くおさげにしていて、瑠璃色の瞳だ。アスラールによく似ている。ちょっと勝気そうな女の子だ。

「殿下、妻です」

「お初にお目に掛かります。ラレース・サウエルと申します。宜しくお願い致します」

「アスラ殿の!? 初めまして、リリです! 宜しくお願いします」

「まあ! こちらこそ! 姉からいつもお話を聞いていて、お会いできて光栄です」

 金髪にオレンジの瞳。穏やかそうな女性だ。前に聞いていた幼馴染だな。薬師のアイシャの妹だ。

「アウル、おばあさまよ」

 フィオンに連れられアウルースが皇后様に挨拶していた。

「かあしゃま、おばあしゃま?」

「そう。母様の母様よ」

「まあ……! なんて可愛いのかしら!」

 皇后様はそう言ってアウルースを抱きしめた。あー、フィオンの母だ。やる事がそっくりだ。

「母上、アウルがビックリしますわ」

「あらあら、フィオンごめんなさい。だってこんなに小さくてプクプクなのよ!」

「アウルース、俺は母様の兄様だ」

 フレイが横から顔を出す。

「にいしゃま?」

「アウル、伯父様ね」

「いや、フィオン。それは嫌だ」

「だって兄上、伯父じゃないですか」

「まあまあ! あなたは本当にお姫様みたいね」

 皇后様はもうアンシャーリに目がいってるよ。

「アンシャーリです!」

「はい、お利口さんね。おばあさまよ。宜しくね」

「おばあさま!」

「はい。おばあさまよ」

「リリアス殿下、りんごジュースどうぞ」

「アリンナ様、有難うございます」

「リリしゃま、りんごじゅーしゅちゅき?」

 トコトコとアウルースが寄ってきた。

「うん。大好き。アウルは?」

「ぼくもちゅき!」

「そうか! 美味しいもんね! アウル、アーシャ、おいで、一緒に飲もう!」

「あい! リリしゃま!」

「はい! リリでんか!」

 あぁー! 癒されるぅ〜! 両手に花だよ! あのぷっくりとしたほっぺに、スリスリしたいよ!

「アハハハ、リリ殿下。もうメロメロだね!」

「アース、だってやっと会えたんだよ!」

「だあれ?」

「アウル、アーシャ、ボクのお友達だよ。アースっていうんだ」

「あーしゅ?」

「ああ。宜しくな。アウル、アーシャ」

「アウル、アーシャ、僕はレイだよ」

「レイ」

「そう、レイだ」

 もう、キリがないぜ。子供は天使だ!

「アウル、リュカとオクだ。こっちはラルク」

「ん〜、オキュ、リュカ、えっと……りゃりゅく!」

「そうそう! お利口さんだね〜! 凄いや!」

「いや〜、思い出しますね〜! 殿下の、りゃりりゅりぇりょ! 可愛かったですよね!」

「リュカ、思い出さなくていいよー!」

「殿下のお小さい頃に少し似ておられますか?」

 オクソールが、目尻を下げて言う。オクソールのこんな顔は珍しい。

「オクソール、そうでしょう? 似ているわよね!」

「はい、フィオン様」

「あら、私はリリの母様だから、アウルの何になるのかしら?」

 あー、母よ。それは多分残念ながら……。

「母さま、おばあさまでは?」

「リリ、それは嫌だわ」

「そうね、エイルはまだそんな歳ではないものね」

「あら、皇后様もですわよ?」

「でも、おばあさまって呼ばれると嬉しいのよ。心が温かくなるわ。孫は可愛いと言うけれど。駄目ね、その気持ちが分かるわ」

 ああ、幸せだよ。やっと会いに来られた。やっと俺のお休みだー!

「皇后様、エイル様、フレイ殿下、リリアス殿下、実は邸の近くの領民達がお姿を見たいと集まって来ておりまして。宜しければ、お姿を少しお見せ頂けたらと」

 あらら……そうなんだね。アラウィンが申し訳なさそうに言った。

「辺境伯、邸の外に出れば良いのか?」

「はい、フレイ殿下、邸の前庭に集まっておりますので。申し訳ありません。普通なら領都の中を馬で通ります。それがないもので」

 ああ、そっか。転移門でサクッと来ちゃったからね。

「アラ殿、以前来た時もそうでしたね。領民の人達が沢山出迎えてくれてました」

「はい、リリアス殿下。そうでしたね。懐かしいですな」

 俺達は、辺境伯の案内で邸の正面玄関に向かう。外に出ると階段が数段あってその1番上に出た。

 俺は母の横で末席に立つ。末っ子だからね。

 ──あ! 出てこられた!

