『ようこそ、管理者様』
「え、あ、こんにちは」
『私は当ダンジョンを管理する端末AI、ダンジョンコアです。ご用件をお願いします』
とりあえず挨拶をしてみたが、スルーされてしまったらしい。
にしても用件か。……そもそも何が出来るんだ?
「ダンジョンコア……つまりは心臓部か。お前を壊せばダンジョンは消えてなくなるのか?」
『否定。制御不可になり延々とモンスターを吐き出す事になるでしょう』
「うげ。じゃあ俺は今、何が出来るんだ?」
『確認。管理者様の権限レベルは1です。レベルに見合った事が実行可能です』
「レベルを上げる条件は?」
『提案。他のダンジョンコアへのアクセス権を獲得してください』
アクセス権……。つまりは、鍵を全部集めて、ここみたいな空間に入ればいいのか。
「権限レベルを上げると何が出来るんだ」
『不可。管理者様のレベルが足りません』
「なぜダンジョンが発生したんだ」
『不可。管理者様のレベルが足りません』
「なぜ1年周期で増えるんだ」
『不可。管理者様のレベルが足りません』
「今後もダンジョンは増え続けていくのか」
『不可。管理者様のレベルが足りません』
「ダンジョンの増殖を止める方法はあるのか」
『不可。管理者様のレベルが足りません』
「……ぐぬぬ」
どれを聞いてもレベル不足か。
だが、逆に良い事が聞けたかもしれないな。律儀に答えてくれたってことは、レベルさえ上げれば、さっきの質問の答えが分かるかもしれないってことなんだから。
「……じゃあ、権限レベル1で実行可能な事を何でも良いから教えてくれ」
『確認。当ダンジョンNo.777の、スタンピードを停止可能です』
スタンピード……。名前からして、ダンジョンブレイクのことっぽいな。
「マジか。ちなみに何日放置すると、そのスタンピードが起きるんだ」
『確認。この世界換算で合計30日です』
そこは教えてくれるのか。にしても、意外と期間は短いんだな。俺は今回、約2週間ぶりの帰郷だったけど、あの密度でまだ半分だったのか……。
「完全放置ではなく、毎日数匹単位で倒した場合はスタンピードは起きるのか?」
『不可。管理者様のレベルが足りません』
ええ……? そこは教えてくれないのかよ……。
「停止した場合、モンスターは増えなくなるのか」
『否定。増殖停止は、管理者様のレベルが足りません』
そこは中途半端に教えてくれるのか。
だが、このまま停止措置をしてもスタンピードはしなくなるけど、無尽蔵に湧き続けると……。これもまたレベルか。
「とりあえず、スタンピードを停止してくれ」
『許可。全ダンジョン、及び全世界に向けて、No.777のスタンピード機能停止メッセージを発信しますか?』
「えっ!? いや、しないしない!!」
『確認。承りました』
危な。
そんなことになったら、俺がやったって世界中にバレるじゃん。
……あ。
「他にも管理者の権利を持ってる奴は居るのか」
『肯定』
おっ。
「何人いるんだ」
『不可。管理者様のレベルが足りません』
「あ、さいですか……」
だが、収穫はあった。俺と同じ土俵の奴がいるのか。
最悪、そいつは俺よりも管理者レベルが高い可能性がある。そうなるともっと情報が得られてるはずだ。俺も負けないように、レベルを上げていかないとな……。
今のところ狙えそうなのは『初心者ダンジョン』と『ハートダンジョン』か。
同じ系列である『中級ダンジョン』はアヤネの実家次第だし、『上級ダンジョン』は、流石にまだ無理だろう。
あ、これも聞いておかないと。
「鍵が複数に分離している場合、全部集めた後どうやって1つにするんだ?」
『確認。全ての鍵が集まった際に、ダンジョンボスへの挑戦権が得られる場合があります。その対象を討伐し、1つになった鍵を入手してください』
「ああ、なるほど。そういう……」
ここのダンジョンではトロフィーの対象がいなかったから、その過程をすっ飛ばしただけなんだな。なるほどなるほど。
「1つのダンジョンで、複数の人間が管理者になる事は可能なのか」
『肯定』
「お! なら、既に誰かがトロフィーや鍵を取っていたとしても得るチャンスはあるし、宝箱も復活するという事だな」
『不明。他ダンジョンの情報は当端末にございません』
「えぇ……?」
そのはずだけど知らんって。そこは他のダンジョンだろうと知っとけよ。融通が利かない奴だな。まあともかく、聞きたいことは大体聞けたかな。
「帰りはあの暗闇を通ればいいのか?」
『肯定。またのお越しをお待ちしております』
……暗にさっさと帰れって言ってる? まあいいさ、俺の用事は済んだ事だし、さっさと引き上げよう。
彼女達が待ってるしな。
「それじゃ、近いうちにまた来るよ」
俺はそう告げて、暗闇へと飛び込んだ。すると一瞬の間に視界は元の洞窟へと戻り、目の前には心配が顔に張り付いた彼女達が待っていた。
「ただいまー」
「「「「おかえりなさい!」」」」
皆近くで待機してくれていたようで、俺の出現に安堵した表情を浮かべた。マキに至っては目に大粒の涙を浮かべていたが。まあ、彼女達からすれば俺が突然消えたようにも見える訳だし、そうなるのも仕方がないのかもしれないな。
飛び込んできた3人を纏めて抱きしめると、アイラは背後からハグをしてくる。ううん、前も後ろも柔らかい。
……そう言えば、今日は元々、ただのスライムを相手するつもりだったから、鎧をつけて来なかったんだったな。あんな強敵相手にラフな格好で挑むとか普通ならありえないけど、それが出来ちゃうのが『金剛外装』の強みだよなー。
……もう鎧、いらなくない? 流石にそれは慢心が過ぎるか……?
