
「殿下、失礼致します」
「リュカ、どうしたの?」
「陛下がお呼びです」
父が? なんだろう? 父に呼ばれると
「分かった。直ぐ行くよ」
出発まであと2日となった日に、父に呼ばれた。
「リュカ、何だろ?」
「さあ、私は何も」
「そう……まさか、辺境伯領に行くのが中止とかじゃないよね?」
「まさか、それはないでしょう」
「だよね〜」
今更中止とか言われたら、俺暴れちゃうよ? マジで。
「父さま、リリです」
「入りなさい」
リュカがドアを開けてくれる。父の執務室には、いつも通りセティがいた。
あと、知らない男の子が1人いた。
「リリ、リュカも、紹介しよう」
父がそう言うと、知らない男の子が一歩前に出た。
「辺境伯領に同行するラルクだ」
「リリアス殿下、お初にお目に掛かります。ラルク・ナンナドルと申します。此度、ご一緒させて頂きます。宜しくお願い致します」
「ナンナドル……セティとニルの?」
俺はセティを見る。
「はい、リリアス殿下。甥に当たります。私の弟の次男です。殿下より1歳上になります。宜しくお願い致します」
セティの家系って事は、俺の側近候補か?
「リリ、そうだよ。候補だ」
ラルク・ナンナドル。
俺より1歳上の11歳。セティやニルと同じ黒髪だ。ショートカットのサラサラな黒髪に綺麗な藤色の瞳で、とても利発そうな印象の男の子だ。
11歳なのに、リュカより落ち着いて見えるぞ。リュカ、頑張れ。
「リリが学園を卒業するまでに決めれば良いから、まだ正式ではないんだ。だが、ラルクが1番リリに歳が近い。ちゃんと教育も受けている。とりあえず、仲良くしなさい」
「はい、父さま」
「これから毎日リュカやニルと一緒にリリに付く。リュカ、色々教えてやってほしい」
「はッ、陛下。ラルク様、お初にお目に掛かります。リリアス殿下の従者兼護衛のリュカ・アネイラと申します。宜しくお願いします」
「ラルク、リュカは先日3等騎士に叙任された。殿下が3歳の頃からお側に付いている。色々教わるといい」
「はい伯父上。リュカさん、ラルクです。宜しくお願いします」
側近か……そう言われてもなぁ。俺、まだ10歳だし。フレイやクーファルの様に何か決まった仕事をしている訳でもないし。
「リリ、テュールやフォルセにも既に付いている。リリも徐々に慣れないとね」
知らなかった。テュールやフォルセももう側近がいたんだ。そうか、1番歳が近いフォルセでももう18歳だもんな。相変わらず妖精さんの様に可愛いから、忘れてたよ。
「殿下、それで出発の時ですが……」
セティから具体的にどれだけの人数が同行するか聞かされた。
今回、皇后様、母、フレイが同行する。フレイの第1騎士団はもちろん、皇后様と母もいるから、近衛師団からも数人同行する。大所帯だ。その上、レイにアースだ。2人共、従者が同行する。
辺境伯アラウィンに迷惑じゃないだろうか?
自分の部屋に戻ってきて、先ずはりんごジュースだ。
「ニル、りんごジュースちょうだい」
「はい、殿下」
「ニル、我も欲しい」
ユキさん、冬は流石にネコ科らしく丸まって寝ている事が多かった。
最近は、暖かくなったのでやっと動き出した。
「ニル様、宜しくお願いします」
「ラルク、久しぶりね。大きくなったわね」
「ニル様はお変わりなく」
「まあ、大人になって……!」
おや、ニルが感動してるぜ?
