いかん。リュカには思い入れが強いんだよ。もちろん、オクソールもだ。


 叙任式が終わり、披露パーティーに移行して晴れ姿の2人を見ていると涙が流れてくる。

「殿下、リリ殿下。泣かないで下さい」

 リュカが目線を合わせて、涙を拭いてくれる。

「ゔッ……リュカ、良かった。オクも、良かった……ゔぅッ、おめでとう」

「殿下、これからもお側でお守りします」

「うん、うん。オク……グシュ」

 オクソールに抱きつくと、ヒョイと抱き上げられる。俺もう10歳なんだけど。

「あらあら、リリ。とうとう泣いちゃったのね。我慢していたものね」

「母さま……ヒック」

 母もハンカチで涙を拭いてくれる。もう、俺。涙もろすぎないか!?

「殿下、泣かないで下さい」

「うん、オク……ゔッ。リュカ、待たせてしまってごめんね」

「殿下、何を仰います! 私は、殿下に誓う事ができて嬉しいのです……ッうぅ」

「有難う。2人共、有難う。リュカも泣いてるじゃん……ゔぇッ」

「殿下のがうつったんですよ」

 父や兄達も、やってきた。

「リリ、お前を守ってくれる最強の騎士2人だ。オクソール、リュカ。これからも、リリを頼む」

「「はッ!!」」

 こうして、オクソールとリュカの叙任式は無事に終わった。



 2人共立派だった。俺の部屋に戻って着替えていると、正装したアースとレイがやってきたんだ。

「2人共、叙任式出てたの?」

「いえ、僕達は式には出られません。披露パーティーに父と一緒に出ました」

「俺、リリ殿下の正装初めて見た。あれ、皆さん正装なんですね」

「そうだよ。騎士の叙任式はいつも全員出席で正装なんだ。だから、将来アースが叙任される時も正装だよ」

「おッ!? 俺!? あー! マジ!?

「オクソール様もリュカさんも、カッコ良かったですね」

 うんうん、レイ、そうだよな!

「失礼致します」

「あ! オクソール様! リュカさん! おめでとうございます!」

 リュカとオクソールが着替えて部屋に入ってきた。

「オク、騎士の中で1番なんだね」

「そうだ! 凄いです!!

 アースは、相変わらずオクソールを崇拝している。

 俺はさぁ、ちょっと思っちゃった。シェフも騎士だったら叙任できたのになぁ、てさ。

 だってさ、シェフあんなに強いんだよ? もったいないよ。

「殿下、シェフですか?」

「うん、オク。そうなんだ」

「あー! 強いですもんねー!」

「えッ……!?

 アースが目をまん丸にして驚いている。

「アース、殿下のシェフは戦うシェフだって有名なのに知らなかったのか? 騎士団も敵わない、てね」

「そうなんですか!?

「そうですよ。私はまだシェフに勝てません」

「えッ!? リュカさんが!? マジッスか!?

 そっか。シェフ有名なんだ。だって本当にシェフは強いからなぁ。シオンに教わって、自分でブーストとプロテクトを覚えてからまた一層強くなった。

 あんなに強いのに、わざわざ第5皇子の俺のシェフに立候補するなんてもったいない。

 相変わらず、毎日ワゴンを押して楽しそうに城の中を爆走してるけど!