 ──リリ殿下だ! 大きくなられた!

 ──まあ! 皇后様だわ!

 ──リリ殿下、今回はお母上とご一緒なんだ! 良かった!

 ──フレイ殿下だ!

 邸の前庭は、大勢の領民が集まっていて大騒ぎだった。一体何人集まっているんだ?

「リリ、前もこうだったのか?」

「兄さま、そうですね。でも、前は沿道でしたから。これ程ではありませんでした」

 その時だ。一際、大きな声が聞こえた。

「リリ殿下ぁッ!! 待ってたぜーッ!!

 この声は……!! 俺は少し前に出て、声の主を探す。

「リリ、あまり前に出るな」

 いつの間にかユキが俺の横に出てきている。

「ユキ、だってこの声!」

「ああ。懐かしいな」

 どこだよ! どこにいるんだ!? 俺はキョロキョロして声の主を探す。

「リリ殿下!!

 もう一度聞こえた。声がした方へ目をやる……いた! 2人共いたよ! 変わりない! 2人でめっちゃ手を振ってくれている! 懐かしい顔だ。ああ、どうしよう。涙が出そうだ。俺は大きく手を振りながら駆けだしていた。

「おっちゃーん!! テティー!!

「殿下!!

 リュカが叫んでる。だが俺は止まらず階段を駆け下りる。俺の直ぐ横をユキが走る。後ろからはオクソールとリュカが付いてきている。

 俺が進む先を人集りが分かれて行く。アハハ、モーゼみたいだ!

「おっちゃん! テティ! みんなー!! 来たよー! やっと来れたー!!

 走りながらそう叫ぶと、集まった領民達が一斉に声をあげる。

 ──おおーー!

 ──リリアスでんかー!!

 ──お待ちしてましたー!!

 俺はそのままニルズに抱きついた。

「リリ殿下! 何やってんだ! 危ねーじゃないか!!

「おっちゃん! テティ! やっと! やっと来られたんだ!! 5年も掛かっちゃった!」

 ニルズが俺を抱き上げる。おいおい、腰にくるぞ。俺はもう10歳だからな!

「殿下! 大きくなられましたね!」

「テティ! 元気そうだね!」

「はい! 殿下も!」

「相変わらず無茶するぜ!」

「だって、おっちゃんの声が聞こえたんだもん!」

「アハハハ! 殿下! 待ってたぜ!」

 全然変わらない豪快な笑顔だ。少し潮の匂いがするのも変わらない。

「うん! おっちゃん!」

「オクソールさんもリュカもよく来た!」

「はい、お変わりなく」

「はい! お元気そうで!」

「ユキも相変わらずかっこいいな!」

 ユキがブンブンと尻尾を振っている。ネコ科もこんなに尻尾を振るんだな。

 ──殿下ー! お帰りなさーい!

 ──リリ殿下!

 ──ようこそー!

 領民達が口々に歓迎してくれる。なんて、有難いんだ。ああ、俺はやっと来たんだ!

「みんなー! 有難うー! やっと来たよ! また一緒に遊ぼう!!

 俺はそう言いながらブンブン手を振った。

 領民達が、おおー!! と沸いた。

「アハハハ! 殿下! 一緒に遊ぼうはないぜ!」

 その時、俺達を丸く囲んでいた人集りが割れた。

「リリ! 紹介してくれ!」

 フレイが颯爽とやってきた。

「兄さま!」

「げッ!? フレイ殿下なのか!?

「うん、おっちゃん。今回はクーファル兄さまお留守番なんだ。フレイ兄さまだよ」

 ニルズは慌てて俺を下ろす。

「兄さま! おっちゃんですッ!」

 俺は片手を出して、ジャジャーン! とニルズを紹介する。

「アハハハ! リリ! おっちゃんか!?

「フ、フレイ殿下! お初にお目に掛かります! ニルズと申します!」

「妻のテティと申します」

「2人共よく話は聞いていた。リリが世話になったな。また宜しく頼む」

「は、はいッ!」

「漁に出るなら俺も行くぞ!」

「兄さま! 本当ですか!?

「ああ! リリ、一緒に行こう!」

「やった! おっちゃん! 兄さまも一緒だって!」

「是非行きましょう! この地の海は綺麗ですよ!」

「ああ! 楽しみだ!」

 そしてフレイは周りを見渡し声を張った。

「皆、歓迎してくれて有難う! リリアスを待っていてくれて有難う!! また世話になる!」

 ──おおぉーー!!