「殿下、ラルクは赤ちゃんの頃から知っているので……感慨深いです」
そっか。そんな感じか。そうだよな、ニルは俺が赤ちゃんの時から付いてくれてるもんな。
「ユキ、ラルクって言うんだ。仲良くしてね」
「殿下、神獣の?」
「うん、ユキって言うの。宜しくね」
「ユキ様、ラルクです。宜しくお願い致します」
「我には様などつけなくて良い。ユキだ。リリを守っている」
「か、か……カッコいい!」
だろ? だろ〜? ユキちゃんかっこいいんだよ。そこにニルが奥から何かを持ってきた。
「うん? ニル何?」
「エイル様からお預かりした物です。この小さいポシェットは、普段使うマジックバッグにしたいと仰ってました。それと、ドレス等が嵩張るので大きめの物も欲しいと仰ってその分もお預かりしているのですが」
ふむふむ。要するに2個作ってねと、言う事だね。
「ニル、分かった。どっちも作るよ」
「はい、殿下。では、大きい方もお持ちしますね」
ニルが奥の部屋へ行った。
「あの……、殿下。もしかして、これからマジックバッグを作られるおつもりですか?」
「うん。あ、ラルクもいる?」
「え……? へ……? そんな軽く……」
「うん。マジックバッグならすぐ作れるから大丈夫だよ。魔物の革でできた物とか丈夫な物の方がいいんだけどね。何か持ってる? なかったらボクの使ってないの使う?」
「え? ええッ……!?」
「ラルク様、慣れて下さい。リリ殿下はこんな感じですから。俺もマジックバッグ頂きましたから、遠慮しなくて大丈夫です」
「リュカさん、そうですか……?」
「はい。慣れましょう」
ん? リュカにディスられてる気がする。いやいや、リュカはマブダチだからね。そんな事はしないさ。
「殿下は10歳ですが、魔力量は10歳じゃありませんから」
おい、リュカ。やっぱディスってるよな?
「リュカ……その表現は違う」
「え? 殿下、違いますか? だって10歳で殿下と同じ魔力量の子供はいませんよ? いや、大人でもいません」
「そりゃそうかも知れないけどさぁ」
「殿下、こちらです」
ニルが旅行カバン位の大きさのバッグを持ってきた。それと、小さなポシェットの二つだ。
どちらも魔物の革でできている様だが、そんな無骨さはない。むしろ可愛いぞ。良い物じゃんか。母よ、奮発したな。いや、わざわざ作らせたか?
「ニル、ボクが使ってないマジックバッグをラルクにあげて」
「はい、お持ちしますね」
「いえ、殿下。そんな訳にはまいりません」
「え? いらない?」
「いえ、欲しいですが。その……殿下の物を頂く訳には……」
「いいのいいの。気にしない」
「はあ……」
「ラルク、どちらが良いかしら?」
ニルが二つマジックバッグを持ってきた。
「はあ……あの……殿下はいつもこんな感じですか?」
「……? ええ」
「…………ふ、フハハハ」
「え? ラルク、どうしたの?」
それまで、大人しく控えめにしていたラルクが急に笑い出した。
何だ? ラルク、もしかしてまた個性の強いキャラが来たか?