「殿下、そんな事ありません。シェフは誇りを持って、殿下のシェフをやってますよ」

「オク。そうかな」

「お2人も、一緒に辺境伯領に行かれたら、見る機会もあると思いますよ」

 ──コンコン

「失礼致します。アース殿と、レイ殿はこちらに?」

「セティ、いるよ」

「辺境伯領に同行される件で、お父上と一緒にお話があります。別室に来て頂けますか?」

「はい」

「分かりました。では、殿下。また」

「うん。アース、レイ。またね」

 俺はヒラヒラと手を振る。あの2人、辺境伯領についてきて大丈夫か? 親と離れた事、あるよな? ちょっと……いや、かなり不安だ。アラウィンに迷惑掛けなきゃいいけど。

「まあ、殿下。今回は何か命がある訳じゃありませんから」

「オク、そうだけどさ。なんか気が休まらないや」

「殿下、同い年ですよ?」

「リュカ、どう言う意味かな? 3等騎士のリュカ・アネイラ君」

「う……殿下、駄目です。まだ慣れませんから」

 あら、真っ赤になっちゃった。リュカ良かったなー。本当に良かった。

 なんだか出会った頃のリュカを思い出してしまったよ。

「リュカ、正装似合ってたよ。カッコ良かった」

「だから殿下。止めて下さい!」

「いやぁ〜、良いもの見たよ」

 ポンッとルーが現れた。久しぶりじゃないか。もう本当にいないよな。いる方が珍しいもんな。

「いや、リリ。僕はいつもリリを見守っているよ?」

 はいはい。最近はココって時に出てきてくれるから、助かってるさ。王国に行った時だって、何度も助けてもらった。有難う。

「うわ、なんかリリが優しい!」

「ルー。で、今日は何?」

「ああ、オクソールとリュカに祝いをね」

「え? ルー様?」

「2人共、騎士の叙任おめでとう。オクソール。最高位じゃないか」

「有難うございます」

「ルー様、有難うございます!」

「これからも、リリを頼むよ」

「もちろんです」

「はい!」

「それでだな、僕から2人に力を授けよう」

「ルー、そんな事できんの?」

「ああ、精霊魔法って言うんだ」

「「「精霊魔法?」」」

 精霊魔法とは? 今、俺達が使ってる魔法は、自分の魔力と空気中の魔素を消費して発現させる魔法だ。でも、これからルーが2人に授ける精霊魔法は、本人とルーの力も借りて発現させる魔法。それが精霊魔法と言うそうだ。精霊であるルーの力も借りられるから、使用する魔力量が少なくて済む優れものだ。

「何それ! ボクも欲しい!」

「リリの魔力量で必要ないだろう?」

 そうなのか? 俺はあんまり分かっていないけど。

「そうなんだよ。でだ、『マルチプルガード』と、『精霊の眼』どっちが良い?」

「ルー様、どんなものなのかが、分かりません」

 で、ルーが説明してくれたその二つ。マルチプルガードは、シールドの上位らしい。あらゆる属性の魔法攻撃、特殊攻撃、物理攻撃を遮断するバリアを張る。精霊の眼は、俺が持ってる鑑定の上位だ。あらゆる物の全ての情報を得る事ができる。それは凄いじゃないか。

「リリの鑑定も、頑張ったら此処までレベルアップするんだがな」

 おや、そーなのか。じゃあ、頑張るよ。

「マルチプルガード? それは? シールドを頑張るの?」

「そうだ」

 1日シールドを、展開したまま過ごすとかさ。いや、鑑定しながらシールドを展開する。うん、これだな。

「リリ、もう好きにしな。で、どうする?」

「オクソール様、俺はオクソール様が選ばなかった方にしますよ」

「リュカ。いいのか?」

「はい。2人同じのを持つより、いいでしょう?」

「いや、リュカが選んでくれ」

「どうしてですか?」

「畏れ多くて選べない」

 ブハッ、オクソールらしいや。

 2人で迷った結果、結局オクソールが精霊の眼、リュカがマルチプルガードになった。

「よし、じゃあ授けるからね」

 ルーがパタパタと飛んで、オクとリュカの額に翼を当てると2人の額がフワッと光った。

「リリ、鑑定だ」

『鑑定』

「あ、ある。凄いね」

「オク、試してみな? ああ、2人共詠唱は声に出さなくていいよ」

「……これはまた……! リリアス殿下、凄いですね」

「え、オク。ボクを鑑定したの? ボクの魔力量はどれ位か分かった?」

「いえ、分かりません」

 なんだよ、精霊の眼でも分からないのか。

「リリ、分かっていたら、僕が言ってるよ」

 ああ、そうだった。精霊の眼の元祖だったよ。

「リュカ、範囲は任意なんだ。リュカの思ってる範囲に展開できる。自分だけに掛けてみて」

「はい、ルー様」

 すると、フワンッとリュカが透明な何かに包まれた。

「うん。オクソール、斬りつけてみな?」

「はい。ルー様」

「え、え!? ちょ、普通に怖いですよ!」

「いきます」

 オクソールが思い切り斬りつけた。

 ──カキーーン!!

「おおー!!

 もちろん、魔法も大丈夫なんだよな? と思って、魔法を放ってみた。

『ウインドエッジ』

 ──キュインッ!

