古巣への帰還

「ん……」

ふわふわとした夢見心地から、ゆっくりと意識が覚醒していく。

微睡の中にいるかのようなぼんやりとした感覚が徐々に薄れ、同時に腕や身体がうまく動かせないことに気付く。目を開ければ、左腕の中にはマキがいて、右腕の中には丸くなったアヤネと、すぐ近くにはアキの姿があった。皆の寝顔を見ながら、昨日あった事を思い出そうとする。けれど、どんなに頑張っても皆で一緒に添い寝する流れは思い出せなかった。……っていうか、俺のベッドってこんなに広かったっけ??

部屋の中を見渡せば、『御霊』が飾られた武器ラックに『魚人の種』を植えた植木鉢もある。俺の部屋だとは思うんだが……。ベッドがデカ過ぎて違和感がすごい。

腕の中の感触を楽しんでいると、1人足りないことに気付いた。気配を探っていると、いつもの様にメイド服を着たアイラが部屋に入ってきた。

「おや。おはようございます、ご主人様」

「……おはよう。状況を説明して貰える?」

「はい。昨日はアキ様を可愛がって頂く日のはずでしたが、不甲斐ない事にご主人様は先に眠ってしまわれまして」

「うっ」

「その結果こうなりました」

「説明省きすぎじゃ無い?」

いや、大体わかったけども。それにしてもさぁ……。

って、アイラはいつもそうか。

「ご理解頂けて何よりです」

「……はぁ。ちなみに確認なんだけど、ここ、俺の部屋で間違い無いよね?」

「はい。こんな事もあろうかと、キングサイズのベッドを買っておいて正解でした」

うちのメイドが万能すぎる。どんな想定をして動いてるんだよ。未来視のスキルでも持ってるのかと。そうこう話していると、次第に皆が目を覚ましていき、そこで寝ぼけた彼女達から当番が1日ずれた事を教えてもらう。しかし、こうして囲まれて起きるのも悪く無いな。

「次からはこうしますか?」

「アリかも……。って、そこまで読むなよ」

「さあ、朝ご飯の準備は出来ていますよ。顔を洗って食卓においで下さいませ」

俺の心は読むくせに、ぼやきは聴こえていないのかアイラはそそくさと部屋を出て行った。はぁ、仕方ない。俺も顔を洗うか……。

「それでね、昨日の会議でねー」

「流石に支部長といえど限度があるみたいでして……」

「昨日のオークションは凄かったですわ!」

などと彼女達の話に相槌を打ちながら、のんびりとした時間を過ごす。今日は久々の『アンラッキーホール』に挑む訳だが、今さら気合を入れていくほどの場所でもない。それに、何時間も居座るつもりもないので、昼頃までのんびりするつもりだった。

まあ、虹を拝むために朝から籠るという選択肢もあるにはあったのだが、昨日はダンジョン……とプラスアルファで疲れ果てて寝落ちしちゃったからな。あんな風になった以上、心配かけたくないのでゆっくり過ごす事にしたのだ。あとは、アキとマキが昼までここにいて欲しそうだったので、それに従ったというのもあるのだが。

まあ、たまにはこんな時間を過ごすのも悪くないんじゃないかな。

「で、話をまとめると、後数時間ほどで2つの支部で動画が公開されるのと、在庫の一部が売れたのと、オークションでは無事に金剛シリーズが完売した、と」

「はい。そうなりますね」

「ただ、やっぱり財布事情の問題もあるから、今後もコンスタントにスキルを獲得するのなら大幅な値下げだったり、全国版のオークションに流すのも仕方ないかもって」

「全国版かぁ」

世界には1000個のダンジョンが存在するが、その内20個前後がこの国に分散して存在している。ダンジョン保有国としても上から数えた方が早いらしいのだが、国土の広さから見たダンジョンの密集率は世界トップクラスらしい。

住んでる人間からすれば、あまり嬉しくないトップ扱いだが、俺としては色んなダンジョンに潜れる機会がある為、その環境は願ったりだ。

そんな中、この国ではダンジョンの密集地が全部で4つあり、それぞれが個別に管理されている。『初心者ダンジョン』『中級ダンジョン』『上級ダンジョン』『ハートダンジョン』『アンラッキーホール』など多彩なジャンルを擁する、関東圏に位置する第一区。

そして関西圏の第二区、北陸圏の第三区、九州圏の第四区。

オークションはそれぞれの区域で開催されていて、この第一区が4日置きとなっているのも、各地区が順番に回しているためだ。そんな中で、全国版オークションは各地区のオークションで落札し切れなかったり、とんでもない額の物品が出品されそうな時に利用する物となっていて、国外からの参加も認められている。

とは言っても、第一区に設けられている上限額は『上級ダンジョン』と首都がある影響か、他地区と比べて高額に設定されており、第一区から全国版オークションに流れる事は滅多に無いらしいが。

「まあ、数が数だしなぁ」

「ショウタ君も、スキルが溢れるからって自重はしないだろうしね。まあでも、次のオークションまでは休みを入れてるから、その辺りは大丈夫だと思うけど……」

アキやマキが不安そうな目で見て来る。

いや、どこに旅行に行くかは知らないけど、流石に彼女達を置き去りにして旅行先のダンジョンに突撃したりは……。しないよ? 本当だよ??

「「「じーっ」」」

そう思ってるのは俺だけらしく、考えてることがバレているのか3人から訝し気な目で見られる。気付いていないのはアヤネくらいだ。

「皆さんどうしたんですの?」

「アヤネはいい子だなー」

「え? えへへ、そうですの?」

とりあえず、俺を疑わない彼女を抱きしめて可愛がる。なぜ褒められているのかはわからなくても、彼女はこうされるのが好きなので幸せそうにしている。

「むぅー」

「アヤネちゃんばっかりずるいです」

「はは、冗談だよ。許可もなく勝手に行くわけないじゃないか。ていうか、何処に行くかも知らないし」

「そこは、お楽しみですよ」

そうしてゆったりとした時間を過ごしていると、不意にチャイムが鳴った。

「ん?」

「あ、きたきた!」

「ショウタさん、良い物が届きましたよ!」

届け物? 一体なんだろうか。

リビングで待っていると、アキとマキが長い物を大事そうに抱えながらやって来た。あれは……剣袋か? それも2本。

「それは?」

「昨日おじ様にお願いして、ショウタ君に合う新武器を調達してもらったの」

「おじ様は『統率』4つを希望されていたので2本合わせて時価12億相当の武器になりますね」

「じゅ、12億……」

今使っているメイン武器の『ミスリルソード』も、確か1億5000万したよな。

うーん、値段のインフレが激しい。

「それが2本合わせてって事は、片方6億相当ってこと?」

「はい。『上級ダンジョン』の奥で少量しか取れない、『精錬ミスリル』で作られた『ハイ・ミスリルソード』です」

剣袋を受け取り、中身を確認する。


名称:ハイ・ミスリルソード

武器レベル:33

説明:精錬ミスリルを使って造られたハイグレードの剣。


「おおー」

通常の『ミスリルソード』は武器レベル26の武器だったけど、それが一気に33か。刀身も、元々のエメラルドグリーンよりも少し透明度が高くなっている気がする。

それが2本も……。

「今度リュウさんにはお礼を言わないとな」

「工房もこれを作ったは良いものの、値段が値段なので持て余していたそうなんです。それをおじ様が先日自費で買い取って、使い手を探していたらしくて。今回はタイミングが良かったですね」