 ──フレイ殿下!

 ──カッコいいー!!

 ──キャー!

 もう大騒ぎだ! フレイはこんな時、カリスマ性を発揮する。クーファルとはまた違うんだ。少し威厳を感じたりもする。

「ほら、リリもう一声だ」

「はい、兄さま」

 オクソールが俺を抱き上げてくれる。もう10歳なのに。まだ抱き上げてもらわなきゃならない。

「有難うー! 皇后様と母さまも一緒なんだ! みんな! 宜しくねー!!

 俺は片手を振りながら、大きな声で言った。

 ──おおぉーー!!

「ニルズ、じゃあな!」

「はい! フレイ殿下!」

「おっちゃん! お友達も一緒なんだ! また海に連れてって!」

「おうッ! いつでもいいぞ!」

「では、戻りましょう。リュカ」

「はい!」



「リリしゃま! こっち!」

「何? アウル、どこ行くの?」

「こっち!」

 俺はあれからアウルースと遊ぼうと裏庭に出ている。アウルースが真っ先に俺の手を引いて、どこかに案内しようとしている。小さいのに子供はパワフルだ。

「あのね、こっち!」

 アウルースは一生懸命に俺の手を引いてヨチヨチ歩く。俺達の後ろをユキとリュカがついてくる。

「アウル、どこまで行くの?」

「あしょこ!」

 アウルースはあの5本の樹を指さした。

「ああ、光の樹だね」

「しょう! き! リリしゃま、おはなしゃかしぇた?」

「ああ、うん。ずっと前にね」

「ぼく、れきないの」

「ん? 何ができないの?」

 やっと5本の樹の下に着いた。アウルースは樹の幹に小さな手を当てる。手の甲にエクボができている。そんな些細な事が可愛くて仕方がない。

「んん〜! はぁ、らめ。おはなしゃかない」

 手を樹についたまま、背中を丸くして項垂れている。うう、この全体的に丸いフォルムがなんとも言えない。思わず笑みが零れる。

「ああ、アウル。あれはボクだけなんだよ」

「リリしゃまらけ?」

「そう、ボクだけ」

「リリしゃま。ぼく、おおきくなったられきりゅ? ぼく、ちいちゃいかりゃ、なにもれきない」

 俺を必死な目で見てくる。小さくて何もできない、てか……。

「ん〜、小さいからじゃないなぁ。アウル、この樹はどんな樹か知ってる?」

「んと……らいじ」

「うん。そう大事なんだ。お花を咲かせられなくてもいいんだ。それよりも、大事にしなきゃね」

「らいじしゅる!」

「うん。アウルはいい子だね〜!」

「リリしゃまも、いいこ〜!」

「アハハハ、有難う!」

「殿下ぁーッ! お食事ですよぉーッ!

 お、シェフが叫んでるな。

「アウル、シェフが呼んでる。戻ろう」

「あいッ!」

 手を繫いでポテポテ歩く……んー、やっぱ2歳だ。危なっかしい。

「ユキ、乗せてくれる?」

「ああ、いいぞ」

 そう言ってユキは伏せてくれる。

「アウル、ユキが乗せてくれるって」

「ひょぉ〜! ユキしゃん! のしぇてくりぇまちゅか!?

「ああ、いいぞ」

 俺はユキの背中に乗る。

「リュカ、お願い」

「はい、殿下。アウルースさま、お乗せしますよ。つかまって下さい」

「あい、リュカありあとー!」

「はい」

 リュカが抱き上げて俺の前に乗せてくれた。

「ユキ、いいよ。ゆっくりね」

「ああ、しっかり摑まれ」

「あいッ!」

 俺は落ちない様に、アウルースの腰に手を回して支える。アウルースはまだほんのり赤ちゃんの様な匂いがする。小さな子独特の匂いだ。何をするのも一生懸命だから、じんわりと汗をかいている。ユキがゆっくりと歩き出した。

「ふぉぉー! しゅごい!! ユキしゃん、しゅごいれしゅ!」

「小さくても、しっかり男の子ですね」

「うん、リュカ。やんちゃな男の子だ。元気いっぱいだ。沢山の未来や夢を両手にいっぱい抱えているんだ。子供は宝物だよ」

「はい、殿下。て、殿下もまだ子供ですよ? 何おじさんみたいな事言ってんスか!?

