『バチンッ!』
「きゃあ!」
「くっ!」
子分に気を取られていると、遠距離からボスの触手が飛んで来て外装を叩きつけてきた。さっさとボスを倒したいところだが、子分が邪魔過ぎる。経験値や低レベルボーナスはこの際無視して、取り巻きからどうにかしなきゃ。
「俺とアヤネは雑魚から行く! アイラ、なるべくボスのターゲットを取っておいてくれ!」
「承知しました!」
「新魔法行きますわ! 暴風陣! ミックスハリケーン!!」
暴風陣は『風魔法Lv7』、『知力』1500で使用可能となった魔法で、効果は付与した対象に自身の『風魔法』の影響を与えなくするという─
ミックスハリケーンは『風魔法Lv8』、『知力』2000で使用可能となった魔法で、効果は自分を中心に、意のままに操れる巨大な竜巻を発生させる。そのまま使用すれば味方どころか自分すら傷付けてしまう諸刃の魔法だった。
竜巻は全ての虹スライムを巻き込み切り刻んで行く。広範囲かつ高威力な魔法ではあるが、相手のステータスが高いためか倒すには至らなかった。
だが、散らばっていた連中を1箇所に集めて弱らせてくれただけでも十分だ。
「旦那様、お願いしますわ!」
「ああ! 『紫電の矢』!」
竜巻に錐揉みされ、ズタズタに引き裂かれながら一塊となったスライムに向け、俺は必殺の矢を連続で放つ。
『ズパァン! ズパァン!』
風船が破裂したような音と共にスライムの群れは弾け飛び、無数のアイテムを撒き散らしながら煙へと変わった。
「よしっ! ……あれ?」
レベルアップ通知が来ない。ドロップをしている以上撃破したのは間違いないはずなのに。こちらのレベルは8のままなのだ。あんなに強い相手でレベルが上がらないということは、経験値がない相手なのかもしれない。
「ボスが召喚したんじゃなくて、ボスから分離した一部分だからか?」
いや、考えるのは後だ。今はアイラの援護に行こう。
「アイラ、お待たせ!」
「大丈夫ですの?」
「ステータスだけ見れば化け物ですが、技術よりも力技が主体です。魔法も直線的なものが多いため、維持するだけならまだ何分か、持たせられそうです」
アイラはまるで曲芸師のような機敏な動きで、複数の触手からの攻撃をすんでのところで避け続けている。無数のスライムを飛ばしたことで、その本体の巨体も3mくらいまで縮んでいた。
「ですが、私では攻撃をしても決定打に欠けます。ですので頼みます」
「任せろ! 『雷鳴の矢』。更に『阿修羅』!!」
「『プリズムレーザー』ですわ!!」
『!!?』
矢を引き絞り、『力溜め』をする間にアヤネが例のレーザービームを連発した。この魔法、後から知った事だが攻撃対象にのみ、一定確率で『目眩まし』の状態異常を付与するらしく、周囲にいる俺達が目をやられる心配はないようだった。
何本かのレーザーがボスの身体を貫いた為か、どうやら状態異常が発生したらしい。ボスは周囲に手当たり次第に触手を打ち始めた。
「ご主人様!」
「旦那様、とどめを!」
「ああ。……いけ!」
『ドパァン!』
『雷鳴の矢』がボスに着弾すると、上半分が弾け飛んだ。残された下半分は、何が起こったのか理解できていないのか、ピクピクと動いている。煙は出ないし、まだ死なないのか……。
だが、こうなってはもう虫の息だろう。介錯の為に『紫電の矢』を番える。
「旦那様、凄い威力でしたわ」
「スキルの相乗効果でとんでもない威力になっていましたね」
剛力Ⅲで『腕力』約2倍。
怪力Ⅳで『腕力』約3倍。
金剛力Ⅱで『腕力』約3倍。
阿修羅で『腕力』4倍。
これらのスキルは全部加算されて計算されるみたいだから、約9倍になる。そこに更に『力溜め』のチャージ分も加算されるわけで……うん、実に恐ろしい事になってるな。