「そうなんだ。俺も、これに見合うくらいには強くなれたのかな」

「勿論よ。このくらいの性能がないと、今のショウタ君に釣り合わないわ!」

「そっか……ありがとう。大事にするよ」

なら、今までメインで戦ってきた『ミスリルソード』もお役御免か。

たった1週間程度の付き合いだけど、長い間一緒に戦ってきた気がする。こいつも、『御霊』と一緒に武器ラックに飾っておこう。

「さてと、予定していたよりだいぶ早く着いちゃったけど、どうしよっか」

「ああ、昼まで待っててほしいって言ってたのは、コレ待ちだったんだ?」

「それもありますけど……」

「旦那様にはゆっくりしていてほしかったんですわ」

「そんじゃ、お言葉に甘えて。予定通り昼過ぎまでこうしていようかな」

そうして彼女達に全力で甘やかされながら、怠惰で享楽的な時間を過ごした。

どうやら、俺の用事が終わり次第旅行先に直行するらしく、沢山の荷物がアイラのバッグに詰め込まれていった。うーん、何度見てもこの光景は凄いな。

そしてしばらく留守にする為か、『魚人の種』を植えた植木鉢と、4体のゴーレム達も持って行くことになった。なんでも、留守の間にマイホームを少し改築・改装するらしく、ダンジョン協会御用達の業者にリフォームをお願いするらしかった。

改装発案者のアイラは現在車を運転中だが、まあ彼女なら話しかけても大丈夫だろ。

「何か問題でもあったの?」

「はい。使ってみて初めて分かるような細かな点でしたが、いくつも積み重なっていてはその内ストレスになりそうでしたので早めに手を打っておくことにしました。後々になってくると、恐らくご主人様の能力で世に出せない代物で溢れるでしょうし、情勢がどのように傾くかも未知数です。なので、敵対勢力がいないうちに済ませておこうかと」

「褒められてる?」

「多少は」

「……で、その問題って言うのは俺が聞いても良い話?」

「勿論です。まずは──」

そうして彼女から生活中に感じた様々な不便な点がツラツラと上げられた。俺が気付かないような細かな点に始まり、『黄金の実』を採取するための専用空間の増築案。更には……。

「ご主人様の部屋の壁を分厚くしておこうかと。結構漏れるようですので」

「んなっ!?

その発言にアキが驚愕し、マキも真っ赤になった。

この反応を見るに、俺の部屋を改装する件は知らなかったように思える。

……てか、筒抜けだったんだ。

「漏れるってなんですの?」

ただ1人、よくわかっていなさそうなアヤネは……。多分担当外の日は、スヤスヤと眠ってたんだろうな。この子、夜更かしが苦手そうだし。

とりあえず誤魔化すためにアヤネを撫でていると、車が停止した。窓の外を見れば、懐かしい光景が広がっていた。

そうして準備を整え、誰も見張りを立てていない『アンラッキーホール』へと入場し、深呼吸する。今日はアキとマキも付いてきてくれていた。

なんでも、昨日の動画で彼女達が抱えていた仕事は全て消化したらしく、する事が無く暇らしいのだ。支部で仕事を手伝おうにも、そもそもここは冒険者が訪れない。ぼーっとするしかないとのことなので、ついてきてもらっていた。ここはスライムしかいないので、危険なんてあり得ないしな。

「あー……帰ってきた実感がする」

「もー、まるで実家に帰ってきたかのような清々しさね」

「ふふ」

実家? 実家、か。

思えば、碌に……帰るどころか、連絡すらしてないな。

でもまあいいか。毎月の仕送りは欠かさずしてるし、連絡しても互いに気まずいだけだ。まあ今月分の仕送りの額をどうするかはまだ考えてないけど。

相談、すべきかな……?

そう考えていると、物珍しいのかアヤネは興味深そうにキョロキョロと辺りを見回していた。その様子に、思わず笑みがこぼれる。

いやほんと、何にもない場所だけどね。今まで潜ってきたような、黒い支柱やガードマンすらいない場所なのだ。事前に知らされていなければ、ただの大きい洞窟くらいにしか思えないだろう。

「なんだか、普通の洞窟のようですわね?」

「そう言えばアヤネは初めてなのか」

「はいですわ。周りから行く意味がないと言われてたので、1度もないですわ」

「あー、まあ、そうかもね」

ここ、本当にスライムしかいないし、得られる物なんて『極小魔石』だけ。

なんの特産品もない寂れたダンジョンだ。

「でも、来なくて正解でしたわ」

「えっ」

「だって、もしもここで旦那様と先に出会っていたら、今の様な関係は築けなかったかもしれないんですもの」

「……確かに、そうかもね」

アヤネは自分より弱い人間を見つけても、甚振いたぶったり貶したりはしない子ではあるけれど、先に俺を知っていたら、多少『運』が向いてきたばかりの頃の俺にアタックはしないだろう。一切の前歴を知らない俺が突如として現れたからこそ、彼女は俺との接近を望んで、関係を築こうとしたのだ。

感慨深くそう思っていると、マキが腕に抱き着いてきた。

「ショウタさん、実は私も来るのは初めてなんです」

「あ、やっぱり? アキが配属されてすぐに俺が通い始めたから、見てないと思ったんだよね」

「はい。ですから今日は、ちょっと楽しみでもあったんですよ。ショウタさんがどんな風にここで過ごしていたのか。話では聞いていましたけど、直接見たかったんですから」

「あはは。見るも何もスライムを倒すだけだけどね」

そう話していると、目の前にスライムがやって来た。


*****

名前:スライム レベル:1

腕力:2 器用:1 頑丈:2

俊敏:2 魔力:0 知力:0 運:なし


装備:なし スキル:なし

ドロップ:極小魔石

*****


魔法的ステータス0って。……ほんっと弱いな、こいつ。

「こんなに弱くても、最初はこれでも苦労して倒してたんだよな……」

そう思うと泣けてくる。

「わわ、これがスライムですのね。実物も初めてですわ!」

「他のダンジョンにスライムっていないの?」

「いるにはいますが、ここと変わらず得られる物がなさすぎて敬遠されがちですね。お嬢様の育成にも向かないと判断し、生息域には踏み込んでいません」

「そうなんだ。他のダンジョンでも不人気なのか。可哀想だな……」

でも、そういう風に不人気で、ほったらかしにされてるモンスターのレア枠やレアⅡがどんなステータスをしているのかとか、どんなスキルを持っているかは気になるよな。ここみたいにレアⅢ、レアⅣと続くことはないとは思うけど、目立ってないからこそ珍しい物を落とす可能性は十二分にある。