「ラルク? どうしたの?」
「いえ、伯父から聞いていた通りのお方なので嬉しくなってしまいました。失礼致しました」
えー、セティったら何言ってたんだよ。怖いなぁ。
「フハハ……殿下、私は次男です。兄も一緒に側近の教育は受けますが、兄は家を継ぎます。私は、小さい頃から殿下にお仕えする為に教育を受けてきました。まだ殿下が学園に入学もされてませんし、本決まりになるのは殿下が卒業されてからになりますが。私は殿下にお仕えしたいと思っております。改めまして、どうぞ宜しくお願い致します」
「そうか。ラルク、こちらこそ宜しくね」
「はい、有難うございます」
「ラルク、父があなたに殿下の事をどう話していたかは知りませんが、大切なのはラルク自身がどう感じるかです。貴方の目でみた殿下を信じなさいね」
「はい、ニル様」
「フフフ……」
「ニル、なあに?」
「いえ、殿下。小さい頃から私の事を、ニル姉と呼んで後をついてきていたのに。大きくなったと思いまして」
「止めて下さい。ニル様。恥ずかしい」
「そうなんだ。ラルク、無理しないでね。ボクの為なら何をしてもいい訳じゃないからね」
「はい、殿下。心得ております。伯父に、殿下だけでなく自分も守れる様になりなさいと言われました」
「そうか。ならいいよ」
うん。なかなかいい感じだ。
「ラルク、辺境伯領に行くのはボクのお休みなんだ。フィオン姉さまの子供に会いたくて。だから、気楽にしてね」
「フィオン様のですか。あちらの次男の方に嫁がれておられましたね」
「うん、そう。姉さまの子供だけじゃなくて、ゆっくり会いたい人達もいるんだ。ボクの友達も行くし」
「あちらへは、転移門ですか?」
「そうだよ。もしかして、ラルクも転移門は嫌?」
「いえ。どんな物かも分からないので、嫌も何もありません」
「そう。一瞬だから、平気だよ」
そんな話をしながら俺は母のマジックバッグを作る。ラルクがガン見している。
「殿下は簡単に作っておられますが……私には作れないでしょうか?」
「さあ、どうかな? ボクの友達のレイが挑戦したけど駄目だったんだ」
「ジェフティ侯爵のご子息でしたか」
「そうそう。レイは優秀だから作れると思ったんだけどなぁ。ラルク、属性は何?」
「私は水です」
「ニルと一緒だ」
「はい、父の方の家系は水属性が多いです」
「ニル、そうなの? じゃあ、お姉さんは?」
「姉は風属性です。母も風です」
魔法の属性も遺伝なのかね。よし、完成だ。
「ニル、できたから母さまに持って行きたい」
「はい、では聞いて参ります」
「うん、お願い」
と、いう訳で母の部屋に来ている。
「まあ! リリ、有難う!」
完成したマジックバッグを渡すと、早速侍女が不思議そうに見ている。
そうだよな。まあ、だいたい皆最初はそんな感じだよ。
「貴方がラルクね」
「はい。エイル様、お初にお目に掛かります」
「あのセティの甥だと言うから、どんな子なのか楽しみにしていたのよ。そう言えばリリ、私は先日初めて聞いたのだけど、辺境伯領の森って魔物が沢山出るのですって? そんな森にリリは5歳の時に行ったのね?」
「え……? 母さま? だってその調査でしたから。父さまは言ってませんでしたか?」
「聞いてないわ」
「あらら……」
これは……俺、余計な事を言ってしまったか?
「じゃあユキがいたのも、その森かしら?」
「はい。1番奥です。目の前が河でしたから」
「なんて事……! まだ5歳だった子供をそんなところに行かせるなんて!」
「母さま、ボクは無事でしたし。オクやリュカ、シェフもいましたから」
「リリ、そんな問題ではないわ。私、陛下のそういう所が理解できないわ。私の大事なリリに、何をさせているのかしら!」
あー、母が完全に怒っているぞ。漫画だと、こめかみに怒りマークが描かれていそうだ。
でもなぁ、こうして単純に俺の事を思って怒ってくれるのは嬉しい。
「母さま、有難うございます。ボクは母さまが大好きです」
俺は母に抱きついた。母は抱き寄せながら、頭を撫でてくれる。
「まあ、リリ。母様もよ。リリの事は大好きよ。だからね、何も無かった事にはできないわ。陛下に進言するわ」
こうなったら母は誰にも止められない。父よ、怒られてくれ。
そして案の定、父は母にこっ酷く怒られたらしい。今度そんな危険な所に俺を行かせたら、お