「アハハハ、リュカそうだった!」

「しょうらった!」

「アウル、上手だね〜!」

「ね〜!」

 なんでも真似をしたい年頃かぁ。俺もそんな時があったのかな。

 アウルースとシェフと食堂に向かうと、フィオンに会った。

「まあ、アウルったらリリにべったりね」

「リリ、どうしたの?」

「アウルの事が可愛すぎて。連れて帰ってもいいですか?」

「何言ってるの、駄目に決まってるでしょう!?

「あらら……」

「りゃりゃ……?



「ふぅ……やっとお昼寝したわ」

 応接室でのんびり食後のお茶をしていると、フィオンが入ってきた。

 俺は相変わらず、りんごジュースを飲んでいる。

「アハハ、姉さま疲れてますよ?」

「リリ、疲れるわよ。子供って全力だもの」

 うんうん、分かるよ。何をするのも全力だよな。

「でも姉さま、お幸せそうで良かったです」

「リリ、ええ幸せよ。有難う」

「リリ、リュカはどうした?」

 いつも俺の後ろにいるのに、今はいないからな。

「ああ、兄さま。また領主隊と何かやってるみたいですよ」

「嫌だわ、またやってるの?」

 フィオンが呆れ気味に言う。俺もちょっと呆れるよ。

「リリ、何だ?」

 あれ? フレイは知らなかったか? 俺は説明した。騎士団が来た時は、領主隊と色々対戦するんだと。前に来た時も、張り切ってやっていた。

「なんだそれは!? 面白そうじゃないか! 何故俺は呼ばれない!?

 フレイはもう立ち上がっている。絶対参加する気だ。

「兄さまは団員じゃないからではないですか? まさか参加したいのですか?」

「リリ、当たり前だろ!? ちょっと行ってくる!」

 あー、フレイは部屋を出て行ったよ。

「姉さま……やっぱり遠出するならクーファル兄さまですね」

「ええ、そうね。私もそう思うわ」

 いつまでも子供の心を持った長男だ。

「失礼致します。殿下」

 レイとアースが部屋に入ってきた。

「レイ、アースごめん、放ったままで」

「ああ、大丈夫です。気にしないで下さい。それよりリリ殿下、裏に見に行きませんか?」

「え? アース、何を?」

「決まってるじゃないですか。騎士団VS領主隊ですよ」

 仕方ないなぁ、今日は何をやってるんだ?

 レイとアースと一緒に裏に行く。ユキとラルクも一緒に付いてくる。

「おー! やってるやってる!」

 アースがキラキラした目で見ているよ。てか……何だこれは……!?

「あ! 殿下! 見に来たんですか!?

 リュカが俺たちを見つけて走ってくる。

「リュカ、これって……」

「ああ、これは初代皇帝が考案された競技です。単純に中にいる者にボールをぶつけるだけです。最後まで中に残った方が勝ちです」

 マジかよ。これってドッジボールだよな。あー、さすが初代皇帝、元日本人だ。日本人なら誰もが小学校でやるよ。簡単で手軽で盛り上がれるお遊びだ。俺も休み時間によくやった。え? 古い? 今時の子はサッカーか?

 邸のだだっ広い裏庭に、いつの間に描いたのか広いドッジボールのコートが2面もある。

 騎士団が30名と近衛師団が10名来ているから、10名ずつに分かれて予選をやっている。勝った者同士がまた対戦して優勝を決めるんだな。じゃあ、リュカは今何してるんだ?

「俺はオクソール様と同じチームで、もう勝ちましたよ!」

「また、オクと同じチーム? それ反則だよ」

「アハハハ! 殿下、勝たないといけませんから!」

 まただよ……超ズルイ。獣人の身体能力に敵う訳ないじゃん。

「そりゃぁーーッ!!

 げッ! この声は……!!

「フレイ兄さま!?