「旦那様、この子を戦わせてみてもいいですの?」

「ん? ああ、いいよ」

「ありがとうございますわ!」

アヤネは嬉々として、抱えていたリヴァちゃんを地面に置いて、指示を出し始めた。そんな彼女を微笑ましくみていると、俺の腕が姉妹に抱き付かれる。

「ねえねえショウタ君。ここに来る前に事前に確認したんだけどさ、やっぱり君が来なくなってから、あたし以外だーれもダンジョンに入ってないみたいなの」

「え、そうなの?」

「だからいつも以上にいっぱい湧いてる可能性があるわ。マップに映ってない?」

「先日の第一層のゴブリンみたいに、溢れてるかもしれませんね」

彼女達の期待を裏切るようで申し訳ないけれど、このマップスキル唯一の欠点を伝えることにした。

「あー、マップなんだけどさ。あれはどうにも手に入れた時から反映されていくタイプらしくて、ここはまだ真っ暗なんだよね。だから、視界に映ってるあの1匹しか見えてないんだ」

「そっか。まあでも、ここはショウタ君の独壇場よ、好きに暴れていいわよ」

「うん、任せて」

「頑張ってください」

「であれば、私に一案が」

アイラは懐から謎の容器を取り出した。あれは……香水か何かか? 噴射ノズルみたいなのがてっぺんに搭載されてるけど……。とんでもなく嫌な予感がする。

俺が身構えたのを見て、彼女はふっと笑う。

「流石ご主人様。これの危険性に気が付きましたか」

「なに、それ」

「直接ご覧になってはいかがです?」

「……そうだった」


名前:改良型魅了香

説明:モンスターが好む香りを誘発し、設置地点におびき寄せる禁制品。改良が施されており、従来の数倍以上の効果を発揮する。


「『魅了香』?」

「『魅了香』ですって!?

「アイラさん、なぜそんな物を……」

「2人の反応からして明らかに良くないもの……。いや、説明も名称も何もかもヤバいってのは伝わってきたんだけど、具体的にどういう代物?」

「はい。こちらは疑似的なモンスターブレイクを引き起こすものとなります。もしも普通のダンジョンで使用場面が発見され、協会にバレるとこってり怒られる事間違いなしですね」

果たしてそれは、こってりで済むのか?

「んで、何故そんなものを?」

「こちらは、モンスターを1カ所に集める事が出来る為、ご主人様にこそオススメ出来る商品となっております。ただ、広範囲に散布される性質上、草原型ダンジョンには不向きと言えるでしょう。複数種のモンスターがこぞって攻めてくるわけですから。効果的に使うならば洞窟型で、あちこちに散らばって出現し、なおかつ単一種であることが望ましいです。ですので今まで活躍する事はありませんでした」

まあ、目的はモンスターの乱獲ではなく、同種のモンスター討伐によるレアモンスターの出現だからな。

「ここなら存分に効果を発揮するでしょう。また、他の誰かを巻き込む心配もありません」

「なるほどね」

「ご主人様から聞いているここのレアモンスターの性質上、これを使用した方が効果的なのは間違いありません。流石に今日1日で結果が出せるとは思えませんが、早く済めば済むほどご主人様は時間を有効活用できるでしょう。例えば、奥方様と過ごす時間であったりとか」

「「むっ」」

笑みを浮かべたアイラと目が交わる。その時、左右からも視線を感じていた。

……やっぱり、2人に掛けてる時間、少ないよな?

分かってる。これに関しては俺が悪い。

「それから誓って、他の冒険者がいる場面では使用しません」

「……分かりました。他のダンジョンで使用しないのであれば、このアイテムの使用には目を瞑ります。ショウタさんの狩りに貢献出来るアイテムであるのは間違い無いですから」

「そうね。彼との時間が増えるなら……」

ああ、禁製品の使用について、協会員の2人が説得されちゃった。決め手はほとんど俺との時間っぽかったけど。

「これからは、週1……。いや、週2で休みを入れる努力をするよ」

「「週3で」」

「え、週3!? ……いや、ううーん。せめて、週2と週3の交互で」

アキとマキが顔を見合わせ、頷いた。

「仕方ないわね。いいわ」

「約束ですからね」

「はい」

「ダンジョンデートは休日とは認めないからね?」

「ハイ……」

そうして、アイラがアイテムの使用準備をしている間、俺はダンジョン日と休日の違いについて、2人といくつかの約束事を交わすのだった。

「えへへ、リヴァちゃん強いですわ~!」

『グッ』

そしてその間、アヤネはずっとゴーレムと一緒にスライムを倒して遊んでいたのだった。

「アヤネ、そろそろ始めるから戻ってきて」

「あ、はいですわー!」

川砂ゴーレムこと、リヴァちゃんと一緒にアヤネが戻ってきた。

「旦那様、聞いてくださいませ。この子が倒したスライムが魔石をドロップしたんですの!」

「へぇ。何体倒して何個出たんだ?」

10体倒して10個ですわ!」

「……マジで?」

こいつら、ステータスが見えないけど、もしかして『運』の参照先が俺になってたりする?

「え、それって凄いことじゃない?」

「もしも想像している通りだとすれば『ゴーレムコアⅣ』に全魔力を注ぎ込めば、ご主人様と同格レベルの存在が生まれかねませんね」

「とんでもないことになりそうです!」

「いや、丸々参照されているのか、一部参照なのかが分からないから、なんとも言えないな。だって、『極小魔石』程度の確定ドロップなら『運』が100あれば事足りる訳だし」

あとは、俺のステータスを参照しているのなら、ゴーレムが倒した場合の経験値の扱いと、100匹討伐のルール適用条件なんかも確認したい所だよな。

「それから、この子が魔石を欲しがってますの。与えてもよろしくて?」

「ん? ああ、良いよ。倒したのはリヴァちゃんだもんな」

リヴァちゃんに『極小魔石』を手渡すと、彼は自分の中心にある『ゴーレムコア』に押し付けた。すると魔石はゆっくりと中へと溶け込んでいき、消えていく。

『!』

……もしかして、吸収したのか? それを3回繰り返すと、リヴァちゃんは満足したらしく、他のゴーレム達もアピールを始めた。残ってた魔石を与えてみると、みな満足そうに全身で喜びを表現している。

『!』

『!』

「そうか。この子達は魔力を注ぎ込む事で誕生したんだから、動力源もまた魔力だったり、魔石なわけだよな」

「そっかー。何も与えずにずっと動き続ける訳ないわよね」

「1日の消費が『極小魔石』数個で済むのなら、燃費はいいかもしれませんね」

燃費か……。よし。

「皆、聞いてくれ。ゴーレム達の今後の扱いだけど、思っていた以上に戦闘でも役立てる可能性が出てきた。それにより、色々と検証していきたいわけだけど、戦闘関係の検証は俺が新しく追加で作って、それで試していくつもりだ。だけど戦闘以外に関しては皆にも手伝ってほしいんだ。具体的に言うと、燃費周りと私生活での出来る事や出来ない事が知りたいな」

「任せて!」

「はい!」

「頑張りますわ!」

「承知しました」

「ただ、今日に関しては検証はなしにしよう。元よりその予定が無かったのもあって、時間にあまり余裕がないからね」

皆が頷いてくれる。今日は久々に里帰りしたかったってのもあるし、1回で何色までのスライムが出せるか運試しがしたかっただけなんだよな。

まあ、数が多いなら間引くついでに数百匹倒すのもありだけど。

「……ん?」

いや待てよ。

スライムを香りで誘い出すという話だったが、そもそもあいつらの移動速度は非常に鈍重だ。『俊敏』がたったの2しかないんだぞ? 果たしてその集団が俺の所に辿り着くまで、一体どれだけ時間がかかるんだろうか。スライムの大群が押し寄せる光景を想像して面白そうだと思ったからこの作戦に乗ったけど、連中はここに辿り着けるのか……?

