俺の格好は普段着なのだが、彼女達は修行が終わったあと、いつ用意していたのかいきなり浴衣を着て戻って来たのだ。普段見ない浴衣姿の彼女達は、汗をかいている影響で色気が3倍増しになってる気がするぞ? さっき、彼女達は1日お預けを食らったと言っていたが、それは俺も同じなのだ。それもあってさっきから心臓の高鳴りが止まらないわけだが、それは周囲にいる人達も同じだった。

「おい、あれ……」

「すごい綺麗……。モデルさんかな?」

「バカ、あれは冒険者だろ」

「なんか、めちゃくちゃエロくね?」

204という高レベルな俺がいる影響か、誰からもナンパをされずにいるものの、男女問わず彼女達は無数の視線を集めていた。

「どう、ショウタ君。あたし達すっごい見られてるけど、ジェラシー感じちゃう?」

「……まあ、割とね?」

「んふふ。この浴衣を見せた時みたいに、純粋に綺麗だって褒めてもらうのも嬉しいけど、そういうのも大事だと思うのよねー」

「ハーレムにマンネリは禁物ですから」

どうやら、またしてもアイラが策略し、それにアキ達が乗ったようだな。

「あとで覚悟しとけよ」

「楽しみにしておりますね」

「の、望むところよ!」

「……ん?」

そうして2人とイチャついていると、マキとアヤネの姿がない事に気付いた。ダンジョンでは見失ってもマップがあるからすぐに探し出せるが、外だとそうはいかない。その為本来なら、あっちこっち探さなくてはならないところだった。けど、この2日間の修行を経た今なら……。

「あっちだな」

正面の曲がり角の先。そこに2人の気配があった。

「お、もう見つけたの? 流石ショウタ君ね」

「修行の甲斐があったというものです」

「とりあえず、合流するぞ」

今回の修行の成果は、扱えるステータスの幅が急上昇しただけでない。ある程度自分の周囲にいる存在の気配を、スキル無しでも感じ取れるようになった事だろう。流石に、気配からでは相手の正確な情報を見抜くことはできないが、うちの彼女達くらいなら視界の外にいても詳細な位置情報が分かるようになっていた。

「ですから、何度も申し上げましたように、結構ですわ。わたくし達には大事なフィアンセがおりますの」

「だからそんな奴のことはほっといてさ。俺達と遊んだ方が絶対楽しいって。なっ?」

「そうそう。それにオレら結構金持ちでさ。君達にピッタリなアクセサリーを買ってあげる事もできるよ。こんな綺麗なお姉さん達を飾り立てる甲斐性もない奴なんて捨てて、オレ達と行こうぜ」

「ですから、お断りです。道をあけてください」

どうやら、目を離したすきに2人組みの男達にナンパされていたらしい。マキはこういう手合いには慣れているのか、淡々と断りつつも退路を確保しようと動いている。アヤネも、毅然と断っているようだが、相手は諦める気配がない。普通、あれだけ拒絶の意思を見せられたら折れると思うんだけど、メンタルが強い奴らなのかな?

「流石マキねー。放っておいたら無限にナンパされるんじゃない?」

「あの2人組、どこかで……」

アキが能天気にカラカラと笑う中、アイラが警戒するように目を細めた。そんなに警戒が必要な相手か? 俺もそう思って連中に視線を向けると、片方の男と目が合った。その瞬間、言いようのない悪寒のようなものが背筋を走る。

「っ!」

俺が不快な感覚を感じたように、相手も何かを感じたのだろう。慌てて相方に何らかのジェスチャーをした。男達は何かのアイコンタクトをすると、すぐに動き出した。

「そんなに嫌がられるとは思わなかったよ。仕方ない、俺達は一旦帰るけど、もし興味があったら明日もこの時間においでよ」

そう言って連中は、まるで俺から離れるように遠ざかろうとする。

「おい、待てよ!」

俺は謎の焦燥感に駆られて、『跳躍』を使って人混みから飛び出し、『空間魔法』で空中に足場を作って真横に『跳躍』。奴らの正面へと躍り出る事に成功した。

修行のおかげか、めちゃくちゃスムーズな足運びができたな。

「「!?」」

俺を認識した奴らは驚いたようだが、すぐさま踵を返そうとして、止まった。目に見えない圧力を全開に振りまき、鬼気迫る様子のアイラが、奴らの逃げ道を完全にシャットアウトしていたからだ。

なんだか分からんが、コイツらは敵認定で良さそうだな。敵なら容赦はしない。まずは情報だな。

「『真鑑定』……ん?」

なんだこの、全てが弾き返される感覚は。まるで情報が見えないし、俺の『真鑑定』を完全に弾けるスキルを持ってるのか?

「ご主人様!」

我に帰ると、奴らはこちらに向かって突進してきていた。怖そうなアイラより、困惑している俺の方が御し易いと判断したらしい。舐められたもんだな!

「おいお前!」

オレの目を視ろ!!

「……!?

男の片割れが俺と視線を合わせてくる。いや、抗えない感覚から、強制的に合わされた感じもする。目に見えない何かが目から脳に、そして手足に伸びる感覚を覚えたが、気色悪かったので意志を強く持った。

「ふんっ!」

「ぐぎっ!?

何かを強制的に引き千切った感覚を覚えると、男は頭を抑え、その場に蹲った。

「なっ!? おいお前、俺に従え!!

残った男によって、またしても抗えない感覚と共に視線が奴へと誘導され、意識もまた、見えない何かに呑まれそうになる。だが、さっきので要領は掴めた。

「断る!!