感慨深くそう思っていると、蠢いていたボスの半身はぱたりと力尽き、全身から膨大な煙を吐き出し、霧散した。どうやら、介錯は不要らしい。
【管理者の鍵(777)を獲得しました】
【レベルアップ】
【レベルが8から204に上昇しました】
「完成された『管理者の鍵』か……」
相変わらず実体はないが、それでも最初に入手したのがこのダンジョンというのは感慨深いものがある。
【管理者の鍵を使用しますか?】
「えっ」
突然目の前に黒いウィンドウが現れ、そう告げてきた。
ダンジョン関連のシステムから一方的な通知確認が来るのは、一般的にはスキルオーブ使用時と増強アイテム使用時だけと言われている。俺の場合はそれに加えて圧縮スキルがあるが、こうやって確認してくるのはそれくらいのものだったから、本当に驚いた。
使うかどうかと言われたら、そりゃ使ってみたいが……どうだろうか。
まずボスと銘打った初の存在を倒して得た鍵なのだから、そこからまた危険なボスが現れるとは考えにくい。鍵を使ってわざわざ現れるくらいなら、さっきのボスの後に煙が霧散せず次が出て来てもいいはずだ。
となれば、ご褒美的な何かか、もしくはその名の通り『管理者』の為の専用の部屋が待っているかだが……。行かない手はないよな。
俺がそう決意していると、皆が集まってきた。
「ショウタ君、どうしたの? 神妙な顔しちゃって」
「何か見つけられたんですか?」
「え? ああ、そっか。トロフィーと同じように、皆には見えて無かったんだよね。さっきのモンスター、皆にはどんな風に見えてたの?」
「『ヒュージーレインボースライム』って名前でしたわね」
「レベルも『上級ダンジョン』中層並に高い相手でしたが、ご主人様にしか見えない情報があったのですか?」
「ああ、名前の後ろに『ダンジョンボス』ってついてたんだ」
「「「「『ダンジョンボス』!?」」」」
「それと、トロフィーや宝箱をすっ飛ばして、ここの鍵も落としたんだ」
俺の言葉に皆が驚いていた。鍵は当事者の俺しか見えないのは、トロフィーの前例があるから予想がついていたけど、まさかボス表記も見えていないなんてな。
「それで鍵を使用するかどうかの確認が出てきてたから、覚悟を決めてたところ」
「……それは、今使用するってことよね?」
「うん」
皆が視線を交わらせ、頷く。
「鍵ということは、何らかの封じられた物を解き放つことになるのでしょう。いつでも動けるように待機しています」
「十分に気をつけるのよ」
「心苦しいですが、見守っていますね」
「旦那様、ファイトですわ!」
「皆、ありがとう。……よし、使用する!」
【所持者の意思を確認】
【管理者キー 起動】
【管理No.777】
【ダンジョンコアへ移動します】
そのメッセージと共に、視界が一瞬にしてブラックアウトした。
◇
「……お?」
気が付けば、俺は真っ白な部屋に1人で突っ立っていた。周囲を見ても誰もいない。鍵を使ってここに来れるのは、所持者だけなのだろうか? 手を伸ばせば届く距離に、これまた真っ白な台座と何かのパネルがあり、それ以外に目立ったものは何もない。
いや、後ろを振り返れば真っ黒な穴があった。まるで、いつぞやの金の宝箱を開けた時のような、どこまでも続いていそうな暗闇……。もしかして俺は、ここを通って来たんだろうか。となれば、ここを通れば帰れるのかな。
試しに『真鑑定』をしてみたが、パネルも暗闇も情報を読み取る事は出来なかった。
「うーん……。安全を確認するならこの暗闇が使えるかの確認をするべきなんだろうけど、気持ちが抑えられない。このパネルに触れてみるか!」
俺がおもむろにパネルへと手を伸ばすと、中空に幾何学的な図形が浮かび上がった。けど、向こう側がぼやけて見えるし、実体があるようには見えない。これは、ホログラムか? にしても、なんだろうこの図形は。数学の教科書で見たことあるな。