「では、順に魔力量と属性を拝見致します。名前を呼ばれた方は、中にお入り下さい」

 俺たちは10歳になった。魔力量と属性を見てもらえるんだ。

 俺も、父や母と一緒に大聖堂に来ている。もちろん、護衛のオクソールとリュカも一緒だ。父と母の護衛に近衛師団も数名付いている。

 城のすぐ近くにある、帝国の大聖堂。当然、光の神を祀っている。

 ここで、大司教に魔力量を見てもらう。

 毎年春に行われる。学園の初等教育が始まる前に、皆自分の魔力量と属性を知っておく訳だ。

 戴冠式にも使われる、帝国唯一の大聖堂だ。フィオンの婚姻式もここだった。

 白い大理石の様な鉱石で作られていて、建物中央奥に主祭壇がありその前に数百もの信徒席が並んでいる。

 南西隅に鐘楼が配置されていて、フィオンの婚姻式の時はこの鐘が鳴り響いた。

 窓を飾るステンドグラスは、帝国建国当時の最先端の技術で作られ、630年も前に作られた物とは思えない精巧な作りだ。主祭壇の上は天井がドーム型になっていて、天井のステンドグラスから入る陽光が、光の神の像を照らしている。

 光の神。まあ、像だが。前世でよくある、なんとかの神の彫刻みたいな感じ。

 ラノベや漫画で有りがちな、教会が権力を握ろうとしているなんて事はなく。平和な大聖堂だ。

 それも、光属性を皇族から出しているかららしい。今は特に、俺が光の精霊ルーの加護を受けている。そして、光の神の信徒である神獣ユキに守護されている。

 だから安泰らしい。と言うか、手が出せないのだろう。

 で、今日は俺も父と母、オクソールとリュカと一緒に大聖堂に来ている訳だ。

 俺はもうとっくに魔法を使っている。だから今更感もあるけど。ま、儀式みたいなものだ。

「では、リリアス殿下。中へどうぞ」

「はい」

「リリ、父様達は入れないからね。ここで、待っているよ」

「はい。父さま」

 呼ばれて、主祭壇の奥両脇にある小部屋の一つに案内される。

 部屋の中には、奥に光の神を祀る小さな祭壇が設けられていて、その前に大司教様がおられた。

「これはリリアス殿下。無事に10歳になられましたね。おめでとうございます。リリアス殿下を拝見できるのを、楽しみにしておりました」

「有難うございます。それは、光栄です」

「では、殿下。そちらにお座り下さい」

「はい。宜しくお願いします」

 俺が、用意されていた椅子に座ると、大司教は俺に向けて手をかざした。

 その大司教を俺は鑑定してみた。どうやって魔力量や属性を見るのか知りたかったんだよ。

 その結果、単純に鑑定の下位だった。それじゃあ、俺の魔力量は測定できない。

 だって、俺が持っている上位の鑑定でさえ分からないんだから。

 何か、特別なものでもあるのかと期待したのに。肩透かしだ。

「これは……底が見えません。殿下は全属性ですか。ご自分の魔力量を把握していらっしゃいますか?」

「いえ、ボクも底が見えません」

「殿下、もしやスキルをお持ちで?」

「はい」

「では、殿下は私よりも理解されているのですね」

「そうだと思います」

「そうでしたか。わざわざお越し頂いたのに、はっきりと確認できずに申し訳ありません」

「いえ、お気になさらないで下さい」

「お心遣い有難うございます。では、殿下。こちらの祭壇に祈りを捧げて下さい。無事に10歳まで成長したと、光の神へご報告と感謝を」

 俺は席を立ち、祭壇の前でひざまずいた。

 目の前が真っ白になり、一瞬で周りの様子が変わった。真っ白の空間だった。

「え……? 何これ?」

「リリアス、よく来たね」

 目の前に、身体が光っている様に見えるピカピカの男性が立っていた。いや、よく見ると少し足が浮いている。

 真っ白な長い布を身体に巻きつけた様な衣装で、金糸を織り込んだ豪華なマントを羽織っている。