「殿下、マジ怖いですって! 言って下さいよ!」

「うん、凄い!」

「だろ? 良いだろー!」

 ルーがパタパタと飛んでいる。

「ルー様、有難うございます」

「有難うございます!」

「良いって事よ。本質を見る事ができる眼と、何者からも守る力を授けた。お祝いだよ。これからもリリを守ってよ」

「「はいッ」」

「よし。じゃあな!」

 ルーがまたポンッと消えた。こういう事をサラッとやってしまうルーは、やはり別格の存在なのだと思う。いつもは気の良い鳥さんなのに。

「殿下、これ自分の魔力量はどうなんですか? 減ってるんでしょうか?」

「オク、自分を見てみたら?」

「えッ? どうやってですか?」

「こうやって」

 俺は自分の両手を見る。

「それで見られるのですか?」

「やってみて」

「はい……あ、減ってないですね。と、言うか……自分はこんな感じなんですね」

「うん。オクは凄いよ。飛び抜けている。何もかもね。体力や身体能力なんて、獣人でもそういないくらいなんじゃないかな?」

「そうですか……知りませんでした」

 まあ、そうだよな。自分がどんな能力か目で見る事なんて、普通はできないからな。

 でもその能力は、オクソールが自分で努力した結果でもあるんだ。

 しかし、俺は少し引っ掛かってしまった。本当に、純粋なお祝いなんだよな? まさか、必要になるから授けたんじゃないよな? ルーはそういうとこがあるから、気になるじゃないか。


 今日は1日が長かった。夜になって俺はベッドの中だ。直ぐ側に、ユキが寝そべっている。

 朝から叙任式やって、昼から披露パーティー出て、ルーがやってきて精霊魔法なんてものをオクソールとリュカに授けて。

「ふぅ……」

「リリ、どうした?」

「ユキ、なんか今日は慌ただしかったなぁ、て思って」

「リリ、起きてるか?」

 ポンッとルーが現れた。珍しい、今日は二度目だ。

「ルー、どうしたの?」

「リリ、神に会ったのか」

「うん。魔力量の測定で大聖堂に行った時にね」

「そうか。で、聞いたのか? リリがこっちに来た事」

「ああ、うん。少し……」

 聞いたと言っても、本当にほんの少しだ。俺をこの世界に呼んだのは神だと聞いただけだ。

「そうか。この世界を嫌いにならないでほしいな」

「え? 嫌いじゃないよ。好きだよ」

「そうか。有難うな」

「ううん。あのさ、ボクを殺そうとした姉さまね、今は謙虚にやってるって。良かった。気になっていたんだ」

「姉の方は元々悪い子じゃなかったしね」

 俺を突き落としたフォランも、改心していると教えてくれた。まだ幼かったフォランが、母親に洗脳されてしまっていた部分だってあるんだ。

「自分を責めている。毎日懺悔してるよ」

「そうなの? 責めないで、て言ってあげて?」

「いや、それは無理だし駄目だ。あの妹が自分で乗り越えなきゃならない事だよ。でも、リリ。僕からも、礼を言うよ。有難う」

 もう一つ、気掛かりがあるんだ。教えてくれないかな。

「ねえ、ルー。ケイアは?」

「ああ、まだ専門の施設にいるよ。だいぶ落ち着いたけどね。あの子は長く病んでいたから、まだまだ時間が掛かるだろうね」

「そうか……欲に溺れなかったら、今頃は幸せだったかも知れないのに」

「初代の話は?」

「聞いた。ボクと同じ世界の同じ国の人だって」

「あんまり、驚いてないのかな?」

「元いた世界の国と似ている事があったんだ。だから、納得できた」

「そうか。この世界にとっては、救世主みたいなもんなんだ」

 そりゃあ、だって初代皇帝の功績はとんでもないだろう。衛生環境にしても、教育体制にしても、この世界では飛び抜けている。それが630年経った今でも続いている。

 皇族や貴族の意識にしてもそうだ。何より、魔物を一掃している。救世主以外の何者でもないな。

「そうなんだ。それでまたリリが呼ばれた。縁なんだろうな」

「そっか……」

「リリ、有難うな。幼い頃から辛い思いをさせたな」

「ルー、何言ってんの。確かに小さい頃から色々あったけど。でも、ボクはきっとその為に呼ばれたんでしょ?」

「リリ、背負わせてしまったな」

「ルー、大丈夫だよ。ボクだけじゃない。みんな一緒に背負ってくれているから」

「そうか。だけどリリ。僕が前に言った事を忘れないで。何歳でも、辛いものは辛い。嫌なものは嫌なんだ。今のリリの歳相応でいいんだからな」

「うん。ルー、分かったよ。有難う」

 そして、俺はいつの間にか寝てしまっていた。


 夢を見た。前世の妻と息子達の夢だ。

 内容は覚えてないんだが、元気にやっている事だけは覚えていた。懐かしい笑顔だった。

 俺も元気だよ。やっと10歳だけど。

 どうか、みんな幸せでいてくれよ。一緒に歳をとっていきたかったよ。