全力で不可視の支配を振り解き、反撃に男の腹に渾身の一撃を叩き込む!

「ごはっ……!?

2人目の男は崩れ落ち昏倒したが、最初の男はまだ意識があるようだった。反撃されると面倒なので、こいつも意識を削いでやろうかと思ったところで、連中に追いついたアイラが、正確に奴の頸椎に一撃を叩き込むのだった。

「お疲れ様でした、ご主人様」

「おー。まあ、正直訳がわからなさすぎて不完全燃焼だけど」

アイラは昏倒した連中の全身を縛り上げ、猿轡に目隠しと、行動封じのオンパレードを行った。側から見れば彼らはナンパしてただけだというのに、酷い蛮行である。ただまあ、アイラが無意味にそんなことをするはずがないし、俺も嫌な予感がした。きっと何か、のっぴきならない理由があるのだろう。

そして今、俺の腕の中にはマキとアヤネがいる。よほど怖かったのか、いつも以上にガッシリと掴まって、離れる気配がない。先程まで、マキは母親に、アヤネは実家の使用人に連絡を入れて、事の顛末を説明していた。ナンパされたくらいでと思うが、きっとそこにも理由があるんだろう。

「ショウタさん、私、怖かったです。だからもっと、ギュッとしてください」

「旦那様、わたくし、もうナンパされたいなんて望みませんわ。あんなもの、悍ましい以外の何物でもありませんの。もう絶対浮気したりしませんわ!」

浮気て。ナンパされる事くらいで浮気とは思えないんだがな……。とりあえず、頭を撫でて落ち着かせる事にした。んでアキは……。現場保全というか、支部長という立場をフル活用して、野次馬を散らした上で道の封鎖を行っていた。

「これでよし。もうしばらくすれば応援が駆けつけてくるわ」

「で、結局コイツらは何だったんだ。ただのナンパ師じゃないんだろ?」

「はい。端的に言えば『レッドカラー』でした」

「レッドカラーって、この前の連中みたいな?」

「あんな小悪党とは罪人としてのレベルが違いますね。禁制スキルを使って犯罪を行う危険集団です。ご主人様ほどの『運』があれば、まるで出くわさないか、簡単に制圧可能な状況下での遭遇になるかの2択だと思っておりましたが……。今回は後者だったようですね」

犯罪者集団か。確かに、奴らの不思議な視線誘導に加え、最後は『俺に従え』と来たもんだ。もしかしたら洗脳とか、そういう危ない類のスキルを持っていたのかもしれない。

それにしても、犯罪者集団と勝ち確の状況下で遭遇できる『運』か……。確かにそれもまた『運』だよな。結局このステータスって、ダンジョン攻略よりも人生そのものに多大な影響を与えるステータスなんだよな。上げ得ではあるし、『SP』を振り分けてデメリットが発生するのも、未来の運命を改変した代償と思えば納得できるし、安いものだと思う。

「コイツらがどんな悪いことをしてきたのかとか、『真鑑定』が通らなかった理由も気になるけど……。今の優先順位はこっちだな」

マキとアヤネに視線を向ける。

「畏まりました」

そうして2人のメンケアをしていると、彼女達が呼んだであろう両家や協会の関係者がやって来て、連中を連れて行ってくれた。それもかなりの人数でだ。あの対応からして、やっぱりあの男達は相当に悪名高い奴らだったのかもしれないな。

旅館へと戻り、夕食まであと少しといった頃、俺は皆から少し離れた状態でアイラを呼び寄せた。

「アイラ。俺、さっきの連中を見て気付いたんだけどさ」

「はい」

「アイラを含め、彼女達に何も贈り物をしてないなって」

「……私達が求めているかどうかはさておき、その通りではありますね」

彼女達に装飾品を贈れるくらいのお金はあるというのに、全くその発想が無かったんだよな。あいつらが言うように、周りから甲斐性なしと見られても仕方がないという事だ。

「だから何か贈ろうかとも思ったけど、俺、そういうのに疎いし、だからといって全員に聞いて回るのもナンセンスだろ。だから、アイラに頼ろうと思って」

「そこで頼って頂けるとは、光栄です」

「うん。それで早速なんだけど、どうせなら手作りがしたいんだ。スライム戦で宝石もドロップしたみたいだしさ」

「七色のダイヤモンド4個、ブラックダイヤモンド2個、七煌ダイヤモンド1個ですね」

「ああ。けど、4人全員に優劣をつけるつもりはないから、黒とボスのドロップ分については、今回は除外しようと思う。それで、アイラには装飾品のガワだけ用意してもらえないかなと」

「なるほど……。承知いたしました。今から都合のつきそうな職人に連絡をして、明日の午前中にはここに届くよう手配しましょう。明日の午前は、修業の仕上げを軽く行う予定です。その後、温泉で汗を流し、昼食の後にチェックアウト。夕方には帰宅できるでしょうから、そこでアクセサリー作りに取り組めば十分に間に合うかと」

「流石アイラだな。でも、間に合うって、何がだ?」

「おや、ご主人様はこの後に控えている予定に合わせてアクセサリー作りに励むのかと思ったのですが、違いましたか」

「ん? その後?」

旅行の後……何かあったっけ?

「どうやらお忘れのようですね。旅行の次の日、つまり2日後は、宝条院家主催のパーティがあるんですよ」

「……あっ」

完全に忘れてた。そういえば呼ばれてた気がする。

「ふふ。本当に、仕方のない人ですね」

アイラはくすりと微笑んだ。