 髪は床に着くかという程長い金糸の様なストレートの長い髪。瞳は金色で、肌は透ける様に白い。

 所謂、後光が差しているのかという程に眩しい。どこかの神話に出てきそうな感じだ。

「え……? あの……ボク、死んだ?」

「いや、死んでいないよ。リリアスの意識をこちらに引っ張ってきた。無事に10歳になったか。良かった」

 いや、意味が分からん。どうなってんだ? て言うか、さっき祭壇で見た像とよく似ている。

「私は光の神だ。君をこの世界に、連れてきたのは私だ。君を連れてこなかったら、リリアスは死んでいた」

「湖の?」

「姉2人を助けてくれた。礼を言うよ」

「いえ、ボクは助ける事ができたのですか?」

「ああ。今は2人共謙虚に仕えている」

「そうなんだ。良かった」

「あの事故は偶然だった。湖が繫がって、上手く君の魂をこの世界に連れてこられた。時間を遡ってリリアスとして産まれたんだ。君は湖に落ちた事で思い出してしまったが、思い出すのが早過ぎた。君を連れてきた事で、この世界は救われたが君には辛い思いをさせてしまった。できれば、この世界も好きになってくれると嬉しい」

「好きですよ。前の世界に比べると理不尽な事も多いけど。ボクを愛してくれる家族や、周りの人達に恵まれています」

「そうか。ルーやユキは役に立っているか?」

「ルーや、ユキと出会ったのは、神様が遣わせてくれたからですか?」

「いや、偶然……違うな、必然だ。想像以上に君の光属性は強い。引き寄せたのかも知れない。私達神は、そこまでは関与しない」

「そうなんだ」

「ああ。私は君を連れてきただけだ。リリアスからは、この国の初代皇帝とよく似たものを感じる。一つだけ教えてあげよう。初代皇帝も、リリアスと同じ世界から来た人間だった」

「えッ!? 転生者って事ですか!?

「転生とは少し違う。しかし、同じ世界の同じ国の人間だ」

 そう言われれば、納得できる事が沢山ある。なんだ、そうなのか。

 いや、とんでもない事実を聞いたのだが、何故か俺はそんなに驚いてないんだよ。

「ああ、そろそろ時間切れだ。リリアスと会えて良かった。元気で成長してほしい」

「はい。もうお会いできないのですか?」

「ああ、次はいつか分からない。だが、ルーがいるだろう?」

「はい。分かりました」

「この世界に連れてきたのは私だが、その後の選択はリリアス自身がした事だ。リリアス、君はこの世界の沢山の人間を救ってくれた。有難う。これからも前を、未来を見て成長してほしい」

 また、目の前が真っ白になり、次の瞬間俺は祭壇の前にいた。

「殿下、さあお立ち下さい」

「……はい」

「次は20歳です。また元気なお姿をお見せ下さい。光の神の御加護を」

「有難うございました」

 俺は部屋を出た。案内してくれた人が待っていてくれて、父と母の元に戻る。

「リリ、どうだった?」

「あ……いえ。父さま、はっきりとは分かりませんでした。底が見えないと」

「やはりそうか」

「陛下、リリ。では、帰りましょう」

「はい、母さま」

 何だか……まだ信じられない。俺、光の神に会っちゃったよ。



「リリアス殿下!」

 おう、来たか。アースとレイだ。

 5歳の時に友達になったから、この2人との付き合いももう5年になる。

「レイ、大きな声を出してどうしたの?」

 レイが大きな声を出すのは珍しい。いつもうるさいのはアースの方だ。

「魔力量の測定ですよ!」

「ああ、どうだった?」

「もう、驚きました! 兄より多いのです!」

 7歳の時に、レイとアースには教えていた。毎晩寝る前に、魔力を使い切れと。枯渇しない様に注意して、ギリギリまで魔力を使うと魔力量が増えるからと。

 それを毎日きっちりとこなしたレイは平均の10倍だった。アースは5倍。この差は何だ?