「そうなんです、俺も入れろと言ってこられて。騎士団の団長のいるチームに入ってもらってます」

「リュカ、でも兄さま関係ないじゃん」

「まあ、そうなんですけど。本人がやりたがっているので」

 クーファル、助けてくれ! やっぱクーファルがいいよ。収拾がつかないよ。

「リリ!! 勝ったぞ!」

 フレイが嬉しそうにやってきた。

「兄さま! 何やってるんですか!? 怪我しないで下さいよ!」

「アハハハ! リリ、平気だ!」

 結局、決勝戦はオクソールとリュカのいるチーム対近衛師団チームになった。

 俺は全然近衛師団って知らないけど、凄いんだな。フレイと騎士団長のいるチームに勝っちゃった。

「兄さま、残念でしたね」

 フレイは負けたので、俺たちと一緒に見ている。

「兄さま、これは強化もオッケーなのですか?」

「いや、一切の魔法もスキルも無しだ」

「じゃあ、オクとリュカは有利ですね」

「あッ! そうだよ! オクソールとリュカのいるチームに入れば良かった!」

 いや、違うから。結果、やはりオクソールとリュカのいるチームが勝った。そりゃそうだよ。

 2人共、獣人なんだから身体能力が人とは全然違う。どれだけ近衛師団の隊員達が当てようとしても、軽くヒョイッとよける。真正面にきたボールは難なくキャッチする。

 あの2人がいるのは反則だよ。それにリュカは俺が魔力を流して詰まりをとってから、また身体能力が上がっている。以前はよく何もない所で転けていたのに、全然転けなくなった。

「いや、殿下。近衛師団にも獣人はいるんですよ」

「リュカ、そうなの!?

 近衛師団の隊員で、キンイロジャッカルと言う種類の獣人がいるそうだ。なんでも、その中でも別名ゴールデンウルフと言う珍しい種類になるらしい。狼に近い遺伝子を持つ種だそうだ。

「リュカ、仲間じゃん」

「まあ、大きい意味で」

「あれ? なんかあんまりなの?」

「と、言うか。狼より全然弱いです。狼より小さいですし。別物です」

「ふぅ〜ん。あれ? もしかして……こっちを見てる彼?」

 近衛師団の中に、リュカをじっと見ている隊員がいる。

「そうなんですよ。なんか凄く見てくるんです」

「あれじゃない? リュカは狼の中でも純血種の希少種だからじゃない?」

「そうッスか? でも動物じゃないんで。ああ、殿下。それより近衛師団の団長が虎です」

「えッ!? 凄いじゃん!」

「そうなんッスよ。これまた、オクソール様を凄く意識していて」

「あらら……」

「もう、止めてほしいです。獣人ですが、人間として生活してるんで」

「そうだね。でも虎かぁ。めちゃ強そう」

「強いですよ。半端ないッス」

「オクとどっちが強いの?」

「そりゃ、余裕でオクソール様です。獣化したら分かりませんが」

「ほぉ……リュカ、そんな獣人がいる近衛師団相手でも勝ったんだね。凄いや」

「殿下、有難うございます!」

 やっぱオクソールとリュカは最強だ! あれ? オクソールが近衛師団団長と何か話してるぞ?

「リュカ、オクが何か話しているよ」

「あー、きっと挨拶に来ますよ」

 なんでリュカ、嫌そうなんだ? オクソールと近衛師団団長と獣人の彼がこっちに歩いてきた。

「殿下、良い機会ですのでご挨拶を」

「うん、オク」

「リリアス殿下、ご挨拶が遅れました。近衛師団団長を仰せつかっております、ティーガル・オークランスと申します。ご存じでしょうが、虎の獣人です。お見知りおき下さい」

 丁寧に挨拶をしてくれた、近衛師団団長のティーガル・オークランス。

 虎らしい黄色と茶色が混ざった髪に、黄褐色の瞳。せいかんな印象を受ける。30代半ば位の歳か?

「初めてお目に掛かります。近衛師団のレウス・キャニドースと申します。私はキンイロジャッカルの獣人です。宜しくお願いします」

 リュカが話していたキンイロジャッカルの獣人でレウス・キャニドース。

 俺はキンイロジャッカル自体をあまり知らないが。薄金色に褐色が混じった髪に、金褐色の瞳をしている。リュカより線が少し細い。ひと回り小さい感じだ。

 騎士団は4団あるが、近衛師団はそれよりも少ない人数の小隊で構成されている。

 第1小隊から第3小隊の三つの小隊があり、其々に隊長がいる。団長のティーガル・オークランスは、そのトップと言う事になる。

「リリアスです。近衛師団の人達をボクは全然知らないので、団長の事も知らなかった」

「はい。我々は皇帝陛下と皇后陛下をお守りするのが役目ですので。しかし、今回殿下とご一緒できる事は嬉しく思っております。騎士団同様、お見知りおき頂けますよう」

「うん。有難う」

「殿下、オークランス団長は2等騎士です」

「オク、そうなんだ。凄いや」

「殿下、何を仰います。オクソール殿は1等騎士ではありませんか」

「うん。凄いよね。ボクの誇りだ」

「殿下、有難うございます」

「これは……オクソール殿。聞きしに勝るお方で。お守りする方に『誇り』と言って頂けるなど、光栄な事ですね」

「はい。勿体ない事です」

 はぁ、騎士団と違ってめちゃ堅苦しいぜ。俺はちょっと苦手だよ?