で、俺は今日もまたオクソールのシゴキでヘロヘロになっている。
「ハァ……ハァ……マジ……容赦なさすぎ……ハァハァ」
「殿下、何を仰います。まだまだですよ。リュカなんてピンピンしてますよ?」
「いや……ハァ……オク……獣人と10歳の子供を一緒にするのは止めて……ハァハァ……」
本当、キツ過ぎる。マジ、頼むよ。
「オクソール様、納品されましたよ!」
「リュカ、そうか!」
スポドリ
「え? リュカ何?」
俺は、リュカからスポドリ擬きをもらって飲む。やっと生き返った。
「殿下、ほら鉱山でミスリルを発見したでしょう。あれで剣ができたんですよ。騎士団の分がさっき納品されました!」
「凄いじゃん!」
「はい!」
「リリアス殿下、オクソール殿、リュカ」
「あら、セティ」
鍛練場にセティがやってきた。珍しい。俺は汗を拭いて自分にクリーンをかける。
「リリアス殿下、鍛練ですか?」
「うん。今、倒れていたとこ」
「アハハハ、倒れておられましたか」
「うん。毎日ボク倒れているよ」
「それはそれは。そろそろ倒れない様になりませんか?」
「セティ、オクのシゴキを知らないからそんな事言えるんだ」
「おや、それほどですか?」
「うん。それほどだよ。で、どうしたの?」
「はい。オクソール殿とリュカ、執務室まで来て下さい。殿下もご一緒にどうぞ」
あら? 何だろうね。俺はそれよりミスリルの剣を見たかったな。
セティについて父の執務室に向かう。騎士団の其々の団長4人も一緒だ。珍しい。
父の執務室に入ると、フレイとクーファル、2人の側近もいた。
「もうご存じだと思いますが、ミスリル製の剣を騎士団に配布しました。皆さんには、別にお渡ししますのでお集まり頂きました」
「セティ、ミスリルの剣か」
「はい、フレイ殿下。では陛下」
あれ、俺は関係なくない? 俺、剣なんて持ってないしさ。
「リリ、関係あるんだよ」
「父さま?」
以前、爆発騒動のあった鉱山でクーファルと俺が調査をした時にミスリル鉱脈が発見された。
そこから採取されたミスリル鉱石で騎士団と近衛師団の全員の剣を作る事ができたんだ。
「各団長と1等から3等騎士には別の剣を配布する事にした。フレイ、クーファル、リリにもだよ。其々の側近にもね」
おー、かなりの量のミスリルが採れたんだな。テュールとフォルセにもあるそうだが、2人は今城にいないそうだ。2人でフォルセが彫刻につかう材料を集めに行っているらしい。本格的じゃん。
「では、まず団長から」
第1から第4騎士団の団長が剣を受け取る。
声には出さないが、おおー! て感動が伝わってくる。
そして順に、オクソール、リュカが受け取った。フレイ、クーファルも受け取り、俺も父から剣を渡される。俺なんてまだ剣を持っていないのに、いきなりミスリル製なのか。
「リリ、まだ早いかとも思ったんだけどね、でもテュールは10歳の時に既に剣を持っていたから。リリも子供用の長さなら使えるかと思って用意したんだ」
「はい。父さま、有難うございます」
うわ、カッケー! ミスリルだぜ。俺は本当の剣なんて使った事ないけど!
ポンメル(柄頭)には、帝国の国章が入っている。グリップ(握り)には、白っぽい地肌にグリーンブロンドの革紐を螺旋状に巻いてある。ガード(鍔)は形はシンプルだが細かい彫刻で飾られている。俺は手が小さいので小さめに作ってある。
グリーンブロンドで装飾された淡い白の鞘から抜くと、剣身の根元に俺の名前と国章が彫ってある。なんか嬉しい。俺のは父が言った様に、兄達が持っている剣を少し短くして剣身も細めにしてある。だから力のない俺でも苦なく持てる。
顔を上げて周りを見ると、皆も同じ様に自分の剣を見ていた。
「ここにいる者の剣には、剣身の根元に名前と国章を入れてある」
父がそう説明すると、セティが続ける。
「帝国の最強の騎士と言う証です。今回、ミスリルを加工した職人の話によると、今迄他国から購入していたミスリルより純度が高いそうです。ですので、魔力の馴染みも格段に違うそうです。そして、やはりミスリルです。何より硬いですよ、今回の剣はよく斬れます。これ迄の様に気絶させるつもりでも、斬ってしまう場合もあるかも知れません。お気をつけ下さい。特に、リリアス殿下」
えっ? 俺? 俺、何もしてないよ?