「あー、俺は鍛練で疲れてしまって。魔力を使う間もなく寝てしまう事がよくあって」

 なるほど、そうか。じゃあレイは、日々の努力の成果だ。

「で、2人とも属性は?」

「はい。俺は火でした。両親や兄2人も火なので、やっぱりって感じです」

 そうか、アースは火か。戦闘では、1番使われる属性だからいいじゃん。

「僕は、水と風でした」

 おお、レイは2属性か。

「両親の、両方の属性を貰った感じです」

 ほぉ、なるほど。属性も遺伝が関係あるのかな? まあ俺はりんごジュースを飲もう。

「ニル、りんごジュースちょうだい」

「はい、殿下」

 ニルが出してくれると、ユキさんもりんごジュースを貰おうと寄ってきた。

「ねえ、ニル。アズから連絡あった?」

「定期的にありますよ」

 アズとは、ニルのお姉さんだ。フィオンの侍女をしている。

 婚姻で、フィオンは辺境伯領に行った。アズも付いて行ったんだ。

「ボクさ、辺境伯領にゆっくり行きたいんだ。姉さまの子供に会いたいんだよね」

 フィオンは婚姻して直ぐに懐妊した。フィオンそっくりの、男の子だ。赤ちゃんの時に、ほんの少し会ったきりで今は2歳になっている。絶対に可愛いだろ? 可愛いに決まってる。

 アスラールの子供にも会いたいしさぁ。

「リリ殿下って、子供好きだよな?」

 アースが言う。そうか? 普通だろ?

「え? 何で? 普通じゃない? だって小さい子って可愛いじゃん」

「リリ殿下、可愛いけどさ、鬱陶しい時あるぜ? うちの1番上の兄貴の子供が、女の子なんだ。もう既にご令嬢だよ。超我儘でさ、かなり鬱陶しい」

「アース、その子何歳?」

「何歳だろ、2歳かな?」

「じゃあ、姉さまの子供と同じだ」

「女の子はさぁ、マセてるぜ。うちは男ばっかだから、甘やかされてるのもあるんだけどな」

 アース、お前いくつだよ。お前もまだ子供なのに、マセてるもないだろう。

 でもなー、会いたいなぁ。ニルズとテティにも会いたいしなぁ。

 あの海の匂いのする、大らかな領地でゆっくりしたい! お休みが欲しいなぁ。

「今は取り立てて急ぎの件もありませんし、陛下かエイル様にご相談されてみては如何ですか? 構わないと思いますよ」

 そうか! ニルがそう言うなら、じゃあまずは母に聞いてみるかなー。

「殿下、辺境伯領ですか?」

「うん。レイ、そうだよ」

「僕も一度は行ってみたいです」

「俺も俺もー!」

 アース、思ってないだろ? 今とりあえずノリで言ったろ?

「とっても良い所だよ。魔物はいるけどね」

「でも殿下。街には入ってこないと聞きました」

「うん。防御壁と魔物避けが、凄くしっかりしているからね」

「魔物かー! 狩ってみたいなー!」

 いや、アース。今の実力だと危険すぎるよ。

「アース、もっと鍛練しなよ? マジで、まだまだだよ?」

「殿下、分かってますよ。俺はまだ弱いと分かってます!」

「そう、なら良いや」

「アース、もっと落ち着いてちゃんと見て考えないと駄目だよ?」

「レイ、なんだよ。俺が全然見えてなくて、考えてないみたいじゃないか」

「「そうじゃん」」

「え、2人して酷い」

 あれか、アースはリュカに似たとこがあるんだ。憎めない、可愛げがある。

 そう思って、部屋の隅に控えているリュカを見た。

 リュカはコテンと首を傾げた。ハハハ、分かってないな。

 そう言えば、リュカの叙任式はどうなった? もう良いんじゃないか? と、俺は思う。

 それも、母に聞いてみよう。



 翌日俺は、リュカと母の部屋へ向かう。

「殿下、辺境伯領ですか?」

「うん。姉さまの子供に会いたい」

「そうですね。殿下はまだ10歳なのに、働き過ぎですから。ゆっくりされても良いと思いますけど」

 え? 俺、働き過ぎなの? 自分で意識していなかったな。日本人の働き過ぎ体質が出てしまっているか? いやいや、小児科医の頃はもっと働いてたよな?