「ではそろそろ起動しますね。中から誘引するための煙が吹き出ますが、人体に影響はありませんので、皆さまご安心を」

「……なあアイラ」

「ご主人様、その懸念は尤もです」

「お、おう?」

「ですが、せっかく手にしたアイテム。使わなくては勿体ないでしょう?」

アイラめ。ついには背中を向けたまま俺の心を読みやがった。

それにしても、アイラも可愛い所があるな。どうやって手に入れたかはさておき、新しいアイテムを使ってみたくてウズウズしていたと。ただ問題があるとすれば……。

10分待っても来なかったらこっちから行くからな?」

「はい、ありがとうございます。ご主人様」

「ちなみにアイラ。そのアイテム……自作か?」

アイラの動きがピクリと止まる。

「……何故そう思ったのです?」

「アイラが俺にごり押しする時は、大抵自分の作ったものを薦める時だからな」

「……よく見ておいでですね」

アイラはそういって、アイテムのキャップを取り外した。すると、中からもくもくとピンク色の煙が立ち昇り、アイテムに備わった送風機納で一気に奥へと拡散した。

「くんくん」

広がった煙を嗅いでみると、知らない香りの中に、どこかで感じたことのあるような不思議な感覚を覚えた。なんだろう。つい最近、似たような香りを感じたような?

しばらくスライムが来るのを待ちながら考えていると、思い当たる節があった。

「アイラ。アイテムの説明に改良型って書いてあったが、原本からお前が?」

「いいえ、私は手を施しただけです」

「……アレを混ぜたな?」

「ふふ、誘惑するのであれば、うってつけでしょう?」

なるほど。禁制品を作り上げるなんて凄いと思ったが、改良する方だったか。

それでも十分凄い事だが、一言言ってやらんと。

「禁制品に禁制品を混ぜんなよ」

「これもひとえにご主人様の為になればと」

「……ほどほどにな」

「……あたしは何も見てないわ」

「ショウタさんしか見ていません」

「あ、ずるい!」

「はは……」


『ズズズズ……』


「む」

不意に、地面が揺れた気がした。

いや、今も僅かにだが揺れ続けている。まるで奥から、モンスターの大群が津波となって押し寄せているかのように。想定していたよりもだいぶ速いが……。

「ふふ。例の物を混ぜたおかげで効果も増大したようです。今の揺れを感じましたか、ご主人様」

「結果オーライかもしれないが、あんまり無茶な事はしないでくれよ。……いや、待て。よくよく考えるとおかしいぞ。スライムに地面を揺らすほどの重量なんてない。せいぜい1匹の重さは、100gあるかないかくらいのはずだ。それがいくら群れたからって、こんな地響きが鳴るか?」

「言われてみれば、そうですね? ご主人様、嫌な予感はしますか?」

目を閉じるが、特にこれといって何も感じない。

「いや、別に。どんな量が来ようと、結局はスライムだしな」

「では大人しく待つとしましょう」

「ショウタ君、あたし達は下がっておいた方が良い?」

「いや、そこに居て良いよ。心配するような相手はここには……」

そこまで言った所で、1匹のスライムが曲がり角の向こうから姿を現した。

それは軟体の身体を動かし、必死にこちらに向かって這っているようだが……妙だ。まだ遠くにいるはずなのに、まるで近くにいるかのような……。

「……えっ?」

「な、なんですのあれは」

ゆっくりと全容を現したそれは、先ほどのスライムと比べ、明らかに巨大だった。


*****

名前:ヒュージーブルースライム レベル:40

腕力:400 器用:400 頑丈:400

俊敏:50 魔力:20 知力:20 運:なし


装備:なし スキル:物理耐性、自動回復

ドロップ:濃縮スライムゼリー、大魔石

*****


そして奥からは、それと同等の存在がいくつも押し寄せて来ていた。

「地響きの正体は、こいつらか!」

「なによこれ、こんなモンスター知らないわよ!? ショウタ君は?」

「知ってたら今頃生きてないって」

「ご主人様。私、何かやっちゃいましたか?」

アイラが含みを持たせた笑顔で聞いてくる。

だが、その声には戸惑いも混ざっている。彼女にとってもこの事態は想定外らしい。

「冗談はあと。まずは、こいつらを殲滅する! 『紅蓮剣』!」

2本の『ハイミスリルソード』の刀身に煌々と焔が纏わり付き、洞窟とスライムを明るく照らす。

「まずは1発!」


『斬!』


接近してきた『ヒュージーブルースライム』を2本の腕をクロスさせ、鋏のように切断する。『物理耐性』という目を引くスキルがあったが、少し刃が通りにくい感じがするだけで、効かない訳ではなさそうだった。


『シュウウゥゥ』


普通のモンスターなら今ので倒せていたはずだが、奴の身体はゆっくりと結合し、分断された箇所が結合されていく。

これが『自動回復』のスキルか。厄介なスキルだな。にしても、これを覚えたらどうなるんだろうか? びっくりドッキリ人間になるんじゃないか?

「ご主人様、一気に攻めましょう。後続も控えています」

「そうだな、ちんたらしてる暇はなさそうだ」


『斬ッ!』


中心を狙って切り捨てると完全に倒すことができる点は通常のスライムと変わらないようだった。

1匹、また1匹と順調に切り捨てていき……。

「マジックミサイル!」

時折魔法を織り交ぜつつ、合計5体の『ヒュージーブルースライム』を撃破した。レベルも32から48へと上昇し、一息ついたところで、違和感が生じた。

いつもならアイテム回収をしたアイラがやってきてもいいタイミングだったが、彼女の様子がおかしい。

「あれ、ドロップは?」

「ご主人様、それが……死体が消えていません」

「え?」

振り返ってみると、5体の『ヒュージーブルースライム』から煙が立ち上り、死体を包み込んでいる最中だった。この挙動、そして煙を感知できない彼女達の現状。思い当たる節は1つしかない。