「殿下の剣はお身体に合わせて小さくしてあります。その剣で大人を殴って気絶させるのは無理でしょう。ですので、御身をお守り頂く為にも、躊躇せず斬って下さい。良く斬れますよ」
そう言ってセティはニッコリ笑う。怖いよ! なんだよ、それ。超怖い!
「……はい」
頷くしかないじゃん!
「リリ、その剣に合わせてこれは父様からプレゼントだ」
父が、剣に合わせた少しグリーン掛かった淡い白色の革の剣帯をくれた。
セティがつけてくれる。柔らかい革でできていて、中心に帝国の国章のバックルが付いている。革全体に凸凹を作って葉の様な模様が彫刻してありグリーンブロンドの色をつけてある。だからグリーン掛かって見えるんだ。俺には勿体ない良い物だ。
「リリ、その剣帯に彫られている葉のモチーフには意味があってね」
昔からリーフモチーフは『成長』『希望』『再生』『復活』を表し、願いを成就させてくれるモチーフと言われているそうだ。
そう言えば……前世日本ではお馴染みの唐草模様。『永遠』『無限』の象徴ではなかったか?
「リリにピッタリだと思わないかい?」
「父さま、有難うございます」
「リリ、来なさい」
フレイに呼ばれた。ヒョイヒョイと手招きしている。
側に行くと、フレイは剣帯を少しずらして、剣を腰の後ろに横向きにつける。
「うん。もう少し背が伸びるまでこっちの方が剣を抜きやすいだろう。動きもスムーズだろ?」
「フレイ兄さま、有難うございます」
確かに。フレイが手直ししてくれた方が動きやすい。
「リリ、剣の抜き方を教わるといい。お前、まだ抜いた事ないだろ?」
「はい。兄さま、ありません」
「慣れないと手を切るからな。テュールも慣れない時に何度か切っている」
「テュール兄さまが?」
「ああ。テュールは早くから剣を持っていたからな」
「おー、凄い」
「オクソール、頼んだ」
「はい、フレイ殿下」
ん? コレってもしかして、シゴキメニューが増えてないか? マジ止めて。
さて、昼食を食べようと食堂に行くと、テュールとフォルセがいた。
「リリ、久しぶりだね」
シェフが昼食を出してくれる。今日も美味そうだ。
「フォルセ兄さま。なかなかお会いできませんね。お忙しいのですか?」
「今日は兄上と少し出掛けていて、さっき戻ってきたんだ。僕は今アトリエに
「アトリエですか!?」
「うん。今彫刻に挑戦してるんだ」
「凄いです! 兄さま、バイオリンだけでも凄いのに!」
「アハハ、有難う」
フォルセのバイオリンは有名だ。とんでもなく上手で、バイオリンなんて全く知らない俺でも凄いと分かる。何度かコンクールみたいなので演奏しているフォルセを見たが、これまたとんでもなく可愛かった。いや、上手だった。
「リリ、父上から剣を頂いたか?」
「はい、テュール兄さま。ボクはまだ子供用の大きさですが。兄さまも?」
「ああ、ロングソードを頂いた。あのミスリルはリリが発見したんだって?」
「たまたまクーファル兄さまと調査に行った鉱山にあったんです」
「リリ、すぐそこにあったみたいな言い方だね」
おや、丁度話していたらクーファルもやってきた。
「クーファル兄さま」
「兄上、有難うございました」
「ああ、フォルセ。あれで良かったのかな?」
「はい! 助かりました!」
クーファルは、また色々面倒みてるんだろうなぁ。フォローのクーファルだからな。
「……ん〜! 美味しい〜!」
「殿下、有難うございます!」
「ああ、シェフ。シェフにも剣があるんだ」