 いやいやいや、俺は馬鹿か。今俺は10歳の子供だ。

「リュカ、そう思う?」

「はい。そうです。俺が10歳の頃なんて、寝て食って遊んで食って寝てみたいな」

「アハハハ! 何だよそれ!」

「いや、殿下。子供ってそう言うもんでしょう」

「あー、そう?」

「そうですよ」

 そうか。んー、10歳の子供だもんなぁ。てか、リュカに関しても少し気になる事があるんだよな。

 そう思いながら歩いているうちに、母の部屋についた。

「母さま、リリです」

「どうぞ、入りなさい」

 母の声が聞こえて、リュカがドアを開けてくれる。リュカは部屋の中で待機だ。

「リリ、どうかしたかしら?」

「母さま、ボクお休みが欲しいです」

「え? リリ、母様は意味が分からないわ?」

 母に、今俺が抱えている仕事を話した。

「まあ、母様は知らなかったわ。子供のリリが、どうしてそんな事をしているのかしら?」

 母のこめかみが、ピクピクしている。

 ヤベ。顔は笑ってるけど、怒っているよな。話す相手を間違えたか?

「母さま、ボクしかできない事もあるので、仕方ないのです。でも、ボク少しお休みが欲しいです。フィオン姉さまの子供に会いたいです」

「リリ、そうね……少し待ってくれるかしら。実はね、リュカの叙任式を考えているのよ。それと、リリも10歳になったから側近候補との顔合わせもしなきゃいけないの」

 リュカ、叙任式だって!! やっとだ! 長かったよな。よく頑張ったよ。俺、涙出そうだ。

 リュカは俺が3歳の時に助けた獣人だ。

 希少種で純血の狼獣人だから、狙われて血を流して倒れている所を助けた。

 それから、リュカの希望で俺の従者兼護衛として付いてくれている。

 帝国では、皇族の従者や侍女、側近になる者は決められた家系から選ばれる。汚職や不正を防ぐ為に、建国当初からの決まりだ。

 だから、リュカは異例だった。あくまでも、従者兼護衛候補の立場だった。

 元々獣人だから身体能力は高い。リュカは、ずっと従者としての勉強をして、オクソールに付いて鍛練もしてきた。今や騎士団の中だと、オクソールの次に強いだろう。騎士団の中に限ってだ。

 何故かと言うと、シェフがリュカより強い。なんでシェフの方が強いんだよ、意味分からん。

 そして、やっと叙任式だ。普通は、騎士団に入団する時にする。

 第1騎士団に入る者は、フレイに。第2騎士団に入る者は、クーファルに騎士の誓いをする。

 リュカは騎士団に入る訳ではない。

 オクソールも厳密に言うと、騎士団ではない。オクソールは騎士として、上級騎士の位に叙任されている。

 2等騎士、ナイト・イン・オヴィディエンス(忠誠の騎士)だ。

 今、帝国には1等騎士はいない。よって、オクソールは騎士の頂点と言える。騎士を目指す者、全ての憧れオクソール・ベルゲン。獅子の獣人だ。

 俺の専属護衛騎士なんて、もったいない。

 リュカは、3等騎士、ナイト・オブ・グレース(恩寵の騎士)に、叙任される予定だ。

 この3等騎士は、他にもある。

 ナイト・オブ・デヴォーション(献身の騎士)と言う。

 これは、代々貴族家系に限る。騎士団長が、この3等騎士にあたる。

 リュカは、騎士団長と同じ権限を持つ事になる。そしたら、王国に行った時の様に、謁見の間に入れないなんて事はなくなる。

 あの時、あと扉1枚だと思ってからもう3年も経ってしまった。

 3年前に、正式に俺の従者になってからもう直ぐだと思っていたら、意外と長かった。

 1等から3等騎士は、皇帝に騎士の誓いをする事になる。騎士に叙任されるのは、それだけ大変な事なんだろう。

「でね、リリ」

「はい、母さま」

「リュカの叙任式の時に、一緒にオクソールも階級を上げる事になるわ」

「「えッ……!」」

 思わず、リュカも声を出した。

 2人で顔を見合わせて、ビックリしてしまった。

「母さま、じゃあオクは1等騎士に?」

「そうよ」

 ナイト・オブ・ジャスティス(正義の騎士)、帝国で唯一の騎士になる。

 ちょっと待て。1等騎士なんかになったら、まさか……。

「え……母さま、ボクからオクを取らないで下さい……ゔッ……」

 いや、マジかよ。そんな最上位の騎士が俺に付いてくれる訳ないじゃん! 思わず泣いてしまったよ。

「もう、リリは早とちりなんだから。オクソールは今迄通り、リリの専属護衛よ」

「母さま、本当ですか!?