「クフフ、殿下。では早々におしまいにしましょう」

 オクソール、また俺の気持ちを読んだよ。

「オークランス団長、そう畏まらずいつも通りでお願いします。その方が、リリアス殿下も喜ばれます」

「え? そうなんか? じゃあ、早速。リリアス殿下、宜しく頼んますよ」

 ん? 何? この変わり身は、いったい何!? 途端にくだけた感じになった。

「いや、俺の家は旧家なんですよ。殿下のお友達のジェフティ家と似たり寄ったりで。俺は長男ではないですし、堅苦しいのが嫌で騎士を目指したんですが、その旧家の家名のせいで近衛師団配属になってしまって参りました。気付けば団長です。辞めらんなくなってしまいましたよ。アハハハ」

 突然、とっても気さくな感じになって自分の後頭部をポンポンとしながら話している。

「え!? オク、変わりすぎなんだけど……」

「はい。こんな方なのです」

「そうなの? なんだ。最初からそうしてくれたら良かったのに」

「いやいや、いくらなんでもリリアス殿下にそれはできませんよ。近衛師団も同じ人間て事ですよ」

「そうだね。嬉しいよ」

「アハハハ、リリアス殿下は気持ちの良いお方だ」

「団長、自分ばっか喋らないで下さいよ」

「ああ、こいつも同じ獣人のリュカ殿と仲良くなりたいとずっと言ってまして」

「え!? 仲良く!?

「はい! リュカさん! 憧れてました!」

「アハハハ! リュカ憧れだって!」

「殿下、何で笑うんですか。台無しじゃないですか」

「アハハハ、だってリュカ。良かったね。ジッと見てたのは、憧れの目線だったんだ」

「はい! 我々近衛師団とは接点がありませんから。もう今回を逃したら、いつお話しできるか分かりませんから!」

「しかし、殿下。神獣殿はまたなんと神々しい……!」

 え……? オークランス団長?

「いつも遠目でしか拝見できなかったので、ちょい近くに行ってもいいですか?」

 そう言うと、オークランス団長はユキにじわじわと近付く。

「リリ、なんだ此奴は」

 ユキは嫌そうにジリジリと後退りする。

「ユキと仲良くしたいんだって」

「いや、我は……」

「本当に喋るんだ!?

 ユキさん、頑張って! 近衛師団団長達の挨拶を受けてオクソールとリュカが騎士団の方に合流した。俺達がそれを見ていた時だ。邸の中から、火が付いたように泣く声が聞こえてきた。

「うわぁーん! あぁーん! えぇーん!」

「え? この泣き声って……」

「殿下、アウルース様ですよね?」

「ラルク、そうだよね? アウルは何で泣いてんの!?

「あ、殿下。フィオン様ですよ」

 邸から、フィオンがアウルースを抱っこしてやってきた。

「リリ! お願い!」

「姉さま! どうしたんですか!?

「えぇーん! うわぁーん!」

 小さな顔を真っ赤にして、身体を反らせ手足をバタつかせてアウルースが泣き叫んでいる。

 どうしたんだ!? 何があったんだ!? どこか痛いのか!?

「起きたらリリが邸にいないと言って、泣き出してしまったのよ」

「えぇー!? アウル! アウル! ボクだよ! ここにいるよ!」

「うぇッ! うぇッ! リリしゃまッ!」

 フィオンの腕の中から、俺に手を伸ばしてくる。俺はアウルースの手を握る。

「アウル、どうしたの?」

「リリしゃま! いなかったの! しゃがしたのー!」

「アウル、ごめんね。泣かないで」

「リリしゃま! リリしゃま、まらいりゅ?」

「いるよ。まだまだ帰らないよ。沢山一緒に遊ぼう!」

「やったぁ! リリしゃま!」

 フィオンの腕の中から、俺にすがり付いてくる。小さな手で、離れないぞと言っているかの様に、摑まってくるんだ。

「リリ、どうしましょう。これじゃあ、リリが帰った後が大変だわ」

「アハハハ。姉さま、ボクがアウルと遊んでますよ」

 アウルースが抱っこから下りて俺と手を繫ぐ。もう涙は止まっている。俺の手を両手で持って満足気だ。プクプクのほっぺに涙の跡がついているじゃないか。フィオンがほっぺを拭いている。