「……」
皆から抱きしめられているこの時間は幸せだけど、ここじゃちょっと落ち着かないな。ここには本来普通のスライムしかいないはずなんだけど、さっきのようにいつデカスライムが出てくるか分からない。出現条件が分かっていない以上、ここでのんびりするわけにもいかないよな。
同時に検証したい欲も顔を覗かせてるけど、それはまた今度にして、今日はもう終わりにしよう。
「とりあえず、帰ろっか。続きは外に出てからでも……」
そう言っても皆、しがみついたまま放してくれなかった。特にマキとアヤネが。アキも腕は緩めてくれたみたいだけど、離れるつもりはなさそうだった。
……仕方がない。無理やり持ち上げよう。
「ひゃん!」
「はぅ!」
「ショ、ショウタ君、そんな所……!」
「前に3人だから持ちにくいんだよ。我慢して」
「ご主人様、私は?」
思いっきり寄りかかって、柔らかいものを更に押し付けてきたアイラが、耳元で甘く囁く。俺は邪念を必死に追い払い、毅然とした態度で応じた。
「アイラは歩いてくんない?」
「仕方がありませんね」
そうしていつも以上に変な体勢で3人を抱えながら、俺達は外へと出たのだった。
◇
この旅行の為に購入したというフルコン仕様のキャンピングカーに乗り込み、俺達はそこで羽を伸ばす事にした。といってもアイラは旅行先まで運転をしてくれるようだけど。ちょっとは休めばいいのに。
そう思いつつ車内のソファに腰掛けると、前方にアヤネ。左右にはアキとマキといういつものポジションに彼女達は陣取った。どうやら俺を癒すために徹底的に甘やかしてくれるらしい。
マッサージをしてくれたりジュースを飲ませてくれたりと至れり尽くせりだ。
俺の心と身体が休まり、リラックスしたところで、ようやく彼女達も落ち着きを取り戻した。肩の力が抜けたのを確認した俺は、改めてあの空間で起きた事を話し始めた。ダンジョンコアという謎の物体の出現に皆驚きを隠せないでいたが、核心に入る前に小さなことから確認しておくことにした。
「あのさ、俺ってどのくらい離れてた?」
「んー……。30分くらいかな」
「え、そんなに?」
「ショウタさんが突然消えて、ショウタさんの分の『統率』の効果も消えちゃって、何の音沙汰も無かったので……。とっても、心配でした」
どうりで、出てきた時マキが憔悴していたわけだ。
「俺としては、体感5分か10分くらいで早めに切り上げてきたつもりだったのに」
「旦那様の入られた空間は、特殊な場所だと思われますわ。時間の流れが違ったり、もしくは移動に時間がかかるのかもしれませんわ」
「なるほどね。次行く時はその辺も注意しないとな」
「次ってことは、そう何度も行く必要性がある場所だったの?」
「ああ。とりあえず簡単にいうと、鍵を使って入れるあの空間は、ダンジョンのシステムにアクセス出来る場所だったんだ。んで、今日の成果としてはダンジョンブレイク……。いや、ダンジョンコアはスタンピードって言ってたかな。今後『アンラッキーホール』では、絶対にそれが起きなくなった」
「「「「!?」」」」
皆ハッキリと驚いた顔をした。アイラも驚いたんだろう。車が若干揺れたし。
「アイラ、運転止めても良いよ?」
「いえ、問題ありません。続けてください」
そうして順番に、あの部屋で見聞きしたことを告げていくと、マキが何か思いついたようにハッとなった。
「ショウタさん、そのダンジョンコアさんは」
「呼び捨てで良いよ」
「ふふ、はい。ダンジョンコアは、他のダンジョンの事は知らないと仰ったんですよね」
「うん」
「なら、『アンラッキーホール』の事なら何でも教えてくれたんじゃないでしょうか」
「ああ、そうかもね。けど、聞きたい事なんて……。あ、デカスライムの湧かせ方とか?」
「それもありますけど、『レベルガチャ』の事を知ってるんじゃないでしょうか」
「!?」
確かに……。
他のダンジョンの事については何一つ教えてくれなさそうだけど、仮にもそのダンジョンを制御するAIなわけだ。仕様を把握していない訳が無いよな。
ただ、問題があるとすれば……。
「レベル不足で教えてくれない可能性があるわね」
「それなー」
「ですが、確認してみる価値はあるかと。戻りますか?」
そう言ってアイラは道路脇に停車した。高速道路は目の前だし、これに乗ったら戻れないだろう。
「いや、別にいいよ。このスキルで今のところ何も困ってないし、十中八九レベル不足ですと言われるのがオチさ。そんなことより、今からはダンジョンの事は忘れて、旅行を楽しもう」
「承知しました。到着しましたらお呼びしますので、ごゆっくりお寛ぎください」
「そうする」
……あ、そういえばガチャするの完全に忘れてたな。
レベルも消費せず200を超えたままだし、ガチャの新しくなった内容も確認してない。けど、今はそれらは全部忘れて、羽を伸ばそう。
せっかくの休みなんだ、思い出すのは帰ってからでも十分だろう。