「兄さま! 本当ですか!?」
「ああ。リリのシェフは戦うシェフだからね」
「クーファル殿下、私に剣ですか?」
「ああ。いつも料理人としてだけでなく、リリを守ってくれているからね。シェフにも新しい剣を用意したんだ。手が空いたら私の執務室まで来てくれないか?」
「はい。有難うございます」
嬉しいね。シェフにもミスリルの剣だ。
「リリアス殿下。料理人の私が剣を頂いても宜しいのでしょうか?」
「何言ってんの! シェフはただのシェフじゃないよ。戦うシェフなんだよ。戦うには剣が必要じゃない! それにね、良く斬れるからワイバーンも一発かも知れないよ?」
「そんなにですか!? それは是非とも頂かないとッ!」
はい。食料に関係するとイチコロだよ。
でも、本当に良かった。だってシェフは騎士に叙任したい位なんだからな。
「リリ、良かった」
「クーファル兄さま、有難うございます!」
「ああ」
クーファルがニッコリしてくれる。
「フフフ、リリは可愛いね〜」
「え? フォルセ兄さま?」
「リリが赤ちゃんの時を思い出すよ」
「フォルセ、そうだな」
「私は天使が産まれたのかと思ったよ」
「クーファル兄上もですか?」
「僕も思いました!」
もう、兄3人は好きにしてくれ。
「リリ、本当だよ? フィオン姉上なんて泣いてしまって大変だったんだよ」
「え……」
泣いたとは!?
「そうだった。フォルセも覚えてるのか?」
「クーファル兄上、忘れられませんよ。あれはフィオン姉上、号泣してましたよね」
「あらら……」
駄目だ。目に浮かぶわ。普通に納得してしまった。
「リリが産まれた時は、泣き声が聞こえたと同時に光が射したんだ」
「光?」
「ああ。そうだ。急に雲が晴れ始めてリリの泣き声と共に雲の切れ目から一斉に光が射した。あの光景は忘れられない」
「そうだね……」
なんだよ、兄3人遠い目をしないでほしい。俺は知らないよ?
「ごちそうさまでした。シェフ美味しかった。じゃあ、テュール兄さま、フォルセ兄さまお先です」
「ああ、リリまたな」
「リリまたね〜」
本当にフォルセは可愛いな。手をヒラヒラと振ってくれる。
あれから、俺はまたもや魔石に付与している。
なんでかって? 以前作った転移玉(命名は俺)だが、あの時は即興だったし多分最前線に出るだろう者にしか渡していなかった。それを最近、思い出した奴がいる……セティだ。抜け目ない。
あれを騎士団長や近衛師団、従者達に持たせたいから作って欲しいと要望がきた。
それと、インカムだ。いや、違った。インカムをイメージしたピアス型の魔道具だ。あれも主要人物に持たせたいらしい。
はいはい、作りますよ。で、俺のすぐ側でガン見している奴がいる……レイとラルクだ。
「2人共何? やりにくいんだけど」
「殿下、お気になさらず」
「うん。リリ殿下、気にしないで下さい」
ラルクもレイも身を乗り出して見ている。マジ、やりにくい。
「殿下、辺境伯領への出発は明後日ですよ。早く作らないと間に合いませんよ」
はいはい、頑張って作ります。と思いながら、静かになったので、ふとレイを見ると魔石を握って付与しようとしている。
いや、レイ。転移玉は無理だよ。まあ、ピアス型の魔道具もまだ無理だと思うけど。
レイはまだ空間魔法が使えない。それを考えると、レピオスは医師なのに魔法に長けている。レピオスはマジックバッグを作れるからだ。
俺がマジックバッグの作り方を教わったのがレピオスだ。俺が作ったのと、レピオスが作ったのとでは容量が違うらしい。
