「──報告は以上となります」
アイラが端末に向かって淡々と語った。相手は第一エリアの表の顔を支配する早乙女家のミキと、裏の顔を支配する宝条院家の当主サクヤだ。
『アイラ、報告ご苦労様でした。それにしても不運でしたね。せっかくの休暇中に、犯罪組織のメンバーに目を付けられてしまうだなんて』
『まったくよ。それも、女の子を操って好き放題するようなクズ連中と遭遇するなんて……! レベルが1桁の一般人なら、声を掛けられた時点で一発アウトだったところよ。アキやマキ達のレベルを上げておいて、本当に良かったわ』
『アイラ、あの子達の様子はどう?』
「ご主人様のメンタルケアのおかげもあり、今は気を落ち着かせた様子で、奥様達は3人で温泉に入っています」
『ああ、良いわね温泉。私も入りたくなってきちゃったわ』
『アイラ、3人でということは彼は一緒ではないのかしら』
「はい。ご主人様は別件で部屋に篭っておいでです。ですがご安心ください、関係は順調に推移していますし、先日などは全員まとめて愛して頂きました」
『それは安心ね。ミキ姉さんも私も、来年には孫の顔が拝めるかしら』
『そうね。それにしても全員まとめてって……。若いって良いわねぇ』
2人は和やかに親としての顔を垣間見せるが、すぐさま支部長の顔へと切り替えた。
『それでアイラ、報告では彼は奴らの攻撃を受けてしまったとあるけれど、本当に影響はなかったのね?』
「はい。ご主人様は気力だけで精神支配を振り払いました。その衝撃で、逆に術者のメンタルにダメージが生じたようですね」
『あらそう。メンタルへのダメージは魔法での修復が困難だから、今後の精神負荷などの実験で平静を保ってくれるかしら? 少し心配だわ』
『もう、サクヤったら。そんな事よりもアマチ君が無事ならそれに越したことはないでしょ。それに今回の犯罪者グループの摘発は、A+に昇格させることを渋っていたお偉方も、首を縦に振らざるを得ないわ!』
「今後のことを思えばA+は早急に欲しいところでした。Sランクへの飛び級は難しくとも、A+への到達は現実味が増してきましたね」
アイラは『アンラッキーホール』での完全攻略のことは胸に秘めつつ、今後の展望を口にした。
『Sランクはまだ気が早い、とは言えないのよね。危険スキルである『視線誘導』と『催眠の魔眼』の凶悪コンボを、正面から突破できるほどの実力と精神力があるのなら、あとはランクに見合う何かさえ提示できれば……』
『ええ、本当に。期待以上に成長してくれているようで何よりだわ。私も直接会えるのが楽しみよ』
『……サクヤ。何度も言うようだけど、変なことしないでちょうだいね? 私の大事な娘達の婿様なんだから』
『ミキ姉さん、安心してください。私はただ、彼が今後の国の未来を任せるに足る人物か、見極めたいだけですから』
『本当かしら。怪しいわねー?』
第一エリアを裏から支配するサクヤに、真正面からこんなことを言えるのはミキくらいのものだろう。そんな2人のやりとりを軽く聞き流しつつ、アイラはタイミングを見計らって席を立った。
「それではこれより、ご主人様のサポートがありますので、失礼させて頂きます」
『ええ、ご苦労様でした』
『2日後のパーティー、楽しみにしていますね』
「はい。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました」
そうしてアイラは、2人が通話から抜けるまで頭を下げ続けた。
「……さて。ご主人様のアクセサリー製作に手伝いは不要とのことですし、発注した燕尾服やドレスの進捗を確認しなければ。予定は詰まっておりますし、余裕を持って片付けていきましょうか」
アイラは誰にも見られていない状況下で、楽しげに微笑むのだった。