「ええ。本当よ。今迄、何度もリリの命を救った事に対しての昇級なの。オクソールじゃないと、守れなかったわ。安心しなさい。大丈夫よ」

 良かった! もう、ビックリしたよ。

「それでね、リリ。その話をオクソールに打診したら、リリに誓わせて欲しいと言っているの」

「え……!?

 いや、オクソール。待てよ。そこは、皇帝にしておこう。

「リュカもそうなんでしょう?」

「はい! もちろんです」

 リュカ、元気よく返事してるんじゃないよ。そんな話をしていたなら、教えてくれよ。

 俺にもさぁ、心の準備が必要なんだよ。

「母さま、ボクは2人共父さまで良いと思います」

「それがね、2人共それじゃあ嫌だと言ってきかないのよ。だから、リリが10歳になるまで待っていたのよ」

 なんだってぇぇー!? 俺が原因なの? 俺が小さかったから、待たせちゃったのか!?

「リリ、貴方が誓いを受けるのよ」

「母さま……ボクそんな事……」

「リリ、光栄な事じゃない? 帝国一の騎士が、貴方じゃないと嫌だと言っているのよ? 何もないところから頑張って騎士になろうとする子が、リリじゃないとって、言っているのよ? 喜びなさい。ちゃんと受け止めなさい」

「……はい、母さま」

 母はこんな時、物怖じ等一切しない。俺は直ぐに怖気付くが、母は逆だ。そして、俺の背中を押してくれる。そうか。そう言う事か。有難い。俺は本当に恵まれている。

「リュカ、有難う」

「リリアス殿下、それは私の台詞です。心からお仕えできる殿下に出会えて、これ以上の喜びはありません。有難うございます」

 そう言って、リュカは頭を下げた。ゔぅッ! 泣いてしまうやろぉー! リュカ、有難うよー!


 そして、オクソールとリュカの叙任式が10日後に決まった。母に相談した後、母から父にクレームが入ったらしく、叙任式の後辺境伯領に行く許可を貰った。今度は、母とフレイも一緒だ。

 クーファルが、自分が行くと言い張ったそうだがフレイは譲らなかったらしい。

 また、意外な所からの同行希望が出た。アースとレイだ。

「え、なんで?」

「帝国の要だから。辺境伯領を一度見ておくのも良いだろうって、事らしいですよ」

「俺は楽しみだけどな!」

「でも、本当に魔物が出るからね。領地の街から出たら駄目だよ。あ、レイ。いい機会だから、レイとアースの分の魔道具作ってみる?」

「殿下! はい!」

 そうして、俺はレイにマジックバッグと、防御と状態異常無効の付与を教えた。結果、マジックバッグはまだ無理だった。魔力量が足らなくて空間魔法が使えないんだ。

 だが、魔石には付与できた。レイは、何個か失敗しながらも、なんとか防御を付与した。

「殿下、今更ながら殿下の凄さが分かりました」

 いつも淡々としてクールなレイがうなれているよ。珍しい。



 とうとうやってきた。オクソールとリュカの叙任式の日だ。

 俺は、白にグリーンブロンドの刺繡の入った正装だ。同じ白にグリーンブロンドの帝国の紋章の刺繡入りのマントに、右肩にたすきけにしている緋色のサッシュ、その上から重々しい黄金のけいしよくを下げた姿だ。正装フル装備だ。