「気をつけろ、こいつら全部レアモンスターだ!」

5つの煙は同時に膨張を起こし、そこから同じ大きさの別色のモンスターが這い出てきた。


*****

名前:ヒュージーコバルトスライム レベル:45

腕力:450 器用:450 頑丈:450

俊敏:55 魔力:20 知力:20 運:なし


装備:なし スキル:物理耐性、自動回復

ドロップ:濃縮スライムゼリー、大魔石

*****


「青色か……。やっぱりレアモンスター扱いかよ」

「どうやらご主人様が見つけた以外にも、出現する法則があったようですね」

「それって、しばらく放置すれば合体するとか? ここみたいな過疎ダンジョンが他にあるのかね……」

「さあ。少なくとも、この国にはありませんね」

それじゃ、検証のしようが無いな。ともかく、こいつらも倒さなきゃ話にならない。

「アヤネ、アイラ。続けて狩るから一撃だけ入れといて」

「旦那様、ファイトですわー!」

「ではありがたく、経験値を頂戴します」

そうして水色のデカスライムを討伐し、レベルは54へと上昇。そして煙は再び噴き上がり、数分経てばまた全ての煙が膨張。中から次の色が現れた。


*****

名前:ヒュージーグリーンスライム レベル:50

腕力:500 器用:500 頑丈:500

俊敏:60 魔力:20 知力:20 運:なし


装備:なし スキル:物理耐性、自動回復

ドロップ:濃縮スライムゼリー、大魔石

*****


「これは……虹まで出現しかねないな」

そして虹まで出るのなら、そいつがトロフィーか宝箱、どちらかを出す可能性が高い訳だ。

「そうなると、長丁場になりそうですわね」

「今ほど、このダンジョンに人がいなくて助かったと思う事は無いわ」

「旦那様。ガチャの時は、全部で何色出てきたんですの?」

「青水緑赤紫白黒虹……。レア枠は7色だな」

「では、次に赤が出れば確定ですね」

「だなっ!」

マキへの返事と同時に吶喊し、デカ緑の集団に攻撃を仕掛ける。レベルやステータスは上がっているが、相手はスライムだ。人型のモンスターに比べれば、いくらか御しやすい相手と言える。それにスキルも変化はなく、ただちょっと硬くなるだけで、苦戦を強いられるほどの相手では無かった。

デカ緑を5匹討伐し、レベルは56へと上昇。


*****

名前:ヒュージーレッドスライム レベル:55

腕力:550 器用:550 頑丈:550

俊敏:65 魔力:20 知力:20 運:なし


装備:なし スキル:物理耐性、自動回復

ドロップ:濃縮スライムゼリー、大魔石

*****


*****

名前:ヒュージーパープルスライム レベル:60

腕力:600 器用:600 頑丈:600

俊敏:70 魔力:20 知力:20 運:なし


装備:なし スキル:物理耐性、自動回復

ドロップ:濃縮スライムゼリー、大魔石

*****


赤、紫と難なく討伐し、レベルも5961と順調に重ねた。

このレベルのレアモンスターを毎回5体も討伐しているにもかかわらず、レベルの上がりは良くない。これは恐らく、相手がスライムだからだと思う。

元が弱くては、いくら高レベルになろうと他のレアⅡに比べれば、経験値が少なくなるのは仕方がないのかもしれない。

「少し下がってガチャを回してくる。湧いたら教えてくれ」

「お任せください」

この煙は次に出現するまでのタイムラグが短く、毎度3分くらいしか猶予がない。俺は急いでガチャを起動し、回した。


『ジャララ、ジャララララ!』


結果は赤3、紫5、緑2。「無料ガチャ」では青色のカプセルが4個だった。


『SR 腕力上昇+45』『SR 頑丈上昇+45』『SR 俊敏上昇+45』

『SSR 器用上昇+110』『SSR 俊敏上昇+110』

『SSR 頑丈上昇+75、俊敏上昇+75』

『SSR 魔力上昇+80、知力上昇+80』

『SSR スキル:忍び足』『UR 知力上昇+200』

『UR スキル:水流操作Lv1』『R 腕力上昇+18』

『R 器用上昇+18』『R 俊敏上昇+18』『R 知力上昇+18』


*****

名前:天地 翔太 年齢:21

レベル:1

腕力:3188(+1988)(+1196)

器用:3024(+1886)(+1134)

頑丈:3068(+1913)(+1151)

俊敏:3493(+2179)(+1310)

魔力:2933(+1831)(+1100)

知力:3199(+1997)(+1200)

運:2802

*****

『ボックスの残り 30/130』


よし、これで次のモンスターでかなりのレベルアップが期待できるな。ボックスも、気付けばもう残り3回まで減ってきている。

ガチャを消して顔を上げても、未だにデカ紫スライムからは煙が立ち上っていた。

「間に合ったか」

そう安堵した所で、湧き出る煙に変化があった。5体分の煙の内4つが膨張し、1つが霧散して今までのアイテムが全てドロップしたのだ。

恐らく、レア枠の確率に失敗したのだろう。

「白から不確定になるか。まあ、少し手強くなって来たし、数が減ってくれるのは正直ありがたいな」

「そうですわね。あの耐性、ステータスが上がっていくほど地味に厄介度も上がっている感じですもの」

「私のナイフも徐々に入りにくくなっていますし、4体に減るのであれば多少は負担も減るかと」

レアモンスター出現の兆候にもかかわらず、俺達は気を抜いていた。相手はスライムで、その上強くなる傾向も予測が付きやすく、大体想像が出来たからだ。しかし、煙が晴れた瞬間、現れた純白のスライムからは、今まで何度か経験した悪寒が生じた。

「全員警戒!」

咄嗟に指示を出すのと同時に、4体の純白スライムに光が収束し、それを一斉に発射してきた。

「「「『金剛外装Ⅲ』!!」」」


『バチンッッ!』


「「くっ!」」

「あうっ!」

閃光が俺たちの視界を奪い去る。感触からして、光線は俺達の眼前で障壁と衝突し、互いに相殺し合ったのだろう。ダメージはこちらにはなかったが、視界が奪われた。まるで、ドラマや映画なんかで見るような、閃光手榴弾でも食らったかのようだ。

「くそ、目がチカチカする」

『黄金の実(大)』を収穫する時よりも、経験したことのない痛みが目と頭を焼き続ける。視界がぼやけて、まるで見えないぞ!

「『サークル・キュアリカバリー』!」

隣にいたアヤネが何かを叫ぶと、痛みが消えて視界も晴れる。

目を何度か瞬かせると、もう完全に元通りだった。

「旦那様、今のは状態異常でしたわ。大丈夫ですの?」

「ああ、助かった。ありがとうアヤネ」

「ご主人様、これを」

アイラがこちらの返事を待たずにサングラスを装着してくる。本当に俺の分も用意してあったんだな。改めて前方を睨むが、先程のレーザーは連続使用はして来ないのか、スライム達に光が集まる様子はない。今のうちに、チェックをしておくか。


「『真鑑定』」


*****

名前:ヒュージープリズムスライム レベル:80

腕力:900 器用:900 頑丈:900

俊敏:300 魔力:2000 知力:1000 運:なし


装備:なし スキル:物理耐性Ⅲ、自動回復Ⅲ、極光魔法Lv2

ドロップ:超濃縮スライムゼリー、七色のダイヤモンド、特大魔石

*****


「……は?」

突然の超強化に驚きを隠せなかった。いくらなんでも急に強くなりすぎだろう。

しかし『極光魔法』か。また新しい種類の魔法が出てきたな。さっきの光線はこれで間違いないとして、問題は消費魔力だが……。連発されない内に仕留めるか。

「アヤネ、アイラ。想定していた集団戦の戦法その1で行くぞ!」

「連発ですわね! やってやりますわ!」

「攪乱して参ります」

集団戦の戦法とは、簡単に言えば以前アイラと2人の時に起きた、『エンペラーゴブリン』戦のような戦いの対処法の1つだ。凶悪な個体が複数いる時に実行し、ドロップは一旦気にせず手当たり次第に攻撃を行う。