「そう? もうこんなに懐くなんて」

「姉さま、アーシャはどうしてますか?」

「あの子なら……ほら、あそこ」

 フィオンが指差した先に、アスラールの側で領主隊達をじっと見ているアンシャーリがいた。

「姉さま、アーシャは領主隊が好きなんですか?」

「リリ、それがね。あの子大きくなったら領主隊に入ると言うのよ」

「ええッ!? 領主隊に!? どうしてまた……憧れは分かりますが」

「ねぇ、どうしてかしら。カッコよく見えるんでしょうね。じゃあ、リリ。少しアウルをお願いね」

「はい、姉さま」

 フィオンは邸に戻って行った。アウルースは俺と手を繫いでいてもうご機嫌だ。

 それにしても、アンシャーリは領主隊に憧れているのか。女の子は動ける男子に憧れる時があるよ。大きくなったらまた変わるだろうけど。

「アウル、アーシャの所に行こう」

「あい。リリしゃま」

 手を繫いでゆっくり歩く。アウルースは横を歩くユキを撫でながらトコトコと歩く。

 ユキさん全然抵抗しないんだね。ユキもちびっ子には優しい。

「リリアス殿下。やはり見ておられたのですか」

「アスラ殿。はい、見てました。相変わらずですね」

「ええ。いつの間にかコートまで描いてるとは」

 ハハハ、本当にいつの間にな。

 俺がアスラールと話している間も、ずっと領主隊を見ているアンシャーリにアースが声をかけた。

「アーシャは領主隊が好きなんだな?」

「はい! アースさま、あたしもはいりたいのです!」

「兄貴が騎士団にいて、俺も入りたいんだ。あ……ほらあそこにいるのが俺の兄貴だ」

「アースさまもですか!?

 そっか。アースの2番目の兄が第1騎士団にいると言ってたな。

 見ていると、気付いたみたいだ。こっちにやってくる。

「リリアス殿下、ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。アースの兄で、イザーク・シグフォルスと申します。いつもアースがご面倒をお掛けしております」

 と、挨拶をして手を胸に持っていき礼をした。おぉ、アースの兄とは思えない礼儀正しい人だな。アースと同じ金髪に、碧色の瞳。爽やかなお兄さんだ。

「いえ、ボクは友達としてアースと付き合ってますので、その様なお気遣いはいりませんよ」

「リリアス殿下、有難うございます」

「ごじゃましゅ!」

「アハハ、アウル上手だ」

「フィオン様のお子様ですか? お可愛らしい」

「でしょ〜。もう連れて帰りたいよ!」

「アハハハ、殿下もお可愛らしいですよ?」

「ええー、ボクがですか? 止めて下さい」

「くらしゃい!」

「アハハ、お上手だ。アース、殿下にご迷惑をお掛けするんじゃないぞ」

 そう言って、アースの頭をガシガシと撫でる。兄ちゃんて感じだ。

「なんだよ、俺なんもしてないよ」

「殿下、アースは落ち着きがないので」

「ああ、大丈夫。分かってるよ」

「リリ殿下まで」

 ……て、ん!? アンシャーリ? 何を睨んでいるんだ?

 と、アンシャーリの目線の先を追って見ると……兄に絡まれて嫌そうな顔をしているアースが!?

 おや? 睨んでいるのじゃなくて、もしかして見つめているのか!? アンシャーリ、騎士に憧れているのだろうけど……て、アースはまだ騎士でも何でもないじゃないか!

 アースが変な顔をしてこっちを見ている。え? 何? 俺? て、目で訴えている。

「リリ殿下、遅いです」

「レイ、まさか思わないだろ? アースだよ!?

「リリしゃま、あしょぼ!」

「うん。何する?」

「ユキしゃんのりたい!」

「いいぞ」

 ユキさんも子供には優しいね〜。

「アウル、危ないからボクと一緒に乗ろうね」

「あい! リリしゃま!」

 俺が先にユキに乗って、アスラールがアウルを抱き上げてユキに乗せる。

「おじしゃま、ありあと!」

「ああ、しっかりつかまっているんだよ」

「あいッ!」

 そうお返事してアウルースは片手をあげる。子犬がお手をするみたいだ。アハハハ。

「ユキ、ゆっくり一周してくれる?」

「ああ」

 ユキがゆっくりと動き出した。

「あ! リリ殿下! ズリーよ!」

「アース、何言ってんだ!?

「いっちぇんら!?

 アハハハ、アウルース言えてないよ!