 皇族でも10歳迄はこの様な公式行事への出席は免除されている。だから、10歳になった俺の初めての公式行事への出席が、オクソールとリュカの叙任式になったんだ。

 そりゃあ、ビビるよ。正直、心臓バッコバコだ。足もガクガク震えそうだ。

「リリ、良く似合っているよ」

「父さま」

 父も同じ様に、正装をしている。ただし皇帝は、マントの色が緋色だ。サッシュと頸飾も下げている。父は良いよ。慣れているだろうし、正装もお似合いだ。

 俺は、こんなの今日が初めてだ。おまけにこんなちびっ子がマントなんて、似合う訳ないじゃん。

「リリ、本当だ。良く似合っているよ」

「クーファル兄さま。泣きそうです」

「アハハハ。リリ、そう緊張するな!」

 フレイは他人事だ。

「リリ、大丈夫だ。落ち着いて」

 これは、テュールの言葉だ。

「そうだよ。リリなら大丈夫だ」

 フォルセは励ましてくれる。

「リリ、大丈夫よ。あなたより、リュカの方がガチガチだから」

「母さま。そうなんですか? 大丈夫かな……」

「フフフ、リリアス。人の心配ができるなら大丈夫よ」

「皇后様」

「リリアス殿下、ご立派ですわ」

 あ、これはテュールとフォルセの母、第1側妃のナンナ・ド・アーサヘイムだ。

 初登場だ。おとなしい、おっとりとした人だ。

「ナンナ様、有難うございます」

 そうさ、今日は皆正装で勢揃いなんだよ。あー、マジ心臓もたないよー。


 騎士の叙任式は、城の謁見の間で行われた。

 大きな窓から陽が入っているのに、魔石のライトに灯が灯され眩いばかりの謁見の間。

 正面に皇帝の座があり、両側にはアーサヘイム帝国の国旗が掲げてある。その内側には、皇家の紋章の入った旗。ロイヤルブルーを基調としたカーテンと毛足の長い絨毯。

 その前に皇帝以下、皇族全員出席だ。皇帝を真ん中に、向かって右側に皇后様、側妃2人が並び、左側に皇子が順に並ぶ。俺は末席だ。

 そして、高位貴族や大臣、官職の長達も出席して叙任式を見守る。

 とうとう、皇帝の口上が始まった。

「騎士は、その気高い勇気、善い振る舞い、寛大さ、そして名誉をもって、人々より愛され畏敬される存在でならねばならない。弱き者を尊び、守護者であること。その生まれしアーサヘイム帝国を愛すること。いつ如何なる時も、善と正義の味方となり、不正と悪に立ち向かうこと。そして、今日この時に誓いし自らの主君に仕え、主君を守ること。オクソール・ベルゲン。汝を、1等騎士ナイト・オブ・ジャスティスに叙任する。前へ。帝国第5皇子、リリアス・ド・アーサヘイム。此れへ」

 俺が前中央に出ると、オクソールが俺の前に片膝をつく。

 そして、静かに剣を鞘から引き抜くと刃に両手を添え、柄を俺に預ける。

 俺は、剣を受け取り左肩それから右肩にそれを当てた。オクソールの騎士の誓いの言葉だ。

「我が身は敵を切り裂く光の剣であり、凶刃から守る光の盾であり、御身の支えとなる光の杖。片時も離れず寄り添い、御身をお守りし、我が命朽ち果てても忠誠を誓います」

 それを受けて、俺の言葉だ。いかん、緊張よりも感動して涙が出そうだ。

「汝、私を裏切らぬ事。汝、如何なる時も礼節を守り他の騎士や国民の規範となる事。汝、国民を守る事を誓う事。その身朽ちても、魂は永遠に私と共にある事。オクソール・ベルゲン。此処に、リリアス・ド・アーサヘイムはそなたの忠義、しかと受け取った」

 誓いの言葉が終わるとオクソールは、剣を両手で恭しく口先に寄せるとキスをした。

 そして、ゆっくりと剣を戻した。

「オクソール・ベルゲン。我、汝を騎士に任命す」

 オクソールは、右手を胸に添え頭を下げる。臣下としての最敬礼だ。

 次は、リュカだ。やる事も誓いの言葉も同じなんだが、オクソールよりも緊張する。頑張れ。

「リュカ・アネイラ。汝を3等騎士、ナイト・オブ・グレースに叙任する。前へ」

 リュカもオクソールと同じ様に跪き、静かに剣を鞘から引き抜くと、俺に預ける。

 俺は、剣を受け取り肩に当てた。リュカも同じ様に誓いの言葉が終わると、剣を両手で恭しく口先に寄せるとキスをした。そして、ゆっくりと剣を戻した。

「リュカ・アネイラ。我、汝を騎士に任命す」

 俺がそう言うと、リュカは右手を胸に添え頭を下げ、最敬礼をした。

 今日はリュカも、オクソールと同じ白の正装にネイビーブルーのマントだ。

 右肩から、緋色のサッシュ、その上から黄金の頸飾も下げている。