アヤネは2種のビッグシリーズを複数呼び出して一気に放ち、アイラは可能であれば背後に回り込んで狙いを逸らす。そして俺は、可能な限り1体ずつトドメを刺すことを目標としつつも、高火力で数を減らしていく。というものだ。

この戦法が功を奏したのか、それとも相手のガス切れか。2回目の光線が飛んでくることなく、無事に4体の『ヒュージープリズムスライム』は煙を吹き出した。そしてレベルは1匹目で1⇒88へと上がり、その後9599、101と上昇した。

「悪い、またガチャしてくる」

「いってらっしゃいませですわ!」

俺はアキとマキの所までダッシュで向かい、座り込んでガチャを起動した。


『ジャララ、ジャララララ!』


結果は赤3、紫5、緑2。「無料ガチャ」では青色のカプセルが5個だった。


『SR 腕力上昇+45』×2『SR 頑丈上昇+45』

『SSR 器用上昇+110』『SSR 魔力上昇+110』

『SSR 頑丈上昇+80、俊敏上昇+80』

『SSR 魔力上昇+75、知力上昇+75』

『SSR スキル:魔力譲渡』『UR 魔力上昇+200』

『UR スキル:鎧通し』『R 腕力上昇+18』

『R 器用上昇+18』×3『R 魔力上昇+18』


*****

名前:天地 翔太 年齢:21

レベル:41

腕力:3424(+2096)(+1284)

器用:3352(+2050)(+1257)

頑丈:3333(+2038)(+1250)

俊敏:3687(+2259)(+1383)

魔力:3644(+2234)(+1367)

知力:3384(+2072)(+1269)

運:3002

*****


ガチャを回してアイテムを順番に取得している間、アキは汗を拭いてくれて、マキは飲み物を飲ませてくれていた。出現間隔がこんなにシビアでなかったら、抱きしめてあげたいところだが、今は我慢するしかない。

「ねえショウタ君、思った事聞いていい?」

「なに?」

「戦いの最中にガチャの条件満たすレベルになったのなら、途中で抜けてきた方が良くない?」

アキにそれを言われたとき、何を言われたのかすぐには理解出来なかったが、反芻して理解した。つまり、ガチャを回せる61を超えた段階で強敵はアヤネ達に任せて、一旦ガチャしに戻って来ては、という事だな。

確かに妙案ではあるが、1つどうしてもぬぐえない懸念点があった。

「魅力的な話だけど、ごめん。それはちょっと懸念があって試せないかな。事情はまた今度話すよ」

「そうなの? 分かった、気をつけてね」

「ショウタさん、いってらっしゃい」

「ああ、行ってくる!」

俺が前線に戻ると、2つの煙が膨張を開始し、残り2つは霧散した。アイラは邪魔にならないよう、即座にアイテムを回収して戻ってきた。

「ご主人様、今の『運』はいくつございますか」

「ちょうど3000を超えたところだ」

「なるほど、3000で半分が進化しますか……」

進化、か。

確かに、レアⅡなどのモンスターは大体がどこかしら、1つ前のモンスターに酷似していたり関連した姿で出現する。完全に別物として考えていたけど、進化として考えても、あまり的外れではないように感じた。

「アイラはまだ外装を残してあるか?」

「はい。2枚まるまる残しております」

「わたくしはお水を飲みたかったので、一旦消しましたわ」

「魔力は平気?」

「さっきのでまたいっぱいレベルアップしたので、満タンですわ!」

「そっか。念のため張りなおしておこう」

「はいですわ」

2人で『金剛外装Ⅲ』を張りなおしていると、視界の端で煙の中から闇が生まれたのが見えた。その瞬間、世界が漆黒に包まれた。

!?

「えっ!?

攻撃を受けたわけではない。これといって衝撃は受けなかったはずだ。そして漆黒に包まれたからと言って、世界の全てが消え失せたわけではなさそうだ。自分の周囲には展開した外装の輝きが見えているし、左右にいるはずの2人の外装も辛うじて見える。姿は見えなくとも、近くに2人がいてくれてる事が分かり、心からほっとした。

「アヤネ、これも状態異常か?」

「分かりませんわ。けど、治せるか試してみますわ。『サークル・キュアリカバリー』!」

先ほどと同じように淡い輝きが視界を照らすが、すぐに掻き消える。

どうやら、これでは治らないらしい。

「ダメだったか」

「あうぅ。回復魔法のレベルが足りないせいでしょうか」

「ご主人様、3歩ほど前に出て頂けますか」

「ん? ああ」


『バンッ!!


「うおっ!?

前に出た瞬間、見えない何かが障壁に激突し、外装が剥がれるのを感じた。

「敵の攻撃ですね。ご主人様は魔力が沢山ありますし、対処法が分かるまで囮になっていてください」

「主人使いの荒いメイドだな」

まあ適材適所かもしれんが……。とりあえず、今回の戦いには関係なさそうなサングラスは外しておこう。真っ暗闇の中、黒いはずの敵を探すのにこの視界は足かせになる。そうして目を慣らせないか前を凝視している間も、2枚、3枚と外装が剥がされたので、すかさず『金剛外装Ⅲ』を張りなおす。このスキルの消費魔力は200とかなり重たく設定されているが、俺の持つスキル『魔力超回復Lv1』とのシナジーで普段なら無敵感が半端じゃないんだよな。超回復の詳細な効果はわからないけれど、『魔力回復LvMAX』が圧縮して出来たスキルだから、最低でも15秒に10以上は回復するはず。なので、5分に1回の頻度で張りなおせるのだ。

……そう、普段なら。

「こんなに連続して剥がされると、すぐガス欠になっちゃいそうだな」

とりあえず何もしないのもどうかと思うし、適当に剣を振ってみると何回かに1回の割合で、何か柔らかい物質を斬りつけた感覚を得た。恐らく、敵が伸ばしてきた触手の一部に触れたのだろう。

ここまで戦ってきたから分かる事だが、連中の攻撃方法は一貫していた。

その巨体を生かした体当たりや圧し潰し。離れた敵には3~4本の触手を伸ばしての鞭打ち攻撃だ。外装や激突した剣の感触からして、未だ奴らの本体は少し離れたところにあるのだろう。触手を斬りつけるだけじゃたいしたダメージは与えられないし、『自動回復Ⅲ』のせいですぐ修復される。このままではじり貧だな……。

「フラッシュライト!!