 アースとレイが付いてくる。近衛師団と話していたリュカが、走って側に戻ってきた。

「俺もユキに乗りたい!」

「アース、一周したらな。後で交代してやるよ」

「やりゅよ!」

「お!? アウル、いいのか? カッコいいなー!」

「アースさま!」

 アンシャーリがアースを呼んでいる。アスラールを引っ張ってこっちに歩いてきている。

 アンシャーリはしっかりしている。物怖じしないんだ。

「おい、アース。アーシャが呼んでるぞ」

「ほら、アース。行ってきな」

「リリ殿下まで。俺小さい女の子は苦手なんだよ」

「アースが苦手なのは小さい女の子だけじゃないだろ? 女の子全般苦手だろ?」

「リリ殿下、ヒデーよ」

 あー、平和だ。良いね〜。こんな平和な日々。お休みサイコー!

「リリアス殿下!」

 アンシャーリを抱っこしてアスラールがやってきた。

「アスラ殿、どうしました?」

 俺は、ユキに乗ってゆっくり移動しながら答える。

「アイシャとレイリを覚えておられますか?」

「ああ、もちろん!」

「りょん!」

 この意味不明な合いの手? は、アウルースだからな。

「2人も殿下にご挨拶したいと言ってまして」

「ああ、もちろん。どうなの? 上手くやってるのかな?」

「はい、殿下。2年前にアイシャとレイリが婚姻しましたよ」

「ええ!? 良かった! レイリ頑張ったんだ!」

「いえ、殿下。逆です」

「逆?」

「ぎゃきゅ?」

 言えてねー! 首をヒョコッと傾けている。きっと意味を分かっていないのだろうに。

「はい。アイシャがレイリに婚姻を申し込みまして」

「ええー!」

「えーー!」

 アウルースが一緒に驚いた振りをしている。ちゃんと顔までビックリしたお顔をしている。

「アウル、上手だね」

「エヘヘへ」

 んん〜! 真ん丸だったお目々が垂れている! お顔全部で笑っている感じだ。分かるかなぁ?

「レイリは、両思いだったんだね」

「はい。レイリがグズグズしているので、アイシャが痺れを切らした様で」

「アハハハ、いいじゃない! アイシャらしいや!」

「キャハハハ!」

「アウル、いっしゅうしたら、あたしとこうたいよ?」

「えぇー!」

 アウルースが嫌な顔してるよ。まだ乗っていたいんだな。アウルースはユキが好きみたいだ。

「アウル、独り占めは駄目だよ。みんなで仲良くしなきゃね」

「あい! リリしゃま!」

「リリ、我はおもちゃじゃないぞ」

「ユキ、いいじゃん。アンシャーリも乗せてあげて?」

「まあ、構わんがな」

 なんだよ、ユキさん。尻尾が大きく揺れてるよ? やっぱ子供には優しいね。

 一周回って、アースとアンシャーリに交代だ。アースも面倒見が良いんだ。ちゃんとアンシャーリの後ろで支えながら乗っている。

「殿下、明日はニルズに会いに行きますか?」

「え! 行きたい! いいのですか!?

「れしゅかー!?

「アウル、少し静かにしなさい」

「ぶぅー……!

 アスラールに叱られて、アウルースはほっぺを膨らませた。

「アハハハ、アウル、ほっぺが膨れてるよ! アスラ殿、いいじゃないですか」

 アウルースがずっと俺と手を繫いでいる。このまま素直に育ってほしいなぁ。

「リリ殿下、お顔が父親の顔になってます」

「あらら……」

「りゃりゃ……」

「しかし、アウルがこんなに殿下に懐くとは」

「もしかして、姉さまの血を継いでるからとか?」

「殿下……なかなか鋭いかも知れませんね!」

「リュカ、そうだろ?」

「はい。フィオン様もね……」

「ああ……なるほど。血筋ですね」

「アスラ殿まで納得しないで下さい。ラルク、船は大丈夫?」

 皆、船なんか見た事もないだろう? 船酔いしないか?

「船ですか? 乗った事がないので、何とも……」

「そうだよね。帝都にいたら船に乗る事なんてないもんね。レイ達はどうする?」

「アースがじっとしてないでしょう? 僕もご一緒しますよ」

「では、ニルズに伝えておきます」

「はい、アスラ殿。お願いします」

「リリしゃま、ぼくも」

「あー、アウルはまだ小さいからなぁ」

「いや! ぼくも!」

「アウル、母様に聞いてからだ」

「おじしゃま、らめ! ぼくもッ!」

 こんな所もフィオンにそっくりだ。