それは『ハートダンジョン』第二層での一幕。

帰還するにあたり、女性陣が着替えのためショウタがテントから出て行った時のこと。

「ふむ。生着替えを見せるには早すぎましたか」

アイラはショウタの奥手具合を再確認し、その上で危惧していた。テコ入れが必要だと。

「少し恥ずかしいですけれど、わたくしとしては旦那様には、お見せしても良いと思いましたのに……」

「アヤネとアイラさんは大胆過ぎるのよ。あたしは、まだちょっと勇気が出ないわ。ショウタ君に裸を見せるのが嫌なわけじゃないけど……。ほら、あたし達はまだ付き合って間もないじゃない? 関係は始まったばかりなんだし、急ぎ過ぎるのも良くないんじゃないかって思うの。ね、マキはどう思う?」

「……うん。私も姉さんと同じ気持ちだよ。この前、姉さんと一緒にショウタさんに抱き枕として使ってもらったでしょ? あの時なんて、ショウタさんに聞こえちゃうんじゃないかってくらい、心臓が激しく鳴り響いてたんです。直接触れられる事に比べれば気が楽でしょうけれど、やっぱり裸を見せるのはまだ……」

アイラはアヤネの覚悟に満足気な表情を浮かべたが、照れる2人の言葉には少し危機感を覚えた。

「お2人とも、考えが甘いですね。ご主人様が一般的な冒険者であれば、その考えを尊重しても良いのですが……。その判断は大変危険であるため、推奨できません」

「ど、どういうこと?」

アイラとしても異性と関係を持つのはショウタが初めてであり、ゆっくりと愛を育む事を夢見ていた時期もあった。しかし、ショウタの成長速度を思えば、一般的な恋愛の進展速度では、今後危機的状況におちいると判断した。

「ご主人様は、世界的に見てもダンジョンへのアプローチが独特な方です。それが『レベルガチャ』の取得へ繋がり、レアモンスターの出現条件の特定に至ったのだと思います」

「そうですね。ショウタさんは、私達とは違う視点でダンジョンを見ています」

「であれば、今後もご主人様は多種多様な未知を発見し、世界に還元していく事でしょう。そして普通であればつまずいてしまうような問題に直面しても、『レベルガチャ』が後押しとなって、力技で突破できるようになるかもしれません。当然『レベルガチャ』の存在を公開なんてしませんから、周りからしてみれば、ご主人様の成長速度は異常であると注目を浴びることになるでしょう。そして、それが様々な要因をもたらす事になります。その時、ご主人様を取り巻く環境は、どう変化しどう動くでしょうか?」

「「……」」

仕事のかたわらで耳にする男女関係の話で、多少耳が肥えたとしても、この場にいる全員が恋愛は初めてであり、その感情に振り回されるのは仕方のないことかもしれない。だが、それ以前に彼女達は日本を代表する早乙女家の人間であり、優秀な受付嬢でもある。

一度冷静になって考えてみれば、今後ショウタがどのような軌跡を辿たどり、周囲からどのように評価されるかなど、明確に想像することができた。

「……なるほどね。アイラさんの言いたい事、すごくよくわかったわ」

「このままゆっくり関係を進めていては、もっと魅力的な女性が現れた際に、ショウタさんに対しても、周囲の圧力にも、強く出られない……。そういうことですね」

「ええ、その通りです。世界は広いですし、ハニトラ専用の侵入者が諸外国から送られてきてもおかしくはありません。そうなった時、私達が関係を結べていなければ、ご主人様は骨抜きにされてしまうかもしれません。何事も、最初の1回は特別ですからね」

「「最初……」」

「はぅ、旦那様を知らない人に取られるのは嫌ですわ……」

アキとマキは改めて現状を思い返し、そうなる可能性がゼロではなく、手をこまねいていれば、確実に起きる事を理解した。

「……まだ恥ずかしさは残ってるけど、このままじゃダメよね。分かったわ、あたし、覚悟を決めたわ」

「姉さん……。うん、私も決めました! 全力で臨みます!」

「大変結構です。では早速ですが、今晩、アキ様からお願いできますか? やはり、出会った順番は大事ですからね」

「い、いきなり!?

「ええっ!?

「なんの話ですの?」

アイラはアヤネにボソボソと耳打ちすると、アヤネは頭から煙が出るほど顔を真っ赤にした。

「はわわ……。つ、ついにですのね……!」

「順番は、アキ様、マキ様、お嬢様、私の順に致しましょう。ご主人様も見たところ未経験のようですが、ご安心ください。あの方は多少奥手なところもありますが、誘われて逃げ出すようなヘタレではないのは間違いありません。しっかり誘えば、応えてくれるはずです」

「ね、姉さん。頑張って……!」

「う、うん。頑張る……」

「ファイトですわ!」

嫉妬などではなく、純粋な気持ちで応援し合う関係にアイラはほっこりとした気持ちになった。

「ふふ、では予行演習と行きましょうか。ご主人様を呼んで、着替えを見てもらいましょう」

「そ、それはちょっと!」

「そうですっ。それとこれとは話が違います……!」

「そうでしょうか?」

「わたくし、旦那様を呼んできますわ!」

「あ、ちょ──」

「アヤネちゃん、待って!」

制止の声は届かず、アヤネはテントの外へと駆けて行った。アキとマキは、こうなっては仕方がないと、ショウタが来るのを今か今かとドキドキしながら深呼吸をしていると、アヤネが慌てた様子で帰って来た。

「大変ですわ! 旦那様がどこにもいませんの!」

「「「!?」」」

そうして全員でテントを飛び出したが、察しの良いアイラが海に飛び込む事でショウタはすぐに発見され、この騒ぎは事なきを得たのだが……。

その後、未知の宝箱発見という特大イベントを目の当たりにし、全てを持っていかれた事で、生着替え鑑賞イベントはお流れになってしまったのだった。