そう思っていると、アヤネの声と共に背後に太陽でも出現したかのような輝きが出現し、世界を覆っていた闇を晴らした。前方には2体の真っ黒な巨大スライムが蠢いていて、光を嫌ってか全身を波打たせていた。

『『プルプル』』

「よし、『真鑑定』!」


*****

名前:ヒュージーダークネススライム レベル:100

腕力:1100 器用:1100 頑丈:1100

俊敏:500 魔力:2000 知力:1000 運:なし


装備:なし スキル:物理耐性Ⅲ、自動回復Ⅲ、宵闇魔法Lv2

ドロップ:超濃縮スライムゼリー、ブラックダイヤモンド、特大魔石

*****


『宵闇魔法』……。さっきまでの暗闇はこれの効果か。

「旦那様、対抗策が思い付かなくて、さっきのモンスターからドロップした『極光魔法Lv2』を2つとも使ってしまいましたわ」

「ああ、この輝きの魔法の正体はそれか。いや、助かったよ。自己判断で使ってくれてありがとうな」

「は、はいですわ!」

アヤネは心の底から安堵したようにホッとした。まったく、俺がそんなことで怒ると思うなんて心外だな。後で頭をわしゃわしゃしてあげなきゃ。

それにしても2つも使用したって事は、『宵闇魔法』のLv2までに対抗出来る魔法が、同レベルでは使えなかったってことだよな。相反する属性なのに、酷い話もあったもんだ。

「さあ、反撃の時間だ」

「お返しですわ!」

姿が見える以上もう怖くはない。1体1体順番に……。

「いや、待てよ?」

「旦那様?」

レアモンスターを2体同時に倒した場合、経験値の計算はどうなるんだろうか? 今までも雑魚相手なら同時討伐はしてきたけど、そう簡単にレベルは上がらないから実際どうなのか分かってないんだよな。こんな機会中々訪れないだろうし、こいつの手札にはもう怖い所なんて無いはずだ。試してみるか。

2人にはその旨を伝え前衛をアイラとバトンタッチする。そして俺は、昨日の再現ができないか試すことにした。

「『雷鳴の矢』!」


『バチバチバチッ!!


スキル名を唱えると、昨日のスキルが再現できたようだ。それは『紫電の矢』からの派生先としての再現に留まらず、発動させるために使用した『剛力Ⅲ』『怪力Ⅳ』『金剛力Ⅱ』『力溜め』も自動的に使われているような感覚だった。

「アイラ!」

「はい!」

アイラは短剣と『風魔法』を使って器用にスライムの巨体を弾き飛ばし、俺から見て2体が一直線に並ぶように整えてくれる。

「発射!」


『バシュンッ!』


閃光が2体のスライムを突き抜け、奥の壁へと激突した。奴らは身を震わせ、同時に煙を吐き出し始めた。


【レベルアップ】

【レベルが41から128に上昇しました】


レベルアップ通知は1回に収まった。どうやら、狙い通り2体分の経験値がまとめて入ってきたらしい。

「よし! 2体分の経験値まとめてゲット!」

「凄いですわ、旦那様! わたくしもまたレベルアップしましたわ!」

やっぱり弓は……。特に『紫電の矢』は便利だな。このスキルに何度助けられてきたことか。

それを思うと『紅蓮剣』は武技スキルの割にそこまで活躍してないんだよなぁ。『紫電の矢』が『雷鳴の矢』に進化したように、これも発展性はあるんだろうか?

「ご主人様、感傷に浸るのは後です。まずは回して来てください」

「おっとそうだった、ちょっと行ってくる」

再びダッシュで後退し、姉妹のそばでガチャを起動する。

今回は2回分だ。あまり時間はかけてられないし、さっさと回すか。


『ジャララ、ジャララララ!』


結果は赤4、紫9、緑7。「無料ガチャ」では青色のカプセルが10個だった。


『SR 腕力上昇+45』『SR 器用上昇+45』『SR 頑丈上昇+45』

『SR 知力上昇+45』『SSR 腕力上昇+110』

『SSR 器用上昇+110』『SSR 知力上昇+110』

『SSR 腕力上昇+80、器用上昇+80』

『SSR 頑丈上昇+75、俊敏上昇+75』

『SSR 頑丈上昇+80、俊敏上昇+80』

『SSR 魔力上昇+80、知力上昇+80』

『SSR スキル:力溜め』『SSR スキル:自動マッピングⅡ』

『UR 器用上昇+200』『UR 頑丈上昇+200』

『UR 魔力上昇+130、知力上昇+130』

『UR スキル:鷹の目』『UR スキル:暗視』『UR スキル:反響定位』

『UR スキル:弱体化』『R 腕力上昇+18』『R 器用上昇+18』×2

『R 頑丈上昇+18』×3『R 俊敏上昇+18』×2

『R 魔力上昇+18』『R 知力上昇+18』


*****


名前:天地 翔太 年齢:21

レベル:8

腕力:3776(+2349)(+1416)

器用:4052(+2521)(+1520)

頑丈:4005(+2492)(+1502)

俊敏:3938(+2450)(+1477)

魔力:3954(+2462)(+1483)

知力:3943(+2455)(+1479)

運:3176


スキル:レベルガチャ、真鑑定Lv3、鑑定偽装Lv2、自動マッピングⅢ、鷹の目Ⅱ、知覚強化、金剛外装Ⅲ、身体超強化Lv2、剛力Ⅲ(2/3)、怪力Ⅳ、阿修羅、金剛力Ⅱ、俊足Ⅳ、迅速Ⅳ、鉄壁Ⅲ(2/3)、城壁Ⅲ(2/3)、金剛体、金剛壁Ⅱ、統率Ⅲ、予知Ⅱ、看破、二刀流Ⅱ、体術Lv9、格闘術Lv2、剣術Lv5、槍術Lv8、弓術Lv2、暗殺術LvMAX、狩人の極意Lv2、跳躍Lv2、暗視、鎧通し、縮地、忍び足、騎乗、反響定位、元素魔法Lv3、空間魔法Lv1、泡魔法Lv1、水流操作Lv2、砂塵操作Lv4、回復魔法Lv1、魔力超回復Lv1、魔力譲渡Ⅱ、力溜め(2/3)、破壊の叡智(1/3)、魔導の叡智、王の威圧Ⅲ、魔石操作、弱体化、スキル圧縮


武技スキル:紅蓮剣、紫電の矢

トロフィー:ホブゴブリン、マーダーラビット、ボスウルフ

管理者の鍵:525(1)、810(1)、810(2(1/2))

*****

『ボックスの残り 0/130』


「引き切ったか。感慨深いし気になるスキルもあるけど、今はしみじみしてる余裕はないんだよな」

「まだ新手は来てないみたいだけど、次が最後なのよね?」

「いや、虹が最後かどうかはわかんないんだよね。最悪その次もあるかも」

「こんな次々とレアモンスターが出るなんて、全てのスライムがこんな特殊な能力を持っているのでしょうか。それともこのダンジョン特有の……?」

2人にお世話されながらも次の戦いの準備をしていく。マキの考えに耳を傾けていると、カプセルトイマシーンが光を放った。光が収まると、いつものように筐体に変化が起きていた。今度の色は紫から緑へと変化したようだ。