今回の辺境伯領行きはレピオスはお留守番だ。王国に行った時に、レピオスがいれば! て場面が何度もあったので同行を願い出たのだが、今回は必要ないとセティに却下された。
俺はさぁ、お休みなんだよ。レピオスとウダウダと医療談議でもしながらゆっくりしたい訳だ。お休みに連れて行くなよ、て意見もあるけど。
だってさ、仕方ないじゃん? レピオスが1番気が合うんだから。心の友だ。やっぱあれだね。歳が近いからだね。前世の俺の歳だけど。
「リリ、何グダグダ考えてんの?」
ポンッとルーが現れた。
ルーは以前の様に常に側にいる事はなくなった。俺の周りもかなり落ち着いたし、本人曰く『加護を与えているから、側にいなくても分かる!』らしい。本当かよ。
だが、呼べば直ぐに来てくれるし、要所要所ではアドバイスをくれるので、今の俺はそれで充分だと思っている。
「あらら、ルー久しぶりだね」
「ああ。僕も色々忙しくてね」
──ガタッ!!
あー、ラルクが跪いちゃった。レイとアースは固まってる。あれ? レイとアースはもう何度も遊びに来てるのに、ルーは初めてだったんだな。
「ルー、お願い」
「ああ、初めてだったかな?」
「みたいだね」
「あー、その、普通にしてほしいんだ。僕はルー。リリに加護を授けた光の精霊だ。でも、堅苦しいのは嫌だから普通にしてよ」
普通にしてと言われても、鳥さんが喋ってるんだから驚くさ。
「ルー様、ラルクと申します。まだ側近候補ですが、私はリリアス殿下にお仕えするつもりでおります。宜しくお願いします」
ラルクが片膝をついて、丁寧に挨拶した。
「うん。見ていたから知ってるよ。リリの事宜しくね」
「本当に加護してたんだ……」
「おう、アースだね。本当だよ。そっちはレイか。君は努力家だね」
「「……!!」」
「レイ、アース。ルーだよ、よろしくね」
「あ……ルー様、レイと申します。宜しくお願いします」
「あ! アースです!」
2人共、緊張してるのか? 直立不動だ。
「アハハハ、良い子達だ」
「でしょう? ボクのお友達なんだ」
「リリ、また辺境伯領に行くんだって?」
「うん。今回はボクのお休みなの。フィオン姉さまの子供に会いに行くんだ」
「そうか、お休みか」
「ルー、このタイミングで出てくると何かあるの? て思っちゃうんだけど」
「そんな事はないさ」
「本当に?」
「ああ。ただ……まあ……な、あれだ。どこに行くにしても、気をつけるに越した事ないからね。リュカ、頼んだよ」
「はい、ルー様!」
「リリ、僕が前に辺境伯領で言った事覚えてる?」
「何だっけ?」
「リリは澱みの跡とか、魔素の濃い所には近寄らない方がいいよ、て言っただろ?」
「あ〜……」
そんな事も言ってたなぁ。すっかり忘れていた。
「辺境伯領は多いから気をつけてね」
「うん、分かった」
「何かあったら直ぐに呼んで」
「うん、有難う」
「それだけだ。じゃあね」
ポンッとルーが消えた。
「……マジか……」
「ビックリした……」
「畏れ多い……」
はい、順にアース、レイ、ラルクの言葉ね。しかし、態々ルーが一言言いにやってくると言う事は……もう少し気を引き締めた方が良いかも知れない。
せっかくの俺のお休み、バカンスなのに!
それから俺はサクサクッと転移玉とピアス型魔道具を作った。
毎日のオクソールの鍛練も続けている。鍛練には毎日ラルクも参加している。アースは1日で根を上げた。
こうして、出発の日になった。