緑となると『UR』カラーか。

「張り紙の内容も気になるけど、それも後に回そう。それじゃ、行ってくる。2人はいざとなったら外装使ってね」

「「いってらっしゃい!」」

俺はガチャを消し、前線へと戻った。

「状況は?」

「依然変わりなく」

「次も2体出ると、ちと厄介だよな」

「最悪撤退も考えなくてはなりませんわね」

「撤退は嫌だなぁ。『雷鳴の矢』で何とかならないかな」

「あれの威力は凄まじいですからね。ただ、ここまで露骨にダメージを軽減する相手が出てきたのです。刺突や属性ダメージを軽減する類の相手が出てきた場合、通用しない可能性があります」

「『物理耐性』以外の耐性スキル……。という事ですわね」

「ああ、耐性か……。この『物理耐性』1つを取っても、どれくらいの効果か分からない分、厄介だよな」

「先程ドロップした分ならここにございますが……」

「読んでる最中に先制攻撃を受けたらひとたまりもない。それは流石に後に回す」

「旦那様の奥の手が通じない相手が来たら、大変ですわ」

確かに、どんな相手でも仕留められる破格の威力は持っていても、そもそも矢が効かない相手だと話が変わって来るよな。『ジャイアントロックゴーレム』も、もし『物理耐性』のスキルを持っていたとしたら貫通しきれなかったかもしれないし。

「斬撃も通り辛くなってきてるし、アイラのナイフも軽減されるとなれば魔法しかない訳だが……。特化したマジックミサイルでワンチャン狙うしかないか?」

「あとは魔法で絨毯爆撃するくらいですか」

「弱点属性などがあれば、それを狙うのも手ですわね」

「虹色って、属性はなんになるのかな?」

「……ごめんなさい。わかりませんわ」

「だよね。俺もわからん」

次のモンスターが湧くまでの間に対策を練るが、事前情報もない突発的なぶっつけ本番であり、時間制限付きだ。落ち着いて考える余裕もない為か、良案は何も浮かばなかった。だけど、どれだけ待っても次は現れず、煙は吹き出したままだった。

「随分とかかるな。もう10分は経ったんじゃないか? レベルが100を超えてるからかな」

「かもしれません。もしくは、特殊なレアモンスターでしたから、何か条件があるのかも……」

そうアイラが言った所で、ようやく動きがあった。

「え?」

だがそれは、目を疑う光景だった。俺が今まで見てきたものとは、まるで異なっていたからだ。2体の『ヒュージーダークネススライム』から出た煙が交わり、1つの巨大な煙へと変貌したのだ。そして煙は更なる膨張を引き起こし、猛スピードでダンジョンの奥へと突き進んでいく。

「追うぞ!」

「「はい!」」

「2人にもあの煙は見えているのか?」

「はい、とっても大きいですわ!」

「ご主人様、あれを!」

その道中、俺達は煙の更なる異常性を見せつけられた。

通常、レアモンスターの煙に対して普通のモンスターは逃げ惑うものだ。だがスライム達は煙を見ても逃げる素振りを見せず、むしろ自ら飛び込み煙の一部となっていったのだ。ダンジョンの奥にはまだまだ数多くのスライムが控えていて、奴らは率先して煙へと飛び込み、その度煙は巨大な姿へと膨れ上がって行く。

そしてダンジョン最奥の広場に辿り着くと急停止し、今度は煙を触手の様に伸ばして、手当たり次第にスライムを喰らい尽くしていった。俺達は少し離れた場所で、その光景をただ眺めるしかなかった。

「旦那様……何が起きているんですの」

「さあな。やばいのだけは確かだ」

「フォーメーションCで行きましょう」

「OK」

「頑張りますわ!」

俺達は、スライムがいなくなり、膨張が止まった煙を前に陣形を組み、『金剛外装Ⅲ』を発動。アヤネが中央、少し距離を開けて左翼をアイラ、右翼を俺が担当する。俺とアイラで可能な限りターゲットを取り、アヤネが魔法を打ちつつ後方から指揮を執るスタイルだ。


『ビシッ』


何かがひび割れる音と共に、煙は膨張を止めた。

この煙は、物質として存在しているのだろうか? まるで卵のように亀裂が入り、中から虹色に輝く液体がとめどなく流れ落ちて来た。

「ようやくお出ましか」

卵から流れ落ちてきたその液体は、粘性が非常に高いようで、ゆっくりと地面へと広がっていく。虹色の煌きを放つその液体は、スライムというよりは可燃性の油のようにもみえた。

「ご主人様、お嬢様。気を付けてください、これは正真正銘の化け物です」

アイラはこの液体の力量が分かったのだろう。いつになく真剣な表情をしている。

液体はまだ全部は出てきていないようだが、今の内に見れるだろうか?

「『真鑑定』」


*****

名前:ヒュージーレインボースライム(ダンジョンボス) レベル:154

腕力:1554 器用:1554 頑丈:1554

俊敏:777 魔力:3108 知力:2331 運:なし


装備:なし スキル:物理耐性Ⅴ、自動回復Ⅲ、混沌魔法Lv2、限界突破

ドロップ:極濃縮スライムゼリー、七煌ダイヤモンド、管理者の鍵(777)、極大魔石

*****


『ダンジョンボス』。

初めて見るフレーズだが、すぐに理解出来た。こいつがこのダンジョン最強のモンスターだと。そしてその中途半端なステータスにも『俊敏』の数値でピンと来た。全部777の倍数だ。

確かにこの数値は、警戒が必要だな。

無数の『ジェネラルゴブリン』で延々と強化された『エンペラーゴブリン』を軽々と超えるステータスに加え、物理攻撃をかなりの割合で軽減する『物理耐性』の『Ⅴ』。これまた未知の『混沌魔法』に加えて強化体でお馴染みの『限界突破』。

アイラが警戒する訳だ。これは、初っ端から全力で行くしか無い。そうして観察しているうちに、卵型の煙は全ての液体を吐き出し終えた。その粘体は1カ所に集まり、巨大なスライムへと変貌を遂げる。

その直径は、縦にも横にも6mを超す巨大さだ。

「よし、全力で叩くぞ!」

「「はい!!」」

『ブルブル!!

俺たちが武器を構えると同時に、スライムは全身を膨張させ、周囲に虹色の粘体を勢いよくばら撒いた。まるでスプリンクラーのように全方位に飛び散ったその粘体は、通常サイズのスライムと同じ大きさをしていて回避が難しく、何発か外装に激突した。


『ジュゥゥゥ』


外装に阻まれ落ちた粘体は、圧倒的強度を誇るダンジョン製の地面を難なく溶かしていた。非常に強力な強酸性の物質で構成されているらしく、直接当たったらひとたまりもなかっただろう。

「旦那様! これは、全てモンスターですわ!」

アヤネの言う様に地面に落ちたスライムの一部は、個別に意志を持っているのか引き続きこちらを狙って飛び掛かってくる。

「くっ! 『真鑑定』!」


*****

名前:レインボースライム(ダンジョンボス) レベル:──

腕力:777 器用:777 頑丈:388

俊敏:388 魔力:388 知力:388 運:なし


装備:なし スキル:物理耐性Ⅱ、自動回復

ドロップ:虹色ドロップ、中魔石

*****


「気を付けろ、こいつら1体1体がレアⅡ並みだ!」